第3章 審判及び訴訟

第1 審判

 平成11年度における審判件数は,平成10年度から引き継いだもの34件,平成11年度中に審判開始決定を行ったもの15件の合計49件(うち,29件は手続を併合。下表(注)参照。)であり,平成11年度中に,6件(うち,審判審決3件,同意審決1件,課徴金納付を命ずる審決等2件)について審決を行った(本章第2,第3及び第4参照)。平成11年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の43件である。

係属中の審判事件一覧



(注)  一連番号5〜25事件,30〜31事件及び37〜42事件の合計29件は手続を併合している。

第2 審判審決

1 平成9年(判)第4号株式会社宇多商会に対する審決
(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会が,株式会社宇多商会(以下「宇多商会」という。)に対し,景品表示法第6条第1項の規定に基づき排除命令を行ったところ,宇多商会がこれを不服として審判開始の請求を行ったので,同社に対し同法第8条第2項の規定に基づき,審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3)   認定した事実の概要
 宇多商会は,日用雑貨品等の輸出入業,卸売業,通信販売業等を営む事業者である。
 宇多商会は,「リデックス」と称する商品(以下「本件商品」という。)の輸入総代理店として同商品を輸入し,直接又は卸売業者を通じて通信販売業者等に販売しているところ,自らも当該商品の通信販売を行うため,平成7年5月10日付けの読売新聞に当該商品についての広告(以下「本件広告」という。)を掲載することにより,一般消費者に広告した。
 宇多商会は,本件広告において,本件商品の性能・効果について,「電磁界変換方式 ネズミ撃退器 リデックス」と強調して表示した上で,「コンセントへ差し込むだけで,家庭内の交流配線コード上に存在する電磁界を特殊信号で変換させ,ネズミやゴキブリの交感神経に刺激をあたえ家屋内から駆除する器具です。」,「有効範囲は約70坪,通常長くても4〜5週間で効果が確認できます。」,「日米双方の大学研究室で本器が発生させる信号による磁界の変換がネズミの行動に変化を与え,血圧及び心拍数が上昇する数値のデータ採集も行われました。」等と記載している。
 本件広告には,あたかも,本件商品にはネズミを撃退・駆除する性能・効果があるかのように表示されているが,実際には,交感神経への刺激によりネズミに不快感,ストレスを与える効果は認め得るものの,実用的な撃退・駆除効果までは認められない。
 加えて,本件広告における前記ウの記載のうち,「通常長くても4〜5週間で効果が確認できます。」との記載は,具体的な数値を明記することにより客観性を装うものであるが,実際には,根拠がないものであり,また,「日米双方の大学研究室」におけるデータ採集に関する記載は,本件商品の撃退・駆除効果を科学的権威を利用して暗示するものであるが,実際のデータ採集によってはこうした効果は実証されていないものである。
 したがって,本件広告の表示は,本件商品の性能・効果について,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるものである。
(4)   法令の適用
 宇多商会は,「リデックス」と称する商品の性能・効果について,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認されるため,不当に顧客を誘引し,公正な競争を阻害するおそれがあると認められる表示をしていたものであって,これは景品表示法第4条第1号の規定に違反するものである。
(5)   命じた措置
 宇多商会は,今後,「リデックス」と称する商品又はこれと同一の物理的構造・特性を有する商品の取引に関する広告をするときは,前記記載の表示と同様の表示をすることにより,ネズミを撃退・駆除する性能・効果について実際のものよりも著しく優良であると一般消費者に誤認される表示をしてはならない。
 宇多商会は,今後1年間,前項の商品の取引に関する広告をしたときは,直ちに,その広告物を当委員会に提出しなければならない。
  平成9年(判)第1号社団法人観音寺市三豊郡医師会に対する審決
(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会が社団法人観音寺市三豊郡医師会(以下「観音寺三豊医師会」という。)に対し独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,観音寺三豊医師会はこれを応諾しなかったので,観音寺三豊医師会に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,観音寺三豊医師会が担当審判官の作成した審決案に対し,独占禁止法第53条の2の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成11年9月24日に観音寺三豊医師会から陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決を行った(なお,本件については,平成11年11月24日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成11年度末現在,東京高等裁判所に係属中である(本章第5参照)。)。
