第1部 総 論
第1 概 説
1 | 我が国を取り巻く経済環境 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
平成10年度における我が国経済は,バブル後遺症の影響を受けて厳しい 状況が続いた。すなわち,前年における消費や住宅投資の低迷による景気 の悪化に,金融機関の慎重な貸出態度等を背景とする設備投資の減少,ア ジア経済危機の影響による輸出の減少等の要因が加わり,景気後退が一層 深刻なものとなり,失業率も戦後最悪の水準となった。 平成10年4月の総合経済対策をはじめとし,秋口以降は,大手銀行に対 する公的資本増強等の一連の金融システム安定化策や金融緩和,同年11月 の緊急経済対策等の措置が採られ,その政策効果が平成11年に入って本格 化し,景気は下げ止まりの様相を呈している。平成11年6月現在,景気は 民間需要の回復力が弱く,引き続き厳しい状況にあるが,各般の政策効果 に下支えられて下げ止まり,おおむね横ばいで推移している。 このような経済環境の下で,日本経済を自律的な成長軌道に乗せ,雇用 の確保,国民生活の安定を図っていく上で,需要面の対策のみならず,経 済の供給面の体質強化を図ることが必要であり,経済の抜本的な構造改革 を進め,我が国市場を国際的により開かれたものとし,自己責任原則と市 場原理に立つ自由な経済社会を目指すことが喫緊の課題となっている。 |
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2 | 規制緩和の推進と競争政策の積極的展開 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り,国際的にも開かれ,自己責 任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに,行政 の在り方について,いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政 に転換していくことが重要な政策課題となっている。政府は,平成7年度 から平成9年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進すること とし「規制緩和推進計画について」(平成7年3月31日閣議決定)を策定 したが,同計画においても,規制緩和の推進と一体のものとして競争政策 の積極的展開を図ることとした。 その後も,同計画の改定に関する累次の閣議決定,平成10年度から平成 12年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進するために策定さ れた「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)及びそれ を改定した「規制緩和推進3か年計画(改定)」(平成11年3月30日閣議決 定)においても,同様に規制緩和とともに競争政策の積極的展開を図るた めの措置が盛り込まれている。 |
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3 | 平成10年度において講じた施策の概要 | ||||||||||||||||||||||||||||||||
当委員会は,こうした状況を踏まえ,独占禁止法の厳正かつ積極的な運 用により独占禁止法違反行為を排除し,政府規制制度及び独占禁止法適用 除外制度を見直し,経済環境の変化に即応した公正な競争条件の整備を進 めるとともに,経済活動の国際化が進む中,競争政策の国際的展開を図る ことに努めてきた。 平成10年度においては,次のような施策に重点を置いて競争政策の運営 に積極的に取り組んだ。
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第2 業務の大要
業務別に見た平成10年度の業務の大要は,次のとおりである。
1 | 不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,適用除外法の廃止等 を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除 外制度の整理等に関する法律案」が第145回国会に提出され,平成11年6 月15日に可決され,同法は成立し,同年6月23日に公布された(平成11年 7月23日施行)。 なお,不況カルテル及び合理化カルテルについて,平成10年度において 実施されたものはなかった。また,個別法に基づき,主務大臣が当委員会 に協議等を行った上で認可等を行うカルテルの平成10年度末における現存 数は15件である。 |
2 | 著作権法の一部を改正する法律案,行政書士法の一部を改正する法律 案,新事業創出促進法案,食料・農業・農村基本法案等について,関係行 政機関が立案するに当たり,所要の調整を行った。 |
3 | 独占禁止法違反被疑事件として平成10年度中に審査を行った事件は170 件,そのうち同年度内に審査を完了したものは120件であった。また,平 成10年度中に法的措置を採ったものは,独占禁止法第48条の規定に基づく 勧告27件である。これらを行為類型別にみると,私的独占1件,価格カル テル1件,入札談合等17件,その他のカルテル1件,不公正な取引方法6 件,その他1件である。それ以外の事件としては,警告17件,注意62件及 び違反事実が認められなかったため審査を打ち切った事件14件となってお り,法的措置を採ったものと合わせてこれらを行為類型別にみると,私的 独占1件,価格カルテル13件,入札談合等21件,その他のカルテル3件, 不公正な取引方法68件,その他の行為14件となっている。 また,価格カルテル事件及び入札談合事件16件について,計578名に対 し,総額31億5181万円の課徴金の納付を命じた。このうち,延べ2名に対 する課徴金納付命令(課徴金額266万円)については,審判手続が開始さ れたことにより失効した。 平成10年度における審判事件数は,前年度から引き継いだもの10件を含 め,独占禁止法違反審判事件が8件,課徴金納付命令審判事件が27件(う ち22件は同一事案のため手続を併合),景品表示法違反審判事件が1件の 計36件であった。これらのうち,平成10年度中には,2件について審決を 行った。この審決の内訳は,審判審決1件,課徴金納付を命ずる審決1件 である。 |
