第8章 株式保有・合併等

第1 概説

 独占禁止法第4章は,事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立等の禁止(第9条)及び銀行又は保険会社の議決権保有の制限(第11条)について規定しているほか,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合及び不公正な取引方法による場合の会社等の株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等の禁止並びに一定の条件を満たす企業結合についての届出又は報告義務(第10条及び第13条から第16条まで)を規定しており,公正取引委員会は,かかる規定に従い,企業結合審査を行っている。

第2 「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」の公表

 企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについての審査(企業結合審査)について,公正取引委員会は,これまでガイドラインの作成や重要案件の公表等を通じて,審査内容の透明化・明確化に努めてきている。
 公正取引委員会は,平成14年12月に公表した「事前相談に対する対応方針」に基づき,詳細審査事案については,回答を文書で行うとともに,回答書において,一定の取引分野の画定の考え方や独占禁止法上の判断の理由等についてできるだけ詳細に記載し,その内容を公表するなど透明かつ明確な企業結合審査を行っているところであるが,さらに,企業結合審査の考え方をより明確に示すとの観点から,「株式保有,合併等に係る「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」の考え方」の見直しを行い,平成16年5月31日,「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」を策定・公表した。
 同運用指針のポイントを挙げると以下のとおりである。
(1)  同一企業グループ内の企業結合について,子会社との合併等に加え,孫会社との合併等,兄弟会社の子会社との合併等についても,通常,企業結合の審査の対象とならない旨明記した。
(2)  一定の取引分野の画定の考え方と考慮要素をより詳細に示した。
(3)  企業結合の類型(水平型・垂直型・混合型)ごとに,企業結合がどのような場合に一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるかについて,分析の枠組と判断要素を明確化した。
(4)  「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない」類型を拡大・明確化した。
(5)  企業結合が競争を実質的に制限することとなるという問題を解消するための措置(問題解消措置)の類型として,事業部門の営業譲渡等があることを明記した。

第3 独占禁止法第9条の規定による報告・届出

 独占禁止法第9条第1項及び第2項の規定では,他の国内の会社の株式を所有することにより事業支配力が過度に集中することとなる会社の設立・転化を禁止しており,当該会社及び子会社の総資産合計額が,(1)持株会社については6000億円,(2)銀行業,保険業又は証券業を営む会社(持株会社及び証券仲介業者を除く。)については8兆円,(3)一般事業会社((1)及び(2)以外の会社)については2兆円を超える場合には,(1)毎事業年度終了後3か月以内に当該会社及び子会社の事業報告書を提出すること(同条第5項),(2)当該会社の新設について設立後30日以内に届け出ること(同条第6項)が義務付けられている。
 平成15年度において,法第9条第5項の規定に基づき提出された会社の事業報告書の提出件数は76件であり,同条第6項の規定に基づき提出された会社の設立の届出は4件であった。

第4 株式保有

1 会社の株式保有
 独占禁止法第10条第2項及び第3項の規定では,総資産が20億円を超えかつ総資産合計額(当該会社の総資産並びに親会社及び子会社の総資産の合計額。以下同じ。)が100億円を超える会社が,総資産が10億円を超える国内の会社又は国内売上高(国内の営業所の売上高及び国内の子会社の売上高の合計額。以下同じ。)が10億円を超える外国会社の株式を10%,25%又は50%を超えて取得し,又は所有することとなる場合には,この比率を超えることとなった日から30日以内に,公正取引委員会に株式所有報告書の提出が義務付けられている。
 平成15年度において,公正取引委員会に堤出された会社の株式所有報告書の件数は,959件であり,うち外国会社によるものは41件であった。
 公正取引委員会は,株式所有報告書に基づいて,会社の株式の取得若しくは所有により,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は株式の取得若しくは所有が不公正な取引方法によるものではないかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
2 銀行又は保険会社の議決権保有
 独占禁止法第11条第1項の規定では,銀行又は保険業を営む会社が他の国内の会社の議決権をその総株主の議決権の100分の5(保険会社は100分の10)を超えて保有してはならないとされている。ただし,あらかじめ公正取引委員会の認可を受けた場合は同項の規定の適用を受けない(同条第1項ただし書,第2項)。
 平成15年度において,公正取引委員会が認可した銀行又は保険会社の議決権保有の件数は13件であり,このうち同条第1項ただし書の規定に基づくものは1件(銀行に係るもの1件),同条第2項の規定に基づくものは12件(銀行に係るもの12件)であった。また,同条の規定に基づく認可のうち,外国会社に係るものはなかった(なお,銀行又は保険会社の議決権保有についての詳細は,附属資料5―1参照。)。

第5 合併・分割・営業譲受け等

1 概要
 一定の規模を超える会社が,合併,分割,営業譲受け等を行う場合には,それぞれ独占禁止法第15条第2項及び第3項,第15条の2第2項,第3項及び第5項又は第16条第2項及び第3項の規定により,公正取引委員会に届け出なければならないこととされている(ただし,親子会社間及び兄弟会社間の合併,分割及び営業譲受け等については届出が不要である。)。
 届出が必要な場合は,具体的には次のとおりである。
(1)   合併の場合


