第4章 政府規制等と規制緩和

第1 概説

1 見直しの必要性
 我が国では,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外されている産業分野がみられる。
 このような政府規制は,第二次世界大戦後における我が国経済の発展過程において一定の役割を果たしてきたものと考えられるが,社会的・経済的情勢の変化に伴い,当初の必要性が薄れる一方で,効率的経営や企業家精神の発揮の阻害,競争制限的問題を生じさせてきているものも少なくない。
 また,我が国経済は,現在,極めて厳しい環境下にあるが,これを克服して21世紀に向けて活力ある発展を遂げていくためには,規制緩和とそれを通じた経済システムの改革により,我が国経済の構造改革を図り,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に立った,民間活力が最大限に発揮される創造的な経済社会へ変革していくことが喫緊の課題となっている。
 政府においても,規制緩和を通じた経済の再活性化は最重要の課題と位置付けられており,平成7年以来,毎年,閣議において規制緩和推進計画を策定・改定し,規制緩和の推進に積極的に取り組んでおり,公正取引委員会は,政府が規制緩和を推進するプログラムを策定するに当たって積極的に関与するとともに,個別の政府規制制度についても必要に応じて改善のための提言を行うなど,積極的に規制緩和に取り組んでいる。
 さらに,適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度であり,適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損なわれるおそれがあり,必要最小限にとどめるとともに,不断の見直しの必要がある。
  規制緩和推進3か年計画(再改定)
 政府は,我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り,国際的にも開かれ,自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに,行政の在り方について,いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本として,規制緩和を推進してきている。その際,規制緩和の推進に併せて,市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開,事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設や,自己責任原則の確立に資する情報公開及び消費者のための必要なシステムづくりなどの改革に,規制の緩和や撤廃と一体として取り組んでいくこととしている。また,政府は,平成7年度から平成9年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進するために策定した「規制緩和推進計画について」(平成7年3月31日閣議決定)及びその改定に関する累次の閣議決定に引き続き,平成10年度から平成12年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進するため,新たに「規制緩和推進3か年計画」を策定し,さらに,2度の改定を経て「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月31日閣議決定。以下「再改定3か年計画」という。)を策定した。
 再改定3か年計画においては,当委員会の取り組むべき課題として,独占禁止法違反行為に対する厳正・迅速かつ積極的な対処,規制緩和の推進についての調査・提言及び独占禁止法適用除外制度の見直しに加え,以下のものが掲げられている。
(1)  地方公共団体が講じている参入規制等についても競争政策の観点から実態調査を行い,必要に応じて提言を行うとともに関係行政庁と所要の調整を行うこと。
(2)  規制緩和後において,規制に代わって競争制限的な行政指導が行われることのないよう,「行政指導に関する独占禁止法上の考え方」(平成6年6月,公正取引委員会)の趣旨を踏まえ,関係省庁からの事前の調整に対して適切に対応すること。
(3)  いわゆる民民規制の問題について,独占禁止法違反行為に対しては厳正に対処することに加え,その実態を調査し,競争制限的な民間慣行についてその是正を図るとともに,その背後に競争制限的な行政指導が存在する場合には,当委員会及び関係省庁がその早急な見直しに取り組むこと。行政が何ら関与していない場合には,関係省庁は,関与していない旨を改めて周知するなど,責任の所在の明確化に努めること。
 また,再改定3か年計画において,「民事的救済制度については,規制緩和推進のための基盤的条件の整備の観点から,有効かつ整合的な制度となるよう結論を得て,私人により独占禁止法違反行為(不公正な取引方法に係るもの)に対する差止請求を行うことができる制度を新設する等のための所要の法的措置を講ずる」こととされ,平成12年3月21日,差止請求制度の導入等を内容とする独占禁止法の一部を改正する法律案が第147回通常国会に提出され,平成12年5月12日に同法案は成立した。
