第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 概説

 平成14年度は,第156回国会に(1)公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律案,(2)合理的な根拠なく著しい優良性を示す不当表示の効果的な規制,都道府県知事による執行力の強化等を内容とする不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案及び(3)役務の委託に係る下請取引を下請法の対象として追加する等を内容とする下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案が提出され,それぞれ可決・成立した。また,大規模会社の株式保有総額の制限の廃止等を内容とする独占禁止法の一部を改正する法律(平成14年法律第47号)の施行に伴い,事業に関する報告書を提出しなければならない会社の範囲等を定めるための政令を定めた。
 また,競争政策の一層の強力な推進が政府の重要な課題になっていることを踏まえ,平成15年4月,(1)迅速かつ実効性のある法運用,(2)競争環境の積極的創造,(3)ルールある競争社会の推進を競争政策運営の3本柱とする「競争政策のグランド・デザイン」を公表し,より強力に競争政策を展開していくこととした。
 さらに,昭和52年の独占禁止法の大幅な強化改正後,我が国の経済・社会構造は大きく変化してきており,昭和52年に導入された制度についても今日の経済実態に適合したものか否かの見直しが求められているところである。かかる観点から,公正取引委員会は,独占禁止法について経済・社会構造の変化を踏まえた見直しを行ってきており,平成14年10月から,独占禁止法の措置体系全体の在り方について検討を行うため,独占禁止法研究会を開催している。

第2 競争政策のグランド・デザインの策定

 我が国の経済社会は,経済のグローバル化,情報通信技術革命(IT革命)等による環境変化の中で,経済の構造改革を進め,民間事業者による自由な活動と創意工夫を通じた競争力ある経済社会を実現するとともに,経済社会の全般にわたる規制改革により事前規制型行政から事後チェック型行政へと行政の在り方を転換することが大きな課題となっている。経済社会の構造転換は,自己責任原則と市場原理に立脚し,国際的にも開かれた公正で自由な経済社会を実現することを通じて達成されるべきであり,そのためには,市場における公正で自由な競争のルールの実現を目指す競争政策が果たすべき役割が極めて重要となっている。
 こうした認識の下,平成13年5月の第151回国会での小泉内閣総理大臣所信表明演説において,「市場の番人たる公正取引委員会の体制を強化し,21世紀にふさわしい競争政策を確立」する旨言及され,また,平成15年1月の第156回国会での小泉内閣総理大臣施政方針演説において,「公正取引委員会の体制を拡充するとともに4月から内閣府の外局とし,公正かつ自由な経済社会の鍵となる競争政策を強化します」とされる等,競争政策の重要性が指摘される中,公正取引委員会は,平成15年4月,「競争政策のグランド・デザイン」を公表して,競争政策の一層の強化を図っている。
 「競争政策のグランド・デザイン」は,当委員会が市場の番人としての機能を十全に発揮することができるよう,当面の競争政策の運営に当たっての大きな方向性を示すプランとして取りまとめられたものである。
 このグランド・デザインにおいて示されている目指すべき方向の概要は以下のとおりである。
(1) 迅速かつ実効性のある法運用
ア 独占禁止法違反行為に対する法運用の強化
イ 構造改革に対応した法運用
ウ 企業再編の増加に対応した企業結合審査の充実
(2) 競争環境の積極的な創造
ア 規制改革の推進
イ 公共入札に係る発注制度改善の推進
ウ 事業者が競争力を発揮しやすい競争環境の整備
(3) ルールある競争社会の推進
ア 市場参加者としての消費者に対する適正な情報提供の推進
イ 公正な取引慣行の促進
(4) これらの施策を遂行するための競争政策運営基盤の強化
ア 公正取引委員会の体制の強化
イ 競争政策に対する国民的理解の増進
ウ 国際協力の推進

