(1) |
医療保険制度 |
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医療用具の診療報酬における取扱いは,①医療用具を用いた行為等に
対して技術料が設定・評価されているもの(MRIはこれに該当す
る。),②医療用具自体に価格が設定されているもの(以下「特定保険医
療材料」という。)の2つに分かれる。このうち②の特定保険医療材料
には,具体的に保険償還価格(以下「公定価格」という。)が定められ
ているもの(ペースメーカ,PTCAカテーテルはこれに該当する。)
と,医療機関の購入価格(一般に「都道府県購入価格」と呼ばれてい
る。)を償還するものの2種類がある。
特定保険医療材料の公定価格の設定の際の評価方法は,機能別評価と
銘柄別評価に分けられる。ペースメーカについては銘柄別評価が,PT
CAカテーテルについては機能別評価が行われている。 |
(2) |
市場規模等 |
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ペースメーカ,ディスポーザブル血管用チューブ・カテーテル(PT
CAカテーテルはこれに含まれる。),MRIの3品目の平成7年の国内
総供給価額合計は,それぞれ約335億円,約814億円,約436億円であ
り,ペースメーカ及びPTCAカテーテルはほとんどが輸入品である。
調査対象品目のメーカー(輸入販売業者・国内販売元を含む。)は,
ペースメーカが15社,PTCAカテーテルが24社,MRIが7社であ
る。 |
(3) |
医療用具の取引 |
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ア |
医療用具の流通経路及び価格体系 |
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医療用具の流通経路は,メーカーが卸売業者経由で医療機関に販売
する形態が主である。ペースメーカ及びPTCAカテーテルにおいて
も,卸売業者経由での販売が多いが,MRI等の高額な医療用具は,
メーカーが直接医療機関に販売する形態が多い。
多くの医療用具の販売については,いわゆる建値制が採られてい
る。特定保健医療材料のうち公定価格が設定されているペースメーカ
等は,公定価格の何パーセントという形で取引の目安となる価格が定
められている場合が多い。都道府県購入価格である人工血管等や技術
料として評価されるMRI,注射筒等は希望小売価格の何パーセント
という形で取引の目安となる価格が設定されている場合が多い。
また,ペースメーカ及びPTCAカテーテルの価格体系は,次の図
のとおりである。
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イ |
医療用具の選定の基準 |
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ペースメーカでは,機能・品質がほぼ同等であれば,価格よりも使
い慣れや立会い等のサービスが優先されている状況にあるのに対し,
PTCAカテーテルについては,使い慣れと価格が優先されている状
況にある。また,MRIについては,価格よりも医師の意向や品質,
設備,アフターサービス,ソフトウェアが良いことが優先される傾向
がみられる。 |
ウ |
医療機関との固定的な取引 |
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ペースメーカ及びPTCAカテーテルの取引においては,以下のと
おり医療機関とメーカー及び卸売業者間の固定的な取引関係がみられ
た(次図)。


医療機関側の購入先が変わらない理由として,見積り合わせ等を
行ってもいつも同じ業者が一番安い価格を提示するため,現在の購入
先と信頼関係があるためなどが挙げられている。また,医療機関の多
くは立会い等の労務提供を受けており,これにより医師のメーカー等
への信頼が強化されることとなり,医療機関とメーカー等との固定的
な取引関係が続いていくものと考えられる。
卸売業者の販売先医療機関が変わらない理由として,第一に特定の
医療機関と取引するための信頼関係を構築するには時間がかかるか
ら,第二に医療機関が取引口座を増やしたがらないので卸売業者が固
定化する傾向にあるからということが挙げられている。 |
エ |
メーカーの卸売業者への関与 |
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卸売業者に対するアンケート調査では,医療機関と取引を開始する
に当たり,仕入先の承認が必要とされているとしている者や競争品の
取扱制限等をしているメーカーがあるとする者がみられた。医療機関
に対するアンケート調査では,卸売業者間で担当地域が決まっている
とする者やメーカーから購入先の指定があって指定業者以外から購入
できないとする者がみられた。これらの傾向は特にペースメーカ又は
PTCAカテーテルの取引で典型的にみられ,上記の仕入先承認が必
要であるとする者が約6割,既存の卸売業者が取引している医療機関
への新規営業活動に関して積極的に売り込まないとする者が約8割と
なっている。既存の卸売業者が取引している医療機関への新規の営業
活動に関して積極的に売り込まない理由としては,既存の卸売業者の
商権を尊重する,メーカーからの指示で売り込まないことになってい
る等が挙げられている。
