第1部 総論

第1 概説

1 我が国を取り巻く経済環境と競争政策の積極的展開
  平成12年度における我が国経済についてみると、景気は緩やかな改善の動きがみられたものの、本格的な回復はみられなかった。すなわち、平成9年春以降の景気後退局面は、各種政策効果により平成11年春ごろに下げ止まり、それ以後、公共投資、金融政策、特別信用保証制度などの政策や、アジア経済の回復による輸出の伸びなど、外的環境に支えられ、厳しいながらも緩やかな改善の傾向が認められた。しかし、個人消費、設備投資などの民間需要の本格的な回復はみられず、特に平成12年1月以降は、企業部門が好調な一方で、家計部門の改善の遅れが目立っている。
 さらに、我が国経済の今後の見通しについても、米国経済の減速に伴って輸出が減少し、生産も弱含みとなっており、景気の改善に足踏みがみられているなど、先行きについて一層注視していく必要がある状況にある。
このような経済環境の中、我が園経済を活性化し、豊かな社会を実現していくためには、これまでの経済社会の構造を改革し、市場における公正かつ自由な競争を積極的に促進することが必要となっている。また、独占禁止法の執行力を強化し、価格カルテル・入札談合等の同法違反行為に厳正に対処することや、規制改革後の市場の公正な競争秩序を確保することにより、我が国経済を透明なルールと自己責任の原則に立つものとしていくことが求められている。このため、「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月30日閣議決定)においても、これまでの累次の閣議決定と同様、規制改革とともに競争政策の積極的展開を図る方針が明らかにされている。
<規制改革推進3か年計画における関連記述>
 公正かつ自由な競争を促進するため、規制改革とともに競争政策の積極的展開を図ることとし、引き続き、公正取引委員会の審査体制等の充実を含め、独占禁止法の執行力の強化を図り、価格カルテル・入札談合等の同法違反行為に対して、告発を含め厳正かつ積極的に対処する。
 従来、新規事業者の参入が制限されていた規制産業における競争的仕組みの導入に当たって、公正取引委員会は、所掌事務を遂行する上で必要に応じ、競争促進の観点からこれらの産業における競争の状況を調査し、改善の余地がある場合には政策提言等を行う。また、これらの規制産業については、事業所管官庁と公正取引委員会が、ガイドラインの策定を含めて、競争にかかわる制度の新設、見直しについて必要な連携を行う仕組みについて検討を行う。
2 平成12年度において講じた施策の概要
 当委員会は、こうした状況を踏まえ、独占禁止法の厳正かつ積極的な運用により同法違反行為を排除し、政府規制制度等を見直し、経済環境の変化に即応した公正な競争条件の整備を進めるとともに、競争政策の国際化への対応に努めてきた。
 平成12年度においては、次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。
(1) 独占禁止法違反行為の積極的排除
 当委員会は、従来から、独占禁止法違反事件に対し厳正かつ積極的に対処してきたところであり、平成12年度においても、入札談合、新規参入阻害、流通分野における不公正な取引方法等の事件について処理を行った。
<平成12年度における主な勧告事件>
北海道上川支庁発注の農業土木工事の施工業者及び測量設計業者らによる入札談合事件
水産庁が発注する石油製品の入札参加業者45社による入札談合事件
陸上自衛隊が発注する通信機用乾電池の入札参加業者4社による人札談合事件
ロックマン工法による下水道管きょ敷設工事の施工業者17社及び同工事に用いる機械の販売業者による取引拒絶事件
ドレッシング類製造業者による小売業者に対する再販売価格維持事件生
生コンクリート協同組合による競争関係にある製造販売業者に対する取引妨害事件

