第14章 消費者取引に関する業務

第1 概説

 近年,消費者ニーズの多様化,経済のサービス化・国際化など,消費者を取り巻く経済社会情勢は大きく変化してきており,また,規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっている。
このことから,公正取引委員会では,独占禁止法や景品表示法を厳正に運用し,違反事件の排除に努めるほか,消費者の関心の高い商品・サービスや電子商取引等の新しい分野における実態調査を行うこと等を通じて,景品表示法上の考え方を明らかにするためのガイドライン等の策定等を行い,公正かつ自由な競争を促進し,消費者取引の適正化に努めている。

第2 消費者取引の適正化への取組

1 食品表示の適正化への取組
 食肉を始めとする食品表示に対する消費者の不信感が高まっている状況を踏まえ,食品表示に対する一般消費者の信頼を回復するため,消費者が安心して商品を選択できるよう,食肉業界全体の表示の適正化を推進する観点から,次のような取組を行った。
(1)   食肉の表示に関する公正競争規約の見直し
 食肉業界全体の表示の適正化を推進する観点から,食肉の表示に関する公正競争規約について,次のような変更の認定を行った(平成14年10月認定)。
 規約対象者を食肉卸売業者等すべての食肉販売業者に拡大
 食肉小売業者のみを対象としていた食肉の表示に関する公正競争規約に,食肉卸売業者等すべての食肉販売業者が参加できるように,規約の対象事業者を拡大した。
 規約対象者の帳票類の整備
 全国食肉公正取引協議会等による会員の表示の監視・調査に資するため,販売業者に対して帳票類の整備・保管を義務付けた。
 違反調査の委嘱
 監視・調査体制を整備し,規約運営の透明性を確保するため,公正取引協議会以外の者に違反調査を委嘱することを可能とした。
 また,高知県食肉公正取引協議会が設立され(平成15年2月),これにより,47都道府県すべてに食肉公正取引協議会が設立された。
(2)   関係行政機関との連携
 都道府県における食品の不当表示への積極的な対応等を支援するため,食肉の不当表示に関する景品表示法上の考え方を示すとともに,違反事例の処理上の留意事項等について連絡会議を開催することを通じて,都道府県との連携体制の強化を図った。
2 価格表示ガイドラインの一部改定
 不当な価格表示については,「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(平成12年6月策定・公表。以下「価格表示ガイドライン」という。)において,景品表示法上の考え方が明らかにされているところ,新聞折り込みチラシを中心に,依然として価格表示上の問題があるとの指摘が,一般消費者や事業者などから多く寄せられており,その中には,価格表示ガイドライン上,考え方が必ずしも具体的に示されていないものも現れてきた。
 このため,公正取引委員会が行った下記の実態調査及び過去の違反事例を踏まえ,景品表示法上の考え方の明確化を図るため,事例の追加等を内容とする価格表示ガイドラインの一部改定を行い,公表した(平成14年12月)。
(1)   実態調査の概要
調査対象: 主として首都圏地区の家電量販店及び眼鏡販売店の新聞折り込みチラシ
調査期間: 平成14年5月〜9月
調査方法: 公正取引委員会の消費者モニターを通じた新聞折り込みチラシの収集(家電量販店1,460枚,眼鏡販売店728枚)及び関係事業者,事業者団体,消費者団体等からのヒアリング調査等
 他店よりも廉価での販売を保証するという,いわゆる「価格保証販売」表示
(ア)  価格保証販売の対象商品が限定されていること
 販売の実態
(a)  チラシにおける表示の実態
 収集した家電量販店のチラシを会社別に整理すると41社であり,このうち,14社の家電量販店が,例えば,「他店チラシ価格よりさらに〇〇%以上安くします」などと,他店チラシ価格よりも廉価での販売を保証する表示を行っていた。
(b)  実際の販売状況
 価格保証販売を行っている大手家電量販店A社のある店舗の販売状況をみると,競合店のチラシに掲載されていた商品(493品目)に対し,A社の店頭に展示されていた商品は,その半分の251品目であった。
 同社は最大20%の割引を行う旨の表示を行っていたが,店頭表示価格が競合店のチラシ表示価格より安くなっていないものが29品目あった。また,店頭表示価格から更に値引きする旨の表示を行っていたことから,表示上,実売価格が不明なため,競合店のチラシ表示価格と直ちに比較することができないものが187品目あった。
(イ)  価格保証販売に際し,不明瞭な条件の設定を行っていること
 チラシにおける表示の実態
 価格保証販売を行っている14社すべてのチラシにおいて,例えば,価格保証販売をする旨の広告記載の下に,「同一市内の競合店に限る,同一メーカー・型式に限る,不当廉売品を除く」などと,価格保証の対象となるための限定条件が記載されている。
 幅で表示される割引率やポイント還元率の表示
(ア)  販売の実態
 チラシにおける表示の実態
 家電量販店41社のうち,6社の家電量販店が,個々の商品ごとに割引率を表示せず,「更に安く 当社チラシ価格の☆マークの商品はx〜Y%OFF」のような幅で表示される割引率の表示を,また,5社の家電量販店が,個々の商品ごとにポイント還元率を表示せず,「ポイント還元! X・Y・Z%
