第2部 各論

第1章 独占禁止法制の動き

第1 独占禁止法改正に伴う政令の制定・改正

 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成12年政令第512号。平成12年12月13日公布。)
 不公正な取引方法を用いている事業者等に対する差止請求を行うことができる制度の導入等の民事的救済制度の整備等を内容とする平成12年独占禁止法改正法は、平成13年4月1日から施行することとした。
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部を改正する政令(平成12年政令第513号。平成12年12月13日公布、平成13年4月1日施行。)
 
(1) 平成12年独占禁止法改正法の施行に伴い、独占禁止法施行令の規定の整理を行うこととした。
(2) 会社分割制度の導入を内容とする商法等の改正に伴い、独占禁止法においても、会社分割に関する禁止規定及び事前届出規定が整備されたところ、会社分割に関する計画を届け出なければならない会社の範囲について、現行の合併等の場合との整合性を図り、総資産合計額等が100億円超の会社と10億円超の会社による共同新設分割又は吸収分割とした。

第2 その他の所管法令の改正

 「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」による下請法の改正
 近年のインターネットの急速な普及にみられるような情報通信技術の発達に伴い、電子商取引の普及を始めとして、我が国経済の急激かつ大幅な変化が進展しているが、電子商取引等を行うに当たり、書面の交付又は書面による手続を義務付けている法制度がその拡大の妨げになっているのではないかとの指摘がある。
 こうした指摘を踏まえ、民間における商取引において書面の交付等を義務付けている関係法律について、書面の交付等に代えて、当該書面に記載すべき事項等を情報通信の技術を利用する方法により提供することができるようにするため、「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律(平成12年法律第126号。平成12年11月27日公布、平成13年4月1日施行。)」が制定され、この法律により下請法が改正された。
 この改正に伴い、親事業者があらかじめ下請事業者の承諾を得た場合、下請法第3条の書面の交付に代えて、電磁的記録を提供できること等が明確化された。
2 公正取引委員会事務総局組織令の改正
 官房総務課の所掌事務に差止請求制度に係る事務を加えること、経済取引局企業結合課並びに審査局及び同局管理企画課の所掌事務に会社分割制度に係る事務を加えること、並びに審査局管理企画課の所掌事務に公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の規定に係る事務を加えることを内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(公正取引委員会事務総局組織令の一部を改正する政令(平成13年政令第90号)、平成13年3月30日公布、同年4月1日施行。)。