 このうち、北海道上川支庁発注の農業土木工事の施工業者及び測量設計業者らによる入札談合事件に関しては、発注者側の関与が認められたため、北海道に対し措置要請を行ったところ、北海道は、同要請に応じ、公正な入札を確保するために必要な措置を講じた。
<入札談合への発注者側の関与と措置要請>
北海道農政部及び各支庁において、農業土木工事及びそれに伴う測量設計業務について、各事業者ごとの年間受注目標額を設定していた。また、上川支庁においては、同目標額をおおむね達成できるようにするために、指名競争入札等の執行前に、受注業者に関する意向を旭川農業土木協会の事務局長の職にある者及び旭川測量設計業協会の事務局次長の職にある者に示していた。
 このため、当委員会から北海道に対し、今後、同様の行為が行われることのないよう再発防止のための次の措置を講じることを要請した。
(1)  公正な入札を確保するための基本方針を改めて確認し、幹部及び関係職員の意識改革の徹底を図ること。
(2)  監督体制を見直し、入札における情報管理の徹底を始めとして、入札における公正かつ自由な競争の確保と適切な入札が行われるために有効な制度及び組織の構築等の改善措置を講じること。
 当委員会としては、今後とも、入札談合事件に関し、発注者側の関与等が認められた場合は、発注者に対し必要な改善要請を行っていくとともに、発注官庁等との協力・研修を行うなど入札談合の未然防止に努めていくこととしている。
(2) 規制改革・競争政策に関する調査・提言
ア 経済の構造的変化と競争政策に関する調査・提言
 当委員会は、我が国が直面している経済・社会の全般に及ぶ大きな構造的変化を的確にとらえ、これに対応した今後の競争政策の在り方について検討を行うため、「経済調査研究会」(座長後藤晃一橋大学イノベーション研究センター教授)を開催し、経済のグローバル化の進行、技術革新の進展、高度情報化、規制改革その他の構造的変化の状況及びこれに対応した企業行動の変化の状況を分析し、これらに対応した競争政策上の個別課題及び競争政策の運営基盤の強化等を幅広く検討した結果を同研究会の報告書として取りまとめ、これを公表した(平成12年6月)。同研究会の提言の概要は次のとおりである。
(1)  公正かつ自由な競争の実現のためには、競争阻害要因の除去にとどまらず、積極的な競争環境の創造が必要である。
(2)  経済・社会の急速な変化の下で、競争政策自体も、これらの変化に的確に対応したものである必要がある。
(3)  競争政策を進めていく上で、広く国民的議論を行いつつ、競争政策に関するコンセンサスの形成に努めていくことが重要である。
イ 政府規制等と競争政策に関する調査・提言
 当委員会は、政府規制等と競争政策に関する研究会(座長 鶴田俊正 専修大学教授)を開催し、電気通信分野、公益事業分野及び郵便事業分野における公正かつ自由な競争を促進するために必要な施策等について検討を行った。同研究会の提言の概要は次のとおりである。
<電気通信事業分野についての研究会の提言(平成12年6月)>
(1)  第一種・第二種規制の区分は撤廃が必要。
(2)  NTT地域会社(東日本電信電話株式会社及び西日本電信電話株式会社)への接続に係る透明性の確保が必要であり、接続料金については、競争を通じた接続料金の低廉化を実現するための基盤整備が必要。
(3)  加入者回線網での競争基盤整備については、新たな技術・方法によるネットワークの構築が必要。
(4)  移動体通信事藁については、周波数配分におけるオークション制導入が必要。
(5)  持株会社方式による旧NTT(旧日本電信電話株式会社)の再編は競争促進効果が不十分であり、また,NTT持株会社(日本電信電話株式会社)のNTTドコモ(株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ)への出資比率の引下げが必要。
(6)  更なる競争促進に向けた公正取引委員会と関係省庁の連携によるルールの策定が必要。
<公益事業分野についての研究会の提言(平成13年1月)>
