第13章 景品表示法に関する業務

第1 概 説

 景品表示法は,独占禁止法の不公正な取引方法の一類型である不当な顧客
誘引行為のうち過大な景品類の提供と不当な表示をより効果的に規制するこ
とにより,公正な競争を確保し,一般消費者の利益を保護することを目的と
して,昭和37年に制定された。
 景品表示法は,不当な顧客の誘引を防止するため,景品類の提供につい
て,必要と認められる場合に,公正取引委員会告示により,景品類の最高
額,総額,種類,提供の方法等について制限又は禁止し(第3条),また,
商品又は役務の品質,規格その他の内容又は価格その他の取引条件について
一般消費者に誤認される不当な表示を禁止している(第4条)。これらの規
定に違反する行為に対し,当委員会は排除命令を,都道府県知事は指示を行
い,これを是正させることができる(第6条及び第9条の2)。
 さらに,公正競争規約の制度が設けられており,事業者又は事業者団体
は,過大な景品類の提供や不当な表示を防止するため,一定の自主的なルー
ルを当委員会の認定を受けて設定することができる(第10条)。

第2 景品表示法及び告示の改正

景品表示法の改正
 景品表示法は,都道府県知事に対して,公正取引委員会の機関委任事務
として,違反行為に対する調査,指示及び公正取引委員会への措置請求の
権限を認めてきた。
 平成10年5月29日に閣議決定された地方分権推進法第8条に基づく「地
方分権推進計画」において,景品表示法に基づく都道府県知事の事務は公
正取引委員会の機関委任事務から自治事務に変更することとし,都道府県
知事に対する指揮監督に関する規定(第9条の5)を削除し,新たに地方
自治法の改正により規定される主務大臣の自治事務に対する関与規定と同
様の規定(助言及び勧告,資料提出要求,是正措置要求)を新たに設置す
ることとされた。
 この地方分権推進計画の決定に基づく景品表示法の改正については,機
関委任事務制度の廃止及びそれに伴う事務区分の再構成,国の関与等の見
直しなどを内容とする「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に
関する法律案」の中において行われることとなり,同法案は第145回国会
に提出された(平成11年7月8日可決・成立,平成12年4月1日施行)。
公正取引委員会告示の改正
(1) 景品関係
 景品類の提供の制限は,景品付販売の実態が複雑多岐であり,法律で
画一的にこれを定めることは不適当であることから,当委員会が,取引
の実態に合わせ,必要に応じて告示により制限又は禁止することができ
るとされている。
 現在,当委員会が景品表示法第3条の規定に基づいて景品類の提供の
制限又は禁止を行っているものとしては,一般的なものとして,「懸賞
による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告
示第3号。以下,「懸賞景品告示」という。)及び「一般消費者に対する
景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第5
号)がある。また,特定業種についての景品類の提供に関する事項の制
限(以下「業種別告示」という。)が定められており,平成11年4月現
在,「新聞業」,「雑誌業」,「家庭電気製品業」,「不動産業」及び「医療
用医薬品業,医療用具業及び衛生検査所業」について業種別告示が定め
られている(附属資料9-2表)。
 また,独占禁止法に基づくものとして,「広告においてくじの方法等
による経済上の利益を申し出る場合の不公正な取引方法」(昭和46年公
正取引委員会告示第34号)がある。
 平成10年度において改正を行った業種別告示は以下のとおりである。
 新聞業における景品類の提供に関する事項の制限
 (平成10年4月10日 公正取引委員会告示第5号)
 医療用医薬品業,医療用具業及び衛生検査所業における景品類の提
供に関する事項の制限
 (平成10年11月16日 公正取引委員会告示第18号)
(2) 表 示 関 係
 景品表示法第4条第l号及び第2号の規定は,品質・規格等又は取引
条件に関して,実際のもの又は競争関係にある他の事業者に係るものよ
りも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示を禁止し
ている。このほか,これらの規定によっては的確に律しきれず,かつ,
一般消費者の適正な商品選択を阻害するおそれのある表示については,
当委員会が同条第3号の規定に基づいて告示により不当な表示を指定
し,これを禁止することができるとしている。
 現在,当委員会が景品表示法第4条第3号の規定に基づいて指定して
いる不当な表示は,「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年
公正取引委員会告示第4号),「商品の原産国に関する不当な表示」(昭
和48年公正取引委員会告示第34号)等5件である(附属資料9-2
表)。
 平成10年度においては,消費者の適正な商品選択と公正な競争を確保
する観点から,①技術の進展に伴い新たに出現したインターネット等を
利用した広告等,②販売方法の多様化に伴い進展の著しい電話や店頭等
における口頭での広告等及び③経済のサービス化に伴い進展の著しい
サービス業における説明書面による表示が,景品表示法の対象となるこ
とを明確にするため,「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定に
より景品類及び表示を指定する件」(昭和37年公正取引委員会告示第3
号)の改正を行った(平成10年12月24日 公正取引委員会告示第20号。
平成11年2月1日施行)。

