第15章 国際関係業務

第1 二国間協議への対応

日米包括経済協議
(1) 競争政策に関する議論への対応
 競争政策に関しては,日米間の新たな経済パートナーシップのための
枠組において,規制緩和及び競争政策に関する日米間の「強化されたイ
ニシアティブ」の下で議論が行われている。
 平成10年5月15日の第1回共同現状報告の公表以降,4回の専門家会
合(課長レベル)(平成10年10月,同年11月,平成11年2月,同年4
月)と3回の上級会合(次官レベル)(平成10年11月,平成11年3月,
同年4月)が開催され,平成11年5月3日の日米首脳会談に際して,第
2回共同現状報告が公表された。
 同報告書においては,競争政策に関係する日本側措置として,競争政
策の積極的推進への取組(民民規制の取組等),民事的救済制度の検
討,談合取締強化・入札心得改正等が挙げられている。
(2) その他の協議への対応
 個別業種の協議としては,日米二国間で,板ガラス,政府調達(コン
ピュータ,スーパーコンピュータ,建設等),保険等についての会合が
開催されている。当委員会は,競争政策の観点から,これらの会合に必
要に応じ対応しており,外国企業の我が国市場への参入に当たり反競争
的行為があった場合にはこれに厳正に対処することとしている。
その他の二国間協議
 日・EU規制緩和対話等その他の二国間協議について,当委員会は,競
争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第2 二国間協力関係

海外競争当局との二国間意見交換
 当委員会は,我が国と経済的交流が特に活発である国・地域の競争当局
との間で競争政策に関する意見交換を定期的に行っている。
 平成10年度における意見交換開催状況は,次のとおりである。
競争分野の協力に関する協定
 近年,企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事
案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等
が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間協力の強化の必要性が
高まっている。こうした中,政府は,平成10年9月22日,米国政府との間
で競争分野の協力に関する協定を締結するための交渉を開始する旨発表し
た。その後,日米両国間において5回にわたり交渉を行った結果,平成11
年5月3日,ワシントンD.C.で開催された日米首脳会談に際し,交渉
当事者間において実質合意に至ったことが公表された。
 実質合意されたこの協定の主な内容は,次のとおりである。
① 通  報: 両国の競争当局は,相手国の重要な利益に影響を及ぼ
し得る執行活動について通報する。
② 協  力: 両国の競争当局は,自国の法令及び重要な利益と整合的
な範囲内で,相手国の競争当局に対し支援を行う。
③ 調  整: 両国の競争当局は,関連する事案について双方が執行活
動を行っている場合は,執行活動の調整を検討する。
④ 積極礼譲: 一方国の競争当局は,相手国の領域内の反競争的行為が
自国の重要な利益に悪影響を及ぼすと考える場合は,相
手国の競争当局に対し適切な執行活動を開始するよう要
請することができる。
⑤ 消極礼譲: 両国政府は,執行活動の全段階において相手国の重要な
利益を慎重に考慮する。

