当委員会は,競争政策の運営に資するため,経済力集中の実態,主要産業の実態等について調査を行っている。平成14年度においては,独占的状態調査,イノベーション競争と競争政策に関する調査―医薬品産業を例として―,グローバル化の進展と市場構造に関する調査,大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査等を行った。
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独占禁止法第8条の4は,独占的状態に対する措置について定めているが,当委員会は,同法第2条第7項に規定する独占的状態の定義規定のうち,事業分野に関する考え方について,ガイドラインを公表しており,その別表(第1表)には,独占的状態の国内総供給価額要件及び市場占拠率要件(国内総供給価額が1000億円超で,かつ,上位1社の市場占拠率が50%超又は上位2社の市場占拠率の合計が75%超)に該当すると認められる事業分野並びに今後の経済事情の変化によってはこれらの要件に該当することとなると認められる事業分野が掲げられている。
当委員会は,市場構造要件について調査を実施し,国内総供給価額及び市場占拠率に関する平成12年の調査結果を踏まえてガイドライン別表の改定を行い,平成14年11月1日から実施した(第1表・第2表)。 これらの別表に掲載された事業分野については,公表資料及び通常業務で得られた資料の整理・分析を行うとともに,特に集中度の高い業種については,生産,販売,価格,製造原価,技術革新等の動向,分野別利益率等について,関係企業からの資料の収集,事情聴取等を行うことにより,独占禁止法第2条第7項第2号(新規参入の困難性)及び第3号(価格の下方硬直性,過大な利益率,過大な販売管理費の支出)の各要件に則し,企業の動向の監視に努めた。
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従来の価格を戦略とした競争に代わり,近年の経済社会を取り巻く環境の変化に伴い,企業戦略において研究開発戦略・技術戦略が重要となるなど,技術革新を競争上の主要な戦略とした動的な競争が活発となってきている。今後,独占禁止法の運用に当たっては,このようなイノベーション競争に対する分析・評価が重要となってくると考えられる。
そこで,イノベーションが主要な競争手段となる産業における競争政策上の課題を整理することを目的として,企業間の競争において研究開発の成否が最重要となるといわれる医療用医薬品を例として,研究開発競争の位置付け,内容,変化等について,医療用医薬品メーカーのうち,平成12年度医療用医薬品国内売上高上位30社(国内メーカー20社・外資系メーカー10社)を対象にアンケート調査等を行い,平成14年6月に調査結果を公表した。
医療用医薬品産業では,近年の医療費抑制等に伴う国内市場の伸び悩み,海外市場の成長,国際的な新薬の審査統一化(ICH)の進展等の要因から,国内メーカーが海外展開を進めている。また,こうしたグローバル化の進展のほかに,薬価基準制度や特許制度といった医療用医薬品を取り巻く諸制度の影響もあり,研究開発活動を通じて,優れた医薬品をグローバルなレベルで投入する必要性が高まってきている(第1・2図参照)。
医薬品メーカーの意識としても,製品の「画期性」とタイムリーな市場投入等研究開発の「スピード」が,他社との競争上極めて重要としている。また,今後,企業間競争における研究開発の重要性は更に増大すると予想している(第3図参照)。
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自社が国内で研究開発中又は販売開始済みの製品について,ライバル企業が国内で研究開発中の製品のうち,どの段階にある場合に競争相手として認識するかを尋ねたところ,自社の研究開発の段階の少し前の段階にあるもの,又はほぼ同じ段階にあるものを競争相手として認識しているとの回答が多い。また,ライバル企業が海外で研究開発している製品についても,ほぼ同様の結果が得られた(第4図参照)。これは,将来の販売時期を想定した場合に,内外を問わず他社の現在の研究開発の進捗状況が,自社と近い段階にあるものは,製品の販売開始時期がほぼ同時期になると予測されることから,将来的に自社と競争関係に立つと認識しているためと考えられる。
また,海外においてのみ行われている研究開発を競争相手と意識するケースが多いことからも,海外における研究開発を国内における研究開発と同様に競争相手としてみていることが分かる(第5図参照)。 さらに,メーカーが競争相手を認識・把握する範囲を尋ねたところ,研究開発の範囲は,物質探索段階では広めに競争相手を把握し,研究開発の後期になるにつれ,特定の疾病に絞った形で競争相手を認識していることがうかがえる(第6図参照)。