第3 独占禁止法の改正

公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律による独占禁止法の改正
 公正取引委員会の位置付けについては,平成13年6月に閣議決定した「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」等において,「よりふさわしい体制に移行することを検討する」としていたところであるが,中央省庁等再編後の状況の変化等を踏まえ,内閣府設置法に基づいて当委員会を置くこととし,また,当委員会は内閣総理大臣の所轄に属するものとするとともに,これに伴う関係法律についての所要の規定の整備を行うことを内容とする当委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律が,平成15年4月2日に成立し,同月9日に公布された(平成15年法律第23号)。施行日は公布の日とされた(ただし,一部の規定については所定の日から施行。)。国会における審議状況及び同法の内容は,次のとおりである。
(1) 国会における審議状況
 公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律案は,平成15年1月31日に閣議決定が行われ,同日,第156回国会に提出された。同法案は,衆議院においては,平成15年3月18日に経済産業委員会に付託された後,同月26日に同委員会で,同月27日に本会議でそれぞれ可決され,参議院に送付された。参議院においては,衆議院本会議の可決日と同日(平成15年3月27日)に経済産業委員会に付託された後,同年4月1日に同委員会で,同月2日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
(2) 法律の内容
ア 独占禁止法の主な改正内容
(ア)  公正取引委員会について,国家行政組織法の規定に基づいて置くこととしているものを,内閣府設置法の規定に基づいて置くこととした。また,総務大臣の所轄から,内閣総理大臣の所轄に属することとした。(第27条)
(イ)  公正取引委員会事務総局に置かれる官房及び局の設置,所掌事務の範囲及び内部組織について,国家行政組織法の関係規定を準用していたものを,内閣府設置法の関係規定を準用することとした。(第35条)
イ 国家行政組織法の改正内容
 国家行政組織法に基づいて置かれる行政機関から公正取引委員会を削除した。(第3条別表第1)
ウ 内閣府設置法の主な改正内容
(ア)  内閣府の任務及び所掌事務に公正取引委員会に係るものをそれぞれ追加した。(第3条及び第4条)
(イ)  内閣府に置かれる委員会及び庁に公正取引委員会を追加した。(第64条)
エ 総務省設置法の主な改正内容
(ア)  総務省の任務及び所掌事務から公正取引委員会に係るものをそれぞれ削除した。(第3条及び第4条)
(イ)  総務省に置かれる外局から公正取引委員会を削除した。(第30条及び第31条)
オ その他
 その他の関係法律について,所要の改正をした。
商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律による独占禁止法の改正
 株式会社等の経営手段の多様化及び経営の合理化を図るため,委員会等設置会社の制度,重要財産委員会の制度,種類株主による取締役等の選解任の制度及び株券喪失登録制度を創設し、現物出資等における財産価格の証明制度を拡充するとともに,株主総会の特別決議の定足数を緩和する等の措置を講ずることを内容とする商法等の一部を改正する法律の施行に伴い,関係法律の規定の整備をするとともに,所要の経過措置を定める必要があるため,商法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備に関する法律案が第154回国会に提出された。同法案は業務執行を担当する執行役の創設を伴う独占禁止法の所要の改正(第2条第3項の定義規定に執行役を追加)を含むものであるところ,平成14年5月22日可決・成立した(平成14年法律第45号。平成14年5月29日公布,平成15年4月1日施行。ただし,一部の改正規定については平成14年7月1日施行。)。
証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律に伴う独占禁止法の改正
 内外の金融情勢の変化に即応し,諸外国の制度との調和を図りつつ,より安全で,効率性の高い証券決済制度等を構築していく必要性にかんがみ,社債,国債等について,券面を必要としない新たな振替制度の整備,より効率的な清算を可能とする清算機関制度の整備を行う等,決済の迅速化,確実化をはじめとする証券市場の整備のため,所要の措置を講ずる必要があることから,証券決済制度等の改革による証券市場の整備のための関係法律の整備等に関する法律案が第154回国会に提出された。同法案は振替社債等の供託手続の整備に伴う独占禁止法の所要の改正(第62条,第63条第1項及び第68条における有価証券に振替社債等が含まれる旨を追加)を含むものであるところ,平成14年6月5日可決・成立した(平成14年法律第65号。平成14年6月12日公布,平成15年1月6日施行。)。
行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律に伴う独占禁止法の改正
 行政機関等に係る申請,届出その他の手続等に関し,書面による手続等に加え,原則としてすべてオンラインによる手続等も可能とするための行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴い,既にオンラインによる手続等も可能としている法律と,行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律との適用関係を整理するとともに,オンラインにより手続を行う場合の手数料の納付の特例規定,オンライン化に伴う手続の簡素化の規定,歳入又は歳出の電子化のための所要の規定等を整備する必要があることから,行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案が第154回国会に提出された。同法案は行政手続の電子化に伴う独占禁止法の所要の改正(独占禁止法又は公正取引委員会規則の規定により書類の送達により処分通知等を行うこととしているものについては,処分通知等の相手方がオンラインによる送達を希望する場合を除き,書類の送達によらなければならないこと及び書類の送達を行った際に作成する送達報告書に代えて,電子ファイルに記録することを義務付けることを内容とする第69条の5の新設)を含むものであるところ,平成14年12月6日可決・成立した(平成14年法律第151号。平成14年12月13日公布,平成15年2月3日施行)。

