第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 概説

 平成15年度は,第156回国会で成立した景品表示法改正法及び下請法改正法の施行のための政令等の整備を行った。
 平成15年に成立した下請法改正法の施行期日を定める政令を制定するとともに,下請法施行令の一部を改正し,同法の施行によって新たにその対象となる情報成果物作成委託及び役務提供委託のうち3億円を資本金区分として用いるものを定めたほか,同法の改正内容を踏まえ,規則及び運用基準について所要の整備を行った。
 また,平成15年に成立した景品表示法.一部改正法について,景品表示法第4条第2項の適用に関して,どのような資料であれば表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものに当たるのか等についての考え方を明らかにするべく,運用指針を策定・公表した。
 さらに,独占禁止法は,昭和52年の大幅な強化改正以降,四半世紀が過ぎており,その間,我が国の経済・社会構造が大きく変化してきていることを踏まえ,昭和52年に導入された制度についても今日の経済実態に適合したものか否かの見直しを行った。平成14年10月以降「独占禁止法研究会」(座長 宮澤 健一 一橋大学名誉教授)を開催し,その検討結果を取りまとめ,平成15年10月,報告書として公表するとともに,同報告書及び同報告書に対して寄せられた意見等を踏まえ,平成15年12月24日,独占禁止法改正の基本的考え方を公表した。その後,さらに検討を行い,具体的な独占禁止法改正(案)を取りまとめ,平成16年4月に公表した。

第2 下請法改正に伴う政令・規則の改正等

下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(平成15年政令第451号。平成15年10月3日公布。)
 役務に係る下請取引を対象に追加すること等を内容とする下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律(平成15年法律第87号)については,平成16年4月1日から施行することとした。
下請代金支払遅延等防止法施行令の一部を改正する政令(平成15年政令第452号。平成15年10月3日公布、平成16年4月1日施行。)
 平成15年の下請法の改正に伴い,情報成果物作成委託及び役務提供委託が下請法の対象として追加されたが,これらの委託については政令で定める情報成果物及び役務に係るものを除いて,親事業者と下請事業者を画する資本金区分は1000万円及び5000万円とされている(下請法第2条第7項及び同条第8項)。一方,情報成果物作成委託及び役務提供委託のうち,政令で定める情報成果物及び役務に係るものについては,5000万円に代えて3億円を資本金区分として用いることとされている。
 そこで,中小企業基本法等の中小企業関係法令における規定を踏まえ,「下請代金支払遅延等防止法施行令の一部を改正する政令」を制定し,政令で定める情報成果物をプログラムと,また,政令で定める役務を1運送,2物品の倉庫における保管及び3情報処理とそれぞれ定めた。
3 公正取引委員会規則の改正等
 平成15年の下請法の改正に伴い,「下請代金支払遅延等防止法第三条の書面の記載事項等に関する規則」及び「下請代金支払遅延等防止法第五条の書類又は電磁的記録の作成及び保存に関する規則」を改正し,関係規定について所要の整備を行った(平成15年12月11日官報掲載)。
 また,平成15年の下請法改正により,対象となる下請収引の範囲の拡大等が行われたことに伴い,「下請代金支払遅延等防止法第四条第一項に関する運用基準について」(事務総長通達)の内容を見直し,改正下請法の運用に係る考え方を明らかにした(平成15年11月公表)。

第3 その他の所管法令の改正

公正取引委員会事務総局組織令の改正
 行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律の制定に伴い,公正取引委員会事務総局官房及び官房総務課の所掌事務に個人情報の保護に関する事務を加えることを内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(平成15年政令第551号)。平成15年12月25日公布,平成17年4月1日施行)。

