第5章 政府規制制度及び独占禁止法 適用除外制度の見直し

第1 概   説

見直しの必要性
 我が国では,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に
係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外され
ている産業分野がみられる。
 このような政府規制は,第二次世界大戦後における我が国経済の発展過程
において一定の役割を果たしてきたものと考えられるが,社会的・経済的情
勢の変化に伴い,当初の必要性が薄れる一方で,効率的経営や企業家精神の
発揮の阻害,競争制限的体質の助長等様々な競争制限的問題を生じさせてき
ているものも少なくない。このため,我が国経済社会の抜本的な構造改革を
図り,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社
会としていくためにも,規制改革の推進が緊急の課題となっている。
 また,適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度で
あり,適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商
品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損な
われるなどのおそれがあり,必要最小限にとどめるとともに,不断の見直し
の必要がある。
規制緩和推進3か年計画
 政府は,我が国経済社会を,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に
立つ自由で公正なものとしていくとともに,我が国の行政を事前規制型から
事後チェック型に転換していくことを基本として,規制緩和を推進してきて
いる。規制の撤廃,緩和については,これまで,「規制緩和推進計画につい
て」に基づいて進められてきたが,平成9年度末に同計画の期限が到来した
ことから,政府は,新たに「規制緩和推進3か年計画」を策定した。
 同計画においては,公正かつ自由な競争を促進するため,規制緩和と併
せて競争政策の積極的展開を図るための措置が盛り込まれているところ,
当委員会としても,同計画を踏まえて競争政策の積極的展開を推進するこ
ととし,具体的な取組内容を平成10年3月31日に公表した。
 同3か年計画において,当委員会は,独占禁止法違反行為に対し厳正・
迅速かつ積極的に対処し,規制緩和の推進について調査・提言を行うとと
もに,独占禁止法適用除外制度については必要最小限とするほか,以下の
課題について取り組むこととされている。
(1)  地方自治体が講じている参入規制等について競争政策の観点から実態
調査を行い,必要に応じて提言を行うとともに関係行政庁と所要の調整
を行うこと。
(2)  規制緩和後において,規制に代わって競争制限的な行政指導が行われ
ることのないよう,「行政指導に関する独占禁止法上の考え方」(平成6
年6月)の趣旨を踏まえた関係省庁からの事前の調整に対して適切に対
応すること。
(3)  いわゆる民民規制の問題について,独占禁止法違反行為に対しては厳
正に対処することに加え,その実態を調査し,競争制限的な民間慣行に
ついてその是正を図るとともに,その背後に競争制限的な.行政権導が存
在する場合には関係省庁に対しその早急な見直しを求めるなど所要の措
置を講じること。
 前記計画を受けて,当委員会は,後述の政府規制制度の見直しのための
調査等を行ったほか,民民規制については,「公益法人等の自主基準・認
証活動に関する実態調査」(第7章第4参照)及び「薬局・薬店の広告・
出店規制等に関する実態調査」(第7章第8参照)を実施し,その結果を
公表した。
 また,規制緩和推進3か年計画において,政府は,公正でかつ内外に開
かれた市場の実現を妨げる行為により不利益を被った者が自らのイニシア
ティブと責任においてその救済を図るための民事的救済制度の整備につい
て検討を行い,結論を得ることとされている。これについて,当委員会
では,独占禁止法違反行為により損害を被った者に対し,違反行為に係る
差止請求権を付与することに係る論点及び損害賠償の活性化を図るための
方策について検討するため,平成10年3月以降,「独占禁止法違反行為に
係る民事的救済制度に関する研究会」(座長 古城誠 上智大学法学部教
授)を開催し,同研究会において,まず,独占禁止法違反行為に係る差止
請求権について検討している。一方,通産省においても昨年9月から企業
法制研究会(座長 松下満雄 成蹊大学法学部教授)を開催し,平成10年
6月に不公正な競争行為に対する差止請求制度導入の必要性について提言
を行った。