(3)   認定した事実の概要
 香川県観音寺市及び三豊郡の区域(以下「観音寺三豊地区」という。)を地区とする医師会である観音寺三豊医師会が,将来の患者の取り合いを防止する目的で,(1)昭和54年8月14日の医療機関の開設及び病床の増床の制限に関する「観音寺市三豊郡医師会医療機関新設等相談委員会規程」(以下「相談委員会規程」という。)及び「観音寺市三豊郡医療機関新設等相談委員会施行細則」(以下「相談委員会細則」という。)の決定,(2)昭和60年6月11日の診療科目の追加の制限に関する相談委員会規程及び相談委員会細則の改定,(3)平成3年11月12日の医療機関の増改築の制限に関する決定,(4)平成5年1月12日の老人保健施設の開設の制限に関する決定を行ってきた(なお,これらの医療機関の開設等の可否についての審議及び決定手続を総括して,「審議システム」という。)。
 観音寺三豊医師会は,地域医療行政の補助者としての役割があり得るとしても,法律上,行政の遂行者としての地位を付与されているわけではない。本件審議システムは,医療計画の導入以前から運用されており,医療計画の導入により,そのシステムの性格が全く変わってしまったと認めることはできない。
 観音寺三豊医師会は,同医師会の行為は,専門性のない医師の開業を認めるべきでない等,患者・住民のため,あるいは医師のモラルの観点から,助言を行っている旨主張するが,実際の運用をみると,そのような事例はなく,むしろ,既存の会員医師の利益を守るための制限となっている。また,同医師会は,医療市場は医療保険制度があるという特殊な市場であるとか,過疎の郡部においては競合する医者はいないとか主張するが,いずれも競争はあるといえる。
 観音寺三豊医師会は,事業者団体ガイドライン5―1―3を引用し,事業者団体に「加入をしなければ事業を行うことが困難であること」及び「不当に加入を制限していること又は構成員を除名していること」という要証事実は認められないと主張するが,本件において独占禁止法違反を問うているのは,医師会への加入制限そのものではなく,医療機関の開設等の制限であり,本件審議システムの存在及び具体的事例にみられる運用に照らして,競争制限行為と認定できる。
 観音寺三豊医師会は,上記のとおり,既存の事業者である会員医師の利益を守るための利害調整や合理性のない制限を行っており,これは競争制限行為に当たる。
 観音寺三豊医師会の行為について,地域医療行政の補助者としての役割を考慮しても,その実現のための措置は権限を有する行政機関によって行われるべきであって,事業者団体の私的統制に委ねられるべきものではない。地域医療行政への協力行為が独占禁止法違反とならないためには,現行のような審議システムではなく,より制限的でない他の方法とそれにふさわしい手続を選択すべきである。
 観音寺三豊医師会の行為は,審議システムを前提として個別の審査を行うものであり,これは,医師会ガイドラインにいう単なる情報の提供ないし助言にとどまるものとはいえないから,同ガイドラインに照らしても違法である。
(4)   法令の適用
 観音寺三豊医師会は,独占禁止法第2条第2項規定の事業者団体に該当するところ,医療機関の開設を制限することにより,観音寺三豊地区の開業医に係る事業分野における現在又は将来の事業者の数を制限しているものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第3号の規定に違反するものであり,また,会員の行う医療機関の診療科目の追加,病床の増床及び増改築並びに老人保健施設の開設を制限しているものであり,これは,構成事業者の機能又は活動を不当に制限しているものであって,独占禁止法第8条第1項第4号の規定に違反する。
(5)    命じた主な措置
 観音寺三豊医師会は,昭和54年8月14日に決定し,昭和60年6月11日に改定した相談委員会規程及び相談委員会施行細則,平成3年11月12日に行った病院又は診療所の増改築の制限に関する決定並びに平成5年1月12日に行った老人保健施設の開設の制限に関する決定をそれぞれ破棄しなければならない。
 観音寺三豊医師会は,今後,病院又は診療所の開設,診療科目の追加,病床の増床及び増改築並びに会員の老人保健施設の開設を制限する行為を行わない旨を観音寺三豊医師会の地区内の医師に周知徹底させなければならない。
 観音寺三豊医師会は,今後,病院又は診療所の開設,診療科目の追加,病床の増床及び増改築並びに会員の老人保健施設の開設を制限する行為を行ってはならない。
  平成9年(判)第3号岩谷産業株式会社に対する審決
(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会が岩谷産業株式会社(以下「岩谷産業」という。)に対し独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,岩谷産業はこれを応諾しなかったので,同社に対し,同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,岩谷産業が担当審判官の作成した審決案に対し,独占禁止法第53条の2の2の規定に基づき当委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,平成12年3月1日に岩谷産業から陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決を行った。
