第2部 各  論

第1章 独占禁止法制の動き

第1 独占禁止法の改正

適用除外整理法
 独占禁止法の改正等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保
に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」(以下,「適用除外
整理法案」という。)は,平成11年6月15日に可決され,同法は成立し,
同月23日に公布(平成11年法律第80号)された(施行は平成11年7月23
日)。同法制定の経緯,国会における審議状況及び同法の内容は,次のと
おりである。
(1) 制定の経緯
 政府は,我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り,国際的に開か
れ,自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会を実現してい
くために,規制緩和とともに,公正かつ自由な競争を一層促進すること
により,我が国市場をより競争的かつ開かれたものとするとの観点か
ら,競争政策の積極的展開を図ることとしている。
 その一環として,事業者の公正かつ自由な競争を制限し,消費者利益
を損なうおそれのある独占禁止法適用除外制度については,平成10年3
月31日に閣議決定された「規制緩和推進3か年計画」において,独占禁
止法の適用除外制度の見直しについての結論が盛り込まれ,立法措置を
要するものについては,平成11年の通常国会に改正法案を提出すること
とされた(適用除外制度見直しの経緯については,第5章第3を参照。)。
 これを受けて,当委員会は,廃止すること等とされた適用除外制度に
関し,廃止等所要の措置を採るため,適用除外整理法案を取りまとめ
た。
(2) 国会における審議状況
 適用除外整理法案は,平成11年2月16日に閣議で決定の上,同日,第
145回国会に提出された。参議院先議とされた同法案は,同院において
は,4月14日に経済産業委員会に付託され,同月15日に同委員会で提案
理由説明を行い,同月20日に同委員会で,同月21日に本会議でそれぞれ
可決され,衆議院に送付された。衆議院においては,同年6月9日に商
工委員会に付託され,同月11日に同委員会で提案理由説明を行い,同月
15日に同委員会及び本会議でいずれも全会一致で可決され,同法は成立
した。
(3) 法律の内容
 主な改正の内容は次のとおりである。
独占禁止法の改正
(ア)  事業法令に基づく正当な行為に係る適用除外規定(第22条)を削
除した。
(イ)  不況カルテル制度(第24条の3)を廃止した。
(ウ)  合理化カルテル制度(第24条の4)を廃止した。
適用除外法の廃止及びこれに伴う措置
(ア)  適用除外法を廃止した。
(イ)  協同組合等の適用除外については,これまで,適用除外法第2条
及び独占禁止法第24条の規定により,重複して適用除外となってい
たが,適用除外法を廃止することにより,独占禁止法第24条の規定
に一本化した。
 また,各組合の根拠法上の関係規定(みなし規定)を整備した。
(ウ)  中小企業等協同組合法(昭和24年法律第181号)に基づく中小企
業団体中央会及び農業協同組合法(昭和22年法律第132号)に基づ
く農業協同組合中央会等は,引き続き適用除外とし,別途措置する
こととした。
(エ)  その他の団体・制度については,適用除外を廃止することとし
た。
(オ)  事業者団体の届出義務(独占禁止法第8条第2項~第4項)につ
いては,引き続き免除とし,別途措置することとした。
個別法の改正
(ア) 海上運送法(昭和24年法律第187号)
海運カルテル(内航)(船舶運航事業者による共同運航協定)
(a)  適用除外の範囲を生活路線維持又は運航日時調整のための共
同運航協定に限定した。
(b)  手続規定を整備し,運輸大臣への届出制から認可制への変
更,公正取引委員会との協議規定の新設等を行った。
海運カルテル(外航)(船舶運航事業者による運賃,航路等に
ついての協定)
 手続規定を整備し,運輸大臣の変更命令,公正取引委員会への
通知規定の新設等を行った。
(イ) 内航海運組合法(昭和32年法律第162号)
内航海運カルテル(内航海運組合が船腹の調整等を行う事業)
 手続規定を整備し,公正取引委員会への通知規定を協議に変更
した。
共同海運事業(内航海運組合が共同保管施設の設置,組合員に
対する事業資金のあっせん等を行う事業)
 適用除外の範囲から中小企業者以外のものが利用する場合を除
くこととした。
(ウ) 航空法(昭和27年法律第231号)
 航空カルテル(国際)(航空事業者が運賃協定その他の運輸に関
する協定を行うカルテル)について手続規定を整備し,公正取引委
員会への通知規定の新設等を行った。
(エ) 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律(昭和32年法律第
164号)
 過度競争防止カルテル(環境衛生同業組合が料金及び営業方法等
について制限するカルテル)について例外的に適用除外とならない
場合として,不公正な取引方法を用いる場合等を加えた。
中央省庁等改革のための国の行政組織関係法律の整備等に関する法律に
よる独占禁止法の改正
 中央省庁等改革のための基本的な理念・方針等を定めた中央省庁等改革
基本法(平成10年法律第103号)において,当委員会は,中央省庁等改革
により新たに設置される総務省の外局とされることとなったが,同法に
のっとって中央省庁等改革を推進するため,内閣法等の改正及び新府省の
設置法の制定等を内容とする中央省庁等改革のための国の行政組織関係法
律の整備等に関する法律案が第145回国会に提出された。同法案は,当委
員会を総務大臣の所轄に属することとする等,中央省庁改革に伴う独占禁
止法の所要の改正を含むものであるところ,平成11年7月8日に可決さ
れ,同法は成立した(平成11年7月16日公布)。
 なお,中央省庁等改革基本法においては,「公正取引委員会について
は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和22年法律第54
号)の厳正な執行を確保することの重要性にかんがみ,その審査体制等の
充実を図ること」(第17条第8号)とされている。

