1 見直しの必要性
我が国では,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外されている産業分野がみられる。
このような政府規制は,第二次世界大戦後における我が国経済の発展過程において一定の役割を果たしてきたものと考えられるが,社会的・経済的情勢の変化に伴い,当初の必要性が薄れる一方で,効率的経営や企業家精神の発揮の阻害,競争制限的問題を生じさせてきているものも少なくない。 また,我が国経済は,現在,極めて厳しい環境下にあるが,これを克服して21世紀に向けて活力ある発展を遂げていくためには,規制緩和とそれを通じた経済システムの改革により,我が国経済の構造改革を図り,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に立った,民間活力が最大限に発揮される創造的な経済社会へ変革していくことが喫緊の課題となっている。 政府においても,規制緩和を通じた経済の再活性化は最重要の課題と位置付けられており,平成7年以来,毎年,閣議において規制緩和推進計画を策定・改定し,規制緩和の推進に積極的に取り組んでおり,公正取引委員会は,政府が規制緩和を推進するプログラムを策定するに当たって積極的に関与するとともに,個別の政府規制制度についても必要に応じて改善のための提言を行うなど,積極的に規制緩和に取り組んでいる。 さらに,適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度であり,適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損なわれるおそれがあり,必要最小限にとどめるとともに,不断の見直しの必要がある。
政府は,我が国経済社会の抜本的な構造改革を図り,国際的にも開かれ,自己責任原則と市場原理に立つ自由で公正な経済社会としていくとともに,行政の在り方について,いわゆる事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことを基本として,規制緩和を推進してきている。その際,規制緩和の推進に併せて,市場機能をより発揮するための競争政策の積極的展開,事前規制型の行政から事後チェック型の行政に転換していくことに伴う新たなルールの創設や,自己責任原則の確立に資する情報公開及び消費者のための必要なシステムづくりなどの改革に,規制の緩和や撤廃と一体として取り組んでいくこととしている。また,政府は,平成7年度から平成9年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進するために策定した「規制緩和推進計画について」(平成7年3月31日閣議決定)及びその改定に関する累次の閣議決定に引き続き,平成10年度から平成12年度までの3か年にわたり規制緩和等を計画的に推進するため,新たに「規制緩和推進3か年計画」を策定し,さらに,2度の改定を経て「規制緩和推進3か年計画(再改定)」(平成12年3月31日閣議決定。以下「再改定3か年計画」という。)を策定した。
再改定3か年計画においては,当委員会の取り組むべき課題として,独占禁止法違反行為に対する厳正・迅速かつ積極的な対処,規制緩和の推進についての調査・提言及び独占禁止法適用除外制度の見直しに加え,以下のものが掲げられている。
3 再改定3か年計画に伴う競争政策に関する取組の公表
当委員会は,再改定3か年計画に示された政府として行うこととしている規制緩和推進のための施策の趣旨を踏まえつつ,我が国市場における公正かつ自由な競争を促進するため,独占禁止法違反行為に対して,引き続き,厳正かつ積極的に対処するとともに,規制等公的制度や民間部門の諸局面において公正かつ自由な競争の確保・促進が図られるよう取り組んでいくこととしており,具体的な取組方針を平成12年3月31日付けで公表するとともに,当該公表文において,規制緩和の推進及び競争政策の運営における公正取引委員会の役割に関し,広く一般の意見を受け付けている旨を明らかにした。具体的な取組としては,国際的に開かれた,自由で公正な活力ある経済社会を形成していくためには,規制緩和を含めた競争政策を積極的に推進していくことが必要であるとの観点から,規制緩和のための調査・提言,競争制限的行政指導の改善,民民規制への対応,事業者の自主的な独占禁止法遵守への取組に対する支援等を通じ,関係省庁,事業者等に対して働きかけを行っていくことなどを明らかにしている。
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1 政府規制等と競争政策に関する研究会における検討
当委員会は,従来から競争政策の観点から政府規制制度について中長期的に見直しを行ってきており,昭和63年7月以降,政府規制制度の見直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 鶴田俊正 専修大学教授)を開催している。
同研究会は,平成11年6月以降,公益事業分野について,新規参入を促進し,新規参入者と既存事業者との公正な競争条件を確保する観点から検討を行っている。同研究会では,規制緩和が進められている個別の事業分野を取り上げて,当該事業分野における規制の問題点や改革の方向,競争政策の在り方を検討し,それらの検討結果を踏まえた上で,競争政策の観点からみた公益事業分野全般における競争の在り方をまとめることとしている。平成11年度においては,電気事業分野,ガス事業分野及び国内航空旅客運送事業分野について検討を行い,同研究会が取りまとめた報告書を平成11年11月,12月及び平成12年2月にそれぞれ公表した。その概要は以下のとおりである。
平成11年の電気事業法改正による制度改革は,電力の小売分野に競争原理を導入するものであり,今後の制度運用の状況,市場における競争の実態等を踏まえる必要があるとしても,競争政策の観点から評価できる。
競争政策の観点からみた今後の課題としては,以下のものが挙げられる。
平成11年のガス事業法改正による制度改革において,一般ガス事業者における大口供給の範囲が拡大されたこと,託送が制度化されたこと等については競争政策の観点から評価できる。
競争政策の観点からみた今後の課題としては,以下のものが挙げられる。