第4 下請法の一部改正

 現行の下請法は,物品の製造及び修理における下請取引の公正化並びに下請事業者の利益の保護を図るため,下請代金の支払遅延等の親事業者の不当な行為を規制すること等を内容としているが,近年の経済のサービス化・ソフト化の進展に伴い,役務(サービス)に係る下請取引についても取引の公正化を図ることが重要な課題となっている。
 公正取引委員会は,このような認識の下で,平成14年9月以降,我が国の経済環境の変化に即応した優越的地位の濫用行為に対する規制の在り方について検討するため,企業取引研究会(座長 清成忠男 法政大学総長)を開催した。同研究会においては,主要な関係業界団体からのヒアリングを通じて把握した取引の実態や要望等も踏まえつつ,経済環境の変化に即応した優越的地位の濫用規制について下請法の規制・運用の在り方等を中心に検討を行った結果,同年11月に「企業取引研究会報告書」が取りまとめられ,役務に係る下請取引を対象に追加するなど下請法について所要の改正を行うべきこと等の提言がなされた。
 また,「規制改革の推進に関する第2次答申」(平成14年12月12日総合規制改革会議)において,「経済のソフト化・サービス化という環境変化を踏まえれば,役務の委託取引についても取引の公正化のための有効な枠組みを確立する必要性が高まりつつ」あり,「下請法の対象を一定の役務の委託取引に拡大」すべきであるとされた。
 これらを踏まえ検討・策定された,役務に係る下請取引を対象に追加すること等を内容とする改正法は,平成15年6月12日に成立し,同月18日に公布された(平成15年法律第87号)。施行日は,公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(ただし,罰則に係る改正規定は,公布の日から起算して30日を経過した日)とされた。国会における審議の状況及び同法の内容は次のとおりである。
1 国会における審議状況
 下請法改正法案は,平成15年3月11日に閣議決定が行われ,同日,第156回国会に提出された。同法案は,参議院先議で法案審議がなされ,参議院においては,5月20日に経済産業委員会で提案理由説明が行われた後,一部修正の上,同月27日に同委員会で,同月28日に本会議でそれぞれ可決され,衆議院に送付された。衆議院においては,5月30日に経済産業委員会で提案理由説明が行われた後,6月11日に同委員会で,同月12日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
2 法律の内容
(1) 対象となる下請取引の追加
 次の取引を下請法の対象として追加することとした。(改正法第2条)
 情報成果物(プログラム,放送番組等)の作成に係る下請取引
 役務(運送,ビルメンテナンス等)の提供に係る下請取引
 金型の製造に係る下請取引
(2) 書面の交付時期に係るただし書の追加
 製造委託等をした場合に親事業者が下請事業者に交付すべき書面について,当該書面に記載すべき事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては,その記載を要しないものとし,この場合には,親事業者は,当該事項の内容が定められた後直ちに,当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない旨のただし書を追加することとした。(改正法第3条)
(3) 親事業者の遵守事項の追加
 親事業者が行ってはならない行為として,次のものを追加することとした。(改正法第4条)
 下請事業者に対し,自己の指定する役務の利用を強制すること。
 金銭,労務等の経済上の利益を提供させることによって,下請事業者の利益を不当に害すること。
 下請事業者の給付を受領した後に給付をやり直させること等によって,下請事業者の利益を不当に害すること。
(4) 違反行為に対する措置の強化
 下請法に違反した親事業者に対して,原状回復措置に加えて,再発防止措置を講じることなど「その他必要な措置をとるべきこと」を勧告できるよう,関係規定を整備することとした。また,違反事業者に対する公正取引委員会の勧告を公表することができるようにするため,関係規定を整備することとした。(改正法第7条)
(5) 罰金の上限額の引上げ
 書面の交付義務違反及び書類等の作成・保存義務等違反に係る罪並びに検査忌避等に係る罪の罰金の上限額を50万円に引き上げることとした。(改正法第10条及び第11条)

