第4章 法運用の透明性の確保と独占禁止法違反行為の未然防止

第1 概 説

 独占禁止法違反行為の未然防止を図るとともに,独占禁止法の運用を効果
的なものとするためには,独占禁止法の目的,規制内容及び運用の方針が国
内外における事業者や消費者に十分理解され,それが深められていくことが
不可欠である。このような観点から,当委員会は,各種の広報活動を行うと
ともに,事業者及び事業者団体の独占禁止法違反行為を具体的に明らかにし
た各種のガイドライン(「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平
成3年7月。以下「流通・取引慣行ガイドライン」という。),「共同研究開
発に関する独占禁止法上の指針」(平成5年4月),「公共的な入札に係る事
業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成6年7月),
「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(平成7年10月。以下「事
業者団体ガイドライン」という。)等)を策定・公表し,それに基づいて,
個々の具体的なケースについて事業者等からの相談に応じている。
 平成10年度においては,「株式保有,合併等に係る『一定の取引分野にお
ける競争を実質的に制限することとなる場合』の考え方」を策定・公表し,
法連用の透明性の確保を図っている。
 当委員会は,事業者及び事業者団体による独占禁止法違反行為を未然に防
止するため,上記ガイドラインに基づき,事業者及び事業者団体が行おうと
する具体的な事業活動が独占禁止法上問題がないかどうかについて,個別の
相談に応じるほか,他の事業者又は事業者団体の活動の参考に資すると考え
られるものについてはそれらの事例を主要相談事例集として取りまとめ,公
表している。特に,合併等に係る事前相談については,他の事業者の活動の
参考に資すると考えられるものについて,個別にその都度,その内容を公表
している。
 また,事業者における独占禁止法遵守のための取組,すなわち独占禁止法
遵守プログラムの必要性・重要性について,普及・啓発に努めるとともに,
独占禁止法遵守プログラムに関する事業者からの相談に応じるとともに,資
料提供等の要望についても適切に対処するなど事業者の自主的な取組に対し
て支援・助力を行ってきている。
 当委員会のこのような取組は,規制緩和推進3か年計画(改定)(以下
「改定3か年計画」という。)において盛り込まれるとともに,日米規制緩
和対話において平成11年5月にまとめられた第2回共同現状報告では,当委
員会が,事業者の自主的な取組に対する支援の一環として,財団法人公正取
引協会が現行の「独占禁止法コンプライアンス・プログラムの手引き」を更
に充実させたモデル的な独占禁止法遵守プログラムを策定することについ
て,支援する旨が示されている。
 なお,当委員会は,企業における独占禁止法遵守の状況の把握を目的とし
た調査を行っており,平成10年6月に公表した調査では,事業者における独
占禁止法遵守のための取組に対する意識は基本的に高く,取細内容について
も,平成5年度調査の時よりも強化され,充実していることが認められた。

