第7 LPガス販売業における取引慣行等に関する実態調査

調査の目的・視点
 当委員会は,規制緩和が行われた分野のうち,特に消費者との関係が深
い分野として,平成8年の液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に
関する法律(昭和42年法律第149号。以下「液石法」という。)の改正によ
り参入規制が緩和された液化石油ガス販売業(以下「LPガス販売業」と
いう。)を取り上げ,最近の状況について競争政策の観点から実態調査を
行い,平成11年6月に調査結果を公表した。
 同調査を行うに当たっては,①規制緩和後において,事業者による競争
制限的な行為や不透明な取引慣行により,消費者の自由な意思による事業
者の選択が妨げられていないか,②液石法の趣旨・目的に照らして過剰な
規制が行われることにより,また,各地方自治体によって独自の規制又は
国の規制の範囲を超えた過剰な規制が行われることにより,事業者の自由
な事業活動が妨げられていないか,③ガス事業間の競争はどのように行わ
れているか,という3つの視点を中心に実態を把握し,競争政策上の問題
点等を明らかにすることとした。
調査結果の概要
(1) 販売に関する液石法上の規制
 販売業を行う者は,通商産業大臣又は都道府県知事(以下これらを
「通産大臣等」という。)の登録を受けなければならない。平成8年の
液石法改正により,販売業と保安業務を分離し,販売業については許可
制から登録制に改められ,また,保安業務を行う者は,保安機関として
通産大臣等の認定を受けることとされた。
 また,販売業者は,消費者と販売契約をした場合に所定の事項を記載
した書面(以下「14条書面」という。)を交付しなければならないこと
とされている。
(2) 参入規制等
 販売業の登録について,経済的な観点から規制を行うことを目的とし
て独自の通達,内部基準等を制定している都道府県はなかった。
都道府県による行政指導
 販売業の登録に際し必要とされる賠償責任保険への加入に関し,都
道府県が業界団体(主なものとして各都道府県ごとにエルピーガス協
会が設立されている。以下「都道府県協会」という。)を通じた加入
を要請する等の競争制限的な行政指導が指摘されてきたが,保険の加
入窓口についての指導は行っていない,又は都道府県協会以外でも加
入が可能な旨紹介しているとする都道府県が7割以上を占めている。
しかし,保険加入窓口として都道府県協会を紹介している自治体や,
都道府県協会を通じた加入及び付保証明書の添付を要請している自治
体もあった。
 登録申請時の業界団体への加入等の要請について,業界団体を紹介
している自治体が13あったほか,加入を勧めている自治体や,業界団
体や既存事業者に話を通しておくよう勧めている自治体があった。
業界における参入制限
 既存業者の販売地域拡大等について仕入妨害等の参入制限が行われ
た例はなかった。また,仕入れ,配送業務及び保安業務の委託に当
たって特に支障を感じたことはないとする販売業者がほとんどであっ
た。
(3) 料金制度
 LPガス料金が高価格であると指摘される要因として,業界団体等は
配送や保安のコスト等を挙げている。また,消費者の6割以上がLPガ
ス料金が高価格であると感じている反面,自由料金制であることを知ら
ない者が7割以上に上っており,こうした消費者の意識が価格競争を生
じにくくさせている原因の一つとも考えられる。
 料金体系について,基本料金と従量料金からなる二部料金制を採用し
ている販売業者が85.3%と圧倒的に多いが,請求書には使用量と使用料
金しか記載されていないとする消費者が多かった。また,ほとんどすべ
ての販売業者が料金表を交付しているとしているが,契約時に料金表を
受け取ったとする消費者は約3割にすぎず,値上げ時ですら料金表を受
け取っていないとする者もみられた。
(4) 無償配管等
経緯及び実施状況
 業界では,無償配管とは,販売業者が,住宅の配管を建築業者や不
動産業者(以下「建築業者等」という。)に対し無償で行うことによ
り,住宅への入居者に対して継続的な取引を確保しようとする慣行を
指すものといわれている。販売業者の61.7%が無償配管を行うことが
あるとしており,業界の慣行として定着していることかうかがえる。
配管費用の回収
 無償配管に要した費用について,顧客にその旨明示して回収する販
売業者は非常に少ないが,実際には,費用を全く回収しないという場
合は少なく,契約顧客全体からガス料金に含めて回収している例が多
数を占めるとされている。
無償配管に伴う事例
(ア) 配管の買取請求
 消費者が販売業者を変更しようとして契約解除を申し出た際に,
