我が国では,社会的・経済的な理由により,参入,設備,数量,価格等に係る事業活動が政府により規制されていたり,独占禁止法の適用が除外されている産業分野がみられる。
このような政府規制は,第二次世界大戦後における我が国経済の発展過程において一定の役割を果たしてきたとの指摘もあるが,社会的・経済的情勢の変化に伴い,その必要性が薄れる一方で,経営の効率化や企業家精神の発揮の阻害となり,競争制限的問題を生じさせてきているものも少なくない。 また,我が国経済は,現在,極めて厳しい環境下にあるが,これを克服し将来に向けて活力ある発展を遂げていくためには,規制改革とそれを通じた経済システムの改革により,我が国経済の構造改革を図り,国際的に開かれ,自己責任原則と市場原理に立った,民間活力が最大限に発揮される創造的な経済社会へ変革していくことが喫緊の課題となっている。 政府においても,規制改革を通じた経済の活性化は最重要の課題と位置付け,これまで「規制緩和推進計画について」(平成7年3月閣議決定,平成8年3月改定,平成9年3月再改定),「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月閣議決定,平成11年3月改定,平成12年3月再改定),「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月閣議決定,平成14年3月改定)等に基づき計画的に規制改革等を推進してきたところであり,さらに,規制改革推進3か年計画の再改定が行われ,平成15年3月28日に「規制改革推進3か年計画」(再改定)が閣議決定されたところである。公正取引委員会は,こうした規制改革を推進するためのプログラムの策定に当たって積極的に関与するとともに,個別の政府規制制度についても必要に応じて改善のための提言を行うなど,積極的に規制改革に取り組んでいる。 また,独占禁止法の適用除外制度は,自由経済体制の下ではあくまでも例外的な制度であり,適用除外分野においては,市場メカニズムを通じた良質,廉価な商品・サービスの供給に向けた経営努力が十分に行われず,消費者利益が損なわれるおそれがあることから,これは必要最小限にとどめる必要がある。
「規制改革推進3か年計画」(再改定)(平成15年3月28日閣議決定)においては,近年,我が国が直面する経済のグローバル化,少子高齢化,情報通信技術革命(IT革命),環境問題の深刻化等の構造的な環境変化に対応して,経済社会の構造改革を進めることにより,経済活性化による持続的な経済成長の達成,透明性が高く公正で信頼できる経済社会の実現,多様な選択肢の確保された国民生活の実現,国際的に開かれた経済社会の実現等を図り,もって,生活者・消費者本位の経済社会システムの構築と経済の活性化を同時に実現する観点から,行政の各般の分野について計画的に規制改革の積極的かつ抜本的な推進を図ることを基本目的とするとともに,規制改革の推進に当たっては,市場機能をより発揮するために競争政策の積極的展開を図っていくこととされている。
競争政策分野に関しては,経済社会構造を見直し,市場における公正かつ自由な競争を積極的に推進するため,執行・事務処理に当たっては,
また,平成14年度の重点事項として,独占禁止法のエンフォースメント(ルールの実効性を確保するための手段)の見直し・強化,公正取引委員会における審査機能・体制の見直し・強化,専門分野におけるエンフォースメントの強化,企業の経済活動を活性化するためのその他の事項等が挙げられている。
公正取引委員会は,「規制改革推進3か年計画」(再改定)に示された政府として行うこととしている規制改革推進のための施策の趣旨を踏まえ,かつ,競争政策の果たすべき役割の重要性にかんがみ,我が国市場における公正かつ自由な競争を促進するため,独占禁止法違反行為に対して,引き続き,厳正に対処するとともに,規制改革をめぐる調査・提言,消費者政策の推進等を積極的に進めることにより,我が国市場における公正かつ自由な競争を確保・促進するよう取り組んでいくこととしており,その具体的な取組方針を平成15年3月28日に公表した(附属資料5―2参照)。
その取組方針の概要は以下のとおりである。
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公正取引委員会は,従来から競争政策の観点から政府規制制度について見直しを行ってきており,昭和63年7月以降,政府規制制度の見直し及び関連分野における競争確保・促進政策の検討を行うため,「政府規制等と競争政策に関する研究会」(座長 岩田規久男 学習院大学経済学部教授)を開催している。