4 | 独占禁止法の運用の透明性を確保し,違反行為を未然に防止するための 取組として,平成11年1月1日に株式所有報告,合併計画等の届出対象の 大幅縮減を内容とする独占禁止法の一部を改正する法律が施行されること に合わせて,株式保有,合併等の企業結合規制に係る法運用に関し,透明 性を確保し,事業者の予測可能性を高めるため,「株式保有,合併等に係 る『一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合』の 考え方」を平成10年12月に策定・公表した。 また,特許又はノウハウのライセンス契約に関する独占禁止法上の考え 方を一層明確化することが求められている状況にある点を踏まえ,平成11 年2月に「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」 として改正原案を公表した(平成11年7月30日策定・公表)。 さらに,事業者及び事業者団体の活動に関する相談に積極的に応じると ともに,実際に相談のあった事例のうち,他の事業者又は事業者団体の活 動の参考となると思われるものの概要を主要相談事例集として取りまと め,公表した(事業者の活動に関するものは平成11年3月,事業者団体の 活動に関するものは同年6月にそれぞれ公表。また,コンピュータ西暦 2000年問題に関する相談事例について取りまとめ,同年5月に公表。)。 |
5 | 独占禁止法第18条の2の規定に基づく価格の同調的引上げに関する報告 徴収については,平成10年度においては該当するものはなかった。 なお,同規定の市場構造要件に該当する品目を見直し,運用基準別表を 改定した(平成11年7月1日から適用。)。 |
6 | 競争政策の運営に資するため,平成10年度においては,独占的状態調 査,企業集団の実態調査(第6次),保険業に関する実態調査,専門職業 (司法書士・行政書士)の広告規制等に関する実態調査,建設業団体が作 成する価格表に関する実態調査,板ガラスの流通に関する実態調査,LP ガス販売業における取引慣行等に関する実態調査等を行った。 |
7 | 独占禁止法第9条から第16条までの規定に基づく企業結合に関する業務 については,金融会社の株式保有について234件の認可を行い,また,持 株会社及びその子会社の事業について2件の報告を,事業会社の株式所有 状況について7,518件(平成10年改正前の独占禁止法の規定に基づくもの 7,430件,平成10年改正後の独占禁止法の規定に基づくもの88件)の報告 を,競争会社間の役員兼任について447件の届出を,会社の合併・営業譲 受け等について2,690件(平成10年改正前の独占禁止法の規定に基づくも の2,580件,平成10年改正後の独占禁止法の規定に基づくもの110件)の届 出をそれぞれ受理し,これらについて所要の審査を行うとともに,法運用 の透明性を確保するため,平成11年6月,平成10年度における主要な合併 等の事例を取りまとめ,公表した。 |
8 | 独占禁止法第8条の規定に基づく事業者団体の届出件数は,成立届199 件,変更届2,585件,解散届229件であった。 |
9 | 不公正な取引方法に関する業務については,独占禁止法違反行為を未然 に防止するための措置の一環として,事業者等からの相談に積極的に応じ るとともに,適切な指導に努めた。 |
10 | 当委員会は,独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度の充実について 検討するため,「独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度に関する研究 会」(座長 古城 誠 上智大学教授)を開催し,平成10年12月22日,差 止訴訟制度の導入について同研究会から検討結果の中間的報告を得て,こ れを公表した。 |
11 | 下請法に関する業務としては,下請取引の公正化及び下請事業者の利益 保護を図るため,親事業者13,869社及びこれらと取引している下請事業者 70,182社を対象に書面調査を行った。書面調査の結果,下請法違反行為が 認められた1,272件につき,1件については勧告,それ以外については警 告の措置を採った。 また,下請法に規定する「物品の修理委託」に該当する下請取引を行っ ている者が多い自動車販売業者の修理業務に伴う下請取引の実態を把握す るため,親事業者1,736社に対して書面による特別調査を行った。 |
12 | 景品表示法第6条の規定に基づき排除命令を行ったものは8件であり, 警告を行ったものは,景品関係176件及び表示関係277件の計453件であっ た。 都道府県における景品表示関係業務の処理状況は,注意を行ったものが 677件(景品200件,表示477件)であった。 景品提供に関しては,経済社会情勢の変化,各方面からの要望等を踏ま え,景品規制の見直し・明確化を行うための景品規制の一般規定に係る関 係告示及び運用基準を改廃したところ(平成8年2月告示,同年4月施 行。),これに引き続き,その内容に即して,業種別告示・公正競争規約に ついても見直しを行った。 |
13 | 消費者関係業務については,景品表示法の運用業務のほか,消費者に対 する不公正な取引方法の指定に関する業務,消費者モニターに関する業務 等について,消費者利益の確保のために積極的に取り組んだ。 また,消費者取引の適正化を図る観点から,英会話教室の広告・表示及 び引越サービスの取引における広告・表示の実態について調査を行い,そ の結果を公表した。 |
14 | 国際関係の業務としては,各国共通の競争政策上の問題について,韓 国,フランス,イギリス,米国,EUの競争当局との間で二国間意見交換 を行ったほか,OECD(経済協力開発機構),WTO(世界貿易機関), APEC(アジア太平洋経済協力),UNCTAD(国際連合貿易開発会 議)等の国際機関における会議に積極的に参加した。 また,政府は,平成10年10月以降,米国政府との間で競争分野の協力に 関する協定を締結するための交渉を行い,平成11年5月,交渉当事者間に おいて実質合意に至った旨が公表された。 さらに,競争法・競争政策に関する技術協力として,国際協力事業団 (JICA)を通じて,開発途上国・移行経済国の競争当局等の職員を対 象とする技術研修を実施し,要請のあった国に対し専門家を派遣し技術的 指導を行ったほか,韓国その他外国政府が実施するセミナーに講師を派遣 し,積極的に対応した。 |