第15章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定

1 日米独占禁止協力協定
 近年,企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一個による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間協力の強化の必要性が高まっている。
 こうした中,平成11年10月7日に日本国政府と米国政府の間で「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」が締結された。当委員会は本協定に基づき執行活動等に関する通報を行うなど米国競争当局と緊密な協力を行っている。
2 日EC独占禁止協力協定
 日本国政府は,平成12年5月19日に欧州共同体(交渉相手は欧州委員会)との間で競争分野における協力に関する協定のための交渉を開始することを発表し,同年7月19日に交渉当事者間で実質的要素について相互理解に達した。今後所要の手続を経て,行政取極として締結する予定である。
3 日シンガポール経済連携協定
 我が国は,我が国初の自由貿易協定である,「日・シンガポール新時代経済連携協定」に平成14年1月13日に署名した。本協定においては,競争政策分野として,貿易・投資の円滑化に寄与するため,両国が反競争的行為に対応するとともに,両国間の協力を推進していく旨が盛り込まれている。今後,所要の国内法上の手続を経て,同手続が完了した旨の通告を両政府が交換した後,発効となる。

第2 二国間意見交換

 当委員会は,我が国と経済的交流が特に活発である国・地域の競争当局との間で競争政策に関する意見交換を定期的に行っている。
 平成13年度における意見交換開催状況は,次のとおりである。

第3 二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議
(1) 競争政策に関する議論への対応
 競争政策に関しては,「日米間の経済パートナーシップのための枠組み」において,規制緩和及び競争政策に関する日米間の「強化されたイニシアティブ」の下で議論が行われた。
 平成13年6月30日に「規制緩和及び競争政策に関する日米間の強化されたイニシアティブ第四回共同現状報告書」が公表され,競争政策に関する事項として,公正取引委員会の独立性,独占禁止法の執行強化,入札談合の排除,規制緩和が進行している産業における競争の促進,公正取引委員会のリソース増強,競争促進のための実態調査が明記された。
 また,同日,両国政府は,新たな経済関係の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」の立上げを発表し,競争政策に関しては,同パートナーシップの下の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において議論が行われることときれた。
 米国政府は,平成13年10月14日,「日米規制改革及び競争政策イニシアティブに基づく日本政府への米国政府の年次改革要望書」を日本政府に提出した。
 同要望書においては,競争政策に関係する要望として,公正取引委員会の独立性と職員数,公正取引委員会の審査能力,独占禁止法執行行為の効果,談合の排除,競争と規制改革に係る取組が挙げられている。当委員会は,作業部会等の場において,これらの要望に対する公正取引委員会の取組等を説明した。
(2) その他の協議への対応
 規制改革及び競争政策イニシアティブにおいては,個別業種に係る協議として,IT分野,エネルギー分野等についての作業部会が開催されている。当委員会は,競争政策の観点から,これらの作業部会に必要に応じ対応しており,当該分野における競争促進に積極的に取り組んでいくこととしている。
2 その他の二国間協義
 日EU規制改革対話等その他の二国間協議について,当委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第4 多国間関係

