12 海外競争政策の動き

 当委員会は,海外諸国,特にOECD加盟諸国の競争法制及びその運用状
況について継続的に調査を行っている。以下では,1997年を中心とした米
国,EU,ドイツ,イギリス,フランス及びアジア・大洋州諸国の競争政策
の動きを紹介する。これらは,OECD競争政策委員会に提出された加盟各
国の年次報告等に基づいている。

12-1 米   国
(1) 法制の動き
反トラスト法及び関連法規の改正
 1997年においては,反トラスト法及び関連法規の改正は,特にな
かった。
反トラスト政策及びガイドラインの変更
(ア) 合併審査における効率性に関する合併ガイドラインの改正
 連邦取引委員会(以下「FTC」という。)及び司法省反トラス
ト局(以下「反トラスト局」という。)は,1997年4月,1992年合
併ガイドラインの「第4章 効率性」に関する改正を行った旨公表
した。同改正は,1996年5月にFTCにより公表された「21世紀へ
の展望・グローバル市場における競争政策」と題する事務局報告書
における提言を受けたもので,合併を審査するに当たっての効率性
の取扱いをより明確にしたものである。
(イ) 米・豪反トラスト相互協力協定案の公表
 反トラスト局及びFTCは,1997年4月,1994年国際反トラスト
執行援助法に基づく最初のケースとして,米国政府とオーストラリ
ア政府との間の相互協力協定について原案を公表し,コメントを求
めた。
(ウ) 米・EU積極的礼譲の適用に関する協定の締結
 反トラスト局及びFTCは,1998年6月,1991年米・EU独占禁
止協力協定を補強する積極的礼譲の適用に関する米・EU間協定を
締結した。この協定により,一方の競争当局が他方の競争当局に反
競争的事件の調査を要請する際の詳細が明確にされた。
(2) 法の運用
カルテル,独占行為等の規制
 反トラスト局は1997年会計年度(1996年10月~1997年9月)に362
件の正式審査を開始し,58件の提訴を行った。そのうち38件が刑事事
件である。個人3名に延べ789日の禁錮刑が宣告され,個人及び法人
に対する罰金額の合計は,2億520万ドルであった。
 FTCは,1997会計年度中に89件の審決を行ったが,このうち競争
法関係が24件(合併事件19件を含む。),消費者保護関係が65件であっ
た。
 反トラスト局及びFTCが扱った主な事件は,次のとおりである。
(ア) カルテル関係
 反トラスト局は,1997年9月,オランダの製薬会社2社が,ア
メリカを含む全世界の市場で販売するグルコン酸ナトリウムと呼
ばれる産業用洗浄剤の価格維持及び世界市場シェアの割当てを企
図し,国際カルテルを締結したとして,起訴した。当該2社はい
ずれも有罪を認め,合計約1000万ドルの罰金の支払に合意してい
る。
 反トラスト局は,日本及び米国の電極メーカー2社が,米国及
びその他の地域におけるグラファイト電極の価格維持及び販売数
量の割当てを企図し,国際カルテルを締結したとして,1998年2
月から4月にかけて2回にわたって起訴した。当該2社はいずれ
も有罪を認め,合計1億3900万ドルの罰金の支払に合意してい
る。
 反トラスト局は,ポップ広告ディスプレイ事業者2社及び会社
役員4名が,主にビールメーカーに対し販売している看板,照明
機器などのディスプレイ機器の価格維持,入札談合及び受注の割
当てを行ったとして,起訴した。当該2社及び4名の会社役員は
有罪を認め,罰金約1000万ドルの支払に合意した。このうち会社
役員2名は,13か月の禁錮刑を言い渡された。
(イ) 独占行為関係
 FTCは,米国最大の玩具小売業者が自社の市場支配力を用い
て,玩具メーカーに対し,自社より低い価格で玩具を販売する会
員制廉売業者への販売を制限する旨の同意を強制していたとし
て,審判開始決定していたこの事件について,1997年9月,同社
の行為を違法とする仮決定を行った。
 反トラスト局は,1997年10月,パソコン用基本ソフト(OS)
市場を世界的に支配しているソフトメーカーが,パソコンメー
カーに対し自社の基本ソフトのライセンスを供与する条件とし
