第1部 総論

第1 概説

我が国を取り巻く経済環境と競争政策の積極的展開
 我が国経済は,デフレの下で景気の低迷が続いていたが,平成14年初に景気は底入れし,とりわけ平成15年後半以降海外経済の復調による輸出の増加や設備投資の増加に伴って回復の足取りが一段と着実さを増してきている。
 経済の活性化による持続的成長の達成や透明性が高く公正な経済社会の実現等を図る観点から,近年,規制改革の推進と併せて,競争政策の積極的な展開を図ることが重要な政策課題となっている。平成15年度においても,第159国会の小泉内閣総理大臣の施政方針演説において,「21世紀にふさわしい競争政策を確立するため,独禁法の見直しに取り組」
むことが明言されており,また「規制改革推進3か年計画(再改定)」(平成15年3月28日閣議決定),「規制改革・民間開放推進3か年計画」(平成16年3月19日閣議決定)等の一連の政府レベルの決定においても,公正かつ自由な競争を促進するため,引き続き競争政策を積極的に推進することが明らかにされているところである。
2 平成15年度において講じた施策の概要
 このような状況を踏まえて,公正取引委員会は,平成15年度において,次のような施策に重点を置いて競争政策の運営に積極的に取り組んだ。
(1) 独占禁止法の改正に向けた検討
ア 独占禁止法研究会の開催
 前記のとおり,我が国経済の持続的成長等を実現するためには,競争政策の積極的な展開を図ることが求められている。特に,談合,横並び体質からの脱却,市場の活性化を図るため,独占禁止法の執行力,抑止力の強化が課題となっている。
 また,独占禁止法は,昭和52年に大幅な強化改正が行われた後,四半世紀が過ぎているが,この間,我が国の経済・社会構造は大きく変化してきており,昭和52年に導入された制度についても今日の経済実態に適合したものか否かの見直しが求められているところである。
 このような観点から,公正取引委員会は,独占禁止法の措置体系及び独占・寡占規制に関する見直しについて,具体的な制度改正案の検討を行うために,平成14年10月以降,「独占禁止法研究会」(座長 宮澤 健一 一橋大学名誉教授)を開催し,平成15年10月,その検討結果を公表し,関係各方面から意見を求めた。
 独占禁止法研究会報告書の主な内容は次のとおりである。
<独占禁止法研究会報告書の主な内容>
第一部 措置体系の見直し
課徴金算定率の引上げ,対象行為の拡大
措置減免制度の導入
法定要件に該当すれば課徴金を減免
刑事告発手続・罰則規定の見直し
犯則調査権限の導入
確定審決違反罪等に係る罪について罰金額の引上げ
審判手続等の見直し
排除措置と課徴金納付命令の同時化

第二部 独占・寡占規制の見直し
不可欠施設等の存在する場合の参入阻止行為への迅速・効果的な対処
価格の同調的引上げに関する報告徴収規定の見直し
イ 独占禁止法改正(案)のとりまとめ
 公正取引委員会は,前記独占禁止法研究会の報告書及び同報告書に寄せられた意見等を踏まえ,法制面の検討を行った上で,具体的な独占禁止法改正(案)をとりまとめ,平成16年4月に公表した。
 同改正(案)の主な内容は次のとおりである。
<独占禁止法改正(案)の主な内容>
課徴金制度の見直し
課徴金算定率の引上げ
適用対象範囲の見直し
罰金相当額の半分を課徴金額から控除する調整措置を規定
課徴金減免制度の導入
法定要件に該当すれば課徴金を減免
犯則調査権限の導入等
刑事告発のために,犯則調査権限を導入
確定排除措置命令違反罪に係る法人重科の導入,調査妨害等に対する罰則の引上げ・両罰規定
審判手続等の見直し
(2) 迅速かつ実効性のある法運用
ア 独占禁止法違反行為の積極的排除
 公正取引委員会は,従来から,独占禁止法違反行為に対し厳正かつ積極的に対処してきたところであり,平成15年度においては,迅速かつ実効性のある法運用という基本方針の下,特に,価格カルテル・入札談合行為,IT・公益事業分野における私的独占・新規参入阻害行為,中小事業者に不当な不利益を与える優越的地位の濫用・不当廉売などの不公正な取引方法等の独占禁止法違反行為に対し厳正かつ積極的に対応した。
 平成15年度における主な勧告事件は次のとおりである。


