第5 建設業団体が作成する価格表に関する実態調査

1 調査の目的・視点
 当委員会は,事業者団体等による事業活動に関する規制,いわゆる民民
規制の実態把握の一環として,建設業に係る一部の事業者団体が作成して
いる工事単価表や積算資料などの価格表について実態調査を行い,平成11
年3月に調査結果を公表した。
 同調査については,①中小企業の占める割合が高いことなどから,事業
者団体による価格に関する情報提供活動が比較的多いとみられること,②
公共入札等における発注者側への説明資料として,事業者団体が発注者側
から積算資料の作成を求められる例が多いとみられること,③独占禁止法
の規定に基づく事業者団体の届出において,特に価格に関する情報提供活
動が行われている例が多いと認められたことなどから,建設業における事
業者団体を対象にすることとし,アンケート,ヒアリング等の方法により
実施した。
 本件調査を行うに当たっては,①事業者団体が行う構成事業者の取引価
格に関する情報提供活動の内容はどのようなものか,情報提供活動として
価格表を作成している場合には,作成の目的,利用実態はどうなっている
か,②事業者団体が価格表を作成し,構成事業者に配布することにより,
構成事業者の価格が制限され,その事業活動が不当に制限されることと
なっていないか,という二つの視点を中心に実態を把握し,競争政策上の
問題点等を明らかにすることとした。
2 調査結果の概要
(1) 建設業界の概要等
ア 建設業の概要
 建設業の市場規模は,平成8年度において77兆2696億円であり,発
注者別にみると,民間工事が45兆8473億円,公共工事が31兆4223億
円,工事の種類別にみると,建築工事が45兆6062億円,土木工事が31
兆6634億円となっている。また,建設業を営もうとする者は,建設大
臣又は都道府県知事の許可を受けなければならないこととなってお
り,平成9年度末の建設業者数は,建設大臣許可1万724社,都道府
県知事許可55万7824社,合計56万8548社となっている。
イ 建設業の事業者団体の概要
 独占禁止法の規定に基づき当委員会に成立等の届出が行われている
建設業における事業者団体は,平成9年度末時点で1,434団体であ
り,業種別でみた場合,小売業,卸売業,サービス業に次いで4番目
に多い。
 これらの事業者団体は,一般建設業団体(建設業に関する調査や一
般的な情報交換等を行う地域別に組織されている建設業協会等の事業
者団体)と,工法系団体(特定の工法についての研究,普及活動等を
行う工法研究会等の事業者団体)に大別することができる。
 事業者団体の構成事業者の企業規模については,一般建設業団体は
中小企業の占める割合が高く,工法系団体は比較的大企業の占める割
合が高くなっている。
 また,自らの事業者団体に属さない事業者(アウトサイダー)がい
ないと回答したものが78.4%となっており,建設業の事業者団体は,
中小企業を中心に,組織率が高いことがうかがえる。
 建設業の事業者団体の活動内容としては,技術研究活動を挙げたも
のが最も多く,次いで,会員相互の親睦,広報宣伝活動,政府等の公
の機関との連絡,要望・意見等の表明の順となっている。
 建設業者が事業者団体に加入することのメリットとしては,社会的
信用が増加すること,官公庁からの情報の入手が容易になることなど
が挙げられる。
(2) 建設業の事業者団体における情報提供活動
 建設業の事業者団体の66.2%は,何らかの刊行物や資料等を発行して
おり,そのうち,34.4%が,当該刊行物等に価格や数量を掲載してい
る。
 これら価格や数量のデータの出所としては,当該団体自身で作成した
ものが最も多く,次いで,官公庁,官公庁の外郭団体,民間調査機関が
作成したものが多かった。
(3) 価格表
ア 価格表の形式
 アンケート調査の対象とした673の建設業団体のうち,37の団体が
建設工事の資材等の単価や工事の積算価格などを掲載した資料,いわ
ゆる価格表を作成していた。
 価格表の形式は,大きく次の2つに分かれる。
(ア)  建設工事において使用される労務費,材料費など様々な構成要素