第5 景品表示法の一部改正

 最近における商品又は役務の取引に関する表示をめぐる状況にかんがみ,公正な競争の確保による一般消費者の利益の一層の保護を図るため,合理的な根拠なく著しい優良性を示す不当表示の効果的な規制,都道府県知事による執行力の強化等を内容とする不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律は,平成15年5月16日に成立し,同月23日に公布された(平成15年法律第45号)。施行日は,公布の日から起算して1月を経過した日(第4条第2項関係の規定(合理的な根拠なく著しい優良性を示す効果的な規則を定めた規定)については,公布の日から起算して6月を経過した日)とされた。国会における審議状況及び同法の内容は,次のとおりである。
1 国会における審議状況
 前記景品表示法改正法案は,平成15年2月28日に閣議決定が行われ,同日,第156回国会に提出された。同法案は,衆議院においては,4月15日に経済産業委員会で提案理由説明が行われた後,同月23日に同委員会で,同月24日に本会議でそれぞれ可決され,参議院に送付された。参議院においては,5月13日に経済産業委員会で提案理由説明が行われた後,同月15日に同委員会で,同月16日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
2 法律の内容
(1) 商品又は役務の内容に関する合理的根拠のない表示の規制(改正法第4条)
 公正取引委員会は,第4条第1項第1号に違反する表示か否かを判断するために必要があると認めるときは,当該表示をした事業者に対し,期間を定めて,当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができることとし,この場合において,当該事業者が当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を提出しないときは,当該表示は同号に違反する表示とみなすこととした。
(2) 排除命令の告示手続の廃止及び送達規定の整備(改正法第6条)
 排除命令の告示手続を廃止し,これに代えて,排除命令は,公正取引委員会の認定した事実及びこれに対する法令の適用を記載した排除命令書の謄本を送達することにより行うこととした。
 また,排除命令書の謄本の送達について,独占禁止法第69条の3(書類の送達)等の規定を新たに準用することとした。
(3) 都道府県知事による指示に係る規定の見直し(改正法第9条の2)
 都道府県知事が指示することができる事項として,違反行為が再び行われることを防止するために必要な事項等を追加するとともに,指示は違反行為が既になくなっている場合においてもすることができることとした。
(4)  罰則
 都道府県知事による事業者等に対する報告徴収,立入検査等に関し,罰金の上限額を50万円に引き上げることとした。

第6 独占禁止法改正に伴う政令の制定・改正

公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令
 公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律の施行に伴い,行政機関職員定員令,行政機関職員定員令の一部を改正する政令,検察庁法施行令,内閣法制局設置法施行令,行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律施行令,行政機関の保有する情報の公開に関する法律施行令及び総務省組織令について,所要の規定の整備を行った(平成15年政令第201号。平成15年4月9日公布,同日施行。)。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律の施行期日を定める政令の制定
 大規模会社の株式保有総額の制限の廃止,事業支配力の過度集中規制の整備,金融会社の議決権保有制限の対象範囲の縮減等を内容とする平成14年独占禁止法改正法を平成14年11月28日から施行することとした(平成14年政令第304号。平成14年10月2日公布。)。
私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部改正
 平成14年独占禁止法改正法において,事業支配力が過度に集中することとなる持株会社の設立等を禁止していた第9条は,他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等を禁止するものに改められ,会社及び子会社の総資産の合計額が政令で定める金額を超える場合に当該会社及び子会社の事業に関する報告書等の提出が義務付けられたところ,報告書等提出の基準となる額を,(1)持株会社については6000億円,(2)銀行業,保険業又は証券業を営む会社(持株会社を除く。)については8兆円,(3)一般事業会社((1)及び(2)以外の会社)については2兆円とした(平成14年政令第305号。平成14年10月2日公布,平成14年11月28日施行。)。

第7 その他の所管法令の改正

公正取引委員会事務総局組織令の改正
 平成14年独占禁止法改正法による独占禁止法の改正に伴い,公正取引委員会事務総局経済取引局の所掌事務から承認の規定を削除すること,同局企業結合課の所掌事務の持株会社に係る規定を会社に係る規定に改めること,同課の所掌事務から株式の取得又は保有の認可及び承認の規定を削除すること等,独占禁止法施行令の一部を改正する政令(平成14年政令第305号)の附則により公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた。

