第9章 不公正な取引方法の指定及び運用

第1 概説

 独占禁止法は,不公正な取引方法の規制として第19条において事業者が不公正な取引方法を用いることを禁止しているほか,事業者及び事業者団体が不公正な取引方法に該当する事項を内容とする国際的契約を締結すること,事業者団体が事業者に不公正な取引方法に該当する行為をさせるようにすること,会社及び会社以外の者が不公正な取引方法により株式を取得し又は所有すること,会社が不公正な取引方法により役員の兼任を強制すること,会社が不公正な取引方法により合併すること等の行為を禁止している(第6条,第8条第1項,第10条第1項,第13条第2項,第14条,第15条第1項及び第16条第1項)。
 不公正な取引方法として規制される行為の具体的内容は,公正取引委員会が法律の枠内で告示により指定することとされている(第2条第9項,第72条)。
 不公正な取引方法に関しては,上記規定に違反する事件の処理のほか,不公正な取引方法の指定に関する調査,不公正な取引方法の防止のための指導業務等がある。また,不公正な取引方法に関する事業者からの相談に積極的に応じることにより違反行為の未然防止に努めている。

第2 中小企業を取り巻く取引の公正化への取組について

 公正取引委員会は,従来から,中小事業者等に不当な不利益を与える不当廉売,優越的地位の濫用等の不公正な取引方法や消費者の適正な選択を妨げる不当表示等に対し,厳正かつ積極的に対処することとしている。
 このうち,不当廉売及び優越的地位の濫用に関する最近の取組は次のとおりである。
1 不当廉売に対する取組
(1)   不当廉売規制
 企業の効率性によって達成した低価格で商品を提供するのではなく,採算を度外視した低価格によって顧客を獲得することは,正常な競争手段とはいえず,これにより他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがある不当廉売は,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。
(2)   小売業における不当廉売事案の規制
 処理方針
 不当廉売事案については,(1)申告のあった事案に対しては,可能な限り迅速に処理することとし(原則2か月以内),(2)大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案で,周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみられる事案については厳正に対処することとしている。
 規制基準の明確化
 小売業における不当廉売規制の考え方については,昭和59年に「不当廉売に関する独占禁止法上の考え方」を公表しているところであるが,規制改革が進展している中で,独占禁止法違反行為の未然防止を図る観点から,酒類の取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成12年11月及び平成13年4月に,ガソリンの取引実態を踏まえた不当廉売等の規制についての考え方を平成13年12月に公表した。
 処理の状況
(ア)  警告
 平成15年度において,家電の小売業者1名及びガソリンの小売業者2名に対し,その販売に要する費用を著しく下回る価格で継続して販売し,又は不当に低い価格で販売し,周辺地域に所在する他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれを生じさせた疑いがある行為が認められたことから,それぞれ警告を行った。
 なお,ビールメーカーに対して,ビール・発泡酒の取引について,取引条件等の差別取扱いの規定に違反する疑いがある行為が認められたことから,警告を行った。
(イ)  注意
 平成15年度において,不当廉売につながるおそれがあるとして注意を行った件数は,第1表のとおりである。
 主要な事例としては,酒類の小売業者によるビールの販売,給油所によるガソリン等の販売に関するものがある。

第1表   小売業における不当廉売の注意件数(平成15年度)


2 優越的地位の濫用に対する取組
(1)   優越的地位の濫用規制
 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して,正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為(優越的地位の濫用)は,自己と競争者間及び相手方とその競争者間の公正な競争を阻害するおそれのあるものであり,不公正な取引方法の一つとして禁止されている。
(2)   大規模小売業者と納入業者との取引に関する実態調査
 大規模小売業者による取引先納入業者に対する優越的地位の濫用行為については,その性格上,取引先納入業者からの情報提供が期待しにくいことを踏まえ,従来から,納入業者からの申告を待たずに,積極的に実態調査を実施してきたところであり,最近では,「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」(平成3年7月)に示された違反行為等の有無について,調査を行っている。
 平成15年度においては,平成16年4月からの消費税の総額表示の義務化に伴う小売業者による納入業者に対する不当な仕入価格の引下げ,従業員派遣要請等の優越的地位の濫用が行われていないかを把握するため,大規模小売業者約300社,食料品,日用品,衣類,食器等の納入業者約3,700社に対しアンケート調査を実施し,独占禁止法上問題となると思われる行為を行っていた小売業者に対して個別にヒアリングを行い改善を求めた。
(3)   特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法
 公正取引委員会は,荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から,独占禁止法第2条第9項の規定に基づき「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(以下「物流特殊指定」という。)の指定を行うべく,原案を公表(平成16年1月20日原案公表,同月29日官報公告)した上で,公聴会を開催して学識経験者,関係団体等から広く意見を聴取した(同年2月13日)。公聴会で示された意見についての慎重な検討を行い,物流特殊指定を3月8日に告示した(平成16年公正取引委員会告示第l号)。物流特殊指定は,平成16年4月1日から施行された。