同研究会は,平成11年6月以降,公益事業分野について,電気事業,ガス事業,国内航空旅客運送事業及び電気通信事業をモデルとして,新規参入を促進し,新規参入者と既存事業者との公正な競争条件を確保する観点から検討を行ってきた。 平成14年度においては,5月以降,同研究会を開催し,電気事業分野における競争促進のための環境整備について検討を行い,同研究会が取りまとめた基本的な考え方を「電気事業分野における競争促進のための環境整備」として同年6月に公表した。 また,同年9月以降,「電気通信事業ワーキンググループ」(座長 岩田規久男 学習院大学経済学部教授)を開催し,電気通信分野の制度改革及び競争政策の在り方について検討を行い,同研究会が取りまとめた報告書「電気通信分野の制度改革及び競争政策の在り方」を同年11月に公表した。 それぞれの報告書の概要は,以下のとおりである。
ア はじめに
電気事業分野の制度改革については,自由化の範囲を一般家庭にまで拡大することが,電気事業分野の競争を促進する観点からは望ましく,このような方向で検討すべきものと考える。しかしながら,平成11年からの部分自由化の状況,電力会社による送電網の独占,電力会社の地域独占的な地位等にかんがみれば,送電部門の中立性の確保や全国的な電力流通等の競争環境整備を積極的に行わなければ,電気事業分野において有効に競争が機能しないのではないかと思われる。このため,制度改革を失敗させないためには,競争がより有効に機能することにより電力の需要者が自由化のメリットを十分享受できるための仕組みを構築した上で,自由化範囲を一般家庭まで速やかに拡大することが不可欠である。
イ 新規参入を促進するための措置
現在の電力融通制度は,新規参入者も一部利用できるものの,電力会社間の協定を基本とした閉鎖的な制度となっているため,自由化範囲が現行から大幅に拡大されても,現行の電力融通制度が維持される場合には,地域をまたぐ電力供給,すなわち,地域をまたぐ競争に重要な機能を有する連系線の運用・建設等が電力会社間の協定で行われることとなり,公正かつ自由な競争を阻害するような種々の問題が生じかねない。
以上から,電力の卸取引を活発化し,新規参入を促進する観点からは,(1)現行の中央電力協議会による電力融通制度の抜本的見直し,(2)効率的で公正な連系線使用の実現,及び(3)電力取引所の創設が必要と考えられる。 ウ 広域的な競争を活発化させるための措置
電力会社が系統運用をしていることに加え,振替料金が加算されることにより,電力会社の供給区域をまたいだ電力の供給が消極的なものになるとともに,競争を地域に限定させていることから,電力会社間の競争を促進し,広域的な競争を生じさせるためには,現在のような独立性の高い地域ネットワークを全国的な広域ネットワークへ転換していくことが重要である。このため,電力の効率的な供給等に配慮しつつ,ドイツの託送料金制度,EUの加盟国をまたぐ電力流通への取組等を参考として,現行の振替料金制度を廃止するなど送電サービス利用料金体系の抜本的な見直しを検討する必要がある。
エ 託送分野の公正なルールの確立
(ア) 基本的視点
我が国の送電分野は,電力会社の営業区域ごとに,当該電力会社が送電網を独占して保有・運用してきている。電力会社が現行のまま系統運用をすることとなる場合,電力会社のみが競争事業者のものも含め電力取引のすべての情報を有することになり,このような場合,新規事業者等は,電力会社が保有・運用している送電網に依存しなければならないばかりでなく,情報面等においても電力会社よりも不利にならざるを得ない。このため,系統運用の中立性・透明性の確保が不可欠であり,系統運用を電力会社から切り離すことの是非も含め,送電部門の得た情報の目的外利用,送電部門から他部門への内部補助,新規事業者に対する差別的取扱いを効果的に防止できる制度を構築する必要がある。
我が国の現行制度では,情報遮断及び会計分離両面において制度的に担保されているとはいえない状況にあり,制度改革に当たっては,系統運用の中立性・透明性を十分確保するため,(1)電力会社の電力取引に関する情報面での有利性の解消,(2)系統運用の透明性の確保,(3)電力の広域流通の促進,といった視点を中心に検討する必要がある。 (イ) 今後求められる系統運用
全面自由化に向けて,電気事業分野において競争が有効に機能するための環境を整備していくためには,系統運用を電力会社から切り離す措置について検討する必要があると考える。海外の事例や我が国の技術水準からみて,例えば,電力会社の送電部門の運用を独立した第三者機関に分離し,当該機関が系統運用ルールの策定,連系線の拡充等を行う制度を設計することは可能であると考えられる。
オ 電気事業分野の競争を促進するための公正なルールの確保
系統運用の中立性が十分に確保される場合には,系統運用に関する公正なルールを規制等で確保するとともに,競争の基本ルールである独占禁止法による事後規制を基本とすべきものと考えられ,以下の取組を行う必要がある。
(ア) 独占禁止法の厳正な執行とガイドラインの策定・公表
