第5 訴訟

 
審決取消請求訴訟等
 平成11年度当初において係属中の審決取消請求事件は3件であったが,このうち,広島県石油商業組合広島市連合会による審決取消請求事件については,訴えの取下げにより,平成11年4月9日,終了した(平成10年度年次報告146頁参照)。このため,当委員会は,同連合会が審決執行免除のため供託していた保証金の没取の申立てを行い,平成11年5月11日,150万円を没取する旨の決定が出された(平成10年度年次報告147頁参照)。また,東京もち株式会社による審決取消請求事件については,平成12年3月14日,最高裁判所で上告棄却の判決が下された。
 平成11年度中に新たに,社団法人観音寺市三豊郡医師会による審決取消請求事件及びこれに関連して同医師会による審決執行免除の申立てがなされ,同申立てについては平成12年1月31日,東京高等裁判所で却下決定が出された。この却下決定に対しては,抗告許可の申立て及び特別抗告の提起が行われたが,抗告許可の申立てに対しては,平成12年3月1日,抗告を許可しない決定が出された。このため,平成11年度末現在係属中の審決取消請求事件は2件である。
(1)   東京もち株式会社による審決取消請求事件
 事件の表示
最高裁判所 平成8年(行ツ)第151号
審決取消請求事件
上告人(原告) 東京もち株式会社
被上告人(被告) 公正取引委員会
審決年月日  平成6年9月29日
提訴年月日  平成6年10月19日
判決年月日 (東京高等裁判所)
 平成8年3月29日(請求棄却)
上告年月日  平成8年4月12日
判決年月日 (最高裁判所)
 平成12年3月14日(上告棄却)
 審決の概要
 本審決は,東京もち株式会社(以下「東京もち」という。)に対し,景品表示法第7条第2項に基づいて,一般消費者の誤認を排除する措置等を命じたものであり,本審決が認定した違反行為の概要は次のとおりである。
 東京もちは,同社が製造・販売している包装もちの包装袋に「純もち米100%使用」,「原材料名 水稲もち米」及び「本品は厳選したもち米が原料の『きねつき』による本格製法の生もちです。」と記載し,あたかも,当該商品がもち米のみを原材料として製造されたもちであるかのように表示していたが,当該商品は,原材料として,もちとうもろこしでん粉が約15パーセントの割合で使用されていた。
 事案の概要
 本件は,東京もちが,本審決には,(ア)聴聞手続等における違法,(イ)裁量基準を定立しなかった違法,(ウ)主張・立証責任の分配を誤った違法,(エ)実質的証拠の欠缺及び理由不備の各違法が存するとして,その取消しを求めているものである。
 一審(東京高等裁判所)判決の概要
 一審判決は,
(ア)  改正前の景品表示法第6条第2項の聴聞手続において,構成要件事実のほかに原告に不利益に斟酌される事情を告知することは必要でないし,また,聴聞手続における瑕疵は,審決の違法を来すものではない
(イ)  公正取引委員会は,同法第4条第1号違反事件について規制権限を行使するに当たり,準則又は裁量基準をあらかじめ定立するか又はこれを定立しないで個々の事案ごとに前記規制権限を行使するか若しくはいかなる内容の措置を講ずるか等をその裁量権に基づいて定めることができる
(ウ)  本件審決に,裁量権の濫用,範囲逸脱を裏付ける事実についての主張・立証責任の分配を誤った等の違法はない
(エ)  本件審決において,実質的証拠の欠缺及び理由不備の各違法は存しない,
と判示して,原告の請求を棄却した。
 判決(最高裁判所)主文
(ア)  本件上告を棄却する。
(イ)  上告費用は上告人の負担とする。
 判決(最高裁判所)の概要
 原審の適法に確定した事実関係の下においては,本件審決に上告人主張のような手続的違法及び裁量権の濫用,その範囲逸脱の違法がないとした原審の判断は,正当として是認することができ,その過程に所論の違法はない。論旨は,違憲をいう点を含め,独自の見解に基づき又は原判決を正解しないで原審の判断における法令の解釈適用の誤りをいうものにすぎず,採用することができない。
(2)   協業組合カンセイによる審決取消請求事件
 事件の表示
最高裁判所 平成11年(行ツ)第115号,平成11年(行ヒ)第70号審決取消請求事件
上告人(原告)  協業組合カンセイ
被上告人(被告) 公正取引委員会
審決年月日  平成10年3月11日
提訴年月日  平成10年4月8日
判決年月日  (東京高等裁判所)
 平成11年1月29日(請求棄却)
上告年月日  平成11年2月13日
 審決の概要
 本審決は,協業組合カンセイ(以下「カンセイ」という。)に対し,独占禁止法第7条の2第1項の規定を適用して,課徴金の納付を命じたものである。
 事案の概要
 本件は,協業組合である原告に対する課徴金の算出に際して,売上額に乗ずるべき一定率として独占禁止法第7条の2第1項(売上額の6%)を用いたところ,原告が独占禁止法第7条の2第1項と第2項の適用区分は,課徴金対象事業者の企業規模に基づくものであり,対象事業者の存立形態(法形式)が「会社及び個人」かそれ以外かの区別によってされるべきでないから,企業規模において中小企業者に該当する原告には第2項(売上額の3%)を適用すべきであるとして,被告が平成10年3月11日付けでした審決のうち,金967万円を超えて納付を命じた部分の取消しを求めた事案である。
 一審判決(東京高等裁判所)の概要
(ア)  平成3年の法改正の経緯及びその立法趣旨
 課徴金制度の平成3年法改正の趣旨は,法違反行為に対する抑止力の強化のための具体的方策の一環として,課徴金を引き上げることにしたものであるが,中小企業については,原則の算定率より軽減した算定率(以下「軽減率」という。)を用いることとし,この軽減率が適用される中小事業者(中小企業)の範囲については,中小企業関係法令において一般に用いられている中小企業者の範囲によることとし,「会社及び個人」に限定することとした。
(イ)  中小企業関係法令との整合性
 独占禁止法第7条の2第2項は,中小企業関係法令における中小企業者の定義づけを踏まえて,中小企業関係法令の基本法である中小企業基本法及び中小企業団体の組織に関する法律における定義と同様,軽減率を適用する中小企業者の範囲を「会社及び個人」に限定し,協業組合,企業組合等を除外したものと解される。
