第2 入札談合の防止への取組

1 発注機関との連絡・協力について
 公正取引委員会は,従来から積極的に入札談合の摘発に努めているほか,平成6年7月に「公共的な入札に係る事業者及び事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針」を公表し,入札に係るどのような行為が独占禁止法上問題となるかについて具体例を挙げながら明らかにすることによって,入札談合防止の徹底を図っている。
 また,入札談合の未然防止を徹底するためには,発注者側の取組が極めて重要であるとの観点から,独占禁止法違反の可能性のある行為に関し,発注官庁等から公正取引委員会に対し情報が円滑に提供されるよう,各発注官庁等において,公共入札に関する当委員会との連絡担当官として各省庁の会計課長等が指名されている。
 公正取引委員会は,連絡担当官との連絡・協力体制を一層緊密なものとするため,平成5年度以降,「公共入札に関する公正取引委員会との連絡担当官会議」を開催しており,平成14年度においては,国の本省庁等の連絡担当官会議を9月30日に開催するとともに,国の地方支分部局等の連絡担当官会議を全国9か所で開催した。
 また,公正取引委員会は,平成6年度以降,中央官庁又は地方公共団体が実施する調達担当者等に対する研修会の講師の派遣及び資料の提供等の協力を行うとともに,公団・事業団等の調達担当者に対する研修会を開催している。平成14年度においては,7月に成立した入札談合等関与行為防止法の周知の必要性を踏まえ,関係省庁とも連携して同法を解説したリーフレット等を作成・配布するとともに,従来,原則として隔年度で実施されてきた地方公共団体の研修会を,全国47都道府県において,各都道府県・同下市町村の職員に対して行い,また,これまで東京,大阪の2か所において開催していた公団・事業団等の調達担当者に対する研修会を全国9か所において開催した。
入札談合防止に向けた国・地方公共団体における入札・契約制度改革の取組について
 公正取引委員会は,今後の入札談合の未然防止策に関する企画・立案に資することを目的として,平成13年秋から平成14年春にかけて,特に公共工事の入札・契約を対象として,独自の取組を行っている地方公共団体を中心に,施策の導入背景・問題意識,施策の内容,施策の実施状況・評価などについてヒアリング調査を行い,その結果を中心に,国及び地方公共団体の入札・契約制度改革の状況及び入札・契約制度改革に対する考え方について報告書をまとめ,これを平成14年6月27日に公表した。概要は以下のとおり。
(1) 地方公共団体の入札・契約制度改革に係るヒアリング調査
ア 調査の目的・対象
 入札談合未然防止策の企画・立案に資することを目的としている。
 対象公共団体:横須賀市,鎌倉市,座間市,埼玉県,宇都宮市,大阪府,和歌山市,岡崎市,岐阜県,福岡市,佐賀市,宮城県,山形市(ヒアリング実施順)
イ ヒアリング結果概要
(ア)  事業者が談合を容易に行い得ない入札方法への改善
 指名競争入札の見直し等
 一般競争入札の対象範囲の拡大,指名方法の見直しが進展している。
 入札談合防止に対する直接的な効果を狙った施策として,抽選による指名業者の決定等を行う団体もある。
 「1期工事をA社に発注,2期工事以降を他社に発注するのは実際上難しいが,随意契約にすることもできず,難しい問題。」との指摘もあった。
 電子入札
 横須賀市を除き検討段階(国土交通省のスケジュールを踏まえ検討)である。
 中小零細企業の対応を不安視している。「電子入札に伴い,入札制度全体を競争性向上の方向に見直すことができることに注目すべき。」との意見があった。
 地域優先発注
 概ね地域要件を賦課しているが,「30社以上の入札参加が期待できる場合に地域要件を課す」等その緩和を図る団体もある。
 他方,「地域振興について議会からの強い突き上げがある。」,「他の団体が地域要件を維持する状況下で,自分達だけが要件を緩和しても,他の団体が得をするだけ。」との意見もあり,その緩和は容易でない。
(イ)  情報の公表
 予定価格の事前公表
