第4章 審判及び訴訟

第1 審判

 平成14年度における審判件数は,平成13年度から引き継いだもの61件,平成14年度中に審判開始決定を行ったもの30件の合計91件(うち,67件は手続を併合。下表(注)参照。)であり,平成14年度中に,8件(うち,審判審決1件,課徴金納付を命ずる審決7件)について審決を行った(本章第2,第3参照)。平成14年度末現在において審判手続係属中の事件は,下表の83件である。

係属中の審判事件一覧


(注)  一連番号4〜9事件,11〜16事件,21〜54事件,57〜77事件は手続を併合している。

第2 審判審決

平成13年(判)第9号岡崎管工株式会社に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が岡崎管工株式会社(以下「岡崎管工」という。)に対し,独占禁止法第48条第2項の規定に基づき勧告を行ったところ,岡崎管工がこれを応諾しなかったので,岡崎管工に対し同法第49条第1項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,岡崎管工が異議の申立てをするとともに,独占禁止法第53条の2の2の規定に基づき公正取引委員会に対し直接陳述の申出を行ったので,公正取引委員会は,平成14年6月10日に岡崎管工から陳述聴取を行い,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った(なお,本件については,平成14年8月21日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成14年度末現在,東京高等裁判所に係属中である[本章第4参照]。)。
(3) 認定した事実の概要及び判断の概要
ア 事実の概要
 広島市及び安芸郡府中町の区域において管工事業を営む被審人は,他の28社と共同して,遅くとも平成8年7月1日以降(有限会社幸田建設工業にあっては平成11年7月29日ころ以降),広島市水道局が指名競争入札又は指名見積り合わせの方法により発注する上水道本管工事(推進工法を用いる工事及び海底に配水管を設置する工事を除く。以下「広島市水道局発注の特定上水道本管工事」という。)について,受注価格の低落防止等を図るため,受注予定者を定め,受注予定者以外の者は,受注予定者がその定めた価格で受注できるように協力する旨の合意の下に,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにしていた。
イ 主要な争点
(ア)  被審人が本件合意から離脱した時期はいつか。
(イ)  本件審判開姶決定の手続は適法か否か。
 本件審判開始決定は,独占禁止法第49条第1項に定める同法第48条第2項に規定する場合,すなわち「……第3条……に違反する行為が既になくなつていると認める場合において,特に必要があると認めるとき……」の要件を充足しているか。
 本件審判手続を開始したことは,平成12年(査)第3号水産庁等が発注する石油製品の入札参加業者らに対する件(以下「水産庁事件」という。)において,受注調整から途中離脱した2事業者に対し,違反行為が排除されたことを確保するために必要な措置(以下「排除措置」という。)を採らせるための手続を採らなかったことと対比して,公平性を欠くか。
ウ 主要な争点に対する判断
(ア)  被審人が本件合意から離脱した時期はいつか。
 被審人は,平成12年3月17日に今後は受注調整に加わらないことの表明ともとれる発言をしたこと,同月末日ころまでに作成,配付されたと推認される受注調整の話合いの連絡役の順番を記載した外線当番表(平成12年4月から6月分)に被審人の名前が掲載されていないことを総合すれば,被審人は,平成12年3月末ころ,本件合意から離脱したものと認められる。
 被審人は,平成12年3月6日入札の物件について受注予定者の受注に協力をしており,離脱時期を平成12年2月28日とする主張は理由がない。
 審査官は被審人の離脱時期を平成12年4月6日と主張するが,同日入札の3物件はいずれも他の相指名業者が落札しており,被審人が本件合意から離脱したことを他の相指名業者が認識したことを示す徴表としては不十分であることに加え,受注予定者の決定は入札日よりも相当以前に行われていることからすると,前記3物件の入札の事実をもって,被審人の本件合意からの離脱を示す決め手とするには不十分である。
(イ)  本件審判開始決定の手続は適法か否か。
a 「特に必要があると認めるとき」との要件充足性
 既往の違反行為について審判手続を開始するための要件とされている「特に必要があると認めるとき」とは,違反行為は終了しているが,違反行為による競争制限の効果が残存している場合,あるいはいったん終了した違反行為が再び行われるおそれがある場合など,市場における競争が十分に回復していないと認められる場合であると解されるところ,本件違反行為に先立つ相当以前から,多数の管工事業者間で長期間にわたり,受注調整が恒常的に行われてきたものであり,被審人も,長期間にわたって,これに参加してきたこと,また,被審人は,過去において,独占禁止法上の問題点に気付いて,いったん,受注調整から離脱したが,短期間でこれに復帰しており,本件のような入札談合から恒久的に離脱することはかなりの困難を伴うものであること,さらに,被審人が,平成12年3月末ころ本件合意から離脱したのは,特定物件の受注調整を巡るトラブルをきっかけとするものであり,被審人の営業担当者が,離脱に際して,個別には受注調整を行っていくことを示唆する発言をしたことを総合すれば,被審人が,今後,再び同様の受注調整を行うおそれがあり,排除措置を採らせることが特に必要であると認められる。
b 排除措置手続の公平性