第3 違反事件の処理

 平成10年度において当委員会で違反事件として処理した事件のうち,排除
命令を行ったものは景品関係1件,表示関係7件の合計8件(平成9年度は
8件)であり,警告を行ったものは,景品関係176件,表示関係277件の合計
453件である(第1表)。
 平成10年度中に処理した事件についてみると,景品に関する事件として
は,海外旅行等を景品類として提供した違反事件が多く,高額の賞品が提供
される事件については,事業者が景品規制の対象には当たらないと誤解して
企画した場合が多かった。
 表示に関する事件としては,不当な二重価格表示が最も多かったほか,商
品の品質・内容及び商品・役務の効能効果に関する不当表示事件があった。
 また,これらの事件処理に当たっては,過大な景品付販売や不当な表示が
競争事業者に波及することが多い点に留意し,当該事業者を規制するだけで
なく,必要に応じ関係業界団体を通じて他の事業者もこれと同種の違反行為
を行わないよう要望を行っている。

排 除 命 令
 平成10年度において行った8件の排除命令の内訳は,毛皮製品販売業者
による過大景品類提供事件1件,紳士服メーカーによる紳士服の原産国の
不当表示事件1件,中古自動車販売業者による中古自動車の走行距離の不当
表示事件4件,家庭用空気清浄機の性能に関する不当表示事件2件である
(第2表)。

警 告
 平成10年度において,警告を行ったものは453件で,そのうち過大な景
品類の提供に関するものは176件,不当な表示に関するものは277件であ
る。
 その主なものは,次のとおりである。
(1) 景 品 関 係
 店舗にクイズの応募用紙及び応募箱を置き,入店者に応募させ,正
解者の中から抽選で,外国製自動車(636万円相当),ロサンゼルスへ
のペア旅行(24万円相当)等の景品類を提供することを企画し,これ
を実施した。
 新品のゲームソフトについては1本ごとに,中古のゲームソフトに
ついては購入金額1000円ごとに,コイン1枚を提供し,これを5枚
以上集めた者の中から抽選で,軽自動車(130万円相当)等の景品類
を提供することを企画し,これを実施した。
 調味料を購入し,当該商品のキャップ内側のアルミシール等を切り
取り,これを取引先小売業者の店舗に設置した応募はがきにはり付け
て応募した者の中から抽選で,ハワイへのペア旅行(22万円相当)等
の景品類を提供することを企画し,これを実施した。
 レストラン店内に設置した応募はがきにより応募した者の中から抽
選で,バリ島へのペア旅行(14万円相当)等の景品類を提供すること
を企画し,これを実施した。
 CD,ゲームソフト等を1,050円以上購入した者の中から抽選で,
スクーター(15万円相当)等の景品類を提供することを企画し,これ
を実施した。
(2) 表 示 関 係
 婦人用ハイネックセーターについて,品質表示ラベル,下札及び新
聞折り込みチラシにおいて,「カシミヤ100%」と表示しているが,実
際には,同商品の中には,カシミヤ混用率が80パーセント前後とみら
れるものがかなり含まれていた疑いが認められた。
 緑茶について,あたかも,当該商品が茶の品質について天皇杯を受
賞した茶園において製造され,その茶園で製造された茶のみを使用
し,技量の優れた特定の個人の作者により製造されたものであるかの
ように表示しているが,実際には,天皇杯の受賞理由は茶農業協同組
合の経営努力に対するものであり,同茶農協が製造した茶(荒茶)以
外の茶を相当程度合組(混合)しており,また,表示されている特定
の個人は製造に当たった茶師の一人であって,当該荒茶の製造管理の
責任者でもなかった。
 旅行代理店が他の事業者と共同して実施した懸賞企画の当選通知書
において,あたかも,多数の応募者の中から厳正な抽選の結果優待旅
行に当選し,旅行代金の一部は他の事業者が負担しているかのように
表示しているが,実際には,最初に告知した当選数を大幅に超えて当
選通知を行っており,また,他の事業者が旅行代金の一部を負担して
いる事実はないものであった。
 ダイレクトメールにおいて,あたかも,着物の振興を図るために設
立された特別な団体が多数の中から特に選ばれた者だけを対象とし
て,和裁技術保持等を目的に通常の仕立代に比べ特別に安い仕立代の
みで着物を提供するかのように表示しているが,実際には,特別な団
体が特に選ばれた者のみを対象にした企画ではなく,また,当該仕立
代は,通常の仕立代に比べて特別割引といえるものではなく,当該金
額は企画対象の着物の反物原価及び仕立ての経費の合計を上回るもの
であった。
 牛肉等のパックに貼付した価格表示ラベルにおいて,100g当たり
の単価に内容量を乗じて得た額を表示してこれに二重線で消したもの
を比較対照価格として実際の販売価格に併記するなど,あたかも,通
常より安く販売するかのように表示しているが,実際には,2か月の
間に当該商品がその比較対照価格の根拠となった100g当たりの単価
により販売されたことは全くないか又はほとんどないものであった。
要 望
平成10年度において行った要望は次のとおりである。
(1) 社団法人電気通信事業者協会に対する要望(平成10年5月21日)
 携帯電話等代理店が,新規契約の勧誘活動に関連し,他の事業者に対
し,懸賞景品告示に違反する懸賞企画の提案を行い,また,厳正な抽選
の結果PHS端末機が当選したかのように表示した当選通知書を応募者
のほぼ全員に送付するなど,有利誤認として景品表示法に違反するおそ
れのある事例が見受けられたことから,関係団体である社団法人電気通
信事業者協会に対し,下記について傘下会員に周知するように要望し
た。
 携帯電話等代理店が,他の事業者に対して懸賞企画を提案し,又は
他の事業者と共同して懸賞企画を実施する場合は,懸賞景品告示の規
定による制限を超えることがないよう留意すること。
 携帯電話等代理店が,携帯電話又はPHS端末機を提供する旨の懸
賞企画を行う場合は,当選予定者数については実際に当選を予定して
いる数を表示すること。また,結果として,事実上応募者全員が当選
することとなる場合においては,当選通知書においてその旨の表示を
行うこととし,抽選により当選した旨の表示を行わないこと。
(2) 全国食肉公正取引協議会に対する要望(平成11年3月15日)
 牛肉等の不当な二重価格表示について警告を受けたスーパーマーケッ
トのほとんどが全国食肉公正取引協議会の会員であることから,同協議
会に対して,会員が食肉の販売に当たり本件で問題となったような不当
な二重価格表示を行うことのないよう,表示の適正化について要望し
た。