※お支払い方法,お買い上げ商品に応じてポイント率が変わります。」のような幅で表示されるポイント還元率の表示を行っていた。
 実際の販売状況
 複数の家電量販店のチラシにおいて,チラシ上の商品のうち,割引対象となる商品の割合は3割から4割程度であるが,調査の結果,割引対象商品のうち最大割引率の対象となるのは,10パーセント弱から15パーセント弱程度であった。
 参考小売価格を比較対照価格とする価格表示
(ア)  販売の実態
 チラシにおける表示の実態
 収集した眼鏡販売店のチラシを会社別に整理すると,97社であり,このうち,65社が,例えば,「A社レンズ メ X円の品を80%OFF Y円 メはメーカー参考小売価格」などと,メーカー参考小売価格等を比較対照価格とする価格表示を行っていた。
 また,6社は,比較対照価格にメ等とのみ記載し,それがどのような内容の価格であるか記載していなかった。
 実際の販売状況
(a)  レンズの参考小売価格について
 国内レンズメーカー4社からヒアリングした結果,一部メーカーが高級品の一部についてのみ参考小売価格を設定しているが,ほとんどのレンズには,参考小売価格は設定されていない。ただし,小売店から問われれば,標準卸売価格などを基に,営業担当ベースで,口頭で答える場合もある(この場合の価格は,メーカーの標準卸売価格の3倍程度となっている場合が多いといわれている。)としている。
(b)  フレームの参考小売価格について
 眼鏡のフレームは,レンズメーカーが一部高級ブランド品を生産しているが,大半は,中小の専業メーカーが生産している。
 国内メーカーのうち,2社は,参考小売価格を設定していないが,1社は,参考小売価格を記号化し,カタログに掲載している。
 中小の専業メーカーは,大手限鏡販売店や大手メーカーから製造委託を受けている場合が多く,全生産量に占める自社ブランドの割合は少ない。ヒアリングを行った中小専業メーカー2社によれば,両社とも,自社ブランド品について参考小売価格を設定していない。
(c)  セット参考小売価格について
 一部の眼鏡販売店の折り込みチラシにおいては,フレームにレンズを付け加えたものについて,「セット参考小売価格」と称する比較対照価格を用いた二重価格表示が行われている。
 レンズとフレームの両方を製造販売している国内の大手メーカーには,フレームにあらかじめレンズを付けた眼鏡一式の商品を取り扱っているものと眼鏡一式の商品をそもそも取り扱っていないものがあるが,いずれにしても,自社のレンズとフレームを組み合わせた形でのセット参考小売価格を設定していない。
 眼鏡販売における「レンズ付き(レンズ無料)」との表示について
(ア)  チラシにおける表示の実態
 眼鏡販売店97社のうち,40社が「レンズがついて X円」などとレンズ付きの表示を,4社が「フレームお買い上げで,レンズ無料 レンズは一流メーカーハードマルチコート」などとレンズ無料の表示を行っていた。
(イ)  おとり広告との関係
 チラシ広告に掲載されている無料レンズ付きの眼鏡を購入するつもりで来店した消費者に対して,(1)広告商品に関する難点を殊更指摘する場合,(2)消費者が広告商品以外の商品を購入する意思がないと表明したにもかかわらず,広告商品とは別の有料レンズを購入するよう重ねて推奨する場合等には,取引の申出に係る商品について合理的な理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われたものとして,無料レンズ等を掲載したチラシ広告の表示は,おとり広告(平成5年 公正取引委員会告示第17号)に該当するおそれがある。
(ウ)  「レンズ無料」との表示について
 眼鏡の販売に当たっては,フレームを購入すれば「レンズ付き」との表示のほか,「レンズ無料」との表示もみられる。
 通常の眼鏡販売に係る事業活動においては,「レンズ無料」表示があっても,消費者が支払うフレームの価格の中に,当該レンズ価格の全部又は一部が上乗せされているものと考えられ,一般消費者に対する適正な価格表示を行う観点からは,「レンズ無料」表示は望ましくない。
(2)   価格表示ガイドラインの一部改定の主なポイント
 不当表示に該当するおそれがあるものとして,例えば以下のような表示について,考え方等を具体的に示している。
 参考小売価格等を比較対照価格とする価格表示
 製造業者等がカタログ等により広く呈示しているとはいえない価格を,小売業者が参考小売価格等と称して比較対照価格に用いる場合
 幅で表示される割引率等の表示
 個々の商品ごとに割引率等を表示せず,最大割引率等を強調した一定の幅の割引率等の表示を行うことにより,あたかも多くの商品について最大割引率等が適用されるかのように表示しているが,最大割引率等が適用される商品が一部に限定されている場合
 他店よりも廉価での販売を保証するという,いわゆる「価格保証販売」表示
(ア)  価格保証販売に際しての不明瞭な条件設定
 価格保証の内容や対象についての限定条件を明示せず,価格の有利性を殊更強調する表示を行う場合
(イ)  価格保証販売の対象商品が限定されていること等
 他店価格よりも安い価格設定をしているかのような表示について,他店と価格比較できる対象商品が限定されている,又は他店よりも価格が安く設定されていない商品がある場合

