| (1) | 
            差止訴訟制度の検討の意義 | 
          
          
             | 
             差止訴訟制度の導入については,自己責任原則と市場原理に立つ経済 
            構造改革の推進,独占禁止法違反行為による私人の被害に対する救済手 
            段の充実の必要性及び同法違反行為に対する民事面からの抑止的効果の 
            強化という観点から意義がある。 | 
          
          
            | (2) | 
            独占禁止法違反行為に対する私人の差止請求権の導入についての理論 
            的検討 | 
          
          
             | 
             民事法との関係については,独占禁止法違反行為が私益を侵害する場 
            合があることは現行法においても想定されていることを踏まえ,同法違 
            反行為に対する私人の差止請求権(以下,単に「私人の差止請求権」と 
            いう。)を同法違反行為による私人の被害に対する民事的救済手段とし 
            て構成することが適当であると考えられる。また,独占禁止法違反行為 
            は,侵害行為が継続し,損害の発生が継続する場合が多いという特徴を 
            有するので,損害賠償(金銭賠償)のみでは救済として不十分な場合が 
            あり,特に差止めによる救済の必要性が認められることにかんがみ,被 
            害の救済として必要な範囲で差止めが認められるとすることが適当であ 
            ると考えられる。 
             また,独占禁止法との関係については,同法は,市場経済における企 
            業活動の基本ルールを定めたものであり,複雑多岐で,かつ,変化し続 
            ける経済現象の中での同法の運用は,中立性,継続的一貫性,専門性を 
            もって適切に行われることが必要であることから,差止訴訟制度を導入 
            するに当たっては,私人の差止請求権の要件,差止めの対象となる行為 
            類型,公正取引委員会と裁判所との関係等を検討するに際し,上記の趣 
            旨が損なわれないよう考慮する必要がある。 | 
          
          
            | (3) | 
            私人の差止請求権の内客 | 
          
          
             | 
            
            
              
                
                  | ア | 
                  私人の差止請求権の要件 | 
                 
                
                   | 
                  
                  
                    
                      
                        | (ア) | 
                         訴権者については,基本的には独占禁止法違反行為による被害者 
                        が訴権者となるものと考えられる。 | 
                       
                      
                        | (イ) | 
                         他の救済手段との関係については,一般に,差止めを認容するに 
                        は,損害賠償を認容する場合よりも高度の違法性を要すると解され 
                        ており,差止訴訟制度を導入するに当たっても同様に考えられる 
                        が,どういう場合が該当すると考えるべきかは,独占禁止法違反行 
                        為が公益を侵害するものである点を踏まえて判断する必要がある。 
                         また,金銭賠償に加えて差止めによる救済が必要と認められる場 
                        合として,独占禁止法違反行為によって回復し難い損害が生じる場 
                        合が考えられるが,このほかにどのような場合に必要と認められる 
                        かという問題がある。 | 
                       
                      
                        | (ウ) | 
                         損害の発生との関係については,現在損害が生じていないが,近 
                        い将来において差止めによる救済が必要な損害が生じる蓋然性があ 
                        る場合についても,差止めを認めることが適当であると考えられ 
                        る。 | 
                       
                    
                   
                   | 
                 
                
                  | イ | 
                  差止めの内容 | 
                 
                
                   | 
                  
                  
                    
                      
                        | (ア) | 
                         差止めの範囲については,個々の私人の被害の救済に必要な範囲 
                        とすることが適当であると考えられる(事実上,他の者にも差止め 
                        の効果が及ぶことはあり得る。)。 | 
                       
                      
                        | (イ) | 
                         独占禁止法違反行為に対する私人の差止めの内容は,現在行われ 
                        ている侵害行為の将来に向かっての取りやめが原則となるが,差止 
                        めによる救済を有効なものとするために必要な措置を命じることも 
                        認められるとすることが適当であると考えられる。 | 
                       
                      
                        | (ウ) | 
                         差止めの内容については, 
                        
                          
                            
                              | a | 
                               被告が判決の内容を履行することができる程度に内容が特定さ 
                              れているか, | 
                             
                            
                              | b | 
                               判決に従っているか否かを明確に判断することができるか, | 
                             
                            
                              | c | 
                               被告に強制することが不可能な内心的なものではないか | 
                             
                          
                         
                        との観点からみて,判決の内容を強制執行することができるもので 
                        あることが必要である。 
                         また,被告に経済状況の変化に対応することができないような硬 
                        直的な事業活動を強いることになり,又は市場における競争に悪影 
                        響が及ぶこととなるような内容の差止めは,不適当であると考えら 
                        れる。 | 
                       
                    
                   
                   | 
                 
                
                  | ウ | 
                  対象とすることが適当な行為類型 | 
                 
                
                   | 
                  
                  
                    
                      
                        | (ア) | 
                        私人による差止めの対象とする行為類型については,差止訴訟制 
                        度を被害者の救済として有効かつ適切なものとする観点から, 
                        
                          
                            