公益事業分野における競争を有効に機能させていくためには、参入規制の緩和といった規制緩和策のみならず、
(1) 既存事業者が保有するネットワークの新規参入者への開放等を始めとした新規参入を保障する仕組みの導入
(2) 新規参入者と既存事業者との公正な競争条件の確保
(3) 競争制限行為に対する独占禁止法の厳正な執行
という方策が一体として採られることが重要。
 これらの措置を採った上でも有効な競争が促進されない場合においては、市場支配的既存事業者の組織それ自体について見直しを行うことも重要な選択肢の一つ。
<郵便事業分野についての研究会の提言(平成12年11月)>
 郵便事業については、2003年から国営の公社に移行し、政府として、郵便事業への民間参入について、具体的条件の検討に入るものと
されていることを踏まえ、競争導入、公正競争確保の観点から以下の点などを提言。
(1)  郵便事業の効率化と活性化による利用者利便の増進を実現するため、信書の送達を原則全面自由化すべき。ただし、段階的実施が適
当。
(2)  事業所差出しの大量郵便物(DM等)及び付加価値郵便物については、平成15年の自由化実施当初からその対象とすることが必要。
その他の郵便物についても、数値基準に基づき、可能な限り自由化対象とすべき。
(3)  自由化の範囲については、自由化実施当初から3年程度経過後、全面自由化を原則とした抜本的見直しが必要。
(3) IT革命の進展に対応した取組
 現在、我が国においては、高度情報通信ネットワーク社会の実現が喫緊の課題とされる中、競争政策の果たす役割の重要性が指摘されており、当委員会は、IT革命に対応した次のような取組を行ってきている。
 第一に、IT革命の基盤となる電気通信事業分野における競争促進のための取組として、同分野における競争制限行為について積極的に取り上げ、これを排除していくこととしている。平成12年度においては、DSLサービスへの新規参入を阻害している疑いがあるとして東同本電信電話株式会社(NTT東日本)に対して警告を行った(平成12年12月)。
<NTT東日本に対する警告の概要>
 相互接続協定を締結して加入者回線への接続を希望するDSL事業者に対して、DSLサービスへの新規参入を阻害しDSL事業者の円滑な事業活動を困難にさせ、DSL事業者の競争上の地位を著しく不利にしている疑い。
 第二に、情報通信技術を利用した商取引(電子商取引)の普及への対応として、事業者間の福子商取引(いわゆるB to B取引)における協調的行動や排他的行動、消費者向けの電子商取引(いわゆるB to C取引)における不当な広告表示等への対処といった次のような取組を行った。
(1)  B to B取引については、今後の事業者の取組の参考とするため、製造業者6社による原材料等の共同調達を目的とするB to B取引市場の設立に関する相談について、相談内容及び回答の概要を取りまとめて公表した(平成12年11月)。
(2)  B to C取引については、事業者から消費者に対して商品選択上必要な情報が適切に提供されることが重要であるとの観点から、広告表示問題を中心に当委員会の取組について取りまとめ、公表した(平成13年1月)。
(3)  また、平成12年11月27日に公布された「書面の交付等に関する情報通信の技術の利用のための関係法律の整備に関する法律」により、次のように下請法の改正が行われた(平成13年4月1日施行)。
<下請法の改正の概要>
 親事業者が下請事業者の承諾を得た場合、書面の交付に代えて、書面に記載すべき事項を情報通信技術を利用する方法(電子メール、ウェッブ等)により下請事業者に提供することができる旨明確化。
 親事業者に対する下請取引の経緯等の記録の作成・保存義務について、書類と並んで、電磁的記録によって行うことができる旨明確化。