 予定価格の事前公表は,職員が入札談合事件に巻き込まれることを防止する観点から実施団体が拡大している。しかし,事前公表後落札率が上昇したため,事後公表に切り替えた団体もある(鎌倉市)。
 実施団体からは,「設計内容をみれば予定価格はある程度推測できるため,秘密にする意味がない。」「予定価格と落札価格の乖離状況を一般市民の目に触れやすくすることで談合防止にも効果があるのではないか。」との意見があった。
 未実施団体では落札率の高止まりを懸念。実施団体からも,「予定価格の事前公表は予定価格漏洩事件の再発防止を重視しているためであり,入札談合防止の観点からは逆効果であろう。」との意見があった。
 指名業者の事前公表
 指名業者の事前公表も増加傾向にある。しかし入札談合を惹起するとの懸念から事後公表に切り替えた団体もある(山形市)。
(ウ)  入札談合を行った事業者に対するペナルティの明確化
 損害賠償予定条項等の契約書への明記
 ヒアリング対象団体のほとんどで実施又は検討が進んでいる。
 損害賠償額の算定は,契約額に10%〜20%の比率を乗じて算出している。
 10%としている団体は,概ね他の団体や判例の動向で判断している。20%としている団体は,10%程度では抑止効果は弱いとの考え方による。
 指名停止期間の延長等
 ヒアリング団体のうち9団体が期間の延長を実施ないし予定している。
 地方自治法施行令の規定に基づき,入札資格の取消しに及ぶ団体もある(宮城県)。
(エ)  談合情報に対する対応強化・違法行為の防止に向けた体制整備
 談合情報に対する対応強化
 信憑性のある談合情報については発注機関で入札の中止等発注者独自の対応を検討している。信憑性の判断は概ね事業者からの事情聴取を行っている。
 公正取引委員会の事件調査の障害となり得るとの指摘については,マスコミ対応や,公取委ですべての事案を対応してもらえないことを理由として必要性を訴える回答がある。
 違法行為の防止に向けた体制整備
 入札監視委員会等の第三者機関の設立が進む。
 いわゆる「官製談合」の問題について,実際にそのような不祥事が生じた団体を中心に,独自に懲戒処分・損害賠償請求の方針を公表している団体(大阪府),職員向けリーフレットの作成等による周知徹底を図る団体(宮城県)もある。
(オ)  低入札価格調査制度・最低制限価格制度
 低入札価格調査制度の場合,調査価格以下の入札であっても疎漏工事の問題がなければ基本的に契約可能としている。最低制限価格制度と比較し価格競争が生じやすい傾向にある。
 「低入札価格調査制度は,事業者間の価格競争が激しくなる傾向にあり,過当競争防止の観点から中堅未満の事業者には適用しづらい。」との意見があった。
(カ)  公正取引委員会に対する要望
 入札談合の未然防止に対する取組に係る要望として「入札制度の設計について法的に検証してもらいたいこともあるので,競争環境を整備する上での相談窓口を設けていただけると有り難い。」等の要望があった。
 談合情報の取扱いに係る要望として「通報した情報のその後の取扱いについて情報を公開してほしい。」との要望が多く,その理由として「事業者は公正取引委員会に通報したかどうか信用しておらず,その後の取扱いが明らかにされなければ牽制にならない。」,「当方で明らかな談合と判断した事件について,公正取引委員会の判断が異なるのかどうか確認したい。」等の要望があった。
(2) 入札・契約制度改革に対する考え方
ア 基本的考え方
 入札・契約事務の適正化の観点から,競争入札本来の趣旨である競争性確保の徹底,秘密情報管理の徹底,不正行為への厳正対処等本来講じるべき措置を進めることは,入札談合防止の観点から発注機関に求められている責務である。
 入札談合防止の観点から確保されるべき基本的な要素は次のとおり。
十分な入札参加者の確保,入札参加者の固定化の防止による競争性の確保
秘密情報管理の徹底,公開する場合にはデメリットにつき別途対策
(発注者としての)ペナルティの明確化
単独の方策ではなく,複数の方策を組み合わせることによる対応
 発注機関における入札談合に対する厳しい姿勢を示すことが重要である。また,入札・契約に係る制度の硬直性が問題との指摘もある。
イ 主な個別事項に対する考え方
(ア) 指名競争入札の見直し(いわゆる「抽選入札」を含む)