第3 消費者向け電子商取引への対応

  「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」の策定・公表(平成14年6月)
 消費者向け電子商取引(以下「BtoC取引」という。)について,これまで実施してきた定期的・集中的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)の調査結果,最近のBtoC取引をめぐる環境の変化,インターネットに関する苦情・相談の傾向等を踏まえ,BtoC取引の健全な発展と消費者取引の適正化を図るとの観点から,BtoC取引における表示について景品表示法上の問題点を整理し,具体的な問題事例を例示するとともに,事業者に求められる表示上の留意事項を取りまとめ,公表した。
 概要は以下のとおりである。
(1)   インターネットを利用して行われる商品・サービスの取引における表示
 商品・サービスの内容又は取引条件に係る表示について
(ア)  商品・サービスの効能・効果を標ぼうする場合には,十分な根拠なく効能・効果があるかのように一般消費者に誤認される表示を行ってはならない。
(イ)  販売価格,送料,返品の可否・条件等の取引条件については,その具体的内容を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
 表示方法について
(ア)  ハイパーリンクの文字列について
 消費者がクリックする必要性を認識できるようにするため,リンク先に何が表示されているのかが明確に分かる具体的な表現を用いる必要がある。
 消費者が見落とさないようにするため,文字の大きさ,配色などに配慮し,明瞭に表示する必要がある。
 消費者が見落とさないようにするため,関連情報の近くに配置する必要がある。
(イ)  情報の更新日について
 表示内容を変更した都度,最新の更新時点及び変更箇所を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
(2)   インターネット情報提供サービスの取引における表示
 インターネット情報提供サービスの利用料金が掛かる場合には,有料である旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
 毎月料金を徴収するなどの長期契約である場合には,その旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
 ソフトウェアを利用する上で必要なOSの種類,CPUの種類,メモリの容量,ハードディスクの容量等の動作環境について,正確かつ明瞭に表示する必要がある。
(3)   インターネット接続サービスの取引における表示
 ブロードバンド通信の通信速度については,通信設備の状況や他回線からの干渉等によっては速度が低下する場合がある旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
 サービス提供開始時期について,回線の接続工事等の遅れにより表示された時期までにサービスの提供を開始することができないおそれがある場合には,その旨を正確かつ明瞭に表示する必要がある。
 サービス料金の比較表示に当たっては,社会通念上同時期・同等の接続サービスとして認識されているものと比較して行う必要がある。
2 電子商取引監視調査システムの運用
 インターネットを利用した広告表示については,集中的な監視調査(インターネット・サーフ・デイ)を従来から実施してきているところであるが,平成14年8月から「電子商取引監視調査システム」の運用を開始し,常時監視の体制を構築した。
 電子商取引監視調査システムとは,一般消費者等に,「電子商取引調査員」(平成14年度においては50名に委嘱,以下「調査員」という。)としてインターネット上の広告表示の調査を委託し,インターネット上の問題ある表示についての情報等を報告してもらい,景品表示法違反事件の端緒,景品表示法の遵守について啓発するメールの送信,電子商取引における問題点の把握等に利用するものである。
 電子商取引監視調査システムを通じ,平成14年8月から平成14年度末までに722件のインターネット上の広告表示について,調査員から問題となるおそれがあるとの報告があった。
  「消費者向け電子商取引における表示の監視状況等について」の公表(平成15年1月)
 電子商取引監視調査システムを通じて,平成14年8月から同12月までに調査員から報告のあった508件のインターネット上の広告表示について,「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(以下「留意事項」という。)に照らして行った監視状況等について取りまとめ,公表した。
概要は以下のとおりである。
(1)   常時監視の状況について
 平成14年8月から12月までに,調査員から報告のあったインターネット上の広告表示は237件であった。このうち効能・効果を標ぼうする表示が109件と,全体の46.0%を占めており,以下,「返品条件に不満」等の取引条件の表示(57件),販売価格の表示(46件)などとなっている。
 調査員から報告のあった効能・効果を標ぼうする表示109件のうち,食料品及び保健衛生品(美容品,美容器具等)が合計で82件と,効能・効果を標ぼうする表示の75.2%を占めている。特に,調査員から報告のあった食料品87件のうち61件がダイエット食品を中心とした健康食品であり,また,保健衛生品51件のうち34件が痩身効果等健康に役立つ旨を強調する商品であるなど,痩身効果や健康に役立つ旨を標ぼうする表示に関する報告が多くなっている。
(2)   取引条件等に関する留意事項の遵守状況調査
 調査員からの報告がこれまで比較的少なかった取引条件等についてのインターネット上の広告表示について,留意事項を踏まえた対応がなされているかを把握するため,平成14年10月,調査員に対し,取引条件等に関し,留意事項に照らして問題があると思われる表示について報告を求めたところ,271サイトの報告があった。
 このうち,留意事項に照らし,問題となる表示が認められたサイトが92サイトあった(第1表参照)。これを,表示内容別にみると,最も多いのが更新日の不表示(77サイト)であり,以下,取引条件表示の不備(16サイト),根拠の不明確な二重価格表示等の不明瞭な価格表示(10サイト)などとなっている。

第1表   留意事項に照らし,問題となる表示が認められたサイト

(注)  1サイトにおいて問題となる表示が複数認められたものがあるため,サイト数の合計と問題項目別のサイト数の合計は一致しない。

(3)   啓発メールの送信
 前記ア及びイのとおり点検を行ったところ,計108サイトについて,留意事項に照らし,問題となる表示が認められたことから,これらのサイトの管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信した。