第4 公正競争規約制度

概 要
 公正競争規約(以下「規約」という。)は,事業者又は事業者団体が,
景品表示法第10条の規定に基づき,景品類又は表示に関する事項につい
て,当委員会の認定を受けて,不当な顧客の誘引を防止し,公正な競争を
確保するために自主的に設定するルールである。規約の認定に当たって
は,一般消費者及び関連事業者の利益を害するものであってはならないこ
とから,当該業界の意見だけでなく,関連事業者,一般消費者及び学識経
験者等の意見がこれに十分反映されるよう努めている。
 平成11年3月末現在における規約の件数は,景品関係48件,表示関係68
件,計116件となっている(附属資料9-3表及び9-4表)。
 また,業界における取引実態の変化,消費者の意識の変化,関係法規の
改正等を踏まえ,現行の規約の内容について適宜見直すよう,その運用機
関に対し指導を行っている。
新たに認定した規約
医療用具業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
(平成10年11月16日認定 公正取引委員会告示第19号)
(1) 経 緯
 当委員会は,医療用具業公正取引協議会設立準備委員会から認定申請
があった「医療用具業における景品類の提供の制限に関する公正競争規
約(案)」について,平成10年9月30日,公聴会を開催し,関係業界団
体,学識経験者等から意見を聴取して慎重に検討した結果,景品表示法
第10条第2項各号の要件に適合すると認め,これを認定した。
(2) 概 要
対 象 品 目
 薬事法(昭和35年法律第145号)に規定する医療用具であって,医
療機関等において医療のために使用されるもの
対象事業者
 医療用具の製造業者,輸入販売業者及び販売業者
医療機関等に対する景品類の提供の制限
(ア)  医療用具の取引を不当に誘引する手段として次のような景品類の
提供を禁止する。
 医療機関等に所属する医師等に対する金品,旅行招待,きょう
応,便益労務等
 医療機関等に対して無償で提供する医療用具,便益労務等.
(イ)  ただし,次に掲げるものはその制限を受けない。
 自社の取り扱う医療用具の適正使用,緊急対応時のために必要
な物品又はサービスの提供
 医学情報その他自社の取り扱う医療用具に関する資料,説明用
資材等の提供
 施行規則で定める基準による試用医療用具の提供
 市販後調査,医学的調査・研究の報酬及び費用の支払
 自社の取扱商品の講演会等に際して提供する過大でない範囲で
の景品類の提供
規約の変更
 平成10年度において変更の認定を行った規約は4件(景品規約1件,表
示規約3件)である。
(1) 景 品 関 係
新聞業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
(平成10年8月24日認定 公正取引委員会告示第17号)
 総付景品を取引価額の100分の8又は3か月分の購読料金の100分の8
のいずれか低い価額の範囲とし,編集企画に関する景品類の最高額を3
万円を超えない額とした。
(2) 表 示 関 係
ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約
(平成10年6月11日認定 公正取引委員会告示第10号)
 栄養改善法の改正に伴い,栄養成分又は熱量に関する表示を行う場
合の規定を追加した。
 ローヤルゼリーの表示に関する公正競争規約
(平成10年6月11日認定 公正取引委員会告示第11号)
 栄養改善法の改正に伴う特殊栄養食品の規定の削除等を行った。
銀行業における表示に関する公正競争規約
(平成10年6月19日認定 公正取引委員会告示第12号)