平成11年の航空法改正による制度改革において,需給調整条項を伴った路線免許制が廃止され,事業ごとの許可制に移行したこと等については競争政策の観点から評価できる。国内航空旅客運送事業分野における競争を促進していくためには,とりわけ,新規参入を認めていくことが重要であるが,そのためには,新規参入者と大手航空会社が十分に競争を行い得る競争基盤を整備していくことが重要である。
国内航空旅客運送事業における競争基盤の整備を図っていく上での重要なものとしては,以下のものが挙げられる。
電気事業については,平成12年3月21日から改正電気事業法が施行され,特別高圧需要家に対する小売自由化や電力会社が保有する送電線を新規参入者が利用するための接続供給の制度化を始めとする制度改革がスタートした。
また,ガス事業については,平成11年11月19日から改正ガス事業法が施行され,小売自由化分野である大口供給に係る対象需要家の範囲拡大及び新規参入者が既設導管を活用するガスの接続供給の制度化を始めとする制度改革がスタートした。 しかしながら,制度改革後においても,参入に不可欠な設備である送電線を電力会社が独占的に保有していること,電力会社・ガス会社の市場における地位等を考えると有効な競争が行われていくかについては懸念がある。 このため,公正取引委員会と通商産業省は,通商産業省の電気事業審議会及び総合エネルギー調査会の提言等を踏まえ,制度改革後の電力市場及びガス市場を競争的に機能させることを目的とし,事業法及び独占禁止法と整合性のとれた適正な取引の在り方についての考え方を示すこととした。そして,平成11年10月20日「適正な電力取引についての指針」(原案)を,平成11年12月27日に「適正なガス取引についての指針」(原案)を作成・公表し,関係各方面から意見を求め,これを検討・参酌の上,それぞれ平成11年12月20日,平成12年3月23日に成案を作成・公表した。
本指針は,「第一部 適正な電力取引についての指針の必要性と構成」及び「第二部 適正な電力取引についての指針」から構成されている。
本指針の内容は,「自由化された小売分野における適正な電力取引の在り方」,「託送分野における適正な電力取引の在り方」,「電力会社の電気の調達分野における適正な電力取引の在り方」及び「規制が残る小売分野における適正な電力取引の在り方」に区分した上で,公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及び電気事業法又は独占禁止法上問題となる行為を例示している。
本指針は,「第一部 適正なガス取引についての指針の必要性と構成」及び「第二部 適正なガス取引についての指針」から構成されている。
本指針の内容は「小売自由化分野(大口供給,特定ガス大口供給)における適正な取引の在り方」,「接続供給分野における適正なガス取引の在り方」,「卸売分野における適正なガス取引の在り方」及び「小売規制分野(選択約款)における適正なガス取引の在り方」に区分した上で,公正かつ有効な競争の観点から望ましい行為及びガス事業法及び独占禁止法上問題となる行為を例示している。
我が国の国内定期航空旅客運送事業の分野(以下「国内航空分野」という。)においては,近年,利用者ニーズの多様化と航空旅客運送産業の成長に合わせ,事業への参入や運賃・料金制度につき累次,規制緩和が進められてきている。このような中で,スカイマークエアラインズ株式会社と北海道国際航空株式会社の2社(以下これらを「新規2社」という。)がそれぞれ平成10年9月及び12月に国内航空分野に新規参入し,これら新規2社が参入した路線を中心に運賃の低廉化が進むなど,国内航空分野における競争が一層促進されてきている。
しかし,長期間にわたり参入規制・価格規制等が実施されてきた分野においては,単に規制が撤廃されるだけでは実際に参入が困難であったり,参入事業者が既存事業者と公正かつ自由な競争を行い得ないおそれもある。そこで,新規参入によってもたらされつつある効果が短期的なものに終わることのないよう,独占禁止法の規定に違反する行為が行われないよう十分注視するとともに,公正かつ自由な競争の基盤を確保していく等の観点からも検討していく必要がある。 そこで,公正取引委員会では,新規2社の国内航空分野への参入に伴う競争の状況等について,関係者に対するヒアリング等により実態把握を行い,独占禁止法上及び競争政策上の問題点について検討し,平成11年12月14日,その結果を公表した。その概要は次のとおりである。
新規2社が現実に国内航空分野に参入すること等により,運賃水準の更なる低下や利便性の向上がみられるようになっており,新規2社の参入は,国内航空分野における競争に好影響を及ぼしているものと評価できる。
新規2社は,便数において大手各社と競争の基盤が対等でないことから,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,今後の発着枠の配分に際し,このような状況に配慮がなされることが望まれる。
現時点で独占禁止法上直ちに問題であるとするものではないが,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,新規2社が大手3社と十分に競争し得るまでの間においては,新規2社と競合する時間帯についてのみ同等の取引条件の下で同一水準の割引運賃を設定することは,新規2社の排除につながりかねないので,大手3社においては節度ある行動が望まれる。
基本的に取引先選択の自由の問題であり,大手各社が新規各社の機体整備に係る取引を行わないとしても独占禁止法上直ちに問題となるものではないが,公正かつ自由な競争の基盤を確保する観点からは,一定の必要な期間は,合理的な取引条件の下で,自社が提供することが可能であって新規各社の自営化等が現実的でない機体整備の受託を拒絶しないようにすることが望まれる。
新規2社が,搭乗受付カウンター等の設置スペースの確保等を行うに当たり,空港ビル会社又は大手3社による独占禁止法違反行為はないと考えられるが,これまで新規参入を想定した空港施設等の利用が考えられてこなかった中,公正かつ自由な競争基盤を確保する観点からは,空港ビル会社は,当該施設の利用について透明なルールを設定し,そのルールを公正に適用することが望まれる。