(3)   認定した事実の概要
 家庭用・業務用プロパンガスの卸売業を営む岩谷産業は,他の13社と共同して,平成7年11月16日,京都府LPガス卸協議会(以下「卸協議会」という。)における会合(以下「例会」という。)の場において,京都府の区域における小売業者向けプロパンガスの販売価格について,平成7年12月締めに係る取引又はそれ以降の取引から2回又は3回に分け,同年10月以降に既に引き上げている場合にはその額を含め,1キログラム当たり5円ないし6円引き上げることについて共通の意思を形成し,京都府の区域における小売業者向けプロパンガスの販売分野における競争を実質的に制限していた。
 岩谷産業は,卸協議会は,卸売業者のみの集合体ではなく,元売業者,小売業者の機能を併せ持つ会員がおり,互いに利害相反関係にあり,また,卸売業者間で厳しい競争状況にあることからすれば,卸売価格について例会の場で共通の意思を形成することはあり得ないと主張するが,岩谷産業のような元売業者を兼ねる卸売業者が元売業者として卸売業者である他の会員と取引する場合,後者の販売価格(卸売価格)が引き上げられることは前者の仕切価格の引上げを容易にするものであって,その意味では両者間は利害相反関係になく,また,本件違反行為の背景として,卸売業者間の厳しい価格競争の中で,平成6年10月にプロパンガスの価格決定方式がいわゆるSP方式からCP方式に変更され,仕切価格の大幅な上昇を卸売価格に転嫁しなければ事業経営上支障を来すと見込まれたところ,例会の場で互いに情報交換を行い,卸売価格の引上げについて共通の意思を形成するに至ったと認められ,卸売業者間の厳しい競争状況は,共通の意思形成を否定する理由とはならない。
 岩谷産業は,京都府北部に事業所を有する北部支部会と称する会合(以下「北部支部会」という。)の2会員は,例会の結果の報告を受けて価格を引き上げたとされるが,北部支部会は卸協議会とは無関係であると主張する。
 しかし,岩谷産業が例会の場で違反行為を行ったか否かと北部支部会の活動とは何ら関係がなく,北部支部会は例会の情報伝達の場としての役割を果たしてきており,報告を受けた2社が卸協議会と相応の関係にあったと認められることから,北部支部会が卸協議会と無関係ともいえない。
 岩谷産業は,仕切価格の上昇は公知であり,例会における話合いがなくとも,ほぼ同様の値上げが行われるのは自明であると主張するが,プロパンガスのCP価格が変動しても,元売業者が実際の仕切価格を個々の卸売業者に対していくらとするかは必ずしも自明ではなく,また,仕入価格が変動しても,それがそのまま当然に卸売価格に転嫁されるわけではない。岩谷産業に限らず,例会の場で卸売価格の情報交換が行われる前に,卸売価格の引上げを開始している場合があるが,その分についての情報交換も,実施状況の把握,引き上げていない者の価格交渉の容易化などの実益がある。さらに,平成7年11月16日の例会の場における情報交換では,多くの者が翌年1月締めの卸売価格の引上げ方針をも告知し,岩谷産業も含め例会後に第二,第三の引上げ行動を起こしている。
 岩谷産業及び13社は,平成6年度においても卸売価格の引上げについて共通の意思を形成し,実施してきた経験があり,平成7年度においては,10月の例会の意思疎通を経て11月の同会合で仕入価格に関する情報を共有した上で,各社が3か月分の卸売価格の引上げ方針を告知しており,この会合において発表された各社の販売価格の引上げ時期,額にずれがあるからといって共通の意思形成として不合理とはいえない。
 実施状況についても,岩谷産業及び13社は,違反行為に基づきおおむね価格を引き上げており,カルテルに加わらなかった7社の値上げ幅が大きいことはカルテルの存在を否定する根拠にはならない。
(4)   法令の適用
 岩谷産業は,13社と共同して,プロパンガスの卸売価格の引上げを決定することにより,京都府の区域における小売業者向けプロパンガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,独占禁止法第3条の規定に違反するもである。
(5)   命じた主な措置
 岩谷産業は,次の事項を京都府の区域における家庭用・業務用プロパンガスの取引先小売業者に周知徹底させなければならない。
(ア)  岩谷産業は,平成7年11月16日に13社との間で,家庭用・業務用プロパンガスの小売業者向け販売価格について,同価格の引上げの意向の有無,引上げ幅及び引上げ時期に関する情報を相互に告知することにより形成した共通の意思に基づき販売価格を引き上げていた行為を取りやめている旨
(イ)  岩谷産業は,今後,前記製品の小売業者向け販売価格について,前記13社との間で,同価格の引上げの意向の有無,引上げ幅及び引上げ時期に関する情報を相互に告知することにより共通の意思を形成する行為を行わず,自主的に決める旨
 岩谷産業は,今後,他の卸売業者との間で,前記製品の小売業者向け販売価格の引上げ,引上げ幅又は引上げ時期について共通の意思を形成する行為を行ってはならない。

