第15章 消費者関係業務

第1 概   説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化など,消費者
を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展
に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確
保していくことが重要な課題となっている。
 消費者の適正な商品選択を確保するためには,商品・サービスの品質や内
容が消費者に適切に広告・表示されることが重要である。この点に関し,
「規制緩和推進3か年計画」においては,規制緩和後の市場の公正な競争秩
序を確保するため,「商品・サービスの品質や内容について誤認を与える等
により消費者の適正な選択を妨げる不当表示等に対して厳正・迅速に対処す
る」ことが決定されている。こうしたことから,当委員会は 独占禁止法や
景品表示法を適正に運用することにより,公正かつ自由な競争を促進し,消
費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者モニター制度

概 要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他当委員会
の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼する特
定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報
告その他当委員会の業務に協力を求めるもので,昭和39年度から実施され
ている。
 平成9年度は,関東甲信越地区315名,北海道地区60名,東北地区90
名,中部地区115名,近畿地区170名,中国地区76名,四国地区50名,九州
地区106名,沖縄地区18名,合計1,000名を消費者モニターに選定し委嘱し
た。平成9年度の消費者モニターの応募総数は5,702名,応募倍率は約5.7
倍であった。
 平成9年度においては,2回のアンケート調査を実施し,消費者モニ
ターの意見を聴取した。また,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被
疑事実の報告,意見等を求めたほか,表示連絡会,試買検査会等への代表
者の参加により,一般消費者としての意見を求めた。
活動状況
(1) アンケート調査
平成9年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
新聞購読の勧誘時における景品提供に関する実態調査について
 新聞業における景品規制の見直しの参考とするため,新聞購読の勧
誘,契約の更新及び購読料の集金の際における景品提供の実態につい
て調査を行った。
医薬品の購入意識調査について
 医薬品の小売販売業における規制の状況について把握するため,医
薬品の購入意識について調査を行った。
(2) 自由通信
 消費者モニターは,上記アンケート調査のほか,自由通信という形
で,随時,当委員会に対し自由に意見及び情報を提供している。これ
は,①独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,②景品表示法
に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,
③その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成9年度は合計
3,677件の自由通信が寄せられた(第1表)。
(3) 各種会合等への参加
 当委員会は,景品表示法に基づく公正競争規約の認定に当たり,各方
面の意見を聴取するために開催する公聴会,表示連絡会等において,消
費者モニターに出席を求め,一般消費者の立場からの意見を求めてい
る。また,消費者モニターに対し,都道府県等が実施する試買検査会へ
の出席を求め,一般消費者の立場からの意見を求めている。
 平成9年度は,表示連絡会1件,試買検査会36件の会合に消費者モニ
ターが出席した(第2表)。