3 再改定3か年計画に伴う競争政策に関する取組の公表
 当委員会は,再改定3か年計画に示された政府として行うこととしている規制緩和推進のための施策の趣旨を踏まえつつ,我が国市場における公正かつ自由な競争を促進するため,独占禁止法違反行為に対して,引き続き,厳正かつ積極的に対処するとともに,規制等公的制度や民間部門の諸局面において公正かつ自由な競争の確保・促進が図られるよう取り組んでいくこととしており,具体的な取組方針を平成12年3月31日付けで公表するとともに,当該公表文において,規制緩和の推進及び競争政策の運営における公正取引委員会の役割に関し,広く一般の意見を受け付けている旨を明らかにした。具体的な取組としては,国際的に開かれた,自由で公正な活力ある経済社会を形成していくためには,規制緩和を含めた競争政策を積極的に推進していくことが必要であるとの観点から,規制緩和のための調査・提言,競争制限的行政指導の改善,民民規制への対応,事業者の自主的な独占禁止法遵守への取組に対する支援等を通じ,関係省庁,事業者等に対して働きかけを行っていくことなどを明らかにしている。

第2 政府規制制度の見直し

1 政府規制等と競争政策に関する研究会における検討
 当委員会は,従来から競争政策の観点から政府規制制度について中長期的に見直しを行ってきており,昭和63年7月以降,政府規制制度の見直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教授)を開催している。
 同研究会は,平成11年6月以降,公益事業分野について,新規参入を促進し,新規参入者と既存事業者との公正な競争条件を確保する観点から検討を行っている。同研究会では,規制緩和が進められている個別の事業分野を取り上げて,当該事業分野における規制の問題点や改革の方向,競争政策の在り方を検討し,それらの検討結果を踏まえた上で,競争政策の観点からみた公益事業分野全般における競争の在り方をまとめることとしている。平成11年度においては,電気事業分野,ガス事業分野及び国内航空旅客運送事業分野について検討を行い,同研究会が取りまとめた報告書を平成11年11月,12月及び平成12年2月にそれぞれ公表した。その概要は以下のとおりである。
(1)  電気事業分野における競争政策上の課題
 平成11年の電気事業法改正による制度改革は,電力の小売分野に競争原理を導入するものであり,今後の制度運用の状況,市場における競争の実態等を踏まえる必要があるとしても,競争政策の観点から評価できる。
 競争政策の観点からみた今後の課題としては,以下のものが挙げられる。
 小売自由化の範囲
 自由化の範囲については,今回の改革の実施による競争の進展の状況等を踏まえつつ,将来的にはすべての需要家に自由化の成果を行き渡らせる観点から自由化対象範囲について検討される必要があると考えられる。
 卸電力市場の創設
 自由化範囲の拡大が図られる場合には,併せて,多様な事業者がアクセスすることが可能であり,競争原理が反映される卸電力市場の在り方について検討される必要がある。
 送電部門の中立性の確保
 新規参入者と電力会社間の公正な競争条件の確保の観点からは,送電部門の中立性の確保が極めて重要である。今回の制度改革においては送電部門の中立性の確保について電力会社の自主的な対応に委ねることとされている。しかしながら,自由化対象部門の拡大が図られるならば,電力会社と新規参入者との競争がより進展することになり,送電部門の中立性や透明性の確保が一層強く要請されることになると考えられる。
 また,電気事業等いわゆる「自然独占」事業に対する適用除外を定めたものとされている独占禁止法第21条との関係について,同条は,参入規制の結果として生じる独占的地位及びそれに必然的に伴う供給等に関する行為であって電気事業に固有のものについては,そもそも独占禁止法の禁止規定に違反することは考えられないという当然のことを確認的に規定したものであると考えられる。
 独占禁止法の適用除外制度については,適用除外制度を必要最小限のものに限定するという観点から見直しが行われているところであるが,独占禁止法第21条の規定は確認的な規定にすぎず,また,制度改革によって参入規制が緩和され,独占が保障されなくなっていることから,新規参入を阻止又は妨害するような行為が独占禁止法上当然に問題となること等を踏まえると規定自体が適切ではないことから,独占禁止法の改正により,削除されることが適当である。
(2)  ガス事業分野における競争政策上の課題
 平成11年のガス事業法改正による制度改革において,一般ガス事業者における大口供給の範囲が拡大されたこと,託送が制度化されたこと等については競争政策の観点から評価できる。
 競争政策の観点からみた今後の課題としては,以下のものが挙げられる。
 大口供給に係る許可制の見直し
