第8章 経済及び事業活動の実態調査

第1 概説

 当委員会は,競争政策の運営に資するため,経済力集中の実態,主要産業の実態等について調査を行っている。平成13年度においては,独占的状態調査,企業集団の実態調査(第七次調査),大規模事業会社とグループ経営に関する実態調査,業務提携と企業間競争に関する実態調査,金融機関と企業との取引慣行に関する調査,国内航空旅客運送事業分野における競争状況等に関する調査,コンビニエンスストアにおける本部と加盟店との取引に関する実態調査,介護保険適用サービス分野における競争状況に関する調査等を行った。

第2 独占的状態調査

 独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めているが,当委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,その別表(第1表)には,独占的状態の国内総供給価額要件及び市場占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の市場占拠率が50%超又は上位2社の市場占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている。
 これらの別表に掲載された事業分野については,公表資料及び通常業務で得られた資料の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,関係企業から資料の収集,事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率,過大な販売管理費の支出)の各要件に則し,企業の動向の監視に努めた。
第1表 別表掲載事業分野(25事業分野)


備考(1) 本表は,当委員会が行った調査に基づき,独占的状態の国内総供給価額要件及び市場占拠率要件に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野(平成10年の国内総供給価蝕が950億円を超え,かつ,上位1社の市場占拠率が45%を超え又は上位2社の市場占拠率の合計が70%を超えると認められるもの)を掲げたものである。
(2) 本表の商品順は工業統計表に,役務順は日本標準産業分類による。

第3 企業集団の実態調査 〜第七次調査〜

1 調査の趣旨
 当委員会では,昭和52年度以降,いわゆる六大企業集団に関して継続的に調査を行ってきている。当該調査については,資本的・人的な関係を持った企業集団が我が国経済において大きな影響力を持ち,競争秩序に与える影響も無視できないとの観点から行ってきたところである。また,最近,集団の核とされる銀行の再編等,六大企業集団を取り巻く経済環境が変化してきていることを踏まえ,今次調査においては,従来の観点に加え,経済環境の変化が六大企業集団の社長会メンバー企業間の関係にどのような影響を与えているか等について調査を行い,平成13年5月に調査結果を公表した。
 なお,本調査において「旧財閥系企業集団」とは三井,三菱及び住友の各グループを,「銀行系企業集団」とは芙蓉,三和及び第一勧銀の各グループをいう。
2 調査結果の概要
(1)企業集団の地位・結付き
 我が国の戦後の経済復興・高度成長の過程において,銀行・総合商社を核として形成された六大企業集団は,我が国経済において大きな影響力を持ち,競争秩序に与える影響も無視できないことが指摘されてきた。しかし,その地位並びに資本・人的関係及び取引関係による結付きは,金融機関のメンバー企業への貸出比率等,一部例外はあるものの,総じて弱まる傾向にある(第1図〜第5図)。
 第1図 六大企業集団の日本経済全体に占める割合
集計対象:金融会社を除くメンバー企業151社
<資本関係>
第2図 集団内株式所有比率(全株式のうち何株がメンバー企業に所有されているか)
集計対象:生命保険会社を除くメンバー企業延べ181社
<人的関係>
第3図 派遣役員比率(役員総数のうちメンバー企業からの派遣役員が何人いるか)
集計対象:メンバー企業延べ188社
※増加要因…社外取締役として銀行からの役員派遣が増加したこと等による。
<取引関係>
第4図 集団内仕入比率(総仕入高のうちメンバー企業からの仕入高の占める割合)
集計対象:金融会社を除くメンバー企業延べ163社
第5図 金融会社のメンバー企業への貸出比率
   (金融会社貸出総額のうちメンバー企業への貸出額の占める割合)
集計対象:メンバー金融会社25社
※増加要因…貸出総額が減少(例:都市銀行8→11年▲2.1%)する中で,メンバー企業向け貸出額が増加(同8→11年8.1%)したため。

(2) 企業集団のメリット・機能
 企業集団の社長会に加入するメリットとしては,情報交換等が主なものとして挙げられているが,特に旧財閥系企業集団においては,ブランドによる信用力の向上を挙げる企業も多い(第6図)。また,社長会は,経営危機時の資金面での支援等,集団としての相互保険的機能も依然として有していると考えられる(第7図)。
第6図 社長会加入のメリット

第7図 同一企業集団メンバー企業からの働き掛けの内容(複数回答)

集計対象:同一企業集団メンバー企業から何らかの働き掛けがあったと感じた企業34社

(3) 金融再編と企業集団
 メンバー企業では,今般の銀行の統合によっても,現在の企業集団が維持・継続されるとする見方が多いが,そうした中にあって銀行系集団では,集団が形がい化するとの見方が多いのに対し,旧財閥系集団では,より関係が深まるとの見方も多い(第8図)。業界再編に与える影響としては,金融再編により,共同事業を行う相手先の候補は増大するが,再編の直接の動機にまではならないとみられる(第9図)。
 なお,企業集団としては,銀行を中心に運営される形での企業グループの解消も含め見直しを行うとするものもあり,また,銀行が主導的に企業集団メンバー企業間の結び付きを強化・拡大したり,統合を支援・促進していくことは考えていないとしているが,注視していく必要がある。
第8図 企業集団の今後

集計対象:金融会社を除くメンバー企業125社

第9図 金融再編が業界再編に与える影響
集計対象:(1)住友銀行及びさくら銀行,(2)三和銀行及び東海銀行,(3)東京三菱銀行及び三菱信託銀行並びに(4)富士銀行,第一勧業銀行及び日本興業銀行の融資先企業824社

第4 大規模事業会社とグループ経営に関する実態調査

1 調査の趣旨
 日本における大規模な事業会社の多くは,子会社・関連会社等とともに垂直的な企業グループを形成すると同時に,他の企業グループや金融会社との間で資本・融資・取引等の関係を結んでいる。グローバル化,情報化等の経済環境の変化は,グループ外企業との関係にも変化をもたらすものと考えられ,また,企業組織関連法制の整備,企業会計制度の変化といった近年の制度環境の変化は,企業グループの事業・組織再編に影響を与えることが想定される。そこで,平成12年3月末における単体総資産上位100社における,グループ外企業との関係(資本,融資及び取引関係),グループ経営に対する姿勢等について調査した。
 また,平成9年12月の改正独占禁止法の施行により,グループ経営における組織形態の選択肢の一つとして追加されることとなった持株会社形態が,どのような目的のためにどのように利用され,また,今後どのように利用されるかについて,平成12年9月末時点において持株会社を設立済みの会社及び設立予定である旨の報道があった会社を対象に調査を行い,平成13年5月に調査結果を公表した。
2 調査結果の概要
(1) 大規模事業会社の動向
ア 企業間関係
(ア)資本関係
 株式保有主体としては銀行が最も多く,株式持合いも広く行われているが,時価会計制度の導入により株式保有のリスクを考慮する必要があること等から,企業は株式持合いを選別・減少させていくものとみられる。ただし,持合いを解消させるとする企業はほとんどなく(第10図),今後持ち合う場合の目的として,取引関係の維持・強化を挙げる企業が多数を占める(第11図)。
第10図 株式持合いについての今後の方針 第11図 株式持合いの今後の目的(複数回答)