また,アンケート調査によると,販売価格に関して,ペースメーカ
及びPTCAカテーテルについて,自社の販売価格に関し,販売に当
たって,又は販売終了後にメーカーに報告している卸売業者が約4割
みられた。メーカーに対する調査によると,一部メーカーに,医療機
関への販売に当たって販売価格を報告させたり,卸売業者と共同で価
格交渉を行っているとする者がみられたほか,契約書の中に,販売先
医療機関別に卸売業者への販売掛率を規定しているメーカーもあっ
た。 |
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(4) |
MRIの入札について |
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医療機関に対する調査によると,MRIの国際入札について,応札業
者が1社のみの国立大学病院が多くみられるなど,応札業者が限定され
ている状況がうかがわれる。その原因としては,仕様の内容が具体的機
種に近づけば近づくほど応札業者は限定されるということが挙げられて
いる。 |
(5) |
内外価格差 |
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ア |
内外価格差の認識 |
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医療用具に内外価格差が存在しているかどうかについて,アンケー
ト調査によると,医療機関の33%,卸売業者の52%が医療用具に内外
価格差があるとしている。また,医療機関,卸売業者ともに,内外価
格差が存在すると考える機器の上位に調査対象3品目を挙げている。 |
イ |
内外価格差の要因 |
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メーカーに対する調査によると,ペースメーカの内外価格差の要因
については,立会い及びフォローアップの費用がかなりかかること,
医療機関が多く卸売業者を経由しなければ販売できないこと,日本で
の臨床試験等の費用がかかることなどが挙げられている。
また,PTCAカテーテルの内外価格差の要因については,在庫委
託販売のための費用がかなりかかること,医療機関が多く卸売業者を
経由しなければならないこと,承認申請に伴う費用がかなりかかるこ
と,立会いのための費用がかなりかかることなどが挙げられている。 |
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(6) |
特定医療保険材料(ペースメーカ,PTCAカテーテル)と公定価格 |
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ア |
銘柄別評価 |
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ペースメーカについては,平成4年度から銘柄別評価方法により公
定価格が設定されている。平成4年度以降の新製品については,当初
に公定価格が設定されたペースメーカとの機能の比較に基づく銘柄別
評価方法が採られている。 |
イ |
機能別評価 |
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厚生省は平成5年にPTCAカテーテルについて,専門医を構成員
とする検討委員会を設け,基本的な機能別分類を定め,平成6年度か
らこれらの分類別に公定価格が設定された。平成6年度以降,個々の
事業者がPTCAカテーテルについて,個別に保険適用を申請してき
た場合,厚生省は,前記検討委員会の報告書及び評価表に基づき,当
該製品が該当する分類を判断している。 |
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(7) |
競争政策上の評価 |
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ア |
固定的取引関係 |
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(ア) |
ペースメーカ及びPTCAカテーテルメーカーについての卸売業
者と医療機関との固定的取引関係 |
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機種選定に当たっては,使い慣れ等の重視,立会い等の便宜供与
の存在,出入り業者の存在といった固定的な取引を生み出す背景が
ある。このような状況の下,例えば,メーカーが卸売業者に対して,
その販売先である医療機関を特定させ,医療機関が特定の卸売業者
としか取引できないようにすることによって,ペースメーカ及びP
TCAカテーテルの価格が維持されるおそれがある場合には,メー
カーの行為は不公正な取引方法に該当し,独占禁止法違反となる。 |
(イ) |
卸売業者の商権の尊重行動 |
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例えば,卸売業者が他の卸売業者と共同して取引の相手方を制限
する等相互に事業活動を拘束し,公共の利益に反して,一定の取引
分野における競争を実質的に制限することは,不当な取引制限に該
当し,独占禁止法違反になる。本調査において,直ちに違法となる
