第16章 その他の業務

第1 政策評価

 公正取引委員会は,行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)に基づき政策評価を実施しているところである。
 平成15年度においては,「平成14年度における独占禁止法違反行為に対する措置」のほか,8件の政策評価を実施・公表した。
 これら9件の政策評価の概要は,以下のとおりである。
(注)  評価方式について
 実績評価は,各施策等について,具体的にどのような成果を上げたか,各施策等の推進に向けて設定される目標がどの程度実現されたのか等について定期的・継続的に検証するもの。
 総合評価は,各施策等の経済的効果がどの程度みられたか等について,さまざまな角度から総合的に分析・検証するものであり,ある程度長期間にわたる検証を要するもの。
 事業評価は,各施策等について,必要性,対象妥当性,有効性等について,事前又は事後に評価するもの。
1 下請取引における電磁的記録の提供に係る法制の周知
(1)   施策の実施状況の概要
 下請取引における受発注が電子受発注の方法によって行われることに伴う親事業者から下請事業者に対する不当な費用負担の押し付け等が行われないよう,下請法違反行為を未然に防止する関連ガイドラインを作成し,その周知を図る。平成13年度においては,次のような活動を行った。
 「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」(以下「留意事項」という。)を作成した(平成13年3月30日公表)。
 留意事項の周知活動
 下請取引適正化推進講習会(親事業者向け20か所,下請事業者向け11か所)等を開催し,留意事項の周知を行ったほか,日本商工会議所等約4,000か所に留意事項に係る資料を配布するなどした。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 電子受発注が拡大している中で,親事業者が下請事業者に一方的に電子受発注の実施を押し付けたり,不当に費用負担を押し付けたりするなどの懸念があったことから,留意事項を作成して周知を図ることについて,社会的必要性は高かったと考えられる。
 施策の有効性
 留意事項は,パブリックコメントを踏まえて適正に作成され,その周知活動も広範に行われたと評価できる。
 留意事項に関する親事業者の認識について調査したところ,調査対象の事業者のうち,90%が「よく知っている」又は「やや知っている」と,80%が公正取引委員会の周知活動を通じて知ったと回答しており,「まったく知らない」との回答は認められなかった。また,回答者の96%が留意事項は適切な電子受発注の推進に「資している」と回答している。さらに,平成13年度の定期書面調査において,下請取引における電子受発注に係る違反事例はなかった。これらのことから,留意事項は,違反行為の未然防止・下請取引の公正化に対して一定の有効性があったものと考えられる(第1図参照)。

第1図   留意事項に関するアンケート調査結果
(注:調査対象事業者100社 (うち有効回答数50社))

 今後,下請取引において電子受発注を実施する親事業者が増加することが予想されることから,今後とも留意事項の周知に努めていく必要がある。
 施策の効率性
 一般に,留意事項の周知活動等を通じて違反行為が未然に防止されれば,施策の実施がより効率的であると考えられる。留意事項の作成・公表については,一定の有効性があったと考えることができ(上記イ参照),下請取引の公正化にとって効率的であったのではないかと考えられる。
 なお,補足調査におけるヒアリングにおいて,(1)公正取引委員会から発信されるさまざまな情報の伝達について,郵送等から電子メールを使うことによって簡略化できる,(2)定期書面調査等を現行の紙媒体から電子化した方が効率的である,といった意見があり,当委員会の業務を電子化することにより,周知活動の手法について一層の効率化を行うことを検討する必要がある。
2 インターネット等に係る景品表示法上の問題の検討等
(1)   施策の実施状況の概要
 電子商取引のうち,特に対消費者電子商取引(以下「BtoC取引」という。)における広告表示について景品表示法上の問題の検討等を行い,その適正化を図る。平成13年度においては,次のような活動を行った。
 BtoC取引における広告表示に関する実態把握(インターネット・サーフ・デイの実施)(平成12年12月,同13年2月,10月,12月,同14年1月実施)
 「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」(以下「景品表示法上の留意事項等」という。)の作成(平成14年6月公表)及びその周知
 相談に対する回答(平成13年度2件,同14年度21件)
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
政府の「e―Japan2002プログラム―平成14年度IT重点施策に関する基本方針―」(平成13年6月)においては,「電子商取引等に係る消費者保護の推進を図る」とされていたところであり,BtoC取引に係る景品表示法上の問題の検討等を行う社会的必要性は高かったと評価できる。
 施策の有効性
 インターネット・サーフ・デイによる実態把握によれば,景品表示法上の問題が見られた広告表示の比率が20.0%(平成13年度調査)から5.0%(平成14年度調査)に低下した。今回の調査対象サイト数が少ないため確定的な評価を加えることができないが,以上のことから,BtoC取引に係る景品表示法上の問題の検討等が広告表示の適正化に対して一定の効果があったことがうかがわれる(第1表参照)。

