第7章 価格の同調的引上げに関する報告の徴収

第1 概説

 独占禁止法第18条の2の規定により,年間国内総供給価額が600億円超で,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%超という市場構造要件を満たす同種の商品又は役務につき,首位事業者を含む2以上の主要事業者(市場占拠率が5%以上であって,上位5位以内である者をいう。)が,取引の基準として用いる価格について,3か月以内に,同一又は近似の額又は率の引上げをしたときは,当委員会は,当該主要事業者に対し,当該価格の引上げ理由について報告を求めることができる。
 この規定の運用については,当委員会は,その運用基準を明らかにするとともに,市場構造要件に該当する品目をあらかじめ調査し,これを運用基準別表に掲げ,当該別表が改定されるまでの間,同別表に掲載された品目について価格の同調的引上げの報告徴収を行うこととしている。

第2 運用基準別表の改定

 当委員会は,市場構造要件について調査を実施し,次のとおり運用基準別表を改定し,平成14年11月1日から実施した。これは,国内総供給価額に関する平成12年の調査結果を踏まえて見直しを行ったものである。

第1表   運用基準別表の改定の状況

第2表   別表掲載品目(82品目)


備考 (1)  本表は,公正取引委員会が行った調査に基づき,平成12年の国内総供給価額が600億円を超え,かつ,上位3社の市場占拠率の合計が70%を超えると認められる同種の商品及び同種の役務(独占禁止法第18条の2第1項ただし書の規定に該当する場合を除く。)を掲げたものである。
(2)  本表の商品順は工業統計表に,役務順は日本標準産業分類による。

第3 価格の同調的引上げ理由の報告徴収

 平成14年4月から平成15年8月現在に至るまで,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認めてその引上げ理由の報告を徴収したものは,発泡酒の1件である。
 発泡酒の平成14年における国内総供給価額は,4,242億円であり,上位3社の市場占拠率の合計は84.4%である。
 主要事業者は,麟麟麦酒株式会社(以下「キリン」という。),アサヒビール株式会社(以下「アサヒ」という。),サントリー株式会社(以下「サントリー」という。)及びサッポロビール株式会社(以下「サッポロ」という。)の4社(以下「4社」という。)であり,首位事業者はキリンである。
 4社は,平成15年5月1日から発泡酒の販売価格の引上げを実施したが,この価格の引上げは,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認められたので,当委員会は,平成15年6月23日,これら4社に対して価格引上げの理由の報告を求めた。
各社の価格引上げ状況
 4社の価格引上げの取引先への通知日及び価格引上げ日は第3表のとおりである。
 なお,今回,4社は,全国卸売酒販組合中央会からの依頼に応じ,酒税引上げの法案成立(平成15年3月28日)の前に,仮案を取引先卸売業者に通知している。

第3表  4社の価格引上げの取引先への通知日及び価格引上げ日

 価格引上げの内容を競合関係にあると認められる製品ごとにみると,生産者価格,メーカー希望卸売価格及びメーカー希望小売価格(以下「3層価格」という。)のそれぞれの引上げ額及び新価格は,4社とも同一となっている(第4表)。
第4表  主要事業者4社における共通商品の引上げ状況
<4社共通> (単位:円,%)


 なお,4社共通商品以外の商品(他容量容器)についても,取扱い各社が3層価格すべてにおいて同額の引上げを行っており,また,1本当たりの価格と合わせて取引先卸売業者に通知している1箱(24缶入り)当たりの価格についても,各社とも単純に一缶の価格を24倍した価格とすることにより同一となっている。

(参考)発泡酒の価格水準の推移について
 4社が発泡酒の販売を開始した時期は,サントリーが平成6年10月に「ホップス(麦芽比率65%)」を新規に販売開始して以来,平成7年4月にサッポロ,平成10年2月にキリン,そして,平成13年2月にアサヒがそれぞれ新規に発泡酒の販売を開始している。サントリーを除く3社は,それぞれ発泡酒を販売開始するに当たり,サントリー等の先発者の生産者価格,メーカー希望卸売価格及びメーカー希望小売価格と同一の価格設定を行っており,4社が発泡酒を販売開始したそれぞれの時期以降,昨年の6月から8月にかけての値下げ(10円),そして今回の値上げを行っているが,各時点において3層価格ともすべて同一で現在に至っている。
各社の価格引上げ理由
 4社から提出された報告書によると,価格引上げの理由と引上げ額の決定は,以下のとおりである。
 なお,4社は,発泡酒の価格引上げの理由として,それぞれ平成15年5月1日から発泡酒(麦芽比率25%未満)に係る酒税が1kl当たり29,250円(消費税を含まず。)引き上げられたことを挙げており,各社ごとの詳細は次のとおりである。
(1)   キリン
 価格引上げについては,増税額を価格に転嫁すること,転嫁に当たっては便乗値上げとならぬよう適正に転嫁すること,増税分の端数を品種ごとに四捨五入し1円単位で改定するが,品種間構成比の極めて高い350ml缶について,事前に「350ml缶は10円の価格改定」との報道があったこと等から端数(24銭)を切り捨てることにした。また,これによる自社負担分を調整するため,500ml缶で増税分以上の価格調整を行うことにより350ml缶のマイナス分を相殺して決定したとしている。
 また,端数調整の結果,希望小売価格を1円単位とすることによって発生する差益については,卸・小売業者に配分することにより,流通業者のマージン額が減額とならないように努めたとしている。
(2)   アサヒ
 価格引上げについては,消費者への影響,流通業者への影響,株主への影響等に考慮したとしている。売上構成比の大きい350ml缶は,円未満を四捨五入しメーカーが負担することとして10円引上げとし,500ml缶は消費者及び株主への影響を考慮して希望小売価格16円とし,流通業者にマージンを配分したとしている。そして先に発表したキリン社も自社の価格案と同様であり,最終決定する上で参考にしたとしている。
(3)   サントリー
 価格引上げについては,増税額を価格に反映させ,極力損得のない価格設定をした。円未満の端数処理は四捨五入とするが,取扱い比率の高い350ml缶の円未満端数の切り捨てによる持ち出し分を最小限にするために500ml缶は増税額を上回る16円の値上げ額(卸・小売価格)とし,値上げ額と増税額の差額は,流通マージンとして配分したとしている。そして上位企業(キリン)の価格仮案を参考にして最終的に価格を決定したとしている。
(4)   サッポロ
 価格引上げについては,「企業全体及び当該商品部門の損益,消費者ニーズや購買動向,同業他社の業績とマーケティング活動」等を勘案することを基本としたとしている。350ml缶について,マスコミ報道などから円未満(24銭)を切り捨て自社で吸収することとしたとしている。そしてその分の吸収を500ml缶で調整することとし,流通マージンの配分など,価格引上げ案は複数の選択肢を用意し,最終的には,先行して仮案を発表した上位2社(キリン,アサヒ)の改定内容を確認した上で,仮案を決定したとしている。