下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方法の規制の補完法として昭和31年に制定された。
下請法では,親事業者が下請事業者に物品の製造又は修理を委託する場合,親事業者に対し下請事業者への発注書面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,(1)委託した給付の受領拒否(第4条第1項第1号),(2)下請代金の支払遅延(同項第2号),(3)下請代金の減額(同項第3号),(4)返品(同項第4号),(5)買いたたき(同項第5号),(6)物品等の購入強制(同項第6号),(7)有償支給原材料等の対価の早期決済(同条第2項第1号),(8)割引困難な手形の交付(同項第2号)などの行為を行った場合には,公正取引委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定めている。 |
下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告が期待できないため,公正取引委員会では,中小企業庁の協力を得て,主として製造業を営む親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施することにより,違反行為の発見に努めている。
これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行為を取りやめさせるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じさせている(第1表,第2表,附属資料9―1表及び9―2表)。 1 書面調査
平成14年度においては,資本金3000万円以上の主として製造業者15,385社及び資本金1000万円超3000万円未満の製造業者2,000社の合計17,385社に対して書面調査を実施した。また,資本金3000万円以上の親事業者と取引している下請事業者99,481社を対象に書面調査を実施した(第1表)。
![]() 2 違反被疑事件の新規発生件数及び処理件数
![]() 3 違反行為の態様別件数
平成14年度において措置した下請法違反事件を違反行為等態様別にみると,手続規定違反(第3条又は第5条違反)が1,262件(違反行為態様別件数全体の59.1%)となっている。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付していないもの又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が1,127件(手続規定違反件数全体の89.3%),下請取引に関する書類と一定期間保存していないもの(第5条違反)が135件(同10.7%)となっている。
また,実体規定違反行為等(第4条違反)は,874件(違反行為態様別件数全体の40.9%)となっており,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が307件(実体規定違反件数全体の35.1%),手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難なおそれのある手形の交付(同条第2項第2号違反)が210件(同24.0%),下請代金の減額(同条第1項第3号違反)が137件(同15.7%)となっている(第3表)。 下請代金の支払遅延事件においては,平成14年度中に,親事業者16社により総額651万円の遅延利息が下請事業者327社に支払われており(第4表),減額事件においては,親事業者44社により総額2億2108万円が下請事業者362社に返還されている(第5表)。
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4 繊維卸売業者に対する特別調査について
5 勧告又は警告を行った違反事例
平成14年度に勧告又は警告を行った事件のうち,主なものは次のとおりである。
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公正取引委員会は,定期書面調査により親事業者から報告された結果を基に,昭和33年度以降,毎年,下請代金の支払状況等を取りまとめ,これを公表している。平成14年度における定期書面調査の対象となった親事業者の下請取引の概要及び下請代金の支払状況は,次のとおりである。
1 下請取引の実態
2 下請代金の支払状況等
下請代金のうち,現金で支払われる割合(以下「現金支払割合」という。)を親事業者の事業所ごとにみた場台の平均は62.4%である(附属資料9―4表)。
下請代金を手形により支払っている場合の手形期間(親事業者の各事業所が交付した手形のうち,最も期間が長い手形の手形期間について集計)をみると,以下のとおりである(附属資料9―4表)。
3 下請代金の支払状況の推移
下請代金の支払状況の推移をみると次のとおりであり,長期的には昭和40年代以降,徐々に改善されてきている。
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1 違反行為の未然防止及び再発防止の指導
下請法の運用に当たっては,違反行為が生じた場合,これを迅速かつ効果的に排除することはもとより必要であるが,違反行為を未然に防止することも肝要である。このような観点から,公正取引委員会は,以下のとおり各種の施策を実施し,違反行為の未然防止を図っている。
毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同して,新聞,雑誌,テレビ等で広報活動を行うほか,全国各地において下請法に関する講習会を開催するなど下請法の普及・啓発に努めている。
