第3 独占禁止法適用除外制度

独占禁止法適用除外制度の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することによ
り,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達
を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取
引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の経済政策目的を
達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規
定等の適用を除外するという適用除外制度が設けられている。
 適用除外制度の根拠規定は,平成10年度末現在,①独占禁止法自体に定
められているもの,②適用除外法に定められているもの,③独占禁止法及
び適用除外法以外の個別の法律に定められているものに分けることができ
る。
(1) 独占禁止法に基づく適用除外制度
 独占禁止法は,①自然独占に固有な行為(第21条),②事業法令に基
づく正当な行為(第22条),③無体財産権の行使行為(第23条),④一定
の組合の行為(第24条),⑤再販適用除外制度(第24条の2),⑥不況カ
ルテル(第24条の3),⑦合理化カルテル(第24条の4)を,それぞれ
同法の禁止規定の適用除外としている。
(2) 適用除外法に基づく適用除外制度
 適用除外法は,①陸上交通事業調整法等の法律又はその条項等を掲
げ,これらの法令の規定又は法令の規定に基づく命令によって行う正当
な行為を独占禁止法の適用除外とし(第1条),また,②水産業協同組
合法等の特定の法律に基づいて設立された協同組合その他の団体を独占
禁止法第8条の規定の適用除外としている(第2条)。
(3) 個別法に基づく適用除外制度
 独占禁止法及び適用除外法以外の個別の法律において,特定の事業者
又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているもの
としては,保険業法等13の法律がある。
独占禁止法適用除外制度の見直しについて
(1) 適用除外制度見直しの必要性
 現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業
の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達
成するため,各産業分野において創設されてきた。
 しかし,今日の我が国経済は当時とは大きく変化し,世界経済におけ
る地位の向上,企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化等が進んで
きており,政府規制と同様に適用除外制度の必要性も変化してきてい
る。
 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存
の事業者の保護的な効果を及ぼすおそれがあり,その結果,経営努力が
十分行われず,消費者の利益を損なうおそれがある。また,現に利用さ
れていない制度についても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将
来においてもそのまま利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自
体を背景にして協調的行動が採られやすく,競争を回避しようとする傾
向が生じるおそれがあり,このことにより,個々の事業者の効率化への
努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害される
おそれがある等の問題がある。
(2) 適用除外制度見直しの経緯
 適用除外制度については,近年,累次の閣議決定等においてその見直
しが決定されている。個別法による適用除外制度については,「規制緩
和推進計画の改定について」(平成8年3月29日閣議決定)を受け,平
成9年2月,個別法に基づく適用除外制度20法律35制度について廃止等
の措置を採るための「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律
の適用除外制度の整理等に関する法律案」が第140回国会に提出され,
同年6月13日に可決され,同法は成立し,同年7月20日に施行された。
 また,その他の適用除外制度については,「規制緩和推進計画の再改
定について」(平成9年3月28日閣議決定),「規制緩和推進3か年計
画」に基づき検討が行われ,平成11年2月16日,不況カルテル制度及び
合理化カルテル制度の廃止,適用除外法の廃止等を内容とする適用除外
整理法案が第145回国会に提出され,同年6月15日に可決され,同法は
成立し,同年6月23日に公布された(平成11年7月23日施行)。
 これらの措置により,平成8年3月末において30法律89制度存在した
適用除外制度は,16法律25制度(再販適用除外制度を含む。)にまで縮
減されることとなる。
 規制緩和推進3か年計画に基づき行った所要の検討措置を踏まえ,平
成11年3月30日に閣議決定された改定3か年計画において,法案の提出
等これまでに採った措置や検討の結果が盛り込まれるとともに,引き続
き,「独占禁止法適用除外制度について,これを必要最小限とする」と
の文言が盛り込まれるとともに,以下の2点について引き続き検討を行
うこととされた。

表 改訂3か年計画における各適用除外制度の見直し結果の概要(抄)

