第14章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化など,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。
 消費者の適正な商品選択を確保するためには,商品・サービスの品質や内容が消費者に適切に広告・表示されることが重要である。この点に関し,規制緩和推進3か年計画及び改定3か年計画においては,規制緩和後の市場の公正な競争秩序を確保するため,「商品・サービスの品質や内容について誤認を与える等により消費者の適正な選択を妨げる不当表示等に対して厳正・迅速に対処する」ことが決定されている。こうしたことから,当委員会は,独占禁止法や景品表示法を適正に運用することにより,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者モニター制度

1 概要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他当委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼する特定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるもので,昭和39年度から実施されている。
 平成11年度は,関東甲信越地区315名,北海道地区60名,東北地区90名,中部地区115名,近畿地区170名,中国地区76名,四国地区50名,九州地区106名,沖縄地区18名,合計1,000名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成11年度の消費者モニターの応募総数は11,381名,応募倍率は約11.4倍であった。
 平成11年度においては,5回のアンケート調査を実施し,消費者モニターの意見を聴取した。また,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めたほか,表示連絡会,試買検査会等への代表者の参加により,一般消費者としての意見を求めた。
2 活動状況
(1)  アンケート調査
 平成11年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
 証券投資信託の広告表示に関する実態調査について
 証券投資信託の広告表示に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
 新聞業における景品類の提供等に関する実態調査について
 新聞業における景品規制の遵守状況を把握するため,新聞購読の勧誘,契約の更新及び購読料の集金の際における景品提供の実態について調査を行った。
 自動車整備業等に関する実態調査について
 自動車の検査及び点検整備に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
 化粧品の購入実態調査について
 化粧品の購入に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
 環境に関する広告・表示の実態調査について
 事業者が生産・販売する商品の環境広告・表示に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
(2)  自由通信
 消費者モニターは,上記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時,当委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成11年度は合計3,287件の自由通信が寄せられた(第1表)。

第1表 消費者モニター通信状況


(3)  各種会合等への参加
 当委員会は,景品表示法に基づく公正競争規約の認定に当たり,各方面の意見を聴取するために開催する公聴会,表示連絡会等において,消費者モニターに出席を求め,一般消費者としての立場からの意見を求めている。また,消費者モニターに対し,都道府県等が実施する試買検査会への出席を求め,一般消費者としての立場からの意見を求めている。
 平成11年度は,表示連絡会6件,試買検査会36件の会合に消費者モニターが出席した(第2表)。

