第6 板ガラスの流通に関する実態調査

調査の目的・視点
 当委員会は,平成5年6月,「板ガラスの流通に関する企業間取引の実
態調査」(以下「平成5年調査」という。)を公表し,その後,平成5年調
査において指摘した問題点の改善状況について把握するため,2回のフォ
ローアップ調査を実施したが,さらに,問題点の改善等により板ガラスの
企業間取引についてどのような変化が生まれているか,板ガラスをめぐる
内外事業者間の競争はどうなっているか等の実態を広く把握する観点か
ら,再び実態調査を行い,平成11年5月に調査結果を公表した。
 同調査を行うに当たっては,①平成5年調査により指摘した問題点の改
善状況がどのようになっているか,②上記問題点の改善等により,流通段
階における競争の状況に変化がみられるか,③板ガラスメーカーの流通業
者に対する資本参加その他の行為により,流通業者における競争品の取扱
いの排除その他競争制限がもたらされていることはないか,④流通業者等
における輸入品の取扱状況及び輸入品に対する評価はどのようになってい
るか,⑤板ガラスメーカー及び流通業者における独占禁止法遵守のための
取組状況はどのようになっているか,という5つの視点を中心に実態を把
握し,競争政策上の問題点等を明らかにすることとした。
 なお,板ガラスは,大きく建築用と自動車用に分かれるが,本件調査
は,その流通の多様さなどに着目し,建築用板ガラスの流通を対象に行っ
た。
調査結果の概要
(1) 板ガラスの流通等の状況
国内板ガラスメーカーの状況
 我が国の板ガラスのメーカー(以下「国内メーカー」という。)
は,旭硝子株式会社(以下「旭硝子」という。),日本板硝子株式会社
(以下「日本板硝子」という。)及びセントラル硝子株式会社(以下
「セントラル硝子」という。)の3社である。
 国内メーカー3社の板ガラスに係る販売実績と輸入額を平成9年度
について比較してみると,旭硝子46.5%,日本板硝子24.5%,セント
ラル硝子18.5%,輸入品10.5%となっている。
一般的流通経路
 板ガラスは,流通段階で切断,加工,組立て,施工等が加えられ,
それぞれのユーザーの需要に応じて商品化された上で,ユーザーに供
給される。主な流通業者としては,メーカーから仕入れた板ガラスを
卸売りする卸売業者(以下「特約店」という。)と,特約店から仕入
れた板ガラスをユーザー等に小売・施工する販売業者(以下「販売
店」という。)が存在する。
 また,国内メーカー3社は,特約店の負担を軽減し,特約店におけ
る自己の商品の取扱量をより多くするため,各地に,自社の板ガラス
の切断,研磨等の加工を行う切断施設(以下「カッティングセン
ター」という。)を設立しており,平成10年時点で141か所設置されて
いる。
流通業者
(ア)  特約店は,全国で386店あり,その多くは,国内メーカーのいず
れか1社の製品のみを扱う専売店となっている。特約店の経営状況
については,営業利益及び経常利益が赤字である者が平成5年調査
と比較して大幅に増加している。
(イ)  販売店は,およそ1万4000店あるといわれ,その業態,規模とも
多岐にわたっているが,最も多いのは,小口の建築工事を対象とし
て,住宅用サッシと板ガラスを組み合わせた上で大工・工務店に施
工販売している業者であり,このほか,主にビル建築を行うゼネコ
ンと取引している工事業者などもいる。
(2) 板ガラス取引における慣行等と競争政策上の評価等
板ガラスの流通の一般的な状況
(ア) 流通全般の改善状況
 平成5年調査において指摘した問題点に対する国内メーカーの取
組により,我が国における板ガラスの企業間取引は大きく変化して
いる。いずれの国内メーカーと特約店との間の売買契約書上も特約
店が他社製品を取り扱うことを禁止又は制限する条項はなく,ま
た,売買目標数量の達成度や取引数量・金額の総計に応じて比例
的・累進的に支給されるリベートはいずれも廃止されている等他社
製品を取り扱うことに伴って特約店に何らかの不利益が生じるよう
な制度的枠組みは存在していない。さらに,併売店がわずかながら
増加するとともに,特約店が板ガラスメーカーを選択するに際して
は,過去の取引実績や板ガラスメーカーとの関係よりも取引条件を
重視する者の割合が増えているなど板ガラスの流通市場の開放性は
高まっていると評価できる。
(イ) 輸入品の直面する状況
 我が国においては,板ガラスの需要そのものが減少し,国内メー
カー,流通業者等においても活発な価格競争が行われている中で,
内外価格差が縮小している。一方,主要な輸入代理店(輸入総代理