第1表   インターネットを利用して行われる衣料品の取引における表示に係る問題事例の件数


 しかしながら,次のような更なる改善が必要であると考えられる。
(ア)  景品表示法上の留意事項等については,依然としてBtoC取引サイト上における不適正な表示が散見されることから,事業者等に対し更なる周知活動を行なうとともに,「電子商取引監視調査システム」を有効に活用するなど更に監視体制を強化し,違反行為の排除に努める必要がある。
(イ)  「電子商取引監視調査システム」により確認された違反行為の形態等を整理し,急速に変化するBtoC取引の表示実態を的確に把握することにより,不当表示等の景品表示法違反行為の早期発見に努めるとともに,留意事項を追加・補充し,新たな手法による景品表示法違反行為について迅速に対応できるようにする必要がある。
 施策の効率性
 一般に,景品表示法上の留意事項等の周知活動等を通じることで多くの違反行為が未然に防止されれば,施策の実施がより効率的であると考えられる。今回の景品表示法上の留意事項等の作成・公表については,一定の効果があったことがうかがわれることから,広告表示の適正化のためには効率的な方法であったのではないかと考えられる。
3 法制度の在り方の見直し・検討
(1)   施策の実施状況の概要
 経済活動の基本ルールである独占禁止法等について,経済活動のグローバル化の進展等による著しい経済・社会構造の変化等を一層踏まえたものとするよう見直し・検討を行った。平成13年度においては,(1)一般集中規制に係る規定,(2)手続等に係る規定について見直し・検討を行い,平成14年3月に国会に提出した。
 それぞれの法改正の内容は,次のとおりである。
 一般集中規制に係る規定の見直し
(ア)  大現模会社の株式保有総額制限の廃止・事業支配力の過度集中規制の整備
(イ)  金融会社による議決権保有制限の対象範囲の縮減
 手続等に係る規定の見直し
(ア)  在外者に対する書類の送達手続等の整備
(イ)  既往の違反行為に対する措置の対象行為の追加
(ウ)  法人等に対する罰金の上限額の引上げ(1億円→5億円)
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
(ア)  一般集中規制に係る規定の見直し
 「規制改革推進3か年計画」(平成13年3月30日閣議決定)において,「一般集中規制(持株会社規制,大規模会社の株式保有総額制限,金融会社の株式保有規制)の見直し」が掲げられているなど,社会的必要性は高かったものと評価できる。
(イ)  手続等に係る規定の見直し
 独占禁止法研究会,21世紀にふさわしい競争政策を考える懇談会からその見直しが提言されていたなど,社会的必要性は高かったものと評価できる。
 施策の有効性
 これらの見直しが公正かつ自由な競争の促進に与えた影響について,現時点において,直接的・計量的に測定することは,困難であるので,一部の事業者からヒアリング調査を行うこと等により,定性的に評価した。
(ア)  一般集中規制に係る規定の見直し
 今回の見直しは,経済実態調査によって得られた経済実態を踏まえたものである。(経済実態調査によれば,広く薄い株式保有は,減少又は解消される方向にある。)
 ヒアリング調査によれば,独占禁止法第9条の2の規定の廃止により,今後,グループ企業の再編等が行いやすくなったなどの意見が挙げられた。
 また,ヒアリング調査において,株式保有する場合には支配可能な程度の株式を保有するとの意見が挙げられるなど,今後も企業グループの株式保有関係の密接化の動きもうかがわれる。
(イ)  手続等に係る規定の見直し
 各種の送達が可能となって円滑な審査活動が可能となり,また,既往の違反行為に対する措置の対象の追加・法人等に対する罰金の上限額の引上げによって違反行為に対する措置の拡充が図られ,これらのことは公正かつ自由な競争の促進に当然に資するものと評価できる。
 施策の効率性
 これらの見直しについて,代替的な活動はなく,また,短期間で行われたと評価できる。
4 平成14年度における独占禁止法違反行為に対する措置
(1)   施策の実施状況の概要
 過去20年で平成13年度に次いで多い法的措置件数となっており,このうち入札談合事件は30件の法的措置を行った。また,IT分野等,不当廉売事件についても厳正に対処した。課徴金納付命令額は43億3400万円,課徴金納付命令件数は延べ561件であった。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 構造改革を実現するために競争政策の強力な実施が求められているところであり,特に独占禁止法違反行為に対する厳正な対処が必要である。
