平成一〇年(判)第二八号
審判開始決定書 |
川崎市幸区堀川町七二番地
被審人 株式会社東芝
右代表者 代表取締役 西 室 泰 三 |
東京都港区芝五丁目七番一号
被審人 日本電気株式会社
右代表者 代表取締役 金 子 尚 志 |
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公正取引委員会は,右の者らに対する私的独占の禁止及び公正取引の確保に
関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反被疑事件につき、審判手続を
開始する。 |
第一 事実 |
一 |
1 |
被審人は株式会社東芝及び同日本電気株式会社の二社(以下「二社」と
いう。)は、それぞれ、肩書地に本店を置き、郵便番号自動読取区分機
類の製造販売業を営む者である。 |
2 |
二社は、我が国において、郵便番号自動読取区分機類のうち、郵便物
自動選別取りそろえ押印機、選別台付自動取りそろえ押印機、郵便物あ
て名自動読取区分機、新型区分機、新型区分機用情報入力装置、バーコ
ード区分機及び区分機用連結部(以下これらを「区分機類」という。)
のほとんどすべてを製造販売している。 |
3 |
(一) |
郵政省は、区分機類を、昭和六二年度から平成六年度までは国の物
品等又は特定役務の調達手続きの特例を定める政令(昭和五五年政令第
三〇〇号。以下「特例政令」という。)の規定が適用される指名競争
入札(以下単に「指名競争入札」という。)の方法により、また、平
成七年度以降は特例政令の規定が適用される一般競争入札(以下単に
「一般競争入札」という。)の方法により発注しており、指名競争入
札に当たっては、あらかじめ競争参加資格者として登録した者及び未
登録者にあっては当該入札について競争参加資格者の申請をした者の中
から、当該入札の参加資格要件を満たすものを指名競争入札の参加者
として指名しており、また、一般競争入札に当たっては、公告により
入札参加希望者を募り、入札参加希望者であって右登録をしたもの及
び未登録者にあっては当該入札について競争参加資格の申請をした者
の中から、当該入札の参加資格要件を満たすものを一般競争入札の参
加者としている。 |
(二) |
郵政省は、区分機類のほとんどすべてについて、機種、性能等を勘
案してグループに分け、それぞれのグループを一物件として発注して
いる。 |
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二 |
1 |
二社は、郵政省が指名競争入札の方法により発注する区分機類につい
て、次のような状況の下で、それぞれ、同省の全発注量のおおむね半分
ずつを安定的に受注してきた。
(一) |
二社は、それぞれ、入札執行前に、郵政省の調達事務担当官等から
同省の購入計画に係る各社ごとに分けられた区分機類の機種別台数、
配備先郵便局等に関する情報の提示を受け、又は同省の調達事務担当
官との当該区分機類の納入日程等の調達の過程において右と同様の情
報の提示(以下これらの情報の提示を「情報の提示」という。)を受
けており、二社は、それぞれ、情報の提示を受けた区分機類について、
同省が自社に発注する意向を有していると認識していた。 |
(二) |
区分機類の入札の執行に際しては、いずれかの物件についても二社の
みが郵政省から指名を受けていた。 |
(三) |
二社は、それぞれ、入札の官報公示及び入札説明書に添付された仕
様書(以下単に「仕様書」という。)と情報の提示を受けた区分機類
とを照合した上で、自社が情報の提示を受けた区分機類の物件につい
ては入札し、自社が情報の提示を受けていない区分機類の物件につい
ては入札を辞退していた。 |
(四) |
その結果、二社は、それぞれ、情報の提示を受けた区分機類の物件
のすべてについて、一社のみが入札に参加し、落札するまで入札を繰
り返すことなどにより、郵政省が定める当該物件の予定価格にほぼ近
い価格で受注していた。 |
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2 |
(一) |
二社は、平成六年春ころから、郵政省の調達事務担当官等から、外
国事業者に入札参加者の機会を広げる等のため区分機類を一般競争入札
の方法により発注する方針が示されてきたところ、同年四月一五日こ
ろ、東京都千代田区所在の郵政省の庁舎において開催された同省の調
達事務担当官等及び二社の部長級の者数名による勉強会と称する会合
において、同担当官等から、平成七年度以降は区分機類を一般競争入
札の方法により発注する見通しである等の説明を受けた。 |
(二) |
二社は、平成六年九月二日ころ、前記郵政省の庁舎において開催さ
れた同省の調達事務担当官等及び二社の部長級の者数名による勉強会
と称する会合において、同担当官等から
(1) |
郵政省内で区分機類の購入価格が高い等との批判がでており、価
格低廉化等を図るために、平成七年度以降の区分機類の発注方法を
一般競争入札にせざるを得ない |
(2) |
指名競争入札の方法により発注していたときには二社それぞれの