店及び商社をいう。以下同じ。)は,基本的に国内で加工・切断す
ることはせず,一定規格品の大口ロット販売を一つの柱としている
ことが多いが,我が国の板ガラスの流通業者には中小規模のものが
多いことから,そのような販売方法に対応して輸入品を購入するこ
とが可能な者は限られている。また,輸入品に関しては,ユーザー
等から,ロット,納期,品質管理の水準等の面で多くの指摘が寄せ
られている。輸入代理店においては,自ら国内の供給・販売体制を
整備するなどにより,国内メーカーと比較して劣位にあるとみられ
る非価格分野における格差を縮小する努力を払うことが重要な課題
となると考えられる。
独占禁止法違反となる場合の考え方
(ア) 対抗的価格設定による競争者との取引の制限
基本的考え方
 一般的に,競争者の価格に対抗して価格を引き下げることは,
価格競争そのものであり,独占禁止法上問題となるものではない
が,市場における有力な事業者が,継続的な取引関係にある取引
の相手方に対し,その取引関係を維持するための手段として,自
己の競争者から取引の申込みを受けたときには必ずその内容を自
己に通知し,自己が対抗的に販売価格を引き下げれば,相手方は
当該競争者とは取引しないこと等を約束させて取引し,これに
よって当該競争者の取引の機会が減少する等のおそれがある場合
には,当該行為は不公正な取引方法に該当し,違法となる(一般
指定11項(排他条件付取引)又は13項(拘束条件付取引)。流
通・取引慣行ガイドライン第1部第6の1(2)。)。
調査結果による評価
 特約店,ユーザー等は,従来取引のない国内メーカー若しくは
輸入代理店から売り込みを受けた場合又は従来から複数の仕入先
を有している場合,それぞれから見積りを取った上で,その価格
を勘案して購入先を決定している。また,従来の取引先国内メー
カーと価格交渉を行う際,他の供給者から示された価格を当該国
内メーカーに提示して,交渉を有利に進めようとすることもある
とされる。これは,価格交渉に当たっての当然のバーゲニング行
為であると考えられる。一方,特約店等に対し,他の供給者から
売り込みを受けたことを通知するよう要請している国内メーカー
はなく,仕入先が特定の供給者に固定されるとか,特定の供給者
が排除されることはないことが認められた。さらに,国内メー
カーが特約店との間で一度決定した仕切価格を事後的に値引きす
ることはないことが認められた。
 このように,対抗的価格設定について,独占禁止法上問題とな
る事例はみられなかったが,国内メーカーにおいては,自己が市
場における有力な事業者に該当することを十分に認識し,引き続
き,独占禁止法上問題となるような対抗的価格設定を行うことの
ないよう留意する必要がある。
(イ) 取引先事業者の株式所有を手段又は理由とする排他的行為
基本的考え方
 国内メーカーが取引先特約店の株式を取得し,その結果,一定
の取引分野における競争が実質的に制限されることとなる場合に
は,独占禁止法第10条第1項に違反する。また,市場における有
力な製造業者が,自己が株式を所有している取引先事業者に対
し,株主としての地位を利用して,自己の商品のみを取り扱う旨
の同意を取り付け,これによって競争者の取引の機会が減少する
等のおそれがある場合には,当該行為は不公正な取引方法に該当
し,違法となる(一般指定11項(排他条件付取引)。流通・取引
慣行ガイドライン第1部第7の3(1)②。)。
調査結果による評価
 国内メーカーの特約店に対する資本参加が増加する動きがみら
れるが,国内メーカーの特約店に対する出資については,その目
的(経営不振の救済),各特約店の規模,国内メーカーの出資を
受けている特約店(以下「メーカー出資特約店」という。)の特
約店全体に占める割合等を考慮すれば,それ自体,独占禁止法第
10条第1項に違反する株式取得であったとは認められない。ま
た,国内メーカーが,メーカー出資特約店に対し,自己の商品の
みを取り扱う旨の同意を取り付けるなど,独占禁止法上問題とな
る事例はみられなかった。
 国内メーカーにおいては,メーカー出資特約店に対し,明示的
か暗示的かを問わず,競争品の取扱いを妨げないようにするとと
もに,自己が市場における有力な事業者であることを十分認識
し,引き続き,流通・取引慣行ガイドラインを踏まえ,株主とし
ての地位を利用して,自己の商品のみを取り扱う旨の同意を取り
付けるなどの行為を行うことのないよう十分留意する必要があ
る。
(ウ) 積立保証金等の差別的取扱い
基本的考え方