(ウ)  会社と協業組合その他の組合との関連性
 協業組合には,大規模事業者が加入しているものの,組合自体の出資の総額及び常時使用する従業員の数は,独占禁止法第7条の2第2項各号に規定する中小事業者の要件を充たす協業組合が存在することもあり得るので,そのような大規模事業者の加入した協業組合が,カルテルを実行すれば,国民経済に広くかつ重大な影響を与え,その経済的利得も大きいという場合が生じることになるから,中小企業関係法令に基づく協同組合その他の組合の特質を考慮すると,組織体自体の出資の額及び従業員数の基準のみによって,その取引上の地位が劣るものとみることは必ずしも適当ではなく,課徴金の算定基準を改正するに当たり,協同組合その他の組合については,原則の算定率を適用し,軽減率を適用すべき中小企業者の範囲から除外することに合理性がある。
(エ)  条文の文理解釈
 文理解釈からしても,独占禁止法第7条の2第2項各号の「会社」とは,合名会社,合資会社及び株式会社並びに有限会社を指すものといわざるを得ないのであり,これを「事業者」と同視してこれに協業組合その他の組合が含まれるものと解することはできない。
と判示して,原告の請求を棄却した。
 訴訟手続の経過
 本件については,一審判決後上告されており,平成11年度末現在,最高裁判所に係属中である。
(3)   社団法人観音寺市三豊郡医師会による審決取消請求事件
 事件の表示
東京高等裁判所 平成11年(行ケ)第377号
審決取消請求事件
原告 社団法人観音寺市三豊郡医師会
被告 公正取引委員会
審決年月日  平成11年10月26日
提訴年月日  平成11年11月24日
 審決の概要
 本審決は,社団法人観音寺市三豊郡医師会(以下「観音寺三豊医師会」という。)に対し,独占禁止法第54条第1項の規定に基づいて,医療機関の開設の制限に関する決定等の破棄等の措置を命じたものであり,本審決が認定した事実の概要は次のとおりである。
 香川県観音寺市及び三豊郡の区域を地区とする医師会である観音寺三豊医師会が,将来の患者の取り合いを防止する目的で,(1)昭和54年8月14日の医療機関の開設及び病床の増床の制限に関する「観音寺市三豊郡医師会医療機関新設等相談委員会規程」及び「観音寺市三豊郡医師会医療機関新設等相談委員会施行細則」の決定,(2)昭和60年6月11日の診療科目の追加の制限に関する相談委員会規程及び相談委員会細則の改定,(3)平成3年11月12日の医療機関の増改築の制限に関する決定及び(4)平成5年1月12日の老人保健施設の開設の制限に関する決定を行ってきた。
 事案の概要
 本件は,観音寺三豊医師会が,本件審決には主要事実を立証する実質的な証拠がないこと,事実認定を誤っていること等を理由として,審決の取消しを求めているものである。
 訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所は,平成12年2月18日に第1回口頭弁論を行い,現在同裁判所に係属中である。
(参考) 社団法人観音寺市三豊郡医師会による審決執行免除申立事件
 事件の表示
東京高等裁判所 平成11年(行タ)第44号
審決執行免除申立事件
申立人 社団法人観音寺市三豊郡医師会
被申立人 公正取引委員会
審決年月日  平成11年10月26日
申立年月日   平成11年11月24日
決定年月日  平成12年1月31日(却下)
 事案の概要
 本件は,観音寺三豊医師会に対して行った平成9年(判)第1号審決について,独占禁止法第62条第1項の規定に基づき,当該審決が確定するまでその執行免除を求めたものである。
 決定の主文
 本件申立てを却下する。
 決定の概要
 独占禁止法第62条の趣旨からすれば,審決の執行によって被審人に原状回復が極めて困難又は不可能な事態が生じることが認められないのであれば,審決の執行免除を認める必要はないところ,本件において,申立人は,本件審決で命じられた措置の現時点での実施は,地域医療体制の充実の阻害,患者の信頼,患者の生命,身体への被害,さらには,申立人の地域医療への理念や貢献に対して,事後の取消によっては回復しがたい損害を生じさせると主張するが,右の主張自体極めて抽象的であって,申立人の主張する損害が生じる理由についての具体的な主張は全くないのみならず,そもそも地域医療体制の充実や患者の信頼の確保等は本来医療行政によって実現されるべきものであるから,本件審決で命じられた措置が実施されたとしても,申立人主張のような損害が生じると認めることはできない。
 申立人は,また,本件審決が命じる周知行為は,申立人がしていない行為を自認し,自己の理念を否定することを会員その他外部に表明することを強制するものであり,申立人の信用,名誉を著しく毀損し,回復しがたい損害を生じさせるとも主張するが,本件審決が独占禁止法違反行為についての申立人の自認を求めたものでないことは,その主文から明らかである上,申立人の主張する信用,名誉の毀損は,仮に生じるとしても申立人が本件審決取消訴訟に勝訴することにより回復が可能なものというべきであるから,申立人の上記主張も失当である。
 以上のとおり,申立人の主張はいずれも失当であるし,本件記録を精査しても,本件審決の執行によって申立人に原状回復が極めて困難又は不可能であることを窺わせる事実を認めることはできないから,本件申立ては理由がない。
 
独占禁止法第25条(無過失損害賠償責任)に基づく損害賠償請求事件
 平成11年度においては,独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求事件が新たに3件提起されたことから,本年度当初において係属中の1件(東京都発注水道メーター入札談合事件)を加えると,係属中の同法第25条の規定に基づく損害賠償請求事件は4件である。
(1)   東京都発注水道メーター入札談合事件
 事件の表示
東京高等裁判所平成10年(ワ)第1号
損害賠償請求事件
原告 東京都
被告 愛知時計電機株式会社ほか24名
提訴年月日  平成10年4月14日
 事案の概要