て,自社のインターネット閲覧ソフトのライセンスの供与も合わ
せて受け入れて販売するよう強制していることが,当該行為を禁
じた1995年の裁判所命令に違反しており,これが法廷侮辱罪に当
たるとして,同社を提訴した。
 反トラスト局は,1997年4月,欧州委員会に対し,ヨーロッパ
の航空会社らがその予約システムに関し,米国の航空会社を排除
することによりヨーロッパにおける有効な競争を妨げる反競争的
行為を行っている疑いがあるとして,1991年米・EU協力協定に
おける積極的礼譲の規定に基づき,欧州委員会が審査を行うこと
がより適切であるとして審査を行うよう要請していたことを発表
した。
(ウ) 不公正取引関係
 1997年5月,米国の化学薬品メーカーが,指示した価格以上で
農薬を販売することを条件に小売店に多額のリベートを支払う旨
の協定を締結していた事件について,FTCは,当該行為の禁止
等を内容とする同意命令を行った。
合併等企業結合規制
 反トラスト局及びFTCは,1997会計年度に,3,702件の合併等事
前届出を受理した。主な事案は,次のとおりである。
(ア)  FTCは,米国大手オフィス用品販売チェーンであるステイプル
社によるオフィス・ディーポ社の取得について,当該取得が米国内
の多数の大都市におけるオフィス用品の価格競争を減殺するとし
て,予備的差止命令の申立てを行っていたが,1997年6月,連邦地
裁はこれを認める決定を行った。
 なお,取得当事者は,当該取得計画を中止した。
(イ)  FTCは,1997年7月,アメリカの航空機製造業者であるボーイ
ング社とマクダネル・ダグラス社の合併を無条件で承認した(12-
2,(2)イ(イ)参照)。
(3) 規制緩和の動き
 不必要な規制は,米国の競争力を損なうおそれがあり,競争力の強化
のためには反トラスト法の強力な執行による競争の促進が必要であると
の観点から,連邦レベルでは,引き続き,政府による経済的規制の緩
和,適用除外の見直しが進められている。
 1997会計年度においては,反トラスト局は,陸上運輸委員会に対し,
自動車運送における運賃協定の反トラスト法適用除外の廃止を要請し
た。
12-2 E U
(1) 法制の動き
 欧州委員会・EU加盟国間におけるEU競争法違反事件処理協力に
関する告示
 欧州委員会は,1997年10月,EU競争法違反事件処理に関する欧州
委員会と加盟国当局との間の協力関係の在り方に関する告示を官報に
公示した。
 加盟国競争当局の中には,自国競争法のみならずEU競争法の執行
が認められているものがある。同告示は,加盟国当局のリソースと国
内情報の蓄積を活用して効率的な競争法の執行を図る一方,加盟国当
局の法執行活動が欧州委員会による競争法の執行と抵触することを回
避する観点から,欧州委員会と加盟国当局との間の執行活動の調整に
ついての具体的考え方を示している。
 重要性の小さい協定に関する告示の改正
 欧州委員会は,1997年10月,重要性の小さい協定に関する告示(19
86年9月3日付け,1994年数正)の改正を行った。
 同告示は,重要性の小さい当事者間の協定等に対しては,EC条約
第85条(1)の規定に違反しないものとして取り扱うとの趣旨から,その
範囲を定めたものであるが,今回,本告示が適用される事業者に係る
総売上高基準(3億ECU)を撤廃するとともに,本告示が適用され
る協定の範囲に係る改正前の一律5パーセントの市場シェア基準につ
いて水平的協定と垂直的協定の取扱いを区分し,前者について5パー
セントに据え置き,後者について10パーセントに引き上げる等の改正
が行われた。
 関連市場の定義に関する告示
 欧州委員会は,1997年10月,EC条約第85条及び第86条並びに合併
規制規則等の適用に際して欧州委員会が用いる商品又は地理的関連市
場の概念についての指針を与え,もって,同委員会の競争法の執行及
び意思決定についての透明性の向上を目的として,関連市場の定義に
関する告示を公示した。
 制裁金の算定方法に関するガイドラインの公表