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1 独占禁止法適用除外制度の概要
独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外制度が設けられている。
適用除外制度の根拠規定は,独占禁止法自体に定められているもの及び独占禁止法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。 なお,適用除外法は,適用除外制度整理法により廃止された。
独占禁止法は,(1)自然独占に固有な行為(第21条),(2)無体財産権の行使行為(第23条),(3)一定の組合の行為(第24条)(4)再販適用除外(第24条の2)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている(平成11年度末現在)。
なお,事業法令に基づく正当な行為(第22条),不況カルテル(第24条の3)及び合理化カルテル(第24条の4)に関する適用除外制度は,適用除外制度整理法により廃止された。
独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成11年度末現在,保険業法等15の法律がある。
2 適用除外制度の見直しについて
現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきた。
しかし,今日の我が国経済は当時とは大きく変化し,世界経済における地位の向上,企業の経営体質の強化,消費者生活の多様化等が進んできており,政府規制と同様に適用除外制度の必要性も変化してきている。 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存の事業者の保護的な効果を及ぼすおそれがあり,その結果,経営努力が十分行われず,消費者の利益を損なうおそれがある。また,現に利用されていない制度についても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将来においてもそのまま利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自体を背景にして協調的行動が採られやすく,競争を回避しようとする傾向が生じるおそれがあり,このことにより,個々の事業者の効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがある等の問題がある。
適用除外制度については,近年,累次の閣議決定等においてその見直しが決定されている。平成9年には「規制緩和推進計画の改定について」(平成8年3月29日閣議決定)に基づき検討が行われ,第140回国会において「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が成立し,個別法に基づく適用除外制度20法律35制度について廃止等の措置が採られた。その他の適用除外制度についても,「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31目閣議決定)等に基づき検討が行われ,平成11年の第145回国会において,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,適用除外法の廃止等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律」が成立し,同年7月23日に施行された。さらに,第146回国会においては,中小企業の事業活動の活性化等のための中小企業関係法律の一部を改正する法律により,商工組合の経営安定カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止等を内容とする中小企業団体の組織に関する法律の一部改正が行われた(平成11年12月14日可決・成立,平成12年3月2日施行)。
これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外制度は,平成11年度末現在,16法律23制度(うち,個別法によるものは15法律19制度)にまで縮減された。 また,規制緩和推進3か年計画(改定)(平成11年3月30日閣議決定)においては,独占禁止法第21条の規定の削除について引き続き検討することとされたが,第21条については規定を削除するとの結論を得,第147回国会に第21条の規定の削除等を内容とする独占禁止法改正法案が提出(平成12年3月21日)され,可決・成立(同年5月12日・19日)した(同年6月19日施行)。 独占禁止法第21条の削除等を内容とする独占禁止法改正法案については第1章を参照のこと。また再販適用除外制度の見直しについては第11章第2を参照のこと。 3 適用除外カルテルの動向
独占禁止法に基づく不況カルテル制度及び合理化カルテル制度については,適用除外制度整理法により廃止されたが,不況カルテルについては平成元年10月以降,合理化カルテルについては昭和57年1月以降,それぞれ実施されたものはなかった。
![]() ![]() ![]() 処理件数欄中( )内は新規件数である。
本邦の各港間の航路に関しては,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結・変更については,運輸大臣の認可を受けなければならないとされており,運輸大臣は認可する際には当委員会に協議することとされている。
平成11年度において,運輸大臣から協議を受けたものはなかった。 また,平成11年度末における同法に基づくカルテルはない。
本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関しては,船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は共同行為については,その締結・変更についてあらかじめ運輸大臣に届け出なければならないこととされており,運輸大臣は届出を受理したときは当委員会に通知しなければならないこととされている。
平成11年度において,運輸大臣から協定等の締結について通知を受けたものは28件であった。 |