第4 独占禁止法と他の経済法令等との調整

1 法令調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成15年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 電波法等の一部を改正する法律案
 総務省は,電波の有効利用を促進する観点から,電波法及び有線電気通信法の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)電波の迅速な再配分により周波数の使用期限が早期に到来する既存免許人に対して給付金を支給する制度の創設,(2)無線局の登録制度の導入,(3)サイバー犯罪に関する条約(仮称)を踏まえて所要の罰則規定の整備等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,周波数の使用期限が早期に到来する既存免許人に対する給付金制度等について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第159回国会に提出され,平成16年5月12日可決・成立した。
(2) 卸売市場法の一部を改正する法律案
 農林水産省は,卸売市場をめぐる環境の変化にかんがみ,生産・消費両サイドの期待に応えられる「安全・安心」で「効率的」な流通システムへの転換を図るとの観点から,卸売市場法の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)卸売市場における品質管理の高度化,(2)卸売市場の再編の促進,(3)商物一致規制の緩和,(4)卸売業者等の事業活動に関する規制の緩和,(5)仲卸業者に対する財務基準の明確化,(6)卸売業者が行う取引情報公表の充実等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,卸売業者等の事業活動に関する規制の緩和について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第159回国会に提出され,平成16年6月3日可決・成立した。
(3) 信託業法を改正する法律案
 金融庁は,信託の活用に対するニーズ等へ柔軟に対応し国民経済の健全な発展を促す観点から,信託業法その他の関係法律の改正を立案した。
 本法律案は,(1)知的財産権を含む財産権一般を受託可能なものとする受託可能財産の範囲の拡大,(2)免許制の下で,政令で定める金額以上の資本金を有する株式会社が一般の信託会社として信託業を営めるようにする,(3)信託契約代理店制度及び信託受益権販売業者制度の創設,(4)信託会社による販売や顧客勧誘に当たってのルールの整備,(5)信託会社に対する報告徴収,立入検査等の監督に係る手続の整備等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,参入規制の基準の明確化等について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第159回国会に提出され継続審議となった。
(4) 証券取引法等の一部を改正する法律案
 金融庁は,内外の経済・金融情勢の変化に対応し,市場機能を中核とする金融システムを改善・強化するとの観点から,証券取引法等の一部改正を立案した。
 本法律案は、(1)証券取引における課徴金制度の導入,(2)証券取引等監視委員会の検査範囲の拡大,(3)銀行等の金融機関による証券業務の範囲の拡大等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,銀行等の金融機関による証券業務の範囲の拡大に伴い設けられる弊害防止措置等について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第159回国会に提出され,平成16年6月2日可決・成立した。
(5) 著作権法の一部を改正する法律案
 文化庁は,著作権制度をめぐる内外の情勢の変化に対応し,著作権等の適切な保護に資するため,(1)専ら国外において頒布することを目的とする商業用レコードを情を知って国内において頒布する目的をもって輸入する行為等を一定の要件を満たす場合に限り,著作権等の侵害行為とみなすこととする,(2)書籍又は雑誌の貸与による公衆への提供について貸与権が及ぶこととする,(3)著作権等を侵害した者に対する罰則を強化するための措置等を講ずる等を内容とする著作権法の一部改正を立案した。
 公正取引委員会は,我が国における商業用レコードの販売については,再販売価格維持契約が独占禁止法適用除外行為として認められている中,上記(1)の措置が講じられた場合には,市場における競争に与える影響が懸念されるため,一般消費者の利益の確保を図るとの観点から本法律案について所要の調整を行った。
 なお,本法律案は,第159回国会に提出され,平成16年6月3日可決・成立した。
 このほか,破産法の一部を改正する法律案,行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律等の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令案について,所要の調整を行った。
2 行政調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の問題を生じないよう,当該行政機関と調整を行うこととしている。