 欧州委員会は,1997年12月,同委員会の制裁金決定に係る透明性及
び効率性を高め,欧州委員会の制裁金に関する方針をより一貫性のあ
るものにし,さらには,金銭的制裁による抑止力を強化することを目
的として,制裁金の算定方法に関するガイドラインを公表した。
(2) 法の運用
カルテル,市場支配的地位の濫用等の規制
 欧州委員会は,1997年に,2件について禁止決定を行った。主な事
件は次のとおりである。
 欧州委員会は,1997年5月,アイルランドにおける唯一の製糖業者
に対し,同製糖業者が輸入業者と取引する自己の顧客に選択的に低い
価格を提示するなどにより市場支配的地位を濫用したとして,880万
ECUの制裁金を課した。
合併等企業結合規制
 欧州委員会は,合併規制規則に基づき,1997年に,172件の事前届
出を受理し,146件について決定を行った。内訳は次のとおりであ
る。
[予備審査の結果]
共同体市場と両立する旨の決定       138件
[正式審査の結果]
共同体市場と両立する旨の決定(条件なし)   0件
共同体市場と両立する旨の決定(条件付き)   7件
共同体市場と両立しない旨の決定(禁止等)   1件
 主な事例は,次のとおりである。
(ア)  欧州委員会は,1997年6月,オランダの大手玩具販売会社である
ブロッカーズ社による同年2月のダッチ・トイザラス社の6店舗の
取得について,オランダの玩具販売市場におけるブロッカーズ社の
支配的地位を強化するものであり,共同体市場と両立しないとし
て,当該店舗の第三者への譲渡等を命じる決定を行った。
(イ)  欧州委員会は,1997年7月,アメリカの航空機製造業者である
ボーイング社とマクダネル・ダグラス社の合併について,マクダネ
ル・ダグラス社の民間旅客部門は独立法人として今後10年間存続さ
せるなどの条件付きで承認する決定を行った。
(3) 規制緩和の動き
 EUにおいては,EU域内単一市場の確立のため,政府規制の緩和に
積極的に取り組んでおり,競争政策が適用される分野が拡大している
が,欧州委員会は,EC条約第90条に基づき,加盟各国の公企業が独占
的権利を認められている事業分野への競争法の適用に関し必要がある場
合,委員会指令及び決定を出すことができる。
 電気通信事業については,ほとんどの加盟国において,1998年1月1
日の全面的自由化実施のための法律の整備が行われたが,欧州委員会
は,当該整備が完了していない一部の加盟国について,2000年までの猶
予を認めた。
 また,EU理事会は,1996年末,域内供給電力を段階的に自由化する
ことを目的とした電力産業の市場単一化に関する指令を採択しており,
同指令が1999年に施行される。
 さらに,欧州委員会は,ガス事業の自由化についても提案しており,
理事会での検討が進められている。
12-3 ド イ ツ
(1) 法制の動き
競争制限禁止法第6次改正
 競争原則の全般的強化及びEU競争法との調和を図ることを目的と
して,カルテルの実施を禁止要件としていたカルテルの禁止規定をE
C条約第85条(1)の禁止規定に合わせてカルテルの締結を禁止要件とす
ること,企業結合届出の対象範囲に関する現行の売上高基準の引上
げ,適用除外規定の整理統合などを内容とする競争制限禁止法第6次
改正法案は,1998年5月,連邦参議院において可決され,成立した。
入札談合に対する刑事罰の適用
 入札談合を新たな犯罪として刑法により規制する法改正が行われ,
1997年8月から施行された。これに伴い,競争制限禁止法に係る行政
法違反の時効が5年に延長された。
(2) 法の運用
カルテル等に対する規制
 連邦カルテル庁が,1997年に行った決定の件数は38件であった。そ
のうち制裁金決定は,34件であり,27事業者,17個人に対して,合計
2億8180万マルクの制裁金が課された。
 主な事件は次のとおりである。
(ア)  連邦カルテル庁は,1997年5月から同年8月にかけて,高電圧用
電力ケーブル製造業者15社が同ケーブルの数量割当てカルテルを
行っていたとして,史上最高の総額約2億8000万マルクの制裁金を
課した。