集計対象:大規模事業会社86社 集計対象:今後の株式持合いについて「全くなくなることはない又は「増加させる」と回答した大規模事業会社44社

(イ)融資関係
 銀行からの借入れに依存する度合いの低い大規模な会社を中心に,メインバンクがないとする企業も23.7%あるが,76.3%の企業はメインバンクがあるとしており,継続・安定的な融資を期待している(第12図)。事業会社は,メインバンク以外の主要な取引先銀行とも資本関係を有しているのが通常であり,銀行からの出資比率が高いほど借入比率も高いという関係がみられる。
(ウ)取引関係
 連結対象企業を中心に出資関係のある企業との取引は,現状でも総じて高いウェイトを占めるが,連結対象外の企業との継続的取引については,その理由として価格・品質等を挙げる企業が多い(第13図)。電子商取引の進展や外国企業の参入等ともあいまって,「系列」取引等の状況も今後変化することが見込まれる。
イ 連結グループ経営の進展と事業・組織再編
 大規模事業会社の多くは,子会社・関連会社等とともに企業グループを形成しているが,連結決算制度の導入等により,グループ全体の収益を重視する連結グループ経営が重視されてきている(第14図)。
 事業・組織再編の目的については,分社化では独立採算性の徹底や意思決定の機動性向上,合併では経営合理化や事業の整理・統合,買収では既存市場でのシェア拡大や新規事業・市場・技術等の獲得となっている。また,業務提携については,組織形態のいかんを問わず,利用しやすいツールとなっており,新規技術やノウハウの獲得等を目的とするものが多い(第15図)。
 第12図 メインバンクに今後最も期待すること
集計対象:メインバンクがあると回答した大規模事業会社73社    注 グラフ内の数値は,回答企業数である。

第13図 連結対象外の企業との継続的取引の理由(複数回答)

集計対象:大規模事業会社90社(うち製造業46社)
注 5年以上の継続的取引がある子会社・関連会社以外の仕入先との取引継続理由

第14図 組織再編ツールに対する考え方

集計対象:大規模事業会社95社

第15図 分社化・合併・買収・業務提携の目的(複数回答)


集計対象:分社化に積極的と回答した大規模事業会社55社 集計対象:合併に積極的と回答した大規模事業会社63社


集計対象:買収に積極的と回答した大規模事業会社57社 集計対象:大規模事業会社89社

(2) 持株会社の利用状況
 企業組織関連制度の整備に伴い,グループの組織形態・再編ツールも多様化する中で,持株会社についても,まだその採用事例は少ないものの,カンパニー制組織等を採用している企業を中心に,事業・組織再編の選択肢の一つと考えられている(第16図)。連結納税制度等の企業組織関連法制・税制が整備されていけば,持株会社形態の利用が進むと考えられる。
(注)平成13年度税制改正で企業組織再編税制の整備が図られ,また,平成14年度税制改正で連結納税制度が創設された。
 持株会社形態の利用目的としては,戦略的なグループマネジメントや各事業分野ごとの経営責任の明確化を挙げる企業が多いが,企業風土等が異なる会社との統合に際して合併代替的に利用する企業も多い(第17図)。
第16図 設立済み及び設立予定の持株会社
出所:持株会社実態調査等
注1「国内子会社株式」には.子会社が所有する株式も含まれている。
 2 設立予定の持株会杜については,具体的な資産額があったもののみ表示している
 第17図 持株会社の利用目的等(複数回答)
集計対象:持株会社実態調査対象企業28社

第5 業務提携と企業間競争に関する実態調査

1 調査の趣旨
 近年,グローバル化による競争の激化や,技術革新の急速な進展と,これに伴う製品のライフサイクルの短縮化等,企業を取り巻く環境は大きく変化している。こうした競争環境の変化へ対処するため,製品開発の促進やこれに要する時間の短縮,生産コストの削減等を図ることを企業は迫られており,これら経営課題への対応手段として,企業間の業務提携が急増しているといわれている。
 これら業務提携の中には,競争促進効果を有するものが存在する反面,競争制限効果を有するものが存在する可能性もあるとみられる。そのため,業務提携の現状をより的確に把握することにより,今後の独占禁止法の運用に資することを目的として,東京証券取引所第一部に上場している製造業を営む企業及び卸・小売業を営む企業を対象に調査を行い,平成14年2月に調査結果を公表した。
2 調査結果の概要
(1) 業務提携の活用状況
ア 実施状況・件数
 回答企業の80.0%が業務提携を実施している。1社平均の業務提携の実施件数は15.4件であり,製造業における類型別平均件数をみると,研究開発提携が過半を占め,技術提携と合わせると約7割となっている(第18図)。
イ 業務提携件数の増減傾向
 業務提携件数が,増加したとする企業は半数を超えている。件数増大の背景としては,グローバルな競争圧力の高まり,イノベーションを巡る競争の激化,事業再構築への対応などが挙げられている。
ウ 企業戦略と業務提携
 経営戦略上,業務提携が特に重要となる事業があるとする企業は79.4%であった。
第18図 類型別1社平均業務提携件数(製造業)
企業の経営戦略上,業務提携が特に重要と位置付けられるのは,将来の成長市場での競争優位を追求する場合や,成熟市場での競争力を維持する場合などである。
エ 業務提携のメリット・デメリット
 業務提携のメリットとしては,事業の共同化を,必要な分野・事業のみで,企業の独立性を維持したまま行え,必要がなくなれば解消できるとするものが多い。
 一方,過半数の企業が業務提携に何らかのデメリットを感じており,内容は,「提携事業の自由な実施が制限される」が31.8%と最も多い。また,「コストが近づき価格競争が減少する」,「提携内容以外の事業活動が制限される」,「事業活動の地理的範囲が制限される」についても一定数あった。
(2) 業務提携の内容
  現在実施している業務提携について,類型ごとに回答を求めたところ,以下のとおりであった。
 ア 目的
 業務提携の目的についてみると,新商品の事業化やコスト削減を図る上で,自社の経営資源の不足を補い,事業展開のスピード向上やリスクの低減を図るために活用される業務提携が多いことがうかがえる(第19図)。
イ 対象事業
 業務提携の対象事業について,売上高が総売上高に占める割合でみると,生産,販売提携では,「大きい」と回答した企業の割合が他の類型の業務提携よりも多くなっている。
ウ 相手先
 業務提携の相手先についてみると,競争業者との業務提携を行う企業は6割を超えている(第20図)。
 業務提携の相手先選択理由についてみると,「優れた経営資源を有している」が65.7%と最も多く,「業界において有力」及び「提携業務で実績がある」がそれに次いでいる。
 第19図 業務提携の目的

 第20図 業務提携の相手先

エ 実施形態・実施期間
 業務提携の実施形態についてみると,契約のみの形態が69.3%であり,共同出資会社形態を採るものは22.2%あった。契約期間満了時の取扱いについては,ほとんどの契約が更新等により継続されている。
(3) 戦略的提携の内容
 企業にとって経営戦略上特に重要とされる業務提携(以下「戦略的提携」という。)について回答を求めたところ,以下のとおりであった。
ア 対象事業・業務
 戦略的提携の対象事業については,「将来成長が見込まれる事業」と回答した企業が51.3%と過半数である。一方,「現在の主力事業」と回答した企業の割合は36.3%である。
 戦略的提携を類型別にみると,研究開発提携が35.9%と最も多く,包括,生産,販売提携も一定数みられる。また,現在実施している典型的な業務提携と比較すると,研究開発,包括提携のウエイトが高まる(第21図)。
イ 目的
 戦略的提携の目的を典型的提携と比較すると,「自社に不足する知識・技術等の補完」とする企業の割合が大幅に高まり,「新規事業に要する時間の短縮」,「リスク軽減」を挙げる企業も増加している。
ウ 相手先
 戦略的提携の相手先についてみると,「国内の競争業者」が57.4%と最も多いが,典型的提携における相手先と比較すると,「海外の競争業者」,「国内の異業種企業」及び「海外の取引先等」が大幅に増加している。
第21図 戦略的提携の類型
エ 包括提携
 戦略的提携のうち,他の類型と異なり,個別の業務に限定せず,提携対象事業の業務全般において幅広く協働関係を結ぶ包括提携について,戦略的提携全体と比較して見てみると,現在の主力事業において,内外の競争業者を相手先に,「相乗効果」,「コスト削減」,「事業の分担・特化」,「地位の強化」を目的に行うとするものが多くなっている。
(4) 業務提携と競争政策
ア 競争政策の観点からの分析の視点と調査結果の評価
 個々の業務提携について競争政策の観点から評価する場合には,業務提携の相手先,業務提携参加企業の市場シェア,業務提携の性格及び市場の状況等から,競争促進的な側面と競争制限的な側面を総合的に判断することとなる。特に,競争業者との業務提携の場合,その特徴として協働関係と競争関係が併存することとなるが,この場合,業務提携が当該事業活動の本質的な部分でのものであるかどうかが重要となる。さらに,生産,販売等の多段階で包括的に提携する場合など,提携参加企業間で競争の余地やインセンティブが無くなり,提携期間も長期にわたるような場合には,合併など企業結合と同様に,市場構造に影響を与え得ることにも留意する必要がある。
 アンケート調査の回答結果からみて,「業務提携の内容」や市場の状況等によっては競争政策の観点から問題となり得るおそれのある回答は,全体の4.6%である。ただし,この割合は,類型ごとに差があり,販売,生産,物流提携で他の類型と比較して高くなっている。一方,研究開発,技術提携ではその割合が低くなっている(第2表)。
イ 調査結果の提携類型ごとの整理
 次に,アンケート結果及びヒアリングを踏まえ,業務提携の各類型ごとに,どのような競争を促進する側面があるか,また,どのような競争を制限する側面があるか整理を行うと,第3表のとおりである。
ウ 今後の課題
 当委員会では,これまで,技術取引の増大や共同研究開発の増加等の流れを受けて,これらの分野における企業間の提携等について,ガイドラインで独占禁止法上の考え
第2表 問題となるおそれのある業務提携の実施企業割合
                          (単位:%)
注「該当企業の割合」の分子は,アンケート調査で,
・相手先で「競争業者」を選び,かつ,
・相手先選択理由で「業界での有力な企業」又は「実績がある企業」を選び,かつ,
・対象事業で自社の「売上高が大きい事業」を選び,かつ,
・目的で「地位の強化」,「事業の分担」又は「設備の共同廃棄」
を選んだ企業数とした。
 分母は,当該類型の提携を実施しており,その内容を把握していると回答した企業数である。