 目標達成の程度
 平成14年度は,平成13年度に次いで多い法的措置件数となっており,違反行為に厳正に対処したものと評価できる。
 他方,今後,(1)申告情報の事件処理化の促進,(2)申告の適切な処理,(3)違反行為に対して引き続き厳正に対処するほか,(4)積極的対処が求められている諸分野を中心として審査体制を整備しつつ,独占禁止法違反行為に対して積極的に排除していくことが必要である。
 施策の有効性
 総合評価において,法的措置の前後における価格の動向等を調査し,その結果を取りまとめている(下記6平成13年度における独占禁止法違反行為に対する措置―2件の入札談合事件についての経済的効果の分析―)。
 施策の効率性
 警告に係る事件に投入された人員・時間は,勧告に係る事件の約56%,注意に係る事件は同じく約23%,打切りとなった事件は同じく約45%であった。今後,事件担当部署の審査長等が担当事件処理の繁閑を見極めながら,リソースの効率的な配分に努め,注意本来の主旨に沿った迅速な事件処理に配意する必要がある。また,複雑かつ巧妙化する独占禁止法違反事件の処理を的確に行うため,公正取引委員会の審査部門全体にわたる定員の増加が今後も引き続き必要である。
5 平成14年度における景品表示法違反行為に対する措置
(1)   施策の実施状況の概要
 事件処理数が排除命令22件,警告402件,注意110件の計534件。排除命令件数は,過去20年間で見ると最も多い件数である。特に,不当表示事件は対前年度84件増と大幅に増加している。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 「規制改革推進3か年計画(再改定)」において,「規制改革を推進し,事後監視型行政への転換を図るに際し,消費者が適正な商品選択をできる環境の確保が不可欠である」とされているところ,公正取引委員会においても,商品又はサービスの品質等の内容や価格等の取引条件について誤認を与えることにより,消費者の適正な選択を妨げる不当表示及び不当な顧客誘引となる過大な景品提供行為に対して,景品表示法に基づいて厳正・迅速に対処することが必要不可欠であると考えられる。
 施策の有効性
 排除命令は違反行為を行っていた事業者に対する違反行為の排除効果のみならず,業界全体に対する抑止効果を持つことが認められる。業界の特徴を踏まえ,引き続き,より多くの個別事件の迅速・厳正な処理,ないし,重大な違反事件の優先的な処理が必要である。
 施策の効率性
 排除命令事件の処理スピードが年々遅延傾向にあるため,今後,一層の迅速化の努力が必要である。公正取引委員会の景品表示法違反事件調査部門全体にわたる定員の増加が必要であるとともに,景品表示法違反事件調査部門の職員の調査能力の向上や調査手法の改善にも積極的に取り組む必要がある。
6 平成13年度における独占禁止法違反行為に対する措置
  ―2件の入札談合事件についての経済的効果の分析―
(1)   総合評価の測定・検証の方法
 平成13年度に排除勧告が行われた2件の違反事件(山形県新庄市及び最上郡の地区における山形県発注の農業土木工事をめぐる入札談合事件及び国土交通省の地方運輸局等が発注する自動車検査用機械器具をめぐる入札談合事件)について,総合的に分析した。
(2)   評価結果の概要
 施策の有効性(経済的効果)
 排除勧告による経済的効果は,限定的な期間による試算の場合でも,前者においては63百万円,後者においては483百万円と推計される。
 施策の効率性
 平成13年度に法的措置を採った事件の平均事件処理期間は286日であったことから,これら2事件(183日及び225日は相対的に迅速な処理がなされたものと評価される。また,上記のような経済的効果を数千万のコストで実現した。
7 「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」
   の作成・公表
(1)   施策の実施状況の概要
 平成13年11月30日に「電気通信事業分野における競争の促進に関する指針」を作成・公表した。