(イ)  連邦カルテル庁は,1997年11月,ベルリン州政府が,道路建設工
事の発注に際して,一定の基準以上の賃金を労働者に支払うことを
約束した企業にのみ受注させていたことは差別的取扱いの禁止規定
に違反するとして,禁止決定を行った。
合併等企業結合規制
 1997年に連邦カルテル庁に届出された企業結合の件数は,1,751件
である。連邦カルテル庁は,1997年に6件の企業結合を禁止した。
 主な事案は,メルリック社によるKMF社の取得に関するものであ
る。連邦カルテル庁は,1997年6月,実験用化学薬品市場におけるメ
ルリック社の市場支配的地位をさらに強化し,他の化学会社による同
市場への新規参入を困難にするものとして,当該取得を禁止する決定
を行った。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 ドイツはかねてから,規制緩和と民営化を推進してきており,電気通
信事業分野においては,1998年1月からのドイツにおける電気通信市場
の自由化に向けて,担当大臣がドイツ・テレコムに対して,同社のネッ
トワークと競争事業者のネットワークとの相互接続を低料金で行うよう
命令した。
12-4 イギリス
(1) 法制の動き
制限的取引慣行法等の改正法案の提出
 貿易産業省は,1997年10月,競争制限的協定の登録制度の廃止と原
則禁止規制の導入,制裁金賦課制度の導入等を内容とする制限的取引
慣行法等の改正法案を国会に提出した。
 今回の改正法案では,市場支配的地位の濫用についても原則禁止規
定を導入するなど,1996年に公表した制限的取引慣行法の改正に関す
る政府方針(グリーンペーパー)をさらに進展させたものとなってい
る。
書籍等に関する再販売価格維持行為の適用除外の廃止
 制限的取引慣行裁判所は,1997年3月,公正取引庁長官からの申立
てを認め,29年間認められてきた書籍及び地図に関する再販売価格維
持行為の適用除外を廃止する旨の判決を行った。これにより,制限的
取引慣行裁判所により再販売価格維持行為の適用除外が認められてい
る商品は,医薬品のみとなったが,公正取引庁長官は,1998年1月,
制限的取引慣行裁判所に対し医薬品の適用除外の廃止の申立てを行っ
た。
(2) 法の連用
制限的協定(カルテル)規制
 公正取引庁は,1997年中に1,375件の協定の届出を受理し,643件の
協定を登録簿に追加した。この結果,総登録件数は1万4119件となっ
た。
(ア)  制限的取引慣行裁判所は,1997年6月,粉末塗料の製造業者9社
による価格の通知及び維持に関する協定並びに上記9社のうち7社
による価格引上げ協定について,各当事者から,これらの協定及び
類似の協定を実施しないとの確約を受け入れた。
(イ)  制限的取引慣行裁判所は,1997年10月,爆風からガラスを保護す
るポリエステルフィルムの供給業者5社の入札談合について,当該
協定及び類似の協定を実施しないとの確約を受け入れた。
再販売価格維持行為に対する規制
 公正取引庁長官は,1997年中に再販売価格法違反に係る58件の申告
を受け付けた。また,公正取引庁は,10件について,販売業者に対し
最低販売価格を強要しない旨の供給業者からの確約を受け入れた。
反競争的行為
 公正取引庁は,1997年に12月,アイスクリーム菓子市場で65パーセ
ントのシェアを有しているアイスクリーム製造業者による供給先との
排他条件付取引が当該商品の卸売市場における競争を制限している懸
念があるとして,本事案を独占・合併委員会に付託した。
独占規制
 公正取引庁は,1997年11月,新株引受証書に関し,その発行手数料
が,入札により決定されることになっているにもかかわらず,高額
で,かつ,過半のものが一定率となっていることから,当該問題につ
いて独占・合併委員会に付託した。
合併等企業結合規制
 公正取引庁は,1997年中に,396件の合併等を審査した。公正取引
庁長官は,7件については,独占・合併委員会に付託するよう貿易産
業大臣に勧告を行い,同大臣は,これ以外の3件を含む10件を同委員
会に付託した。