第3 消費者取引の適正化

 公正取引委員会は,広告・表示の適正化を図る観点から,以下のとおり調
査を行い,結果を公表した。

PHSに関する表示
 PHS端末機の提供に関する状況について景品表示法上の観点から調査
を行ったところ,広告表示において,PHS電話の新規加入契約の締結に
伴う手数料等の条件について適切に表示されていない例が見受けられた。
このため,PHSの表示の適正化を図る観点から社団法人電気通信事業者
協会に対し,契約事務手数料等PHS電話の加入契約に際して必要な費用
を消費者に対し明瞭に表示することを傘下会員に対して周知するよう要望
した(平成9年6月)。
写真の同時プリント料金の表示
 写真の同時プリント料金(現像料金及びプリント料金)の表示につい
て,同時プリントの際のプリント料金を格安に設定している事業者の中に
はプリント料金のみを強調して表示しているケースが多くみられるが,消
費者が支払うプリント料金と現像料金の合計金額も著しく安くなっている
という印象を消費者に与えるものであり,消費者に対する適正な情報提供
の観点からは,現像料金とプリント料金を別々に表示するか,又は少なく
ともその合計金額を表示することによって,消費者が支払うこととなる費
用を明瞭に表示することが望まれ,また,焼増しプリント料金が同時プリ
ントの1枚目のプリント料金と異なる場合には,その旨が分かるように明
瞭に表示する必要があるとの考え方を公表した(平成9年7月)。
英会話教室における消費者取引の適正化について
(1) 調査の趣旨
 近年,経済の国際化や消費者の海外に対する関心の高まりを背景とし
て,英会話教室に通う消費者が増大し,英会話教室の数も増加している
が,英会話教室というサービス取引には①契約した時点では,将来の成
果を具体的に確認できない,②レッスンを受講してからサービス内容を
具体的に把握できるようになることが多く,提供を受けるサービスの内
容を契約締結前の段階で具体的に十分把握することが困難であるなど,
取引内容に不確実性・不透明性が伴うという特色がある。また,英会話
教室の受講生に占める社会人の割合が高まったことに伴い,有効期間が
定められた一定回数のレッスンの受講料金をあらかじめ消費者が支払
い,英会話教室が設定しているスケジュール表に合わせて,受講生のレ
ベルに合ったクラスで,自己に都合のよい日時を随時予約する予約制を
採用するものが増大している。
 英会話教室の取引に関しては,①受講生の都合のよい日,時間帯を自
由に選べる予約制を採用していると説明されたが,実際には自分のレベ
ルに合ったクラスのある日時は限られており,また,受講生が予約を希
望する時間帯が同じなので,希望する時間に予約が取れない,②中途解
約を申し出たが断られたなどの消費者苦情も多く報告されている。
 以上のような状況を踏まえ,当委員会は,東京,大阪,名古屋に所在
する英会話教室を営む100事業者を対象に,広告・表示の実態につい
て,消費者に対する適切な情報提供等,消費者取引の適正化の観点から
調査・検討を行い,報告書「英会話教室における消費者取引の適正化に
ついて」として取りまとめ,平成10年6月にこれを公表した。
(2) 英会話教室における消費者取引の適正化の観点からの問題点
 報告書で指摘した問題点の概要は次のとおりである。
 消費者に具体的に分かりやすく広告・表示することが適切と考えら
れる事項
 英会話教室の取引内容について,消費者の適正な判断のために広告
パンフレット等において消費者に具体的に分かりやすく広告・表示す
ることが適切と考えられる事項は,受講形態等によって異なるもので
あるが,消費者苦情が多く発生しているとされる,予約制を採用し受
講料金を一括前払いする方式の英会話教室について,広告・表示に当
たり留意することが必要と考えられる主なポイントを検討すると,次
のものが挙げられる。
(ア) 予約制の具体的な内容
 予約制といっても,開校している曜日・時間の中から自由に選択
できるものではなく,消費者が自己のレベル・進ちょく状況に見
合ったレッスンが行われる曜日・時間をスケジュール表をみて選択
する必要があることから,契約締結前の時点で,自己のレベルに見
合ったレッスンがどの曜日・時間に設置されているのかについての
情報が適切に表示されていることが必要であり,開校時間内であれ
ばいつでも予約できるかのような印象を消費者に与える表示を行わ
ないように留意することが適切である。また,予約制の場合,受講
生が予約をするのは一定の時間帯に集中していることが多いので,
英会話教室においては,受講生の予約が集中する時間帯を十分考慮
して必要な数の講師を準備しておくとともに,どの時間帯に予約が
集中しているかといった情報を開示することが適切である。
(イ) 教授方法
 どのような教授方法を採用しており,どのようなチェックを受け
ることによって,上位のレベルに進めるのかが具体的に表示されて
いることが適切である。
 英会話教室の場合,将来の成果が見極めにくいことから,消費者
に対して,契約締結前の時点で,平均的に次のレベルに進むために
必要なしッスン回数はどの程度か等の情報が具体的に提供されるこ
とが適切である。
 また,「同じ授業料で2倍から3倍のスピードで上達」,「効果10
倍」等,自己の英会話教室の教授方法が他の英会話教室に比べて特
に優れている旨を強調して表示するところがみられるが,こうした
表示がどのような根拠に基づいているかについて明瞭に表示するこ
とが適切である。
(ウ) レッスン回数及び有効期限
 レッスン回数・有効期限に応じて異なるレッスン単価を設定して
いる場合には,レッスン回数・有効期限別のレッスン単価及び受講
料金の総額を具体的かつ明瞭に表示することが適切である。
 また,標準的な社会人が1年間に消化できるレッスン回数は50回