第2 政府規制制度の見直し

政府規制等と競争政策に関する研究会における検討
 当委員会は,従来から,政府規制制度について競争政策の観点から中長
期的な見直しを行ってきており,昭和63年7月以降は,政府規制制度の見
直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,「政府
規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学経済学部
教授)を開催している。
 最近では,同研究会は,電気事業分野及びガス事業分野について検討を
行い,「電気事業分野における規制緩和と競争政策上の課題」及び「ガス
事業分野における規制緩和と競争政策上の課題」を取りまとめ,当委員会
は,いずれも平成9年4月にこれを公表したところである。
 このうち,電気事業に関しては,通商産業省の電気事業審議会におい
て,電力供給システム全般の見直しが行われてきており,平成10年5月に
取りまとめられた中間的整理においては,今後,新たな電力供給システム
を検討するに当たっては,電力小売の部分自由化を念頭におくこと(完全
自由化やプール市場の創設は将来の課題とすること)とされ,これを踏ま
えて具体的な検討が行われているところ,当委員会としては引き続きその
検討状況等を注視していく。
保険業に関する実態調査
 規制緩和の推進に対する取組として,当委員会では,規制分野の実態調
査を行ってきており,平成9年度においては,保険業に関する実態調査を
開始した。
 本調査を実施することとした背景としては,保険業には参入,商品,料
率等の厳重な規制があり,特に損害保険では独占禁止法適用除外が認めら
れている一方,改正保険業法が平成8年4月に施行された結果,一定の規
制緩和措置が採られ,今後においても,算定会制度の抜本的改革の実施が
予定されているなど,大きな動きがみられることがある。
 本調査においては,保険業全般について,①規制緩和について,参入,
商品,料率等の規制の下での保険業における競争実態を把握すること,②
企業間取引(いわゆる系列取引)について,保険会社と企業ユーザーとの
取引実態を把握することの二つの視点から調査・分析を行うこととしてお
り,保険会社,代理店,企業ユーザー等を対象に種々の調査を実施してい
るところである。