 既往の違反行為について,審判手続を開始するか否かは,公正取引委員会の高度に専門技術的な知見による裁量にゆだねられている。そして,既往の違反行為について,審判手続を開始するための要件に該当する事実が客観的に認められる場合には,当該違反行為についてされた審判開始決定は,原則として,法の枠内での裁量により行われたものと評価することができ,本件審判開始決定は,この要件を満たしている。
 なお,行政庁がその裁量権を行使するに当たり社会通念上著しい不均衡があり,行政庁がその権限を行使することがいわれのない差別的取扱いと認められる場合には,平等原則に違反する裁量権を逸脱濫用した違法なものとなる。
 被審人の場合,本件合意からの離脱は特定物件の受注調整を巡るトラブルをきっかけとしたものであること及び被審人は社内体制の整備などの具体的な再発防止措置を講じていないことを自認していることからすると,再び同様の受注調整行為が行われる可能性の高低という観点からみて,水産庁事件における2事業者と被審人とではその事情を異にしており,被審人に審判開始決定をしたことが,公平性を欠く,あるいは平等原則に違反する裁量権を逸脱濫用した違法なものということはできない。
(4) 法令の適用
 岡崎管工は,28社と共同して,広島市水道局発注の特定上水道本管工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,公共の利益に反して,広島市水道局発注の特定上水道本管工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第2条第6項に規定する不当な取引制限に該当し,独占禁止法第3条の規定に違反するものである。
(5) 命じた措置
ア 岡崎管工は,次の事項を広島市水道局に通知しなければならない。
(ア)  平成8年7月1日以降の28社との,広島市水道局発注の特定上水道本管工事について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにする旨の合意から平成12年3月末ころ離脱した旨
(イ)  今後,広島市水道局発注の特定上水道本管工事について,受注予定者を決定せず,自主的に受注活動を行う旨
 岡崎管工は,今後,28社と相互に又は他の事業者と共同して,広島市水道局が競争入札又は見積り合わせの方法により発注する上水道本管工事について,受注予定者を決定してはならない。

第3 課徴金納付命令審決

平成13年(判)第7号橋場建設株式会社に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会がタカハタ建設株式会社ほか192名に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,橋場建設株式会社(以下「橋場建設」という。)は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,橋場建設に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 橋場建設は,タカハタ建設株式会社らと共同して,北海道上川支庁が指名競争入札又は指名見積り合わせの方法により発注する農業農村整備事業に係る農業土木工事(舗装工事等を主たる工事とするものを除く。以下「上川支庁発注の特定農業土木工事」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,上川支庁発注の特定農業土木工事の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは同法第3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア)  橋場建設は,建設業を営む者であり,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項第1号に該当する業者である。
(イ)  橋場建設が前記ア記載の違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成8年10月21日から平成11年10月20日までであり,この期間における橋場建設の売上額は,11件の契約により定められた対価の額を合計した4億5385万6325円である。
ウ 主要な争点
(ア)  消費税相当額の取扱い
(イ)  一部の物件について,本案審決にかかる対象役務に該当するか否か
(ウ)  建設共同企業体(以下「JV」という。)の従たる構成員として受注した物件が,課徴金の算定対象となる物件に該当するか否か
エ 主要な争点に対する判断  
(ア)  消費税相当額の取扱い
 一般に商品又は役務の対価とは商品又は役務の販売価格等を指すと考えられるところ,本件において一般の販売価格等にあたる上川支庁と被審人との間の契約書における請負代金額に消費税相当額が含まれていること,課徴金徴収の趣旨は,当該違反行為によって得られた不当な利得を剥奪するものではあるが,独占禁止法は不当な利得の把握方法として,個々の違反行為者の現実の利益と切り離し,一律かつ画一的に売上額に一定の比率を乗じて算出された金額をはく奪すべき利益と擬制していること,支払を受けた消費税相当額は,直ちに納付されるものではなくいったん事業者のもとに留保され,法定の納期限までに事業者が納税義務者として国に納付するものであることからすれば,消費税相当額を含めて定められている上川支庁と被審人との間の対象物件に係る契約金額が対価の額と認められる。
(イ)  一部の物件について,本案審決にかかる対象役務に該当するか否か
 ある工事が本件違反行為の対象役務に含まれるものか否かは,当該工事の客観的な実態により判断するのが相当である。複合物件については,その構成している工事のうちどれが主たる工事であるかについては,工事の経費をみることによって,複合物件を構成している個々の工事の中身・内容を統一的に理解することができるといえる。その工事経費の金額については,その工事の標準的な施工方法を前提として一定の積算基準に基づいて算出された発注官庁の予定価格及びその積算過程の金額を用いることにより,客観的な妥当性が確保されるものと考えられる。