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また,平成10年から一定の確認試験(以下「ブリッジング・スタディ」という。)を基に,海外臨床試験データの国内活用が可能となったが,すべての企業が,今後,ブリッジング・スタディを活用していくこととしている(第7図参照)。これによって,外資系メーカーは日本市場への製品投入に際して,コストを30%以上削減でき,また,臨床試験に掛かる期間を1年以上短縮できるとしている(第8・9図参照)。このような外資系メーカーによるブリッジング・スタディの活用は,国内市場のグローバル化を一層促進するものと考えられる。
![]() 〇 外資系メーカーにとっての海外臨床試験データの活用のインパクト
新薬開発をめぐる競争の激化に伴い,国内医薬品メーカーの研究開発費は増加傾向にあり,国内大手10社の研究開発費でみても,売上げの伸びを上回る比率で増加している(第10図参照)。
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医薬品メーカーは,増大する研究開発費の確保等のため,自社の開発領域の絞込み,提携等による販路拡大・技術の導入等に加え,合併・買収等も視野に入れている(第11図参照)。
合併・買収等の相手先としては,国内の主要メーカー同士,国内の主要メーカーと海外の主要メーカー等,市場構造を大きく変化させると考えられる組合せも想定される(第12図参照)。
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医薬品産業の集中度は,全体でみると,近年上昇傾向にあるものの,上位5社で25.1%(平成11年度)にとどまる(第13図参照)。
他方,薬効別に集中度をみると,全体でみた集中度と比較して高い傾向にある。例えば,高脂血症用剤のスタチン系薬剤(薬効小分類)でみると,上位5社で92.4%(平成12年)と非常に高くなっている(第14図参照)。
医療用医薬品のように,価格よりも製品の品質が重要な産業では,競争政策の観点から,より品質の高い製品がより早く研究開発されるよう,研究開発市場(イノベーションマーケット)における競争を維持・促進することにより市場パフォーマンスの向上を図ることが重要であり,この場合,以下の視点に留意することが必要となる。
独占禁止法の観点から検討すべき研究開発市場における競争は,医薬品のように研究開発活動とその成果としての製品・技術との関係がある程度明確なケースである。
研究開発市場における競争を考える場合には,グローバルレベルで競合する研究開発活動間の競争も考慮する必要がある。
研究開発市場における競争の評価に当たっては,研究開発の進み具合が同程度であり,スピード面や内容面で競合している研究開発の数等に着目していく必要がある。
研究開発市場と製品市場は時間を軸として連続しており,製品化に近い段階での研究開発市場と製品市場は一体のものとして評価していくことが適当な場合も多い。
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近年の経済のグローバル化の進展により,国境を越えた経済活動が活発化するなど企業行動は変化してきており,それに伴い,我が国市場における企業間競争も大きく変化してきている。このようなグローバル化の進展といった経済状況の変化により,我が国における市場構造や価格がどのように変化しているのか,また,我が国市場でどのような競争が展開されているのかについて,産業横断的に分析するほか,個別産業について分析することにより,グローバル化の進展等経済状況が変化する中での競争政策上の課題を整理することを目的として調査を行い,平成14年6月に調査結果を公表した。
調査対象品目のうち,製造業で平成3年以降継続して調査している品目について市場構造の変化をみると,生産集中度は一貫して上昇傾向にあるが,輸入も含めた出荷集中度は若干低下し,その後おおむね横ばいで推移している(第15図参照)。輸入比率が上昇している品目に限定してみると,生産集中度が上昇する傾向及び出荷集中度が低下する傾向がより顕著に表れている(第16図参照)。
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平成3年と平成12年の2時点のデータを用い,データ的に捕捉可能な価格,輸入,市場規模,市場集中度について統計的な手法を用いて分析した結果,以下の関係が有意にみられた。
平成3年時点と比較して平成12年時点で輸入比率が上昇している品目は約7割を占めるが,これらについて,輸入比率の上昇幅が大きいほど,価格がより大きく下落する傾向がみられる。これは,輸入の増加により国内市場への競争圧力が高まり,競争が活発化しているためと考えられる。
