第12章 下請法に関する業務

第1 概説

 下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の濫用行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方法の規制の特別法として昭和31年に制定された。
 下請法では,親事業者が下請事業者に物品の製造又は修理を委託する場合,親事業者に対し下請事業者への発注書面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,(1)委託した給付の受領拒否(第4条第1項第1号),(2)下請代金の支払遅延(同項第2号),(3)下請代金の減額(同項第3号),(4)返品(同項第4号),(5)買いたたき(同項第5号),(6)物品等の購入強制(同項第6号),(7)有償支給原材料等の対価の早期決済(同条第2項第1号),(8)割引困難な手形の交付(同項第2号)などの行為を行った場合には,当委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,下請夢業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定めている。
 中小企業に関する施策の対象とする中小企業者の範囲を拡大すること等を内容とする「中小企業基本法等の一部を改正する法律」は,平成11年12月3日に公布された。同法において下請法の一部が改正され,親事業者と下請事業者を画する資本の額等の基準のうち,「1億円」を「3億円」に改めるものとされた(改正下請法の施行日は,平成12年3月3日。)(第1章 第3参照)。

第2 違反事件の処理

 下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告が期待できないため,当委員会では,中小企業庁の協力を得て,主として製造業を営む親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施することにより,違反行為の発見に努めている。
 これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行為を取りやめさせるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じさせている(第1表,第2表,附属資料8―1表及び8―2表)。
1 書面調査
 平成11年度においては,資本金3000万円以上の主として製造業者12,453社及び資本金1000万円超3000万円未満の製造業者2,000社の合計14,453社に対して書面調査を実施した。また,資本金3000万円以上の親事業者と取引している下請事業者のほぼ4分の1に相当する70,554社を対象に書面調査を実施した(第1表)。

第1表   書面発送件数


  違反事件の新規発生件数及び処理件数
(1)  平成11年度において,新規に発生した下請法違反被疑事件は1,161件である。このうち,書面調査により職権探知したものは1,135件であり,下請事業者からの申告によるものは26件(新規発生件数全体の2.2%)であった(第2表)。
(2)  平成11年度において,当委員会が下請法違反被疑事件を処理した件数は,1,170件であり,このうち,1,104件(処理件数全体の94.4%)について違反行為又は違反のおそれのある行為が認められたため,3件について同法第7条第2項の規定に基づき勧告を行い,1,101件について警告の措置を採った(第2表)。

第2表   下請法違反事件新規発生件数及び処理件数

 また,下請法違反を行った親事業者に対しては,違反行為の再発防止のために,社内研修,監査等により社内体制を整備するよう指導した。
  違反行為態様別件数
 平成11年度において措置した下請法違反事件を違反行為態様別にみると,手続規定違反が960件(違反行為態様別件数全体の58.2%)となっている。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付していない,又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が826件(手続規定違反件数全体の86.0%)となっている。
 また,実体規定違反は,690件(違反行為態様別件数全体の41.8%)となっており,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が234件(実体規定違反件数全体の33.9%),手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難な手形の交付(第4条第2項第2号違反)が191件(同27.7%),下請代金の減額(第4条第1項第3号違反)が132件(同19.1%),受領拒否(第4条第1項第1号違反)が21件(同3.0%)となっている(第3表)。
 下請代金の支払遅延事件については,平成11年度中に,親事業者33社により総額1314万円の遅延利息が732社の下請事業者に支払われており(第4表),減額が認められた事件については,親事業者39社により総額1億5614万円が430社の下請事業者に返還されている(第5表)。
  勧告又は警告を行った違反事例
 平成11年度に勧告又は警告を行った事件のうち,主なものは次のとおりである。

(1)  勧告の事例

(2)  警告を行った主な事例




第3表   下請法違反行為態様別件数

(注)  1事件当たり2以上の違反を行っている場合があるので,合計欄の数字と第2表の「措置」件数とは一致しない。
 なお,四捨五入のため,( )内の数値の合計は100.0とならない。