第3 多国間関係

 O E C D
(1) 競争政策委員会
 競争政策委員会(Committee on Competition Law and Policy)
は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,1961年12月に設
立された制限的商慣行専門家委員会が1987年に改組されたものであ
る。我が国は,1964年のOECD加盟以来,その活動に参加してきて
いる。競争政策委員会は,原則として年2回本委員会を開催し,ま
た,その下に各種の作業部会等を設けて,随時会合を行っている。
 本年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
 平成10年6月の第74回本委員会においては,オーストリア,カナ
ダ,イタリア,ニュー・ジーランド及びノールウェーが年次報告に基
づいて説明を行ったほか,ドイツ及びイギリスを審査担当国としてベ
ルギーの年次報告に対する国別審査が行われた。また,規制と競争当
局の関係に関するラウンドテーブル討議及び政府調達に関するラウン
ドテーブル討議が開催されたほか,オランダ及び米国を対象国として
規制改革国別審査が行われた。
 平成10年10月の第75回本委員会においては,アルゼンティン,ブラ
ジル及びロシアが年次報告に基づいて説明を行ったほか,ハンガリー
及びオランダを審査担当国としてギリシャの年次報告に対する国別審
査が行われた。また,購買力に関するラウンドテーブル討議が開催さ
れたほか,我が国及びメキシコを審査対象国として規制改革国別審査
が行われた。
 競争政策委員会に属する各作業部会等の本年度における主要な活動
は,次のとおりである。
(ア)  競争と貿易に関する合同会合では,競争政策委員会の作業部会と
貿易政策委員会の作業部会が,合同で,競争政策と貿易政策の連関
についての検討を行っている。平成10年の6月会合においては,垂
直的取引制限,外国事業者の権利などについて検討が行われた。平
成10年の10月会合においては,垂直的取引制限,国家所有独占など
について検討が行われた。平成11年の2月会合においては,WTO
基本電気通信合意の影響,合併の評価と市場アクセスの問題などに
ついて検討が行われた。
(イ)  2作業部会では,平成10年の6月会合においては保険業につい
て,同年の10月会合においては放送業について,平成11年の2月会
合においては郵便事業についてそれぞれラウンドテーブル討議が開
催された。
(ウ)  第3作業部会では,平成10年の6月会合においては積極礼譲に関
して,同年の10月会合においては水平的ボイコットについて,それ
ぞれラウンドテーブル討議が開催された。また,平成11年の2月会
合においては,競争法下で救済を受ける権利などについて検討が行
われた。
(2) 消費者政策委員会
 消費者政策委員会(Committee on Consumer Policy)は,加盟
国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力
の場として,昭和44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置するこ
ととされた。この期限は,その後,7回の延長決定を経て平成13年末
までとなっている。消費者政策委員会は,原則として年2回本委員会
を開催し,また,その下に各種の作業部会等を設けて随時会合を行っ
ている。
 平成11年3月現在では,電子商取引における消費者保護に関するプ
ロジェクトチームが結成されている。
 平成10年度は,電子商取引等を議題として,平成10年9月3日から
4日にかけて第55回本委員会が,平成11年3月23日から24日にかけて
第56回本委員会が開催された。
(3) 規制改革国別審査
 我が国の提唱により,平成7年にOECDにおいて規制改革の分析作
業が開始され,平成9年のOECD閣僚理事会に報告書が提出された。
これを受け,平成10年から規制改革国別審査が行われることとなり,第
1回は日本,米国,オランダ及びメキシコの4か国が被レビュー国と
なった。
 規制改革国別審査では,対象国の規制改革に関して,3分野(公共部
門,競争政策,市場開放)及び2部門(電力,電気通信)について分析
が行われた。このうち,規制改革における競争政策及び競争法執行の役
割については競争政策委員会で評価が行われたほか,その他の分野・部
門についても関係委員会で評価が行われた。関係各委員会での議論及び
平成11年3月に開催されたアドホック会合を経て,これらを取りまとめ
た報告書がOECD事務局の責任において作成され,平成11年4月に公
表された。我が国を対象とする報告書のうち,第3章(規制改革におけ
る競争政策及び競争法執行の役割)の骨子は次のとおりである。
 W T O
(1) 競争分野における取組
 平成7年4月のマラケシュ閣僚会議議長サマリーにおいては,貿易と
その他の分野(競争,投資等)との相互関係を分析することの重要性が
強調された。その後,平成8年12月のシンガポール閣僚宣言において,
これらの問題についての作業指針が画定された。貿易と競争について
は,①貿易と競争政策の相互作用を検討するための作業部会を設置する
こと,②2年間の期限で(すなわち平成10年末まで)検討を行った上
で,その後の進め方について決定すること,③多数国間の規律に関し将
来の交渉を行うかどうかは,WTO加盟国における明示的な合意が必要
であること等が定められた。
(2) 貿易と競争政策の相互作用に関する作業部会
 平成9年7月以降平成11年3月まで7回の作業部会が開催され,競争
政策が貿易に与える影響及び貿易措置が競争に与える影響の双方の観点
からの作業が行われた。我が国は,「競争政策が貿易に与える影響」及
び「貿易政策が競争に与える影響」の双方をバランスのとれた形で取り
上げるべきとの立場をとり,当委員会は,特に「競争政策が貿易に与え
る影響」の議論に貢献してきた。同作業部会の平成11年以降の取扱いに
ついては,そこでの作業内容と関連して様々な意見が出されたが,平成
10年12月の一般理事会において,同作業部会の継続が決定された。ま
た,平成11年においては,開催することができる同作業部会の数が限ら
れることにかんがみ,議題は焦点を絞ったものとし,その具体的な分野
として,①内国民待遇,透明性,最恵国待遇というWTOの基本原則の
競争政策への適用及び競争政策のWTO基本原則への適用,②技術協力
を含めた協力推進のための方策,③WTOの目的達成に向けた競争政策
の貢献の3点とすることが合意された。これに基づき,平成11年度に入
り,2回の作業部会が開催され,議論が行われたところである。
 平成10年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