第3 同意審決

平成10年(判)第2号株式会社北海道新聞社に対する審決
(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会が株式会社北海道新聞社(以下「道新社」という。)に対し,独占禁止法第48条第1項の規定に基づき勧告を行ったところ,道新社は,これを応諾しなかったので,同社に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせていたところ,道新社から,同法第53条の3の規定に基づき同意審決を受ける旨の申出があり,具体的措置に関する計画書が提出されたので,これを精査した結果,適当と認められたことから,その後の審判手続を経ないで審決を行った。
(3)   認定した事実の概要
 道新社及び業界の概要等
(ア)  道新社は,北海道を販売地域として一般日刊新聞の発行業を営む者である。
(イ)  道新社の発行する一般日刊新聞「北海道新聞」(以下「北海道新聞」という。)の朝刊の北海道地区における発行部数は,同地区で発行される一般日刊新聞朝刊の総発行部数の過半を占めており,函館地区で発行される一般日刊新聞朝刊の総発行部数の大部分を占めている。
(ウ)  株式会社函館新聞社(以下「函新社」という。)は,函館地区において,平成9年1月1日から夕刊紙である一般日刊新聞「函館新聞」(以下「函館新聞」という。)を発行している者である。
 函新社の事業活動排除のための一連の行為の状況
(ア)  道新社は,平成9年9月19日ころ開催した取締役級で構成する函館対策会議において,各担当部局において具体的な対策の検討を行い,決定した対策から順次実施するとの基本方針を決定した。
(イ)  道新社が,函館対策と称して講じている函新社に対する具体的な対策は,次のとおりである。
 新聞題字対策について 
(a)  道新社は,函館地区に新設される新聞社に使用させない意図の下に,「函館新聞」など九つの新聞題字について,同年10月20日ころ,特許庁に対し商標登録を求める出願手続を行った。
(b)  道新社は,平成9年2月13日,商標登録出願を行った前記九つの新聞題字のうち,五つの新聞題字について商標登録出願を取り下げたが,その余の四つの新聞題字について函新社が行った道新社の商標登録出願に対する異議申立てが平成9年11月に特許庁により認められ,当該商標登録出願について拒絶査定を受けたことから,これを不服として,同年12月,特許庁に対し審判請求をした。
 通信社対策について
(a)  道新社は,平成8年5月1日ころ,株式会社時事通信社(以下「時事通信社」という。)本社において,同社幹部と面談し,同社が先行契約者を優先する方針を採っていることを承知の上で,同社に対し,函新社からの配信要請に応じないよう暗に求めた。
 さらに,道新社は,平成8年7月中旬ころ,時事通信社が函新社から国内外のスポーツニュースを含む一般ニュースの配信契約の申込みを受けたとの情報に接したことから,函新社からの配信要請に応じないよう暗に求めた。
(b)  これにより,函新社は,時事通信社と国内外のスポーツニュースを含む一般ニュースの配信契約を締結することができない状況にあった。
 広告集稿対策について
(a)  道新社は,北海道新聞の夕刊本紙の別刷りとして地域情報版の発刊を決定するとともに,当該地域情報版掲載広告については,平成8年9月30日ころ開催した役員会において,地域情報版掲載の営業広告の基本料金を本紙掲載広告の約半額の水準とすること,これを扱う広告代理店の広告取扱手数料に一定率の割増手数料を加算すること等を内容とする広告料金等の設定を決定し,これを同年11月5日から実施していた。
(b)  このため,函新社は,平成9年1月1日の函館新聞発刊以降,広告集稿活動が困難な状況にあり,低廉な広告料金による受注を余儀なくさせられていた。
 テレビコマーシャル対策について
 道新社は,平成8年10月中旬ころ,株式会社テレビ北海道(以下「テレビ北海道」という。)に対し,函新社のコマーシャル放映の申込みに応じないよう要請した。
 このため,テレビ北海道は,平成8年10月下旬ころ,函新社のコマーシャル放映の申込みを事実上拒否し,函新社は函館新聞発刊に関するコマーシャル放映を行うことを断念するに至った。
 前記の一連の行為の取りやめ
 その後,道新社は,前期イ(イ)記載の函館対策と称する一連の行為を取りやめている。
(4)   法令の適用
 道新社は,函新社の参入を妨害しその事業活動を困難にする目的で講じた函新社が使用すると目される複数の新聞題字の商標登録の出願等の函館対策と称する一連の行為によって,同社の事業活動を排除することにより,公共の利益に反して,函館地区における一般日刊新聞の発行分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第2条第5項に規定する私的独占に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
(5)   命じた主な措置
 道新社は,次の事項を函新社に通知し,函館地区の一般消費者に周知徹底させなければならない。
(ア)  函新社の参入を妨害しその事業活動を困難にするために講じた函館対策と称する一連の行為に関して次の措置を採った旨
 函館地区に関する商標登録出願をすべて取り下げたこと。
 時事通信社に対し,函新社への一般ニュースの配信に関し,道新社は何ら関与するものではないことを通知したこと。
 従来の地域情報版の広告料金及び広告取扱手数料の設定を取りやめ,適正な広告料金等を設定することとし,その改定を行ったこと。
 テレビ北海道に対し,函新社のテレビコマーシャル放映に関し,道新社は何ら関与するものではないことを通知したこと。
(イ)  今後,前記函館対策と称する一連の行為と同様の行為により,函新社の事業活動を排除しない旨
 道新社は,今後,前記函館対策と称する一連の行為と同様の行為により,函新社の事業活動を排除してはならない。