 第三に、政府全体の電子政府実現に向けた取組の一環として、独占禁止法等に基づく申請・届出等について、インターネット等を利用したオンラインによる手続を実現するための取組である。具体的には、「申請・届出等手続の電子化推進のための基本的枠組み」(平成12年3月31日行政情報システム各省庁連絡会議了承に基づき、書面等による申請・届出等手続に加え、インターネット等を利用したオンラインによる申請・届出等の手続を実現すべく、制度の検討及び所要のシステム開発の検討を行っている。
(4) 著作物再販制度の取扱いについて
 当委員会は、著作物再販制度について、規制緩和の推進に関する累次の閣議決定に基づき、独占禁止法適用除外制度の見直しの一環として検討を行ってきた。平成12年度においては、著作物再販制度を廃止した場合の影響等について関係業界と対話を行うとともに、「著作物再販制度の見直しに関する検討状況及び意見照会について」を公表し(平成12年12月)、国民各層からの幅広い意見を求めたほか、平成13年1月から2月にかけて、消費者団体及び著作権者団体から意見を聴取し、著作物再販制度については、次のとおり取り扱うこととした(平成13年3月)。
<著作物再販制度の取扱いについて(要旨)>
(1)  著作物再販制度について、当委員会としては、競争政策の観点からは同制度を廃止し、著作物の流通において競争が促進されるべきであると考えるが、同制度が廃止されると、書籍・雑誌及び音楽用CD等の発行企画の多様性が失われ、また、新聞の戸別配達制度が衰退し、国民の知る権利を阻害する可能性があるなど、文化・公共面での影響が生じるおそれがあるとし、同制度の廃止に反対する意見も多く、なお同制度の廃止について国民的合意が形成されるに至っていない状況にあり、現段階において同制度を廃止することは行わず、当面存置することが相当と考える。
(2)  著作物再販制度の下においても、消費者利益の向上につながるような運用も可能であり、関係業界の取組もみられるが、著作物再販制度が硬直的に運用されているという指摘もあるため、当委員会は、現行制度の下で可能な限り運用の弾力化等の取組が進められ、消費者利益の向上が図られるよう、非再販商品の発行・流通の拡大、各種割引制度の導入等による価格設定の多様化等の方策の推進を提案し、その実施を要請する。また、これらの方策が実効を挙げているか否かを検証するなど、著作物の流通について意見交換をする場として、協議会を設ける。当委員会としては、今後とも著作物再販制度の廃止について国民的合意が得られるよう努力を傾注するとともに、同制度が硬直的に運用されて消費者利益が害されることがないよう著作物の取引実態の調査・検証に努める。
(3)  著作物再販制度の対象となる著作物の範囲については、従来から当委員会が解釈・運用してきた6品目(書籍・雑誌,新聞及びレコード盤・音楽用テープ・音楽用CD)に限ることとする。
(5) 企業結合規制の的確な運用
 独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の合併,株式保有等を禁止している。事業活動のグローバル化等の経済環境の急速な変化に伴い、大企業の合併等大型の企業結合事案が増加している状況において、当委員会は、我が国市場における競争的な市場構造が確保されるよう、企業結合規制の的確な運用を行っている。平成12年度においては、次のような大型の企業結合事案を処理した。
<平成12年度における主な企業結合事案>
 株式会社第一勧業銀行、株式会社富士銀行及び株式会社日本興業銀行の持株会社の設立による事業統合
 株式会社住友銀行と株式会社さくら銀行の合併等
 日本製紙株式会社及び大昭和製紙株式会社の持株会社の設立による事業統合
 第二電電株式会社、ケイディディ株式会社及び日本移動通信株式会社の合併
(6) 下請法による中小企業の競争条件の整備
 当委員会は、中小企業の自主的な事業活動が阻害されることのないよう、下請法の厳正かつ迅速な運用により、下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めており、平成12年度においては、次のような事件に対し勧告を行ったほか、必要に応じ警告の措置を採った。