イ 企業結合規制の的確な運用
 独占禁止法は,一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる会社の合併,株式保有等を禁止している。事業活動のグローバル化等の経済環境の急速な変化に伴い,大企業の合併等大型の企業結合事案が増加傾向にある状況において,公正取引委員会は,我が国市場における競争的な市場構造が確保されるよう,企業結合規制の的確な運用を行っている。平成15年度においては,次のような大型の企業結合事案を処理した。
<平成15年度における主要な企業結合事案>
明治生命保険相互会社及び安田生命保険相互会社の合併
昭和電工株式会社及び協和発酵工業株式会社による酢酸エチルの共同生産会社の設立
株式会社ユアサコーポレーション及び日本電池株式会社の経営統合について
HOYA株式会社による日本板硝子株式会社からの磁気ディスク用ガラス基板事業の譲受け
株式会社北陸銀行と株式会社北海道銀行の経営統合
 また,公正取引委員会は,企業結合が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるか否かについての審査について,ガイドラインの作成や重要案件の公表等を通じて,審査内容の透明化・明確化に努めてきている。さらに,一定の取引分野の画定(いわゆる市場画定)や独占禁止法上問題となる場合の考え方等に関し,企業結合審査の透明性を一層確保し,予測可能性を一層高めるべきとの各方面からの要請が高まっていることから,当委員会は,これまでの企業結合審査の経験を踏まえて,従来のガイドラインの見直しを行い,平成16年3月に「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」(原案)を策定・公表し意見募集を行った。その後,同意見募集で提出された意見を十分に検討し,原案に一部修正を加えた上で,平成16年5月,「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」を策定・公表した。
(3) 競争環境の積極的創造に向けた調査・提言
ア 公共調達に係る発注制度改善の取組
 公共調達分野においては,依然として独占禁止法違反行為が見られているところであるが,公正収引委員会は,平成15年6月以降,公共調達における一層競争的な環境の実現と入札談合の効果的な防止を図るため,「公共調達と競争政策に関する研究会」(座長 金子 晃 慶應義塾大学名誉教授)を開催した。本研究会では,公共調達においても民間における調達と同様に,「(一定のコストに対して)最も価値の高い調達」が行われることが必要であるとの基本的考え方に基づき,公共調達の入札・契約方法等に関する様々な課題を抽出し,その改善のための方策について検討を行い,平成15年11月,その検討結果をとりまとめ,公表した。
 公益事業分野における規制改革に関する調査・ガイドラインの公表等
 公正取引委員会では,規制改革が進んでいる分野において,新規参入の促進等を図るため、独占禁止法上問題となる参入阻害行為等を明らかにしたガイドラインの公表等を行っている。
(ア)  一般廃棄物発電の余剰電力収引に関する取組
 公正取引委員会は,「電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法」に基づく制度(RPS制度)(注)が平成15年4月から開催されたことに伴い,新エネルギー等を変換して得られる電気(新エネルギー等電気)に係る取引について,一般廃棄物発電の余剰電力取引を対象として調査を行い,その実態の把握を行った。そして,この調査結果を踏まえ,独占禁止法違反行為の未然防止の観点から,平成15年8月,今後の一般廃棄物発電に係る新エネルギー等電気の取引について,独占禁止法上の考え方を示した。
(注)RPS制度
(Renewables Portfolio Standard)
 電気事業者に対して,毎年,その販売電力量に応じた一定割合以上のエネルギー等電気の利用を義務付け,新エネルギー等の更なる普及を図るもの。
(イ)  「高速バスの共同運行に係る独占禁止法上の考え方」の策定
 平成14年2月の改正道路運送法の施行により需給調整規制が廃止されたことにより,高速バスにおいては一定の新規参入が生じるなどの競争環境の変化が見受けられること,また,そうした中において平成15年5月に東北地区において高速バスを運行する乗合バス事業者による新規参入者の排除につながるおそれのある行為が行われたこと等を踏まえ,平成16年2月,「高速バスの共同運行に係る独占禁止法上の考え方」を示した。
(4) ルールある競争社会の推進に向けた取組
 市場参加者としての消費者に対する適正な情報提供の推進
(ア) 改正景品表示法の施行に向けた取組