公正取引委員会は,経済産業省と共同して「適正な電力取引についての指針」を策定・公表しており,このような取組は,現行の電力制度が改革されるまでの間や電力会社間の競争が活発になるまでの間の独占禁止法の運用として評価できるものであり,今後,新たな制度を構築するに当たっても,その制度や市場構造に即した指針を策定していく必要がある。また,上記指針に基づき独占禁止法の厳正な執行を積極的に行うとともに,新規参入者や電力会社からの相談等に対して迅速かつ適正に対応できる体制を整備していくことが不可欠である。
(イ) 系統運用の中立性確保のための監視機関の設立
系統運用の中立性確保のための措置の実効性を担保するためには,系統運用に係る規制や,いわゆる系統運用ルールの監視を行う必要があり,これには,高度の専門性が必要であることにかんがみれば,例えば,米国のFERC(連邦エネルギー規制委員会)のような機関により系統運用に係る規制・監視を行うことも検討する必要があろう。
(ウ) 事業規制・監視機関との連携強化
電力会社と新規事業者との紛争が契約交渉過程において生じることが多く,その処理に迅速性と専門性が要請されることから,独占禁止法を所管する公正取引委員会と事業規制・監視機関との間で実効性ある連携のもとに迅速な紛争処理が行えるシステムを構築することが不可欠である。
ア 基本的考え方
(ア) 制度見直しの必要性及び基本的視点
(イ) 競争当局との整合性の確保
公正競争確保のための規制について,二重適用による混乱を回避し,公正性・中立性を確保するため,また,分野ごとに競争ルールが異ならないよう,公正取引委員会と事業所管官庁が協働していく必要がある。
(ウ) 規制の在り方
イ 独占禁止法による公正かつ自由な競争環境の整備
(ア) 公正取引委員会の審査体制の強化及び迅速な対応
事前規制を必要最小限とし,事後規制を基本としていくためには,公正取引委員会の現行の対応ではいまだ不十分であり,時間が掛かり過ぎることも多いため,審査体制の拡充,専門性の向上等により,事案の一層迅速な処理を行う必要がある。
(イ) 有効な排除措置の検討
公正取引委員会は,競争回復措置として,単なる違反行為の排除にとどまらず,公正なアクセス確保,情報遮断,会計分離等,従来より踏み込んだ措置を講じることも検討すべきである。
(ウ) 独占禁止法上の考え方の明確化と相談体制の整備
独占禁止法上の考え方の明確化を図るとともに,個別事例において,新規参入者の相談に積極的に応じ,独占禁止法上の考え方や過去の違反事例に関する説明等を行うことにより,独占禁止法に対する理解を深めるようにすべきである。
また,相談者が目前の競争妨害行為の迅速な是正を求めているときは,事実関係の確認と独占禁止法上の考え方の指摘を迅速に行うことにより,相談者のニーズに合った対応を採れる体制を整備すべきである。 ウ 公正かつ自由な競争を促進するための規制・制度の在り方
(ア) 公正な競争ルールの確立
(イ) 新規参入の促進
(ウ) 設備ベースの競争の促進と公正な競争条件の確保
(エ) 料金面での公正かつ自由な競争及び多様なサービス提供の促進
相対料金を含めた自由な料金設定と多様なサービスを提供できるような環境整備が必要であり,ユニバーサルサービスに係る規制を除き,料金・サービス規制は廃止していくべきである。また,料金変更命令等については,競争を阻害しないよう運用するとともに,報告義務が事業者の負担にならないようにすべきである。
(オ) ボトルネック設備の開放によるサービス競争の促進
(カ) 新たなサービス提供の促進
認証・課金決済やコンテンツ配信等の新たなサービスの提供に事前規制をかけることは,事業展開の意欲を削ぎかねないことから好ましくなく,例えばボトルネック性を背景としたネットワーク等の利用に係る反競争的行為等については,独占禁止法による対応を基本とすべきである。
(キ) 利用者利益の確保
(ク) その他競争に係る論点
公正取引委員会は,通商産業省(当時)と共同して,平成11年12月,平成11年の電力の部分自由化を中心とする制度改革に併せて「適正な電力取引についての指針」を策定し,公表した。
その後,個別の事例について,独占禁止法に違反する疑いがあるとして審査を行い,独占禁止法上の問題点を指摘するとともに,本指針では想定していなかった事例がみられたことから,平成13年11月,「電力の部分供給等に係る独占禁止法上の考え方」を作成し,公表した。また,平成14年6月には,別の事例について,独占禁止法に違反するおそれがあるものとして警告を行っている。 このような事例及び部分自由化以降,公正取引委員会及び経済産業省に対して申告・相談のあった事例等を踏まえると,現行制度における適正な電力取引の在り方を,電力会社,新規参入者,需要家等の関係者に対して一層具体的かつ明確に示すことが,経営自主性を最大限に発揮できる環境を整備するために重要と考えられる。 このような観点から,公正取引委員会は,経済産業省と共同して,「適正な電力取引についての指針」の補足・充実を図るため,平成14年7月,これを改定し公表した。