 大口供給に係る許可制等については,許可要件等にかんがみれば,大口供給の範囲を拡大したとしても競争促進効果が十分期待できないおそれがあるので,今後見直しを行う必要がある。
 一般ガス事業の供給区域の在り方
 一般ガス事業者の供給区域の在り方について,一般ガス事業者の供給区域の設定及び事後的な変更等の在り方について,一層の見直しが必要である。
 消費者等の需要家に対する情報提供
 LPガス販売事業者を含むガス事業全般において,各ガス事業者の料金やサービス等の容易な比較により,消費者等が適正な判断の下で事業者の選択が可能となるよう,事業者等による十分な情報開示が行われることが重要である。
 また,ガス事業と独占禁止法第21条との関係については,電気事業における考え方と同様である。
(3)  国内航空旅客運送事業分野における競争政策上の課題
 平成11年の航空法改正による制度改革において,需給調整条項を伴った路線免許制が廃止され,事業ごとの許可制に移行したこと等については競争政策の観点から評価できる。国内航空旅客運送事業分野における競争を促進していくためには,とりわけ,新規参入を認めていくことが重要であるが,そのためには,新規参入者と大手航空会社が十分に競争を行い得る競争基盤を整備していくことが重要である。
 国内航空旅客運送事業における競争基盤の整備を図っていく上での重要なものとしては,以下のものが挙げられる。
 混雑空港における発着枠の配分
 発着枠の配分については,航空会社間の競争を促進していく観点からは,原則として,(1)透明性の確保,(2)航空会社が多様な経営戦略を採ることを制約しないこと,(3)競争原理の活用が図られることを踏まえたものとすることが必要である。新規参入者への配分については,大手航空会社との対等な競争基盤を確保するため,まず一般的な配分に先立って一定の枠を割り当てる仕組みを設ける必要がある。
 空港施設の公平な利用
 空港ビル施設の利用について,空港ビル会社は,公正な競争条件の確保という観点から,透明なルールを策定し,ルールの公正な適用を行うとともに,その運用について第三者が検証する仕組みを設けることが必要である。
  適正な電力取引についての指針及び適正なガス取引についての指針の策定
(1)  趣旨及び経緯
 電気事業については,平成12年3月21日から改正電気事業法が施行され,特別高圧需要家に対する小売自由化や電力会社が保有する送電線を新規参入者が利用するための接続供給の制度化を始めとする制度改革がスタートした。
 また,ガス事業については,平成11年11月19日から改正ガス事業法が施行され,小売自由化分野である大口供給に係る対象需要家の範囲拡大及び新規参入者が既設導管を活用するガスの接続供給の制度化を始めとする制度改革がスタートした。
 しかしながら,制度改革後においても,参入に不可欠な設備である送電線を電力会社が独占的に保有していること,電力会社・ガス会社の市場における地位等を考えると有効な競争が行われていくかについては懸念がある。
 このため,公正取引委員会と通商産業省は,通商産業省の電気事業審議会及び総合エネルギー調査会の提言等を踏まえ,制度改革後の電力市場及びガス市場を競争的に機能させることを目的とし,事業法及び独占禁止法と整合性のとれた適正な取引の在り方についての考え方を示すこととした。そして,平成11年10月20日「適正な電力取引についての指針」(原案)を,平成11年12月27日に「適正なガス取引についての指針」(原案)を作成・公表し,関係各方面から意見を求め,これを検討・参酌の上,それぞれ平成11年12月20日,平成12年3月23日に成案を作成・公表した。
(2)  適正な電力取引についての指針の概要
 本指針は,「第一部 適正な電力取引についての指針の必要性と構成」及び「第二部 適正な電力取引についての指針」から構成されている。
 本指針の内容は,「自由化された小売分野における適正な電力取引の在り方」,「託送分野における適正な電力取引の在り方」,「電力会社の電気の調達分野における適正な電力取引の在り方」及び「規制が残る小売分野における適正な電力取引の在り方」に区分した上で,公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び電気事業法又は独占禁止法上問題となる行為を例示している。
(3)  適正なガス取引についての指針の概要
 本指針は,「第一部 適正なガス取引についての指針の必要性と構成」及び「第二部 適正なガス取引についての指針」から構成されている。
 本指針の内容は「小売自由化分野(大口供給,特定ガス大口供給)における適正な取引の在り方」,「接続供給分野における適正なガス取引の在り方」,「卸売分野における適正なガス取引の在り方」及び「小売規制分野(選択約款)における適正なガス取引の在り方」に区分した上で,公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及びガス事業法及び独占禁止法上問題となる行為を例示している。
  国内定期航空旅客運送事業分野における大手3社と新規2社の競争の状況等について