 平成15年5月に成立した景品表示法一部改正法により,公正取引委員会が商品又は役務の内容について実際のものより著しく優良であると示す不当表示等に該当するか否かを判断するために必要があると認めるときは,当該表示をした事業者に対し,期間を定めて表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求め,当該資料が提出されない場合は不当表示とみなすこととする規定が導入された(景品表示法第4条第2項)。当委員会は,改正法の運用の透明性と事業者の予見可能性を確保するため,景品表示法第4条第2項の適用に関して,どのような資料であれば表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものに当たるのか等についての考え方を明らかにするべく,平成15年8月,「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針(案)」を公表し,関係各方面から広く意見を求め,これらの意見を十分検討した上で,同年10月,「不当景品類及び不当表示防止法第4条第2項の運用指針」を策定・公表した。
(イ)  景品表示法第4条第1項第3号に基づく  「有料老人ホーム等に関する不当な表示」の指定
 公正取引委員会は,有料老人ホームが提供する各種サービスの内容に係る消費者に誤認されるおそれのある表示を明確にすることにより,不当表示を未然に防止するとともに,不当表示に厳正に対処する観点から,平成15年5月以降4回にわたり開催した「有料老人ホームの表示に関する検討会」(座長 浦川 道太郎 早稲田大学法学部教授)における検討結果を踏まえ,景品表示法第4条第1項第3号に基づく指定を行うこととした。指定に当たっては平成16年1月,「有料老人ホーム等に関する不当な表示(案)」を公表し,同案に関する公聴会を開催した上,同年4月,「有料老人ホーム等に関する不当な表示」の指定を行った。
 また,「『有料老人ホーム等に関する不当な表示』の運用に当たっての基本的な考え方を定めるべく,平成16年3月,「『有料老人ホーム等に関する不当な表示』の運用基準(案)」を公表し,関係各方面から意見を求め,これらの意見を十分検討した上で,同年6月「『有料老人ホーム等に関する不当な表示』の運用基準」を策定・公表した。
(ウ) 景品表示法違反行為の積極的排除
 公正取引委員会は,消費者向けの商品・サービスの種類や販売方法が多様化する中で,消費者の適正な商品選択が妨げられることのないよう,景品表示法を厳正・迅速に運用することにより,不当表示の排除に努めており,平成15年度においては,次のような事件を含め計27件の排除命令を行ったほか、必要に応じ警告の措置を採るなど,積極的に事件処理に取り組んだ。
<平成15年度における主な排除命令>
有料老人ホームによる介護サービスの内容等に係る不当表示
生命保険会社による保険の入院給付金に係る不当表示
スポーツ用品の原産国に係る不当表示
無果汁の清涼飲料に係る不当表示
(エ) 消費者取引の適正化
 規制緩和の進展に伴い,消費者への適切な情報提供を推進し,消費者の適正な商品選択を確保していくことが重要な課題となっていることから,公正取引委員会では,景品表示法を厳正に運用し,不当表示の排除に努めるほか,消費者の関心の高い商品・サービスや電子商取引等の新しい分野における表示について実態調査を行うとともに,その結果を踏まえて当該分野において見られる表示について景品表示法上の考え方を明らかにするためのガイドラインの策定等を行い,消費者取引の適正化に努めている。平成15年度においては次のような取組を行った。
<平成15年度における主な取組>
保険商品の新聞広告等における表示の調査(平成15年5月)
インターネット接続サービスの取引に係る広告表示の実態調査(平成15年6月)
いわゆる「ノンアルコール飲料」の表示の適正化(平成15年7月)
温泉表示に関する調査(平成15年7月)
「消費者向け電子商取引における表示についての景品表示法上の問題点と留意事項」の一部改定(平成15年8月)
テレビショッピング番組の表示に関する実態調査(平成15年9月)
イ 下請法に関する業務
(ア) 改正下請法の施行に向けた取組
 平成15年の下請法の改正により新たに下請法の対象となった情報成果物作成委託及び役務提供委託のうち,政令で定める情報成果物及び役務に係るものについては,親事業者と下請事業者を画する資本金区分は3億円とされているところ,「下請代金支払遅延等防止法施行令の一部を改正する政令」(平成15年政令第452号)を制定し,政令で定める情報成果物をプログラムと,また政令で定める役務を(1)運送,(2)物品の倉庫における保管及び(3)情報処理とそれぞれ定めた。また,下請法の改正に伴い,親事業者の発注書面の交付義務及び書類の作成保存義務の詳細について,公正取引委員会規則等の所要の整備を行った。
 さらに,公正取引委員会は,平成16年4月以降新たに下請法の対象となる,ソフトウェア制作業,テレビ番組制作業,広告制作業及びビルメンテナンス業について,関係事業者による同法違反行為の未然防止に資するために,これら4業種における下請取引の実態調査を行い,平成16年2月,その結果を公表した。
(イ) 下請法違反行為の積極的排除
