1 我が国を取り巻く経済環境と競争政策の積極的展開
平成12年度における我が国経済についてみると、景気は緩やかな改善の動きがみられたものの、本格的な回復はみられなかった。すなわち、平成9年春以降の景気後退局面は、各種政策効果により平成11年春ごろに下げ止まり、それ以後、公共投資、金融政策、特別信用保証制度などの政策や、アジア経済の回復による輸出の伸びなど、外的環境に支えられ、厳しいながらも緩やかな改善の傾向が認められた。しかし、個人消費、設備投資などの民間需要の本格的な回復はみられず、特に平成12年1月以降は、企業部門が好調な一方で、家計部門の改善の遅れが目立っている。
さらに、我が国経済の今後の見通しについても、米国経済の減速に伴って輸出が減少し、生産も弱含みとなっており、景気の改善に足踏みがみられているなど、先行きについて一層注視していく必要がある状況にある。 このような経済環境の中、我が園経済を活性化し、豊かな社会を実現していくためには、これまでの経済社会の構造を改革し、市場における公正かつ自由な競争を積極的に促進することが必要となっている。また、独占禁止法の執行力を強化し、価格カルテル・入札談合等の同法違反行為に厳正に対処することや、規制改革後の市場の公正な競争秩序を確保することにより、我が国経済を透明なルールと自己責任の原則に立つものとしていくことが求められている。このため、「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月30日閣議決定)においても、これまでの累次の閣議決定と同様、規制改革とともに競争政策の積極的展開を図る方針が明らかにされている。 <規制改革推進3か年計画における関連記述>
2 平成12年度において講じた施策の概要
当委員会は、こうした状況を踏まえ、独占禁止法の厳正かつ積極的な運用により同法違反行為を排除し、政府規制制度等を見直し、経済環境の変化に即応した公正な競争条件の整備を進めるとともに、競争政策の国際化への対応に努めてきた。
平成12年度においては、次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。 (1) 独占禁止法違反行為の積極的排除
当委員会は、従来から、独占禁止法違反事件に対し厳正かつ積極的に対処してきたところであり、平成12年度においても、入札談合、新規参入阻害、流通分野における不公正な取引方法等の事件について処理を行った。
<平成12年度における主な勧告事件>
このうち、北海道上川支庁発注の農業土木工事の施工業者及び測量設計業者らによる入札談合事件に関しては、発注者側の関与が認められたため、北海道に対し措置要請を行ったところ、北海道は、同要請に応じ、公正な入札を確保するために必要な措置を講じた。 <入札談合への発注者側の関与と措置要請> 北海道農政部及び各支庁において、農業土木工事及びそれに伴う測量設計業務について、各事業者ごとの年間受注目標額を設定していた。また、上川支庁においては、同目標額をおおむね達成できるようにするために、指名競争入札等の執行前に、受注業者に関する意向を旭川農業土木協会の事務局長の職にある者及び旭川測量設計業協会の事務局次長の職にある者に示していた。 このため、当委員会から北海道に対し、今後、同様の行為が行われることのないよう再発防止のための次の措置を講じることを要請した。
(2) 規制改革・競争政策に関する調査・提言
ア 経済の構造的変化と競争政策に関する調査・提言
当委員会は、我が国が直面している経済・社会の全般に及ぶ大きな構造的変化を的確にとらえ、これに対応した今後の競争政策の在り方について検討を行うため、「経済調査研究会」(座長後藤晃一橋大学イノベーション研究センター教授)を開催し、経済のグローバル化の進行、技術革新の進展、高度情報化、規制改革その他の構造的変化の状況及びこれに対応した企業行動の変化の状況を分析し、これらに対応した競争政策上の個別課題及び競争政策の運営基盤の強化等を幅広く検討した結果を同研究会の報告書として取りまとめ、これを公表した(平成12年6月)。同研究会の提言の概要は次のとおりである。
イ 政府規制等と競争政策に関する調査・提言
当委員会は、政府規制等と競争政策に関する研究会(座長 鶴田俊正 専修大学教授)を開催し、電気通信分野、公益事業分野及び郵便事業分野における公正かつ自由な競争を促進するために必要な施策等について検討を行った。同研究会の提言の概要は次のとおりである。
<電気通信事業分野についての研究会の提言(平成12年6月)>
公益事業分野における競争を有効に機能させていくためには、参入規制の緩和といった規制緩和策のみならず、