第8 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成14年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
 電気事業法及びガス事業法の一部を改正する等の法律案
 経済産業省は,平成11年の制度改正時の3年後の見直し条項及び平成14年の第154回国会で制定されたエネルギー政策基本法を踏まえ,供給システム改革による安定供給の確保,環境への適合及びこれらの下での電力・ガスの供給に関する需要家選択肢の拡大を図るとの観点から,電気事業法及びガス事業法の一部改正を立案した。
 本法律案は,電気事業法関係では,(1)託送制度についての制度整備,(2)送配電部門に係る中立性,透明性向上のための制度整備,(3)送配電等業務支援機関の創設等を,ガス事業法関係では,(1)ガス導管事業の創設,(2)託送供給制度の拡充,(3)導管部門に係る中立性,透明性向上のための制度整備,(4)大口供給に係る規制の見直し,(5)卸供給に係る規制の撤廃等を内容とするものである。
 本法律案の企画・立案に当たっては,経済産業省の総合資源エネルギー調査会の電気事業分科会及び同調査会の都市熱エネルギー部会において検討がなされてきたが,公正取引委員会は,これらの会合にオブザーバーとして参加し,競争政策の観点から制度改革に対する公正取引委員会の考え方を述べるなど,公正かつ自由な競争を促進する観点から積極的に取り組んできたところであり(第5章第2 4(1)及び(2)参照),本法律案についても,電気事業分野及びガス事業分野において新親参入事業者と既存事業者との公正な競争条件を確保するとの観点から所要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第156回国会に提出され,平成15年6月11日可決・成立した。
 電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部を改正する法律案
 総務省は,「電話の時代」から「インターネットの時代」への急速な変化に対応し,電気通信事業者の多様な事業展開を促す等の観点から,電気通信事業法及び日本電信電話株式会社等に関する法律の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)第一種電気通信事業及び第二種電気通信事業の事業区分の廃止,(2)許可制から登録制・届出制への移行,(3)料金・契約約款の作成義務等の原則廃止,(4)事業者等から利用者へのサービス提供に係る重要事項の説明義務,苦情処理の義務等の利用者保護ルールの整備等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,これまでの電気通信市場の発展が競争を通じた技術革新と事業者による創意工夫の発揮によるところが大きく,公正かつ自由な競争の促進が,同市場の発展や国民経済の発達につながるとの基本的な考え方を踏まえ,独占禁止法の目的に基づく新規参入の促進や一般消費者の利益の確保を図るとの観点から,本法律案について所要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第156回国会に提出され,平成15年7月17日可決・成立した。
2 行政調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の問題を生じないよう,当該行政機関と調整を行うこととしている。
 平成14年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
 投資信託の申込手数料に係る行政調整
 投資信託会社は,投資信託を証券会社等の販売会社を通じて販売している。販売会社が顧客から徴収する申込手数料については,販売会社による割引等が可能であったが,投資信託会社が作成する目論見書に具体的な手数料の金額又は料率を記載することとされていることから,手数料が一律となっていたところ,金融庁は,手数料の引下げに資する一層の環境整備を図る観点から,平成14年4月,手数料の金額又は料率の上限のみを記載することができるよう,関係府令を改正した。
 一部の投資信託会社が投資信託の申込手数料率の引下げに係る販売会社からの申出を事実上拒否している疑いが認められたが,改正後においても,具体的な手数料の金額又は料率を記載することも可能であったことから,公正取引委員会は,金融庁に対し,具体的な手数料の金額又は料率を目論見書に記載する方法が,販売会社の弾力的な手数料の設定の妨げになっているおそれがある旨を指摘した。金融庁は,公正取引委員会の指摘を踏まえ,投資信託の申込手数料の目論見書への記載方法を金額又は料率の上限のみの記載に一本化するための関係府令の改正を検討することとし,改正までの暫定的な措置として,投資信託会社を会員とする団体に対し,目論見書への申込手数料の記載については,上限のみの記載に一本化することが望ましい旨を会員に周知するよう指導した。