第4 消費者モニター制度

  概要
 消費者モニター制度は,独占禁止法や景品表示法の施行その他公正取引委員会の消費者保護の諸施策の的確な運用に資するため,公正取引委員会の依頼する特定の事項の調査,違反被疑事実の報告,消費者としての体験,見聞等の報告その他公正取引委員会の業務に協力を求めるもので,昭和39年度から実施されている。
 平成14度は,関東甲信越地区315名,北海道地区60名,東北地区90名,中部地区115名,近畿地区170名,中国地区76名,四国地区50名,九州地区106名,沖縄地区18名,合計1,000名を消費者モニターに選定し委嘱した。平成14年度の消費者モニターの応募総数は12,122名,応募倍率は約12.1倍であった。
 平成14年度においては,5回のアンケート調査のほか,食品の表示及びテレビショッピング番組の表示に関して,消費者モニターから意見聴取等を行った。また,メガネ及び家庭電気製品の価格表示,マイナスイオン表示及び有料老人ホームの表示について,その実態を把握するため,消費者モニターを介して広告物の収集を行った。さらに,随時,独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の報告,意見等を求めたほか,表示検査会・試買検査会への代表者の参加により,一般消費者としての意見を求めた。
  活動状況
(1)   アンケート調査等
 平成14年度におけるアンケート調査等の概要は,次のとおりである。
 新聞業における景品類の提供等に関するアンケート調査
 新聞業における景品類の提供等に関する実態を把握するため,アンケート調査を行った。
 効能・効果を強調表示する商品広告に関するアンケート調査
 効能・効果表示に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
 ブランド力と競争政策に関するアンケート調査
 ブランド力に関する消費者の意識を把握するため,アンケート調査を行った。
 テレビショッピング番組の視聴調査
 テレビショッピング番組の構成及び表示内容の問題点を把握するため,消費者モニターに対し,テレビショッピング番組の表示に関する問題点等について意識調査等を行った。
(2)   広告物の収集
 広告表示の実態を把握するため,次の表示に関する広告物の収集を行った。
 メガネの価格表示に関する広告物の収集
 家庭電気製品の価格表示に関する広告物の収集
 マイナスイオン表示に関する広告物の収集
 有料老人ホームの表示に関する広告物の収集
(3)   自由通信
 消費者モニターは,上記アンケート調査のほか,自由通信という形で,随時,公正取引委員会に対し,自由に意見及び情報を提供している。これは,(1)独占禁止法及び景品表示法の違反被疑事実の通報,(2)景品表示法に基づいて設定された公正競争規約の遵守状況等についての情報提供,(3)その他一般的な意見の提供等を行うものであり,平成14年度は合計3,968件の自由通信が寄せられた(第2表)。
(4)   各種会合等への参加
 公正取引委員会は,景品表示法の運用に当たり,消費者団体との懇談会,試買検査会等に消費者モニターの出席を求め,一般消費者の立場からの意見を求めている。
 平成14年度は,各地区における消費者団体との懇談会,食肉等の産地表示に関する情報交換会,試買検査会(第3表)に消費者モニターが出席した。