これらの措置を採った上でも有効な競争が促進されない場合においては、市場支配的既存事業者の組織それ自体について見直しを行うことも重要な選択肢の一つ。 <郵便事業分野についての研究会の提言(平成12年11月)> 郵便事業については、2003年から国営の公社に移行し、政府として、郵便事業への民間参入について、具体的条件の検討に入るものと されていることを踏まえ、競争導入、公正競争確保の観点から以下の点などを提言。
(3) IT革命の進展に対応した取組
現在、我が国においては、高度情報通信ネットワーク社会の実現が喫緊の課題とされる中、競争政策の果たす役割の重要性が指摘されており、当委員会は、IT革命に対応した次のような取組を行ってきている。
第一に、IT革命の基盤となる電気通信事業分野における競争促進のための取組として、同分野における競争制限行為について積極的に取り上げ、これを排除していくこととしている。平成12年度においては、DSLサービスへの新規参入を阻害している疑いがあるとして東同本電信電話株式会社(NTT東日本)に対して警告を行った(平成12年12月)。 <NTT東日本に対する警告の概要> 相互接続協定を締結して加入者回線への接続を希望するDSL事業者に対して、DSLサービスへの新規参入を阻害しDSL事業者の円滑な事業活動を困難にさせ、DSL事業者の競争上の地位を著しく不利にしている疑い。 第二に、情報通信技術を利用した商取引(電子商取引)の普及への対応として、事業者間の福子商取引(いわゆるB to B取引)における協調的行動や排他的行動、消費者向けの電子商取引(いわゆるB to C取引)における不当な広告表示等への対処といった次のような取組を行った。
(4) 著作物再販制度の取扱いについて
当委員会は、著作物再販制度について、規制緩和の推進に関する累次の閣議決定に基づき、独占禁止法適用除外制度の見直しの一環として検討を行ってきた。平成12年度においては、著作物再販制度を廃止した場合の影響等について関係業界と対話を行うとともに、「著作物再販制度の見直しに関する検討状況及び意見照会について」を公表し(平成12年12月)、国民各層からの幅広い意見を求めたほか、平成13年1月から2月にかけて、消費者団体及び著作権者団体から意見を聴取し、著作物再販制度については、次のとおり取り扱うこととした(平成13年3月)。
<著作物再販制度の取扱いについて(要旨)>
(5) 企業結合規制の的確な運用
独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の合併,株式保有等を禁止している。事業活動のグローバル化等の経済環境の急速な変化に伴い、大企業の合併等大型の企業結合事案が増加している状況において、当委員会は、我が国市場における競争的な市場構造が確保されるよう、企業結合規制の的確な運用を行っている。平成12年度においては、次のような大型の企業結合事案を処理した。
<平成12年度における主な企業結合事案>
(6) 下請法による中小企業の競争条件の整備
当委員会は、中小企業の自主的な事業活動が阻害されることのないよう、下請法の厳正かつ迅速な運用により、下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めており、平成12年度においては、次のような事件に対し勧告を行ったほか、必要に応じ警告の措置を採った。
<平成12年度における主な勧告> ・ 住宅設備機器製造業者による下請事業者の給付の受領拒否 ・ 輸送用機械機具製造業者による下請代金の減額 また、前記のとおり、平成12年11月に、親事業者が下請事業者の承諾を得た場合、書面の交付に代えて書面に記載すべき内容を情報通信技術を利用する方法により下請事業者に提供することができること等を内容とする下請法の改正が行われ、さらに、改正後の下請法の規定に基づき、親事業者が下請事業者の承諾を得る方法及び下請事業者が承諾を撤回した場合の取扱いを定めた下請代金支払遅延等防止法施行令(平成13年政令第5号)が制定された(平成13年1月4日公布。同年4月1日施行)。また、これに伴い、電子受発注が下請法の趣旨に沿った形で行われるよう、「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」を策定した(平成13年3月)。 (7) 景品表示法による消費者行政の推進
ア 景品表示法違反行為の積極的排除
当委員会は、消費者向けの商品・サービスの種類や販売方法が多様化する中で、消費者の適正な商品選択が妨げられることのないよう、景品表示法の厳正な運用により、不当な顧客誘引行為の排除に努めており,平成12年度においても次のような事件に対し排除命令を行うなど積極的に事件処理に取り組んだ。
<平成12年度における排除命令>
イ 消費者取引の適正化