 そこで,上川支庁の農業農村整備事業に係る工事の積算方法をみるに,上川支庁は北海道農政部作成の基準に準拠して行っており,最終的に直接工事費の合計額が最も大きくなる工種をもって複合物件の工事工種を決めることとしていた。(複合物件を構成している個々の工事の)舗装工事と農業土木工事(一般)との区分については,上川支庁では,凍上抑制層,下層路盤工を含む通常路盤改良工事を農業土木工事(一般)に,路盤改良済農道にアスファルト舗装を施す工事を舗装工事としている。
 上川支庁は,複合物件である本件3物件について,このような積算の結果,いずれも農業土木工事(一般)と分類して発注しており,本件3物件は,舗装工事を主たる工事とするものではなく,課徴金の算定対象となる物件に該当すると認められる。
(ウ)  JVの従たる構成員として受注した物件が課徴金の算定対象となる物件に該当するか否か。
 本案審決においては,「203名(203名のうち1名が,代表者となってJVを結成する場合も含む。)」と記載されており,審決名あて人が主たる構成員としてJVを結成して受注した物件が,本件違反行為の対象となることは明らかである。
 被審人の平等原則に反するとの主張については,公正取引委員会の課徴金の納付を命じる手続については裁量の余地はなく,平等原則に反する余地はないので,採用できない。
(4) 法令の適用
 橋場建設の行為は,独占禁止法第7条の2第1項の規定の課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,同法第7条の2第1項,同法施行令第6条の規定を適用して、橋場建設が国庫に納入しなければならない課徴金の額は1361万円である。
(5) 命じた措置
 橋場建設は,課徴金として1361万円を平成14年9月27日までに国庫に納付しなければならない。
平成13年(判)第11号株式会社協和孵卵場に対する審決


 被審人


(2)  事件の経過
 本件は,公正取引委員会が社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「協議会」という。)の構成事業者13名に対して,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,株式会社協和孵卵場(以下「協和孵卵場」という。)が,これを不服として審判手続の開始を請求したので,協和孵卵場に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,協和孵卵場が異議の申立てを行ったので,公正取引委員会は,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3)  認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 被審人は,協議会の会員となっていたところ,協議会は,会員が兵庫県,鳥取県,島根県,岡山県,広島県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域(以下「中国四国地区」という。)に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売するブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)の販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
 被審人の違反行為の実行期間は,平成8年5月1日から平成9年8月6日までであり,この期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に引き渡された素びなの対価の額の合計は,5億3837万9282円である。
ウ 主要な争点
 被審人の,被審人と同一企業グループ内の事業者3名(以下「関連3名」という。)に対する素びなの売上げを課徴金の算定の基礎となる売上額に含めるべきか否か。
エ 主要な争点に対する判断
(ア)  違反行為の範ちゅうに属する商品については,一般的に当該違反行為による拘束を受け,当該違反行為の影響が及ぶと推定されるから,原則として,当該範ちゅうに属する商品全体が「当該商品」に該当する。したがって,違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該違反行為を行った事業者又は事業者団体が明示的あるいは黙示的に当該違反行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り、当該違反行為による拘束を受けたものと推定され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
この特段の事情があるか否かをみると,
 値上げの対象となる商品は,協議会の会員が取引先である中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売する素びなのすべてとされていたこと
 協議会から関連3名のうちの三栄ブロイラー販売株式会社(以下「三栄ブロイラー販売」という。)に対して,会員連名又は被審人名の値上げ通知文書が送付されていること
 被審人の営業担当者も,値上げ決定の対象に関連3名が含まれている等の認識を持っていたこと
から,協議会が被審人の関連3名に対する販売を決定の対象から除外していたと認めるに足りず,むしろ,決定の対象としていたと認められる。