平成3年時点と比較して平成12年時点で市場規模が縮小している品目は約7割を占めるが,これらについて,市場規模の縮小の度合いが大きいほど,価格がより大きく下落する傾向がみられる。これは,市場規模の縮小に伴い,限られたパイをめぐる競争が激化しているためと考えられる。
グローバル化が進展し,また,景気が後退している最近10年間の経済状況の下では,輸入の増加や市場規模の縮小等に伴い約6割の品目で価格が下落しているが,これらについて,価格の下落率が大きいほど,生産集中度がより大きく上昇する傾向がみられる。これは,競争の激化等に伴い,市場での生き残りに向けた合併・事業統合や不採算部門からの撤退等が生じているためと考えられる。
調査対象品目全体でみると,最近10年間の経済状況の下で生産集中度が上昇する傾向がみられるが,実際に大型合併により市場構造が寡占化したセメント,製紙,石油化学について,市場構造の寡占化が価格の動向に与える影響等を分析するため,価格の変化を需給要因(国内需要,期末在庫),コスト要因,市場構造要因(CR3),グローバル競争要因(輸入比率)で回帰分析をしたところ,結果は第3表のとおりである。
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合併により集中度が著しく高まったが,ユーザー側の価格交渉力が強く,市場構造の変化による価格への有意な影響はみられない。この間,輸入比率は低位にとどまり,価格に有意な影響を与えているとの結果は得られなかった。
新聞用紙では,輸入比率は上昇傾向にあり,製紙メーカーによる開発輸入以外の輸入も4割程度あるが,供給の安定性等の問題もあり,輸入が価格に有意な影響を与えているとの結果は得られなかった。供給の安定性等を重視した長期継続的な取引関係にあること等から,この間,市場構造の変化が価格に有意な影響を与えているとの関係はみられない。
コピー用紙では,輸入の増加が価格の下落に有意に影響している。国内価格とインドネシア輸出価格との相関も高い。
エチレンでは,輸入量は少ないが,国内価格は原料のナフサ価格やエチレンの東アジア市況と連動して形成されており,この間,国内需給や集中度による価格への有意な影響はみられない。
近年のグローバル化の進展や景気後退等の経済状況の変化が,価格や市場構造に与える影響について,多数の品目を用いた産業横断分析では,輸入の増加や市場規模の縮小により競争が激化し,価格が下落するとともに,競争の激化に対応するための合併や市場からの撤退により,生産集中度が上昇している傾向がみられた。
各メーカーの製品が同質であり,ユーザーの使い慣れ等の問題もなく,製品の価額に対する輸送費の割合が相対的に小さいような商品において,国際的な市場における価格により国内価格が決定されるなど,国内メーカーが国内市場における価格や数量をコントロールする力を有しないような場合には,輸入量の多寡にかかわらず輸入圧力が潜在的,顕在的に常に働いており,国際的な寡占化を招くような場合を除き,国内市場の寡占化が価格に影響を与える可能性は小さくなっている。
一方,輸入が一定割合あるような場合でも,グローバルな競争圧力が十分ではなく,国内価格が主として国内の需給関係で決定されるような市場においては,市場構造の寡占化により売り手の力が強くなり,価格に影響を与えるおそれがある。このため,このような産業では,輸入圧力が国内市場に及ぼす影響を考慮するものの,引き続き市場構造の動向に着目し,市場構造の変化が売り手と買い手の価格交渉に係る力関係に与える影響等を十分評価していく必要がある。
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公正取引委員会は,平成3年,事業者等の独占禁止法違反行為の未然防止とその適切な事業活動の展開に役立てるため,「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(以下「ガイドライン」という。)を策定・公表し,その中において,小売業者による優越的地位の濫用行為についても,その考え方と独占禁止法上問題となる場合を明らかにしている。大規模小売業者による優越的地位の濫用行為については,その性格上,取引先の納入業者からの積極的な情報提供が期待しにくいことを踏まえ,公正取引委員会は,ガイドライン公表後の大規模小売業者と納入業者との取引実態を把握する観点から,ガイドラインで示された行為類型について,これまでにフォローアップ調査を2回実施し,その結果を公表(平成7年及び平成11年)するとともに,関係事業者及び関係諸団体に対し所要の改善要請を行ってきた。
