第1部 総 論
第1 概 説
1 | 我が国を取り巻く経済環境 | |||||||||||||||||||||||||||||
平成9年度における我が国経済についてみると,平成9年度当初は,特 に消費税率の引上げに伴う駆け込み需要の反動減が予想以上に大きく現 れ,消費に大幅な減少がみられた。 7月から9月にかけては,駆け込み需要の反動減の影響が長引き回復の テンポは緩慢であったものの,この期までで反動減の影響はほぼ終了し, 個人消費には緩やかながら立ち直りがみられ,景気の回復も始まってい た。しかし,秋口からは,株価の下落が生じ,また,バブル期の後遺症で ある企業や金融機関のバランスシートの調整の遅れ,大手金融機関の破綻 を発端とする不安感の高まり,資産構成・収益性改善を目的とする金融機 関の貸出抑制等の要因があいまって,企業の投資意欲,家計の消費マイン ドが冷え込んだ結果,我が国の景気は減速することとなった。 他方,海外に目を向けると,アジア諸国においては,輸出競争力の低 下,過剰な海外資本の流入によるバブル的状況の発生及び大量の不良債権 の発生等の要因から生じた通貨危機が政治不安にまで波及するといった事 態となった。 以上のような状況の下に,政府は,平成9年度末から10年度当初にかけ て,「緊急経済対策」を始めとする一連の措置により,景気の下支え,金 融システムの安定化とともに我が国経済の構造改革,体質の強化を図るこ ととしたが,これらの施策の実効が上がるようにするためには,規制緩和 や経済構造改革を推進し,市場原理に立脚した経済環境を実現していくこ とが必要である。 |
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2 | 規制緩和の推進と競争政策の積極的展開 | |||||||||||||||||||||||||||||
政府は,我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り,国際的に開かれ, 自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正なものとしていくとともに,我 が国の行政をいわゆる事前規制型から事後チェック型に転換していくこと を基本として,規制緩和を推進してきている。 規制緩和等を計画的に推進するために定められた「規制緩和推進計画に ついて」(平成7年3月31日閣議決定)は,平成8年3月の改定(「規制緩 和推進計画の改定について」(平成8年3月29日閣議決定))に続き,平成 9年3月28日には再改定(「規制緩和推進計画の再改定について」(平成9 年3月28日閣議決定))された。 再改定された規制緩和推進計画においては,我が国経済における公正か つ自由な競争を一層促進することにより,我が国市場をより競争的かつ開 かれたものとするとの観点から,引き続き,規制緩和とともに競争政策の 積極的展開を図ることとされている。 さらに,平成9年度末をもって規制緩和推進計画の期限が到来したこと から,政府は,新たに平成10年度から12年度までの3か年にわたり規制緩 和等を計画的に推進するため,「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月 31日閣議決定)を策定した。同計画においても,公正かつ自由な競争を促 進するため,規制緩和とともに競争政策の積極的展開を図るための措置が 盛り込まれている。 |
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3 | 平成9年度において講じた施策の概要 | |||||||||||||||||||||||||||||
当委員会は,こうした状況を踏まえ,独占禁止法の厳正かつ積極的な運 用により独占禁止法違反行為を排除し,政府規制制度及び独占禁止法適用 除外制度を見直し,経済環境の変化に即応した公正な競争条件の整備を進 めるとともに,経済活動の国際化が進む中,競争政策の国際的展開に適切 に対処するよう努めた。 平成9年度においては,次のような施策に重点を置いて競争政策の運営 に積極的に取り組んだ。
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第2 業務の大要
業務別にみた平成9年度の業務の大要は,次のとおりである。
