第15章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化など,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。
 消費者の適正な商品選択を確保するためには,商品・サービスの品質や内容が消費者に適切に広告・表示されることが重要である。当委員会は,独占禁止法や景品表示法を適正に運用することにより,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化

 平成12年度においては,当委員会は,消費者取引の適正化及び消費者に対する適正な情報提供の観点から,広告・表示について以下のような取組を行った。
1 「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方(以下「価格表示ガイドライン」という。)の策定・公表(平成12年6月)
 価格表示は,消費者にとって商品又は役務の選択上最も重要な販売価格についての情報であるとともに,事業者にとっても競争手段の一つとして重要な要素となっている。したがって,価格表示が適正に行われない場合には,消費者の選択を誤らせるとともに,事業者間の公正な競争が阻害されることとなる。このような観点から,価格表示に関する違反行為の未然防止と価格表示の適正化を図るため,どのような価格表示が一般消費者に誤認を与え,景品表示法に違反するおそれがあるかについて考え方を明らかにした。
(1) 策定の趣旨及び経緯
 当委員会は,昭和44年5月,「不当な価格表示に関する不当景品類及び不当表示防止法第4条第2号の運用基準」(以下「旧運用基準」という。)を策定・公表し,不当な価格表示について判断する際の基準としてきた。しかしながら,
(1)  旧運用基準の策定時とは,小売業を巡る競争環境や消費者の意識が変化しており,それに伴って事業者の用いる価格表示が多様化してきていること
(2)  当委員会が処理した事件の中でも,不当な二重価格表示に関する景品表示法違反事件が多くみられること
などの状況にかんがみ,小売業者の価格表示の実態,消費者の意識等を踏まえて旧運用基準の見直しを行い,二重価格表示を中心とする不当な価格表示についての考え方を示すこととした。
 平成12年4月に原案を公表し,関係各方面から広く意見を求めたところ,事業者・消費者等から多数の意見が寄せられた。当委員会としては,これらの意見を検討し,十分参酌した上,原案の一部を修正し,「価格表示ガイドライン」を策定した。
(2) 「価格表示ガイドライン」のポイント
ア 二重価格表示についての基本的考え方
 次のような場合は不当表示に該当するおそれがある。
(ア)  同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
 商品の同一性は,銘柄,品質,規格等からみて同一とみられるか否かにより判断する。野菜,鮮魚等の生鮮食料品については,一般的には同一性を判断することが難しいことから,その二重価格表示については,タイムサービスのように同一性が明らかな場合や一般消費者が同一性を判断することが可能な場合を除き,不当表示に該当するおそれがある。
(イ)  比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
イ 過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
(ア)  同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には,不当表示に該当するおそれはない。
(イ)  同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には,当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り,不当表示に該当するおそれがある。
(ウ)  「最近相当期間にわたって販売されていた価格」か否かの判断基準
 個々の事案ごとに検討されるが,一般的には,二重価格表示を行う最近時(セール開始時点からさかのぼって8週間。当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合は当該期間)において,当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには,「最近相当期間にわたって販売されていた価格」と判断できる。ただし,当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合,又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合を除く。
<不当表示に該当するおそれのある表示の主な例>
 実際に販売されていた価格よりも高い価格を,「当店通常価格」等最近相当期間にわたって販売されていた価格であるとの印象を与えるような名称を付して比較対照価格に用いること。
 販売実績の全くない商品又はセール直前に販売が開始された商品等,短期間しか販売した実績のない商品の価格を,「当店通常価格」等最近相当期間にわたって販売されていた価格であるとの印象を与えるような名称を付して比較対照価格に用いること。
 過去の販売期間のうち短期間において設定されていた販売価格を,「当店通常価格」等最近相当期間にわたって販売されていた価格であるとの印象を与えるような名称を付して比較対照価格に用いること。
 販売する商品と同一ではない商品(中古品等を販売する場合において,新品など当該商品の中古品等ではない商品を含む。)の過去の販売価格を比較対照価格に用いること。
ウ 希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
 製造業者等により設定され,あらかじめカタログ等により公表されているとはいえない価格を希望小売価格と称して比較対照価格に用いる場合には,不当表示に該当するおそれがある。
<不当表示に該当するおそれのある表示の主な例>
 希望小売価格より高い価格を希望小売価格として比較対照価格に用いること。
 希望小売価格が設定されていない場合(希望小売価格が撤廃されている場合を含む。)に,任意の価格を希望小売価格として比較対照価格に用いること。
 プライベートブランド商品について小売業者が自ら設定した価格等を,希望小売価格として比較対照価格に用いること。
 製造業者等が当該商品を取り扱う小売業者の一部に対してのみ呈示した価格を,希望小売価格として比較対照価格に用いること。
エ 競争事業者の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
(ア)  消費者が同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には,不当表示に該当するおそれがある。
(イ)  市価を比較対照価格とする二重価格表示については,競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査することなく表示する場合には,不当表示に該当するおそれがある。
<不当表示に該当するおそれのある表示の主な例>
 最近時の市価よりも高い価格を市価として比較対照価格に用いること。
 最近時の競争事業者の販売価格よりも高い価格を当該競争事業者の販売価格として比較対照価格に用いること。
 商圏が異なり一般消費者が購入する機会のない店舗の販売価格を比較対照価格に用いること。
オ その他の価格表示