 当委員会は,平成9年4月18日,株式会社金門製作所ほか24名に対して,東京都発注の特定水道メーターについて,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者以外の入札参加者は,同受注予定者が受注できるように協力して入札していた行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,当該行為の排除等を命ずる審決を行った。当該審決確定後,発注者である東京都は,被審人である愛知時計電機株式会社ほか24名に対して,独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を7回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成11年2月24日,独占禁止法第84条第1項に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,当委員会は,同年4月27日,意見書を提出した。
(2)   米軍横田飛行場入札談合事件
 事件の表示
東京高等裁判所平成11年(ワ)第1号
損害賠償請求事件
原告 アメリカ合衆国
被告 株式会社協和エクシオ
提訴年月日  平成11年9月29日
 事案の概要
 当委員会は,平成3年5月8日,株式会社協和エクシオ(以下「協和エクシオ」という。)ほか11名が,米国空軍契約センター発注の電気通信設備の運用・保守の入札について,あらかじめ受注予定者を決定し,受注予定者以外の入札参加者は,同受注予定者が受注できるよう協力して入札する旨の合意をし,当該契約センターが発注した27物件につき,受注予定者を決定したとして,協和エクシオほか2名に対し,課徴金納付命令を行った。このうち,協和エクシオ1社のみがこれを不服として審判手続の開始を請求した。
 当委員会は,平成3年7月9日,審判開始決定を行い,審判手続を経て,平成6年3月30日,課徴金の納付を命ずる審決を行ったところ,同社は同年4月14目,審決取消訴訟を提起したが,平成8年3月29日,請求棄却され,本件審決は確定した。その後,アメリカ合衆国は,独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,東京高等裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を1回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成11年10月6日,独占禁止法第84条第1項に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,当委員会は,平成12年1月26日,意見書を提出した。
(3)   大阪市発注低食塩次亜塩素酸ソーダ入札談合事件
 事件の表示
(ア)  東京高等裁判所平成11年(ワ)第2号
 損害賠償請求事件
 原告 大阪市
 被告 ダイソー株式会社ほか9名
 提訴年月日  平成11年10月23日
(イ)  東京高等裁判所平成11年(ワ)第3号
 損害賠償請求事件
 原告 大阪市
 被告 ダイソー株式会社ほか6名
 提訴年月日  平成11年10月23日
 事案の概要
(ア)  平成11年(ワ)第2号事件
 当委員会は,平成11年1月25日,ダイソー株式会社(以下「ダイソー」という。)ほか9名に対し,大阪市が指名競争入札等の方法により発注する10下水処理場向け低食塩次亜塩素酸ソーダの入札について,あらかじめ供給予定者を決定し,供給予定者以外の入札参加者は供給予定者が供給できるように協力して入札していた行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,当該行為の排除等を命ずる審決を行った。当該審決確定後,発注者である大阪市は,被審人であるダイソーほか9名に対して,独占禁止法第25条に基づき損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
(イ)  平成11年(ワ)第3号事件
 当委員会は,平成11年1月25日,ダイソーほか6名に対し,大阪市水道局が指名競争入札の方法により発注する豊野浄水場向け低食塩次亜塩素酸ソーダの入札について,あらかじめ供給予定者を決定し,供給予定者以外の入札参加者は供給予定者が供給できるように協力して入札していた行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,当該行為の排除等を命ずる審決を行った。当該審決確定後,発注者である大阪市は,被審人であるダイソー株式会社ほか6名に対して,独占禁止法第25条に基づく損害賠償請求訴訟を東京高等裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,上記2事件が併合審理されており,東京高等裁判所は,平成11年度中口頭弁論を1回行い,両事件とも平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成11年11月4日,2事件それぞれ,独占禁止法第84条第1項に基づき,同法違反行為によって生じた損害額についての求意見がなされ,当委員会は,平成12年1月31日,意見書を提出した。
 
その他の独占禁止法関係の損害賠償請求事件等
(1)   低食塩次亜塩素酸ソーダ入札談合事件に係る民法第709条訴訟
 大阪府発注低食塩次亜塩素酸ソーダ入札談合事件
(ア)  事件の表示
大阪地方裁判所平成11年(ワ)第4154号
損害賠償請求事件
原告 大阪府
被告 ダイソー株式会社ほか9名
 提訴年月日  平成11年4月22日
(イ)  事案の概要
 当委員会は,平成11年1月25日,ダイソー株式会社ほか9名に対し,大阪府が指名競争入札の方法により発注する三島浄水場向け低食塩次亜塩素酸ソーダの入札について,あらかじめ供給予定者を決定し,供給予定者以外の入札参加者は供給予定者が供給できるように協力して入札していた行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,当該行為の排除等を命ずる審決を行った。当該審決確定後,発注者である大阪府は,被審人であるダイソー株式会社ほか9名に対して,民法第709条に基づく損害賠償請求訴訟を大阪地方裁判所に提起した。
(ウ)  訴訟手続の経過