規制改革が進展する中で、従来にも増して消費者が自己責任原則に基づいて消費行動を取ることが求められているところ、情報の非対称性にかんがみて事業者から消費者に対して商品選択上必要な情報が適切に提供されることが一層重要になってきていることを踏まえ、当委員会は、広告表示等について実態調査を行うなどして、消費者取引の適正化に取り組んできている。平成12年度においては、環境保全に配慮していることを示す広告表示の実態を調査し、広告表示について景品表示法上の考え方や事業者の留意すべき事項について明らかにするとともに、当委員会の今後の取組について取りまとめ公表した(平成13年3月)。
このほか、小売業を巡る競争環境や消費者の意識が変化しており、それに伴って小売業者の用いる価格表示が多様化してきていること、当委員会が処理した事件の中でも、不当な二重価格表示に関するものが多くみられることなどの状況にかんがみて、「不当な価格表示に嘆する不当景品類及び不当表示防止法第4条第2号の運用基準」(昭和44年事務局長通達)の見直しを行い、二重価格表示を中心とする不当な価格表示についての考え方を明らかにした「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」を策定・公表した(平成12年6月)。 (8) 経済のグローバル化への対応
経済のグローバル化の進展に伴い、競争当局間の国際的協力や競争政策の国際化への対応を図ることが一層重要となってきている。このため、当委員会は、二国間及び多国間の競争政策に関する協力、調整等が円滑に進められるよう、海外の競争当局との意見交換の開催、国際会議への参加等により、競争当局間の協力関係の一層の充実を図り、また、開発途上国・移行経済国を対象とした競争法・競争政策に関する技術協力を実施した。
また、近年、企業活動の国際化の進展に伴い、複数国の競争法に抵触する事案、一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど、競争当局間の協力関係の強化が求められている。このような状況を踏まえ、日米独占禁止協力協定(平成11年10月締結)に引き続き、平成12年度においては、EUとの間で競争分野における協力協定の締結に向けて交渉を行い、交渉当事者間で実質的要素について相互理解に達した(平成12年7月)。 |
業務別に見た平成12年度の業務の大要は、次のとおりである。
法的措置としては、独占禁止法第48条の規定に基づく勧告のほかに、違反行為がなくなった口から1年を経過していた場合に勧告を行わず課徴金納付命令のみを行うことがあるが、平成12年度中には行っていない。 図1 法的措置件数と対象事業者等の数の推移
![]() 法的措置の対象となった行為をその行為類型別にみると、価格カルテル1件、入札談合10件、その他のカルテル1件、不公正な取引方法6件である(図2)。 図2 行為類型別の法的措置件数
![]() これら以外の事件としては、警告8件、注意31件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切った事件3件となっており、法的措置を採ったものと合わせてこれらを行為類型別にみると、私的独占2件、価格カルテル10件、入札談合14件、その他のカルテル1件、不公正な取引方法25件、その他の行為8件となっている(下記不当廉売及び優越的地位の濫用についての事件を除く。)。 このほか、規制改革後の公正競争確保に関し、不当廉売については8件の警告を行うとともに違反につながるおそれのある行為に対し1,044件の注意を行い、優越的地位の濫用については1件の警告を行うとともに違反につながるおそれのある行為に対し5件の注意を行うなど、適切な法運用に努めた。 また、課徴金については、価格カルテル及び人札談合事案について、総計719件、総額85億1668万円の課徴金の納付を命じた(図3)。 なお、延べ13件に対する課徴金納付命令(課徴金額20億835万円)については、審判開始決定がなされ、審判手続に移行した。 図3 課徴金額等の推移
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平成12年度における審判事件数は、前年度から引き継いだもの43件を含め、独占禁止法違反に係るものが12件、課徴金納付命令に係るものが38件、景品表示法違反に係るものが1件の計51件(うち29件は手続を併合)であった(図4)。これらのうち、平成12年度中に、29件について審決を行った。この内訳は、審判審決3件、同意審決2件、課徴金納付を命ずる審決等24件である。 図4 過去5年間の審判事件数の推移とその内訳
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表1 下請法の事件処理状況
表2 景品表示法の事件処理状況
都道府県における景品表示法関係業務の処理状況は、同法第9条の2の規定に基づく指示を行ったものが2件、注意を行ったものが469件(不当景品関係150件、不当表示関係319件)であった。
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