(1) |
医薬品業界の概要 |
|
ア |
医薬品は,薬局・薬店で販売される一般用医薬品と,医療用に使用
されたり処方せんに基づき薬局で調剤されたりする医療用医薬品に区
分される。平成8年の生産額は,医療用医薬品の5兆1564億円に対
し,一般用医薬品は8778億円である。 |
イ |
医薬品販売業の形態としては,薬局,一般販売業,薬種商,配置販
売業及び特例販売業の5業態がある。薬局は調剤を行うことができる
のに対し,一般販売業と薬種商は調剤を行うことができず,総称して
「薬店」と呼ばれている。平成8年末の店舗数は,5業態合計で9万
8067店,薬局・薬店では7万1509店である。 |
ウ |
薬局の開設や医薬品の販売については,薬事法に基づく都道府県知
事の許可が必要とされており,各業態ごとに構造設備要件,薬剤師の
配置義務等が定められている。また,保険薬局については,健康保険
法に基づく都道府県知事の指定が必要とされており,保険医療機関か
らの独立等が要件として規定されている。 |
|
(2) |
一般用医薬品についての広告親制 |
|
ア |
規制の状況 |
|
薬事法(昭和35年法律第145号)において虚偽又は誇大な広告が禁
止されているほか,厚生省通知である医薬品等適正広告基準(以下
「適正広告基準」という。)等において,遵守すべき事項が規定され
ている。都道府県においては,27の自治体が通知等により独自の広告
規制を行っている。内容は,おおむね適正広告基準を踏まえたもので
あるが,一部に厚生省の規制を超えたものもみられる。
業界団体の規制については,薬局・薬店に対する調査によれば,4
割以上が依然として存在するとしているが,2,3年前に比べると緩
和されたとする者も多い。 |
イ |
規制内容等 |
|
(ア) |
チラシ等広告媒体 |
|
調査対象の薬局・薬店の7割以上がチラシを利用している。表示
方法については,下図のとおりである。

また,チラシを利用しない理由として,自治体,業界団体等から
のクレーム等を考慮したとする回答もみられた。 |
(イ) |
販売価格表示の禁止 |
|
適正広告基準には規制は存在しないが,自粛を指導している都道
府県もみられた。薬局・薬店に対する調査によれば,チラシに販売
価格を表示していない理由としては,業界団体からクレームがある
からとする者が45.9%で最も多く,販売価格表示を行っていない者
のうち,54.5%が支障がなければ表示したいとしている。 |
(ウ) |
二重価格表示の禁止 |
|
適正広告基準の考え方において,二重価格表示は,品位を損なう
ものとして禁止されているほか,21の都道府県が通知等により指導
している。薬局・薬店に対する調査によれば,チラシで二重価格表
示を行わない理由については,保健所等の公的機関からクレームを
受けるからとする者が49.6%で最も多く,二重価格表示を行ってい
ない者の過半数が支障がなければ表示したいとしている。
また,昭和38年及び昭和44年に景品表示法との関係について厚生
省通知が出されているが,その内容は,二重価格表示それ自体が問
題であるとの誤解を招きかねないものである。
注:二重価格表示とは,実際の販売価格にメーカー希望小売価格等
を併記する表示をいう。 |
(エ) |
景品付き販売の規制 |
|
適正広告基準の考え方において,過量消費や乱用助長を促すおそ
れがあるものとして景品付き販売の広告が禁止されているほか,都
道府県においては,景品付き販売自体を禁止している自治体もあ
る。薬局・薬店に対する調査によれば,景品提供を行っていない者
は23.6%であり,その理由については,医薬品は景品提供を行う性
質のものではないからとする者が最も多い。 |
(オ) |
その他の規制 |
|
以上のほか,都道府県の通知等において,廉売表現,つり下げ広
告,値札の大きさ,医薬品以外との同一紙広告等に対する規制がみら
れた。このうち,特定商品の価格等の特記表示やつり下げ広告等に
ついては,本年3月の厚生省通知により直ちに問題とはならないと
され,今後,都道府県においても是正が図られることとなっている。 |
(カ) |
消費者の意識 |
|
消費者モニターに対する調査によれば,6割以上が医薬品の購入
についてチラシを参考にしており,購入先の選択に当たっては,相
談等への対応とともに価格を重視している。医薬品の二重価格表示
については,約半数が特に問題ないとしている。 |
|
|
(3) |
出店規制 |
|
ア |
規制の状況 |
|
薬局・薬店の出店に関しては,現在,大規模小売店舗における小売
業の事業活動の調整に関する法律(昭和48年法律第109号)を除き,
出店規制の根拠法は存在しない。都道府県においては,19の自治体が
構造設備基準等について独自の通知等を制定しており,中には,業界
団体との協議等を規定する自治体もある。
薬局・薬店に対する調査によれば,2割強が依然として業界団体に