 本件について,大阪地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を3回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成11年8月25日,文書送付嘱託があり,当委員会は,平成12年2月10日,資料を提供した。
 京都市発注低食塩次亜塩素酸ソーダ入札談合事件
(ア)  事件の表示
京都地方裁判所平成11年(ワ)第2882号
損害賠償請求事件
原告 京都市
被告 ダイソー株式会社ほか8名
 提訴年月日  平成11年11月9日
(イ)  事案の概要
 当委員会は,平成11年1月25目,ダイソー株式会社ほか8名に対し,京都市上下水道事業管理者が見積り合わせ等の方法により発注する4浄水場及び4下水処理場向け低食塩次亜塩素酸ソーダの入札について,あらかじめ供給予定者を決定し,供給予定者以外の入札参加者は供給予定者が供給できるように協力して入札していた行為が独占禁止法第3条の規定に違反するとして,当該行為の排除等を命ずる審決を行った。当該審決確定後,発注者である京都市は,被審人であるダイソー株式会社ほか8名に対して,民法第719条に基づく損害賠償請求訴訟を京都地方裁判所に提起した。
(ウ)  訴訟手続の経過
 本件について,京都地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を1回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
(2)   旧埼玉土曜会談合事件に係る住民訴訟
 事件の表示
浦和地方裁判所平成4年(行ウ)第13号
損害賠償請求事件 
原告  岩木英二ほか60名
被告 鹿島建設株式会社ほか65名(訴えの一部取下げがあったので24名に減少した。)
提訴年月日  平成4年8月14日
判決年月日  平成12年3月13日(訴え却下)
(イ)  事案の概要
 当委員会は,埼玉県発注に係る土木一式工事の入札談合について,平成4年6月3日,鹿島建設株式会社ほか65名に対し当該行為の排除を命じる審決を行った。当該審決確定後,埼玉県の住民は,当該建設業者等に対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,埼玉県に代位して損害賠償を求める住民訴訟を浦和地方裁判所に提起した。
(ウ)  訴訟手続の経過
 本件について,浦和地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を3回行い,平成12年3月13日,訴え却下の判決があった後控訴され,平成11年度末現在,東京高等裁判所に係属中である。
 なお,浦和地方裁判所から,平成5年5月31日,文書送付嘱託があり,当委員会は,同年8月27日,資料を提供した。その後,同裁判所から,平成6年3月24日,再度文書送付嘱託及び調査嘱託があり,同年8月12日,回答を行った。
(3)   日本下水道事業団発注の電気設備工事に係る住民訴訟
 事件の表示
(ア)  津地方裁判所平成7年(行ウ)第13号
損害賠償請求事件
原告 松川栄太郎ほか2名
被告 日本下水道事業団及び富士電機株式会社
 提訴年月日  平成7年12月21日
(イ)  東京高等裁判所平成12年(行コ)第19号
損害賠償請求控訴事件
控訴人(原告)  益子良一ほか51名
被控訴人(被告) 株式会社日立製作所ほか9名
 提訴年月日  平成8年2月19日
 判決年月日  平成11年11月17日
 (訴え却下,横浜地方裁判所)
 控訴年月日  平成11年11月30日(東京高等裁判所)
(ウ)  名古屋地方裁判所平成8年(行ウ)第9号
損害賠償請求事件
原告 佐々木伸尚ほか1名
被告 三菱電機株式会社ほか3名
 提訴年月日  平成8年2月21日
(エ)  東京高等裁判所平成11年(行コ)第49号
損害賠償請求控訴事件
控訴人(原告)  古宮杜司男ほか12名
被控訴人(被告) 株式会社日立製作所ほか9名
 提訴年月日  平成8年2月22日
 判決年月日  平成11年1月28日
(訴え却下,東京地方裁判所)
 判決年月日  平成11年12月20日
(原判決取消差戻,東京高等裁判所)
(オ)  鳥取地方裁判所平成8年(行ウ)第1号
損害賠償請求事件
原告 高橋敬幸
被告 日本下水道事業団及び株式会社東芝
 提訴年月日  平成8年2月24日
 判決年月日  平成12年3月28日(請求一部認容)
(カ)  浦和地方裁判所平成8年(行ウ)第7号
損害賠償請求事件
原告 竹下悟ほか4名
被告 株式会社日立製作所ほか9名
 提訴年月日  平成8年4月9日
 事案の概要
 当委員会は,日本下水道事業団(以下「下水道事業団」という。)発注の電気設備工事の入札談合について,平成7年7月12日,株式会社日立製作所ほか8名に対し課徴金納付命令を行った。前記原告住民らは,前記被告らに対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,各地方公共団体に代位して損害賠償を求める住民訴訟を前記各裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 前記各事件について,東京高等裁判所へ控訴された前記ア(イ)事件,同裁判所へ控訴された後に東京地方裁判所へ差し戻された同(エ)事件(下記エ参照)を含め,平成11年度末現在,各裁判所に係属中である。
 なお,前記各事件について,平成8年度又は9年度中に,それぞれの裁判所から当委員会に文書送付嘱託があり,当委員会は当該裁判所に資料を提供した。また,平成10年度に調査嘱託があった裁判所には回答を行った。
 東京高等裁判所判決の概要(平成11年(行コ)第49号・前記ア(エ)事件控訴審判決)
(1)   本件監査請求及び本訴請求の法的構成について
 控訴人らは,年度実施協定の締結やこの協定に基づく市の被控訴人下水道事業団に対する工事費の支払い時点における工事代金の額は,談合行為の影響を受けていない適法なものであるとし,その後になって被控訴人下水道事業団と被控訴人三菱電機及び同明電舎との間で結ばれた本件各請負契約における請負代金の額が,被控訴人らの間での談合の影響によって不当につり上げられ,このことによって市に損害を与えたものと主張していると解される。