方を明示する等の対応をしてきたところである。しかしながら,本調査結果によれば,近年,経済のグローバル化の進展による競争の激化等を受けて,より一層のコスト削減や事業の効率化を図る必要性から,生産や販売等の分野においても競争業者間で業務提携を実施するケース等も増加している。
 また,調香結果のとおり,業務提携の中には競争促進的なものも多いと考えられるが,生産,販売等の分野における業務提携に関する独占禁止法上の考え方が明確化さ
第3表 提携類型ごとの競争への影響
れていないため,業務提携の実施に消極的になるケースもあるとの意見がみられた。
 したがって,競争を制限することのない業務提携を抑制せず,独占禁止法に違反するような業務提携を未然に防止するため,今後,研究開発や技術以外の分野を含めた業務提携全般に関する独占禁止法上の考え方(ガイドライン)を作成することとする。

第6 金融機関と企業との取引慣行に関する調査

1 調査の趣旨
 近年,我が国の金融分野においては,相互参入や業務範囲の拡大など規制緩和が進展しており,また,市場機能の円滑な発揮や利用者保護を図るため,金融取引環境の整備が進められ,金融取引の実態も変化しつつあることから,銀行や信用金庫等「預金を受け入れ,貸出しを行う」いわゆる預金金融機関とその融資先企業との取引慣行について実態調査(注)を行い,調査結果を平成13年7月に公表した。
 本調査においては,不公正取引の観点から,(1)融資に当たり,金融商品・サービスの購入,さらに,密接な関係にある事業者と取引することを条件にするなど取引を強制する行為,(2)融資に当たり,密接な関係にある事業者の競争相手と取引しないことを条件にするなど取引を制限する行為,(3)融資を背景に取引条件を不当に設定又は変更する行為が行われていないかどうかという点を中心に実態を把握し,独占禁止法上の問題点について検討することとした。
(注)平成11年4月から平成12年3月までの決算報告書において,短期借入金残高がある全国の法人事業者の中から,無作為抽出により5,000社を選定し,アンケート調査を実施(回答企業:4,290社,回収率:85.8%)するとともに,アンケート調査に回答した法人事業者の一部に対してヒアリング調査を行った。
2 調査結果の概要
(1) アンケート回答企業の金融機関との取引状況
ア 回答企業4,290社の内訳は,大企業が1,025社(23.9%),中堅企業が1,628社(37.9%),中小企業が1,637社(38.2%)である(第22図)。
 まず,回答企業が融資を受けている金融機関数をみると,全体としては平均7.8行であった。これを企業規模別にみると,大企業が12.0行,中堅企業が6.9行,中小企業が6.0行となっている(第23図)。
イ 回答企業の平成12年9月末現在の借入残高が最も多い金融機関であるメインバンクの状況についてみると,全体としてはメインバンクが「都市銀行」であるとする企業が53.9%,「地方銀行(第二地方銀行を含む。以下同じ。)」が35.0%,「その他」が11.1%となっている。
 企業規模別にみると,企業規模が大きくなるにつれてメインバンクが「都市銀行」であるとする企業の割合が高くなり,企業規模が小さくなるにつれてメインバンクが「地方銀行」であるとする企業の割合が高くなっている(第24図)。
(2) 融資を背景とした金融機関による要請等の実態
ア 金融機関は,信用リスクの軽減や取引採算(資金運用益,手数料収入等)の向上を図るために,各種の要請を行っている。これを行為類型別に整理すると次の(ア)〜(オ)に
第22図 回答企業の内訳 第23図 平均取引金融機関数