 平成14年12月25日に同指針を改定・公表した。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 いわゆるIT基本法において,電気通信事業者間の公正な競争の促進に関する規定が設けられるなど,電気通信事業分野における公正かつ自由な競争を促進していくことが政府全体としての重要な政策課題の一つとされているところであり,また,電気通信事業分野を含む我が国の情報通信産業の市場規模は,一貫して増加している状況にあり,社会的な必要性に対応したものであったと評価できる。
 施策の有効性
 施策に関してアンケートを実施したところ,一般事業者の約7割は指針が分かりやすい記述になっていると回答し,約8割は指針を社内周知していると回答していること,また,高シェア事業者においては,すべての事業者が指針は分かりやすい記述になっていると回答し,指針遵守のための取組及び指針に記載された「競争を一層促進する観点から事業者が採ることが望ましい行為」を実施していると回答していることから,指針の作成・公表は,電気通信事業分野における公正かつ自由な競争の維持・促進に有効性があったと評価できる。
 施策の効率性
 「規制改革推進3か年計画」において,平成13年中の取りまとめ・公表が規定されていたところ,この規定どおりに公表を行うことができており,効率的に行われたものと評価できる。
8 事業活動に関する相談指導体制
(1)   施策の実施状況の概要
 独占禁止法違反行為の未然防止を図るため,事業者及び事業者団体からの電話・来庁等による相談に積極的に対応した。また,全国の商工会議所及び商工会の相談窓口を活用し,独占禁止法相談ネットワークとして,中小企業等から相談を受け付けた。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 事業者等からの相談件数は年平均1,922件にのぼり,事業者等へのアンケート調査では,「相談後の活動を安心して実施できた」等の意見があったところであり,こうした状況にかんがみれば,相談指導体制の整備の必要性は高いと評価できる。
 施策の有効性
 事業者及び事業者団体へのアンケート調査では,多くが相談対応に満足し,回答を実際の事業活動にいかしていると回答しており,有効性があったと評価できる。今後,相談指導体制そのものに対する事業者の認知度を向上させるための工夫が必要である。
 施策の効率性
 平均処理期間が平成11年度を100%とした場合,73.3%となっており,効率性が向上していると評価できる。
9 行政手続等の電子化の取組(独占禁止法等の申請・届出関係)
(1)   施策の実施状況の概要
 独占禁止法違反等に係る申告及び景品表示法違反等に係る申告については,平成14年4月から運用を開始。他の残りの申請・届出等手続についても,試験運用を平成15年3月に開始した。
(2)   評価結果の概要
 施策の必要性
 電子政府の推進は,我が国の重要政策課題であり,「e―Japan重点計画―2002―」においても「国民等と行政との間の実質的にすべての申請・届出等手続を,2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにする」とされており,電子化は,国や社会のニーズに照らして必要性があったと評価できる。
 施策の有効性
 公正取引委員会における申請・届出等手続の電子化は,当然に国民の負担の軽減に資するものであり,有効なものであったと評価できる。特に,公正取引委員会における申請・届出等手続の23件について,平成14年度までにすべて運用を開始した。
 施策の効率性
 今回の電子化の運用開始までの所要日数の大小のみを指標として,直ちにその効率性を測定することは十分ではないが,「e―Japan重点計画―2002―」において「国民等と行政との間の実質的にすべての申請・届出等手続を,2003年度までのできる限り早期にインターネット等で行えるようにする」とされているところ,「独占禁止法違反等に係る申告」に係る電子窓口及び「景品表示法違反等に係る申告」に係る電子窓口については,平成14年4月までに運用開始しており,残りの申請・届出等手続については,平成15年3月に試験運用を開始しており,効率的に行われたものと評価できる。

第2 電子政府の実現に向けた取組

 IT化の進展を踏まえて,政府全体で電子政府の実現に向けた取組を行っているところ,公正取引委員会においても,独占禁止法に基づく申請・届出等について,インターネット等を利用したオンライン化を推進し,事業者の負坦の軽減及び行政の効率化を図るための取組を行っている。具体的には,当委員会の所管する申請・届出等手続23件について平成14年度中にオンライン化を実現した。また,平成15年度は,情報公開の開示請求手続のオンライン化を実現した。