第4表   下請代金の支払遅延事件の遅延利息の支払状況


第5表   下請代金の減額事件の減額分の返還状況

第3 下請代金の支払状況等

 当委員会は,定期親事業者調査により報告された結果を基に,昭和33年度以降,毎年,下請代金の支払状況等を取りまとめ,これを公表している。平成11年度において親事業者調査の対象とした資本金3000万円以上の製造業者等について,その下請取引の概要及び下請代金の支払状況をみると,次のとおりである。
1 下請取引の実態
(1)  下請取引をしている割合
 下請取引をしている親事業者の割合は67.9%であった。
 下請取引をしている親事業者の割合を業種別にみると,「輸送用機械器具製造業」(91.0%)及び「一般機械器具製造業」(90.7%)において9割を超えているが,「木材・木製品製造業」(29.6%)及び「石油・石炭製品製造業」(33.8%)などの業種ではその割合が低い。
(2)  取引先下請事業者数
 親事業者の1事業所当たりの取引先下請事業者の数は平均20社である。
 1事業所当たりの取引先下請事業者の数を業種別にみると,「出版・印刷・同関連産業」(1事業所当たり66社),「精密機械器具製造業」(同39社),「輸送用機械器具製造業」(同35社),「電気機械器具製造業」(同29社)であり,概して下請取引をしている割合の高い業種では取引先下請事業者数も多く,下請取引をしている事業者の割合の低い「食料品製造業」(同5社),「木材・木製品製造業」(同7社),「化学工業」(同7社)などでは取引先下請事業者数も少ない傾向にある。
2 下請代金の支払状況等
(1)  支払期間
 納品締切日から支払日までの月数(以下「支払期間」という。)を事業所ごとにみた場合の平均は0.85か月(25.5日)となっており,総体としてみると,納品締切日を月末とした場合,下請代金は翌月26日までに支払われていることになる(附属資料8―4表)。
 支払期間が1か月を超えるもの(この場合は,納品されてからその代金が支払われるまでの期間が60日を超えることがあるので,下請法第4条第1項第2号の規定に違反するおそれがあるものである。)は,4.5%である(附属資料8―4表)。
 なお,これらのケースはすべて違反被疑事件として調査の対象としている。
(2)  現金支払割合
 下請代金のうち,現金で支払われる割合(以下「現金支払割合」という。)を親事業者の事業所ごとにみたものの平均は66.5%であり,総体としてみると,下請代金の過半は現金で支払われているということになる(附属資料8―4表)。
(3)  手形期間
 下請代金を手形により支払っている場合の手形期間(親事業者の各事業所が交付した手形のうち,最も期間が長い手形の手形期間について集計)をみると,以下のとおりである(附属資料8―4表)。
「手形期間が90日以下のもの」  20.0%
「手形期間が90日超120日以下のもの」  67.2%
「手形期間が120日超のもの」  12.8%
 なお,「手形期間が120日超のもの」は違反被疑事件として調査の対象としている。
3 下請代金の支払状況の推移
 下諸代金の支払状況の推移をみると次のとおりであり,長期的には昭和40年代以降,徐々に改善されてきている。
(1)  支払期間は,昭和30年代は1.0か月(締切日から30日)を超えていたが,昭和40年代に入ると大幅に改善され,昭和50年代以降は0.8か月(締切日から24日)前後で推移している(附属資料8―5表)。
(2)  現金支払割合は,昭和40年代前半までは低下傾向にあったが,昭和40年代後半から徐々に高くなっており,近年は60%程度が現金で支払われる状態が定着していたが,平成11年度は幾分増加している(附属資料8―7表)。
(3)  120日を超える手形を交付している割合は,昭和40年代前半までは増加傾向にあったが,昭和45年度の約60%をピークに,それ以降は減少傾向にあり,昭和56年度以降は20%前後となっている。特に平成2年度以降は20%を下回る状態が続いている(附属資料8―6表)。