第24図 メインバンクの状況

大別され,(ア)・(イ)の要請が他のものに比べると多く,意思に反して要請に応じた企業も多くなっている。
(ア)融資に関する取引条件の設定・変更
 金融機関による実績作りを目的とした貸出残高の積上げを反映して,期末を越える短期間の借入れ,及び一定率以上の借入シェアを維持した借入れの要請が多く,やむを得ず意思に反して要請に応じた企業も多い。
 また,当初の契約に定めた金利,返済期限,担保等に係る取引条件を変更するよう要請することは,上記のような融資そのものに係る要請に比べると少なかったが,意思に反して要請に応じた企業の割合は高い。
 企業規模別にみると,規模が小さくなるにつれて,期末を越える短期間の借入れをするようにとの要請が多くなり,意思に反して要請に応じることも多くなるが,規模が大きくなるにつれて,一定率以上の借入シェアを維持して借り入れるようにとの要請が多くなり,意思に反して要請に応じることも多くなるという傾向があっ
た。
(イ)自己の提供する金融商品・サービスの購入要請
 社債受託管理会社に自己を指名するようにとの要請は最も多いが,意思に反して要請に応じた企業は相対的に少ない。
 一方,預金を創設・増額することや預金以外の金融商品・サービスの購入要請については, 意思に反して要請に応じた企業が相対的に多いという特徴がみられた。
 企業規模別にみると,社債受託管理会社に指名することについては,大企業で要請されることが多く,意思に反して要請に応じることも多い。また,預金以外の金融商品・サービスを購入することについては,中堅企業で要請されることが多く,意思に反して要請に応じることも多い。
(ウ)関連会社等との取引の要請
 自己の関連会社等を社債引受幹事に指定するようにとの要請が多かったが,意思に反して要請に応じたものは相対的に少なかった。ゴルフ・リゾート会員権や保険等の関連会社等の商品・サービスを購入するようにとの要請も多く,意思に反して要請に応じたものも相対的に多いという特徴がみられた。
 企業規模別にみると,関連会社等を社債引受幹事に指定することについては,大企業で要請されることが多く,意思に反して要請に応じることも多い。また,規模が小さくなるにつれて,関連会社等の商品・サービスを購入するようにとの要請が多くなり,意思に反して要請に応じることも多くなる。
(エ)競争者との取引の制限
 競争者との取引の制限に係る要請は上記(ア)〜(ウ)のような要請に比べると少ないが,他の金融機関から借入れをしないようにとの要請が少なからずみられた。
(オ)融資先企業の事業活動への関与
 自己又は自己の関連会社等の株式を取得するようにとの要請が相対的に多く,これを企業規模別にみると,規模が小さくなるにつれて,要請が多くなっている。
 また,経営の自由度を著しく阻害されたという回答が少数ではあるがみられた。その主な内容は,資金調達,資産処分,資金運用,人事に関するもの等となっている。
イ こうした金融機関からの要請について,約4割の企業が融資を受けていると要請を断りにくく感じると回答している。
 要請に対して,意思に反して要請に応じたと回答した企業の多くは,その理由として,次回の融資が困難になることや,取引関係の悪化の懸念を挙げている。
 また,意思に反して要請に応じた企業の6割以上は,他の金融機関と取引することを検討しておらず,検討した場合でも,取引の開始に時間が掛かることや,取引を拒絶されるおそれがあるなどの理由で,要請に応じざるを得ないと回答している。
 さらに,取引先金融機関を自己の意思で変更したとしても,第三者からは,当該金融機関から取引を打ち切られたとみられかねず,自己の信用悪化につながることが懸念され,取引先金融機関を変更しにくい旨の指摘もある。
 なお,要請に応じなかったことで,金融機関から,融資の打切り,融資の減額,金利の引上げといった対応を受けたとする回答は,契約に定めた返済期限の前倒しや変動幅を超えた金利引上げ等,上記(2)ア(ア)で述べた当初定めた取引条件の変更要請に応じなかった場合に多くみられた。
ウ 企業が金融機関から借入れを行うに当たっては,金融機関との間で消費貸借契約を締結するが,長年の取引慣行として,主に1年を超える長期の借入れについては金銭消費貸借契約証書を金融機関に差し入れ,また1年以内の短期の借入れについては約束手形を差し入れるということが行われている。
 「手形貸付」においては,契約の基本事項である利率,最終返済期限,返済方法,利息支払方法等を記載する箇所が約束手形の券面上には存在しない。また,手形貸付を受ける際に企業が提出する「借入申込書」には金利を記載する欄があるが,ヒアリング調査では,空欄で提出するよう求められる場合が多いとの指摘もあった。
 こうしたことから,短期の借入れであっても,手形貸付から,基本事項を記載する箇所を備えた 「証書貸付」へと借入形態を変更する企業が増えているが,金融機関の中には,企業からの借入形態変更の申出に応じないところがあるとの指摘もあった。
3 独占禁止法上の考え方
(1)融資先企業に対する調査によると,企業が事業活動を展開する上で,金融機関からの借入れが果たす役割は依然として大きく,金融機関は融資等を通じて企業に対し影響力を及ぼし得る立場にあることが多いと考えられる。
 金融機関は融資だけでなく,預金を始めとする金融商品・サービスの購入や関連会社等との取引等の各種要請を行っているが,要請を受けた企業は,意思に反していても,今後の融資等への影響を懸念して要請に応じざるを得ないという状況がうかがえる。
 金融機関が融資先企業に対し各種の要請を行った場合,要請を受けた企業は要請に応じることを希望しないものであっても,今後の融資等への影響を懸念して要請に応じることがあり,優越的地位の濫用として独占禁止法上の問題を生じやすい。
(2) 融資先企業に対する調査結果を踏まえ,金融機関が融資先企業に対して行う各種の要請について,独占禁止法上の考え方を整理すると次のとおりである。
 ア 取引上優越した地位にある金融機関が融資先企業に対して,以下のような行為を行うことは独占禁止法上問題となる(一般指定第14項)。
(ア)融資先企業に対し,その責めに帰すべき正当な事由がないのに,要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって,契約に定めた変動幅を超えて金利の引上げを受け入れさせ,又は,契約に定めた返済期限が到来する前に返済させること。
(イ)債権保全に必要な限度を超えて,過剰な追加担保を差し入れさせること。
(ウ)融資先企業に対し,要請に応じなければ次回の融資が困難となる旨を示唆すること等によって,期末を越える短期間の借入れや一定率以上の借入シェアを維持した借入れを余儀無くさせること。
イ 自己の提供する金融商品・サービスの購入要請
 取引上優越した地位にある金融機関が融資先企業に対して,以下のような行為を行うことは独占禁止法上問題となる(一般指定第14項)。
(ア)債権保全に必要な限度を超えて,融資に当たり定期預金等の創設・増額を受け入れさせ,又は,預金が担保として提供される合意がないにもかかわらず,その解約払出しに応じないこと。
(イ)融資先企業に対し,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,自己の提供するファームバンキング,デリバティブ商品,社債受託管理等の金融商品・サービスの購入を要請すること。
ウ 関連会社等との取引の強要
 金融機関が融資等を通じた影響力を背景として,以下のような行為を行うことは独占禁正法上問題となる(一般指定第10項,第14項)。
(ア)融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,自己の関連会社等が提供する保険等の金融商品の購入を要請すること。
(イ)融資に当たり,要請に応じなければ融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆して,社債の引受けや企業年金運用の受託等の金融サービスの購入を要請すること。
(ウ)融資に当たり,自己の関連会社等と継続的に取引するよう強制すること。
エ 競争者との取引の制限
 金融機関が融資先企業に対して融資等を通じた影響力を背景として,以下のような行為を行うことは独占禁止法上問題となる(一般指定第13項,第14項)。
(ア)融資先企業に対し,他の金融機関から借入れを行う場合には貸出条件等を不利にする旨を示唆して,他の金融機関から借入れをしないよう要請すること。
(イ)自己の関連会社等の競争者との取引を制限することを条件として融資を行うこと。
オ 融資先企業の事業活動への関与
 取引上優越した地位にある金融機関が融資先企業に対して,以下のような行為を行うことは独占禁止法上問題となる(一般指定第14項)。
(ア)要請に応じなければ今後の融資等に関し不利な取扱いをする旨を示唆すること等によって,自己又は自己の関連会社等の株式を取得させること。
(イ)資金調達の選択又は資産処分に干渉するなど資金の調達・運用又は資産の管理・運用を拘束し,融資先企業に不利益を与えること。
4 今後の対応
(1) 当委員会は,全国銀行協会及び全国信用金庫協会に対し,本調査結果及び独占禁止法上の考え方を説明し,傘下金融機関に対する周知徹底を要請した。
(2) 当委員会としては,金融市場等における公正かつ自由な競争が維持・促進されるよう,各金融機関において融資に係る取引慣行の不断の見直し・点検が行われることに加え,手形貸付における契約条件の書面化等により契約面での整備が図られることを期待するところである。
(3) 当委員会は,金融機関と融資先企業との取引が適正に行われるよう引き続き監視し,公正かつ自由な競争が阻害されているような事案に接した場合には,独占禁止法に基づき厳正に対処することとしている。