平成14年度は,親事業者を対象に37都道府県(うち公正取引委員会主催分19都府県〔19会場〕)において講習会を開催した(受講者は公正取引委員会主催分2,119名)。 また,公正取引委員会は,下請取引を適正化するためには,取引のもう一方の当事者である下請事業者にも下請法の趣旨内容を周知徹底する必要があることにかんがみ,下請事業者を対象とした下請法講習会を実施しており,平成14年度においては10道県(13会場)で開催した(受講者数628名)。
現下の下請事業者をめぐる厳しい情勢にかんがみれば,下請取引の適正化を強力に推進することが緊要となっている。特に,年末においては金融繁忙期であるため,下請事業者の資金繰り等について厳しさを増すことが懸念されていることから,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,買いたたき,割引困難な手形(長期手形)の交付等の行為が行われることのないよう,平成14年11月29日,資本金1億円以上の親事業者約9,000社及び事業者団体約400団体に対し,下請代金支払遅延等防止法の遵守の徹底等について,公正取引委員会委員長,経済産業大臣連名の文書等をもって要請した。
各業種における親事業者又は下請事業者の団体を下請法運用協力団体として登録(平成15年3月末現在98団体)し,これら協力団体に対し下請法についての説明会を開催したり,協力団体又は傘下の事業者が下請法遵守マニュアルの作成等を行う際に公正取引委員会が資料提供等の便宜を図ることで,下請法違反行為の未然防止に役立てている。
事業者等からの下請法に関する相談に応じるとともに,購買・外注担当者らに対する社内研修の実施及び購買・外注担当者向けの下請法に関する遵守マニュアルの作成を積極的に指導したほか,関係団体等の研修会に講師の派遣,資料の提供等を行い,下請法の普及・啓発を行った。
2 都道府県との相互協力体制
下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県との協力体制を採ることが必要であることから,昭和60年4月から下請取引適正化に関し,都道府県担当者との連絡会議を開催するなどして,下請法の普及・啓発等の業務について協力を得ている。
平成14年度においては,平成15年2月から3月にかけてブロック別都道府県下請取引担当官会議を開催した。 3 下請取引改善協力委員
下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降,公正取引委員会の業務に協力する民間有識者に下請取引改善協力委員を委嘱している。平成14年度における下請取引改善協力委員は101名である。
平成14年度においては,全国各ブロックにおいて,ブロック別下請取引改善協力委員会議をそれぞれ2回開催し,最近の下請取引の状況等について意見を交換した。 |
建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは,建設業法(昭和24年法律第100号)第42条又は第42条の2の規定に基づき,国土交通大臣,都道府県知事又は中小企業庁長官が公正取引委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができることとなっている。
なお,平成14年度においては,措置請求はなかった。 |
1 企業取引研究会の開催
公正取引委員会は,役務の委託取引の公正化等,経済環境の変化に即応した優越的地位の濫用規制について,下請法の在り方等を中心に検討することを目的として,平成14年9月以降5回にわたり「企業取引研究会」(座長 清成忠男 法政大学総長)を開催し,同年11月27日,「企業研究会報告書」を取りまとめた。公正取引委員会は,同報告書等を踏まえ,役務に係る下請取引を対象に追加する等を内容とする「下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案」を取りまとめた。同法案は平成15年3月11日,第156回国会に提出され,参議院において一部修正の上,平成15年6月12日に可決・成立し,同月18日に公布された。
2 企業取引研究会報告書の概要
下請法の対象となる取引は日常的に行われており,事業者が下請法の適用の有無を容易に判断できるようにすることが必要であり,また,迅速に違反行為を処理することが必要な下請法の役割を考慮すると,親事業者と下請事業者を画する基準は分かりやすく,安定的であることが求められるので,他に特段の明確な基準がない限り,役務の委託取引についても,現行の下請法の規定と同様に,資本金を基準として親事業者と下請事業者を画することが適当である。
役務の委託取引を下請法の適用対象とするに当たっては,支払期日の設定など現行の下請法の規制内容について役務の委託取引の実態をも踏まえたものとすることが適当である。
金型は,それ自体は親事業者の販売等の目的たる物品を物理的に構成するものではないが,部品等と同様に,当該物品の製造のために使用され,かつ,他の物品の製造のために使用することができない。このように当該物品との密接不可分な関連性があり,また,転用可能性もないことは,部品等と同様であるので,物品を構成する部品等の製造委託と同様に,金型の製造委託全般を下請法の対象とすることが適当である。
現行の親事業者の禁止行為に加えて,「役務の利用強制」,「金銭,役務等の経済上の利益の提供の強制」等の行為を規制対象とするよう,現行の規定を見直したり,規定を整備することが適当である。
下請法第4条違反行為に対する措置として,下請法違反行為の未然防止や再発防止の実効性を高めるために,違反事業者及び違反行為の内容等を公表できるようにすることが適当である。
書面の交付義務及び書類の作成・保存義務違反や検査妨害・虚偽報告等に対する罰金額の上限(3万円)について,違反行為に対する抑止力を向上させるため引き上げることが適当である。
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