第2 独占禁止法改正に伴う政令の改正

 適用除外整理法第1条の施行に伴い,及び独占禁止法第8条第2項の規定
に基づき,適用除外法第2条に掲げられていた団体のうち事業者団体に該当
するものについて,同施行後も,引き続き,事業者団体届出義務を免除する
等の措置を採ることとした(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法
律施行令及び公正取引委員会事務総局組織令の一部を改正する政令(平成11
年政令第219号。平成11年7月2日公布,平成11年7月23日施行。))。

第3 その他の所管法令の改正

所管法令
 当委員会が所管する法令には,独占禁止法のほか,適用除外法,下請
法,景品表示法及び独占禁止法施行令等の政令がある。また,当委員会
は,独占禁止法第76条の規定に基づき,内部規律,事件処理手続,届出,
認可又は承認の申請その他の事項に関する必要な手続について規則を定め
ることができることとされており,この規定に基づいて公正取引委員会の
審査及び審判に関する規則が定められている。
地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律による景品
表示法の改正
 平成10年5月に閣議決定された「地方分権推進計画」に基づく景品表示
法の改正については,機関委任事務制度の廃止及びそれに伴う事務区分の
再構成,国の関与等の見直しなどを内容とする「地方分権の推進を図るた
めの関係法律の整備等に関する法律案」において行われることとなり,同
法案は第145回国会に提出され,平成11年7月8日可決され,同法は成立
した(平成11年7月16日公布,平成12年4月1日施行(詳細は第13章参
照)。)。
公正取引委員会事務総局組織令の改正
 公正取引委員会事務総局組織令が次のとおり改正された。
(1) 平成10年独占禁止法改正法に係るもの
 公正取引委員会事務総局経済取引局企業結合課の所掌事務のうち,会
社が合併等をしてはならない期間の延長に係る部分の削除等を行った
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正
する政令(平成10年政令第236号)の附則による改正(平成10年6月24
日公布,平成11年1月1日施行。))。
(2) 官房人事課等設置に係るもの
 官房人事課等設置に伴う所要の改正を行った(公正取引委員会事務総
局組織令の一部を改正する政令(平成11年政令第84号。平成11年3月31
日公布,平成11年4月1日施行。))。
(3) 適用除外整理法に係るもの
 公正取引委員会事務総局経済取引局総務課の所掌事務のうち,共同行
為の認可並びにその取消し及び変更に係る部分を削除した(私的独占の
禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令及び公正取引委員会事務総
局組織令の一部を改正する政令(平成11年政令第219号。平成1l年7月
2日公布,平成11年7月23日施行。))。
その他の政令の改正
 公正取引委員会の審判費用等に関する政令(昭和23年政令第332号)の
改正に伴い,当委員会に出頭を命ぜられた参考人及び鑑定人に支払われる
日当額の上限が引き上げられた(平成11年政令第184号。平成11年6月16
日公布,平成11年7月1日施行。))。

