第12章 適用除外カルテル等

第1 概  説

適用除外カルテル制度の概要
 適用除外制度により独占禁止法の禁止規定等の適用が除外されている行
為としては,カルテルが大部分を占めており,平成8年度末現在,34の法
律において,53のカルテル制度が独占禁止法の適用除外とされている。こ
れらの適用除外カルテルが許容されている理由は,おおむね次の5類型に
分類される。
(1)  政府規制分野において,規制目的を補完するための手段等として協定
等が行われるもの(海上運送法,航空法等に基づく運輸カルテル,損害
保険料率算出団体に関する法律に基づく保険料率カルテル等)
(2)  大企業との取引上あるいは競争上劣位に置かれやすい中小企業の立場
を補強する必要から一定の範囲内で共同行為を認めるもの(独占禁止法
第24条の規定に基づく一定の組合の行為,中小企業等協同組合法等に基
づく共同経済事業等)
(3)  貿易関係の分野における貿易摩擦の回避,過度の輸出競争及び輸入競
争の防止等,公正な貿易秩序を維持するため,一定の範囲内でカルテル
を認めるもの(輸出入取引法に基づく輸出・輸入カルテル等)
(4)  深刻な不況により産業界に回復し難い打撃を与えるおそれがある場合
にカルテルを認めるもの(独占禁止法第24条の3の規定に基づく不況カ
ルテル,中小企業団体の組織に関する法律に基づく安定事業)
(5)  企業の合理化のためにカルテルを認めるもの(独占禁止法第24条の4
の規定に基づく合理化カルテル,中小企業団体の組織に関する法律に基
づく合理化事業等)
 これらの適用除外カルテルのうち,独占禁止法に基づく不況カルテル
及び合理化カルテルについては,当委員会が認可を行っており,また,
特定の事業についての法律に基づくものは,一般に,当委員会の同意を
得,又は当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこ
ととなっている。
 また,適用除外カルテルの認可については,一般に,不況の克服等当
該適用除外カルテル制度の目的を達成するために必要であること等の積
極的要件のほか,当該カルテルが行き過ぎて弊害をもたらさないよう
に,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当
に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律に
より必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルは,不公正な取引方法に該当す
る行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とならないとされ
ている。
適用除外カルテルの動向
 当委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議
若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和
40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテル
のように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ご
とにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを
1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,平成
8年度末現在では12件となっている。

第2 独占禁止法に基づく適用除外カルテル

不況カルテル
 独占禁止法は,第3条及び第8条において事業者及び事業者団体による
カルテルを原則的に禁止しているが,第24条の3において不況が深刻化し
た場合には,厳格な認可要件の下に,一時的,例外的に不況に対処するた
め生産業者等が当委員会の認可を得て行うカルテルを不況カルテルとして
認めている。
 平成元年10月以降,不況カルテルは実施されていない。
合理化カルテル
 独占禁止法は,第24条の4において技術の向上,品質の改善,原価の引
下げ,能率の増進その他企業の合理化を遂行するため,特に必要がある場
合には,需要者の利益を害するおそれがないこと等一定の条件の下に,生
産業者等が,当委員会の認可を得て行う,技術若しくは生産品種の制限
原材料若しくは製品の保管若しくは運送の施設の利用又は副産物,くず若
しくは廃物の利用若しくは購入に係るカルテルを合理化カルテルとして認
めている。
 昭和57年1月以降,合理化カルテルは実施されていない。

