第8章 持株会社の設立等・株式保有・役員兼任・合併・営業譲受け等

第1 概   説

 独占禁止法第4章は,持株会社の設立等の制限(第9条),大規模会社の
株式保有総額の制限(第9条の2),金融会社の株式保有の制限(第11条)
並びに一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び
不公正な取引方法による場合の会社等の株式保有・役員兼任・合併・営業譲
受け等の禁止並びに届出又は報告義務(第10条及び第13条から第16条まで)
を規定している。

第2 持株会社の設立等

 第140回国会において,持株会社の全面的な禁止を改めること等を内容と
する平成9年独占禁止法改正法が可決・成立し,同年12月17日に施行され
た。同法により,持株会社は,持株会社及びその子会社の総資産の額の合計
が3000億円を超える場合には,①毎事業年度終了後3か月以内に持株会社及
び子会社の事業報告書を提出すること(第9条第6項),②持株会社の新設
について設立後30日以内に届け出ること(第9条第7項)が義務付けられて
いる。
 平成9年度において,独占禁止法第9条第6項の規定に基づく持株会社等
の事業報告書の提出及び同条第7項の規定に基づく持株会社の設立の届出
は,いずれもなかった。

第3 株 式 保 有

大規模会社の株式保有
 独占禁止法第9条の2第1項の規定に基づき,大規模会社(金融業以外
で資本金350億円以上又は純資産1400億円以上の株式会社(持株会社たる
株式会社を除く。))は,自己の資本金又は純資産のいずれか多い額を超え
て国内の会社の株式を保有してはならないこととされているが,大規模会
社が,外国会社等と共同出資により設立した会社の株式をあらかじめ当委
員会の認可を受けて保有する場合(同項第7号)又はやむを得ない事情に
より国内の会社の株式をあらかじめ当委員会の承認を受けて保有する場合
(同項第11号)等におけるこれらの株式の保有については,同項の規定が
適用されないこととされている。
  平成9年度において,当委員会が同項第7号の規定により認可したもの
及び同項第11号の規定により承認したものは,いずれもなかった。
会社の株式保有
 独占禁止法第10条第2項の規定に基づき,総資産が20億円を超える国内
の会社(金融業を営む会社を除く。)又は外国会社(金融業を営む会社を
除く。)は,国内の会社の株式を所有する場合には,毎事業年度終了後3
か月以内に当委員会に株式所有報告書を提出しなければならないこととさ
れている。
 平成9年度において,当委員会に提出された会社の株式所有報告書の件
数は8,615件,うち外国会社によるものは584件であった。
 当委員会は,株式所有報告書に基づいて,国内の会社の株式の取得若し
くは所有により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することと
なるか,又は株式の取得若しくは所有が不公正な取引方法によるものであ
るかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,
①株式所有による結合関係の有無,②当事会社の市場占拠率,③当該市場
の競争の状況,④当該市場に関連する市場の状況,⑤その他当該市場にお
ける競争に関する諸事情等を総合的に判断し,処理している。
金融会社の株式保有
 独占禁止法第11条第1項の規定に基づき,金融会社は,国内の会社の株
式をその発行済株式総数の100分の5(保険業を営む会社にあっては,100
分の10)を超えて保有してはならないこととされているが,金融会社があ
らかじめ当委員会の認可を受けた場合には,同項の規定が適用されないこ
ととされている。
 平成9年度において,当委員会が認可した金融会社の株式の保有件数は
72件であった。このうち,同条第1項ただし書の規定に基づくものは67件
(銀行に係るもの59件,保険会社に係るもの4件,外国会社に係るもの4
件),同条第2項の規定に基づくものは5件(銀行に係るもの2件,証券
会社に係るもの2件,保険会社に係るもの1件)であった。
会社以外の者の株式保有
 独占禁止法第14条第2項の規定に基づき,会社以外の者は,国内におい
て相互に競争関係にある2以上の国内の会社の株式をそれぞれその発行済
株式総数の100分の10を超えて所有することとなる場合には,その所有の
日から30日以内に当委員会に株式所有報告書を提出しなければならないこ
ととされている。
 平成9年度において,当委員会に提出された報告書の件数は7件であっ
た。

第4 役 員 兼 任

 独占禁止法第13条第3項の規定に基づき,会社の役員又は従業員は,国内
において競争関係にある国内の会社の役員の地位を兼ねる場合において,い
ずれか一方の会社の総資産が20億円を超えるときはその兼ねることとなった
日から30日以内に当委員会に届け出なければならないこととされている。
 平成9年度において,当委員会に提出された役員兼任届出件数は5,955件
であった。
 当委員会は,役員兼任届出書に基づいて,役員兼任について第3の2の会
社の株式保有の場合とおおむね同様に調査し,処理している。