 被控訴人らは,市の財務会計職員の側の違法な行為というものの存在を前提としない,これとは別途の法律構成による控訴人らの請求は,それ自体で理由のないことが明らかな,主張自体で失当とされるべき請求に該当するとも主張する。しかし,このような構成による控訴人らの請求が失当なものであるか否かを判断するためには,本件各基本協定や本件年度実施協定の定めと本件委託工事費用や本件各請負契約における請負代金額との関係,さらには,被控訴人下水道事業団による委託費用の精算の仕組み,方法等がどのようなものとなっているかを明らかにする必要があるものと考えられるのであって,これらの点に関する事実関係のいかんを問うまでもなく,このような請求が,その請求自体で失当とされるものとすることは困難なものというべきである。
(2)   本件監査請求に対する地方自治法242条2項の規定の適用の有無について
 控訴人らの本件監査請求は,右のような構成による控訴人らの本訴請求に相当する請求も包含しているものと考えることができ,また,この請求は,市において違法に財産の管理を怠る事実があるとするものであって,しかも,財務会計職員の財務会計上の行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実とするものには該当しないこととなるから,本件監査請求については,その期間制限を定めた法242条2項の規定の適用がないものとすべきこととなる。
 鳥取地方裁判所判決の概要(平成8年(行ウ)第1号・前記ア(オ)事件判決)
(1)  損害の有無について
 被告らの違法行為は,本件請負契約について他の会社が入り込む余地をなくし,現実にも他の会社と競争せずに,既設物件の工事を施工した被告東芝に希望どおり受注させるというものであって,本件請負契約に係る電気設備工事の受注について,他の会社との公正な競争によって受注価格が低下することを防いで受注業者の利益を図るという目的でなされたものであるといえるから,仮に違法行為がなければ,本件請負契約については,工事の仕様や品質は同一のままでより低い請負代金額で締結することができたはずであるといえ,この場合には,本件委託協定11条にいう工事費等の精算額となる現実の請負額(個々の工事にかかった現実の工事費の合計額)はその分だけより低い額になる。
 そして,現実の請負額が低くなった場合,被告事業団は,本件委託協定11条に基づき,鳥取県から受領した本件委託費と精算額との差額を鳥取県に還付しなければならないのであるから,鳥取県は,被告らの違法行為がなければ受けることができたはずの還付を,被告らの違反行為によって実際には受けることができなくなったものといえる。
 したがって,被告らの違法な行為により,鳥取県は,受けることができたはずの還付を受けることができないという損害を被ったということができる。
(2)  損害額について
 損害の内容が,本件請負契約が随意契約によることなく適正な競争(例えば,談合のない指名競争入札)を経た上で締結されたと仮定した場合における請負代金額との差額というものであって,損害額の算定にあたっては,種々の仮定条件や事情を基礎としなければならないというべきところ,その算定自体に著しい困難を伴うものである上,本件全証拠をもっても右条件や算定のための基礎事情を確定することが困難であるから,民事訴訟法248条を適用し,本件訴訟における一切の事情を考慮して,本件請負契約の請負代金額の合計額に10パーセントを乗じた金額である1508万9500円をもって,鳥取県が被った損害の額であると認めるのが相当である。
(4)   デジタル計装制御システム工事の入札に係る住民訴訟
 事件の表示
(ア)  大阪高等裁判所平成11年(行コ)第94号ないし第98号
損害賠償請求控訴事件
被控訴人(原告) 川田賢司ほか3名
控訴人(被告)  横河電機株式会社ほか4名
 提訴年月日  平成8年2月21日
 判決年月日  平成11年10月20日
 (請求一部認容,奈良地方裁判所)
 控訴年月日  平成11年10月28日〜同年11月2日
 (大阪高等裁判所)
(イ)  名古屋地方裁判所平成8年(行ウ)第8号
損害賠償請求事件
原告 北村三郎ほか2名
被告 富士電機株式会社ほか3名
 提訴年月日  平成8年2月21日
(ウ)  東京地方裁判所平成8年(行ウ)第37号
損害賠償請求事件
原告 木村トモほか6名
被告 横河電機株式会社ほか5名
 提訴年月日  平成8年2月22日
(エ)  最高裁判所平成11年(行ヒ)第225号
損害賠償請求上告事件
上告人(控訴人・原告)   大橋剛ほか3名
被上告人(被控訴人・被告) 横河電機株式会社
 提訴年月日  平成8年3月13日
 判決年月日  平成10年8月20日
(訴え却下,津地方裁判所)
 判決年月日  平成11年9月16日
(控訴棄却,名古屋高等裁判所)
 上告年月日  平成11年9月28日(最高裁判所)
(オ)  名古屋高等裁判所平成10年(行コ)第28号
損害賠償請求控訴事件
控訴人(原告)  岡田賢一ほか6名
被控訴人(被告) 富士電機株式会社
 提訴年月日  平成8年5月20日
 判決年月日  平成10年8月20日
 (訴え却下,津地方裁判所)
 判決年月日  平成11年5月20日
 (控訴棄却,名古屋高等裁判所,確定)
 事案の概要
 当委員会は,デジタル計装制御システム工事の入札談合について,平成7年8月8日,横河電機株式会社ほか3名に対し課徴金納付命令を行った。前記原告住民らは,前記被告らに対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,各地方公共団体に代位して損害賠償を求める住民訴訟を前記各裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 前記各事件について,控訴審判決(控訴棄却により原告敗訴)が確定した前記ア(オ)事件を除き,最高裁判所へ上告された同(エ)事件を含め,平成11年度末現在,各裁判所に係属中である。
 なお,前記各事件について,平成8年度又は9年度中に,それぞれの裁判所から当委員会に文書送付嘱託があり,当委員会は当該裁判所に資料を提供し,また,平成9年度に調査嘱託があった裁判所には回答を行った。