 上記以外に,将来の販売価格又は他の顧客向けの販売価格を比較対照価格とする二重価格表示,割引率又は割引額の表示及び販売価格の安さを強調するその他の表示における不当な価格表示についての景品表示法上の考え方を明らかにした。
2 「環境保全に配慮した商品の広告表示に関する実態調査について」の策定・公表(平成13年3月)
 環境問題が社会的に大きく取り上げられる中,消費者の環境問題への関心が高まっていることから,環境保全に配慮していることを示す広告表示の実態を調査した。当委員会においては,関係団体に対し,表示の適正化のための取組について要請を行うとともに,広告表示についての景品表示法上の考え方等を整理し,当委員会の今後の取組について取りまとめ,調査結果を公表した。
(1) 広告表示の内容と消費者の評価
ア 環境保全に配慮していることを広告表示した商品の種類
 消費者モニターを対象に,日常よく目にする商品の包装,ラベル,容器等における広告表示の収集依頼を行ったところ,石けん・洗剤類,スポンジ類,水切りゴミ袋類,食品包装用ラップ類等が多かった。
イ 環境保全に配慮していることを示す広告表示の主な内容
(ア)  リサイクルされた成分・素材を使って製造されていること
(イ)  商品そのものが使用後にリサイクルすることが可能であること
(ウ)  燃やしても有害ガスが発生しないなど廃棄時を考慮していること
(エ)  詰め替え可能・簡易包装などごみの減少に資すること
(オ)  第三者機関によって認定されたマーク等の使用
ウ 環境保全に配慮していることを示す広告表示への消費者の意識
 消費者モニターを対象に意識調査を行ったところ,96.9%が環境保全に配慮している商品への関心を示しており,環境保全に配慮した商品かどうかが商品選択において重要な要素として浸透してきていることがうかがえる。
(2) 環境保全に配慮している商品の広告表示の留意事項
 環境保全に配慮している商品の広告表示状況をみると,全体に共通する問題点が見受けられた。この問題点を踏まえ,以下のとおり留意事項を整理した。
ア 表示の示す対象範囲が明確であること
 環境保全効果に関する広告表示の内容が,包装等の商品の一部に係るものなのか又は商品全体に係るものなのかについて,一般消費者に誤認されることなく,明確に分かるように表示することが必要である。
イ 強調する原材料等の使用割合を明確に表示すること
 環境保全に配慮した原材料・素材を使用していることを強調的に表示する場合には,「再生紙60%使用」等,その使用割合について明示することが必要である。
ウ 実証データ等による表示の裏付けの必要性
 商品の成分が環境保全のための何らかの効果を持っていることを強調して広告表示を行う場合には,通常に当該商品を使用することによって,そのような効果があることを示す実証データ等の根拠を用意する必要がある。
エ あいまい又は抽象的な表示は単独で行わないこと
 「環境にやさしい」等のあいまい又は抽象的な表示を行う場合には,環境保全の根拠となる事項について説明を併記するべきである。
オ 環境マーク表示における留意点
 環境保全に配慮した商品であることを示すマーク表示に関して,第三者機関がマーク表示を認定する場合には,認定理由が明確に分かるような表示にすることが求められる。
 また,事業者においても,マークの位置に隣接して,認定理由が明確に分かるように説明を併記する必要がある。
(3) 当委員会の対応
ア 不当な表示への厳正な対処
 当委員会は,環境保全に配慮していることを強調し,一般消費者に誤認される不当表示について,景品表示法に基づき厳正に対処する。
イ 事業者団体の自主的取組への支援
 事業者が環境保全に配慮していることを示す広告表示を行う場合には,上記(2)に示した留意事項にのっとった広告表示を行うことが期待されるところである。また,環境保全に関する適正な表示の推進のためにも,環境保全に関する事項の公正競争規約への盛り込み等について公正取引協議会の取組を支援していく考えである。
ウ 環境関連の表示を扱う団体に対する要請
 エコマークを表示した商品の中には,一部ではあるが,環境に配慮していることが当該商品の一部分の効果に限定されているにもかかわらず,マークが表示されていることにより,商品全体が環境保全に関して優良であると一般消費者に誤認されるおそれがあると考えられる表示がみられた。
 一般消費者に誤認されるおそれのない表示の普及のために,財団法人日本環境協会において,国際標準化機構(ISO)の環境ラベルに関する規格の下での認定規準の見直しがいまだ行われていない商品類型について,商品全体の環境保全への効果を考慮し,明確で具体的な表示となるように基準を早期に見直すことが求められるとともに,事業者による適正なエコマーク表示の徹底が求められることから,当委員会は,同協会に対して,表示基準の見直しの一層の推進と適正表示の確保のための一層の取組について要請を行った。
3 「消費者向け電子商取引への公正取引委員会の対応について ―広告表示問題を中心に―」の策定・公表(平成13年1月)
 消費者向け電子商取引が消費者から信頼を得られるためには,事業者から消費者に対して商品選択上必要な情報が適切に提供されることが重要であるとの観点から,広告表示問題を中心に,現時点における当委員会の取組について取りまとめ,公表した。
(1) 消費者向け電子商取引における一般消費者への正確かつ適確な情報提供の重要性
 現在,消費者向け電子商取引では,消費者の商品・サービス選択を惑わすようなホームページ上の問題が顕在化し,消費者トラブルが頻発している。この問題については,以下の点に留意し,事業者等が自ら積極的にインターネットの画面における表示の明確化に取り組む必要がある。
 商品等の内容や取引条件に関する情報は正確かつ明りょうに表示すること。
(ア)  消費者の注文ミス防止のため,注文内容を再度確認した上で最終的に発注できるシステムの導入
(イ)  音楽,映像等の情報サービス等でインターネット上で取引が完結する場合には,有料か無料か等についての明確な表示
 パソコン等のディスプレー上に表示されるために一目で表示物全体を見ることができないという電子商取引における表示画面上の特徴を考慮し,表示方法についても特に留意すること。
 また,適正な表示を実現するためには,事業者又は事業者団体による自主的な取組が効果的である。特に,景品表示法に基づく公正競争規約において,電子商取引上留意すべき表示事項を事業者が遵守すべき必要表示事項に加えることは,表示の適正化を図る上で極めて有効であると考えられる。
(2) 消費者向け電子商取引における当委員会の取組
 電子商取引を行う事業者が急速に増加していく中で,電子商取引の画面においても,実際のものよりも著しく優良であると一般消費者を誤認させるような表示や不当な二重価格表示と思われるような有利誤認の事例がみられるようになってきている。当委員会では,消費者向け電子商取引の健全な発展と消費者利益の保護を図る観点から,公正な取引ルールの確立のため,今後とも,以下のような取組を行うこととしている。
ア 虚偽・誇大な表示に対する効果的かつ迅速な規制
(ア)  定期的・集中的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)の実施
(イ)  インターナショナルインターネットサーフデイへの参画等諸外国との連携強化
イ 事業者又は事業者団体の自主的対応への支援
(ア)  事業者又は事業者団体の自主的な取組への支援
(イ)  消費者向け電子商取引において今後顕在化してくる問題点の把握及び有識者等から幅広く表示の在り方について意見聴取することを通じて,競争政策上の考え方の明確化・透明化
ウ 一般消費者向けの広報活動
(ア)  消費者団体等の関係機関との連携による一般消費者向けの広報活動の実施