第4 課徴金納付命令審決等

  平成6年(判)第5号株式会社金門製作所に対する審決

(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会が日本ガスメーター工業会石油ガスメーター部会(以下「石油ガスメーター部会」という。)の部会員に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,部会員である株式会社金門製作所(以下「金門製作所」という。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,金門製作所に対し,独占禁止法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案に対し,金門製作所が異議の申立てを行ったが,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3)   認定した事実の概要
 課徴金に係る違反行為
 金門製作所は,石油ガスメーター部会の部会員であるが,同部会は,独占禁止法第2条第2項に規定する事業者団体に該当するところ,部会員の家庭用マイコンメーターの最低販売価格を決定し,家庭用マイコンメーターの販売分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,同法第8条第1項第1号の規定に違反するものであり,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
 課徴金の計算の基礎
(ア)  金門製作所は,本件家庭用マイコンメーターについて,自ら製造することはないものの,(1)蓄積された高度の研究開発技術に基づき,実際に製品計画・製品開発活動を主体的に行い,(2)主要部品について自ら調達・支給する等,技術面も含めて関与し,(3)需要動向に対応する生産計画にとどまらず,製造面での指示,承認等,技術面も含めて製造工程に具体的に関与して,株式会社東京理化工業所及び白河精機株式会社に製品を製造させ,製造業者の立場から継続的・組織的に技術的関与を行ってきたものというべきである。これに加えて,本件の場合,さらに,金門製作所は,実際に製造された家庭用マイコンメーターの全量を株式会社東京理化工業所から引き取り(買い受け),自己の商標(ブランド)を使用する等して自己の製品として一手に販売しているものであって,自らを製造業者と位置付け,かつ,取引先からもそのように認識されているものである。よって,金門製作所の本件家庭用マイコンメーターに関する事業活動は,独占禁止法第7条の2第1項の課徴金算定における業種の認定としては,自ら製造するものではないが製造業と同視し得るものというべきであり,したがって,同項にいう「卸売業」に該当しない特段の事情があるものとして,課徴金算定率は原則の率である6パーセントが適用されると解するのが相当である。
(イ)  金門製作所が石油ガスメーター部会の違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成3年8月1日である。
 また,石油ガスメーター部会は,平成3年12月19日,前記違反行為を取りやめており,その後,金門製作所については,その実行としての事業活動はなくなっているものと認められる。
 したがって,金門製作所については,前記違反行為の実行としての事業活動を行った日から当該行為の実行としての事業活動がなくなる日までの期間は,平成3年8月1日から同年12月19日までである。
(ウ)  金門製作所の前記実行期間における家庭用マイコンメーターの売上額は,独占禁止法施行令第5条に基づき算定すると,54億8128万8841円である。
 よって,金門製作所が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,3億2887万円である(独占禁止法第7条の2第1項の規定により前記54億8128万8841円に100分の6を乗じて得た額。ただし,同条第4項の規定により1万円未満の端数を切り捨てたもの)。
(4)   法令の適用
 金門製作所は,石油ガスメーター部会の部会員であるところ,同部会の行為は,独占禁止法第8条の3で準用される第7条の2第1項の規定の課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第7条の2第1項,第8条の3,独占禁止法施行令第5条の規定を適用して,金門製作所が国庫に納付しなければならない課徴金の額は,前記(3)イ(ウ)のとおりである。