(2)   共同新設分割の場合


(3)   吸収分割の場合


(4)   営業譲受け等の場合


 平成15年度における届出受理件数は,合併の届出が103件,分割の届出が21件,営業譲受け等の届出が175件であった。
 公正取引委員会は,合併,分割,営業譲受け等により一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか,又は当該行為が不公正な取引方法によるものではないかについて調査を行っており,前者については,個々のケースごとに,当事会社の地位,市場の状況等を総合的に勘案して判断している。
 平成15年度に届出を受理したもののうち,独占禁止法第15条第1項,第15条の2第1項及び第16条第1項の規定に違反するとして,同法第17条の2第1項の規定に基づき排除措置を採ったものはなかった。
2 合併・分割・営業譲受け等の動向
 平成15年度における合併の届出受理件数は,103件であり,前年度の届出受理件数112件に比べ減少している(対前年度比80%減)。
 平成15年度における分割の届出受理件数は,21件であり,前年度の届出受理件数と同数である。
 平成15年度における営業譲受け等届出受理件数は,175件であり,前年度の届出受理件数197件に比べ減少している(対前年度比11.2%減)。
 平成15年度に届出を受理した合併・分割・営業譲受け等を総資産額別,態様別,業種別,形態別でみると,次のとおりである(第1表,第2表,第3表,第4表,第5表。なお,合併・分割・営業譲受け等についての詳細な統計については,附属資料5―2以下参照。)。
(1)   総資産額別
 平成15年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数について,それぞれ合併後,共同新設分割においては新設後,吸収分割においては承継後,営業譲受け等の行為後の総資産を金額別にみると,次のとおりである。
 合併
 総資産100億円以上500億円未満の合併が46件(全体の44.7%)と最も多く,以下,10億円以上50億円未満の合併が18件(同17.5%),500億円以上1000億円未満の合併が12件(同11.7%)と続いている(第1表)。
 分割
(ア)  共同新設分割
 総資産100億円以上500億円未満の共同新設分割が2件(全体の50.0%),500億円以上1000億円未満及び1000億円以上の共同新設分割がそれぞれ1件(それぞれ全体の25.0%)となっている(第2表)。
(イ)  吸収分割
 総資産100億円以上500億円未満及び1000億円以上の吸収分割がそれぞれ5件(全体の29.4%)と最も多く,以下,500億円以上1000億円未満の吸収分割が4件(同23.5%),10億円以上50億円未満の吸収分割が2件(同11.8%)と続いている(第3表)。
 営業譲受け等
 総資産100億円以上500億円未満の営業譲受け等が51件(全体の29.1%)と最も多く,以下,1000億円以上の営業譲受け等が38件(同21.7%),10億円未満の営業譲受け等が33件(同18.9%)と続いている(第4表)。
(2)   態様別
 平成15年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を態様別にみると,合併については,すべてが吸収合併であり,新設合併はなかった。分割については,総数21件のうち,17件が吸収分割(81.0%),4件が共同新設分割(19.0%)であった。また,営業譲受け等については,総数175件のうち,166件が営業譲受け(94.9%),9件が営業上の固定資産の譲受け(5.1%)であった。
(3)   業種別
 平成15年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を業種別にみると,次のとおりである。
 合併
 卸・小売業が30件(全体の29.1%)と最も多く,以下,製造業が24件(同23.3%),サービス業が15件(同14.6%),運輸・通信・倉庫業が10件(同9.7%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が10件,化学・石油・石炭業が5件と多くなっている(第5表)。
 分割
 製造業が14件(全体の66.7%)と最も多く,以下,サービス業が3件(同14.3%),金融・保険業が2件(同9.5%)と続いている。
 製造業の中では,機械業が4件と最も多く,以下,化学・石油・石炭業,非鉄金属業及び金属製品業がそれぞれ2件と続いている(第5表)。
 営業譲受け等
 卸・小売業が57件(同32.6%)と最も多く,以下,製造業が49件(全体の28.0%),サービス業が14件(同8.0%),運輸・通信・倉庫業及び金融・保険業がそれぞれ8件(同4.6%)と続いている。
 製造業の中では,化学・石油・石炭業が13件,機械業が11件と多くなっている(第5表)。
(4)   形態別
 平成15年度の合併・分割・営業譲受け等の届出受理件数を形態別にみると,次のとおりである。
 合併
 合併の形態別件数(消滅会社数でみた件数)は152件であり,そのうち水平合併が113件(全体の74.3%)で最も多く,以下,混合合併29件(同19.1%),垂直合併10件(同6.6%)と続いている。
 分割
 分割の形態別件数(届出会社数でみた件数)は25件であり,そのうち水平関係が18件(全体の72.0%)で最も多く,以下,混合関係4件(同16.0%),垂直関係3件(同12.0%)と続いている。
 営業譲受け等
 営業譲受け等の形態別件数(譲渡等会社数でみた件数)は185件であり,そのうち水平関係が109件(全体の58.9%)で最も多く,以下,混合関係52件(同28.1%),垂直関係24件(同13.0%)と続いている。

第1表   総資産額別合併届出受理件数

(注)  1  総資産の額は,合併後のものである。
 2  平成10年の独占禁止法改正により,親子会社を含めた総資産合計額を届出対象の基準としているため,合併後の会社の単体総資産が10億以下となることがある。

第2表   総資産額別共同新設分割届出受理件数

(注)  総資産の額は,共同新設分割後の新設会社のものである。

第3表   総資産額別吸収分割届出受理件数

(注)  総資産の額は,吸収分割後の被承継会社のものである。

第4表   総資産額別営業譲受け等届出受理件数

(注)  総資産の額は,営業譲受け等行為後の譲受け等会社のものである。

第5表   平成15年度における業種別届出受理件数

(注)  業種は,合併の場合には新設会社及び存続会社の業種に,分割の場合には新設会社又は被承継会社の業種に,営業譲受け等の場合には営業譲受け等会社の業種によった。