 当委員会としては,今後とも,累次の閣議決定等の趣旨を踏まえ,適用
除外制度についてはこれを必要最小限とするとの認識の下,不断の見直し
を行っていく。
 適用除外整理法案については第1章を参照のこと。また再販適用除外制
度の見直しについては第12章第2を参照のこと
適用除外カルテルの動向
(1) 概況
適用除外カルテルの概要
 価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるも
のとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で他の政策目的
を達成する等の観点から,個々の適用除外制度ごとに設けられた一定
の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合があ
る。
 このような適用除外カルテル制度が認められるのは,当該事業の特
殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必
要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に
基づく運輸カルテル),国際的な協定にかかわるものであって諸外国
においても適用除外が認められているため(航空法等に基づく国際運
輸カルテル),深刻な不況に対処するため(独占禁止法に基づく不況
カルテル,中小企業団体の組織に関する法律に基づく経営安定カルテ
ル)等,様々な理由による。
 これらの適用除外カルテルのうち,独占禁止法に基づく不況カルテ
ル及び合理化カルテルについては当委員会が認可を行っており,個別
法に基づくものについては,一般に,当委員会の同意を得,又は当委
員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこととなって
いる。
 また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除
外カルテル制度の目的を達成するために必要であること等の積極的要
件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,
カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に
差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律に
より必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方
法に該当する行為が用いられる場合等には独占禁止法の適用除外とは
ならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。
適用除外カルテルの動向
 当委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に
協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数
は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基
づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成
されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種
についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピー
クに減少傾向にあり,また,適用除外カルテル制度そのものが大幅に
縮減されたこともあり,平成10年度末現在,14件となっている。
(2) 独占禁止法に基づく適用除外カルテル
不況カルテル
 独占禁止法は,第24条の3の規定により,不況に対処するため,一
定の要件の下に当委員会の認可を得て,生産業者等が行う生産数量,
販売数量,設備の制限又は対価の決定に係るカルテルについて,不況
カルテルとしてその適用を除外することとしている。
 平成元年10月以降,不況カルテルは実施されていない。なお,不況
カルテル制度は適用除外整理法により廃止された。
合理化カルテル
 独占禁止法は,第24条の4の規定により,企業の合理化を遂行する
ため特に必要がある場合に,一定の要件の下に当委員会の認可を得
て,生産業者等が行う技術若しくは生産品種の制限等に係るカルテル
について,合理化カルテルとしてその適用を除外することとしてい
る。
 昭和57年1月以降,合理化カルテルは実施されていない。なお,合
理化カルテル制度は適用除外整理法により廃止された。
(3) 個別法に基づく適用除外カルテル
概要
 平成10年度において,個別法に基づき主務大臣から当委員会に対し
同意を求め,又は協議若しくは通知のあったカルテルの処理状況は第
1表のとおりであり,このうち主な個別法に基づくカルテルの動向
は,次のとおりである。
 なお,酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律,環境衛生関係営
業の運営の適正化に関する法律,輸出入取引法,中小企業団体の組織
に関する法律及び航空法に基づくカルテルに関する同意,協議等はな
かった。

保険業法に基づくカルテル
 保険業法に基づき損害保険会社が,
 航空保険事業,原子力保険事業,自動車損害賠償補償法に基づく
自賠責保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保
険事業についての共同行為又は
 ①以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共
同行為
を行う場合には,金融再生委員会の認可を受ける必要があり,金融再
生委員会はその認可に際して,当委員会の同意を得ることとされてい
る。
 平成10年度において,金融再生委員会から同意を求められたものは
1件であった。
 また,平成10年度末において,同法に基づく共同行為の件数は8件
である。
環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づくカルテル
 環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律に基づき環境衛生同
業組合が適正化事業を行う場合には,環境衛生同業組合連合会の設定
する適正化基準に準拠して適正化規程を設定し,厚生大臣又は都道府
県知事の認可を受ける必要があり,厚生大臣又は都道府県知事はその
認可に際して当委員会に協議しなければならないこととされている。
また,環境衛生同業組合が同視程を廃止したときは,厚生大臣又は都
道府県知事に届け出る必要があり,厚生大臣又は都道府県知事はその
届出があったときは当委員会に通知しなければならないこととされて
いる。
 平成10年度においては,厚生大臣又は都道府県知事から協議・通知
を受けたものはなかった。
 また,平成10年度末において,同法に基づく適正化規程は存在しな
い。
輸出入取引法に基づくカルテル
 輸出入取引法に基づき輸出業者が輸出取引における価格・数量等の
協定を締結する場合又は輸出組合が輸出取引における価格・数量等の
組合員の遵守事項を定める場合には,通商産業大臣に事前に届け出る
必要があり,通商産業大臣はその届出があったときは当委員会に通知
しなければならないこととされている。
 平成10年度において,通商産業大臣から通知を受けたものはなかっ
た。
 また,残存していた1件のカルテルも平成10年12月をもって終了
し,平成10年度末において,同法に基づくカルテルは存在しない。
道路運送法に基づくカルテル
 一般乗合旅客自動車運送事業者が,輸送需要の減少により事業の継
続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送
を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定す
るため,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運
送事業者と共同経営に関する協定を締結,変更しようとする場合は,
運輸大臣の認可を受けなければならないとされており,運輸大臣はそ
の認可に際して当委員会に協議することとされている。
 平成10年度において,運輸大臣から協議を受けたものは3件であっ
た。
 また,平成10年度末において,同法に基づくカルテルの件数は3件
である。
内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合又は内航海運組合連合会が調
整事業を行う場合には,調整規程を設定し,運輸大臣の認可を受ける
必要があり,運輸大臣はその認可をしたときは当委員会に通知しなけ
ればならないこととされている。
 平成10年度において,運輸大臣から通知を受けたものは2件であっ
た。
 また,平成10年度末において,同法に基づくカルテルの件数は2件
である。
海上運送法に基づくカルテル
 船舶運航事業者が他の船舶運航事業者と結ぶ運賃及び料金その他の
運送条件,航路,配船並びに積取に関する事項を内容とする協定,契
約又は共同行為(以下「協定等」という。)については,その締結,
変更についてあらかじめ運輸大臣に届け出なければならないこととさ
れており,同法施行規則により,運輸大臣は,協定等に関する届出書
のうち1通を当委員会に送付することとなっている。
 当委員会が本年度において運輸大臣から受理した届出の件数は196
件であり,その内訳(1届出について,2以上にわたる場合の重複分
を含む。)は,締結10件,変更155件,参加2件,脱退12件,その他17
件であった。