1 OECD
(1) 競争委員会
ア 競争委員会(COMP:Competition Committee)は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・競争政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行っている。本会合では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,各加盟国に対する規制制度改革国別審査,その時々の重要問題について討議が行われている。また,本年度からOECD非加盟国を加えた「競争に関するグローバルフォーラム」が,原則として年2回開催されることとなった。
 平成13年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
イ 平成13年5月の第82回本会合においては,ハンガリー,アイスランド及びメキシコが年次報告に基づいて説明を行ったほか,価格の透明性に関するラウンドテーブル討議が聞催された。また,ポーランドを審査対象国として規制制度改革国別審査が行われた。
ウ 平成13年10月の第83回本会合においては,フランス,ニュージーランド,オランダ及び我が国が年次報告の概要について説明を行った。また,コングロマリット合併におけるポートフォリオ効果に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,カナダ及びイギリスを審査対象国として規制制度改革国別審査が行われた。
エ 平成14年2月の第84回本会合においては,オーストラリア,スイス及びEUが年次報告に基づいて説明を行ったほか,トルコを審査対象国として規制制度改革国別審査が行われた。  
オ 競争委員会に属する各作業部会及び競争に関するグローバルフォーラムの平成13年度における主要な活動は,次のとおりである。
(ア)競争と貿易に関する合同会合では,競争委員会と貿易委員会が,合同で,競争政策と貿易政策の連関についての検討を行っている。平成13年5月会合においては,電子商取引の問題,知的財産権に関する国際的消尽政策などについて検討が行われた。平成13年10月会合においては,知的財産権及び国際的消尽に関するラウンドテーブル討議が開催され,また鉄鋼産業における貿易と競争の問題点などについて検討が行われた。  
(イ)第2作業部会では,平成13年5月会合においては電気通信に関するラウンドテーブル討議,平成13年10月会合においては電気通信関連産業における接続料金に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,平成14年2月会合においてはトルコにおける電気及びガス分野での規制改革の状況についての審査が行われた。
(ウ) 第3作業部会では,平成13年5月会合においてはカルテルによる経済的影響及び加盟国の制裁制度についての検討が行われたほか,国際合併に対する国際的相互協力に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成13年10月会合においては合併審査手続の調和について検討が行われたほか,カルテル審査におけるリニエンシー以外の審査手法に関するラウンドテーブル討論が開催された。また,平成14年2月会合においてはハードコアカルテルによる損害及び制裁に関する報告書が承認された。  
(エ)競争に関するグローバルフォーラムでは,平成13年10月会合においては経済改革における競争政策の投割,相互協力の手段,ハードコアカルテル(政府調達における談合),合併規制及び国際合併案件における相互協力について検討が行われた。また,平成14年2月会合においては経済成長及び発展と競争政策,キャパシティビルディングと技術援助,合併及びカルテルにおける国際的相互協力などについて検討が行われた。
(2) 消費者政策委員会
ア 消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policv)は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭利44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置することとされた。この期限は,その後,8回の延長決定を経て平成16年末までとなっている。消費者政策委員会は,通例年2回本会合を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時会合を行っている。
 平成14年3月現在,電子商取引における消費者保護ガイドラインのフォローアップ,国境を越えた消費者の救済,支払カード保有者のための消費者保護,裁判外紛争処理及び行動規範に関する作業部会が設置されている。
イ 電子商取引等を議題として,平成13年9月17日から18日にかけて第61回本会合が,平成14年3月13日から14日にかけて第62回本会合が開催された。
2 WTO
(1) 競争分野における取組
 平成7年4月のマラケシュ閣僚会議議長サマリーにおいては,貿易とその他の分野(競争,投資等)との相互関係を分析することの重要性が強調された。その後,平成8年12月のシンガポール閣僚宣言において,これらの問題についての作業指針が画定された。貿易と競争については,(1)貿易と競争政策の相互作用を検討するための作業部会を設置すること,(2)2年間の期限で(すなわち平成10年末まで)検討を行った上で,その後の進め方について決定すること,(3)多数国間の規律に関し将来の交渉を行うかどうかは,WTO加盟国における明示的な合意が必要であること等が定められた。
(2) 貿易と競争政策の相互作用に関する作業部会
競争政策が貿易に与える影響及び貿易政策が競争に与える影響の双方の観点から検討を行う貿易と競争政策の相互作用に関する作業部会は,平成10年12月の一般理事会において,平成11年以降の継続が決定され,平成9年7日以降平成13年9月までに16回の作業部会が開催された。
 平成13年度における会議の開催状況は,次のとおりである。