1 | 合併,営業譲受け等の届出制度 株式所有の報告制度,役員兼任の届出 制度等について,届出・報告対象範囲の縮減,審査手続の整備を行うこと 等を内容とする私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を 改正する法律が平成10年5月29日に公布された。 |
2 | 持株会社の設立等の禁止の解除に伴う金融関係法律の整備等に関する法 律案,金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律案,大規 模小売店舗立地法案等について,関係行政機関が立案するに当たり,所要 の調整を行った。 |
3 | 独占禁止法違反被凝事件として平成9年度中に審査を行った事件は225 件,そのうち平成9年度内に審査を完了したものは180件であった。ま た,平成9年度中に法的措置を採っものは31件であり,その内訳は,独 占禁止法第48条の規定に基づく勧告30件,違反行為がなくなった日から1 年を経過していたため勧告を行わず課徴金納付命令のみを行った事件1件 となっている。これらを行為類型別にみると,私的独占3件,価格カルテ ル3件,入札談合等16件,不公正な取引方法9件である。それ以外の事件 としては,警告19件,注意123件及び違反事実が認められなかったため審 査を打ち切った事件7件となっており,法的措置を採ったものと併せてこ れらを行為類型別にみると,私的独占4件,価格カルテル31件,入札談合 等17件,その他のカルテル3件,不公正な取引方法98件,その他の行為27 件となっている。 また,価格カルテル事件及び入札談合事件16件について,計391名に対 し,総額82億8355万円の課徴金の納付を命じた。このうち,22名に対する 課徴金納付命令(課徴金額54億5066万円)については,審判手続が開始さ れたことにより失効した。 平成9年度における審判事件数は,前年度から引き継いだもの8件を含 め,独占禁止法違反被疑事件が14件,景品表示法違反被疑事件が1件の計 15件であった。これらのうち,平成9年度中には 4件について審決を行 い,1件について審判開始決定を取り消す決定を行った。この審決の内訳 は,審判審決3件,課徴金納付を命ずる審決1件である。 |
4 | 独占禁止法の運用の透明性を確保し,違反行為を未然に防止するための 取組として,持株会社について,事業支配力が過度に集中することとなる ものの設立・転化を禁止すること等を内容とする平成9年独占禁止法改正 法の施行(平成9年12月17日)に併せて,「事業支配力が過度に集中する こととなる持株会社の考え方」及び「独占禁止法第11条の規定による金融 会社の株式保有の考え方」を作成し,平成9年12月に公表した。また,役 務の委託取引に関し,優越的地位の濫用規制の観点から,独占禁止法上の 問題となる主要な行為について考え方を示すため,「役務の委託取引にお ける優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の指針」を作成し,平成10年 3月に公表した。さらに,事業者及び事業者団体の活動に関する相談に積 極的に応じるとともに,実際に相談のあった事例のうち,他の事業者又は 事業者団体の活動の参考となると考えられるものの概要を主要相談事例集 として取りまとめ,公表した(事業者の活動に関するものは平成10年3 月,事業者団体に関するものは平成10年6月)。 |
5 | 独占禁止法適用除外制度の見直しについては,「規制緩和推進計画の再 改定について」に基づき行われた見直し及び検討の結果,「規制緩和推進 3か年計画」において,「独占禁止法に基づく適用除外制度については不 況カルテル制度・合理化カルテル制度等を廃止し,適用除外法に基づく適 用除外制度については協同組織の団体に係るものを独占禁止法第24条の規 定によることとし,その他のものは原則廃止するとともに,適用除外法そ のものを廃止することとする」ことが決定された。 |
6 | 独占禁止法第18条の2の規定に基づく価格の同調的引上げに関する報告 徴収については,平成9年度において,インスタントコーヒー及び磨き板 ガラスについて価格引上げ理由の報告を徴収した。 |
7 | 競争政策の運営に資するため,平成9年度においては,独占的状態調 査,一般用カラー写真フィルム及びカラー写真用印画紙に関する企業間取 引実態調査・フォローアップ調査,公益法人等による自主基準・認証活動 に関する実態調査,コンタクトレンズの流通・取引慣行等に関する実態調 査,医療用具の流通・取引慣行等に関する実態調査,流通構造の変化と事 業者の対応に関する調査及び薬局・薬店に対する広告規制・出店規制等に 関する実態調査等を行った。 |