第5 独占禁止法の措置体系及び独占・寡占規制の見直し

独占禁止法の措置体系及び独占・寡占規制の見直しの必要性
 独占禁止法は,昭和52年に大幅な強化改正が行われた後,四半世紀が過ぎているが,この間,我が国の経済・社会構造は大きく変化してきており,昭和52年に導入された制度についても今日の経済実態に適合したものか否かの見直しが求められているところである。
 独占禁止法の措置体系の見直しについては,平成15年3月に閣議決定された「規制改革推進3か年計画(再改定)」において,「厳正な独占禁止法の執行を図る観点から,現在の独占禁止法の措置体系及び公正取引委員会に付与されるべき権限の在り方についての一体的な検討を行い,また,これに伴い,公正取引委員会における審査機能・体制の見直し・強化を行う。」とされたほか,公正取引委員会を内閣府の外局に移行させるための関係法律の整備に関する法律案に対する衆議院経済産業委員会の附帯決議(平成15年3月),参議院経済産業委員会の附帯決議(同年4月)においても,「独占禁止法について,違反行為に対する措置体系の抜本的な見直しの検討を含め,その一層厳正な執行力の強化を図る」とされているところである。また,独占・寡占規制の見直しについては,前記「規制改革推進3か年計画(再改定)」において「公正取引委員会の審査体制及び機能を強化し,独禁法違反被疑事実に関する処理の迅速化を図る。」とされるなど,近年,ボトルネック設備に起因する独占・寡占的市場構造を背景とした新規参入阻害行為に対して効果的に対処する必要性が指摘されている。
2 独占禁止法研究会の開催
 公正取引委員会は,従来から独占禁止法について経済・社会構造の変化を踏まえた見直しを行ってきており,平成14年10月から「独占禁止法研究会」(座長 宮澤 健一 一橋大学名誉教授)を開催し,上記1の課題について検討を行った。また,同研究会は,より専門的かつ集中的な検討を行うため,「措置体系見直し検討部会」(座長 根岸 哲 神戸大学大学院法学研究科教授)と「独占・寡占規制見直し検討部会」(座長 後藤 晃 東京大学先端経済工学研究センター教授)を開催した。
 同研究会は,各部会における検討結果に基づき,平成15年10月28日,「独占禁止法研究会報告書」を取りまとめ,公表した。同報告書の概要は次のとおりである。
第一部 措置体系の見直し
(1) 課徴金算定率の引上げ,対象行為の拡大
 課徴金制度の性格の変更:「不当利得の剥奪」→「違反行為に伴う損失相当と擬制できる金銭の徴収」
 課徴金算定の一定率を引き上げ,繰り返し違反行為を行った場合等について加算制度を導入
 課徴金の適用範囲の拡大
(2) 措置減免制度導入
 法定要件に該当すれば,課徴金を減免
(3) 刑事告発手続・罰則規定の見直し
 犯則調査権限の導入
 間接調査権限及び確定審決違反罪に係る罰則については,他法令の規定を参考としつつ引上げ
 不公正な取引方法については,消費者保護等の観点から,違反行為による被害が著しく,競争秩序を侵害する程度の大きいものなどへの罰則導入を検討
(4) 審判手続等の見直し
 排除措置と課徴金納付命令の同時化
 勧告を排除措置命令とし,命令前に意見申述等の機会を付与
 課徴金納付命令について不服があり,審判開始決定した場合には,課徴金を納付させるか又は供託させる制度とする。
第二部 独占・寡占規制の見直し
(1) 不可欠施設等の存在する場合の参入阻止行為への迅速,効果的な対処
 独占・寡占規制は,参入阻止行為の排除を基本とすべき
 今日的な独占の問題として,「不可欠施設等」に着目
 不可欠施設等を有することにより競争上圧倒的に有利な立場にある事業者による参入阻止行為を,迅速,効果的に排除
(2) 価格の同調的引上げに関する報告徴収規定の見直しの方向性
 経済実態の変化,企業の意識の変化と行政コストを勘案し,本制度は廃止
 あらかじめ法定した寡占業種での価格引上げ行為に限定せず積極的に調査を実施
 背景にカルテルのある同調的な価格引上げ行為に対しては,措置減免制度の導入などにより,効果的な摘発を実施
3 独占禁止法改正法案の検討
 公正取引委員会は,独占禁止法研究会報告書の公表後,同報告書に対する意見を広く一般から募集し,同報告書及び同報告書に対して寄せられた意見等を踏まえ平成15年12月24日に「独占禁止法改正の基本的考え方」を公表した。その後,更に検討作業を進め,具体的な独占禁止法改正(案)を取りまとめ,平成16年4月に公表した。改正(案)の概要は次のとおりである。
(1) 課徴金制度の見直し
 課徴金算定率の引上げ
 適用対象範囲の見直し
 罰金相当額の半分を,課徴金額から控除する調整措置を規定
(2) 課徴金減免制度の導入
 法定要件(違反事業者が自ら違反事実を申告等)に該当すれば,課徴金を減免
(3) 犯則調査権限の導入等
 刑事告発のために,犯則調査権限を導入
 刑事事件に係る東京高裁専属管轄制度を廃止
 不公正な取引方法等の違反行為に対する確定排除措置命令違反罪に係る法人重科の導入,調査妨害等に対する罰則の引上げ・両罰規定(法人に対する刑罰)
(4) 審判手続等の見直し
 意見申述等の事前手続を設けた上で排除措置命令を行い,不服があれば審判を開始(勧告制度を廃止)
 審判中は課徴金を強制徴収しない(審判後,納付命令が維持された場合は,金利を付加して納付)。
 審判官及び審判手続に関する規定の整備