(イ)  本件の個別事情をみても,被審人と三栄ブロイラー販売との関係が実質的に同一企業であるとは認められず,また,三栄ブロイラー販売の社長(当時)が三栄グループの企業の経営状況などをみながら大局的に意見を言うなどしていたが,基本的には被審人が具体的な素びなの販売価格を決めていたのであり,さらに,三栄ブロイラー販売には,協議会から各値上げ通知文書が送付されていたところ,被審人の関連3名に対する素びなの販売価格は,協議会の値上げの決定時期とほぼ同時期に値上げされていたのであるから,明示的あるいは黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情があるとはいえない。他の2名との関係についても同様である。被審人の関連3名に対する素びなの売上げについては協議会の価格決定の効力が及んでいたものと認めるのが相当である。
(4) 法令の適用
 協和孵卵場は,協議会の会員となっていたところ,協議会の行為は,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,協和孵卵場が国庫に納付しなければならない課徴金の額は1615万円である。
(5) 命じた措置
 協和孵卵場は,課徴金として1615万円を平成14年9月27日までに国庫に納付しなければならない。
平成13年(判)第13号有限会社松尾孵卵場に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「協議会」という。)の構成事業者13名に対して,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,有限会社松尾孵卵場(以下「松尾孵卵場」という。)が,これを不服として審判手続の開始を請求したので,松尾孵卵場に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 被審人は,協議会の会員となっていたところ,協議会は,会員が兵庫県,鳥取県,島根県,岡山県,広島県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域(以下「中国四国地区」という。)に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売するブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)の販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
 被審人の違反行為の実行期間は,平成8年5月1日から平成9年8月6日までであり,この期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に引き渡された素びなの対価の額の合計は,4億7394万3770円である。
ウ 主要な争点
 課徴金の算定に当たり,独占禁止法施行令第5条第1号の規定により,被審人が実行期間において引き渡した素びなの対価の額の合計から,被審人が支払ったマイコプラズマ・ガリセプチカム(以下「MG」という。)に感染した素びなを出荷したことにより取引先が被った損害に係る補償金(以下「本件補償金」という。)1億2186万2067円を控除することができるか否か。
エ 主要な争点に対する判断
(ア)  独占禁止法施行令第5条第1号の規定の趣旨
 独占禁止法における課徴金制度は,一定のカルテル行為による不当な経済的利得をカルテルに参加した事業者から剥奪することによって,社会的公正を確保するとともに,違反行為の抑止を図り,カルテル禁止規定の実効性を確保するために設けられた行政措置であるが,個々のカルテル行為による具体的な経済的不当利得という観点を一応捨象して,一律かつ画一的に算定した売上額に一定率を乗じて得た額を剥奪すべき経済的利得であると法律上擬制したものと解される。
 施行令第5条に規定するいわゆる引渡基準による売上額の算定方法は,基本的には,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠したものであると解される。
 施行令第5条に規定する売上額の算定方法と一般に公正妥当と認められる企業会計の基準における売上高の算定方法とを対比すれば,その算定方法は,現に両者ともほぼ同様のものであること、施行令第5条第1号の規定の文言は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準における売上値引の定義とほぼ同一であることからすれば,施行令第5条第1号の規定は,一般に公正妥当と認められる企業会計の基準における売上値引に準じて解すべきである。
 したがって,ある支払等が施行令第5条第1号に規定する控除に該当するには,商品の量目不足,品質不良又は破損,役務の不足又は不良その他の事由によるものであること及び実行期間における対価の額の全部又は一部の控除であって,当該控除が当該商品又は役務の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものであることを要するというべきである。 
(イ)  本件補償金についての判断
 被審人が販売した素びなそれ自体がMGに感染して死亡したこと又は成長不良となったことによる損失の補償として支払われた1401万255円については,被審人が販売した素びなの品質不良による損失相当額であり,かつ,被審人の売上品に生じた損失相当額を被審人が販売した素びなに係る対価の額から控除するのであるから,当該支払は当該商品の対価の額と直接の関連性を有する事由によるものであり,施行令第5条第1号に規定する控除に該当するものと認められる。
 一方,被審人以外の孵卵業者が販売した素びなが品質不良になったことによる損失相当額である4299万2587円は,これらの素びなに係る対価の額が被審人の売上高に計上されたものでないことは明らかであるから,被審人が販売した素びなの対価の額と直接の関連性を有する事由によるものではなく,施行令第5条第1号に規定する控除に該当するものと認めることはできない。また,被審人が販売した結果発生した費用である2912万9225円(MGの予防・治療のための薬品代)及び取引先である肥育業者の逸失利益の補てんにすぎない3573万円は,いずれも,被審人が販売した素びなの対価の額と直接の関連性を有する事由によるものではなく,施行令第5条第1号に規定する控除に該当するものと認めることはできない。