 独占・合併委員会は,1997年に,12件について報告書を公表し,こ
のうち,7件について,公共の利益に反するとの結論を下している。
その主な事案は次のとおりである。
(ア)  独占・合併委員会は,1997年6月,ビールの醸造業者であるバス・
ブルワリー社とカールスバーグ社との合併について,ビールの卸売
価格及びパブでの小売価格を引き上げるおそれがあり,当該合併が
公共の利益に反するおそれがあるとし,提携先パブの削減等の措置
を採る旨の勧告を貿易産業大臣に行った。同大臣は公正取引庁長官
に対しバス・ブルワリー社から必要な確約を得るよう要請した。
(イ)  独占・合併委員会は,1997年11月,通信販売業者であるリトル・
ウッド社とフリーマンス社の合併により,消費者の選択が狭めら
れ,価格が引き上げられるとして,合併を禁止するよう貿易産業大
臣に勧告した。同大臣は,同勧告を受け,公正取引庁長官に対し,
適切な確約を得るよう要請した。
(3) 規制緩和及び民営化の動き
 イギリスにおいては,近年,バス事業,水道事業,鉄道事業等につい
ての民営化が進められている。民営化が実施される場合には,通常,当
該事業を規制監督する当局が設置されているが,当該事業に係る反競争
的行為については,当該当局は公正取引庁と協力して対処している。
12-5 フランス
(1) 法制の動き
 1997年においては,法改正等はなかった。
(2) 法の運用
反競争的行為等
 競争評議会は,不当な共同行為,市場支配的地位の濫用等の反競争
的行為などに対して,1997年に115件の決定を行った。このうち,制
裁金が課されたものは36件であり,制裁金の合計は1億6440万フラン
スである。
 主な事例は,次のとおりである。
(ア) 競争評議会は,1997年5月,地域の弁護士団体に対し報酬料金表
を作成し,配布したことは不当な共同行為に該当するとして,22万
フランの制裁金を課した。
(イ)  競争評議会は,1997年6月,建築家団体に対し,各種手数料につ
いて,報酬表を導入したことが不当な共同行為に該当するとして,
20万フランの制裁金を課した。
(ウ)  競争評議会は,1997年7月,フランスの電気通信会社及びその子
会社が,競争事業者であるイギリスの電気通信会社を排除するた
め,顧客に対し不当に安いサービスを付した契約条件を示したこと
が市場支配的地位の濫用に該当するとして,フランスの電気通信会
社に2000万フラン,その子会社に1000万フランの制裁金を課した。
合併等企業結合規制
 競争評議会は,1997年に7件の企業結合について,経済担当大臣に
意見書を提出した。
 主な事案は,次のとおりてある。
(ア)  競争評議会は,1997年1月,チョコレート製造販売業者である
カルボー社によるチョコレート原料のカカオの加工業者であるバ
リー・グループの取得について,当該加工業への参入を困難にする
ものであり,当該取得により得られる経済的発展への貢献は,特定
のチョコレート市場における競争についての懸念を解消するには十
分でない旨の意見書を経済担当大臣に提出した。同大臣は,カル
ボー社が構造改革を実行することを条件として,本件取得を承認し
た。
(イ)  競争評議会は1997年1月,エリダニア・ベギン・セイ社によるフ
ランセーズ社の取得について,製糖市場における競争上の懸念はあ
るものの,構造改革を通じてフランス国内の製糖産業の競争力を高
めるために当該取得は必要であるとして,問題ない旨の意見書を経
済担当大臣に提出した。同大臣は,当該取得を承認した。
(3) 規制緩和の動き
 フランスは,規制緩和及び民営化を推進しているが,競争評議会は,
規制緩和について,政府,議会及び産業界から諮問を受けており,これ
に対する答申を行っている。
 1997年においては,電気通信分野における競争上の問題点,エレベー
夕・エスカレータ保守点検の分野における競争の発展等に関する答申を
行った。
12-6 韓   国
 韓国公正取引法は,市場支配的地位の濫用の禁止,企業結合の制限と経
済力集中の抑制,不当な共同行為の禁止,不公正取引行為の禁止等を規定