 国内メーカーは,特約店との取引では手形取引がほとんどであ
るため,債権上の危険回避の手段として,取引開始に際し保証金
等の担保を個別に求めている。保証金等の担保を求めることも,
通常の取引条件の一つと考えられるが,かかる要求において,不
当に,ある事業者に対し取引の条件又は実施について有利又は不
利な取扱いをする場合には,不公正な取引方法として禁止される
こととなる(一般指定4項(取引条件等の差別取扱い))。
調査結果による評価
 保証金の積立てに不満を感じている特約店が一部にみられた
が,保証金等の担保の水準や保証金に対する金利が恣意的に決定
されるなど,不当にある事業者に対し有利又は不利な取扱いをし
たり,競争品の排除等,独占禁止法上不当な目的の達成のために
行われていると認められる事例はみられなかった。
 国内メーカーにおいては,保証金等の担保を求めるに当たって
は,客観的な基準に基づき保証金の額及び金利等を設定すること
が求められ,独占禁止法上問題となるような不当な差別的取扱い
を行うことのないよう十分留意する必要がある。
(エ) その他
 上記(ア)から(ウ)以外の行為であっても,国内メーカーが特約店等に
対し競争品の取扱いを制限することは独占禁止法上問題となるが,
ここでいう「制限行為」には,契約による制限だけでなく,製品供
給やリベート支給を制限するなど,何らかの人為的手段によりその
実効性が確保されている場合が広く含まれる。また,国内メーカー
が,自己の取引先である新聞等の広告媒体に対して,競争品の広告
を掲載させないようにするなどの行為は,継続的な取引関係を背景
に自己の優越的な地位を利用して不当に行われる場合や,取引先事
業者と競争者との取引が不当に妨害される等の場合には,独占禁止
法上問題となる。
 輸入品の取扱いを妨害する等の具体的な事例はみられなかった
が,国内メーカーにおいては,このような行為を行うことのないよ
う十分に留意する必要がある。
競争政策の観点からの評価
(ア) カッティングセンターについて
基本的考え方
 カッティングセンターは,国内メーカーが自社製品を販売する
に当たり,取引先の特約店に対するサービスの一環として設立し
た自社の切断施設であることから,競争者の利用を認めないこと
としても,直ちに独占禁止法上の問題が生じるものではない。
調査結果による評価
 カッティングセンターの存在は,国内メーカーが,それにより
一定の付加価値を付して特約店に板ガラスを供給していることを
意味し,国内メーカーの競争力の一つの要素となっている。この
ようなサービスの提供は,本来,必要があれば輸入代理店自身の
投資により行われるべきであり,また,カッティングの機能を有
する特約店と取引することによっても対応し得ることである。他
方,本サービスは,国内メーカーが特約店との間でコマーシャル
ベースで行っているサービスであることにかんがみれば,利用を
希望する外部の者と個々のカッティングセンターという民間事業
者間の契約の話として,今後,合理的な条件により,外部の者が
カッティングセンターを利用することも考えられる。
(イ) 独占禁止法遵守プログラムの策定・実施
基本的考え方
 独占禁止法遵守のための取組は,基本的には事業者が自主的に
取り組むべきものであるが,当委員会においては,独占禁止法違
反行為の未然防止・再発防止は重要な政策課題であるため,従来
から,独占禁止法遵守プログラムの策定・実施の重要性について
普及・啓発に努めてきており,企業からの相談に応じて適切に対
処してきている。
調査結果による評価
 国内メーカー3社については,独占禁止法の遵守に関し,遵守
体制を総括するための社内組織の確立,各種の独占禁止法遵守マ
ニュアルの整備,従業員に対する研修の実施,懲戒規定の整備等
が行われるなど,十分な取組がなされているものと評価できる。
 国内メーカーにおいては,今後とも,独占禁止法遵守のための
取組を積極的に行っていくことが望まれる。
 また,流通業者については,必ずしも十分な取組がなされてい
るとはいい難いが,他の業種に比べればおおむね同程度の水準で
あり,特に遅れているものではないと考えられる。
当委員会の対応
 当委員会は,我が国の板ガラスの流通市場を分析した結果,以上の
ような考え方に達したところであり,国内メーカー3社に対して,上
記イで示したような行為に関し,独占禁止法の考え方を示し,同法に
違反することのないように留意するよう要請するとともに,上記ウで
示したような競争政策の観点からの評価にも留意するよう要請を行っ
た。