第7 国内航空旅客運送事業分野における競争状況等に関する調査

1 調査の趣旨
 我が国の国内航空旅客運送事業(以下「国内航空」という。)の分野においては,平成10年9月 及び12月に,約35年ぶりにスカイマークエアラインズ株式会社(以下「スカイマーク」という。)及び北海道国際航空株式会社(以下「エア・ドゥ」という。)の2社(以下「新規2社」という。)が新規参入した。
 当委員会は,競争政策の観点から,新規2社参入後の国内航空分野における運賃設定や空港施設の利用状況等を調査し,その結果を平成11年12月に公表したところである。その後,平成12年2月の改正航空法の施行等を契機に運賃設定の多様化が進むなど,国内航空分野をめぐる状況は更に変化していることから,国内航空運賃の動向及び新規2社参入路線における競争の状況を中心にフォローアップ調査を行い,調査結果を平成13年7月に公表した。
2 国内航空運賃の動向
 国内航空運賃の自由化等を契機として,普通運賃が引き上げられる一方で,往復割引運賃が改めて設定されたこと,特定便割引運賃の設定が拡大したこと,全路線あるいはエリア別に一律の低廉な事前購入割引運賃が新設されたこと,インターネット利用の割引運賃が新設されたこと等,多様な割引運賃が設定され,拡大している状況がみられる。このような特定便割引運賃等の設定の拡大は,一部設定されていない路線や便があること,また,提供する座席数に制限が設けられていたり利用できない期間があること等の制約はあるものの,利用者の運賃選択の幅を拡大させるものと考えられる。今後,一層の競争促進により,運賃選択の幅が更に拡大することが望まれる。
3 新規2社参入路線における競争の状況等
(1) 新規2社に対する発着枠配分の状況
ア スカイマークは,平成12年3月に羽田空港における発着枠が新たに3便配分されたことから,平成12年7月から,大阪―福岡路線及び大阪―札幌路線を廃止し,それまで両路線で運航していた航空機1機を東京―福岡路線に振り替え,東京―福岡路線を2機体制とし,運航便数を往復6便に倍増させている。
 また,エア・ドゥも,同じく平成12年3月に羽田空港における発着枠が新たに3便配分されたことから,平成12年7月から,新たに2号機を就航させ,東京―札幌路線の運航便数を往復6便に倍増させている。
イ 以上のとおり,羽田空港における新規2社の発着枠については,平成12年3月にそれぞれ6便に倍増しており,一定の改善が図られた状況にあると考えられる。今後とも,発着枠配分の際には,新規航空会社の競争基盤確保の観点も考慮されることが望まれる。
(2) 新規2社参入路線における運賃設定の状況
 ア 東京―福岡路線における運賃設定の状況(第25図参照)    平成10年9月に,スカイマークが東京―福岡路線に参入し,大手3社の普通運賃よりも大幅に割安な普通運賃を設定すると,平成11年3月以降,大手3社は,特定便割引運賃をスカイマークが運航している便(往復3便)に近接する便に集中して設定し,
第25図 書通運賃・主要な特定便割引運賃等の推移(東京―福岡・通常期)
(注)1 多客期,閑散期,夏休み期間,連休等を除く通常期の普通運賃,特定便割引運賃等であり,上記期間において一部設定されていない運賃又は異なる運賃(多客期の普通運賃等)があるが,これらは考慮していない。
2 H11.7以降については,大手3社の特定便割引運賃のうち,主に早朝,夜間の一部に設定されているものは除いた。
3 H11.9〜H12.6の期間については,設定便数の多い往復利用を条件とした特定便割引運賃を用いた。
                          出所:各社時刻表より作成

かつ,運賃水準をスカイマークの普通運賃と同一又は同程度とした。
 その後,スカイマークが平成12年7月に東京―福岡路線の便数を往復6便に倍増させ,その便間隔が狭まると,大手3社は,これと同時に,スカイマークの普通運賃と 同一又は同程度の水準で,特定便割引運賃を全便に設定した。
 スカイマークは,平成12年9月に新たな割引運賃(スカイバリュー)を設定し,その後,数回にわたりこれを改定している。大手3社は,平成12年12月以降,この割引運賃の改定の都度,その運賃水準に合わせて特定便割引運賃を改定している。
 これらの運賃改定の発表については,スカイマークが先行し,大手3社がこれに続いており,主な運賃改定の実施時期はほとんど一致している。
イ 東京―札幌路線における運賃設定の状況(第26図参照)
 平成10年12月に,エア・ドゥが東京―札幌路線に参入し,大手3社の普通運賃よりも大幅に割安な普通運賃を設定すると,平成11年3月以降,大手3社は,特定便割引運賃をエア・ドゥが運航している便(往復3便)に近接する便に集中して設定し,かつ,運賃水準をエア・ドゥの普通運賃と同一又は同程度とした。
 その後,エア・ドゥが平成12年7月に東京―札幌路線の便数を往復6便に倍増させ,その便間隔が狭まると,大手3社は,これと同時に,エア・ドゥの普通運賃と同一の水準で,特定便割引運賃を全便に設定した。
 エア・ドゥは,平成12年9月及び同13年2月に普通運賃を改定している。大手3
第26図 書通運賃・主要な特定便割引運賃等の推移(東京―札幌・通常期)
(注)1 多客期,閑散期,夏休み期間,連休等を除く通常期の普通運賃,特定便割引運賃等であり,上記期間において一部設定されていない運賃又は異なる運賃(多客期の普通運賃等)があるが,これらは考慮していない。
2 H11.7以降については,大手3社の特定便割引のうち,主に早朝,夜間の一部に設定されているものは除いた。
3 H11.9〜H12.6の期間については,設定便数の多い往復利用を条件とした特定便割引運賃を用いた。
                          出所:各社時刻表より作成

社は,この普通運賃の改定の都度,その運賃水準に合わせて特定便割引運賃を改定している。
 これらの運賃改定の発表については,エア・ドゥが先行し,大手3社がこれに続いており,主な運賃改定の実施時期は一致している。
(注)大手3社の特定便割引運賃については,夏休み期間,連休等の一部の期間において設定されていない場合がある。
ウ 大手3社は,平成11年3月以降,東京―福岡及び東京―札幌路線において,新規2社が運航している便に近接する便に集中して,新規2社の普通運賃と同一水準の特定便割引運賃を設定していたが,平成12年7月に新規2社が運航便数を倍増すると,新規2社の普通運賃等と同一水準の特定便割引運賃を全便に設定するようになった。これにより,現在では,特定便割引運賃等を広く利用できるようになっている。これらの路線におけるその後の運賃設定についても,新規2社が先行し,大手3社がこれに追随しているところであり,新規2社の参入が国内航空分野における競争に好影響を及ぼしているものと考えられる。