 一般消費者に対する適切な情報提供を行うため,個別の金融商品ご
とに「説明書」を店頭に据え置くことを条件としてテレビ等の媒体の
特性に応じた必要表示事項を新たに規定し,一般消費者に誤認を与え
ることのないようにした上で,あらゆる金融商品についての比較広告
を可能にする等の改正を行った。
規約の廃止
 平成10年度は,次の規約について,運用機関が解散することに伴い,廃
止する旨の報告があった。
ビール卸売業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
(平成11年3月31日廃止 平成11年公正取引委員会告示第6号)
公正取引協議会等に対する指導
 当委員会は,公正取引協議会(規約の運用を目的として,規約に参加す
る事業者及び事業者団体により結成されているもの。以下「協議会」とい
う。)に対し,規約の適正な運用を図るため,協議会の行う事業の遂行,
事業の処理等について指導を行っている。
 平成10年度においては,協議会が行った規約の遵守状況調査,商品の試
買検査会,審査会等について必要な指導を行うとともに,各都道府県の
行った規約対象商品の試買検査の結果について,協議会に対し,問題点の
処理,改善等について指導を行った。
 また,協議会は,規約の実施上必要な事項について,規約の定めるとこ
ろにより,施行規則,運用基準等を設定し,規約の円滑な運用を期してい
るが,これら施行規則等の設定・変更に当たっても,当委員会は積極的に
指導を行っている。
 なお,各協議会の業務の推進及び連携・協力を密接にし,規約の適正か
つ円滑な施行を図るため,社団法人全国公正取引協議会連合会に対して,
①規約遵守状況調査,②協議会等の会員に対する研修業務,③規約制度の
普及・啓発業務及び④強調表示のデータベース化について委託を行った。
 また,平成11年1月27日に公正取引協議会事務局長会議を開催し,各協
議会共通の問題点の検討,事務処理の改善の検討等を行った。

第5 都道府県における運用状況

概 要
 平成10年度において都道府県が処理した景品表示法違反事件は677件で
ある。違反行為の未然防止に大きな役割を果たしている事前相談の件数は
2316件であり,その内容をみると,景品関係では,提供できる景品類の限
度額に関する相談が多く,表示関係では,二重価格表示や食品などの表示
に関する相談が多かった。
違反事件の処理状況
 平成10年度においては,都道府県知事が景品表示法第9条の2の規定に
基づいて行った指示はなかった。また,注意の件数は677件(景品200件,
表示477件)となっており,このうち過大な景品関係では,懸賞景品告示
及び総付景品告示違反事案が,不当表示関係では,価格表示に関する事案
が相当数を占めている。
その他の活動
 公開試買検査会については,すべての都道府県が開催しており,その対
象となった品目は,食品類が中心となっている。これを品目別にみると表
示の公正競争規約が設定されているものでは,食肉,観光土産品,チュー
インガム等が,また,設定されていないものでは,ジャム類,緑茶類,レ
トルトパウチ食品等が取り上げられている。
 また,各都道府県は,広報用パンフレットの作成,一般消費者・事業者
等に対する説明会の開催等景品表示法に関する普及・啓発活動に力を入れ
るとともに,市町村等関係公的機関との協力体制の整備に努めている。
都道府県に対する指導
 当委員会は,都道府県における景品表示法の円滑・適正な運用を確保す
るために,運用解釈の明確化,全国都道府県景品表示法主管課長会議及び
ブロック別都道府県景品表示法担当者連絡会議の開催,初任者研修会の開
催,都道府県が行う公開試買検査会及び景品表示法説明会への出席その他
経常的に連絡・指導を行っている。