している。同法の施行機関である公正取引委員会は,違反被疑行為を審査
し,違反を認めた場合には,当該行為の禁止を命じることができるほか,
課徴金を課すことができる。
 1997年ころからの経済危機に対処するため,外資導入の促進,財閥系企
業における構造調整の促進等を目的とし,1998年2月,公正取引法の改正
が行われ,大規模企業集団に属する会社の他の会社に対する出資総額の制
限を廃止すること,大規模企業集団に属する会社の系列会社の債務保証を
禁止することなどの改正が行われた。
12-7 アジア・大洋州諸国
 アジア・大洋州諸国においては,近年の経済のグローバル化,規制緩和
政策の推進の国際的な動きを反映して,新たな経済情勢における公正かつ
自由な競争を促進するため,競争法・競争政策に対する積極的な取組がな
されている。
 オーストラリア,インド,モンゴル,ニュー・ジーランド,パキスタ
ン,スリ・ランカ及びタイのように既に競争法を有している諸国は,本格
的な競争法の導入・現行法の強化改正,運用組織の拡充等,競争政策を確
実に推進している。
 競争法そのものが未整備で,民法,刑法,表示取引法等に競争法的な機
能を委ねているインドネシア,マレイシア,フィリピン及びシンガポール
においては,現在,体系的な競争法の制定・導入が検討されている。
 また,計画経済下にある中国及びヴィエトナムにおいても,市場経済シ
ステムを模索する動きが活発化するとともに,経済政策運営における競争
政策の重要性が理解され,本格的な競争法の制定・導入が検討されてい
る。
 各国の競争法の概要及び競争政策関係の主な動きは,以下のとおりであ
る。
(1) オーストラリア
 オーストラリアの競争法である取引慣行法は1974年に制定されたもの
であるが,1995年に全面的な改正が行われた。この改正により,連邦政
府と州・準州政府の競争法の統一が図られ,同国内のすべての事業者が
同一の競争法規の下に服することとなった。当該改正に併せて,同法の
施行機関である取引慣行委員会の競争・消費者委員会への改組,取引裁
判所の競争裁判所への名称変更,諮問機関である国家競争評議会の設
置,州政府企業(準州を含む。)に対する適用などが盛り込まれたほ
か,適用除外規定の整理,再販売価格維持の禁止対象としてのサービス
の追加等の改正が行われた。
 取引慣行法は,1997年7月からの電気通信事業に対する規制制度の廃
止に伴う改正が行われ,電気通信事業に係る反競争的行為規制及び電気
通信事業へのアクセスに関する規定が盛り込まれた。
(2) インド
 インドの競争法は,1969年独占及び制限的取引慣行法である。同法
は,資源の広範囲な分配と,富と権力が分散した経済体制の確立を基本
方針とし,独占的・制限的取引慣行,不公正な取引慣行を規制してい
る。施行機関である独占・制限的慣行委員会は,被疑事件を調査し,公
共の利益に反する行為が存在する場合,独占的取引慣行については政府
に対して改善を求める答申を提出し,制限的取引慣行と不公正な取引慣
行については当該行為の禁止を命じることができる。このほか,被害者
の申立てにより損害賠償を命じることができる。
(3) モンゴル
 モンゴルは,1992年に新憲法を採択し,市場経済への移行に伴う競争
促進政策の一環として,1993年に不公正競争禁止法を制定・施行した。
同法は,市場原理の下での経済主体の競争を原則として,国の経済活動
に対する監督権限を制限している。具体的には,市場支配的地位を有す
る経済主体による濫用行為を禁止するとともに,同様に経済主体による
競争制限的協定(入札談合など)等を禁止している。施行機関である大
蔵省は,違反被疑行為を調査し,必要な排除措置を命じることができ
る。
(4) ニュー・ジーランド
 ニュー・ジーランドの競争法である商業法は1975年に制定されたもの
であるが,1986年に全面的な改正が行われ,さらに,1996年には,国内
市場に影響を及ぼす海外での合併規制等に関する改正が行われた。同法
は,カルテル,再販売価格維持行為,市場支配的地位の濫用等の制限的