 公正取引委員会は,中小企業の自主的な事業活動が阻害されることのないよう,下請法の厳正かつ迅速な運用により,下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護に努めており,平成15年度においては,次のような事件に対し勧告を行ったほか,必要に応じ警告の措置を採るなど積極的に事件処理に取り組んだ。
<平成15年度における主な勧告>
電気機械器具製造業者(親事業者)による下請事業者に対する下請代金減額事件
繊維製品販売業者(親事業者)による下請事業者に対する不当な製品の返品事件
ウ 不当廉売,優越的地位の濫用に対する取組
(ア) 不当廉売に対する取組
 小売業における不当廉売については,周辺事業者の経営に与える影響が大きいことから,公正取引委員会は,迅速に処理する方針の下で対応している。
 また,大規模な事業者による不当廉売事案又は繰り返し行われている不当廉売事案で周辺の販売業者に対する影響が大きいと考えられるものについては,周辺の販売業者の事業活動への影響等について個別に調査を行い,問題のみられる事案については厳正に対処している。
 平成15年度においては,小売業者による家電製品及び石油製品の不当廉売事案に関し,計3件の警告を行ったほか,不当廉売につながるおそれがあるとして653件(酒類507件,石油製品75件,その他71件)の注意を行った。
 また,公共建設工事及び設計コンサルタント分野における不当廉売事案についても積極的に対処し,平成16年4月,2件の警告を行った。
<平成15年度における警告>
家電小売業者による不当廉売事件
石油製品小売業者による不当廉売事件
(イ) 優越的地位の濫用に対する取組
 公正取引委員会は,独占禁止法上の不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用行為が行われないよう監視を行うとともに,独占禁止法又は関係法令に違反する行為については厳正に対処することとしており,平成15年度においては,大規模小売業者による優越的地位の濫用行為に対し,2件の排除勧告を行った。
 また,平成16年4月からの消費税の総額表示の義務化に伴う小売業者による納入業者に対する不当な仕入価格の引下げ,従業員派遺要請等の優越的地位の濫用が行われていないかを把握するため,大規模小売業者及び納入業者を対象にアンケート調査を実施し,独占禁止法上問題と思われる行為を行っていた小売業者に対して個別にヒアリングを行い改善を求めた。
<平成15年度における勧告>
大規模小売業者による返品,従業員派遣要請,購入強制等に係る優越的地位の濫用事件
大規模小売業者による購入後の値引きに係る優越的地位の濫用事件
(ウ)  独占禁止法第2条第9項に基づく「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」の指定
 公正取引委員会は,下請法の改正後も下請法による規制の対象とならない荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制する観点から,独占禁止法第2条第9項の規定に基づき「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」の指定を行うこととし,平成16年1月に原案を公表し,公聴会を開催して広く各方面の意見を聴取した。その後,提出された意見について慎重に検討した上,「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」の指定を行った(平成16年3月8日告示)。
(5) 経済のグローバル化への対応
 企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間の協力の強化の必要性が高まっている。このような状況を踏まえ,公正取引委員会は,二国間独占禁止協力協定を通じ,海外競争当局との協力関係の強化に努めている。また,公正取引委員会は,経済連携協定の重要な要素の一つとして,競争政策を積極的に位置づける方向で,関係省庁等との連携を図るとともに,経済連携の枠組みの検討,OECD(経済協力開発機構),WTO(世界貿易機関),ICN(国際競争ネットワーク)等といった多国間における検討にも積極的に参加している。
 また,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・競争政策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。公正取引委員会は、これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術支援を行っている,
 平成15年度における主な取組は次のとおりである。
<平成15年度における主な取組>
オーストラリアとの独占禁止協力協定に関する意見交換の開始(平成15年5月)
日・欧州共同体独占禁止協定の署名(平成15年7月)
開発途上国競争政策研修の実施(平成15年8月・9月)