よる規制が存在するとしている。 |
イ |
規制内容等 |
|
薬局・薬店に対する調査によれば,出店に際して自治体の許可手
続,業界団体との調整等について約35%が何らかの支障を感じている
としている。 |
|
(ア) |
業界団体との事前協議,加入や承認の要請等 |
|
門前薬局(特定の医療機関に近接する薬局)等について,医薬分
業を適正に推進するためとして,薬剤師会との事前協議等を指導し
ている都道府県も多いが,薬局・薬店に対する調査によれば,薬剤
師会が門前薬局の出店を妨害しているとの指摘もみられた。また,
出店許可に当たって業界団体への加入等を勧めている都道府県も多
い。 |
(イ) |
その他の出店に係る問題 |
|
都道府県の中には,出店許可申請書を業界団体にも置いている自
治体があり,業界団体を通じて申請を行う地域も多数みられた。
また,試験検査設備・器具について,一部を厚生大臣指定の検査
機関の利用で代替することができるが,実質的に薬剤師会の検査セ
ンターに限定される場合が多く,薬剤師会へ加入せざるを得ない等
の指摘があった。 |
|
|
(4) |
保険薬局に係る間題 |
|
ア |
基準薬局制度 |
|
保険薬局に関しては,社団法人日本薬剤師会が制定し,都道府県薬
剤師会が認定する基準薬局制度がある。同制度は,適正な医薬分業の
推進や地域医療の充実等を目的としたものであるが,認定時に広告規
制を課せられたり,安売り広告を理由に認定を拒否されたとの指摘が
みられた。 |
イ |
ファックス分業 |
|
薬剤師会が医療機関に設置したファクシミリにより患者の希望する
薬局に事前に処方せんを送付しておく,いわゆるファックス分業につ
いて,薬剤師会会員や基準薬局でないこと等を理由に参加が制限され
ているとの指摘がみられた。 |
|
(5) |
競争政策上の評価 |
|
ア |
広告規制 |
|
(ア) |
基本的な考え方 |
|
医薬品については,保健衛生や安全性の確保を目的とした規制は
必要であるが,販売価格表示や二重価格表示それ自体の禁止,「特
価」等の表現の規制は行き過ぎである。また,景品付き販売やその
広告についても,それが直ちに過量消費に結び付つくとは考えにく
く,一律に禁止する理由は乏しいと考えられる。 |
(イ) |
厚生省及び都道府県による広告に関する行政指導について |
|
販売価格表示や二重価格表示それ自体の禁止等の行政指導は,こ
れにより薬局・薬店間の競争が制限又は阻害されるおそれがあり,
これを受けて業界団体等が行う自主規制は独占禁止法上問題を生じ
るおそれがある。このため,厚生省に対して適正広告基準の考え方
の見直し等を要請するとともに,見直しの結果を踏まえ,都道府県
に周知するよう要請した。 |
(ウ) |
業界団体による広告の自主規制について |
|
業界団体が広告自体や販売価格表示等を制限することは,独占禁
止法上の問題を生じるおそれがあるため,業界団体に対して考え方
の周知を要請した。 |
|
イ |
出店規制について |
|
(ア) |
基本的な考え方 |
|
薬局・薬店の出店は,保健衛生や安全性の確保の観点、から行われ
る構造設備等の要件を満たす限り自由に行われるべきであり,業界
団体が門前薬局と医療機関との間の距離制限を行ったりしてはなら
ず,また,業界団体が,門前薬局の出店を希望する者と直接に調整
を行う等のやり方も望ましくない。
試験検査設備・器具についての薬剤師会の検査センターや医療用
医薬品の備蓄等については,これが出店規制に用いられてはなら
ず,競争政策の観点からは,業界団体への加入の有無により差が生
じないような仕組みが望ましい。 |
(イ) |
都道府県による出店に関する行政指導について |
|
出店許可や保険薬局の指定に際し,業界団体への加入やその承認
等を求める行政指導は,薬事法の趣旨を超えて新規参入を制限する
ものであり,競争政策上望ましくないため,厚生省に対してこの考
え方を都道府県に周知するよう要請した。 |
(ウ) |
業界団体による出店制限について |
|
業界団体が,加入に際して既存事業者の承認を求めたり,不当に
加入を拒否すること等により,出店や事業活動を制限する場合に
は,独占禁止法上問題を生じるおそれがあるため,業界団体に対し
て考え方の周知を要請した。 |
|
ウ |
基準薬局制度について |
|
基準薬局制度自体は競争政策上問題となるものではないが,制度本
来の趣旨を超えて,例えば広告規制を遵守する薬局のみを基準薬局に
認定したり,ファックス分業の受付薬局リストに認定薬局名のみを記
載したりすること等により,薬局の事業活動を制限する行為は,独占
禁止法上の問題を生じるおそれがあるため,社団法人日本薬剤師会に
対し,運用が透明かつ公正に行われるよう都道府県薬剤師会に周知す
るよう要請した。また,認定基準のうち,値引き販売の制限と受け取
られるおそれがある項目についての見直しを要請した。 |
|