第2 株式保有,合併等に係る「一定の取引分野における競争を実 質的に制限することとなる場合」の考え方

趣旨
 独占禁止法第4章の規定では,株式保有,合併等の企業結合について,
一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公
正な取引方法による場合を禁止している。
 当委員会は,これまで企業結合について,重点的に審査する案件の選別
基準及び審査するに当たっての考慮事項を「会社の株式所有の審査に関す
る事務処理基準」(昭和56年9月11日公正取引委員会事務局),「会社の合
併等の審査に関する事務処理基準」(昭和55年7月15日公正取引委員会事
務局)及び「小売業における合併等の審査に関する考え方」(昭和56年7
月24日公正取引委員会事務局)として明らかにしてきたところである。
 当委員会は,平成11年1月1日に改正独占禁止法が施行され,株式所有
報告,合併計画等の届出対象が大幅に縮減されることに合わせて,上記の
事務処理基準を廃止し,株式保有,合併等の企業結合規制に係る法運用に
関し,透明性を確保し,事業者の予測可能性を高めるため,「株式保有,
合併等に係る『一定の取引分野における競争を実質的に制限することとな
る場合』の考え方」(平成10年12月21日公正取引委員会)(以下「企業結合
ガイドライン」という。)を新たに策定・公表した。
企業結合ガイドラインの概要
(1) 競争への影響をみるべき企業結合
 競争への影響をみるべき企業結合かどうかについては,各行為類型ご
とに判断する。
競争への影響をみるべき企業結合の事例
・ 会社の株式保有で,株式所有比率が50%を超える場合
・ 役員兼任で,兼任する役員が双方の会社の代表権を有する場合
・ 合併及び営業譲受け等(イに該当する場合を除く。)
原則として競争への影響をみるべき企業結合に該当しない事例
・ 株式所有比率が10%以下で,役員の兼任がない場合
・ 親子会社間,兄弟会社間の合併・営業譲受け等の場合
(2) 「一定の取引分野」の画定の考え方
 (1)において結合関係が形成・維持・強化されると判断されたすべての
会社(以下「当事会社グループ」という。)の事業活動の及ぶ市場を,
商品又は役務,取引の地域(地理的範囲),取引段階,特定の取引の相
手方等の観点から画定する。
(3) 競争を実質的に制限することとなる場合
考え方
 「競争を実質的に制限することとなる」場合とは,企業結合により
市場構造が非競争的に変化して,当事会社が単独で又は他の会社と協
調的行動をとることによって,ある程度自由に価格,品質,数量,そ
の他各般の条件を左右することができる状態が容易に現出し得る場合
をいう。
具体的判断要素
 (2)において画定されたそれぞれの「一定の取引分野」ごとに,当事
会社の地位(市場シェア,順位,当事会社間の従来の競争の状況
等),市場の状況(競争者の数及び集中度,参入,輸入,取引関係に
基づく閉鎖性・排他性),総合的事業能力,隣接市場からの競争圧
力,効率性等を総合的に勘案して,当該企業結合が競争を実質的に制
限することとなるか否かを判断する。
(4) 事前相談
 具体的な企業結合の計画について,事業者から独占禁止法上の問題の
有無について相談があった場合には,企業結合ガイドラインに基づき回
答することとする。

第3 特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針

 当委員会は,技術取引の代表的なものである特許又はノウハウのライセン
ス契約について,平成元年2月,「特許・ノウハウライセンス契約における
不公正な取引方法の規制に関する運用基準」を公表し,特許又はノウハウの
ライセンス契約における不公正な取引方法に関する基準として示すととも
に,当委員会に対して届け出られた国際的契約の審査の基準としてきたとこ
ろである。しかし,国際的契約の届出制度について,平成9年6月以降届出
制度が廃止されたこと,近年,不公正な取引方法以外の知的財産権に関する
独占禁止法の運用事例も増加してきていること,また,米国や欧州連合(E
U)においてもガイドラインや規則の改正により特許等と競争法との関係に
ついての考え方の明確化が図られたこともあり,特許又はノウハウのライセ
ンス契約に関する独占禁止法上の考え方を一層明確化することが求められて
いる状況にある。
 このような状況を踏まえ,当委員会は,平成元年の運用基準について,独
占禁止法第3条(私的独占・不当な取引制限の禁止)や第23条(無体財産権
の行使行為の適用除外)に関する考え方を新たに追加する等の見直し作業を
行い,平成11年2月22日,「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁
止法上の指針」として改正原案を公表した(平成11年7月30日策定・公
表)。