第2 業務の大要

業務別に見た平成15年度の業務の大要は,次のとおりである。
1 独占禁止法と他の経済法令等の調整
 電波法,卸売市場法,信託業法等の一部を改正する法律案等の経済法令等について,関係行政機関が立案するに当たり,所要の調整を行った。
2 独占禁止法違反被疑事件の審査及び処理
 独占禁止法違反被疑事件として平成15年度に審査を行った事件は161件であり,そのうち同年度内に審査を完了したものは123件であった。また,平成15年度中に25件の法的措置(独占禁止法第48条の規定に基づく勧告)を延べ405事業者に対して採った(第1図参照)。
 なお,これらのうち9件について審判開始決定がなされ,審判手続に移行した。
 平成15年度の法的措置件数25件を行為類型別にみると価格カルテル3件,入札談合14件,不公正な取引方法7件,その他1件となっている(第2図参照)。

第1図 法的措置件数と対象事業者等の数の推移


第2図 行為類型別の法的措置件数


 平成15年度の法的措置以外の事件としては,後記の不当廉売についての事件を除き,警告10件,注意75件及び違反事実が認められなかったため審査を打ち切った事件10件となっており,法的措置を採ったものと合わせてこれらを類型別にみると,私的独占3件,価格カルテル4件,入札談合19件,その他のカルテル1件,不公正な取引方法76件,その他の行為20件となっている。
 不当廉売事案については,3件の警告を行うとともに,違反につながるおそれのある行為に対し653件の注意を行うなど,適切な法運用に努めた。
 また,平成15年度の課徴金については,価格カルテル及び入札談合事案について,総計24件,総額38億6996万円の納付を命じた(第3図参照)。
 なお,このほか,53件の課徴金納付命令(課徴金額7億4108万円)については,審判開始決定がなされ,審判手続に移行した。

第3図 課徴金額等の推移


 平成15年度における審判事件数は,前年度から引き継いだもの83件を含め,独占禁止法違反に係るものが23件、課徴金納付命令に係るものが137件の計160件であった(第4図参照)。これらのうち,平成15年度中に,20件について審決を行った。この内訳は,審判審決2件,同意審決4件,課徴金納付を命ずる審決14件である。

第4図 審判事件数の推移とその内訳


3 規制改革に関する調査・提言等
 平成15年度においては,前記のとおり,「公共調達と競争政策に関する研究会」を開催し,公共調達の入札・契約方法等に関する様々な課題を抽出し,その改善のための方策について検討を行い,同年11月,その検討結果をとりまとめた。
 また,規制改革により新たに競争が導入されたことなどに応じて,一般廃棄物発電の余剰電力取引及び高速バス事業における独占禁止法上の考え方を示した。
 法運用の透明性の確保と独占禁止法違反行為の未然防止
 公正取引委員会は,独占禁止法違反行為の未然防止を図るため,事業者及び事業者団体が実施しようとする具体的な事業活動が独占禁止法上問題がないかどうかについて,個別の相談に応じてきている。
 平成15年度においては、事業者の活動に関して1,126件の相談を,事業者団体の活動に関して457件の相談を受け付けた。
5 価格の同調的引上げに関する報告の徴収
 平成15年度において,独占禁止法第18条の2に規定する価格の同調的引上げに該当すると認めてその引上げ理由の報告を徴収したものは,発泡酒についての1件である。
 競争政策に関する理論的・実証的な基盤の整備に向けた取組
 平成15年6月に,中長期的観点から独占禁止法の運用や競争政策の企画立案・評価を行う上での理論的な基礎を強化するため,外部の研究者や実務家の知的資源と公正取引委員会職員との機能的・持続的な協働のプラットフォームの整備を図ることを目的として,事務総局内に競争政策研究センターを発足させた。
 同センターでは,平成15年度には,競争政策に係る国際シンポジウムの開催や複数の研究テーマについての研究報告書の公表等を行った。
7 経済及び事業活動の実態調査等
 競争政策の運営に資するため,平成15年度には次の調査を行った。
独占的状態調査
マンションの管理・保守をめぐる競争の実態に関する調査
ブランド力と競争政策に関する実態調査
新しい市場構造指標を用いた分析―生産出荷集中度データを活用して―
 株式保有・役員兼任・合併・分割・営業譲受け等
 独占禁止法第9条から第16条の規定に基づく企業結合に関する業務については,銀行または保険会社の議決権保有について13件の認可を行い,持株会社等について76件の報告,持株会社等の設立について4件の届出,事業会社の株式所有状況について959件の報告,会社の合併・分割・営業譲受け等について299件の届出をそれぞれ受理し,必要な審査を行った(第5図,第6図参照)。