 我が国の国内定期航空旅客運送事業の分野(以下「国内航空分野」という。)においては,近年,利用者ニーズの多様化と航空旅客運送産業の成長に合わせ,事業への参入や運賃・料金制度につき累次,規制緩和が進められてきている。このような中で,スカイマークエアラインズ株式会社と北海道国際航空株式会社の2社(以下これらを「新規2社」という。)がそれぞれ平成10年9月及び12月に国内航空分野に新規参入し,これら新規2社が参入した路線を中心に運賃の低廉化が進むなど,国内航空分野における競争が一層促進されてきている。
 しかし,長期間にわたり参入規制・価格規制等が実施されてきた分野においては,単に規制が撤廃されるだけでは実際に参入が困難であったり,参入事業者が既存事業者と公正かつ自由な競争を行い得ないおそれもある。そこで,新規参入によってもたらされつつある効果が短期的なものに終わることのないよう,独占禁止法の規定に違反する行為が行われないよう十分注視するとともに,公正かつ自由な競争の基盤を確保していく等の観点からも検討していく必要がある。
 そこで,公正取引委員会では,新規2社の国内航空分野への参入に伴う競争の状況等について,関係者に対するヒアリング等により実態把握を行い,独占禁止法上及び競争政策上の問題点について検討し,平成11年12月14日,その結果を公表した。その概要は次のとおりである。
(1)   国内航空分野への新規参入及び新規2社の競争の状況等について
 新規2社が現実に国内航空分野に参入すること等により,運賃水準の更なる低下や利便性の向上がみられるようになっており,新規2社の参入は,国内航空分野における競争に好影響を及ぼしているものと評価できる。
(2)  発着枠について
 新規2社は,便数において大手各社と競争の基盤が対等でないことから,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,今後の発着枠の配分に際し,このような状況に配慮がなされることが望まれる。
(3)  大手3社の対抗的な割引運賃の設定について
 現時点で独占禁止法上直ちに問題であるとするものではないが,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,新規2社が大手3社と十分に競争し得るまでの間においては,新規2社と競合する時間帯についてのみ同等の取引条件の下で同一水準の割引運賃を設定することは,新規2社の排除につながりかねないので,大手3社においては節度ある行動が望まれる。
(4)  機体整備について
 基本的に取引先選択の自由の問題であり,大手各社が新規各社の機体整備に係る取引を行わないとしても独占禁止法上直ちに問題となるものではないが,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,一定の必要な期間は,合理的な取引条件の下で,自社が提供することが可能であって新規各社の自営化等が現実的でない機体整備の受託を拒絶しないようにすることが望まれる。
(5)  空港ビル施設の利用について
 新規2社が,搭乗受付カウンター等の設置スペースの確保等を行うに当たり,空港ビル会社又は大手3社による独占禁止法違反行為はないと考えられるが,これまで新規参入を想定した空港施設等の利用が考えられてこなかった中,公正かつ自由な競争基盤を確保する観点からは,空港ビル会社は,当該施設の利用について透明なルールを設定し,そのルールを公正に適用することが望まれる。

第3 独占禁止法適用除外制度

1 独占禁止法適用除外制度の概要
 独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外制度が設けられている。
 適用除外制度の根拠規定は,独占禁止法自体に定められているもの及び独占禁止法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。
 なお,適用除外法は,適用除外制度整理法により廃止された。
(1)   独占禁止法に基づく適用除外制度
 独占禁止法は,(1)自然独占に固有な行為(第21条),(2)無体財産権の行使行為(第23条),(3)一定の組合の行為(第24条)(4)再販適用除外(第24条の2)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている(平成11年度末現在)。
 なお,事業法令に基づく正当な行為(第22条),不況カルテル(第24条の3)及び合理化カルテル(第24条の4)に関する適用除外制度は,適用除外制度整理法により廃止された。
(2)  個別法に基づく適用除外制度
 独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成11年度末現在,保険業法等15の法律がある。
2 適用除外制度の見直しについて
(1)   適用除外制度見直しの必要性
 現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきた。