部分自由化されても,競争(特に電力会社間の競争)が活発に行われていないこと,及び電力会社は,部分自由化以降も地域独占的な地位にあり,地域独占的な市場構造においては,自由化対象需要家や新規参入者は送配電網を保有する電力会社に依存せざるを得ないことから,新規参入者や新規参入者と取引しようとする需要家に対して不利益となる条件を設定することは新規参入者の事業活動を困難にするおそれが強いことを明記するとともに,審査事例や事業者からのヒアリングを踏まえて,独占禁止法上問題となる行為を大幅に追加した。
公正取引委員会としては,電気事業分野において公正かつ自由な競争を確保するため,本指針に基づいて,引き続き独占禁止法違反行為を厳正・迅速に排除していくとともに,その未然防止に努めていくこととしている。
また,公正かつ自由な競争の促進が,今後,着実に行われていくよう市場の状況を不断に監視していくとともに,今後の競争環境の変化や公正取引委員会の違反事件処理の経験等を踏まえ,独占禁止法上の考え方を明らかにする観点から,今後とも本指針を適宜機動的に見直すこととしている。
公正取引委員会は,平成13年11月,総務省と共同して,電気通信事業分野における公正かつ自由な競争をより一層促進していく観点から,独占禁止法及び電気通信事業法それぞれに関する基本的考え方及び問題行為等を記した「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」を作成し,公表した。
本指針については,競争環境の変化に対応しつつ,運用事例を積み重ねていくとともに,その蓄積を反映させる形で適宜機動的に見直すこととしており,また,「規制改革推進3か年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)及び「e−Japan重点計画―2002」(平成14年6月18日IT戦略本部決定)において,平成14年中に見直しを行う旨が決定されているところ,公正取引委員会は,法運用事例を踏まえた追加等を内容とする本指針の一部改定を総務省と共同して行い,平成14年12月,これを公表した。
これまでの法運用事例を踏まえ,独占禁止法上問題となる行為として,「工事又は機器の取替え等が必要な電気通信役務について,当該工事等の費用を自己又は自己の関係事業者の顧客に係るものに比べて競争事業者の顧客に係るものを不利なものとすることにより,競争事業者とその顧客の取引を不当に妨害すること」を追加するとともに,平成14年4月の「公益事業者の電柱・管路等使用に関するガイドライン」(総務省)の改正に伴う整合性を確保するための修正等を行った。
公正取引委員会としては,今後とも,電気通信事業分野において公正かつ自由な競争を確保するため,本指針に基づいて,独占禁止法違反行為を厳正・迅速に排除していくとともに,その未然防止に努めていくこととしている。
また,今後の競争環境の変化や公正取引委員会の違反事件処理の経験等を踏まえ,独占禁止法上の考え方を明らかにする観点から,本指針を適宜機動的に見直すこととしている。
平成14年10月以降,経済産業省の電気事業分科会において,電気事業制度改革の具体的な制度設計について,専門的な立場から検討が行われ,公正取引委員会もこれに参加してきており,同年11月,同分科会基本問題小委員会において,送電部門の公正性・透明性の確保,電力の卸取引所の枠組み,電力会社による反競争的行為の排除等について,電気事業制度改革の方向性を踏まえ,電気事業分野における競争が有効に機能するための競争政策の観点から検討すべき事項を「電力の制度改革に関する見解」として説明した。
同見解の主なポイントは,以下のとおりである。
平成14年9月以降,経済産業省の総合資源エネルギー調査会都市熱エネルギー部会において,今後のガス事業制度改革の在り方について,検討が行われ,公正取引委員会もこれに参加してきたところであり,同年12月,同部会ガス政策小委員会において,電力,ガスの相互参入に伴う公正な競争を確保するための方策等のガス事業分野における公正かつ自由な競争を確保するための基本的な考え方について説明した。
また,第156回国会に提出されたガス事業法の一部改正法案について,ガス事業分野における競争を促進する観点から,経済産業省と所要の調整を行ったところであり,今後予定される制度設計の具体化に当たっても,同省と連携していくこととしている。
平成14年9月以降,総務省の「IP化等に対応した電気通信分野の競争評価手法に関する研究会」において,電気通信サービスの競争状況を評価するための手法等について検討が行われ,公正取引委員会もこれに参加してきており,独占禁止法における競争評価との関係等について説明した。
また,第156回国会に提出された電気通信事業法の一部改正法案について,電気通信分野における競争を促進する観点から,総務省と所要の調整を行ったところであり,今後とも同分野における競争促進に当たり,同省と連携していくこととしている。 |