第5図 合併届出,分割届出及び営業譲受け等届出受理件数


第6図 株式所有報告書の提出件数


9 事業者団体
 独占禁止法第8条の規定に基づく事業者団体の届出件数は,成立届148件,変更届1,305件,解散届61件であった。
10 下請法に関する業務
 下請法に関する業務としては,下請取引の公正化及び下請事業者の利益の保護を図るため,親事業者18,295社及びこれらと取引している下請事業者108,395社を対象に書面調査を行った。
 書面調査等の結果,下請法違反行為が認められた1,365件につき,8件については勧告,それ以外については警告の措置を採った(第1表参照)。

第1表 下請法の事件処理状況


11 景品表示法に関する業務
 景品表示法に関する業務としては,同法第6条の規定に基づき排除命令を行ったものは表示関係27件であり,警告を行ったものは,景品関係78件及び表示関係304件の計382件,注意を行ったものは,景品関係29件,表示関係213件であった(第2表参照)。

第2表 景品表示法の事件処理状況

 都道府県における景品表示法関係業務の処理状況は,同法第9条の2の規定に基づく指示を行ったものが6件(すべて表示関係),注意を行ったものが464件(景品関係56件,表示関係408件)であった。
 また,事業者又は事業者団体が,公正取引委員会の認定を受けて景品類又は表示に関する事項について自主的に設定する業界のルールである公正競争規約に関し,公正取引委員会は,平成15年度において,1件の公正競争規約について新たに認定し,4件の公正競争規約について変更の認定を行った。
12 国際関係業務
 国際関係の業務については,各国共通の競争政策上の課題について,米国,EU,オーストラリア及び韓国の競争当局との間で,それぞれ二国間の意見交換を行ったほか,OECD(経済協力開発機構),WTO(世界貿易機関),APEC(アジア太平洋経済協力),UNCTAD(国際連合貿易開発会議),ICN(国際競争ネットワーク)等の会議に積極的に参加した。
13 広報等に関する業務等
 広報業務については,各種ガイドブックや英文パンフレットの作成・配布,日本語・英語ホームページの充実等のほか,小・中学校に講師を派遣して競争の役割等についての授業を行ったり,中学生向け副教材を作成し,中学校へ配布するなど積極的な広報を行った。
 また,競争政策について一層の理解を求めるなどの目的で,全国9都市で講演会を開催するとともに,各地の有識者との意見交換を行った。
 さらに,独占禁止政策協力委員制度について,平成15年度は各地域の有識者150名に委員を委嘱し,全国10都市で会議を行った。
14 その他の業務
(1) 政策評価
 公正取引委員会は,行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)が施行されたことに伴い,同法に基づき政策評価を実施しているところである。平成15年度には,平成14年度における独占禁止法違反行為に対する措置のほか8件の政策評価を実施・公表した。
(2) 電子政府の実現に向けた取組
 公正取引委員会は,独占禁止法に基づく申請・届出等について,インターネット等を利用したオンライン化を推進し,事業者の負担の軽減及び行政の効率化を図るための取組を行っている。平成15年度は,情報公開の開示請求手続のオンライン化を実現した。