<平成12年度における主な勧告>
・ 住宅設備機器製造業者による下請事業者の給付の受領拒否
・ 輸送用機械機具製造業者による下請代金の減額
また、前記のとおり、平成12年11月に、親事業者が下請事業者の承諾を得た場合、書面の交付に代えて書面に記載すべき内容を情報通信技術を利用する方法により下請事業者に提供することができること等を内容とする下請法の改正が行われ、さらに、改正後の下請法の規定に基づき、親事業者が下請事業者の承諾を得る方法及び下請事業者が承諾を撤回した場合の取扱いを定めた下請代金支払遅延等防止法施行令(平成13年政令第5号)が制定された(平成13年1月4日公布。同年4月1日施行)。また、これに伴い、電子受発注が下請法の趣旨に沿った形で行われるよう、「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」を策定した(平成13年3月)。
(7) 景品表示法による消費者行政の推進
ア 景品表示法違反行為の積極的排除
 当委員会は、消費者向けの商品・サービスの種類や販売方法が多様化する中で、消費者の適正な商品選択が妨げられることのないよう、景品表示法の厳正な運用により、不当な顧客誘引行為の排除に努めており,平成12年度においても次のような事件に対し排除命令を行うなど積極的に事件処理に取り組んだ。
<平成12年度における排除命令>
 清涼飲料水製造販売事業者による原材料に関する不当表示
 ゴルフ用品製造販売事業者によるインターネット上のショッピングサイトにおけるゴルフクラブに関する二重価格表示
 中古自動車販売事業者による走行距離に関する不当表示
イ 消費者取引の適正化
 規制改革が進展する中で、従来にも増して消費者が自己責任原則に基づいて消費行動を取ることが求められているところ、情報の非対称性にかんがみて事業者から消費者に対して商品選択上必要な情報が適切に提供されることが一層重要になってきていることを踏まえ、当委員会は、広告表示等について実態調査を行うなどして、消費者取引の適正化に取り組んできている。平成12年度においては、環境保全に配慮していることを示す広告表示の実態を調査し、広告表示について景品表示法上の考え方や事業者の留意すべき事項について明らかにするとともに、当委員会の今後の取組について取りまとめ公表した(平成13年3月)。
 このほか、小売業を巡る競争環境や消費者の意識が変化しており、それに伴って小売業者の用いる価格表示が多様化してきていること、当委員会が処理した事件の中でも、不当な二重価格表示に関するものが多くみられることなどの状況にかんがみて、「不当な価格表示に嘆する不当景品類及び不当表示防止法第4条第2号の運用基準」(昭和44年事務局長通達)の見直しを行い、二重価格表示を中心とする不当な価格表示についての考え方を明らかにした「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」を策定・公表した(平成12年6月)。
(8) 経済のグローバル化への対応
 経済のグローバル化の進展に伴い、競争当局間の国際的協力や競争政策の国際化への対応を図ることが一層重要となってきている。このため、当委員会は、二国間及び多国間の競争政策に関する協力、調整等が円滑に進められるよう、海外の競争当局との意見交換の開催、国際会議への参加等により、競争当局間の協力関係の一層の充実を図り、また、開発途上国・移行経済国を対象とした競争法・競争政策に関する技術協力を実施した。
 また、近年、企業活動の国際化の進展に伴い、複数国の競争法に抵触する事案、一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど、競争当局間の協力関係の強化が求められている。このような状況を踏まえ、日米独占禁止協力協定(平成11年10月締結)に引き続き、平成12年度においては、EUとの間で競争分野における協力協定の締結に向けて交渉を行い、交渉当事者間で実質的要素について相互理解に達した(平成12年7月)。