 一般原則たる一般競争入札の拡大が望ましい。検査体制の充実,IT化の推進等により一般競争入札への移行を積極的に図ることが望ましい。
 指名競争入札においては,競争性の確保に十分な指名業者数の確保,指名手続の恣意性の排除が必要である。公募型指名競争入札等を活用し,指名に当たって受注意欲を有する広範な事業者の入札参加を求めることが望まれる。
 入札における抽選の活用は,入札談合防止に一定の効果はあるが,事業者の入札意欲の減退等マイナス面も指摘され,事業者の談合体質が強い地域など入札談合防止が強く要請される地域や時期に活用されるべきものである。
(イ)  電子入札
 電子入札の導入により入札制度の競争性・透明性の向上に結び付ける制度改善が併行して行われれば,入札談合未然防止の観点からも望ましい。
(ウ)  地域優先発注
 地域優先発注の政策的必要性を一概に否定はできないが,競争入札により発注を行う以上,当該入札の競争性を失わしめるような形での地域要件の賦課は入札談合を誘発助長するおそれが強い。このため,地域要件については,入札参加業者の固定化防止や十分な入札参加者数の確保に配意しつつ柔軟に運用する必要がある。
(エ)  予定価格・指名業者の事前公表
 予定価格の事前公表については,「談合が一層容易に行われる可能性がある」との指摘があり,一部地方公共団体で落札率の高止まりを理由として事後公表に切り替えていることを踏まえれば,入札談合防止の観点からは必ずしも好ましいものとはいい難い。
 予定価格の事前公表を行う場合には,落札価格の推移等により入札談合が生じていないか注視するとともに,入札における競争性の確保をより厳格にし,事業者が談合を行いにくい環境を整備することが一層求められよう。
 指名業者の事前公表についても,事前に入札参加業者が分かることにより入札談合を一層容易にする可能性は否定できず,競争性の確保をより厳格に行うことが必要となろう。
(オ)  損害賠償予定条項
 損害賠償予定条項は,入札談合の抑止に関して相当の効果がある。
 損害額の水準の考え方については,判例の動向等を踏まえ10%程度とする団体が多いが,他方それでは抑止効果が働かないとする見解もあり,現在のところ必ずしもまとまっておらず,今後の検討課題であろう。
(カ)  談合情報への発注機関独自の対応
 発注者側の責任から入札の中止等独自の対応を進める必要性が認められる場合もある。
発注機関で調査を行う必要がある場合には,形式的な事情聴取になりがちであるので,事情聴取をする以上は事実関係につき可能な限り詳細な調査を行うことが望まれる。
(キ)  低入札価格調査制度・最低制限価格制度
 発注機関において,入札の競争性を向上させた場合,いわゆる「過当競争」が生じダンピングや疎漏工事が多発するのではないかという懸念が強い。
 入札の競争性を十分確保した上で,低入札価格調査制度や最低制限価格制度をその制度の趣旨に基づき運用することは,公正な競争促進の観点からも望ましいが,競争制限的にならないよう留意すべきである。
(3) 今後の公正取引委員会の取組
ア 入札談合未然防止に向けた発注機関と連携した取組の強化
 従来の研修活動や談合情報への対応のみならず,入札・契約制度改革や,いわゆる「官製談合」防止についても,公正取引委員会と発注機関の連携関係を強化し,相互の意見交換を通じて効果的な入札談合の未然防止に取り組む方針である。
 
イ 談合情報への対応の充実
 発注機関から公正取引委員会に通報される談合情報は,例えば単に新聞記事情報を通報したにとどまるなど直ちに調査を開始することが困難な場合が多く,その結果発注機関から通報された情報を端緒として措置に至る案件は極めて少数にとどまっている状況にある。
 このため,談合情報について幅広い関連情報の提供に係る協力や,公正取引委員会の行う審査の妨げとならないような形での談合情報への対応を要請してきたが,例えばパンフレットの作成等周知活動を一層強化する方向で今後具体策を検討する。
 また,公正取引委員会においても,発注機関との日常的な情報交換を密にすること等により関連情報の収集に努め,発注機関からの情報提供を端緒とする事件の増加に努める方針である。