第3 個別法に基づく適用除外カルテル等

概  要
 平成8年度において,個別法に基づき主務大臣から当委員会に対し同意
を求め,又は協議,通知のあったカルテル等の処理状況は第1表のとおり
であり,このうち主な個別法に基づくカルテル等の動向は,次のとおりで
ある。
 なお,中小企業団体の組織に関する法律,環境衛生関係営業の運営の適
正化に関する法律,砂糖の価格安定等に関する法律,卸売市場法,輸出水
産業の振興に関する法律,港湾運送事業法,内航海運組合法,酒税の保全
及び酒類業組合に関する法律,真珠養殖等調整暫定措置法及び果樹農業振
興特別措置法に基づくカルテルに関する同意,協議等はなかった。
第1表 平成8年度カルテル等の処理状況
中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテル
 中小企業団体の組織に関する法律に基づき商工組合が安定事業又は合理
化事業を行う場合には,調整規程を設定し,主務大臣の認可を受ける必要
があり,主務大臣はその認可に際して当委員会に協議等をしなければなら
ないこととなっている。
 平成8年度において,主務大臣から協議等を受けたものはなかった。
輸出入取引法に基づくカルテル
 平成8年度において,輸出入取引法に基づき新規に設定されたカルテル
はなく,平成8年度中に終了したカルテルは6件(第2表)であり,平成
8年度末現在における同法に基づくカルテルの件数は3件となっている。
第2表 平成8年度中に終了したカルテル
 また,平成8年度において新規に定められたアウトサイダー規制命令は
なく,平成8年度末現在におけるアウトサイダー規制命令の件数は2件と
なっている。
漁業生産調整組合法に基づくカルテル
 漁業生産調整組合法に基づき漁業生産調整組合が調整事業を行う場合に
は,調整規程を設定し,農林水産大臣の認可を受ける必要があり,農林水
産大臣はその認可に際して当委員会に協議しなければならないこととなっ
ている。
 平成8年度において協議を受けたものは,①全国さんま棒受網漁業生産
調整組合が実施している漁船の登録,臨時休漁,陸揚げ制限及び一時陸揚
げの制限に係る調整規程の期間の延長 ②北部太平洋海区まき網漁業生産
調整組合が実施している漁船の登録,投網の制限,臨時休漁及び陸揚げ制
限に係る調整規程の期間延長並びに③東日本きば釣漁業生産調整組合が実
施しているさば釣漁業に係る調整規程に対する期限設定に関するものの3
件である。
 これらに対し,当委員会は所要の調査を行った結果,特に問題はないと
認め,異議のない旨回答した。
 平成8年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は3件である。
輸出水産業の振興に関する法律に基づくカルテル
 輸出水産業の振興に関する法律に基づき輸出水産業組合が調整事業を行
う場合には,調整規程を設定し,農林水産大臣に届け出る必要があり,農
林水産大臣はその届出を受理したときは当委員会に通知しなければならな
いこととなっている。
 なお,同法に基づくカルテルについては,平成7年度中に終了してお
り,それ以降,実施されていない。
漁業再建整備計画特別措置法に基づく整備計画
 漁業再建整備計画特別措置法は,政令で定めた業種に係る漁業協同組合
等の団体が行う漁船の隻数の縮減等の整備計画について農林水産大臣が同
法第6条第1項の規定に基づき認定しようとするときは,同法第16条の規
定に基づき当委員会に協議しなければならないこととしている。
 平成8年度において協議を受けたものは,社団法人日本遠洋底曳網漁業
協会が実施した以西底びき網漁業の整備計画に関するもの1件である。
 これに対し,当委員会は所要の調査を行った結果,特に問題はないと認
め,異議のない旨回答した。
 なお,当該整備計画は平成8年度中に終了した。
内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合又は内航海運組合連合会が調整事
業を行う場合には,調整規程を設定し,運輸大臣の認可を受ける必要があ
り,運輸大臣はその認可をしたときは当委員会に通知しなければならない
こととなっている。
 平成8年度においては,運輸大臣から通知を受けたものはなく,平成8
年度末現在における同法に基づく調整規程の件数は1件である。
環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づくカルテル
 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づき環境衛生同業組
合が適正化事業を行う場合には,環境衛生同業組合連合会の設定する適正
化基準に準拠して適正化規程を設定し,厚生大臣又は都道府県知事の認可
を受ける必要があり,厚生大臣又は都道府県知事はその認可に際して当委
員会に協議しなければならないこととなっている。また,環境衛生同業組
合が同視程を廃止したときは,厚生大臣又は都道府県知事に届け出る必要
があり,厚生大臣又は都道府県知事はその届出があったときは当委員会に
通知しなければならないこととなっている。
 平成8年度においては,厚生大臣又は都道府県知事から協議を受けたも
のはなく,通知を受けたものは適正化規程廃止に係るもの26件である(な
お,26件は,すべて平成8年3月31日に廃止されたものに係る通知であ
る。)。
 同法に基づく適正化規程は理容業の1業種のみであり,平成8年度末現
在における同法に基づく適正化規程の件数は1件である。
海上運送法に基づくカルテル
 船舶運航事業者が他の船舶運航事業者と結ぶ運賃及び料金その他の運送
条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は
共同行為(以下「協定」という。)については,海上運送法第28条の規定
により原則として独占禁止法の適用が除外されている。しかし,同条ただ
し書により,不公正な取引方法を用いる場合又は一定の取引分野における
競争を実質的に制限することにより不当に運賃及び料金を引き上げること
となる場合には,適用除外とならない。海運業に係る不公正な取引方法に
ついては,独占禁止法第2条第9項に基づく特殊指定でその内容が定めら
れている。
 海上運送法第29条は,同法第28条に規定する協定に関し,その締結,変
更についてあらかじめ運輸大臣に届け出なければならない旨規定し,海上
運送法施行規則第26条第4項では,運輸大臣は,協定に関する届出書のう
ち1通を当委員会に送付する旨規定している。
 平成8年度において当委員会が運輸大臣から受理した届出の件数は244
件であり,その内訳(1届出について,2以上にわたる場合の重複分を含
む。)は,締結16件,変更182件,参加5件,脱退22件,その他19件であっ
た。