 このほか,地方公共団体の公共入札における地元企業優先発注・地元産品優先使用に係る相談等について,独占禁止法及び競争政策の観点から所要の調整を行った。

第9 独占禁止法の措置体系及び独占・寡占規制の見直し

1 措置体系見直しの必要性
 独占禁止法は,昭和52年に大幅な強化改正が行われた後,四半世紀が過ぎているが,この間,我が国の経済・社会構造は大きく変化してきており,昭和52年に導入された制度についても今日の経済実態に適合したものか否かの見直しが求められているところである。かかる観点から,当委員会は,独占禁止法について経済・社会構造の変化を踏まえた見直しを行ってきており,平成13年2月以降,有識者からなる独占禁止法研究会(座長 宮澤健一 一橋大学名誉教授)を開催し,手続規定の在り方及び一般集中規制の在り方についての検討を行ったところである。今般,引き続き、当面の課題である独占禁止法の措置体系全体の在り方について検討を行うため,平成14年10月から同研究会を開催している。
 措置体系の見直しについては,平成15年3月に閣議決定された「規制改革推進3か年計画(再改定)」において,「厳正な独占禁止法の執行を図る観点から,現在の独占禁止法の措置体系及び公正取引委員会に付与されるべき権限の在り方についての一体的な検討を行い,また,これに伴い,公正取引委員会における審査機能・体制の見直し・強化を行う。」とされたほか,平成15年3月・4月の公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律案に対する衆議院・参議院経済産業委員会の附帯決議においても,「独占禁止法について,違反行為に対する措置体系の抜本的な見直しの検討を含め,その一層厳正な執行力の強化を図る」とされているところである。
2 独占禁止法研究会と措置体系見直し検討部会の開催
 現在,我が国においては,市場原理・自己責任原則に立脚した経済社会の実現のために構造改革を推進することが喫緊の課題となっており,そのためには,カルテル・入札談合等の独占禁止法違反行為に対する執行力・抑止力を十分なものとしていくことが必要である。こうした観点から,排除措置,課徴金,刑事告発等の独占禁止法の措置体系全体の在り方についての検討を行うため,有識者から成る独占禁止法研究会を開催するとともに,より専門的かつ集中的な検討を行うため,同研究会の下で措置体系見直し検討部会(座長 根岸哲 神戸大学大学院法学研究科教授)を開催している。
 主な検討事項は,以下のとおりである。
 実効性確保の観点からの課徴金制度の見直し
 措置減免制度導入の必要性・可能性
 調査権限の見直し
 なお,同研究会は,平成15年の秋ごろに,報告書を取りまとめ,公表することを予定している。
3 独占・寡占規制見直しの必要性
 平成15年3月に閣議決定された「規制改革推進3か年計画(再改定)」において,公益事業分野について,「公正取引委員会の競争監視機能は,……,その専門性,事案処理の迅速性等についての不満がネットワーク事業分野の新規参入者から出されている。……公正取引委員会の審査体制及び機能を強化し,独禁法違反被疑事実に関する処理の迅速化を図る。」とされるなど,近年,ボトルネック設備に起因する独占・寡占的市場構造を背景とした新規参入阻害行為に対して効果的に対処する必要性が指摘されている。
 一方,独占・寡占的市場構造に起因する問題への対応として,昭和52年の法改正により独占的状態に対する措置規定,同調的価格引上げに対する報告徴収・国会報告の規定の2制度が設けられているが,上記の問題に十分対応できるものとはいえず,また,制度導入後25年を経ており,この間の経済環境の変化に応じて検証する必要が生じてきているところである。
4 独占禁止法研究会と独占・寡占規制見直し検討部会の開催
 独占禁止法研究会は,独占・寡占規制見直しについても検討を行うこととし,より専門的かつ集中的に検討するため,独占・寡占規制見直し検討部会(座長 後藤晃 東京大学先端経済工学研究センター教授)を開催している。
 主な検討事項は,以下のとおりである。
 独占・寡占市場に対する独占禁止法上の現制の在り方
 独占的状態に対する措置規定及び同調的価格引上げに対する報告徴収の規定の過去25年間における運用状況の評価
 独占的状態に対する措置規定及び同調的価格引上げに対する報告徴収の規定の見直しの必要性・方向性
 なお,同研究会は,平成15年の秋ごろに、報告書を取りまとめ,公表することを予定している。