第6章 価格の同調的引上げに関する報告の徴収

第1 概   説

 独占禁止法第18条の2の規定により,年間国内総供給価額が600億円超
で,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満た
す同種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場
占拠率が5%以上であって,上位5位以内である者をいう。以下この章にお
いて同じ。)が,取引の基準として用いる価格について,3か月以内に,同
一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,当委員会は,当該主要事業者
に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めることができる。
 この規定の運用については,当委員会は,その運用基準を明らかにすると
ともに,市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し,これを運用基準
別表に掲げ,当該別表が改定されるまでの間,同別表に掲載された品目につ
いて価格の同調的引上げの報告徴収を行うこととしている。

第2 価格の引上げ理由の報告徴収

 平成9年度において,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上
げに該当すると認めてその引上げ理由の報告を徴収したものは,インスタン
トコーヒー及び磨き板ガラスの2件である。その概要は,次のとおりであ
る。

インスタントコーヒー
 インスタントコーヒーの平成6年における国内総供給価額は1596億円で
あり,上位3社の市場占拠率の合計は84.6%である。主要事業者は,ネス
レ日本株式会社(以下「ネスレ日本」という。)及び味の素ゼネラルフー
ヅ株式会社(以下「AGF」という。)であり,首位事業者はネスレ日本
である。
 ネスレ日本が平成9年6月2日から,AGFが同年7月1日からそれぞ
れ実施したインスタントコーヒーの販売価格の引上げは,独占禁止法第18
条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,当委
員会は,同年10月14日,これら2社に対して価格引上げの理由の報告を求
めた。
(1) 両社の価格引上げ状況
 ネスレ日本及びAGFの価格引上げの公表日,取引先への通知日,価
格引上げ日及び引上げ率は,下表のとおりである。
(2) 両社の価格引上げ理由
 ネスレ日本及びAGFから提出された報告書によると,価格引上げの・
理由は以下のとおりである。
ネスレ日本
 ネスレ日本は,インスタントコーヒーの価格引上げの主たる理由と
して,中南米の収穫の減産見込みが伝えられたこと等により,平成9
年初めからコーヒー豆価格が高騰し,その結果,売上原価が大幅に上
昇し,平成9事業年度(1月~12月。以下ネスレ日本において同
じ。)の営業利益率が減少すると予想されたことを挙げている。この
ため,平成8事業年度の営業利益率を勘案しつつ,商品ごとに取引先
及び一般消費者に受け入れられると考えられる適正価格の範囲を想定
し,その範囲内で検討を行い,価格引上げ率については,生産者販売
価格で平均9.95%,希望小売価格で平均10.53%となったとしてい
る。
AGF
 AGFは,インスタントコーヒーの価格引上げの主たる理由とし
て,コーヒー生豆が中南米で大幅減産見込みとなったことに端を発し
た平成9年5月の生豆価格の投機的な相場によるコストアップへの対
処を挙げている。価格引上げ率については,総原価の販売価格に占め
るウエイトについて,平成9年4月から9月の見込み平均と平成8年
1月から12月の平均実績を対比し,さらに平成7年度の実績を勘案し
つつ,加えて首位事業者の対抗商品の価格引上げ動向を考慮した結
果,生産者販売価格で平均9.98%,希望小売価格で平均10.62%とせ
ざるを得なかったとしている。
磨き板ガラス
 磨き板ガラスの平成6年における国内総供給価額は1219億円であり,上
位3社の市場占拠率の合計は96.6%である。主要事業者は,旭硝子株式会
社(以下「旭硝子」という。),日本板硝子株式会社(以下「日本板硝子」
という。)及びセントラル硝子株式会社(以下「セントラル硝子」とい
う。)の3社(以下「3社」という。)であり,首位事業者は旭硝子であ
る。
 旭硝子が平成9年4月1日から,日本板硝子及びセントラル硝子が同年
5月1日からそれぞれ実施した磨き板ガラスの販売価格の引上げは,独占
禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められた
ので,当委員会は,同年11月25日,これら3社に対して価格引上げの理由
の報告を求めた。
(1) 各社の価格引上げの状況
 磨き板ガラスの価格の引上げは,各社がそれぞれの取引先と個別に価
格引上げ交渉を進める形で行われた。3社の価格引上げの交渉開始時
期,価格引上げ実施日及び引上げ率は,下表のとおりである。
(2) 各社の価格引上げ理由
 3社から提出された報告書によると,価格引上げの理由は,以下のと
おりである。
旭硝子
 旭硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由として,平成8
年に入り販売価格が大幅に低下し,設備の統廃合,支店の統合,本社・
工場等の省人化の一層の推進等コストダウン施策を行ったものの,板
ガラス事業の収支改善につながらず,さらに,大幅な為替変動を背景
とした重油等の輸入原材料価格の高騰により収支が一層悪化したた
め,同事業の収支を改善する必要があったことを挙げている。また,
収支の改善目標については,板ガラス事業の収益を平成8年度第1四
半期(平成8年4月~6月)の水準まで戻すことをその根拠としてい
る。
日本板硝子
 日本板硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由として,販
売価格の大幅な下落により板ガラス事業の収益が低迷し,平成9年度
(平成9年4月~平成10年3月)において,固定費削減,生産能率向
上等各種コストダウン施策を講じてもなお利益目標の達成が困難で
あったことから,同事業の収支を改善し企業経営の発展に必要な利益
を確保する必要があったことを挙げている。また,販売価格の引上げ
目標の設定については,首位事業者の価格引上げ状況を考慮した,市
場に受け入れられやすい引上げ率を設定したとしている。
セントラル硝子
 セントラル硝子は,磨き板ガラスの価格引上げの主たる理由とし
て,ここ数年来ガラス営業部門の経常損益は赤字が継続しており,平
成9年度(平成9年4月~平成10年3月)も切断加工費の引下げ等の
原価低減施策を織り込んでも輸入原材料の値上がりから赤字が見込ま
れたため,同部門の収支を改善する必要があったことを挙げている。
また,販売価格の引上げ目標の設定については,ガラス営業部門の経
常損益の赤字を半減し,平成10年度(平成10年4月~平成11年3月)
に黒字化を目指すことをその根拠としている。