 しかし,今日の我が国経済は当時とは大きく変化し,世界経済における地位の向上,企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化等が進んできており,政府規制と同様に適用除外制度の必要性も変化してきている。
 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存の事業者の保護的な効果を及ぼすおそれがあり,その結果,経営努力が十分行われず,消費者の利益を損なうおそれがある。また,現に利用されていない制度についても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将来においてもそのまま利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自体を背景にして協調的行動が採られやすく,競争を回避しようとする傾向が生じるおそれがあり,このことにより,個々の事業者の効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがある等の問題がある。
(2)  適用除外制度見直しの経緯
 適用除外制度については,近年,累次の閣議決定等においてその見直しが決定されている。平成9年には「規制緩和推進計画の改定について」(平成8年3月29日閣議決定)に基づき検討が行われ,第140回国会において「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が成立し,個別法に基づく適用除外制度20法律35制度について廃止等の措置が採られた。その他の適用除外制度についても,「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31目閣議決定)等に基づき検討が行われ,平成11年の第145回国会において,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,適用除外法の廃止等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が成立し,同年7月23日に施行された。さらに,第146回国会においては,中小企業の事業活動の活性化等のための中小企業関係法律の一部を改正する法律により,商工組合の経営安定カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止等を内容とする中小企業団体の組織に関する法律の一部改正が行われた(平成11年12月14日可決・成立,平成12年3月2日施行)。
 これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外制度は,平成11年度末現在,16法律23制度(うち,個別法によるものは15法律19制度)にまで縮減された。
 また,規制緩和推進3か年計画(改定)(平成11年3月30日閣議決定)においては,独占禁止法第21条の規定の削除について引き続き検討することとされたが,第21条については規定を削除するとの結論を得,第147回国会に第21条の規定の削除等を内容とする独占禁止法改正法案が提出(平成12年3月21日)され,可決・成立(同年5月12日・19日)した(同年6月19日施行)。
 独占禁止法第21条の削除等を内容とする独占禁止法改正法案については第1章を参照のこと。また再販適用除外制度の見直しについては第11章第2を参照のこと。
3 適用除外カルテルの動向
(1)  概況
 適用除外カルテルの概要
 価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるものとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で他の政策目的を達成する等の観点から,個々の適用除外制度ごとに設けられた一定の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。
 このような適用除外カルテル制度が認められるのは,当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル),国際的な協定にかかわるものであって諸外国においても適用除外が認められているため(航空法等に基づく国際運輸カルテル)等,様々な理由による。
 個別法に基づく適用除外カルテルについては,一般に,当委員会の同意を得,又は当委員会へ協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこととなっている(当委員会が認可を行っていた独占禁止法に基づく不況カルテル及び合理化カルテルについては,適用除外制度整理法により当該制度が廃止された。)。
 また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除外カルテル制度の目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。
 さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。
 適用除外カルテルの動向
 当委員会が認可し,又は当委員会の同意を得,若しくは当委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,また,適用除外カルテル制度そのものが大幅に縮減されたこともあり,平成11年度末現在,15件となっている。
(2)   独占禁止法に基づく適用除外カルテル
 独占禁止法に基づく不況カルテル制度及び合理化カルテル制度については,適用除外制度整理法により廃止されたが,不況カルテルについては平成元年10月以降,合理化カルテルについては昭和57年1月以降,それぞれ実施されたものはなかった。
(3) 個別法に基づく適用除外カルテル 
 概要
 平成11年度において,個別法に基づき主務大臣から当委員会に対し同意を求め,又は協議若しくは通知のあったカルテルの処理状況は第1表のとおりであり,このうち現在実施されている個別法に基づくカルテルの動向は,次のとおりである。

第1表   平成11年度における適用除外カルテルの処理状況



 処理件数欄中( )内は新規件数である。
注1: 中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルについては,中小企業の事業活動の活性化のための中小企業関係法律の一部を改正する法律(平成12年3月2日施行)により当該制度が廃止された。
2: 海上運送法における[ ]内の数については,当該年度について締結の届出を受けたカルテル件数であり,外数である。

 保険業法に基づくカルテル
(1)  航空保険事業,原子力保険事業,自動車損害賠償補償法に基づく自賠責保険事業若しくは地震保険契約に関する法律に基づく地震保険事業についての共同行為
又は
(2)  (1)以外の保険で共同再保険を必要とするものについての一定の共同行為を行う場合には,金融再生委員会の認可を受ける必要があり,金融再生委員会はその認可に際し当委員会の同意を得ることとされている。
 平成11年度において,金融再生委員会から同意を求められたものは2件であった(いずれも変更認可に係るもの)。
 また,平成11年度末における同法に基づく共同行為は8件である。
 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル
 損害保険料率算出団体が自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には,金融再生委員会に届け出なければならないこととされており,金融再生委員会は届出を受理したときは当委員会に通知しなければならないこととされている。
 平成11年度において,金融再生委員会から通知を受けたものは1件であった。
 また,平成11年度末における同法に基づくカルテルは2件である。
 道路運送法に基づくカルテル
 一般乗合旅客自動車運送事業者が,輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と共同経営に関する協定を締結,変更しようとする場合には,運輸大臣の認可を受けなければならないとされており,運輸大臣は認可する際には当委員会に協議することとされている。
 平成11年度において,運輸大臣から協議を受けたものはなかった。
 また,平成11年度末における同法に基づくカルテルは3件である。
 内航海運組合法に基づくカルテル
 内航海運組合法に基づき内航海運組合又は内航海運組合連合会が調整事業を行う場合には,調整規程を設定し,運輸大臣の認可を受ける必要があり,運輸大臣は認可をする際には,当委員会に協議することとされている。
 平成11年度において,運輸大臣から通知を受けたものは1件であった。
 また,平成11年度末における同法に基づくカルテルは2件である。
 海上運送法に基づくカルテル
(ア)  内航海運カルテル
 本邦の各港間の航路に関しては,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結・変更については,運輸大臣の認可を受けなければならないとされており,運輸大臣は認可する際には当委員会に協議することとされている。
 平成11年度において,運輸大臣から協議を受けたものはなかった。
 また,平成11年度末における同法に基づくカルテルはない。
(イ)  外航海運カルテル
 本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関しては,船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は共同行為については,その締結・変更についてあらかじめ運輸大臣に届け出なければならないこととされており,運輸大臣は届出を受理したときは当委員会に通知しなければならないこととされている。
 平成11年度において,運輸大臣から協定等の締結について通知を受けたものは28件であった。