 A P E C
(1) 競争分野における取組
 平成6年のインドネシア・ボゴールでの非公式首脳会談において,ア
ジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を図るため,「先進経済は2010年
までに,開発途上経済は2020年までに,アジア太平洋地域における自由
で開かれた貿易及び投資という目標の達成を完了する」こと等を内容と
する「ボゴール宣言」が採択された。
 続く平成7年に大阪で開催された第7回閣僚会議(11月16日,17日)
において,「ボゴール宣言」の目標を具体化するための行動指針(以下
「大阪行動指針」という。)が採択された。この「大阪行動指針」にお
いて取り上げられた15の個別分野の一つが競争政策分野であった。
(2) 個別行動計画及び共同行動計画の改定
 平成8年に,フィリピン・マニラで開催された第8回閣僚会議(11月
22日,23日)において,「大阪行動指針」に基づく分野別の具体的な行
動計画として「マニラ行動計画」が採択された。「マニラ行動計画」
は,APEC参加国・地域が協調して取り組む「共同行動計画」と各
国・地域が自主的に取り組む「個別行動計画」とから成り立っている。
競争政策分野では,「共同行動計画」として,技術協力,政策対話,情
報交換の実施等が掲げられており,「個別行動計画」として,我が国
は,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処等競争政策の一層積極的な
展開や技術支援の実施等を掲げている。平成10年度においては,前年に
引き続き,「共同行動計画」及び「個別行動計画」が改定された。
(3) 競争政策・規制緩和ワークショップ
 平成7年7月に,「ボゴール宣言」の実施のために競争政策分野を一
つの項目として位置付け,今後APECの活動の一環として競争政策に
関する検討を行うことを目的として,競争法・政策会合が開催された
が,翌平成8年には,「大阪行動指針」に掲げられた15の個別分野中,
競争政策と規制緩和に関する2つの会合は,相乗効果が認められるとし
て,それらを一つにまとめて扱うことが決定された。このため,競争
法・政策会合は,競争政策・規制緩和ワークショップに組織替えされ
た。
 平成10年度においては,マレイシア・クアンタンにおいて,平成10年
9月7日及び8日に競争政策・規制緩和ワークショップが開催され,
「競争法・政策の執行へのアプローチ」,「競争法の適用除外制度」等を
テーマとして活発な意見交換が行われた。
(4) PFP競争政策研修プログラム
 APECにおける経済・技術協力を一層効果的に推進するためのメカ
ニズムである「前進のためのパートナー(P F P:Partners for
Progress)」の一環として,日本とタイとの共催で競争政策に関する研
修プログラムが,平成8年度から5か年計画で実施されている。
 第3回目の開催に当たる平成10年度は,平成11年3月1日~4日,タ
イ・チェンマイにおいて,APECの開発途上国・地域の競争当局の中
堅職員を主な対象として開催された。
 UNCTAD
(1)  昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,
「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規
則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この「原則と規則」
は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択
された。
 「原則と規則」は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展
に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿
易と経済発展に資することを目的としており,その主な内容は次のとお
りである。
 国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす
ことになり,市場アクセスを制限し,又は競争を不当に制限すること
となる場合に,
(ア)  競争企業間の協定,取決めによる次のような行為を行わないこ
と。
①価格協定,②入札談合,③市場・顧客分割,④販売・生産数量割
当等
(イ)  市場支配力の優越的地位を濫用することにより,次のような行
為・行動を行わないこと。
①競争者を排除するための原価以下の価格付け等による競争者に対
する略奪的行為,②価格差別,③合併・取得,④輸出商品の再販売
価格維持,⑤並行輸入の阻止等
 事業が行われている国の所管官庁が制限的商慣行を規制する際,企
業はその所管官庁と協議・協力し,情報を提供すること。
(2)  「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情
報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門家会合」
が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政
策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議に
より,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更され
た。
 平成10年度は,7月29日~31日に第1回の競争法・政策に関する政府
間専門家会合が開催され,「原則と規則」に係る研究を含む競争法・政
策についての協議が行われた。
(3)  同専門家会合とは別に,「原則と規則」をレヴューするための国連会
議が,1985年以降,5年ごとに開催されている。次回は2000年9月に開
催される予定である。
 アジア・大洋州の競争当局との協力(アジア・大洋州独占禁止政策情報
センター)
 競争政策担当者間の意見交換を目的として,アジア・大洋州独占禁止政
策会議が昭和54年からおおむね5年に1回開催されており,アジア・大洋
州地域の15か国(注)が参加している。昭和55年9月には,アジア・大洋
州独占禁止政策情報センターが,当時の当委員会事務局(現事務総局内)
に設置された。同センターは,競争政策に関する情報を収集・提供するこ
とを通して,参加国の競争政策の発展に寄与している。
(注)  この15か国は,オーストラリア,中国,インド,インドネシア,韓
国,マレイシア,モンゴル,ニュー・ジーランド,パキスタン,フィ
リピン,シンガポール,スリ・ランカ,タイ,ヴィエトナム及び日本
である。