 奈良地方裁判所判決の概要(平成8年(行ウ)第2号事件・前記ア(ア)事件原審判決)
(1)  監査請求期間の起算点について
 奈良県は本件各契約の締結時において代金支払債務を負担していたものではなく,代金を支払った時点で初めて損害が発生し,損害賠償請求権を行使しうる状態になったと認めるのが相当であり,本件各工事に係る監査請求期間の起算点はそれぞれの代金支払が完了した日と解すべきである。
 原告らの監査請求は,監査請求期間内に提起された適法なもの又は当該期間を徒過しているものであるが,その徒過したことにつき正当な理由があるから,いずれも適法な監査請求が前置されていると認められる。
(2)  損害額について
 被告らは談合行為により,現実に利益を受けていたことが推認され,結局,前記期間内に工事を発注した地方公共団体に対して損害を与えたこと自体は間違いないと認められる。そして,前記談合行為によって発注者が被った損害とは,談合行為がなく指名業者間の適切な競争を経て入札された場合に形成されたであろう契約価格と現実の契約価格との差額であると考えられる。
 原告らは,指名競争入札における落札価格は,談合が成立すると予定価格に近づき,談合が成立できなかった場合には最低制限価格ないし予定価格の80パーセント程度の価格に近づく実態があると主張するが,指名競争入札における落札価格を形成する要因は多種多様であることから,単純に他の地方公共団体における類似の指名競争入札を例にとって調査した場合の想定落札価格と比較するのみでは不正確である。また,一般に談合がされなかった場合の落札価格は最低制限価格に近づくとの主張も,最低制限価格とは,これ以下の価格では適正な内容の工事がされるとは考え難いという限度額であり,過当競争の結果手抜き工事となることを防ぐため,たとえ入札価格が低くてもこれ以下の価格では受注させないとして設定された額なのであるから,この価格を談合がされず適切に行われた入札において想定される落札価格であると認めることは,最低制限価格の趣旨からして妥当とは思われない。
 このように,入札談合における損害とは,そもそも損害の性質上制限価格に近づくその額を立証することが極めて困難であるときに該当するものと認められる。
 したがって,当裁判所は,民訴法248条にのっとり,前に認定した被告らの一連の談合行為の態様,本件各工事の契約価格,公正取引委員会における課徴金納付命令に至る経緯等の諸事情及び趣旨・目的は異なるものの独占禁止法7条の2第1項の定める課徴金の割合が6パーセントであること並びに被告横河電機をはじめとして被告らからの的確な反証のない本件弁論の全趣旨などを総合勘案して,被告らの談合行為により奈良県の被った損害の相当額を,本件契約価格の5パーセントに当たる金4571万円と認定することとする。
(5)   東京都水道局発注の水道メーター入札談合に係る住民訴訟
 事件の表示
東京地方裁判所平成9年(行ウ)第142号
損害賠償請求事件
原告 小竹紘子ほか23名
被告 東京都水道局長ほか27名
提訴年月日  平成9年6月9日
 事案の概要
 当委員会は,東京都発注に係る水道メーターの入札談合について,平成9年3月19日,株式会社金門製作所ほか24名に対し当該行為の排除を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,東京都の住民は,株式会社金門製作所ほか24名に対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,東京都に代位して損害賠償を求める住民訴訟を東京地方裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,東京地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を1回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成10年5月19日,損害額等についての調査嘱託があり,当委員会は,同年10月5日,回答を行った。
(6)   群馬県及び同県沼田市発注の土木一式工事等入札談合に係る住民訴訟
 前橋地方裁判所平成10年(行ウ)第4号
損害賠償請求事件
原告 杉山弘一
被告 群馬県知事ほか6名
提訴年月日  平成10年4月20日
 事案の概要
 当委員会は,群馬県沼田市及び群馬県沼田土木事務所発注に係る土木・建築・舗装工事の入札談合について,平成10年1月23日に,同県沼田市所在の土木工事業者等に対し当該行為の排除を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,群馬県沼田市の住民は,当該土木工事業者等に対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,群馬県及び同沼田市に代位して損害賠償を求める住民訴訟を前橋地方裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,前橋地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を1回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成10年7月17日,文書送付嘱託があり,当委員会は,同年12月22日,資料を提供した。
(7)   愛知県発注の土木工事及び名古屋市発注の舗装工事等の入札談合に係る住民訴訟
 事件の表示
(ア)  名古屋地方裁判所平成10年(行ウ)第45号
損害賠償請求事件
原告 株式会社マークシステムほか6名
被告 愛知県知事ほか14名
 提訴年月日  平成10年8月26日
(イ)  名古屋地方裁判所平成10年(行ウ)第46号
損害賠償請求事件
原告 株式会社マークシステムほか3名
被告 名古屋市長ほか16名
 提訴年月日  平成10年8月26日
(ウ)  名古屋地方裁判所平成10年(行ウ)第53号
損害賠償請求事件
原告 株式会社マークシステムほか4名
被告 名古屋市長ほか10名
 提訴年月日  平成10年10月20日
 事案の概要