 したがって,本件補償金のうち被審人が販売した素びなの死亡又は成長不良による損失補償としての支払額である1401万255円については,これを施行令第5条第1号の規定により対価の額の合計から控除することができるが,本件補償金のうちその余の1億785万1812円(被審人以外の孵卵業者が販売した素びなが品質不良になったことによる損失相当額,MGの予防・治療のための薬品代及び取引先である肥育業者の逸失利益の補てん)については,直接の関連性を有する事由によるものではなくこれを同号の規定により対価の額の合計から控除することはできない。
(4) 法令の適用
 松尾孵卵場は,協議会の会員となっていたところ,協議会の行為は,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,松尾孵卵場が国庫に納付しなければならない課徴金の額は1373万円である。
(5) 命じた措置
 松尾孵卵場は,課徴金として1373万円を平成14年9月27日までに国庫に納付しなければならない。
平成13年(判)第10号株式会社福田種鶏場に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「協議会」という。)の構成事業者13名に対して,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,株式会社福田種鶏場(以下「福田種鶏場」という。)が,これを不服として審判手続の開始を請求したので,福田種鶏場に対し,独占禁止法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。 
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 被審人は,協議会の会員となっていたところ,協議会は,会員が兵庫県,鳥取県,島根県,岡山県,広島県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域(以下「中国四国地区」という。)に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売するブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)の販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
 被審人の違反行為の実行期間は,平成8年5月1日から平成9年8月6日までであり,この期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に供給した素びなの売上額は,6億8766万1615円である。
ウ 主要な争点
 被審人の丸紅畜産株式会社(以下「丸紅畜産」という。)に対する素びなの売上げが,協議会の値上げ決定の対象に含まれていないことなどにより,課徴金の算定の基礎となる売上額に該当するか否か。
エ 主要な争点に対する判断 
(ア)  協議会の値上げ決定の対象
 協議会は,会員が中国四国地区外に所在する取引先販売業者を経由して中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者に販売される素びなをも値上げ決定の対象としていたものであり,中国四国地区外に所在する商社等の取引先販売業者への供給であっても,中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者に販売される素びなは,本件違反行為の対象商品となる。
(イ)  協議会の値上げ決定における丸紅畜産の取扱い
 違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によってその商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推定され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
(a)  協議会は,丸紅畜産に対し,第1ないし第3の決定に係る値上げ決定通知文書を送付していない。しかしながら,協議会の会長(当時)は,第1ないし第4の決定に際して,協議会の会員の主要な取引先に対し値上げ決定の通知をすることとして,会員からの申出等に係る取引先には値上げ決定通知文書を送付したのであり,協議会の値上げ決定は,協議会が値上げ決定通知文書を送付しなかった取引先を含む会員のすべての取引先を対象としたものであり,会員からの申出がないことなどから,協議会が値上げ決定通知文書を送付しなかった取引先との取引について,協議会の決定の対象からあえて除外されたものとは認められない。
(b)  被審人は丸紅畜産に値上げの交渉をし,これにより,丸紅畜産の担当者が各需要者との間で販売価格の交渉を行い,その結果,各需要者との間で値上げができれば,この価格に丸紅畜産のマージンを控除した価格をもって,丸紅畜産の被審人からの購入価格としたのであり,また,協議会の第1ないし第3の決定に係る値上げ決定通知文書が,被審人の丸紅畜産経由の取引先であり中国四国地区に所在する丸紅飼料株式会社関西支店等に送付されたのは,被審人と丸紅畜産との価格交渉の存在を前提としたものであることは明らかである。そうすると,被審人の丸紅畜産に対する素びなの供給について,協議会の値上げ決定の影響を受けないものであるということはできない。したがって,被審人の丸紅畜産に対する素びなの供給について,協議会が素びなの値上げ決定の対象からあえて除外したことと同視し得る特段の事情があるとは認められない。