 なお,新規2社の運賃改定に追随して大手3社がおおむね同一時期に同一水準で特定便割引運賃を設定している状況については,直ちに独占禁止法上問題となるわけではないが,運賃改定等に当たっては,今後とも,各社が自主的な判断の下にその時期及び水準等を設定するとともに,相互の話合い等によりこれらが取り決められることのないよう留意する必要がある。また,他の事業者の事業活動を不当に排除することなどのないよう留意する必要がある。
(3) 空港施設利用の状況
ア ボーディング・ブリッジ及び固定スポットの状況
(ア)ボーディング・ブリッジ(旅客搭乗橋)は,空港ビルに接した場所に設けられた駐機スポット(固定スポット)に駐機した場合に利用できるものである。
 このボーディング・ブリッジを利用できない場合には,旅客はバスを利用して航空機へ搭乗することとなり,航空会社はバス利用のための人員配置の必要が生じる場合や搭乗手続の締切時間を早くせざるを得ない場合もある。
 旅客からのボーディング・ブリッジ利用の要望も強く,旅客の利便性や航空会社の効率的な人員配置等の観点から,ボーディング・ブリッジの利用を確保することは重要と考えられる。
a 羽田空港については,大手3社が,東京―福岡及び東京―札幌の便については,ほとんどの便がボーディング・ブリッジを利用できているのに対し,新規2社は,発着便ともボーディング・ブリッジを全く利用できない状況となっている。
 これは,混雑飛行場については,ボーディング・ブリッジ利用の公平性の確保や旅客利便性の確保のため,運航便数比や航空機の大きさ等を基準に固定スポットの利用が割り当てられているなどの事情により,現在のところ,新規2社が羽田空港の固定スポットを利用できないためである。
b 福岡空港及び新千歳空港については,大手3社が,東京―福岡便,東京―札幌便のほとんどの便がボーディング・ブリッジを利用できているのに対し,スカイマーク及びエア・ドゥのボーディング・ブリッジの利用はおおむね7割程度となっている。
(イ)なお,羽田空港については,平成15年度末に予定されている東旅客ターミナルビルの開設により,固定スポット及びボーディング・ブリッジを利用できる便数の割合は約9割となる見通しであり,これに合わせて,運用の効率性,航空会社間の公平の確保等を一層進める観点から,固定スポットの配分・配置等の見直しを進めることとされている。これにより新規2社に対しても,それぞれ一定の便数について固定スポットが配分される方向で検討されている。
イ 搭乗受付カウンター等の状況
(ア)これまで新規参入を想定した空港施設の利用が考えられてこなかった中,取扱旅客数が相対的に少ない新規2社は,搭乗受付カウンターの設置スペースの確保等について,不利な状況に置かれている面がみられたが,空港ビル運営主体等の対応により,次のように一定の改善がみられる。
a 新規2社は,羽田空港ターミナルビルにおいて,当初,自社専用の常設カウンターがなく,他社カウンターをタイムリースにより利用していたが,スカイマークは平成12年7月に、エア・ドゥは同年9月に,それぞれ,自社常設カウンターを設置。
b エア・ドゥは,新千歳空港ターミナルビルにおいて,従前,1階到着ロビーの他社カウンターをタイムリースにより利用していたが,平成13年3月に2階出発ロビーに常設カウンターを設置。また,スカイマークは.福岡空港ターミナルビルにおいて,当初,第2ターミナルビルの他社カウンターをタイムリースにより利用していたが,平成10年12月に,第1ターミナルビルに常設カウンターを設置。
(イ)ただし,新規2社の空港ビル施設の利用については,次のような状況を全体的に勘案すると,大手3社と比べて,空港ビル施設における旅客サービス面でなお不利な状況が生じており,更なる改善が望まれる。
a 羽田空港ターミナルビルに新たに設置された新規2社のカウンターは,当初から搭乗受付カウンターとして予定された場所ではないなどの事情により,カウンターに隣接した場所に手荷物搬送用のベルトコンベアがなく,手荷物については引き続き他社カウンターを利用せざるを得ない,あるいはスペースが手狭であるなどの状況にある。なお,エア・ドゥについては,新たに団体受付のためのカウンタースペースを設ける措置が講じられている。
b 新千歳空港ターミナルビルに新たに設置されたエア・ドゥのカウンターも,隣接した場所に手荷物搬送用のベルトコンベアがなく,手荷物は引き続き他社カウンターを利用せざるを得ず,また,福岡空港ターミナルビルのスカイマークのカウンターは,大手3社の東京便搭乗受付カウンターが第2ターミナルビルに集中しており,また,地下鉄出入口が第2ターミナルビルと比べて離れているなどの状況にある。
(ウ)なお,羽田空港については,平成15年度末に予定されている東旅客ターミナルビルの開設に合わせて搭乗受付カウンター等の配分・配置等の見直しを進めることとされている。これにより,新規2社に対しても,旅客利便や競争条件を一層確保するための見直しが行われる方向で検討されている。
ウ 固定スポット,搭乗受付カウンター等空港ビル施設については,今後とも,空港施設の改修・再配置等の機会をとらえて,より公正で透明な基準により航空会社が利用し得るよう努める必要があると考えられる。
(4) 機体整備等の業務委託契約の状況
ア 新規2社は,機体整備業務,航空機地上取扱業務,地上貨客取扱業務等について,それぞれ日本航空(株)(以下「JAL」という。)及び全日本空輸(株)(以下「ANA」という。)に対して,これらの業務を一定程度委託しているところであるが,一方で,コスト削減等のため,段階的に自営化に取り組んでいる。JAL及びANAは,このような自営化を妨げるような対応は採らず,また,特段の事情がない限りこれら業務の受託を継続するとしている。
イ JAL及びANAにおいては,今後とも,新規2社が機体整備等の自営化のための体制整備に必要不可欠と合理的に考えられる期間においては,合理的な取引条件の下で自社が提供することが可能な機体整備等の業務の受託を拒絶しないようにすることが望まれる。
4 おわりに
 当委員会としては,今後とも,国内航空分野における競争の状況について十分注視するとともに,独占禁止法違反行為が行われた場合には,厳正に対処することとしている。