今般,前回の調査を実施してから3年が経過したこと,また,景気の低迷が続く中,大規模小売業者による優越的地位の濫用行為についての指摘が行われていることから,大規模小売業者と納入業者との取引について,優越的地位の濫用規制の観点から,ガイドラインで示された行為類型を中心にその実態を把握し,独占禁止法上の問題が認められる場合には,関係事業者及び関係諸団体に対し当該問題点を指摘するとともに,所要の改善措置を採るよう求めることを目的として今回の調査を実施し,平成14年12月,これを公表した。
大規模小売業者と取引がある納入業者6,530社を対象として実施(有効回答数1,284 回答率19.7%)した。対象は,(1)衣料品・繊維製品,(2)食料品・飲料,(3)酒類,又は(4)トイレタリー・化粧品のいずれかを取り扱っている納入業者の中から無作為に抽出した。本調査における大規模小売業者は,(1)百貨店,(2)スーパー,(3)専門量販店(衣料品量販店,酒類量販店等),(4)コンビニエンス・ストア(以下「CVS」という)及び(5)その他(ホームセンター,ドラッグストア,生活協同組合等)である。
アンケート調査に回答した納入業者のうち,約100社を対象として実施した。
納入業者から独占禁止法上問題となるおそれのある行為を行っているとの指摘があった大規模小売業者を対象として実施した。
(1)返品(買取商品の返品),(2)従業員等の派遣の要請,(3)協賛金等の負担の要請,(4)物流センターの設置等に伴う費用の負担の要請,(5)特売,創業祭等の開催時における低価格納入の要請,(6)欠品の取扱い,(7)押し付け販売の各行為について調査した。
平成13年9月〜平成14年10月
(アンケート調査の対象期間は,平成12年9月〜平成13年8月である。)
調査結果の概要を行為類型別にまとめると,以下のとおりである。
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平成14年10月,株式会社UFJ銀行が土曜日のATM利用手数料の有料化(以下「土曜有料化」という。)を実施することを公表したことに始まり,株式会社東京三菱銀行及び株式会社三井住友銀行がそれぞれ土曜有料化を公表したほか,株式会社みずほ銀行が土曜有料化を検討していることを明らかにしていること,大手銀行のうち最初に実施したUFJ銀行は全国銀行協会の会長行であることから,公正取引委員会は,独占禁止法上問題となる点がないかどうかという観点から,これら4行を中心に事情を聞くとともに,全国銀行協会及び都銀懇話会から関連する会合の議事録等の関連資料を求め,これを精査するなど,事実関係について調査を行い,平成15年3月,調査結果を公表した。
調査結果の概要は,以下のとおりである。
UFJ銀行は,平成13年冬ごろから具体的検討を開始し,平成14年2月に土曜有料化の方針を決定し,同年4月に,105円の有料化を同年6月から実施することを正式決定していた。しかしながら,みずほ銀行のシステム障害が発生したことから,システム危機管理の徹底のため,顧客への告知前に実施の延期を決定している。
その後,同年9月に105円の有料化を同年12月7日から実施することを決定し,同年10月4日から顧客への告知を開始し,同年12月7日から実施している。
東京三菱銀行は,かねてから土曜有料化が必要であるとの問題意識を持っていたところ,平成14年4月から具体的検討を開始し,同年8月下旬に105円の有料化を部門決定した。その後,平成14年10月に,105円の有料化を平成15年2月15日から実施することを正式に決定し,平成14年12月16日から顧客への告知を開始し,平成15年2月15日から実施している。
三井住友銀行は,平成14年度案件として平成14年4月から土曜有料化について具体的検討を開始し,同年7月に105円の有料化を部門決定した。その後,同年11月に,105円の有料化を平成15年3月1日から実施することを決定し,平成15年1月6日から顧客への告知を開始し,同年3月1日から実施している。
みずほ銀行は,平成14年4月の統合に当たり,その1年前までにみずほ銀行としての経営方針を決めていく過程で,土曜日の昼間時間の取扱いは休日扱いとすること,休日と同様に有料化するかどうかは統合後に引き続き検討することを確認し,統合後に具体的な検討を開始し,平成14年7月ころまでには105円の有料化の方針を固め,それ以降,実施時期について具体的に検討している。
各行とも,土曜有料化の実施は,独自の営業戦略に基づいて決定し,他の銀行と話し合ったり,他行の土曜有料化の影響を受けて決定したものではない旨主張している。
有料化の理由としては,4行ともATM収支の改善を第一に挙げ,また,4行とも,一定の取引実績のある顧客に優遇サービス(ATM利用手数料無料,振込手数料の割引等)を提供しており,有料化と併せて,顧客を優遇サービスの対象に誘導していくという営業戦略に基づくものであることを強く主張している。