の単価(場合によっては構成要素の合計金額)を示したもの(以下
「単価表」という。)
(イ)  特定の工事(工程)を完成させるために必要な資材の種類・数量
などを示した積算資料の中に単価が盛り込まれているもの(以下
「積算表」といい,単価表と合わせて「価格表」と総称する。)
イ 単価の設定方法
 価格表の中で用いられている資材等の単価は,その設定方法によ
り,大きく次の2つに分かれる。
(ア) 統計的処理による設定
 建設業団体が構成事業者を対象にアンケート調査を行うなどによ
り価格等のデータを得て,その平均値を出すなど統計的な処理を行
い設定したもの
(イ) 公表資料からの引用
 官公庁,民間調査機関等が作成している公表資料から引用された
もの。引用の方法は,次の2つのものに大別できる。
a  複数存在する関連価格の中から,特定の価格を一つだけ取り出
して引用しているもの
b  関連する価格を複数取り出して引用しているもの(例えば,一
つの資材について,複数のサイズ・分量等の価格を連続して抜き
出しているものなど)
ウ 価格表作成の経緯
 ヒアリング調査の結果,価格表の作成経緯としては,主に以下のよ
うなものが挙げられた。
(ア) 発注者からの積算資料(単価入り)の提示要望
(イ) 中小企業の経営指導の一環
(ウ) 設計コンサルタント等への売り込み用資料
(エ) ゼネコン等からの買いたたき抑制
エ 事業者団体による単価設定の経緯
 事業者団体が価格表を作成する場合,特定の資材等の単価につい
て,公表資料がある場合には基本的にそれを引用し,公表資料がない
場合又は限定的な地域内の実状を反映させたいと考える場合などに
は,事業者団体が自らアンケート調査等を行い,統計的な処理を行っ
た上で設定していることが多い。
オ 構成事業者による価格表の利用状況
 価格表を作成していた事業者団体については,構成事業者による価
格表の利用状況や,個別の構成事業者の実際の取引価格を詳しくは把
握していないとするものが多かった。
3 競争政策上の評価
(1) 基本的考え方
ア 標準価格等の決定
 事業者団体が,構成事業者が供給する商品又は役務の価格,数量な
ど重要な競争手段について制限することは,市場メカニズムに直接的
な影響を及ぼすものとして,原則として独占禁止法違反となる行為で
ある。
 価格制限行為の形態は多様であるが,最低販売価格等の決定のよう
に構成事業者の価格を事業者団体が直接決定する場合ばかりでなく,
標準価格など,価格設定の基準となるものを事業者団体が決定するこ
とも,原則として独占禁止法違反となる(事業者団体ガイドライン第
2-1-(1)-3)。
 事業者団体が標準価格等構成事業者の価格設定の基準となるものを
決定すると,競争関係にある構成事業者間に現在又は将来の価格につ
いて共通の目安を与えることとなることは避けられない。したがっ
て,構成事業者の利用に供するため,事業者団体が単価を自ら任意に
設定し,それを取りまとめて価格表を作成し構成事業者に配布するこ
とは,構成事業者の自由な価格形成を妨げるおそれがあり,独占禁止
法に違反するおそれがある(独占禁止法第8条第1項第1号又は第4
号違反)。
イ 情報提供活動(統計的処理,公表資料の引用)
 事業者団体が,構成事業者への情報提供活動の一つとして,価格に
関する情報を提供している場合がある。
 事業者団体が,構成事業者の個別の価格を調査してそれを統計的に
処理したものを構成事業者に提示する場合や一般に公表されている資
料から価格を引用して構成事業者に提示する場合であっても,その方
法によっては,現在又は将来の価格について共通の目安を与え,構成
事業者の自由な価格形成を妨げることにより,独占禁止法上問題とな
ることがある(事業者団体ガイドライン第2-9-1)。
 例えば,統計的処理の結果について代表となる数値を任意に取り出
して提示したり,公表資料であっても複数の価格情報を抽出・加工し
て提示するなど,その提示方法によっては,構成事業者の自由な価格
形成を妨げるものとして独占禁止法上問題となることがある。
(2) 本件調査における価格表の考え方
ア 統計的処理について