 そこで,被審人が丸紅畜産に対し供給した素びなは本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するところ,前記aの特段の事情は認められず,被審人の丸紅畜産に対する売上げは課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれるものというべきである。
(ウ)  被審人の認識及びカルテルによる利得の多寡
 課徴金制度では,個々のカルテルによる具体的な経済的不当利得という観点を一応捨象して,一律かつ画一的に算定した売上額に一定率を乗じて得た額を剥奪すべき経済的利得であると法律上擬制したものと解される。また,課徴金制度は,事業者が違反行為について故意を有することをその要件とするものではない。
(4) 法令の適用
 福田種鶏場は,協議会の会員となっていたところ,協議会の行為は,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,福田種鶏場が国庫に納付しなければならない課徴金の額は2062万円である。
(5) 命じた措置
 福田種鶏場は,課徴金として2062万円を平成14年12月4日までに国庫に納付しなければならない。 
平成13年(判)第12号株式会社一宮家禽孵卵場に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「協議会」という。)の構成事業者13名に対して,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,株式会社一宮家禽孵卵場(以下「一宮家禽孵卵場」という。)が,これを不服として審判手続の開始を請求したので,一宮家禽孵卵場に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,一宮家禽孵卵場が異議の申立てをしたので,公正取引委員会は,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 被審人は,協議会の会員となっていたところ,協議会は,会員が兵庫県,鳥取県,島根県,岡山県,広島県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域(以下「中国四国地区」という。)に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売するブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)の販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
 被審人の違反行為の実行期間は,平成8年5月1日から平成9年8月6日までであり,この期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に供給した素びなの売上額は,4億9164万9581円である。
ウ 主要な争点
(ア)  被審人の但馬養鶏農業協同組合(以下「但馬養鶏農協」という。)に対する素びなの売上げが,被審人が協議会による素びなの値上げ決定という独占禁止法違反行為の実行としての事業活動を行っていないことなどにより,課徴金の算定の基礎となる売上額に該当するか否か
(イ)  被審人の伊藤忠飼料株式会社(以下「伊藤忠飼料」という。)に対する素びなの売上げが,協議会の値上げ決定の対象に含まれていないことなどにより,課徴金の算定の基礎となる売上額に該当するか否か
エ 主要な争点に対する判断 
(ア)  実行としての事業活動等
 独占禁止法7条の2第1項の規定によれば,売上額が生ずるには「当該行為の実行としての事業活動」が行われたことを要するところ,この要件は,当該違反行為の実行期間の始期及び終期を特定するためのものである。そして,一定の実行期間が特定される以上,実行期間における「当該商品」の売上げに係る行為が「当該行為の実行としての事業活動」によるものであることは,売上額を算定するための要件ではない。
 被審人は,平成8年4月ころ,協議会の第1の決定に係る値上げ決定通知文書と同様の内容の値上げ要請文書を取引先に配布するとともに,取引先と値上げの交渉を行い,岡山県食鶏農業協同組合に対する素びなを値上げした。そこで,被審人は,協議会の値上げの決定を認識し,認容した上で,当該違反行為の実行としての事業活動を行ったものであり,その事業活動の始期は,平成8年5月1日と認めるのが相当である。
 また,実行期間内における素びなの売上げに係る行為が違反行為の実行としての事業活動によるものであることを要しないことは前記aのとおりである。
(イ)  但馬養鶏農協に対する売上げについて,協議会の値上げ決定の拘束から除外されていることを示す特段の事情の有無
 違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これと同視し得る合理的な理由によってその商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推定され、独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
(a)  協議会が但馬養鶏農協に値上げ決定通知文書を送付したとは認められないが,協議会の会長(当時)は,値上げ決定に際して,会員の主要な取引先に対し値上げの通知をすることとして,会員からの申出等に係る取引先には値上げ決定通知文書を送付したのであり,協議会が値上げ決定通知文書を送付しなかった取引先との取引について決定の対象からあえて除外されたものとは認められない。
(b)  被審人は,但馬養鶏農協の組合員ではあるものの,それぞれが独立して経営されており,両者間の素びなの価格が相互の経営事情などの特殊な要因によって定められる,いわゆる内部取引価格であるとは認められないし,また,素びなの売買価格の決定は,覚書の基準を機械的に適用してされたのではなく,この基準を一応の目安として,素びなの市況やそれぞれの経営状況等を勘案して,その値上げの時期や値上げ幅を話合いにより決めていたのであるから,協議会の値上げ決定の影響をおよそ受けないものであるということもできない。