第2 業務の大要

 業務別に見た平成12年度の業務の大要は、次のとおりである。
 1  不公正な取引方法を用いている事業者等に対する差止請求を行うことができる制度の導入等の民事的救済制度の整備等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案が第147回国会に提出され、同法案は平成12年5月12日に可決・成立し、同年5月19日に公布された(民事的救済制度の整備は、平成13年4月1日施行)。
 2  公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律案、電気通信事業法等の一部を改正する法律案等について、関係行政機関が立案するに当たり、所要の調整を行った。
 3  独占禁止法違反被疑事件として平成12年度中に審査を行った事件は108件、そのうち同年度内に審査を完了したものは74件であった。また、平成12年度中に18件の法的措置(独占禁止法第48条の規定に基づく勧告)を,延べ608の事業者及び事業者団体に対して採った(図1)。
 なお、18件のうち1件について審判手続が開始されている。
法的措置としては、独占禁止法第48条の規定に基づく勧告のほかに、違反行為がなくなった口から1年を経過していた場合に勧告を行わず課徴金納付命令のみを行うことがあるが、平成12年度中には行っていない。

図1 法的措置件数と対象事業者等の数の推移


 法的措置の対象となった行為をその行為類型別にみると、価格カルテル1件、入札談合10件、その他のカルテル1件、不公正な取引方法6件である(図2)。

図2 行為類型別の法的措置件数


 これら以外の事件としては、警告8件、注意31件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切った事件3件となっており、法的措置を採ったものと合わせてこれらを行為類型別にみると、私的独占2件、価格カルテル10件、入札談合14件、その他のカルテル1件、不公正な取引方法25件、その他の行為8件となっている(下記不当廉売及び優越的地位の濫用についての事件を除く。)。
 このほか、規制改革後の公正競争確保に関し、不当廉売については8件の警告を行うとともに違反につながるおそれのある行為に対し1,044件の注意を行い、優越的地位の濫用については1件の警告を行うとともに違反につながるおそれのある行為に対し5件の注意を行うなど、適切な法運用に努めた。
 また、課徴金については、価格カルテル及び人札談合事案について、総計719件、総額85億1668万円の課徴金の納付を命じた(図3)。
 なお、延べ13件に対する課徴金納付命令(課徴金額20億835万円)については、審判開始決定がなされ、審判手続に移行した。

図3 課徴金額等の推移

(注) 課徴金の納付を命ずる審決を含み、審判手続を開始したものを含まない。

 平成12年度における審判事件数は、前年度から引き継いだもの43件を含め、独占禁止法違反に係るものが12件、課徴金納付命令に係るものが38件、景品表示法違反に係るものが1件の計51件(うち29件は手続を併合)であった(図4)。これらのうち、平成12年度中に、29件について審決を行った。この内訳は、審判審決3件、同意審決2件、課徴金納付を命ずる審決等24件である。

図4 過去5年間の審判事件数の推移とその内訳

 4  前記の「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月30日閣議決定)を踏まえ、独占禁止法違反行為に対し、引き続き、厳正かつ積極的に対処するとともに、規制等公的制度や民間部門の諸局面において公正かつ自由な競争の確保・促進が図られるよう取り組んでいくこととする具体的方針を公表した(平成13年3月)。
 また、前記のとおり、政府規制等と競争政策に関する研究会を開催し、電気通信事業分野、郵便事業分野及び公共事業分野について検討を行い、同研究会が取りまとめた報告書を公表した(平成12年6月、11月及び平成13年1月)。
 5  事業者及び事業者団体の活動に関する相談に積極的に応じるとともに、実際に相談のあった事例のうち、他の事業者又は事業者団体の活動の参考となると思われるものの概要を主要相談事例集として取りまとめ、公表した(平成13年3月及び平成12年6月)。
 6  独占禁止法第18条の2の規定に基づく価格の同調的引上げに関する報告徴収については、平成12年度において磨き板ガラスについて価格引上げ理由の報告を徴収した。
なお、同規定の市場構造要件に該当する品目を見直し、同規定に関する運用基準の別表を改定した(平成13年1月1日から適用)。
 7  競争政策の運営に資するため、自動車整備業等に関する実態調査、流通構造の変化と情報技術の利用に関する実態調査貨物自動車運送業及びソフトウェア開発業における委託取引に関する調査等を行った。
 8  独占禁止法第9条から第16条の規定に基づく企業結合に関する業務については、金融会社の株式保有について347の認可を行い、また、持株会社及びその子会社の事業について5件の報告を、事業会社の株式所有状況について804件の報告を、会社の合併・営業譲受け等について383件の届出をそれぞれ受理し、必要な審査を行った。大型事業についてみると、総資産100億円以上の合併届出は129件、営業譲受け等届出は155件であった(図5,6)。