第3 独占禁止法と他の経済法令等との調整

1 法令調整
 当委員会は、関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に、これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には、その企画・立案の段階で、当該行政機関からの協議を受け、独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成12年度において調整を行った主なものは、次のとおりである。
(1) 公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律案
 本法律案は、公共工事に対する国民の信頼の確保とこれを請け負う建設業の健全な発達を図る観点から、入札及び契約の過程等の透明性の確保、談合その他の不正行為の排除の徹底等の措置を講ずることを内容とするものである。本法律案においては、不正行為の排除の徹底の一環として、各省各庁の長、特殊法人等の代表者又は地方公共団体の長は、公共工事の入札及び契約に関し、独占禁止法第3条又は第8条第1項第1号の規定に違反する行為があると疑うに足りる事実があるときは、当委員会に対し、その事実を通知しなければならないこととされているところ、当委員会は、この規定についての所要の調整を行った。
 なお、本法律案は、第150回国会に提出され、平成12年11月17日に可決・成立し、同年11月27日に公布された。
(2) 電気通信事業法等の一部を改正する法律案
 電気通信審議会の答申(平成12年12月21日)等を踏まえた規制緩和策等を具体化するため、総務省は、電気通信事業法等の一部を改正する法律案として、電気通信事業法の一部改正及び日本電信電話株式会社等に関する法律の都改正を立案した。
 本法律案は、市場支配力を有する電気通信事業者の反競争的行為を防止・除去するための規制を導入(非対称規制の拡充)するとともに、市場支配力を有しない電気通信事業者に対しては契約約款、接続協定の認可等を一定の条件の下で届出制に緩和するほか、東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社の経営自由度を高めるため、地域通信業務の円滑な遂行及び電気通信事業の公正な競争の確保に支障のない範囲内で、総務大臣の認可を受けて、保有する設備又は技術、職員を活用して行う電気通信業務その他の業務を追加すること等を内容とするものである。当委員会は、独占禁止法による規制との整合性を図るとの観点等から非対称規制の拡充等について,所要の調整を行った。
 なお、本法律案は、第151回国会に提出され、平成113年6月15日に可決・成立し、同年6月22日に公布された。
(3) 著作権等管理事業法案
 文化庁は、著作権等の管理事業の重要性が増大していることを踏まえ、著作権等の管理事業への新規参入の容易化等を図るため、著作権等管理事業法案を立案した。
 本法律案は、著作権等を管理する事業について登録制度を実施するとともに、集中度の高い管理事業者がその優越的地位を利用して著作物等の円滑な利用を著しく阻害するような使用料規程を実施する場合等に対処するため、管理事業者と利用者代表との協議、紛争処理制度の創設等を内容とするものであるが、本法律案に基づく一定の要件に該当する管理事業者と利用者代表との使用料規定に係る協議については、独占禁止法の枠内で行われるべきであるとの観点から、所要の調整を行った。
 なお、本法律案は、第150回国会に提出され、平成12年11月21日に可決・成立し、同月29日に公布された。
2 行政調整
 当委員会は、関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について、当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の問題を生じないよう、当該行政機関と調整を行うこととしている。
 農林水産省は、農林水産業の各種作業及び調査について、航空機を利用して行う事業の健全な発展を図る観点から、「農林水産航空事業促進要綱」及び「農林水産航空事業実施指導要領」を定めているところ、農薬空中散布事業について、全国の農薬の空中散布の時期、散布地域等に係る調整を社団法人農林水産航空協会に委ねる運用が行われていた。このような連用は、事業者間における調整行為を誘発する等独占禁止法との関係において問題を生じさせるおそれがあるため、当委員会は、農林水産省に対してこのような運用の改善を要請した。
 このほか、地方公共団体の公共入札における地元企業優先発注・地元産品優先使用に係る相談について、独占禁止法及び競争政策の観点から所要の調整を行った。

第4 独占禁止法研究会における検討

1 独占禁止法の見直しの必要性
 独占禁止法は、昭和22年制定後既に半世紀を過ぎ、この間、我が国の経済・社会構造は大きく変化してきたが、特に最近は、経済活動のグローバル化の進展等によりその変化は著しいものとなっている。経済活動の基本ルールである独占禁止法は、可能な限りこのような経済・社会構造の変化や世の中のニーズを踏まえたものとする必要があるところ、平成9年独占禁止法改正法附則等に基づき、一般集中規制について検討・見直しを行うこととされている。
 また、手続規定等についても検討・見直しを行うことが適切である。
2 独占禁止法研究会の開催
 当委員会は、平成13年2月以降、独占禁止法における一般集中規制の見直し及び手続規定等の見直しについて検討を行うため、「独占禁止法研究会」(座長 宮澤健一 一橋大学名誉教授)を開催している。
 同研究会は、検討内容を一般集中規制部分と手続規定等部分に分け、より専門的かつ集中的な検討を行うため、研究会の下で「一般集中部会」(座長 後藤晃 一橋大学教授)と「手続関係等部会」(座長 根岸哲 神戸大学教授)を開催している。
 それぞれの検討項目は、以下のとおりである。
(1) 一般集中部会
(1)  禁止される持株会社の範囲(第9条)の検討
(2)  大規模会社の株式保有総額の制限の対象となる株式の範囲(第9条の2)の検討
(3)  金融会社の株式保有の制限(第11条)の検討 等
(2) 手続関係等部会
(1) 課徴金賦課手続の検討
(2) 排除措置関係手続の検討
(3) 在外者に対する書類の送達手続の検討
(4) 告発関係手続の検討 等
 なお、同研究会は、平成13年秋を目途に報告書を取りまとめることとしている。