(c)  そこで,被審人が但馬養鶏農協に対し供給した素びなは本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するところ,前記aの特段の事情は認められず,被審人の但馬養鶏農協に対する売上げは課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれるものというべきである。
(ウ)  伊藤忠飼料に対する売上げ
 協議会は,会員が中国四国地区外に所在する取引先販売業者を経由して中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者に販売される素びなをも本件違反行為の対象商品としている。そして,伊藤忠飼料は,中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者と被審人との素びなの取引に介在しているので,被審人が伊藤忠飼料に供給した素びなは本件違反行為の対象商品となる。
 被審人と伊藤忠飼料との取引についても,前記(イ)aの特段の事情は認められない。
(4) 法令の適用
 一宮家禽孵卵場は,協議会の会員となっていたところ,協議会の行為は,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,一宮家禽孵卵場が国庫に納付しなければならない課徴金の額は1474万円である。 
(5) 命じた措置
 一宮家禽孵卵場は,課徴金として1474万円を平成14年12月4日までに国庫に納付しなければならない。 
平成13年(判)第14号株式会社オーエヌポートリーに対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が社団法人日本種鶏孵卵協会ブロイラー孵卵部会中国・四国ブロイラー孵卵協議会(以下「協議会」という。)の構成事業者13名に対して,独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,株式会社オーエヌポートリー(以下「オーエヌポートリー」という。)が,これを不服として審判手続の開始を請求したので,オーエヌポートリーに対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 担当審判官の作成した審決案に対し,オーエヌポートリーが異議の申立てをしたので,公正取引委員会は,審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。(なお,本件については,平成14年10月29日に審決取消しを求める訴えが提起され,平成14年度末現在,東京高等裁判所に係属中である[本章第5参照]。)。
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 被審人は,協議会の会員となっていたところ,協議会は,会員が兵庫県,鳥取県,島根県,岡山県,広島県,徳島県,香川県,愛媛県及び高知県の区域(以下「中国四国地区」という。)に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に販売するブロイラー用素びな(以下「素びな」という。)の販売価格の引上げを決定することにより,中国四国地区の素びなの供給分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは,独占禁止法第8条第1項第1号の規定に違反し,かつ,同法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する商品の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
 被審人の違反行為の実行期間は,平成8年5月1日から平成9年8月6日までであり,この期間における中国四国地区に所在する養鶏業者等の需要者又は同需要者に販売する取引先販売業者に供給した素びなの売上額は,3億2826万7866円である。
ウ 主要な争点
(ア)  被審人が協議会による素びなの値上げ決定という独占禁止法違反行為の実行としての事業活動を行ったか否か
(イ)  被審人の山陰農芸株式会社(以下「山陰農芸」という。)に対する素びなの売上げが課徴金の算定の基礎となる売上額に該当するか否か
エ 主要な争点に対する判断 
(ア)  実行としての事業活動等
 課徴金の計算の基礎となる売上額は,「当該行為の実行としての事業活動」が行われた期間における「当該商品」の売上額であるから,売上額が生ずるには「当該行為の実行としての事業活動」が行われたことを要するところ,この要件は,当該違反行為の実行期間の始期及び終期を特定するためのものである。そして,一定の実行期間が特定される以上,実行期間における「当該商品」の売上げに係る行為が「当該行為の実行としての事業活動」によるものであることは,売上額を算定するための要件ではない。
 協議会における平成8年5月1日から素びなを値上げする旨の第1の決定に係る同年4月3日付けの通知文書は,協議会により,被審人の取引先である兵庫県農協食品株式会社(以下「兵庫県農協食品」という。)に送付されていたところ,被審人は,同年4月ころ,同通知文書を取引先に配布するとともに,兵庫県農協食品を含む取引先と値上げの交渉を行い,同年7月には,現に兵庫県農協食品等への素びなの販売価格を値上げするなどした。そこで,被審人は,協議会の値上げの決定を認識し,認容した上で,当該違反行為の実行としての事業活動を行ったものであり,その事業活動の始期は,平成8年5月1日と認めるのが相当である。