従来,医療,福祉,労働等の社会的規制分野は,情報の非対称性,平等なサービスの提供等を理由に,市場原理に馴染まないものとされ,サービスの提供主体,サービスの価格,質等について,数多くの規制が温存されてきた。しかし,今後,少子・高齢化,グローバル化,労働市場環境の変化,国民ニーズの多様化等,経済社会環境の変化が急速に進展していることから,こうした分野においても,できる限り競争原理を導入し,より良いサービスをより安価に提供できるようにすることが強く求められている。このような観点から,総合規制改革会議等において,各種の規制改革等の提言が行われている。
公正取引委員会は,平成13年度に介護保険適用サービス分野における競争状況及び基準認証分野における公益法人改革と競争政策に関する調査を行い,これを公表しており,これらの調査結果や総合規制改革会議等の提言を踏まえ,介護,医療及び労働分野を中心に,公正かつ自由な競争を促進する観点から検討を行うため,平成14年4月以降,政府規制等と競争政策に関する研究会「社会的規制等ワーキンググループ」(座長 井手秀樹 慶應義塾大学商学部教授)を開催し,社会的規制分野の制度改革及び競争政策の在り方について検討を行い,同研究会が取りまとめた報告書を同年11月に公表した。 同報告書の概要は,1から4のとおりである。
社会的規制分野においては,サービスの質やすべての国民へのサービスの提供を確保しつつ,公正かつ自由な競争を促進していくための制度を構築していくことが可能である。規制・制度を絶えず見直し,多様なサービスの提供主体における公正かつ自由な競争を促進していくことが重要と考えられ,真に国民に必要なサービスを提供していくことを可能とする意味でも,このような見直しを行う必要性が大きい。
社会的規制分野においては,公的機関の役割を明確にした上で,補助金や公設民営等の方法を採ることにより,競争原理を基本としつつ,すべての国民へのサービスの提供を保証することが可能である。
社会的規制分野においては,以下の措置を採ることにより,需要者や保険者が提供されるサービスの質や内容により,サービスの提供主体を選択できる環境を整備することが可能である。
社会的規制分野においては,より競争原理が有効に機能するようサービスの提供主体に係る許認可等の規制について,量的な参入規制となっていないか,必要性を超えた内容になっていないか,また,より競争に悪影響の少ない代替手段がないかの観点から見直しを行っていく必要がある。
社会的規制分野においては,より競争原理が有効に機能するよう需要者が提供されるサービスの内容やその価格によりサービスの提供主体を自由に選択できるよう,価格規制を大幅に緩和する必要がある。
社会的規制分野においては,国民のニーズに対応した多様なサービスの提供ができるよう,提供するサービスを事業者が原則自由に決定できるようにする必要がある。
社会的規制分野においては,新規参入を認めるだけでは,競争原理を有効に機能させることが困難な場合があり,このような場合は,公的機関の果たすべき機能の明確化,公的助成や税制面での格差是正等について検討する必要がある。
社会的規制分野における制度改革が進むに従って,公正取引委員会の役割が重要となる。公正取引委員会は,制度改革の実施状況をフォローするとともに,事業者自身や事業者団体において,又は行政指導により,従来の規制と同様の効果のある制限を行っていないか,新規参入事業者を排除していないか,自由化された事業等についてカルテルが行われていないか監視し,このような行為が行われている場合には,独占禁止法により厳正に対処していく必要がある。
公正取引委員会が実施した実態調査「介護保険適用サービス分野における競争状況に関する調査について―居宅サービスを中心に―」(平成14年3月)では,居宅介護サービスに新規参入した事業者のほとんどが,社会福祉法人や医療法人(以下「社会福祉法人等」という。)が競争上有利であると指摘している。その理由として,社会福祉法人等は施設サービスを組み合わせたサービスが提供できるが,株式会社等は施設サービスを行うことができないこと,社会福祉法人等に対しては施設建設に公的補助があること等を挙げている。
介護保険制度が開始された後,株式会社等が居宅サービスに参入することが可能となったが,今後,少子高齢化が急速に進展することにかんがみると,社会福祉法人等も含め多様な事業者が創意工夫を発揮できるように自由な事業活動への更なるインセンティブを付与することが重要である。このため,次のような提言を行った。株式会社等が多様なサービスを提供できるようにするなど社会福祉法人等との公正な競争条件を確保するとともに,価格競争が有効に機能するための環境整備等を行うとの観点に立って,施設介護サービスの提供主体に係る制限の大幅緩和,介護サービスにおける自由な価格設定,利用者に対する適正な情報提供と不当な情報の排除,特別養護老人ホームと特定施設(有料老人ホーム及びケアハウス)との介護報酬格差の是正,社会福祉法人等に対する優遇措置の見直しが必要である。