第8 コンビニエンスストアにおける本部と加盟店との取引に関する実態調査

1 調査の趣旨・方法
 近年,我が国の小売業において,フランチャイズ・システムを活用したコンビニエンスストアが著しい成長を遂げていることに伴い,本部と加盟店間の取引に関して,独占禁止法上の問題の存在が指摘されているところから,(1)本部による加盟店募集における勧誘方法,(2)フランチャイズ契約締結後の本部と加盟店の取引について,独占禁止法上の問題について実態を把握することを目的として,本部及び加盟店を対象に調査を実施し,平成13年10月にその結果を公表した。
(調査方法・対象)

2 調査結果の概要
(1) 加盟希望者に対する本部の情報開示
ア 売上予測・経費予測
 売上げや経費等の収益に係る予測は,加盟希望者にとっては加盟の是非を判断する上で最も基本的で重要な情報の一つであると考えられる。
 本部が加盟希望者に対して,その誘引の手段として,売上げ及び経費について予測を提示する場合,その前提条件等が合理的でないために,提示する売上予測が実際よりも過大又は経費予測が過少となり,これにより加盟希望者に店舗の収益について実際よりも著しく優良又は有利と誤認させることは,独占禁止法上問題となるおそれがある(ぎまん的顧客誘引)。
 本部が売上げ及び経費について予測を提示する場合,加盟希望者に将来の収益等について誤認させることのないよう,以下の点に留意する必要がある。
○ 予測に用いるデータ,前提条件は合理的な根拠ある事実に基づくものであること。
○ 予測に用いた前提条件を加盟希望者に具体的に示すこと。例えば,経費予測を示すに当たっては,予想される人件費を算定する上で前提としている加盟店オーナーの勤務時間等について具体的な説明をすること。
イ システムの内容の開示
(ア)加盟希望者の加盟の判断に当たって,ロイヤルティの算定方法,オープンアカウント制,経営指導・支援,解約条項の4つの項目が重要であり,本部が加盟店の募集に当たり,その誘引の手段として,これらの重要な事項について十分な開示を行わず,これにより加盟希望者にシステムが実際よりも著しく優良又は有利と誤認させる場合には,独占禁止法上問題となるおそれがある(ぎまん的顧客誘引)
(イ)加盟希望者が適正な判断を行うためには,システムの内容の重要事項が,加盟希望者が加盟の意思決定を行うまでに十分開示されることが必要である。フランチャイズ・システムの内容について,「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」(以下「フランチャイズ・ガイドライン」という。),中小小売商業振興法の開示義務及び業界団体の自主開示基準を踏まえ,本部は「契約の要点の概説」を作成し,交付・説明している。
 「契約の要点の概説」における上記4項目については,(1)ロイヤルティの算定基準となる売上総利益の定義が記載されていない,(2)オープンアカウント制による自動融資の利率が記載されていない,(3)経常支援の内容が記載されていない,(4)違約金の課されない解約条件の記述が抽象的であることが多い。
 このような事項について,最近,一部の本部において改善が行われているところであるが,加盟希望者の判断を適正なものとするため,すべての本部において改善を行い,以下の事項について,その内容を一層充実させることが望まれる。
○ ロイヤルティの算定方法については,その算定基準となる売上総利益に廃棄ロスが含まれており,廃棄ロスが増えればロイヤルティが増大する仕組みとなっている場合には,その旨説明すること。
○ オープンアカウント制の仕組みを分かりやすく説明すること。特に自動融資の利率を示すこと。
○ 経営支援について説明する場合には,口頭だけでなく,開示資料に記載すること。
○ 中途解約に係る違約金が課されない場合について,その条件を具体的に示すこと。中途解約の条件が不明確である場合,加盟希望者の適正な判断が妨げられるだけでなく,加盟後においても,加盟店は違約金の負担をおそれるために解約が困難となるので,この観点からも中途解約の条件が明確化されていることが望まれる。
(ウ)加盟希望者においても,上記の重要事項について,説明が十分理解できないのであれば,理解できるまで説明を求める努力を払うことが必要と考えられる。
(エ)ロイヤルティの率について,他の本部の率と比較して,自らのシステムが有利であることを強調する事例が認められる。例えば,通常の本部のロイヤルティはシステム使用料,広告宣伝費を含むのに対し,自己の徴収するロイヤルティは,これらを含まず別途徴収するために低率となっているものであるにもかかわらずこのような比較をする場合には,加盟希望者は他の本部のシステム内容について正確に知り得る立場にはないので,加盟希望者に著しく優良又は有利との誤認を与える可能性が高く,独占禁止法上問題となるおそれがある(ぎまん的顧客誘引)。したがって,ロイヤルティの率について他本部の率と比較する場合は,比較対照するロイヤルティの内容の異同を示し,ロイヤルティ以外に加盟店が負担するべき金銭を含めた正確な比較を行うことに留意する必要がある。
(2) 契約後の本部と加盟店との取引
ア 商品仕入先等の推奨
 仕入商品・数量や店舗の清掃,工事の委託先等について本部が加盟店に推奨すること自体は,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,本部が加盟店に対して仕入商品・数量を示して,それに応じることを余儀なくさせ,このため当該商品が廃棄処分となる場合には,加盟店は,仕入原価を負担するとともに,廃棄ロスに応じロイヤルティ額が増加することとなり,返品が認められるか廃棄ロスの全部を本部が補てんしない限り,二重の負担を強いられることとなる。また,店舗の清掃,工事の委託先等について,合理的な理由もなく,本部推奨先以外と取引しないようにさせる場合には,良質廉価でサービス等を提供する事業者との取引が制限されることにより,加盟店に対して不当な不利益を与えることとなる。
 取引上優越した地位にある本部が,加盟店に対して,次のような行為を行うことは,加盟店に対して正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えることとなり,独占禁止法上問題となるおそれがある(優越的地位の濫用)。
○ 返品不可能な場合又は廃棄ロスを本部が負担しない場合に,加盟店に対して一定の廃棄ロス率を示し,それに見合った数量を仕入れることを余儀なくさせること。
○ 経営指導員が加盟店の了承を得ることなく,一方的に仕入商品・数量を発注すること。
○ 品質,規格等の基準を満たす商品について,合理的な理由もなく,本部推奨商品ではないことを理由に取り扱わないようにさせること。
○ 加盟店の清掃,内外装工事等の委託先について,本部が推奨する事業者とのみ取引させ,良質廉価でサービス等を提供する事業者と取引しないようにさせること(これについては,拘束条件付取引又は抱き合わせ販売等にも該当するおそれがある。)。
イ 販売価格の推奨
 本部による販売価格の推奨自体は,直ちに独占禁止法上問題となるものではないが,加盟店が市場の実情に応じて販売価格を設定しなければならない場合もあり,また,本部が加盟店に対して見切り商品等の値下げを制限し,加盟店が廃棄処分とすることを余儀なくされる場合には仕入原価とロイヤルティの増加額について二重に負担することとなる。したがって,取引上優越した地位にある本部が,加盟店に対して,見切り商品等の値下げを不当に制限することは,加盟店に対して正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えることとなり,独占禁止法上問題となるおそれがある(優越的地位の濫用。また,このような行為は,拘束条件付取引にも該当するおそれがある。)。
ウ 新規事業の導入
 新規事業の導入は,コンビニエンスストアの利用者の利便性を向上させ,店舗の集客力を高めること等が期待され,本部が加盟店に対して導入を要請すること自体は,直ちに独占禁止法上問題となるものではない。
 しかしながら,新規事業の導入について,本部が加盟店に対して一方的に押し付けたり,導入に伴い,不当な費用負担を求める場合には,加盟店に不当な不利益を与えるおそれがある。したがって,新規事業の導入に際しては,新規事業の導入によって生じる費用の負担や運営に伴う負担を加盟店に一方的に負わせることのないよう,本部は,導入の条件について加盟店との間で十分協議することが望ましい。
 取引上優越した地位にある本部が,加盟店に対して,以下のような行為を行うことは,加盟店に対して,正常な商慣習に照らして不当な不利益を与えることとなり,独占禁止法上問題となるおそれがある(優越的地位の濫用)。
○ 本部が,新規事業を導入しなければ不利益な取扱いをすること等を示唆することにより,加盟店に対して新規事業の導入を余儀なくさせること。
○ 本部が,加盟店に対して,加盟店が得られる利益の範囲を超える費用を要する新規事業の導入を一方的に要請し,新規事業の導入を余儀なくさせること。
○ 新規事業を導入した加盟店が,利益が上がらないことを理由として当該事業の停止を申し出たにもかかわらず,合理的な理由なく,加盟店からの申出を拒むこと。
3 当委員会の対応
 調査結果を踏まえて,本部に対して独占禁止法上の問題点を指摘し,開示資料・開示方法の改善及び独占禁止法遵守のための社内体制の整備を行うよう要請した。あわせて,社団法人日本フランチャイズチェーン協会に対して,本報告書の内容を傘下会員に周知徹底するよう要請した。

第9 介護保険適用サービス分野における競争状況に関する調査

1 調査の趣旨・調査方法
 介護分野については,行政がサービス内容を決定して自ら又は社会福祉法人等を通じて要介護者に提供するという措置制度からサービス提供者と利用者との契約制度に移行し,併せて居宅サービス分野についてサービス提供主体として民間事業者(営利法人。以下同じ。)の参入を認めること等を内容とする介護保険制度が創設され,平成12年4月から施行されている。
 介護分野における制度改革を踏まえ,当委員会は,社会的規制分野における事業者間の競争状況の実態把握の一環として,介護保険適用サービス分野のうち居宅サービス分野を選定し,独占禁止法及び競争政策の観点から実態調査を行い,調査結果を平成14年3月に公表した。
<調査方法・対象>
(注):都道府県国民健康保険団体連合会は,介護保険法において利用者からの苦情申し立てに基づき,事業者等に対する調査・指導・助言を行う苦情処理機関と位置付けられている。

2 介護保険制度と規制の概要
(1) 介護保険制度の概要
ア 介護保険サービスの概要
 介護保険サービスは,居宅サービスと施設サービスに大別される。居宅サービスには,自宅,有料老人ホーム等において受ける訪問介護,訪問入浴介護,訪問看護等のサービスがあり(有料老人ホーム等は,介護保険法上居宅サービスとなっている。),施設サービスには,介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム),介護老人保健施設等において受けるサービスがある。
 居宅サービスは,民間事業者の参入が認められているが,施設サービスについては,特別養護老人ホームの設置は地方公共団体又は社会福祉法人に,介護老人保健施設の設置は地方公共団体,医療法人,社会福祉法人等に限られるなど,所要の制約がある。
介護保険適用サービスの概要
○:民間事業者が参入できるサービス,×:民間事業者が参入できないサービス

イ 介護保険サービス利用のための手続
(ア)介護保険の利用のための要介護の認定
a 介護保険の被保険者(以下「利用者」という。)が介護保険の給付を受けるためには,市町村から要介護又は要支援(以下「要介護」という。)の認定を受ける必要がある。
b 認定の手続は,(1)利用者の申請,(2)市町村による認定のための訪問調査,(3)介護認定審査会の審査・判定,(4)市町村による要介護認定となっている。
c 介護保険制度においては,市町村は,原則として訪問調査を自ら行うこととされているが,居宅介護支援事業者等に委託することもできる。

介護サービス利用の流れ
※ 居宅介護支援事業者には,専業で行う事業者もあれば,居宅サービス事業や施設サービス事業を併せて行う事業者もある。

(イ)ケアプランの作成
 要介護の認定を受けた利用者は,要介護の状況に合った介護サービス計画(以下「ケアプラン」という。)を自ら作成するか,居宅介護支援事業者に依頼することができる。
(ウ)居宅サービスの利用
 利用者は,作成されたケアプランにより,要介護度に応じた支給限度額の範囲内で各種サービスを利用できる。
ウ 介護保険の運営と給付
(ア)介護保険の運営
 介護保険の保険者は市町村(特別区を含む。以下同じ。)となっており,都道府県,医療保険者及び年金保険者が重層的に支え合う構造となっている。
(イ)介護保険の給付
 介護保険の保険給付は,原則として,費用の9割が介護保険から支給され,1割が利用者の負担となっている。
3 調査結果の概要
(1) 居宅サービス事業分野への参入の動向
ア 民間事業者の参入の促進
 介護保険制度の創設(平成12年4月施行)により,民間事業者の居宅サービス分野への参入が認められたことに伴い,民間事業者の新規参入が活発に行われている。
居宅サービス事業への民間事業者の参入の状況
資料:平成12年厚生白書「主体別に見た居宅サービス指定件数」,厚生労働省資料「居宅サービス種類別指定件数の内訳」を基に作成。