第4 下請法の普及・啓発等

  違反行為の未然防止及び再発防止の指導
 下請法の運用に当たっては,違反行為が生じた場合,これを迅速かつ効果的に排除することはもとより必要であるが,違反行為を未然に防止することも肝要である。このような観点から,当委員会は,以下のとおり各種の施策を実施し,違反行為の未然防止を図っている。
(1)  下請取引適正化推進月間
 毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同して,新聞,雑誌,テレビ,ラジオ等で広報活動を行うほか,全国各地において下請法に関する講習会を開催する等下請法の普及・啓発に努めている。
 平成11年度は,親事業者を対象に32都道府県(うち当委員会主催分18都道府県〔18会場〕)において講習会を開催した(受講者は当委員会主催分1,748名)。
 また,当委員会は,下請取引を適正化するためには,取引のもう一方の当事者である下請事業者にも下請法の趣旨内容を周知徹底する必要があることにかんがみ,昭和60年度以降,下請事業者を対象とした下請法講習会を実施しており,平成11年度において12道府県(15会場)で開催した(受講者数724名)。
(2)  下請法遵守の要請
 最近の我が国の景気は,厳しい状況をなお脱してはいないが,緩やかな改善を続けている。しかしながら,引き続く失業率の高水準での推移,民間設備投資の減少など,民間需要の回復力は弱く,また,依然として中小企業を取り巻く環境は厳しい状況にある。
 また,こうした厳しい経済情勢に加え,グローバリゼーションの進展,リストラ等親企業の事業再構築を背景として,企業間関係の変化が進展し,国内産業が構造変化する中で,下請中小企業は,親企業からの受注量の減少,単価の見直し等,非常に厳しい対応を迫られているところである。加えて,年末においては,金融繁忙期であることから下請中小企業の資金繰り等については厳しさを増すことが懸念され,さらに西暦2000年問題への対応に際し下請代金の支払遅延等が発生することも懸念されたため,平成11年12月14日,公正取引委員会委員長・通商産業大臣連名で資本金1億円以上の親事業者約8,420社に対し下請法の遵守を要請し,同時に関係約360団体に対し,傘下事業者への下請法の周知徹底等を要請した。
(3)  下請法運用協力団体との連携
 各業種における親事業者又は下請事業者の団体を下請法運用協力団体として登録(平成12年3月末現在99団体)し,これら協力団体に対し下請法についての説明会を開催したり,協力団体又は傘下の事業者が下請法遵守マニュアルの作成等を行う際に当委員会が資料提供等の便宜を図ることで,下請法違反行為の未然防止に役立てることとしている。
 平成11年度においては,平成11年9月に下請法運用協力団体会議を開催し,意見交換等を行った。
(4)  広報,相談・指導業務
 事業者等からの下請法に関する相談に応じるとともに,購買・外注担当者らに対する社内研修の実施及び購買・外注担当者向けの下請法に関する遵守マニュアルの作成を積極的に指導したほか,関係団体等の研修会への講師の派遣,資料の提供等を行い,下請法の普及・啓発を行った。
2 都道府県との相互協力体制
 下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県との協力体制を採ることが必要であることから,昭和60年4月から下請取引適正化に関し,都道府県担当者との連絡会議を開催するなどして,下請法の普及・啓発等の業務について協力を得ている。
 平成11年度においては,平成11年9月に都道府県下請企業行政担当課長会議を開催した。
3 下請取引改善協力委員
 下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降,当委員会の業務に協力する民間有識者に下請取引改善協力委員を委嘱している。平成11年度における下請取引改善協力委員は101名である。
 平成11年度においては,平成11年6月に全国会議を,平成12年2月及び3月に,ブロック別下請取引改善協力委員及び都道府県下請取引担当官合同会議をそれぞれ開催し,最近の下請取引の状況等について意見を交換した。

第5 建設業の下請取引における不公正な取引方法の規制

 建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは,建設業法(昭和24年法律第100号)第42条又は第42条の2の規定に基づき,建設大臣,都道府県知事又は中小企業庁長官が当委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができることとなっている。
 なお,平成11年度においては,措置請求はなかった。