 当委員会は,愛知県発注の土木工事及び名古屋市発注の舗装工事・道路復旧工事に係る入札談合について,平成10年4月23日,愛知県所在の土木工事業者等に対し当該行為の排除を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,愛知県及び名古屋市の住民は,当該土木工事業者等に対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,愛知県又は名古屋市に代位して損害賠償を求める住民訴訟を名古屋地方裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,名古屋地方裁判所は,平成11年度中に前記アの3事件の口頭弁論をそれぞれ5回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である(前記ア(イ)事件及び同(ウ)事件は併合審理されている。)。
 なお,前記アの3事件に関して,同裁判所から,平成11年6月16日,文書送付嘱託があり,当委員会は,同年7月13日及び9月17日,資料を提供した。
(8)   京都市発注の低食塩次亜塩素酸ソーダの入札談合に係る住民訴訟
 事件の表示
京都地方裁判所平成11年(行ウ)第20号
違法公金支出金返還請求事件
原告 高橋瞬作ほか1名
被告 ダイソー株式会社ほか14名
提訴年月日  平成11年7月28日
 事案の概要
 当委員会は,京都市上下水道事業管理者発注に係る低食塩次亜塩素酸ソーダの入札談合について,平成10年1月23日,同供給業者9社に対し当該行為の排除を命じる審決を行った。当該審決が確定した後,京都市の住民は,当該供給業者等に対して,地方自治法第242条の2の規定に基づき,京都市に代位して違法に支出された公金の返還を求める住民訴訟を京都地方裁判所に提起した。
 訴訟手続の経過
 本件について,京都地方裁判所は,平成11年度中に口頭弁論を3回行い,平成11年度末現在,同裁判所に係属中である。
 なお,同裁判所から,平成11年10月13日,文書送付嘱託があり,当委員会は,平成12年2月10日,資料を提供した。
(9)   社会保険庁発注に係る支払通知書等貼付用シールの供給業者に対する不当利得請求訴訟等
 事件の表示
東京地方裁判所 平成5年(ワ)第24034号不当利得請求事件
平成6年(ワ)第7961号同反訴事件
 同年 (ワ)第18242号同反訴事件
 同年 (ワ)第19150号同反訴事件
原告(反訴被告)国
被告(反訴原告) 小林記録紙株式会社ほか2名
提訴年月日  平成5年12月17日
判決年月日  平成12年3月31日
 (本訴請求一部認容,反訴請求棄却)
 事案の概要
 本件は,本件シールの入札談合について,国が,民法第704条に基づき,本件入札談合による落札価格と客観的価格(時価)との差額は被告らの不当利得であるとして,その返還を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し,また,被告らが国に対し,未払残代金の支払いを請求したものである。
 なお,当委員会は,本件入札談合について,トッパン・フォームズ株式会社(旧商号トッパン・ムーア株式会社),大日本印刷株式会社及び小林記録紙株式会社の3社に対し課徴金納付命令を行ったが,3社はこれを不服としたので,審判手続を経て審決を行った。これに対し,3社は,審決の取消しの訴えを東京高等裁判所に提起したが請求棄却された。3社は,その後,上告していたが,平成10年10月13日,最高裁判所において上告棄却の判決が下された。
 東京地方裁判所判決の概要
 本件について,東京地方裁判所は,平成12年3月31日,本訴原告(国)の請求を一部認容し(約15億2000万円の請求に対し,約14億6000万円認容),反訴原告の請求を棄却する判決を言渡した。当該判決の概要は次のとおりである。
[3月31日の判決要旨(当委員会関係部分)]
 課徴金納付による不当利得の消滅等
 民法上の不当利得制度は,法律上の原因がないのに他人の財産又は労務により利益を受け,これによって他人に損失を及ぼした者に対し,公平の理念からその損失の範囲を限度として利得を返還させることにより,権利主体相互間の利害の調整を図ろうとする私法上の制度であるのに対し,独占禁止法上の課徴金制度は,国が一定のカルテル行為による経済的利得をカルテルに参加した事業者からはく奪することによって,社会的公正を確保するために設けられたものであって,課徴金の納付命令は,この目的を達成するために,公正取引委員会が同法の定める手続に従ってカルテルに参加した事業者に対して課す行政上の措置であり,その課徴金の額は,具体的なカルテル行為による現実の経済的利得とは切り離して,原則として売上額に一定の率を乗じるという画一的な方法により算定されるのであって,課徴金は,いわば右行政目的を達成するために刑罰にわたらない範囲で課される経済的な不利益であるということができる。したがって,両制度は,その要件・効果はもちろん,趣旨・目的も異なるものであり,本件においても,原告が被告らに対し返還を求めている不当利得金と本件課徴金とが実質的に重複する関係にあり,被告らに右不当利得金の返還を命ずることが,被告らに対し,同一の事実関係を原因として二重の経済的不利益を課することになるものといえないことは明らかであるから,被告らが課徴金納付命令に従い本件課徴金を国庫に納付したとしても,原告の被告らに対する不当利得返還請求権には何らの影響を及ぼさないと言うべきである。
 なお,右のように,課徴金制度と民法上の不当利得制度とが両立し得るとしても,課徴金が実質的に制裁ないし刑罰の性格を有することになるものでないから,右のように解することが憲法39条に違反し,同法29条及び31条の趣旨にもとるものでないことは明らかである。
(10)   アメリカ合衆国を債権者とする資産の仮差押異議申立事件(米軍横須賀海軍施設談合事件関係訴訟)
 事件の表示
東京高等裁判所平成6年(ネ)第1295号
仮差押異議申立控訴事件
控訴人(債権者)  アメリカ合衆国
被控訴人(債務者) 保坂建設株式会社
提訴年月日  平成2年6月27日
判決年月日  平成6年3月17日
 (仮差押却下,横浜地方裁判所川崎支部)
控訴年月日  平成6年3月30日(東京高等裁判所)