医療サービスについては,医療の特殊性と公的医療保険の趣旨から,医療機関により提供されるサービスの内容の差別化を手段とする競争原理にはなじまないという考え方により,数多くの規制が存在している。このため,保険医療の提供主体は民間医療機関が中心であるものの,自由かつ自主的に病院開設や価格設定等を行い,競争することには制限が課されている。また,医療機関により提供される医療サービスの内容や質に差異があるのが実態であるにもかかわらず,情報が開示されていないために患者は医療機関を選択することが困難となっている。その結果,医療機関の競争には,施設や設備の拡大を通じて行うことにならざるを得ないというゆがみが生じている。
また,このような規制の中には,国民の生命・健康に直接影響を及ぼす医療サービスの内容や質に関する規制として不可欠なものがある一方,医療サービスの特殊性を過度に強調し,医療サービスの質を維持するために真に必要な限度を超え,社会的規制に名を借りた実質的な経済的規制となっているものがみられる。このため,国民皆保険制度の下で医療機関による公正かつ自由な競争を促進することにより,需要者である患者がニーズに沿った医療サービスを提供する医師や医療機関を選択することを通じ,患者の利益を確保するとともに,医療機関が創意工夫を発揮できるように自由な事業活動へのインセンティブを付与するとの観点に立って,病院の開設等制限,病院等の開設・経営主体の制限,診療報酬体系,混合診療の在り方,医療機関における医師の確保,広告規制,保険者による医療機関の選択といった規制・制度の見直しについて検討する必要がある。
職業紹介,労働者派遣等の労働市場サービスについては,平成11年の職業安定法等の大幅な改正により,参入等の規制が制度や運用面において大幅に緩和された。公正取引委員会の調査では,事業者からは参入が容易になったとする意見が多く聞かれる一方で,対象業務,事業内容に係る規制が残っており,これらの規制により労働者や企業のニーズに沿った多様なサービスの提供ができず,求職者に対してそのニーズに沿った仕事を行えるようにしたり,求人企業に対して必要な求職者を雇用できるようにすることが十分行えないとの指摘も多かった。このように,これらの規制の中には,変化しつつある労働市場においてはその目的自体に合理性がなくなったものや目的を超えて過度に事業活動を制限しているものも少なくない。
このような規制は,事業者の創意工夫の発揮を阻害し,労働市場が担うべき労働力の需給調整機能を発揮しにくくするものである。このため,労働市場サービス分野における公正かつ自由な競争を促進することにより,労働市場を通じて雇用の保障が達成されるとの観点に立って,職業紹介事業や労働者派遣事業等の労働市場サービスについて,職業紹介事業に係る参入規制,有料職業紹介事業に係る価格規制等,労働者派遣事業に係る参入規制,労働者派遣事業に係る業務規制の大幅緩和や派遣労働者に対する社会保険等,紹介予定派遣に係る規制,労働市場サービスの融合を阻害するおそれのある現行法の枠組みについて見直しを行うことが必要である。 |
独占禁止法は,市場における公正かつ自由な競争を促進することにより,一般消費者の利益を確保するとともに国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とし,これを達成するために,私的独占,不当な取引制限,不公正な取引方法等を禁止している。他方,他の政策目的を達成する観点から,特定の分野における一定の行為に独占禁止法の禁止規定等の適用を除外するという適用除外制度が設けられている。
適用除外制度の根拠規定は,独占禁止法自体に定められているもの及び独占禁止法以外の個別の法律に定められているものに分けることができる。
独占禁止法は,無体財産権の行使行為(第21条),一定の組合の行為(第22条)及び再販売価格維持契約(第23条)を,それぞれ同法の規定の適用除外としている。
独占禁止法以外の個別の法律において,特定の事業者又は事業者団体の行為について独占禁止法の適用除外を定めているものとしては,平成14年度末現在,保険業法等14の法律がある。
現行の適用除外制度の多くは,昭和20年代から30年代にかけて,産業の育成・強化,国際競争力強化のための企業経営の安定,合理化等を達成するため,各産業分野において創設されてきた。
しかし,今日の我が国経済は当時とは大きく変化し,世界経済における地位の向上,企業の経営体質の強化,消費生活の多様化等が進んできており,政府規制と同様に適用除外制度の必要性も変化してきている。 適用除外制度は,それが利用される場合には,当該産業における既存の事業者を保護する効果をもたらすおそれがあり,その結果,経営努力が十分行われず,消費者の利益を損なうおそれがある。また,現に利用されていない制度についても,時代の要請に合致しない適用除外制度が将来においてもそのまま利用されるおそれがあるほか,制度の存在それ自体を背景にして協調的行動が採られやすく,競争を回避しようとする傾向が生じるおそれがあり,このことにより,個々の事業者の効率化への努力が十分に行われず,事業活動における創意工夫の発揮が阻害されるおそれがある等の問題がある。