 また,実行期間内における素びなの売上げに係る行為が違反行為の実行としての事業活動によるものであることを要しないことは前記aのとおりである。
(イ)  山陰農芸に対する売上げ
 違反行為の対象商品の範ちゅうに属する商品については,当該行為を行った事業者又は事業者団体が明示的又は黙示的に当該行為の対象からあえて除外したこと,あるいは,これを同視し得る合理的な理由によって当該商品が当該行為による拘束から除外されていることを示す特段の事情が認められない限り,当該違反行為による拘束を受けたものと推定され,独占禁止法第7条の2第1項にいう「当該商品」に該当する。
(a)  協議会が山陰農芸に値上げ通知文書を送付したとは認められないが,協議会の会長(当時)は,値上げ決定に際して,会員の主要な取引先に対し値上げの通知をすることとし,会員からの申出等に係る取引先には値上げ通知文書を送付したのであり,協議会が値上げ通知文書を送付しなかった取引先との取引について決定の対象からあえて除外されたものとは認められない。
(b)  被審人と山陰農芸とは,それぞれ独立して経営されており,両社が実質的に同一企業であるということはできないし,被審人の素びなの売上額における山陰農芸の占める割合も3分の1程度であり,その販売する素びなの価格も市況によって,両社の了解の下に改定されているのであり,いわゆる内部取引価格であるとは認められない。また,平成8年の素びな価格の改定が違反行為の実行行為としてされたものであることは山陰農芸に対する売上げを課徴金の算定対象とするための要件ではない。
(c)  そこで,被審人が山陰農芸に対し販売した素びなは本件違反行為の対象商品の範ちゅうに属するところ,前記aの特段の事情は認められず,被審人の山陰農芸に対する売上げは課徴金の算定の基礎となる売上額に含まれるものというべきである。
(4) 法令の適用
 オーエヌポートリーは,協議会の会員となっていたところ,協議会の行為は,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる商品の対価に係るものであるから,独占禁止法第8条の3において準用する同法第7条の2第1項,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,オーエヌポートリーが国庫に納付しなければならない課徴金の額は984万円である。
(5) 命じた措置
 オーエヌポートリーは,課徴金として金984万円を平成14年12月4日までに国庫に納付しなければならない。
平成14年(判)第37号国際地質株式会社に対する審決


(1) 被審人


(2) 事件の経過
 本件は,公正取引委員会が国際地質株式会社(以下「国際地質」という。)に対し独占禁止法第48条の2第1項の規定に基づき課徴金納付命令を行ったところ,国際地質は,これを不服として審判手続の開始を請求したので,国際地質に対し,同法第49条第2項の規定に基づき審判開始決定を行い,審判官をして審判手続を行わせたものである。
 公正取引委員会は,担当審判官の作成した審決案を調査の上,審決案と同じ内容の審決を行った。
(3) 認定した事実及び判断の概要
ア 課徴金に係る違反行為
 国際地質は,千葉土質調査株式会社らと共同して,千葉市及び同市水道局が指名競争入札又は見積り合わせの方法により発注する地質調査業務(千葉市内に本店又は主たる事務所を有する者のみが指名業者として選定される業務に限る。以下「千葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務」という。)について,受注予定者を決定し,受注予定者が受注できるようにすることにより,千葉市等発注の市内業者向け特定地質調査業務の取引分野における競争を実質的に制限していたものであって,これは独占禁止法第3条の規定に違反するものであり,かつ,同法第7条の2第1項に規定する役務の対価に係る行為である。
イ 課徴金の計算の基礎となる事実
(ア)  国際地質は,地質調査業を営む者であり,中小企業基本法等の一部を改正する法律(平成11年法律第146号,以下「改正法」という。)附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項第3号に該当する業者である。
(イ)  国際地質が前記ア記載の違反行為の実行としての事業活動を行った日は,平成7年11月16日から平成10年9月10日までであり,この期間における国際地質の売上額は,13件の契約により定められた対価の額を合計した2830万8740円である。
ウ 本件の争点
 本件の争点は,次の2点である。
(ア)  課徴金納付命令に当たり,審査官が根拠となる証拠を示さずに被審人に受注実績等に係る報告命令を行ったことが適切か否か
(イ)  被審人が違反行為を取りやめた事実があるか否か
エ 主要な争点に対する判断 
(ア)  課徴金納付命令に当たり,審査官が根拠となる証拠を示さずに被審人に受注実績等に係る報告命令を行ったことが適切か否か
 課徴金の算定に当たり,売上額をどのような方法で調査するかについては法令上の定めはなく,審査官の裁量事項であるので,その方法のいかんにより課徴金納付命令の手続に違法をもたらすものではない。
(イ)  被審人が違反行為を取りやめた事実がある否か
 本件では,本案審決において,被審人が平成10年9月11日以降違反行為を取りやめていることが認定されており,同審決の取消請求を棄却する判決が確定している。
(4) 法令の適用
 国際地質の行為は,独占禁止法第7条の2第1項に規定する課徴金の対象となる役務の対価に係るものであるから,同法第7条の2第1項,改正法附則第3条第1項の規定によりなお従前の例によることとされる改正前の独占禁止法第7条の2第2項及び独占禁止法第7条の2第4項の規定を適用して,国際地質が国庫に納付しなければならない課徴金の額は84万円である。
(5) 命じた措置
 国際地質は,課徴金として84万円を平成15年5月30日までに国庫に納付しなければならない。