行為はみられなかったが,今後,卸売業者の側でも,相互に相手方
の商権を尊重する慣行を改め,価格と品質による競争を行っていく
ことが望まれる。 |
(ウ) |
医療機関の納入先特定行動 |
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ペースメーカ及びPTCAカテーテルに関しては,従来,信頼関
係等の理由により主として単一の卸売業者による医療機関への納入
が行われてきた状況がみられる。こうした取引関係について,医療
機関,特に国公立の医療機関にあっては可能な限り納入取引先を拡
大する努力が求められるところである。 |
(エ) |
医療機関のブランド別の購買行動 |
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ペースメーカ及びPTCAカテーテルに関しては,これまでブラ
ンド間競争が生じにくい面があった。このため,医療機関側におい
ても,症例に応じて複数の機種の機能及び価格の検討を幅広く行
い,一層の競争機能の活用を図ることが重要であると考えられる。 |
(オ) |
厚生省等における検討 |
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医療サービス所管省庁においても,ブランド別の購買行動ではな
く症例に応じて複数の機種の機能及び価格の検討を行うよう周知す
るなどの競争促進策を検討することが望まれる。 |
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イ |
メーカーの卸売業者の販売価格,販売地域等に対する関与 |
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例えば,仕切率が医療機関別に決められているような状況の下で,
卸売業者に販売先ごとに販売価格を事前に報告させることは,実質的
にメーカーが卸売業者に販売価格の承認を求めることと同じ効果を特
つこととなり,再販売価格の拘束となるおそれがある。このため,
メーカーが卸売業者にあらかじめペースメーカ及びPTCAカテーテ
ルの販売価格を報告させる行為は再販売価格の拘束に該当するおそれ
がある旨,メーカーに対して指摘を行った。
また,一部のメーカーの契約書において取引先医療機関の指定,販
売地域の制限,地域外販売に対する制限等がみられ,また,卸売業者
に対する調査で,メーカーからの指示で既存の卸売業者がいる場合に
は売り込まないこととなっていると回答する者がみられた。このよう
なメーカーによる卸売業者の販売先に対する関与によって卸売業者の
販売価格が維持されるおそれがある場合には独占禁止法違反となるの
で,このような運用をしないようメーカーに対して指摘を行ったとこ
ろであり,今後ともこうした状況を注視し,独占禁止法違反があった
場合には厳正に対処することとする。
また,調査の過程で明らかとなった,一部メーカーと販売業者で締
結されているMRI等の製品に関する契約書のうち,販売業者の販売
価格を指示し得る旨の条項等は,独占禁止法違反に該当するおそれが
あるとして,その是正を求めた。 |
ウ |
MRI入札取引 |
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(ア) |
医療機関の仕様書の作成等 |
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医療機関は,入札に当たって多くのメーカーが応札できるような
仕様書の作成に努めるべきである。 |
(イ) |
厚生省等における入札制度についての検討 |
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医療サービス所管官庁においては,所属医療機関に対し入札仕様
書作成上の注意点の指導に当たるなど,国際入札本来の機能を発揮
させるように努める必要がある。 |
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エ |
特定医療保険材料制度 |
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ペースメーカにおける銘柄別評価制度は価格競争を阻害しているお
それがある。速やかに,機能別評価制度への移行を含めた,競争を促
進するような見直しを検討する必要があると考えられる。 |
オ |
内外価格差 |
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メーカーの卸売業者に対する販売先の制限によってブランド内の競
争が制限されていることにより,メーカーが卸売業者の販売先医療機
関への商権を保証し,医療機関が他の卸売業者から同一メーカーの製
品を購入する誘因を起こさせないようにしているものと考えられる。
また,ペースメーカにおける銘柄別評価制度の下では,医療機関のブ
ランド別購買行動とあいまって価格競争の余地が著しく減少している
ものと考えられる。このようなメーカーの販売戦略は,メーカーの高
額な価格によるペースメーカやPTCAカテーテルの販売を可能に
し,メーカーの粗利益を大きなものにしているものと考えられ,この
ことが内外価格差の一因となっているものと考えられる。 |
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