第2表 表示連絡会,試買検査会出席状況

第3 消費者取引の適正化

 当委員会は,消費者取引の適正化,消費者に対する適正な情報提供の観点から,広告・表示について調査を行ってきているが,平成11年度においては,証券投資信託(以下「投資信託」という。)における消費者取引の適正化を図る観点から,一般消費者に対する販売に当たっての広告表示の実態について調査を行った。
 消費者の適正な商品選択及び事業者間の公正な競争を確保する観点からの指摘事項は次のとおりであり,当委員会では,調査結果を踏まえて,関係団体に対し,表示の適正化のための取組について要請を行うとともに,消費者に対する情報提供の観点から,調査結果を公表した(平成11年8月)。
(1)  情報提供の重要性
 金融の自由化により金融商品の多様化が進み,消費者にとって金融商品の選択の範囲が広がってきている。この中で,投資信託についても,商品の種類が増加するとともに,従来の証券会社等に加え,平成10年12月以降は,銀行,保険会社等においても投資信託の販売が行われるようになってきている。
 しかし,投資信託は,元本保証がないなど預貯金とは異なる商品特性を持っており,また,運用手法,投資対象に応じた多様な商品があり,その種類が非常に多い等の特徴がある。
 一方,投資経験の浅い消費者にとっては,投資信託についての理解が必ずしも十分とはいえない面もある。
 これらを踏まえると,投資信託については,消費者の自己責任に基づく適正な商品選択と事業者間の公正な競争を確保する観点からは,一般消費者に対し,商品の内容について適切な情報提供が行われるようにすることが重要と考えられる。
(2)  事業者による表示の適正化
 リーフレット類の表示の適正化
 販売会社による各種説明資料の利用状況等を踏まえると,一般消費者が商品の内容について理解する上で,商品の概要を説明するリーフレット類における表示が重要と考えられる。今回の調査結果を踏まえると,一般消費者に対して誤認を与えることを防止するとともに,商品間の比較を容易にする観点から,リーフレット類の表示について留意すべき事項としては,次の点が挙げられる。
(ア)  元本・利回り保証に関する表示
 リーフレット類の表紙等において,投資信託の商品特性である元本保証がないこと,価格変動リスク・為替変動リスクがあること等の表示が行われているが,これらについては,ファンドの内容・特徴に係る説明と一緒に表示したり,明瞭に表示するなど消費者に分かりやすい方法で表示することが必要である。
(今回の調査では,ファンドの内容・特徴に係る説明と一緒にリスクの内容等を分かりやすく表示しているものもみられたが,リーフレット類の下隅に他の表示に比べて文字が小さく表示されているものもみられた。)
(イ)  ファンドの運用方法・収益性に関する表示
 運用手法,投資対象等の運用方法に関する表示は,消費者が各ファンドの内容,収益性を判断するための基礎となる情報であるため,できるだけ具体的に表示されることが望ましい。
(今回の調査では,投資対象に係る表示については,ファンドごとに記述の具体性に差がみられ,また,運用手法の説明についても,具体的な説明がないままに運用手法の独自性や先端性を強調しているため,その特徴が十分理解しにくい表示もみられた。)
 また,運用手法についての説明や収益性を具体的に示す運用目標(ベンチマーク)や過去の実績値についての数値・グラフ表示に当たっては,正確な表示を行い,事実に反してリスクが低減されたり,消費者に将来の成果を保証するものとの誤認を与えることのないようにする必要がある。
(今回の調査では,(1)ベンチマークの伸び率を強調することによって,当該ファンドの収益性について誤認を与えるおそれのある表示が行われているもの,(2)利回りや分配金の実績値について,課税前か課税後か表示が行われていないもの等もみられた。)
(ウ)  費用に関する表示
 販売手数料,信託報酬等の各種の費用については,投資信託を購入する際に一般消費者が実質的な収益を判断する上で必要な事項であり,また,ファンドの種類や販売会社によって,販売手数料,信託報酬等の費用の内容及びそれらの額が異なっている。このため,適正な商品選択が行われるようにする観点からは,当該ファンドを購入する際にどのような費用を要するかを体系的に分かりやすく表示することが適切である。
(今回の調査では,信託財産留保額,信託報酬及び外国投資信託を購入する際の口座管理料については,表示が行われていないものもみられた。)
(エ)  換金に関する表示
 金融商品の内容を評価する上で,運用実績等の収益性や費用の内容のほかに,換金の条件も重要な要素となる。このため,適正な商品選択が行われるようにする観点からは,換金できない期間(クローズド期間)の内容,換金の申出から現金化できるまでの期間等換金に係る条件について,分かりやすく表示することが適切である。
(今回の調査では,換金について制限があるにもかかわらず,その表示が行われていないものや,いつでも換金できると誤認を与えるおそれのある表示が行われているものもみられた。)
 自主基準の設定
 投資信託の表示に関しては,日本証券業協会,証券投資信託協会及び全国銀行公正取引協議会において自主基準が設定・運用されており,また,現在,日本証券業協会及び証券投資信託協会において,新しい表示基準の設定について検討が行われている。
 表示の適正化を図るためには,事業者による自主基準の設定も有効な手段であるが,自主基準の設定・運用に当たっては,消費者に対する適切な情報提供を推進するとともに,自主基準に伴う弊害を防止する観点からは,消費者や第三者の意見が十分反映されるようにすることが重要と考えられる。
 販売会社による商品内容の説明の適正化
 一般消費者に対し,投資信託の販売を行う場合には,販売会社は,投資信託の商品性やファンドの内容について,十分な説明を行い,消費者が商品内容を理解したことを確認した上で販売する必要がある。
 この観点からは,投資信託の販売に当たっては,口頭の説明のみによらず,受益証券説明書,目論見書,リーフレット類等の説明資料を利用して,消費者に誤認が生じないよう十分に説明を行うことが必要と考えられる。
(3)  消費者の適切な選択の必要性
 消費者が適正な商品選択を行うためには,消費者自身の取組が重要であり,消費者は,投資信託が不確実性を含んだ商品であるため,消費者の自己責任が求められる商品であることに留意し,商品の内容について十分理解した上で購入する必要がある。
 このため,消費者が投資信託を購入する際には,販売会社に対し十分な説明を求めることが必要であり,また,第三者が提供しているファンドの内容や運用実績の比較等についての情報を利用するなどして,ファンド間,販売会社間で商品比較を行い,選択を行うことが望ましいと考えられる。
(4)  関係団体に対する要請
 当委員会は,平成11年8月に,日本証券業協会,証券投資信託協会及び全国銀行公正取引協議会に対し,会員の表示の適正化に資するため,今回の調査結果及び表示の適正化についての考え方を会員に周知するとともに,日本証券業協会及び証券投資信託協会の作業部会等で検討されている新しい表示基準の設定に際しては,今回の調査結果を踏まえて検討を行うよう要請した。