                              | a | 
                              差止めによる救済を必要とする行為類型であるか, | 
                             
                            
                              | b | 
                              救済として有効な差止めを命じられるか, | 
                             
                            
                              | c | 
                              独占禁止法の運用機関として法律又は経済に関する学識経験を 
                              有する者による合議制の行政機関を設けた同法の趣旨との関係, | 
                             
                            
                              | d | 
                              差止めが当事者以外の者に与える影響 | 
                             
                          
                         
                        等の点を踏まえて検討することが適当であると考えられる。 | 
                       
                      
                        | (イ) | 
                         不公正な取引方法は,基本的に私人による差止めの対象とするこ 
                        とが適当な行為類型であると考えられる。 
                         私的独占,不当な取引制限及び事業者団体の禁止行為について 
                        は,私人による差止めの対象とすることが適当であるとの考え方 
                        と,競争の実質的制限が要件となっているものについては,公益に 
                        対する侵害の排除という面を重視し,公正取引委員会にゆだねるこ 
                        とが適当であるとの考え方がある。これらを私人による差止めの対 
                        象とするかどうかについては,差止めの有効性,独占禁止法第25条 
                        の規定による無過失損害賠償請求訴訟との整合性等について,更に 
                        検討した上で決められるべきと考えられる。 
                         独占禁止法第4章の規定による企業結合規制は,競争的な市場構 
                        造を維持することを目的とするものであり,競争の実質的制限が生 
                        じていなくても,それが容易に現出し得る状況がもたらされる場合 
                        に企業結合を禁止するというものであるため,同法に違反する企業 
                        結合が直ちに私人に被害をもたらすものとはいい難い。さらに,企 
                        業結合については,結合関係の全部又は一部の解消を求める差止め 
                        を当該被害の救済に必要な範囲に限ることは困難であり,また,結 
                        合関係の解消が第三者との間の契約関係等にも大きな影響を与える 
                        ことになる場合もある。このため,私人の被害の救済の方法として 
                        差止めが適当かという問題があるほか,民事面からの抑止的効果を 
                        強化する必要性も低いといえる。 
                         したがって,企業結合については,私人による差止めの対象とす 
                        ることは適当とはいい難いと考えられる。 | 
                       
                    
                   
                   | 
                 
              
             
             | 
          
          
            | (4) | 
            差止訴訟制度に係る論点 | 
          
          
             | 
            
            
              
                
                  | ア | 
                  裁判所と公正取引委員会との関係 | 
                 
                
                   | 
                  
                  
                    
                      
                        | (ア) | 
                         独占禁止法違反行為に対する私人の差止請求訴訟(以下,単に 
                        「差止請求訴訟」という。)において,例えば,裁判所が,差止請 
                        求の対象となっている行為が同法に違反するかどうかを判断するに 
                        当たって,公正取引委員会に意見を述べる機会を与えることができ 
                        るようにするなど,何らかの規定を置くことを検討することが適当 
                        であると考えられる。 | 
                       
                      
                        | (イ) | 
                         公正取引委員会が私人が差止めを求めた行為について近い将来法 
                        的判断を行うことが見込まれる場合に,差止請求訴訟の手続の進行 
                        を停止することができるような制度を設けることも考えられるが, 
                        公正取引委員会の独占禁止法違反彼疑事件の調査実務との関係も考 
                        慮の上,その要否について更に検討することが適当と考えられる。 | 
                       
                    
                   
                   | 
                 
                
                  | イ | 
                  裁判管轄 | 
                 
                
                   | 
                   差止請求訴訟の裁判管轄については,民事訴訟法の原則によること 
                  を基本としつつ,独占禁止法違反行為に係る損害賠償請求訴訟の裁判 
                  管轄の在り方と併せて検討することが適当であると考えられる。 | 
                 
                
                  | ウ | 
                  差止請求訴訟の濫用防止のための方策 | 
                 
                
                   | 
                   差止めによる救済を真に必要とする被害者による差止請求訴訟の堤 
                  起を抑制することとならないよう留意しつつ,更に検討することが必 
                  要であると考えられる。 | 
                 
                
                  | エ | 
                  いわゆる団体訴訟 | 
                 
                
                   | 
                   一定の団体に,他の私人の被害を救済するために,独占禁止法違反 
                  行為に対する差止請求権を認めることは,将来の議題とすることが適 
                  当であると考えられる。 | 
                 
              
             
             | 
          
          
            | (5) | 
            まとめ | 
          
          
             | 
             独占禁止法違反行為による私人の被害の救済手段を充実し,同法違反 
            行為に対する抑止的効果も上げるという観点から,差止訴訟制度を導入 
            することが適当であると考えられるが,差止訴訟制度が有効・適切に機 
            能するためには,私人の差止請求権の要件,裁判管轄等について,より 
            具体的に検討する必要があり,また,損害賠償訴訟制度の充実のための 
            検討と併せ,制度設計をしていくことが必要である。 
             この点も踏まえ,当研究会は,引き続き,差止訴訟制度に係る論点も 
            含め,損害賠償訴訟制度の充実方策について検討していくこととしてい 
            る。 |