 しかしながら,新規参入した民間事業者からみれば,社会福祉法人・医療法人の方が競争上有利であるとの回答が9割に達している。その理由としては,居宅サービスと施設サービスを組み合わせたサービスが提供できるためとするものが最も多くなっている。
イ 参入時における行政指導の状況
 居宅サービス分野に参入するためには,事業所ごとに都道府県知事の指定を受ける必要があるが,居宅サービス事業又は居宅介護支援事業の指定の申請に際し,「利用者を勧誘する広告活動を行わないように言われた」との回答が6.5%(189社)あった。
ウ 事業者団体への加入状況
 半数近くの居宅サービス事業者が何らかの事業者団体に加入している状況にあるが,事業者団体の加入に際して,「他事業者の利用者を自社に変更させる場合は,その事業者の了承を得た上で行うように言われた」との回答が3.0%(35社)あった。
(2) 利用者の獲得をめぐる競争
 居宅サービス事業者が利用者を獲得するに当たっては,医療法人等からの利用者情報の入手や市町村からの訪問調査や在宅介護支援センター業務の受託を通じた利用者情報の入手が効果的な手段となっている。他方,利用者獲得に当たって支障となることとしては,「措置制度時代に市町村から介護事業を受託していた事業者が利用者を継続的に獲得してしまう」とする回答が5割近くと最も多く,「在宅介護支援センター業務を社会福祉法人等が受託することにより利用者を獲得してしまう」(40.6%),「要介護認定に係る訪問調査を社会福祉法人等が受託することにより利用者を獲得してしまう」(36.7%)といった回答が続いており,市町村の業務の委託方法等が利用者獲得に影響を与えている状況がみられる。
(3) 訪問調査及び在宅介護支援センター業務の市町村からの委託状況
ア 訪問調査業務の委託
 訪問調査を市町村から受託している民間事業者は3割程度存在するが,訪問調査を受託している事業者によれば,受託の理由としては利用者獲得につながるためとする回答が6割以上を占めている。
イ 在宅介護支援センター業務の委託
 在宅介護支援センター業務を市町村から受託している民間事業者は一部にとどまっ ているが,受託している事業者によれば,受託の理由としては利用者獲得につながるためとする回答が6割以上を占めている。
(4) 利用者への情報提供
 ほとんどの民間事業者が,利用者に対し重要事項説明書及び契約書を交付している状況にある。他方,国保連に対して行った苦情や相談等についてのアンケート調査によれば,利用料・サービス内容の説明が不十分であるとの回答が約8割,契約時の説明と提供されるサービスが異なるとの回答が5割以上となっており,事業者のサービス内容等に関する利用者に対する説明が不十分であるという苦情等が少なからず存在することがうかがえる。
(5) 福祉用具(ベッド・車いす)のレンタル取引
 福祉用具であるベッド及び車いすについては,福祉用具貸与事業者(居宅サービス事業者の一形態)が,卸売業者から買取り又はレンタルにより仕入れ,利用者に再レンタルする形態が主となっている。福祉用具貸与事業者は,利用者向けレンタル料金については,自らの判断により自由な設定が可能となっているが,卸売業者等作成の利用者向けカタログ記載の希望レンタル料金どおりに設定している場合が多い。
 さらに,利用者向けレンタル料金設定において卸売業者から指示や示唆があるとする回答が2割程度あった。ただし,この点についてヒアリングで補足したところ,単にカタログ価格を参考にして利用者に提供してほしいと言われたものがほとんどであった。
福祉用具貸与における流通経路

4 競争政策上の考え方
(1) 多様なサービス提供主体間における公正な競争条件の確保
ア 介護分野における制度の在り方についての検討の必要性
 居宅サービス分野において事業展開を図っていく上で,施設サービスを併せて提供しているかどうかが競争に影響を与える側面もあると考えられることから,競争政策の観点からも介護サービス分野において多様なサービス提供主体間で公正な競争条件が確保されるよう制度の在り方について検討を行っていく必要がある。
イ 市町村の行政運営が利用者獲得をめぐる事業者間の競争に与える影響
 市町村からの要介護認定のための訪問調査等の受託が利用者情報入手の効果的な手段となっている状況において,市町村によっては,特定の事業者に優先的に委託等を行っていることが,利用者獲得をめぐる競争に影響を与えている状況がみられる。競争政策の観点からは,市町村において,訪問調査委託の基準等を明確にするとともに,委託に際し,特定の事業者を優遇しないようにすることが必要である。
(2) 居宅サービス分野における取引慣行
ア 事業者団体における利用者獲得等の制限行為
 居宅サービス分野において,事業者間の競争は利用者の獲得をめぐって行われるところ,「事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」(以下「事業者団体ガイドライン」という。)において明らかにしているように,事業者団体において,他の事業者の利用者を勧誘しない,獲得しない等の申し合わせを行うことは独占禁止法上問題となることから,団体の活動に当たっては,事業者団体ガイドラインに十分留意する必要がある。
イ 卸売業者等による福祉用具貸与事業者のレンタル料金に対する関与
 福祉用具貸与事業者は,自らの判断により自由な料金設定が可能となっているが,卸売業者等作成の利用者向けカタログ記載の希望レンタル料金どおりに設定している場合が多い。福祉用具貸与事業者が仕入価格等を踏まえ、自らの判断に基づきレンタル料金を設定することにより,レンタル料金をめぐる競争を促進していくことが重要であると考えられる。このため,関係団体に対して,少なくとも卸売業者等のカタログにおいては,希望レンタル料金といった非拘束的な用語を用いることが望ましい旨の指摘を行った。
(3) 利用者に対する積極的な情報提供の必要性
ア 広告等における表示と実際のサービスが異なる場合には不当表示として景品表示法上問題となるものであり,事業者が情報提供を行うに当たっては,適切な表示に努める必要がある。
イ 居宅サービス事業者にとっては訪問調査等の受託による利用者情報入手が利用者獲得の上で有効となっていること等から,利用者が複数の事業者のサービス内容を比較してサービスを選択することが可能となっていない状況にあると考えられる。このような状況を改善し,サービスをめぐる競争を促進していくためにも,居宅サービス事業者が積極的に自らのサービス内容について情報提供していくとともに,サービス内容を評価するサービス評価事業が有効に機能するような環境を整備していくことが重要であると考えられる。
5 今後の対応
(1) 調査結果によれば,居宅サービス分野の参入に際し,都道府県による競争制限的に機能するおそれのある行政指導が行われているとの回答が一部みられた。また,訪問調査の委託といった地方公共団体の行政運営が民間事業者の利用者獲得に少なからず影響を与えている状況がみられた。
 当委員会としては,競争政策の観点からは,(1)都道府県において,競争制限的に機能するおそれのある行政指導が行われないこと,(2)市町村において,訪問調査の委託に際して特定の事業者を有利に扱う等の運用が行われないことが重要であると考えていることから,都道府県への本調査結果の送付と併せて,地方公共団体においては,この点に留意した行政運営が望まれる旨要望した。
(2) 当委員会としては,事業者団体において他の事業者の利用者を勧誘したり獲得したりしない等の申合せを行うことにより取引先を制限する等の行為や卸売業者等が福祉用具貸与事業者の設定するベッド・車いすの利用者向けレンタル料金を拘束する行為等が認められた場合には,独占禁止法に基づき厳正に対処することとする。
(3) 利用者が事業者のサービスを選択するに当たっては,サービス内容等について十分な情報が開示され,必要な情報が適切に提供されることが不可欠である。当委員会としては,利用者の選択をゆがめるような事業者のサービス内容等についての虚偽・誇大な表示に対して景品表示法に基づき適切に対処していくこととする。
(4) 高齢化社会の進展に伴い,介護サービス市場は一層拡大していくことが予想されるところ,当委員会としては,必要に応じて,居宅サービス市場における事業者間の競争状況についてフォローしていくとともに,競争政策の観点から介護サービス分野における制度の在り方について,政府規制等と競争政策に関する研究会において,社会的規制分野における競争政策上の課題の一つとして,今後,検討していくこととする。