和解年月日  平成11年9月8日
 事案の概要
 本件は,横須賀海軍施設を中心とする米軍施設・区域等における建設工事等を競争入札により発注しているアメリカ合衆国の極東建設本部等が,競争入札に参加する事業者らのいわゆる談合行為により損害を被ったとして,談合行為が存在した契約のうち,当委員会が課徴金納付命令の対象とした建設工事等に限定し,その損害賠償請求権を被保全権利として仮差押申請を行い,仮差押決定を得ていたのに対し,債務者が異議を申し立てたものである。なお,横浜地方裁判所川崎支部は,本件に関し,当委員会に対して,平成3年7月31日,文書送付嘱託を行い,当委員会は,同年10月23日,資料を提供した。
 訴訟手続の経過
 本件については,東京高等裁判所に控訴された後,被控訴人が破産したことから,平成11年9月8日,控訴人及び被控訴人破産管財人との間で和解が成立し終結した。
(11)   米軍厚木海軍飛行場における入札談合事件損害賠償請求訴訟
 事件の表示
東京地方裁判所平成6年(ワ)第18372号
損害賠償請求事件
原告 アメリカ合衆国
被告  荒澤建設株式会社ほか52名(訴えの一部取下げがあったので,29名に減少した。)
提訴年月日  平成6年9月16日
 事案の概要
 本件は,米軍厚木海軍飛行場における建設工事等を競争入札により発注しているアメリカ合衆国の厚木駐在建設事務官が,競争入札に参加する厚木建設部会会員73名の昭和59年から平成2年にかけての談合行為により損害を被ったとして損害賠償を求める「通告書」を送付したが,これに応じなかった荒澤建設株式会社ほか52名に対して,民法第709条及び第719条の規定に基づき損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起したものである。
 訴訟手続の経過
 本件について,平成11年度末現在,東京地方裁判所に係属中である。
 
その他の当委員会関係の訴訟
 平成11年度当初において係属中の当委員会が関係する訴訟は,豊田商法の被害者による国家賠償請求事件(いわゆる大阪豊田商事事件)の1件であり,平成11年度末現在係属中である。
 豊田商法の被害者(366名)による国家賠償請求事件(大阪豊田商事事件)
 事件の表示
最高裁判所 平成10年(オ)第1446号
損害賠償請求上告事件
上告人(控訴人・原告)   田中俊男ほか365名
被上告人(被控訴人・被告) 国
提訴年月日(一審)  昭和63年4月23日(一次)
 昭和63年11月4日(二次)
判決年月日(一審)  大阪地方裁判所
 平成5年10月6日(請求棄却)
判決年月日(二審)  大阪高等裁判所
 平成10年1月29日(控訴棄却)
上告年月日  平成10年2月10日
 事案の概要
 本件は,豊田商事株式会社(以下「豊田商事」という。)による「金地金の売買」と「純金ファミリー契約」を組み合わせた,いわゆる豊田商法によって被害を受けたとする者らが,国が,被害の発生を防止すべく,その有する規制権限を行使しなかったことを理由として,国家賠償法第1条第1項の規定に基づいて,国に対し,損害の賠償を求めているものである。
 なお,当委員会に対する上告人らの主張は,いわゆる豊田商法が独占禁止法第19条(「不公正な取引方法」一般指定第8項のぎまん的顧客誘引)及び景品表示法第4条第1号及び第2号(不当表示)の各規定に該当することは明らかであり,当委員会はこれを認識し,調査することが可能であったのであるから,前記各法律に基づき,その権限を行使して,排除勧告,排除命令等の行政措置を行う作為義務を負っていたにもかかわらず,漫然と豊田商法の継続,拡大を放置したため,上告人らに被害をもたらしたとするものである。
 一審(大阪地方裁判所)判決の概要
 一審判決は,当委員会の責任について,豊田商事が独占禁止法第19条の「事業者」に当たることを肯定し,不作為の違法の要件である危険の切迫,予見可能性,補充性が存在したことは認めたが,国民が公務員による規制権限の行使を期待している状況にあったこと及び公務員が規制権限を行使すれば容易に結果を回避できたことについてはいずれも認めず,また,当委員会が有する広範な裁量権をも総合考慮すれば,規制権限の不行使が著しく不合理であったとはいえないとした。
 二審(大阪高等裁判所)判決の概要
(ア)  総論(規制権限行使義務の発生要件)
 二審判決は,公務員の権限不行使が著しく合理性を欠くか否かは,行政権限の行使に裁量権を付与した法の趣旨,目的,当該法規の定める裁量の幅の大小,規制ないし監督の相手方及び方法等を前提として,(1)危険の切迫性,(2)危険の認識又は予見可能性,(3)結果回避可能性といった事情や,(4)補充性,(5)国民の期待といった規制権限の不行使が違法と判断されることについて積極的に作用する事情のみならず,権限行使に支障となる事情の存否,従前の同種事例において行政庁の採った措置との均衡,当該事案において行政権限を行使しない代わりに,その前後にわたり具体的に採られた行政措置の有無とその内容といった,右判断に消極に作用する事情,さらには,直接の加害者,被害者側の個別具体的な事情等諸般の事情を総合考慮して決すべきであるとした。
(イ)  当委員会の責任に関する裁判所の判断
 二審判決は,豊田商事が独占禁止法第19条の「事業者」に当たること,危険の切迫性,予見可能性,結果回避可能性,補充性及び国民の期待が存在したことを認めたが,公正取引委員会の担当者が当時得ていた資料や情報からは,豊田商事の営業実態が十分把握できず,悪質業者と断定できるものではなかったのであるから,担当者が契約内容について拘泥した判断をしたのもやむを得ないというべきであり,また,仮に,担当者が金地金の現物の存在を前提とした取引の安全性,有利性に関する表示について,ぎまん的顧客誘引ないしは不当表示に該当する旨正しい判断をしたとしても,同事実を認定できる的確な証拠を入手していたことを認めるに足りる証拠もないのであって,結局,公正取引委員会は,控訴人らを含む本件訴訟の第一審原告らの最終損害発生の日までの時点において,独占禁止法の排除措置命令や景品表示法の排除命令を発することはできなかったと判示した。
 訴訟手続の経過
 本件について,平成11年度末現在,最高裁判所に係属中である。