第5 合併・営業譲受け等

概   要
 独占禁止法第15条第2項又は第16条の規定に基づき,会社が合併,営業
の全部又は重要部分の譲受け等をしようとする場合には,あらかじめ当委
員会に届け出なければならないこととされている。
 平成9年度において,届出を受理した件数は,合併2,174件う 営業譲受
け等1,546件,合計3,720件であった。このうち,合併後の総資産が300億
円以上となる会社の合併(当事会社のいずれかの総資産が100億円未満の
ものを除く。)は48件,行為後の譲受け等会社の総資産が300億円以上であ
る営業譲受け等(当事会社のいずれかの総資産が100億円未満のものを除
く。)は65件である(附属資料5-11表及び5-12表)。
 当委員会は,合併・営業譲受け等の届出があった場合には,当該行為に
より一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は
当該行為が不公正な取引方法によるものであるかについて調査を行ってお
り,前者については,個々のケースごとに,①当事会社の市場占拠率,②
当該市場の競争の状況,③当該市場に関連する市場の状況,④その他当該
市場における競争に関する諸事情等を総合的に判断し,処理している。
 また,合併等により直ちに一定の取引分野における競争を実質的に制限
することとはならない場合であっても,経済事情の変化等によっては競争
政策上の問題が生じ得ると考えられる事案については,当事会社に対し事
業活動の状況を定期的に報告すること等を求めるとともに,当事会社の動
向等を監視することとしている。
 平成9年度に届出を受理したもののうち,独占禁止法第15条第1項(同
法第16条において準用する場合を含む。)の規定に違反するとして,同法
第17条の2第1項の規定に基づき排除措置を採ったものはなかった。
 なお,卸売市場法第32条の規定に基づき,卸売業者がする合併又は営業
譲受けを農林水産大臣が認可するに当たり,当委員会に対して行う協議の
事例はなかった。
 次に平成9年度の合併・営業譲受け等の届出を形態別にみると,合併に
ついては,2,173件が吸収合併,1件が新設合併であった。営業譲受け等
については,1,494件が独占禁止法第16条第1号(営業の譲受け),19件が
同条第2号(営業上の固定資産の譲受け),16件が同条第3号(営業の貸
借),17件が同条第4号(経営の受任)の規定に該当するものであった。
 なお,同条第5号(営業の損益共通契約)の規定に該当するものはな
かった。
合併・営業譲受け等の動向
 合併の届出受理件数は,昭和55年度(961件)から増加傾向を示し,平
成3年度において2,000件を超え,平成7年度には2,520件と過去最高の件
数となったが,その後やや減少している。平成9年度は,2,174件で,過
去第3位の件数であった(第1図)。
 また,営業譲受け等の届出受理件数は,昭和40年度(202件)から増加
傾向を示しており,平成9年度は1,546件と約7倍になり,過去最高の件
数となった(第2図)。
 平成9年度に届出を受理した合併・営業譲受け等を総資産額別,業種
別,形態別,様式別にみると,次のとおりである(第1表,第2表,第3
表。なお,合併・営業譲受け等についての詳細な統計については,附属資
料5-2以下参照。)。
(1) 総資産額別
合   併
 総資産(合併後。以下同じ。)10億円未満の中小規模会社の合併は
934件で,全体の43.0%であった。他方,総資産500億円以上の会社の
合併は87件であった(第1表)。
営業譲受け等
 総資産10億円未満の中小規模会社の営業譲受け等は817件で,全体
の52.8%であった。他方,総資産500億円以上の会社の営業譲受け等
は145件であった(第2表)。
(2) 業 種 別
合   併
 卸・小売業が626件(全体の28.8%),製造業が391件(同18.0%)
と多く,以下,サービス業が388件(同17.8%),不動産業が229件
(同10.5%),建設業が181件(同8.3%),運輸・通信・倉庫業が119
件(同5.5%)と続いている。
 製造業の中では,機械器具製造業が134件,食料品製造業が37件,
化学・石油・石炭工業が35件と多くなっている(第3表)。
営業譲受け等
 卸・小売業が490件(全体の31.7%)と多く,以下,製造業が171件
(同11.1%),サービス業が134件(同8.7%),運輸’通信・倉庫業が
133件(同8.6%)と続いている。
 製造業の中では,機械器具製造業が53件,化学・石油・石炭工業が
33件と多くなっている(第3表)。
(3) 形 態 別
合   併
 合併の形態別件数(消滅会社数でみた件数)は2,644件であり,そ
のうち混合合併が1,247件(全体の47.2%)で最も多く,以下,水平
合併900件(同34.0%),垂直合併377件(同14.3%)と続いている。
営業譲受け等
 営業譲受け等の形態別件数(譲渡等会社数でみた件数)は1,716件
であり,そのうち混合関係が888件(全体の51.7%)で最も多く,以
下,水平関係543件(同31.6%),垂直関係168件(同9.8%)と続いて
いる。
(4) 様 式 別
 合併・営業譲受け等の届出については,「私的独占の禁止及び公正取
引の確保に関する法律第9条から第16条までの規定による認可及び承認
の申請,報告並びに届出等に関する規則」(昭和28年公正取引委員会規
則第1号)により様式等が定められているが,一定の規模以下の案件等
独占禁止法上問題となる可能性が小さいとみられるものについては,簡
易な届出(簡易様式)で足りるとされている。
 平成9年度において簡易様式により届け出られた合併・営業譲受け等
の件数は,合併1,535件(合併の届出受理件数の70.6%),営業譲受け等
942件(営業譲受け等の届出受理件数の60.9%),合計2,477件(全届出
受理件数の66.6%)となっている。また,通常様式により届け出られた
合併・営業譲受け等の件数は,合併639件(合併の届出受理件数の29.4
%),営業譲受け等604件(営業譲受け等の届出受理件数の39.1%),合
計1,243件(全届出受理件数の33.4%)となっている。