図5 総資産額100億円以上の合併届出受理件数 図6 総資産額100億円以上の営業譲受け等届出受理件数

 9  酒類の不当廉売等への問題に関し、独占禁止法違反行為の未然防止を図る観点から、酒類の取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を公表した(平成12年11月及び平成13年4月)。
10  著作物再販制度の見直しに関し、前記のとおり、同制度を廃止した場合の影響等について関係業界と対話を行うとともに、国民各層から意見を求めるなどして検討を行い、当面同制度を存置することが相当である旨の結論を得るとともに、関係業界に対し、弾力運用等の推進を要請した(平成13年3月)。
11  独占禁止法第8条の規定に基づく事業者団体の届出件数は、成立届134件、変更届1,413件、解散届77件であった。
12  下請法に関する業務としては、下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護を図るため、親事業者15,964社及びこれらと取引している下諸事業者75,859社を対象に書面調査を行った。
 書面調査の結果、下請法違反行為が認められた1,140件につき、6件については勧告、それ以外については警告の措置を採った(表1)。

表1 下請法の事件処理状況
(単位:件)
(注) 1つの事件で2以上の違反行為を行っているものがあるため, 態様別件数の合計と勧告件数・警告件数の合計は一致しない。

13  景品表示法第6条の規定に基づき排除命令を行ったものは3件であり、警告を行ったものは、不当景品関係119件及び不当表示関係201件の計320件、注意を行ったものは、不当景品関係25件及び不当表示関係123件であった(表2)。

表2 景品表示法の事件処理状況

(単位:件)
(注) 「警告」とは、違反行為又は違反するおそれのある行為について、関係事業者に是正措置を採るよう指導するもの。

 都道府県における景品表示法関係業務の処理状況は、同法第9条の2の規定に基づく指示を行ったものが2件、注意を行ったものが469件(不当景品関係150件、不当表示関係319件)であった。
14  消費者取引に関する業務については、景品表示法の運用業務のほか、消費者モニターから随時意見等を聴取した。また、消費者取引の適正化を図る観点から、前記のとおり、不当な価格表示についての景品表示法上の考え方を公表し、また、消費者向け電子商取引への公正取引委員会の対応について公表した。このほか、環境保全に配慮した商品の広告表示に関する実態調査を行い、広告表示についての景品表示法上の考え方等を明らかにした。
15  国際関係の業務としては、各国共通の競争政策上の課題について、カナダ・ドイツ・米国・韓国・EUの競争当局との間で二国間意見交換を行ったほか、OECD(経済協力開発機構)、WTO(世界貿易機関)、APEC(アジア太平洋経済協力)、UNCTAD(国際連合貿易開発会議)等の国際機関における会議に積極的に参加した。
 また、平成12月5月19日にEUとの間で競争分野の協力に関する協定を締結するための交渉を開始する旨発表し、以降、2回の交渉を行った後,同年7月19日、交渉当事者間で実質的要素について相互理解に達した旨の発表を行った。
16  広報・相談業務については,各種ガイドブックや英文パンフレットの作成・配布、日本語・英文ホームページの充実等積極的な広報を行ったほか、関係法令に関する一般の質問・相談に対応した。
 また、競争政策について一層の理解を求めるなどの目的で、全国9都市で講演会を開催するとともに、各地の有識者との意見交換を行った。
 さらに、平成11年度に設置した独占禁止法や公正取引委員会に対する意見・要望の聴取を行うための独占禁止政策協力委員制度について、平成12年度は各地域の有識者150名に委員を委嘱し、全国9都市で会議を行った。
 このほか、平成12年5月の独占禁止法改正による同法違反行為に係る民事的救済制度の整備について、制度の有効かつ適切な活用に資するよう、各種説明会等への講師の派遣、広報用パンフレットの作成・配布等により、同制度の周知徹底を行った。