第4 海外の競争当局等に対する技術協力

 近年,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・政
策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新た
に競争法制を導入する動きが活発になっている。当委員会は,これら諸国の
競争当局等に対し,研修の実施等による技術協力を行っている。具体的な協
力の概要は次のとおりである。

開発途上国競争政策研修
 平成6年度から5年間の予定で,JICAを通して,競争法を導入しよ
うとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職
員を招へいし,競争法・政策に関する研修を行っている。
 平成10年度は,8月31日~9月27日に,アジア諸国等14か国15名(中
国,インド,インドネシア,ケニア,韓国,リトアニア,マレイシア,
ミャンマー,パナマ,フィリピン,ポーランド,タイ,タンザニア,ヴィ
エトナム)の競争当局等の中堅職員を対象に,研修を実施した。なお,同
研修は平成11年度以降,更に10年間継続されることとなっている。
中国競争政策研修
 平成10年度から5年間の予定で,JICAを通して,中国に対し,競争
法・政策及び関連の法律に関する研修を開始した。
 平成10年度は9月28日~10月30日に,中国の競争当局に当たる国家工商
行政管理局の中堅職員10名を対象に,研修を実施した。
タイ競争政策研修
 平成10年11月25日~12月11日に,JICAを通して,タイの競争当局に
当たる商務省国内取引局の中堅職員8名を対象に,研修を実施した。
専門家派遣
 平成10年度においては,JICAを通して,当委員会の職員等を競争法
の専門家として,タイ,リトアニア,マレイシア及びヴィエトナムに派遣
した。
その他の技術協力
 このほか,外国政府又は国際機関が実施する競争政策に関するセミナー
(韓国公正取引委員会・OECD共催の競争政策研修プログラム,中国国
家経済貿易委員会・中国国家工商行政管理局・OECD主催セミナー,U
NCTAD主催のセミナー等)において,講師の派遣等を行った。

第5 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,
競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成10年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中
心として,競争当局の政策動向及び議会における競争関係の立法活動等につ
いて調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(諸外国の競争法について
は,付属資料10参照。)。