当該業者が配管の所有権を主張して高額な買取請求を行うという事
例の指摘があった。
 また,実際の配管に要した費用のほか,顧客獲得に要した費用の
すべてを請求しているケースもあるのではないかという指摘もあっ
た。
(イ) 供給設備の不撤去等
 消費者が販売業者を変更しようとして契約解除を申し出た際に,
当該業者が配管の所有権を主張してガスメーター等を速やかに撤去
せず,次の業者がガスを供給できない事例の指摘があった。
(ウ) 建築業者等に対する紹介料の支払
 販売業者が,無償配管と併せて顧客確保の手段として,建築業者
等に紹介料を支払い,住宅の入居者に自らを紹介してもらうという
事例の指摘があった。
(エ) ガス器具の無償提供等
 前記(ウ)と同様の事例として,販売業者が建築業者等に対して給湯
器やコンロ等無償提供や貸与を行う事例の指摘もあった。
配管の所有権についての消費者への情報提供
 平成8年の液石法改正により,14条書面の必要記載事項が追加さ
れ,配管について,①所有関係,②販売業者から消費者に貸し付ける
場合の費用負担額等,③契約解除時の清算額等の明確化が図られた。
 配管の所有関係についての消費者への告知方法について,「14条書
面で告知している」とする販売業者が79.5%となっている。一方,
「書面で明記されている」とした消費者は10.9%と少数であった。
 無償配管を行った配管の所有権の帰属について,原則として業者側
にあるとする販売業者が8割以上となっているが,本来は消費者が配
管を所有すべきと考えている者が多い。一方,自宅の配管について,
LPガス業者に配管の所有権があるとする消費者は17.9%であった。
(5) 保安
 これまで販売業者の多くが保安業務を委託してきた都道府県協会等設
立の保安センターについては,平成8年の液石法の改正に伴い,規模の
縮小や閉鎖の動きも出ている。一方,保安機関認定を受けた卸売業者に
対して保安業務を委託する販売業者が増えており,卸売業者による系列
化が進むのではないかともいわれている。
(6) ガス事業間の競争
競争の状況等
(ア) 都市ガスとLPガスとの競争
 一般的に,市街地は都市ガス,それ以外はLPガス(又は簡易ガ
ス)という事実上の棲分けができている。LPガスの業界団体等に
よれば,都市ガスが普及すれば都市ガスを選択する消費者がほとん
どではあるが,居住区域にくまなく供給する上でLPガスは今後と
も不可欠なエネルギーであり続けるという意見が多い。
(イ) LPガス販売における共用配管による勧誘
 LPガスから都市ガスに切り替える場合には,配管を交換する必
要があるため,都市ガス業者の子会社であるLPガス販売業者は,
都市ガスの普及予定区域において,営業活動面で有利な共用配管に
より顧客の勧誘を行っている。これについて,消費者からは,勧誘
時に都市ガスの導管が敷設される予定であるとの説明を受けて共用
配管を採用する業者と契約を結んだが,何年経過しても導管が敷設
されないという声も聞かれた。
事業間の調整
(ア) 簡易ガス事業の創設
 簡易ガス事業は,LPガス販売業の小規模導管供給と都市ガス事
業との利害調整を図るため,昭和45年のガス事業法(昭和29年法律
第51号)の改正により創設されたもので,団地内で導管供給を行
い,都市ガスに準じた規制を受けている。
 簡易ガス事業の都市ガスの供給区域内への参入については,①使
用者の利益が阻害されないこと,②供給地点における設備が著しく
過剰とならないこと等の許可要件が定められている。これらは極め
て厳格に運用され,都市ガスの導管が未敷設の地域であっても,許
可を得ることは非常に困難であるといわれている。
 なお,都市ガス供給区域内への参入許可について都市ガス業者と
簡易ガス業者との調整が必要な場合には,地方ガス事業調整協議会
の意見を聴くこととされていたが,平成11年のガス事業法改正によ
り,判断基準の明確化を前提に同協議会は廃止することとされた。
 また,総合エネルギー調査会都市熱エネルギー部会の中間報告書
において,消費者の選択の幅を広げるために,簡易ガス業者が都市
ガスとの共用配管を整備しつつ参入することが望ましい旨提言され
ている。
(イ) 都市ガスの進出に伴うLPガスとの調整
 都市ガスの供給区域拡張やLPガスから都市ガスへの切替えにつ
いては,閣議決定により,都市ガス業者からLPガス販売業者に対
し事前通知を行ったり両当事者間で話合いを行ったりすることとさ
れている。供給区域拡張に伴い,両者の調整がつかないことによっ
て消費者利益が損なわれることがあってはならないと考えられる。
 また,切替えに伴う紛争に係る話合いについては,実際には,都
市ガス業者とLPガスの都道府県協会との間で協定が結ばれ,設備