(5)   命じた措置
 金門製作所は,課徴金として3億2887万円を平成11年9月9日までに国庫に納付しなければならない。
  平成9年(判)第5号東京無線タクシー協同組合に対する審決
(1)   被審人
(2)   事件の経過
 本件は,当委員会がエルピーガススタンド業者の事業者団体である東京都エルピーガススタンド協会(以下「都スタンド協会」という。)の会員に対し,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,同協会の会員である東京無線タクシー協同組合(以下「東京無線タクシー」という。)はこれを不服として審判手続の開始を請求したため,東京無線タクシーに対し同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 当委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,これを適当と認めて審決案の内容と同じ審決を行った。
(3)   認定した事実の概要
 課徴金に係る違反行為
 都スタンド協会は,その会員が東京都の区域において販売する自動車用液化石油ガス(以下「オートガス」という。)の平成6年12月分から平成7年8月分までの需要者向け販売価格について,おおむね各月ごとに,1リットル当たりの単価の引上げ,維持又は引下げを決定することにより,東京都の区域のオートガスの販売分野における競争を実質的に制限していたものであり,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
 課徴金の計算の基礎
 本件は,東京無線タクシーの組合員向け取引を課徴金の算定対象に含めるべきかどうかが争点であるが,課徴金計算の基礎となる売上額の算定に当たり,独占禁止法第7条の2第1項の「当該商品」の意義が問題となるところ,「当該商品」とは,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品であって,当該違反行為による拘束を受けたものをいうと解され,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,(1)当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは(2)これと同視し得る合理的な理由によって定型的に当該行為による拘束から除外されていること,を示す特段の事情がない限り,「当該商品」に該当し,課徴金の算定対象に含まれると推定される。
 都スタンド協会の違反行為は,東京都の区域におけるオートガスの需要者向けの販売価格に係るものであり,東京無線タクシーの組合員向け取引はこの範ちゅうに含まれることから,他に特段の事情がない限り,課徴金の算定対象であると推定されるところ,(1)都スタンド協会の役員が東京無線タクシーのスタンドを自家消費スタンドと認識していたこと,(2)組合員向け取引が仕入価格及び費用を基にした原価供給として行われていること,(3)東京無線タクシーの組合員向け取引と他のスタンド業者の法人タクシー事業者向け取引とは,取引先の変更に結び付くことがない特殊なものであり,これをもって特段の事情がないとはいえないこと並びに(4)仕入価格及び費用を基にした原価供給により行われており,定型的に違反行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があると認められ,課徴金の算定対象から除外すべきである。
(4)   法令の適用
 東京無線タクシーは,オートガスの卸売業を営む者であり,都スタンド協会の会員であるところ,同協会の行為が独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであり,かつ,東京無線タクシーの都スタンド協会の当該行為の実行としての事業活動を行った期間が平成6年12月1日から平成7年8月31日までであるとしても,東京無線タクシーの同期間における課徴金の計算の基礎となる売上額は2540万9948円であり,これに卸売業に適用される課徴金算定率である100分の1を乗じて得られる額は25万4099円であって,50万円に満たないから,独占禁止法第7条の2第1項ただし書により,東京無線タクシーに課徴金の納付を命ずることはできない。