から100回の範囲とする英会話教室が多かったにもかかわらず,
「レッスン回数700回,有効期限3年」といった,1年当たり100回
を超える回数を消化しなければならないコースを設定している英会
話教室がみられたが,こうした長期で多量のレッスン回数を設定し
ている英会話教室においては,例えば,「標準的な社会人が1年間
に消化できるレッスン回数は何回程度である」といった点について
適切な情報を具体的に提供することが適切である。
(エ) 中途解約
 中途解約ができるかどうかは明瞭に表示することが適切である。
また,中途解約ができる場合であっても,その条件が特定の場合に
限定されている場合には,当該条件を具体的,明瞭に表示すること
が適切である。
 また,中途解約に係る費用を求める場合には,その旨を明瞭に表
示するとともに,「当校規定に基づいて計算する」といった抽象的
な規定ではなく,消費者が具体的な額を計算できるような形で,解
約費用の額,計算方法等が表示されることが適当である。また,中
途解約に係る費用のモデル例を分かりやすく表示することが望まし
い。
早い段階からの情報提供の必要性
 英会話教室というサービス取引には,取引内容の不確実性・不透明
性という特色があることから,取引を誘引するための広告宣伝活動が
初めて行われる時点,すなわち広告パンフレットの提供等,消費者が
検討を開始する時点から,消費者に対して十分な情報提供が行われ,
また,契約締結までの間に十分な時間的余裕が与えられ,必要な説明
が行われることが適切である。
 したがって,英会話教室においては,広告パンフレットだけではな
く,スケジュール表や価格表,受講申込書,契約書といった関係書類
を消費者が検討段階から容易に入手でき,英会話教室の比較検討が十
分できるようにすることが望ましい。
消費者の適切な選択
 英会話教室の受講生は20代から30代の社会人・学生が多いが,こう
した世代については,短期間のうちに転居,結婚といった生活環境の
変化が起こることも多く,消費者にあっても,英会話教室を選択する
際には,レッスン回数,有効期限に応じて割安に設定されているレッ
スン料だけでなく,自分が週に2回通うことができるか,それを2年
も3年も続けられる見込みがあるか,仮に生活環境の変化があった場
合に中途解約ができるか等を十分確認し,また,当該英会話教室の教
授方法,講師等の内容を十分検討した上で適切な選択を行うことが大
切である。
不当表示として問題になるおそれのある表示
 英会話教室が行う広告表示について,不当表示として問題になるお
それのあるものとしては,例えば,次のようなものがある。
(ア) 英会話教室のサービス内容についての不当表示
 実際には受講できる曜日・時間が限られているにもかかわら
ず,いつでも予約ができるかのような表示
 予約制といっても,開校している曜日・時間の中から消費者が
自由に選択できるものではなく,自己のレベル・進ちょく状況に
見合ったレッスンが行われる曜日・時間をスケジュール表をみて
選択する必要があるにもかかわらず,「お好きな曜日・時間に自
由に受講できる」,「レッスンを受ける時間は全く制限されていな
い自由予約制」などとして,いつでも予約ができるかのような表
示を行う場合には、不当表示として問題となるおそれがある。
 実際には十分な実績がないにもかかわらず,他の英会話教室に
比べて自己の英会話教室の教授方法が優れた実績を有しているか
のような表示
 英会話教室の中には,自己の英会話教室の教授方法について,
「効果は○倍,実績が証明。TOEICで100点アップするために
は○○○時間を要するといわれていますが,わずか××時間でT
OEIC250点アップの実績を誇ります」等,他の英会話教室に
比べて優れた実績を有しているかのような表示をしているところ
があるが,実際にはその根拠となる十分な実績がないにもかかわ
らず,このような表示を行う場合には,不当表示として問題とな
るおそれがある。
 実際にはレベル等によって講師が日本人講師であるにもかかわ
らず,講師がすべてネイティブ講師であるかのような表示
 レベル等によって,講師がネイティブ講師の場合と日本人講師
の場合があるにもかかわらず,講師がすべてネイティブ講師であ
るかのような表示を行う場合には,不当表示として問題となるお
それがある。
(イ) 英会話教室のサービスの価格その他の取引条件についての不当表
 実際には一般の受講生が消化できないようなレッスン数を設定
し,当該レッスンの割安なしッスン単価だけを強調することに
よって,自己の英会話教室のレッスン料金が著しく有利であるか
のような表示
 実際には一般の受講生が消化できないようなレッスン数にもか
かわらず,当該レッスン回数を契約した場合の割安のレッスン単
価だけを強調することによって,自己の英会話教室のレッスン料
金が著しく有利であるかのような表示を行う場合には,不当表示
として問題となるおそれがある。
 実際には,中途解約がほとんどできないにもかかわらず,中途
解約が簡単にできるかのような表示
 パンフレット等において,「中途解約を希望する方は相談の上
応じます」,「申し出のあった事情を聞いた上で可とします」等と
表示し,中途解約の条件が特に設けられておらず,簡単にできる
ような印象を消費者に与えておきながら,実際には,中途解約を
ほとんど認めないような場合には,不当表示として問題となるお
それがある。
 実際には,高額の解約金を徴収するにもかかわらず,中途解約
が簡単にできるかのような表示
 パンフレット等において,中途解約が簡単にできるかのような
表示を行い,解約金が必要であることについて具体的に表示して
いないにもかかわらず,実際には,高額の解約金を徴収し,中途
解約を認めていないことと同様と認められる場合には,不当表示
として問題となるおそれがある。