第2表   消費者モニター通信状況


第3表   試買検査会開催状況

第5 消費者取引問題報告書

  消費者取引問題研究会の開催
 公正取引委員会は,消費者が商品・サービスの適正な選択を行える意思決定環境を創出・確保していくことの必要性が一層高まっていることを踏まえ,競争政策の観点から公正取引委員会が消費者取引において取り組むべき問題について検討するため,平成13年11月以降9回にわたり「消費者取引問題研究会」(座長 落合誠一 東京大学大学院教授)を開催し,平成14年11月,同研究会が取りまとめた報告書を公表した。公正取引委員会は,同報告書等を踏まえ,合理的な根拠なく著しい優良性を示す不当表示の効果的な規制等を内容とする「不当景品類及び不当表示防止法の一部を改正する法律案」を取りまとめた。同法案は平成15年2月28日,第156回国会に提出され,平成15年5月16日に可決・成立し,同月23日に公布された。
  消費者取引問題報告書の概要
(1)   公正取引委員会による消費者政策
 最近の消費者問題の現状と消費者政策の積極的推進の必要性
 消費者と事業者との間の情報・交渉力の格差を背景とした消費者トラブルの増加,さらには,虚偽表示の頻発と表示に対する消費者の信頼の崩壊など消費者トラブルを巡る現状は,極めて深刻な状況にある。このため,消費者政策として,行政は,消費者支援の観点から,消費者に必要な情報を迅速かつ積極的に提供するとともに,市場ルールに反する事業者に対しては厳正に対処する等,消費者が適正な選択を行える意思決定環境を整備していくことが求められている。
 競争政策と消費者政策の一体的取組
 公正かつ自由な競争を促進する競争政策と,消費者が適正な選択を行える意思決定環境を創出・確保する消費者政策とは,消費者利益の確保という点において共通の目的を有しているばかりか,消費者政策の推進が市場メカニズムをより有効に機能させるという点で,両者は相互に密接に関連している。よって,公正取引委員会は,競争政策と一体のものとして,消費者が適正な選択を行える意思決定環境の創出・確保を図るための消費者政策を積極的に推進する必要がある。
(2)   表示への信頼回復に向けた景品表示法の一層の活用
 表示に対する消費者の信頼を回復し,表示が本来持つ役割を取り戻すためには,景品表示法の一層の運用強化及び執行力・抑止力の強化等のための法整備を通じ,不当表示規制を,より実効性の高いものにしなければならない。
 実体規定の強化
(ア)  実質的な根拠なしに機能,効果,性質等を強調する表示の禁止
 商品・サービスの機能,効果,性質等の優良性を強調する表示は,消費者が当該表示には裏付けがあるものと信じることにより強い顧客誘引効果を有する。一方,現行の景品表示法では,実際に販売されている商品又はサービスに表示どおりの機能,効果,性能等がないことを公正取引委員会が立証する必要があるが,そのような立証には長時間を要する場合があり,迅速に不当表示規制を行うことが困難な場合が多い。したがって,表示内容を裏付ける実証データ等の実質的な根拠なしに商品・サービスの機能,効果,性質等の優良性を強調する表示を不当表示として禁止することができるよう,速やかに新たな制度を導入すべきである。
(イ)  一般消費者の判断に影響を与える重要事項の不表示の禁止
 これまで公正取引委員会は,単にデメリット情報が開示されていないだけでは「表示」に該当しないことから規制せず,誤認の原因となり得る何らかの積極的な表示があって初めて不当表示として規制してきたと考えられる。しかし,誤認の原因となり得る積極的な表示が無かったとしても,消費者の判断に影響を与えるデメリット事項が積極的に情報提供されることの必要性は何ら変わるものではないことから,消費者の主体的・合理的な意思決定を妨げる不表示を是正し,事業者から消費者への十分な情報提供を実現する観点から,誤認の原因となり得る何らかの積極的な表示の有無に関わらず消費者の購入の判断に影響を与えるデメリット事項の不表示を規制する仕組みを導入すべきである。