第3 独占禁止法適用除外制度の見直し

独占禁止法適用除外制度の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することによ
り,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達
を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取
引制限 不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の経済政策目的を
達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規
定等の適用を除外するという適用除外制度が設けられている。
 適用除外制度については,その根拠規定から,①独占禁止法自体に定め
られているもの,②適用除外法に定められているもの,③独占禁止法及び
適用除外法以外の個別の法律に定められているものに分けることができ
る。
(1) 独占禁止法に基づく適用除外制度
 独占禁止法は,①自然独占に固有な行為(第21条),②事業法令に基
づく正当な行為(第22条),③無体財産権の行使行為(第23条),④一定
の組合の行為(第24条),⑤不況力ルテル(第24条の3),⑥合理化カル
テル(第24条の4),⑦決定整備計画等に基づく行為(第103条)を,そ
れぞれ同法の規定の適用除外としている(このほか再販適用除外制度が
ある(第24条の2)。)。
(2) 適用除外法に基づく適用除外制度
 適用除外法は,①陸上交通事業調整法等の法律又はその条項等を掲
げ,これらの法令の規定又は法令の規定に基づく命令によって行う正当
な行為を独占禁止法の適用除外とし(第1条),また,②水産業協同組
合法等の特定の法律に基づいて設立された協同組合その他の団体を独占
禁止法第8条の規定の適用除外としている(第2条)。
(3) 個別法に基づく適用除外制度
 独占禁止法及び適用除外法以外の個別の法律において,特定の事業者
又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているもの
としては,平成9年度末現在,保険業法等12の法律がある。
適用除外制度見直しの必要性
 現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業の
育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成す
るため,各産業分野において創設されてきたという経緯がある。
  しかし,今日の我が国経済については,世界経済における地位の向上,
企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化等が進むなど,その創設当時
とは大きく変化していることから,政府規制と同様に適用除外制度の必要
性も変化してきていると考えられる。
 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存の
事業者に対する保護的な効果を及ぼすおそれがあり,その結果,経営努力
が十分に行われず,消費者の利益を損なうおそれがある。また,現に利用
されていない制度についても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将
来においてもそのまま利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自体
を背景にして協調的行動が採られやすく,競争を回避しようとする傾向が
生じるおそれがあり,このことにより,個々の事業者の効率化への努力が
十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれが
ある等の問題がある。
適用除外制度見直しの経緯
 適用除外制度については,近年,累次の閣議決定等においてその見直し
が決定されている。個別法による適用除外制度については,「規制緩和推
進計画の改定について」を受け,平成9年2月,個別法に基づく適用除外
制度20法律35制度について廃止等の措置を採るための一括整理法案が第
140回国会に提出された。同法案は,同年6月13日に可決・成立し,同年
7月20日に施行された。
 また,その他の個別法に基づく適用除外制度については,「規制緩和推
進計画の再改定について」(以下「再改定計画」という。)において,6法
律6制度について個別に法改正等の措置を実施することとされ,7法律8
制度については引き続き検討することとされた。
 これらの措置により,平成8年3月末において28法律47制度存在した個
別法に基づく適用除外制度は,平成10年3月末現在,12法律17制度にまで
縮減された。
 独占禁止法に基づく適用除外制度及び適用除外法に基づく適用除外制度
については,再改定計画において,適用除外となる行為及び団体の全範囲
について,制度自体の廃止を含めて見直し,平成9年度末までに具体的結
論を得るとともに,適用除外法については,法そのものの廃止を含めて抜
本的見直しを行うこととされた。
 なお,平成5年9月の「緊急経済対策」(経済対策閣僚会議)では,適
用除外制度の見直しを実行に移すため,規制緩和等の推進のための施策の
1項目として「独占禁止法の適用を除外している個別の法律に基づく適用
除外カルテル等制度の見直しについて,平成7年度末までに結論を出すこ
ととし,関係省庁による連絡会議を開催する等見直し推進体制の整備を図
ること」が決定されており,これを受けて,内閣官房内閣内政審議室の主
宰による「独占禁止法適用除外制度見直しに係る関係省庁等連絡会議」が
開催されてきている(第1回 平成5年11月,第2回 平成6年3月,第
3回 平成7年1月,第4回 同年9月,第5回 平成8年1月)。再改
定計画を受けて,それまで個別法に基づく適用除外制度を対象としていた
この連絡会議については,適用除外法に基づく適用除外制度及び同法と密
接に関連する独占禁止法第24条に基づく適用除外制度についても,その対
象に含めるよう拡大改組され,引き続き開催されたところである(第6
回 第7回,それぞれ平成9年6月)。
「規制緩和推進3か年計画」における見直し結果
 再改定計画に基づき,独占禁止法に基づく適用除外制度,適用除外法に
基づく適用除外制度及び引き続き検討することとされていた個別法に基づ
く適用除外制度についてそれぞれ見直しを行ってきたところ,その結論が
「規制緩和推進3か年計画」(以下「新計画」という。)に盛り込まれた。
 新計画においては,「独占禁止法適用除外カルテル等制度については,
適用除外となる行為及び団体の全範囲について見直しを行ったが,その結
果は以下のとおりであり,独占禁止法に基づく適用除外制度については不
況カルテル制度・合理化カルテル制度等を廃止し,適用除外法に基づく適
用除外制度については協同組織の団体に係るものを独占禁止法第24条の規
定によることとし,その他のものは原則廃止するとともに,適用除外法そ
のものを廃止することとする」ことが決定されたほか,「このうち,立法
措置を必要とするものについては,平成11年の通常国会に改正法案を提出
する等所要の措置を行うものとする」こととされた。
 新計画に盛り込まれたそれぞれの適用除外制度の見直し結果の概要は,
以下のとおりである。
     表 新計画における各適用除外制度の見直し結果の概要
独占禁止法に基づく適用除外制度


適用除外法に基づく適用除外制度
○適用除外法は廃止。関係事業者団体の届出義務(独占禁止法第8条第2
項から4項まで)について、引き続き免除するため所要の処置
個別法に基づく適用除外制度


 当委員会としては,今後とも,累次の閣議決定等の趣旨を踏まえ,適用
除外制度についてはこれを必要最小限とするとの認識の下,不断の見直し
を行っていく。
 なお,再販適用除外制度の見直しについては第12章第2を参照のこと。