区分機類に対応して作成してきた仕様書を一本化しなければならな
い |
(3) |
一般競争入札とすることに伴い、発注する区分機類を機種別に一
物件にまとめて発注する方法もあり、この場合、当該物件を受注で
きなかった者が受注した者の下請になることも考えられる |
旨の説明を受けた。
二社は、これに対し、区分機類の発注方法を一般競争入札とするこ
とについては、さしたる根拠がないにもかかわらず一般競争入札にな
じまない旨を主張して反対し、価格低廉化については、情報の提示が
早期に行われれば対応が可能であるとして一般競争入札の方法による
発注とは相容れない情報の提示を早期に行うことを要請し、また、一
物件にまとめて発注することについては、受注できなかった者が受注
した者の下請となることは耐えられないとして反対した。
また、二社は、一般競争入札の方法により発注された場合、従来ど
おり二社がおおむね半分ずつ安定的に受注できなくなることを懸念
し、右会合後においても、二社の部長級の者が郵政省の調達事務担当
官に対し、区分機類を一般競争入札の方法により発注することを再考
すること及び情報の提示を早期に行うことを要請した。 |
(三) |
二社は、平成七年一月二六日ころ、前記郵政省の庁舎において開催
された同省の調達事務担当官及び二社の課長級の者数名による会合に
おいて同担当官から
(1) |
平成七年度以降の区分機類の発注方法を一般競争入札とし、仕様
書については指名競争入札の方法により発注していたときと異なり
一本化する |
(2) |
一般競争入札の方法により発注する場合においても、指名競争入
札の方法により発注していたときと同様に、二社に対し入札執行前
に情報の提示を行う |
旨の区分機類の発注に関する方針の説明を受け、反対することなくこ
の方針を受け入れた。 |
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三 |
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二社は、前記二のような状況の下で、郵政省が平成七年四月一日以降一
般競争入札の方法により発注する区分機類について、指名競争入札の方法
により発注されていたときと同様におおむね半分ずつを安定的に受注する
等のため、入札執行前に同省の調達事務担当官等から情報の提示を受けた
者を当該区分機類の物件を受注すべき者(以下「受注予定者」という。)
とし、受注予定者のみが当該物件の入札に参加し、受注予定者以外の者は
当該物件の入札には参加しないことにより、受注予定者が受注できるよう
にする旨の共通の認識の下に、受注予定者を決定し、受注予定者が受注で
きるようにしていた。
実際に、二社は、郵政省が平成七年四月一日以降一般競争入札の方法に
より発注する区分機類について、二社のうち入札執行前に同省の調達事務
担当官等から情報の提示を受けた者のみが当該物件の入札に参加し、情報
の提示を受けなかった者は当該物件の入札には参加していなかった。 |
四 |
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二社は、前記三により、郵政省が平成七年四月一日以降一般競争入札の
方法により発注する区分機類のほとんどすべてを受注し、また、二社は、
それぞれ、情報の提示を受けた区分機類の物件のすべてについて、一社の
みが入札に参加し、落札するまで入札を繰り返すことなどにより、同省が
定める当該物件の予定価格にほぼ近い価格で当該発注量のおおむね半分ず
つを安定的に受注していた。 |
五 |
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平成九年一二月一〇日、本件について、当委員会が独占禁止法の規定に
基づき審査を開始したところ、郵政省の調達事務担当官等が情報の提示を
行わなくなったこと等により、二社は、同日以降、前記三の共通の認識に
基づく受注予定者を決定し受注予定者が受注できるようにする行為を取り
やめている。
その結果、同日以降、同省が一般競争入札の方法により発注する区分機
類の物件について、二社が共に入札に参加することが行われるようになっ
た。 |
第二 法令の適用 |
前記事実によれば、二社は、共同して、郵政省が一般競争入札の方法によ
り発注する区分機類について、受注予定者を決定し、受注予定者が受注でき
るようにすることにより、公共の利益に反して、郵政省が一般競争入札の方
法により発注する区分機類の取引分野における競争を実質的に制限していた
ものであって、これは、独占禁止法第二条第六項に規定する不当な取引制限
に該当し、独占禁止法第三条の規定に違反するものである。 |
平成一〇年一二月四日 |
公正取引委員会 |
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委員長 |
根 來 泰 周 |
委 員 |
柴 田 章 平 |
委 員 |
糸 田 省 吾 |
委 員 |
黒河内 久美 |
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