第4 事業活動に関する相談状況

概要
 当委員会は,従来から,独占禁止法違反行為の未然防止を図るため,事
業者及び事業者団体が実施しようとする具体的な活動が,独占禁止法の不
当な取引制限,不公正な取引方法,事業者団体の禁止行為等の規定に照ら
して問題がないかどうかについて,事業者及び事業者団体からの電話・来
庁等による相談に積極的に応じてきている。
事業者団体の活動に関する相談の概要
(1)  平成10年度において,事業者団体の活動に関して受け付けた相談件数
は642件であるが,その多くは中小企業団体からのものである。また,
これらの相談に対しては,事業者団体及び業界の実情を十分に参酌して
相談に対応しており,実施しようとする活動について独占禁止法上問題
がある場合には,問題点を解消するための指導を行うとともに,独占禁
止法の考え方について理解が深まるよう説明を行っている。
(2)  事業者団体の独占禁止法に対する理解を一層深めるため,平成10年度
に受け付けた相談のうち,他の事業者団体にも参考になると思われる相
談の概要を主要相談事例集として取りまとめ,平成11年6月に公表し
た。
 主なものは,以下のとおりである。
 コンピュータ西暦2000年間題(以下「2000年間題」という。)につ
いて,事業者団体として情報交換を実施することや,共同して問題に
対処することなどに関する相談
 資源リサイクル対策,廃棄物の適正処理のための対策,処理費用の
確保に関して,事業者団体として処理体制を整備し,あるいは,費用
転嫁を決定することなどに関する相談
 金融分野の規制緩和に際して,事業者団体として規制緩和に対応す
るに当たり,情報交換や一定の自主基準を設定すること等に関する相
 電子商取引の適正化を図るため,事業者団体として自主認定制度を
導入することに関する相談
事業者の活動に関する相談の概要
(1)  事業者の活動に関する相談の内容は,独占禁止法の各種ガイドライン
において解釈基準が示されている行為類型から,ガイドラインの対象と
なっていない分野に係るものまで様々である。事業者が実施しようとす
る活動について独占禁止法上問題がある場合には,問題点を解消するた
めの指導を行うとともに,独占禁止法の考え方について理解が深まるよ
う説明を行っている。
(2)  事業者の活動に関する相談についても,事業者の適切な活動の実施に
資するよう,事業者団体の場合と同様に主要相談事例を公表することと
し,平成9年度に初めて公表したのに引き続き,平成10年度においても
「事業者の活動に関する相談事例集」(平成11年3月)を公表した。
 掲載した事例を相談の内容別に整理すると,流通取引に関するもの11
件,技術取引に関するもの4件,共同研究開発に関するもの4件,業務
提携に関するもの5件の合計24件となっている。
2000年間題に関する相談事例の公表
(1)  2000年間題については,事業者間又は事業者団体を通じて,技術情報
の交換等が活発化されることが予想されたことから,平成10年9月,
「いわゆる2000年間題と独占禁止法との関係について」により,2000年
間題に対する事業者及び事業者団体の対応について,独占禁止法上の考
え方を明らかにしており,2000年問題に対する個別具体的な取組におけ
る独占禁止法上の問題の有無について,相談に応じる旨を明らかにして
いる。
(2)  事業者又は事業者団体の2000年間題についての今後の取組の参考のた
めに,2000年問題への対応策と独占禁止法との関係について,当委員会
がこれまでに受けた主要な相談事例を取りまとめて,平成11年5月に公
表した。
独占禁止法相談ネットワークの実施
(1)  近年の規制緩和の進展により,独占禁止法等に対する関心が高まって
きており,特に中小事業者及び事業者団体(以下「中小事業者等」とい
う。)からは独占禁止法等について,より容易・身近に相談できる体制
を整備してほしいという要望が寄せられるなど,一層の相談業務の充実
が求められている。そのため,当委員会では,新たに中小事業者等から
の相談体制の強化を図るため,全国約3,300か所の商工会議所及び商工
会において,独占禁止法相談窓口を設置し,全国の中小事業者等が独占
禁止法に係る苦情・相談をより容易にできるようにするとともに,これ
ら全国の商工会議所及び商工会に寄せられた苦情・相談を公正取引委員
会に連絡し,公正取引委員会において迅速かつ的確な処理に資するため
のネットワークを構築することとした。
(2)  ネットワークの構築においては,中小事業者等からの独占禁止法に関
する相談に適切に対処することができるように,商工会議所及び商工会
との協力の下,全国の商工会議所及び商工会が有する中小事業者等に対
する相談窓口を活用し,独占禁止法等の相談も受け付けることにより,
中小事業者等が,独占禁止法等について,より容易・身近に相談できる
体制を採ることとした。
 また,商工会議所及び商工会において相談業務に従事する経営指導員
に対し,独占禁止法等の理解を深められるよう,商工会議所及び商工会
に講師を派遣し,独占禁止法等に関する研修を行っている。

第5 入札談合への取組

 当委員会は,従来から積極的に入札談合の摘発に努めているほか,平成6
年7月に「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁
止法上の指針」を公表し,入札に係るどのような行為が独占禁止法上問題と
なるかについて具体例を挙げながら明らにすることによって入札談合防止
の徹底を図っている。
 また,入札談合の未然防止を徹底するためには,発注者側の取組が極めて
重要であるとの観点から,独占禁止法違反の可能性のある行為に関し,発注
官庁から当委員会に対し情報が円滑に提供されるよう発注官庁において,公
共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官として各省庁の会計課長等が
指名されている。
 当委員会は,連絡担当官との連絡・協力体制を一層緊密なものとするた
め,平成5年度以降,「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会
議」を開催しており,平成10年度においては,国の本省庁等の連絡担当官会
議を9月29日に開催するとともに,国の地方支分部局等の連絡担当官会議を
全国9か所で開催した。
 さらに,当委員会は,平成6年度以降,中央官庁,地方自治体,公団・事
業団等の調達担当官に対する研修を実施しており,平成10年度においては,
全国で32回の研修会に対して講師の派遣及び資料の提供等の協力を行った。