第4 独占禁止法と他の経済法令等との調整

法令調整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又
は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制
限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの
場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独
占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成10年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 著作権法の一部改正
 文化庁は,平成8年12月にWIPO(世界知的所有権機関)において
採択されたWIPO著作権条約の批准を図るため,コピープロテクショ
ン等技術的保護手段の回避に係る規制を新設するとともに,映画を除く
著作物等について,複製物等の譲渡に関する権利を認めるための著作権
法改正案を立案した。
 当委員会は,これらの措置の下で,著作物の取引について公正かつ有
効な競争が確保されるよう,所要の調整を行った。
(2) 行政書士法の一部改正
 行政書士の報酬規定については,規制緩和推進3か年計画において,
「行政書士会会則及び日本行政書士会連合会会則に,行政書士の受ける
報酬については記載しないこととする」とされている。自治省は,この
閣議決定に従い,行政書士法の改正を含む「地方分権の推進を図るため
の関係法律の整備等に関する法律案」において報酬規定を行政書士法か
ら削除するとともに,これに代わる代替措置として日本行政書士会連合
会が報酬額に関する情報収集を行うことに関し,独占禁止法上の考え方
について照会を行ってきた。
 これに対し,当委員会は,事業者団体の行う報酬額の収集・公表につ
いてはその在り方によっては独占禁止法上問題となるおそれがあること
から,慎重に検討を行い,収集・公表する情報の内容・方法等を限定す
るなど(過去の事実に関する概括的な情報を客観的に提供する等)の条
件を付した上で,独占禁止法上直ちに問題になるものではない旨回答し
た。
(3) 新事業創出促進法案
 経済活力の低下,雇用情勢の悪化へ対処する必要があることから,通
商産業省は,技術,人材その他の我が国に蓄積された産業資源を活用し
つつ,創業等,新商品の生産若しくは新役務の提供,事業の方式の改善
その他の新たな事業の創出を促進するため,新事業創出促進法案を立案
した。
 本法律案は,個人による創業及び新たに企業を設立して行う事業を直
接支援すること等を目的として,創業等に必要な資金に係る助成,創業
を行おうとする者等を対象とする中小企業信用保険法上の特例措置,分
社化等を支援する事業革新法上の特例措置等を行うことを内容とするも
のである。支援の対象となる事業革新法の特例に基づく共同出資子会社
の設立については,独占禁止法の枠内で行うものとするため,当委員会
は,そのような行為について,独占禁止法上の問題を生じないようにす
るための適切な枠組みを整備する観点から,所要の調整を行った。
(4) 食料・農業・農村基本法案
 平成10年9月の「食料・農業・農村基本問題調査会」の答申におい
て,戦後の農政を形作ってきた制度の全般にわたる抜本的な見直し,国
民全体の視点に立った食料・農業・農村政策の再構築を行う観点から,
昭和36年に制定された農業基本法に代わる新たな基本法を制定すること
が提言された。農林水産省では,この提言を具体化するために,食料・
農業・農村基本法案を立案した。
 本法律案は,食料の安定供給の確保と農業・農村の有する多面的機能
の発揮が農業・農村に期待される役割であることを明確にするととも
に,その基盤をなす我が国農業の持続的発展と農村の振興を政策の基本
理念として位置付けている。また,政策についての基本的な方針,食料
自給率の目標等を内容とする食料・農業・農村基本計画を平成11年度中
に策定するなど,新基本法に基づく施策の具体化の着実な推進を図るこ
ととしている。当委員会は,今後,同基本法に基づいて探られることと
なる措置の策定・実施については,独占禁止法の枠内で行われるべきと
の観点から,所要の調整を行った。
行政調整
 当委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等に
ついて,独占禁止法及び競争政策上の問題が生じないよう,当該行政機関
と調整を行うこととしている。
 平成10年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 日本電信電話株式会社の再編成に関する実施計画について
 平成9年の日本電信電話株式会社法の改正により,日本電信電話株式
会社(以下「NTT」という。)は,持株会社の下に東・西地域会社及
び長距離会社に再編成されることとなったところ,NTTから地域会社
及び長距離会社に事業を承継させるに際しては,郵政大臣が定めた再編
成に関する「基本方針」に基づきNTTが「実施計画」を作成し,郵政
大臣がこれを認可することとされている。
 当委員会は,郵政省による「実施計画」の認可に際し,実効的な競争
条件確保措置が設定され,電気通信分野における公正かつ自由な競争が
促進されるべきであるとの観点から,郵政省に対し,その旨を申し入れ
た。
(2) 内航海運業における船腹調整事業の解消に関する調整
 内航海運業における船腹調整事業は,内航海運組合法に基づく内航海
運カルテルとして,昭和42年から長期間にわたり実施されてきた。
 船腹調整事業については,新規参入や事業規模の拡大が制限されるた
め,内航海運実の活性化が妨げられ,また,事業者の集約が進まず内航
海運業の体質強化が図られないとの弊害が指摘されていた。このため,
当委員会は,運輸省に対して,船腹調整事業を早期に解消することを求
めてきた。
 平成10年5月に,日本内航海運組合総連合会は,船腹調整事業を解消
し,代わりに,転廃業者の引当資格に対して交付金の交付等を行う内航
海運暫定措置事業を導入することとし,運輸省は内航海運組合法に基づ
きこれに対する認可を行った。
(3) その他
 このほか,地方公共団体の公共入札における銘柄指定,地方公共団体
による狂犬病予防に関する注射料金の設定等の事案について,独占禁止
法及び競争政策の観点から所要の調整を行った。