 建設業団体が構成事業者の価格を統計的に処理したものを用いて価
格表を作成している事例についてみると,その多くは,アンケート調
査の結果得られた価格の平均値を示すなど,代表値を一つだけ示す形
式のものであった。
 このような事例については,特定の価格を構成事業者に示すことに
より構成事業者間に現在又は将来の価格について共通の目安を与える
こととなり,構成事業者の自由な価格形成を妨げるものとして独占禁
止法上問題となるおそれがある。
イ 公表資料からの価格情報の引用について
 官公庁や民間調査機関等が公表している資料から価格情報を引用し
て価格表を作成している場合であっても,その引用・提示の方法に
よっては,現在又は将来の価格に共通の目安を与え,構成事業者の自
由な価格形成を妨げることにより,独占禁止法上問題となることがあ
る。
 本件調査においては,公表資料から引用する際,個別の特定価格を
一つだけ取り出して引用する例がみられたが,このような方法により
引用した価格を用いた価格表については,構成事業者の自由な価格形
成を妨げるものとして独占禁止法上問題となるおそれがある。
(3) 経営指導
ア 基本的考え方
 中小企業における経営知識等の不足を補うため,中小企業の事業者
団体が経営指導を行うことは,本来,独占禁止法上問題となるもので
はない。
 しかしながら,経営指導の形式をとっていても,事業者の現在又は
将来の事業活動に係る価格等の重要な競争手段の具体的な内容に関し
て目安を与えるような場合には,独占禁止法上問題となるおそれがあ
る。
イ 積算資料の作成について
 本件調査においては,建設業団体が,中小規模の構成事業者に対す
る経営指導の一環として,単価を盛り込んだ価格表,特に積算表を作
成している事例がみられた。
 建設業団体が積算資料を作成する際に,所要の資材等の標準的な数
量や作業量とともに単価を示すことは,積算金額について共通の目安
を与えるおそれがあると考えられ,構成事業者間の自由な価格形成を
妨げ,独占禁止法上問題となるおそれがある(事業者団体ガイドライ
ン第2-10-1)。
(4) その他
 ヒアリング調査によれば,公共工事等において,国又は地方公共団体
などの発注者側が,事業者団体に対し,積算に必要な価格の目安につい
て尋ねてくるケースがしばしば存在するとされている。
 構成事業者の個々の取引における価格等通常各事業者の営業上の秘密
とされている事項について事業者団体を通じて報告を求めるような行政
指導については,当該事業者団体が取りまとめに当たり価格を決定する
ことにつながるおそれがあることから,独占禁止法との関係において問
題を生じさせるおそれがある(行政指導ガイドライン2-(2)-③)。
 発注者側においては,事業者団体に目安となる価格水準を尋ねる場合
には,当該価格を事業者団体が取りまとめる過程又は取りまとめられた
価格の利用方法のいかんによっては,事業者団体の構成事業者の自由な
価格形成に影響を与えるおそれがあることを認識し,事業者団体の活動
に十分配慮した上で行うことが望まれる。
(5) 上記を踏まえた対応
 上記を踏まえ,当委員会は,独占禁止法上問題となるおそれのある価
格表を作成していた事業者団体に対し,事業者団体ガイドラインを含
め,独占禁止法の考え方を伝え,問題点を指摘するとともに,
ア  統計的な処理の方法により価格表を作成する場合には,構成事業者
から価格に係る過去の事実に関する概括的な情報を任意に収集して,
客観的に統計処理し,価格の高低の分布や動向を正しく示し,かつ,
個々の構成事業者の価格を明示することなく,概括的に,需要者を含
めて提供するようにすること
イ  価格に関する公表資料の引用の方法により価格表を作成する場合に
は,資料の出典を明らかにし,価格はあくまで参考として公表資料か
ら引用したものである旨を注記した上で,一連の価格群を特に加工す
ることなく,客観的な参考情報の一つとして引用するようにすること
などの方法により,独占禁止法上問題のない形で情報提供活動を行うよ
うに指導した。また,建設省に対して,上記事項を含め,独占禁止法の
考え方を関係事業者団体に周知するよう要請した。