第3 消費者モニター制度

 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他当委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,当委員会の依頼する特定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報告その他当委員会の業務に協力を求めるもので,昭和39年度から実施されている。
 平成12年度は,関東甲信越地区315名,北海道地区60名,東北地区90名,中部地区115名,近畿地区170名,中国地区76名,四国地区50名,九州地区106名,沖縄地区18名,合計1,000名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成12年度の消費者モニターの応募総数は18,219名,応募倍率は約18.2倍であった。
 平成12年度においては,3回のアンケート調査を実施し,消費者モニターの意見を聴取した。また,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めたほか,表示連絡会,試買検査会等への代表者の参加により,一般消費者としての意見を求めた。
2 活動状況
(1) アンケート調査
 平成12年度におけるアンケート調査の概要は,次のとおりである。
ア 環境保全に配慮した製品の広告表示に関する実態調査について
 事業者が生産・販売する商品の環境広告・表示に関する消費者の意識を把握するため,その実態について調査を行った。
イ インターネット広告等に関する実態調査
 一般消費者のインターネット上の商取引に関する意識を把握するため,その実態について調査を行った。
ウ 新聞業における景品類の提供に関する実態調査について
 新聞業における景品規制の遵守状況を把握するため,新聞購読の勧誘,契約の更新及び購読料の集金の際における景品提供の実態について調査を行った。
(2) 自由通信
 消費者モニターは,上記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時,当委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成12年度は合計2,717件の自由通信が寄せられた(第1表)。

第1表 消費者モニター通信状況
(3) 各種会合等への参加
 当委員会は,景品表示法に基づく公正競争規約の認定に当たり,各方面の意見を聴取するために開催する公聴会,表示連絡会等において,消費者モニターに出席を求め,一般消費者としての立場からの意見を求めている。
 平成12年度は,表示連絡会10件,試買検査会26件の会合に消費者モニターが出席した(第2表)。

第2表 表示連絡会,試買検査会出席状況