 平成13年11月9日〜13日にかけて,カタール・ドーハにて第4回WTO閣僚会議が行われた。競争に関しては,投資と同様,第5回閣僚会議(2003年秋予定)において,交渉の方法について明確な合意を図った上で,その後に交渉を開始することとし,それまでの間,「貿易と競争政策の相互作用に関する作業部会」において,競争政策に関するコア・プリンシプル(共通原則)の内容等交渉すべき要素について検討するとともに,開発途上国における制度の強化に対する支接の強化を行っていくとの方向が示された。
3 APEC
(1) 競争分野における取組
 平成6年のインドネシア・ボゴールでの非公式首脳会議において,アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を図るため,「先進経済は2010年までに,開発途上経済は2020年までに,アジア太平洋地域における自由で開かれた貿品及び投資という目標の達成を完了する」こと等を内容とする「ボゴール宣言」が採択された。
 続く平成7年に大阪で開催された第7回閣僚会議(11月16日,17日)において,「ボゴール宣言」の目標を具体化するための行動指針(以下,「大阪行動指針」という。)が採択された。この「大阪行動指針」において取り上げられた15の個別分野の一つが競争政策分野であった。
(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)の改定
 平成8年に,フィリピン・マニラで開催された第8回閣僚会議(11月22日,23日)において,「大阪行動指針」に基づく分野別の具体的な行動計画として「マニラ行動計画」が採択された。「マニラ行動計画」は,APEC参加国・地域が協調して取り組む「共同行動計画」と各国・地域が自主的に取り組む「個別行動計画」とから成り立っている。競争政策分野では,「共同行動計画」として,技術協力,政策対話,情報交換の実施等が掲げられており,「個別行動計画」として,我が国は,独占禁止法違反行為に対する厳正を対処等競争政策の一層積極的な展開や技術支援の実施等を掲げている。平成13年度も,「個別行動計画」の改定を行い,APECメンバーエコノミーに対し我が国の競争法・競争政策に係る最新の情報を提供した。
(3) 競争政策・規制緩和ワークショップ
 平成7年7月に,「ボゴール宣言」の実施のために競争政策分野を一つの項目として位置付け,今後APECの活動の一環としで競争政策に関する検討を行うことを目的として,競争法・政策会合が開催されたが,翌平成8年には,「大阪行動指針」に掲げられた15の個別分野中,競争政策と規制緩和に関する2つの会合は,相乗効果が認められるとして,それらを一つにまとめて取り扱うことが決定された。このため,競争法・政策会合は,競争政策・規制緩和ワークショップに組織替えされた。
 平成13年度においては,中国のシンセンにて、「市場機能の強化」,「大阪行動指針の見直し」,「競争に関する活動の報告」等を議題に議論が行われた。
4 UNCTAD
(1) 昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会談において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この「原則と規則」は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。
 「原則と規則」は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。
(2) 「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。
 平成13年度は,7月に上記専門家会合が開催され,各国の競争法・競争政策の進展状況についで情報交換を行うとともに,競争当局間の国際協力の必要性や,競争政策と知的財産権の関係などについて議論した。

第5 海外の競争当局等に対する技術協力

 近年,開発途上国や市場経済移行国においては,市場経済における競争法・競争政策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。当委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術協力を行っている。具体的な協力の概要は次のとおりである。
1 開発途上国競争政策研修
平成6年度から,国際協力事業団( JICA)を通して,競争法を導入しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・競争政策に関する研修を行っている。
 平成13年度は,8月27日〜9月30日に,アジア諸国等10か国11名(インドネシア,ケニア,スリ・ランカ,タイ,中国,バヌアツ,ブラジル,ブルガリア,マレイシア,モンゴル)の競争当局等の中堅職員を対象に,研修を実施した。
 なお,同研修は平成11年度以降,更に10年間継続されることとなっている。
2 中国競争政策研修
 平成10年度から5年間の予定で,JICAを適して,中国に対し,競争法・競争政策及び 関連の法律について研修を行っている。
 平成13年度は,10月22日〜11月22日に,中国の競争当局にあたる国家工商行政管理局の中堅職員10名を対象に,研修を実施した。
3 専門家派遣
平成13年度より2年間,JICAを通して,当委員会の職員を競争法の専門家として,インドネシアに派遣している。

6 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成13年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向及び議会における競争関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(附属資料11−1及び11−2参照)。