適用除外制度については,近年,累次の閣議決定等においてその見直しが決定されている。個別法に基づく適用除外制度については,「規制緩和推進計画の改定について」(平成8年3月閣議決定)を受け,平成9年2月21日,20法律35制度について廃止等の措置を採るための「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」が第140回国会に提出され,同年6月13日可決・成立し,同年7月20日に施行された。その他の適用除外制度についても,「規制緩和推進3か年計画」(平成10年3月31日閣議決定)等に基づき検討が行われ,平成11年2月16日,不況カルテル制度及び合理化カルテル制度の廃止,独占禁止法の適用除外等に関する法律の廃止等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の適用除外制度の整理等に関する法律案」が第145回国会に提出され,同年6月15日に可決・成立し,同年7月23日に施行された。
さらに,「規制緩和推進3か年計画(改定)」(平成11年3月30日閣議決定)において,独占禁止法第21条(自然独占に固有の行為に関する適用除外制度)について引き続き検討することとされ,同条については規定を削除するとの結論を得たことから,同条の削除等を内容とする「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律案」が平成12年3月21日に第147回国会に提出され,同年5月12日に可決・成立し,同年6月19日施行された。 これらの措置により,平成7年度末において30法律89制度存在した適用除外制度は,平成14年度末現在,15法律21制度(再販売価格維持契約制度を含む。)まで縮減された。
商品の供給者がその商品の取引先である事業者に対して転売する価格を指示し,これを遵守させることは,原則として,不公正な取引方法(再販売価格の拘束)に該当し,独占禁止法第19条違反に問われるものであるが,同法第23条の規定に基づき,著作物を対象とするものについては,例外的に独占禁止法の適用を除外されている(以下「著作物再販制度」という。)。
著作物再販制度については,平成10年3月に,競争政策の観点からは廃止の方向で検討されるべきものであるが,本来的な対応とはいえないものの文化の振興・普及と関係する面もあるとの指摘があることから,著作物再販制度を廃止した場合の影響も含め引き続き検討し,一定期間経過後に制度自体の存廃について結論を得る旨の見解を公表した。 これに基づき,著作物再販制度を廃止した場合の影響等について関係業界と対話を行うとともに,国民各層から意見を求めるなどして検討を進めてきたところ,平成13年3月,次のとおり結論を得るに至ったところであり,現行の再販制度の下で関係業界における運用の弾力化の取組等,著作物の流通についての意見交換を行うため,公正取引委員会,関係事業者,消費者,学識経験者等を構成員とする著作物再販協議会を設け,平成13年12月に第1回会合,平成14年6月に第2回会合を開催した。
ア 適用除外カルテルの概要
価格,数量,販路等のカルテルは,公正かつ自由な競争を妨げるものとして,独占禁止法上禁止されているが,その一方で,他の政策目的を達成する等の観点から,個々の適用除外制度ごとに設けられた一定の要件・手続の下で,特定のカルテルが例外的に許容される場合がある。
このような適用除外カルテル制度が認められるのは,当該事業の特殊性のため(保険業法に基づく保険カルテル),地域住民の生活に必要な旅客輸送(いわゆる生活路線)を確保するため(道路運送法等に基づく運輸カルテル),国際的な協定にかかわるものであって諸外国においても適用除外が認められているため(航空法等に基づく国際運輸カルテル)等,様々な理由による。 個別法に基づく適用除外カルテルについては,一般に,公正取引委員会の同意を得,又は公正取引委員会へ協議若しくは通知を行って主務大臣が認可を行うこととなっている。 また,適用除外カルテルの認可に当たっては,一般に,当該適用除外カルテル制度の目的を達成するために必要であること等の積極的要件のほか,当該カルテルが弊害をもたらしたりすることのないよう,カルテルの目的を達成するために必要な限度を超えないこと,不当に差別的でないこと等の消極的要件を充足することがそれぞれの法律により必要とされている。 さらに,このような適用除外カルテルについては,不公正な取引方法に該当する行為が用いられた場合等には独占禁止法の適用除外とはならないとする,いわゆるただし書規定が設けられている。 イ 適用除外カルテルの動向
公正取引委員会が認可し,又は公正取引委員会の同意を得,又は公正取引委員会に協議若しくは通知を行って主務大臣が認可等を行ったカルテルの件数は,昭和40年度末の1,079件(中小企業団体の組織に関する法律に基づくカルテルのように,同一業種について都道府県等の地区別に結成されている組合ごとにカルテルが締結されている場合等に,同一業種についてのカルテルを1件として算定すると,件数は415件)をピークに減少傾向にあり,また,適用除外カルテル制度そのものが大幅に縮減されたこともあり,平成14年度末現在,24件となっている。