土曜有料化の時期について,UFJ銀行は,平成14年4月から学校の週休2日制が開始されるなど週休2日制が定着してきたこと,優遇サービスの対象者が100万口座を突破したこと,統合後の状況やシステム開発期間,さらに,システム危機管理の徹底を踏まえ,有料化の時期を最終決定したものである旨主張している。UFJ銀行以外の3行は,同様に週休2日制の定着,システム開発期間等を踏まえて決定したものである旨主張している。また,UFJ銀行以外の3行の中には,UFJ銀行の土曜有料化について平成14年4月には推測するところとなっていた銀行もあるが,これが自行の有料化に具体的な影響を及ぼしたことはない旨強く主張している。
利用手数料を105円とすることについては,4行ともコストを積み上げて決定したものではなく,土曜日の他の時間帯や日曜日の手数料(105円)に合わせたものである旨主張している。
なお,検討に当たってATMの利用コストを試算している銀行もあったが,コスト試算を行っていないとする銀行もあった。また,利用コストや土曜有料化による収益予測には大きなばらつきがみられた。
全国銀行協会及び都銀懇話会の過去2年間の会合の状況について調査したところ,個々の銀行のATM利用手数料に関して話し合ったり,情報交換しているとの事実は認められなかった。
ATM利用手数料については,従来から,ATMに関して提携している金融機関に対し,顧客への告知の数日前に,提携行のカードを自行のATMで利用する場合の手数料の改定内容,改定時期等について文書で通知を行う慣行が存在することが認められた。この通知には,ATM利用手数料を改定する銀行以外の金融機関のカード(以下「他行カード」という。)による利用手数料の改定時期と改定額のみが記載されているが,4行については,他行カードの利用手数料が,ATMを設置している金融機関のカード(以下「自行カード」という。)の利用手数料の105円増し(消費税込み)になっていることから,他行カードの利用手数料の引上げの通知により,自行カードの利用手数料を引き上げること及びその引上げ額も容易に認識可能である。
この通知を行っている理由としては,ATMの利用手数料を引き上げた場合,他行カードによる利用手数料も引き上げられ,他行に苦情が寄せられる場合もあり得る旨を主張している。しかし,このような通知を受け取っても,顧客からの苦情が寄せられるお客様サービス室や支店等に対して通知の内容を周知している銀行はほとんどなく,また,中には,通知先が多いため,通知を受け取っていても,従来からこのような通知は行っていないという銀行もあった。 今回のUFJ銀行,東京三菱銀行及び三井住友銀行の有料化に当たっても,同様に顧客への告知前に他の銀行に通知を行っていることが認められ,今回の調査対象とした銀行のほとんどは,当該通知により,3行が土曜有料化を行うと理解した旨回答している。
4行は,土曜日のATM利用手数料について,自行カード利用者に対しては105円,他行カード利用者に対しては210円と,それぞれ105円の引上げを実施し,又は実施を予定している。引上げの理由としては,4行とも,ATMの稼働には費用がかかることから少しでも収益を改善したいことを第一に挙げている。4行以外にも土曜日のATM利用に関する対応を行っている地方銀行等が少なくないが,北海道や北陸の地方銀行の中には,他行カードの利用者の手数料のみを引き上げ,自行カード利用者の手数料は無料にしている銀行もあるなど,多様な方法が考えられ,収益改善の方法としては種々工夫の余地があるところである。しかしながら,今回,4行から事情を聴取した限りでは,優遇サービスの提供内容に差はみられるものの,より消費者利益を考慮した多様な対応を検討し,独自性を発揮しているとは必ずしも評価できるものではない。
近年の超低金利の状況においては,自行カードによるATM利用手数料の多寡による顧客への訴求効果は大きいにもかかわらず,大手銀行間で現在無料の手数料について有料化することを共同で決定すれば,預金サービス分野における競争を阻害するものとして独占禁止法の規定に違反するものである。
今回の調査においては,4行間で土曜日のATM利用手数料の有料化について話合いが行われたり,共通の意思が形成されるなどの事実関係は認められなかった。 しかし,慣行と称して,顧客への告知前にATM利用手数料の改定について提携行へ通知が行われているが,今後とも,顧客への告知前に提携金融機関に通知が行われることとなれば,当該通知がATM利用手数料に関する銀行間の話合いや共通の意思の形成を促すおそれがあり,また,このような事前通知が必ず必要であるとする合理的な理由は見当たらないことから,4行及び全国銀行協会に対して,今後,顧客への告知前に提携金融機関に通知しないよう注意した。 |