撤去の立会費等の名目で金員が支払われている。
(ウ) 最近の制度改正等
 ガス事業法について,①小売料金引下げの認可制から届出制への
移行,②大口供給範囲を200万 以上から100万 以上に引下げ,③
地方ガス事業調整協議会の廃止等を内容とする改正法が平成11年5
月に成立するなど,都市ガス事業においても徐々に自由化が進んで
きており,ガス事業全体の競争環境も変化していくものと考えられ
る。
(7) 競争政策上の評価
参入規制
 販売業の登録申請に際し,業界団体を通じた賠償責任保険への加入
及び付保証明書の添付を要請しているとする都道府県があった。この
ような行政指導により,販売業者の新規参入が不当に制限されるおそ
れがある。また,登録申請時に,業界団体や既存事業者に話を通して
おくよう勧めたり,業界団体への加入を勧めたりしている都道府県も
あったが,これらについても同様に考えられる。
料金体系
 LPガスの販売に際し,どのような料金体系を採用するかは,基本
的に販売業者の自由であり,それ自体独占禁止法上の問題を生じるも
のではない。しかしながら,料金体系は,特にLPガスの場合には,
業者間で商品の品質に差がないため,他の商品に比べてより重要であ
ると考えられる。
 本件調査によれば,料金の内容が消費者に明確に示されていない場
合が多く,消費者に対する情報提供という点から問題があるだげでな
く,販売業者間の公正かつ自由な競争を促進するという観点からも望
ましいものとはいえない。
 したがって,販売業者は,14条書面に料金の算定方法等を記載する
とともに,消費者にその旨明確に説明すること等により,料金体系の
透明化を図ることが望ましい。
顧客移動の制限
 本件調査によれば,無償配管の慣行が業界において広く行われてい
る。無償配管の慣行により顧客移動が制限される場合には,以下のと
おり独占禁止法上問題を生じるおそれがある。
(ア)  販売業者が,無償配管を行ったことを理由に,配管の所有権を主
張し,消費者が解約を申し出た際に,不当に高額な配管の買取代金
を請求したり,ガスメーター等の設備の撤去を不当に引き延ばした
りする等により顧客移動を制限することは,不公正な取引方法(競
争者に対する取引妨害等)として独占禁止法上問題を生じるおそれ
がある。
 なお,配管の所有権については,不動産に附合する物の所有権に
関する民法の規定によれば,原則として,建物の所有者にあると考
えられる。また,例外的に販売業者が配管の所有権を有するために
は,例えば,建築業者等が住宅の売買基本契約前の重要事項説明に
おいて,その旨を消費者に明確に説明し了解を得た上で,それを明
記した書面を交付していること等が求められよう。
(イ)  販売業者が,無償配管と併せて,住宅の入居者に自らを紹介して
もらうために,建築業者等に対して紹介料を支払うことについて
は,それ自体直ちに独占禁止法上問題を生じるものではないが,例
えば業界の商慣習に照らして不当に高額な紹介料を支払う等により
顧客を獲得するような場合には,不公正な取引方法(不当な利益に
よる顧客誘引)として独占禁止法上問題を生じることも考えられ
る。
 販売業者が,建築業者等に対してガス器具の無償提供等を行うこ
とについても,これと同様に考えられる。
(ウ)  業界団体や販売業者間において,無償配管を行った販売業者の顧
客を勧誘したり獲得したりしない等の申合せを行うことは,取引先
を制限する行為として独占禁止法上問題を生じるおそれがある。
LPガスと都市ガス間の競争制限等
(ア)  LPガスから都市ガスへの切替えについては,実際には,閣議決
定の趣旨を超えて,都市ガス業者からLPガス販売業者に立会料等
の名目で金員が支払われているところ,切替えに伴う保安確保のた
めにやむを得ないものもあり得るが,ガス事業全体の自由化の動き
も踏まえれば,競争政策上望ましいものとはいえない。
(イ)  都市ガスとの共用配管を採用するLPガス販売業者が,顧客の勧
誘に際し,都市ガス導管敷設予定の根拠が乏しいにもかかわらず,
あたかも導管敷設が近々予定されているかのように勧誘を行った場
合には,不当表示として景品表示法上問題を生じるおそれがある。
通商産業省,建設省等に対する要請
(ア)  上記のア~エについて,所管官庁である通商産業省に対し,考え
方を説明するとともに,都道府県及びLPガス販売業界等への周知
を要請した。また,社団法人日本エルピーガス連合会に対しても,
傘下の都道府県協会への周知を要請した。
(イ) 建設省に対し,配管の所有権がLPガス販売業者にある場合に
は,建築業者等が住宅を販売するに際し,消費者に明確に説明し了
解を得た上で,それらを頬記した書面を交付する旨建築業者等への
周知を要請した。