 この場合,どのようなデメリット事項を表示すべきかについて事業者に明確に示すことができる方法を採ることが必要であることから,公正取引委員会が不当表示となる具体的要件を指定できる景品表示法第4条第3項の枠組みを活用することが適当である。
 公正取引委員会による執行力の強化
(ア)  排除命令により命じる事項の拡充
 これまで公正取引委員会が,排除命令により命じている事項は,訂正広告命令,不作為命令,将来の広告の提出命令,訂正広告についての報告が一般的であるが,誤認の排除及び違反行為の再発防止の効果を高め,排除措置を一層実効性のあるものとするため,事案に応じて柔軟に,例えば流通過程にある商品の速やかな回収,一定期間の販売停止,購入者への通知,法令遵守体制の整備,実証データ等の一定期間の保管等の必要かつ適切な措置を命じることを検討すべきである。
(イ)  手続規定の整備
 排除命令の告示を行うに当たっては,実務上,告示を行うための手続に期間を要していること,排除命令に当たっては違反行為者自身による訂正広告や公正取引委員会による新聞発表及びホームページへの掲載により広く一般への周知が図られていることから,違反行為を迅速に排除するためには,排除命令の告示手続を廃止することが適当である。
 都道府県知事による執行力の強化
(ア)  指示権限の拡大
 都道府県知事による指示事項は「違反行為を取りやめること」及び「関連する公示(訂正広告)をすること」に限定されており,公正取引委員会が行う排除命令と比べて狭いものになっている。また,都道府県知事は,既往の違反行為については指示を行うことができない。したがって,不当表示の排除を徹底し,一般消費者への情報提供を図る観点から,都道府県知事の指示事項について公正取引委員会が排除命令において命じる事項と同等の範囲のものとなるよう,また,既往の違反行為に対して指示ができるよう,速やかに制度を整備すべきである。
(イ)  調査妨害に対する罰則強化
  都道府県知事による景品表示法の厳正かつ適正な執行を確保するため,都道府県の職員が行う立入検査の妨害等に対する罰則を現行の「3万円以下の罰金」から適切な水準に,速やかに引き上げるべきである。
 景品表示法違反行為に対する抑止力の強化
 景品表示法では,排除命令に従わない者に対しては2年以下の懲役又は300万円以下の罰金が科せられることになっているが,不当表示を行ったこと自体に対して直接罰則を科す規定はない。しかし,不当表示の発生を抑止して消費者利益を保護する観点からは,不当表示に対する罰則の導入を検討すべきである。
 また,不当表示に対する抑止力を強化するため,排除命令違反を行った法人に対する罰則を,現行の300万円以下の罰金から適切な水準に引き上げることを検討すべきである。
 公正競争規約の一層の活用
 業界自らが状況の変化に応じた規約の内容とするよう前向きに取り組むとともに,公正取引委員会も消費者取引に関する実態調査の結果等に基づき,公正競争規約の変更や設定を業界に積極的に働きかけることにより,新しい問題に公正競争規約で対応できるようにするべきである。
 また,公正取引協議会の中には,消費者からの苦情相談を行っているものもあり,これらの実績に基づき,消費者利益を侵害する行為にかかる裁判外の紛争解決手段(ADR)の担い手として積極的な役割を担うことが期待される。
(3)   消費者の適正な選択をゆがめる行為の規制