ア 概要
平成14年度において,個別法に基づき主務大臣から公正取引委員会に対し同意を求め,又は協議若しくは通知のあったカルテルの処理状況は第1表のとおりであり,このうち現在実施されている個別法に基づくカルテルの動向は,次のとおりである。
![]() ![]() イ 保険業法に基づくカルテル
保険業法に基づき損害保険会社が,
又は
ウ 損害保険料率算出団体に関する法律に基づくカルテル
損害保険料率算出団体が自動車損害賠償責任保険及び地震保険について基準料率を算出した場合には,金融庁長官に届け出なければならないこととされており,金融庁長官は届出を受理したときは公正取引委員会に通知しなければならないこととされている。
平成14年度において,金融庁長官から通知を受けたものはなかった。 また,平成14年度末における同法に基づくカルテルは2件である。 エ 道路運送法に基づくカルテル
一般乗合旅客自動車運送事業者が,輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる路線において地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,又は旅客の利便を増進する適切な運行時刻を設定するため,同一路線において事業を経営する他の一般乗合旅客自動車運送事業者と共同経営に関する協定を締結,変更しようとする場合には,国土交通大臣の認可を受けなければならないとされており,国土交通大臣は認可する際には公正取引委員会に協議することとされている。
平成14年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは4件である。 また,平成14年度末における同法に基づくカルテルは3件である。 オ 内航海運組合法に基づくカルテル
内航海運組合法に基づき内航海運組合が調整事業を行う場合には,調整規程又は団体協約を設定し,国土交通大臣の認可を受ける必要があり,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
平成14年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは1件であった。 また,平成14年度末における同法に基づくカルテルは1件である。 カ 海上運送法に基づくカルテル
(ア) 内航海運カルテル
本邦の各港間の航路に関しては,地域住民の生活に必要な旅客輸送を確保するため,旅客の利便を増進する適切な運航日程・運航時刻を設定するため,又は貨物の運送の利用者の利便を増進する適切な運航日程を設定するため,定期航路事業者が行う共同経営に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
平成14年度において,国土交通大臣から協議を受けたものは2件であった。 また,平成14年度末における同法に基づくカルテルは10件である。 (イ) 外航海運カルテル
本邦の港と本邦以外の地域の港との間の航路に関しては,船舶運航事業者が他の船舶運航事業者とする運賃及び料金その他の運送条件,航路,配船並びに積取りに関する事項を内容とする協定,契約又は共同行為については,その締結・変更についてあらかじめ国土交通大臣に届け出なければならないこととされており,国土交通大臣は届出を受理したときは公正取引委員会に通知しなければならないこととされている。
平成14年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは211件であった。 キ 航空法に基づくカルテル
(ア) 国内航空カルテル
航空輸送需要の減少により事業の継続が困難と見込まれる本邦内の各地間の路線において地域住民の生活に必要な旅客運送を確保するため,当該路線において二以上の航空輸送事業者が事業を経営している場合に本邦航空事業者が他の航空運送事業者と行う共同経営に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に協議することとされている。
平成14年度において,国土交通大臣から協議を受けたものはなかった。 (イ) 国際航空カルテル
本邦内の地点と本邦外の地点との間の路線又は本邦外の各地間の路線において公衆の利便を増進するため,本邦航空運送事業者が他の航空運送事業者と行う連絡運輸に関する契約,運賃協定その他の運輸に関する協定の締結・変更については,国土交通大臣の認可を受けなければならないこととされており,国土交通大臣は認可をする際には公正取引委員会に通知することとされている。
平成14年度において,国土交通大臣から通知を受けたものは292件であった。 |