取引慣行,競争制限的な企業結合等を規制している。施行機関である商
務委員会は,違反被疑事件を調査して違反行為が認められた場合,裁判
所に提訴する。裁判所は,違反行為の差止めを命じることができるほ
か,法人に対し最高500万ニュー・ジーランド・ドル,個人に対しては
最高50万ニュー・ジーランド・ドルの過料を科すことができる。
(5) パキスタン
 パキスタンの競争法である1970年に制定された独占及び制限的取引慣
行法は,過度の経済力の集中,不当な独占力及び不当な制限的取引慣行
を規制している。施行機関である独占規制庁は,同法の施行に必要な調
査・情報収集を行い,公共の利益に反する行為が存在する場合には,当
該行為の中止,所有株式の売却など必要な措置を命じることができる。
(6) スリ・ラン力
 スリ・ランカの競争法である1987年に制定された公正取引委員会法
は,独占状態,企業結合及び反競争的行為を規制している。施行機関で
ある公正取引委員会は,調査・情報収集を行い,公共の利益に反する行
為が存在する場合には,当該行為の差止め,契約の修正,所有株式の売
却等必要な措置を命じることができる。
(7) タイ
 タイの競争法である1979年に制定された価格統制及び独占禁止法は,
不公正な価格統制を規制する消費者保護規定と,独占及び制限的取引慣
行による不当利得の排除を目的とした禁止規定等から構成されている。
施行機関である価格統制及び独占禁止委員会は,監視対象商品及び監視
対象事業の指定・公表とそれらに対する監視・監督等の権限を有してい
る。
 なお,タイにおいては,価格統制及び独占禁止法に代わるカルテル規
制,市場支配的地位の濫用規制,合併規制,新しい施行機関の設置を含
む本格的な競争法案が審議されている。
(8) インドネシア
 インドネシアでは,現在,経済諸制度の大改革が行われており,反競
争的行為の禁止,合併規制等を含む本格的な競争法の導入が検討されて
いる。
 なお,インドネシアは,経済政策として公正競争の創出,有害な経済
活動の防止のための措置を採っている。また,競争政策に関係する制度
としては,原産地に関する虚偽表示等が刑法の処罰対象となるほか,計
量法,産業法等による不公正な取引慣行の規制が実施されている。
(9) マレイシア
 マレイシアは,1983年以降,国有企業の民営化と規制緩和を積極的に
推進しており,競争政策を担当する国内取引消費者問題省は不公正な取
引方法や市場構造規制を内容とする競争法の策定を準備中である。ま
た,個別法規によって競争政策上の問題に対処しており,例えば,産業
調整法では,政府が特定産業の競争に有害な影響を及ぼすと予見される
行為を排除できると規定しているほか,取引表示法は不当表示を禁止
し,年割賦購入取引における不公正な取引を規制している。
(10) フィリピン
 フィリピンにおいては,改正刑法により,カルテル,自由競争を制限
する独占及び合法的な通商を阻害する行為を規制している。告発,提
訴,賠償請求等の手続については,独占及び結合に関する法律に規定さ
れている。現在,専門の施行機関はなく,司法省が刑事事件として対処
しているが,関税委員会を組織変更して施行機関とすることが検討され
ている。
(11) シンガポール
 シンガポールには,体系的な競争法はないが,消費者保護法の中に虚
偽表示を規制する規定がある。施行機関は,貿易産業省内の消費者保護
長官である。
(12) 中国
 中国では,社会主義市場経済の導入に伴う施策として,1993年に不当
競争禁止法が制定された。同法は本格的な競争法とはいえないが,国家
工商行政管理局公平交易局を施行機関として,入札談合,不公正取引
(不当廉売,抱き合わせ販売,不当表示等),競争制限的行為(政府機
関による行為を含む。)等,11類型の行為を「不当競争行為」と定め,
禁止している。
(13) ヴィエトナム
 ヴィエトナムは,競争法を有していないが,1986年以降,市場経済の
導入を図っており,国営企業の改革,民間企業の活性化等の施策を実施
している。
 なお,ヴィエトナム政府は,現在,法的・組織的な整備を行うことを
検討している。