 公正取引委員会の消費者政策は,これまで景品表示法の運用を通じた表示の適正化が中心であったが,公正取引委員会には,今後,表示規制の枠を超えて消費者の適正な選択をゆがめる行為を積極的に規制していくことが求められている。
 ぎまん的勧誘行為
 消費者取引の勧誘過程で,消費者が当該取引をするか否かについての判断に影響を与える事項について,事実と異なることを告げる等により,消費者を誤認させ,商品・サービスを購入させようとする行為(ぎまん的勧誘行為)は,消費者の主体的・合理的な意思決定を妨げるものであり,消費者被害を未然に防止し,又はその拡大を防止するためには,まず,迅速処理が可能な現行の景品表示法を活用して対応していくことが当面の課題であり,ぎまん的勧誘行為を効果的に規制するための調査手法及び立証方法を開発していくことが必要である。
 また,ぎまん的勧誘行為は,立証上の問題や現行法上の規制対象範囲の制約があり,ぎまん的勧誘行為をより効果的に規制していくためには,新たな法的枠組みを導入することが必要であると考えられるが,どのような方法が効果的であるかを含め,規制の対象,規制基準,違反行為の抑止措置等について,引き続き検討していくことが適当である。
 一方的不利益行為
 事業者が消費者に対し,その情報・交渉力の格差に乗じて,消費者の利益を不当に害する契約条項を定めたり,取引開始後に消費者に一方的に不利益となるように契約内容を変更する行為(一方的不利益行為)を行った場合には,消費者はこれを受け入れざるを得ない状況に置かれ,取引主体である消費者の意思決定が形骸化しかねない。
したがって,消費者に対する一方的不利益行為については,まず,契約締結過程において消費者に誤認される表示が行われないよう,景品表示法を積極的に適用していくべきである。
 しかし,消費者に誤認される表示が行われていない場合には,現行の景品表示法では対応できない。消費者取引への独占禁止法の一般指定第14項(優越的地位の濫用)の適用については異なった見解があるが,消費者に対して一方的不利益行為を行う事業者は,価格・品質による競争とは別の要因によって不当に有利な地位を獲得して,消費者に適切にサービス等を提供する事業者に比し,競争上不当に優位に立つこととなるという考え方に立てば,消費者に対する一方的不利益行為について,独占禁止法の一般指定第14項を適用する余地があり,適切な事案に対しては,同項を適用していくことが考えられる。また,一方的不利益行為に有効に対応するためには,独占禁止法第2条第9項第5号(取引上の地位の不当利用)の規定を根拠として特殊指定を定めたり,特別法を立案することなど,新たな法的枠組みを設けることも適当であると考えられるが,検討すべき事項は多く,更に議論を深め,考え方を整理する必要がある。
 困惑行為
 威迫,不退去,監禁等の強引な勧誘により,消費者を困惑させ,契約を締結させようとする行為(困惑行為)については,公正取引委員会の現行の調査権限で十分に対応することが可能か,また,実効性のある排除措置が採れるかという執行面での問題があることから,公正取引委員会がどのような措置を採り得るかについては,引き続き検討していくことが適当である。
(4)   民事的救済手段の強化
 景品表示法違反行為による私人の被害に関する救済手段を充実させ,併せて同法違反行為に対する抑止効果を上げるという観点から,差止請求制度及び損害賠償請求制度が有効かつ適切に機能し,活発に利用されるための方策について検討する必要がある。
 差止請求制度の拡充
 景品表示法は独占禁止法の不公正な取引方法の一類型である不当な顧客誘引について,独占禁止法の特例法として規制しているものであり,景品表示法違反行為についても,独占禁止法第24条に基づく差止請求の対象とするよう,所要の整備を行うべきである。