8 | 独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務 については,金融会社の株式保有について72件の認可を行い,また,事業 会社の株式所有状況について8,615件の報告を,競争会社間の役員兼任に ついて5,955件の届出を,会社の合併・営業譲受け等について3,720件の届 出をそれぞれ受理し,これらについて所要の審査を行うとともに,法運用 の透明性を確保するため,平成9年度における主要な合併等の事例を取り まとめ,平成10年6月に公表した。 |
9 | 独占禁止法第8条の規定に基づく事業者団体の届出件数は,成立届113 件,変更届1,734件,解散届115件であった。 |
10 | 不公正な取引方法に関する業務については,独占禁止法違反行為を未然 に防止するための措置の一環として,事業者等からの相談に積極的に応じ るとともに,適切な指導に努めた。 |
11 | 独占禁止法第24条の3の規定に基づく不況カルテル及び同法第24条の4 の規定に基づく合理化カルテルについては,平成9年度において実施され たものはなかった。 個別法に基づき,当委員会に協議等を行った上で主務大臣が認可等を行 うカルテルの平成9年度末における現存数は15件である。 |
12 | 再販適用除外制度については,累次の閣議においてその見直しが決定さ れており,再改定された規制緩和推進計画に基づき,平成9年4月1日か ら,すべての再販指定商品の指定告示を廃止した。 著作物再販制度については,平成10年3月,当委員会として,競争政策 の観点からは廃止の方向で検討されるべきものであるが,文化の振興・普 及と関係する面もあるとの指摘もあることから,これを廃止した場合の影 響について配慮しつつ引き続き検討する等の結論を得た。また,「規制緩 和推進3か年計画」においては,「独占禁止法上原則禁止されている再販 行為に関する適用除外制度であることから,制度を維持すべき相当の特別 な理由が必要であり,今後,行政改革委員会最終意見の指摘する論点に係 る議論を深めつつ,適切な措置を講ずる」こととされた。 |
13 | 下請法に関する業務としては,下請取引の公正化及び下請事業者の利益 保護を図るため,親事業者13,648社及びこれらと取引している下請事業者 71,860社を対象に書面調査を行った。 調査の結果,下請法違反行為が認められた1,351件につき,3件につい ては勧告,それ以外については警告の措置を採った。 |
14 | 景品表示法第6条の規定に基づき排除命令を行ったものは8件であり, 警告を行ったものは,景品関係166件及び表示関係293件の計459件であっ た。 都道府県における景品表示関係の業務の処理状況は,注意を行ったもの が801件(景品229件,表示572件)であった。 景品提供に関しては,経済社会情勢の変化,各方面からの要望等を踏ま え,景品規制の見直し・明確化を行うため景品規制の一般規定に係る関係 告示及び運用基準を改廃したところ(平成8年2月告示,同年4月施 行),これに引き続き,その内容に即して,平成8年4月以降平成10年4 月までに,29の業種別告示の改廃及び49の景品に関する公正競争規約の見 直しを行った。 |
15 | 消費者関係業務については,景品表示法の運用業務のほか,消費者に対 する不公正な取引方法の指定に関する業務,消費者モニターに関する業務 等について,消費者利益の確保のために積極的に取り組んだ。 また,広告・表示の適正化を図る観点から,PHS(簡易型携帯電話)に 関する表示,写真の同時プリント料金の表示及び英会話教室における広 告・表示の実態について調査を行い,その結果を公表した。 |
16 | 国際関係の業務としては,貿易摩擦問題に関し,日米包括経済協議とし て「日米間の新たな経済パートナーシップのための枠組みの下での規制緩 和及び競争政策に関する強化されたイニシアティブに関する共同声明」の 下における議論に対応するとともに,日米フィルム問題に関するWT0 (世界貿易機関)における協議等に対応した。また,各国共通の競争政策 上の問題について,韓国,米国,フランス,イギリス,カナダ,EU(欧 州連合)の競争当局との間で二国間意見交換を行ったほか,OECD(経 済協力開発機構),WT○,APEC(アジア太平洋経済協力),UNCT AD(国際連合貿易開発会議)等の国際機関等における多国間会議に積極 的に参加した。 |