 また,一般に,消費者が不当表示について差止請求訴訟の原告として訴訟を提起することは期待できないが,消費者取引における不当表示は,広範な消費者に影響を及ぼし,多数の被害者が短期間に発生する可能性があることから,行政的な執行と併せて,消費者を誤認させる不当表示の排除を徹底するため,いわゆる団体訴権を代替的な手段として導入することが望ましく,具体的に検討していくことが適当である。
 損害賠償請求制度の活用
 景品表示法違反行為については,違反行為による被害が多数に及ぶものの個々の被害額が少額であることから,個々の消費者が,独自に独占禁止法第25条の規定に基づき,損害賠償請求訴訟を提起することには,おのずから限界が伴う。このような少額多数被害に関する訴訟提起の困難を解消するため,諸外国においては,通常の民事訴訟とは異なる特別の団体訴権等の導入が進められてきている。
 損害賠償請求制度を活用する観点からは,訴えの利益や当事者適格の問題,訴権を付与する適格団体の要件等の解決すべき問題は残っているが,消費者団体に対して訴訟の提起・追行を認める団体訴権等の新たな法制度を導入することについて検討していくことが望まれる。
(5)   公正取引委員会の調査・提言機能の強化及び関係機関との連携強化
 消費者取引に係る調査・提言機能の強化
 公正取引委員会は,これまで,様々な分野において実態調査を実施し,景品表示法上の問題点を業界に指摘することにより,特定の業界における消費者取引の適正化の実現を図ってきているところであるが,今後ともこのような取組を積極的に行い,景品表示法第4条第3号に基づく不当な表示の指定等をはじめとした公正取引委員会の消費者政策の企画・立案に積極的に反映させていくべきである。
 また,公正取引委員会は,これまで,競争政策の観点から規制改革等を提言してきているが,今後,消費者政策の観点からも,実態調査等を通じて他省庁が行う施策の問題点を把握した場合には,積極的に政策提言を行っていくべきである。
 他の行政機関等との連携強化
 現在,我が国の消費者政策は,内閣府が消費者政策全体の総合調整機能を担い,各行政機関がそれぞれの権限や機能に応じた役割を担っており,公正取引委員会も,競争政策の観点から業種横断的に消費者政策を推進している。しかし,最近の食品の虚偽表示では,虚偽表示を行った事業者に対して複数の行政機関がそれぞれ法執行を行うなど,関係行政機関の連携が必ずしも十分ではない点が指摘されている。そこで,消費者問題に対して各行政機関が効率的かつ迅速な対応ができるよう,情報収集・法執行の両面で各機関が連携を強化すべきである。
 公正取引委員会については,消費者政策全体の企画・立案を行っている内閣府国民生活局,個別業種を所管する行政機関及び高い情報収集機能を有する国民生活センターとの連携を密にすることが有効である。
 消費者との連携強化
 公正取引委員会は,消費者問題の実情に合わせて適切に対処していくため,消費者や消費者団体から提供される情報を一層活用していくとともに,消費者が商品選択の知識やノウハウを身に付け,消費者トラブルを未然防止する観点から,消費者に対して適切に情報提供を図っていくことが求められる。
 国際協力の強化
 多国間にわたる消費者の適正な選択をゆがめる行為に対して効果的かつ効率的に対処し,消費者被害を防ぐためには,諸外国の消費者政策を担当する機関と緊密な連携を図ることが必要であり,公正取引委員会は,今後とも,OECD・CCP(消費者政策委員会)やIMSN(国際的市場監視ネットワーク)などの多国間協力の枠組みへ積極的に参画し,加盟国の関係機関との連携強化を図っていくことが重要である。また,消費者政策分野における2か国間協力の枠組みの構築についても検討すべきである。