第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法の改正

1 独占禁止法の一部を改正する法律
 現在,我が国においては,市場原理・自己責任原則に立脚した経済社会の実現のために構造改革を推進することが重要な政策課題となっているところ,談合・横並び体質からの脱却を図り,21世紀にふさわしい競争政策を確立するため,課徴金制度の見直し,課徴金減免制度の導入,犯則調査権限の導入,審判手続等の見直し等を内容とする独占禁止法改正法は,平成17年4月20日に成立し,同月27日に公布された(平成17年法律第35号)。施行日は,公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日(価格の同調的引上げに対する報告徴収規定の削除に関しては,公布の日から起算して1月を経過した日)とされた。国会における審議状況及び同法の内容は,次のとおりである。
(1) 国会における審議状況
 独占禁止法改正法案は,平成16年10月15日に閣議決定が行われ,同日,第161回臨時国会に提出された。同法案は,衆議院においては,11月4日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委貝会に付託された後,数回の審議が行われたが,審議未了のまま次期通常国会への継続審議とされた。第162回通常国会では,平成17年3月11日に経済産業委員会で,同月15日に本会議でそれぞれ可決され,参議院に送付された。参議院においては,4月6日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委員会に付託された後,同月19日に同委員会で,同月20日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
(2) 法律の内容
ア  課徴金算定率の引上げ等
(ア)  不当な取引制限等を行った事業者に対して納付を命ずる課徴金の額の計算に係る売上額に乗ずる率を引き上げ,100分のl0(小売業100分の3,卸売業100分の2)とし,併せて規模の小さい事業者に対して納付を命ずる課徴金の額の計算に係る売上額に乗ずる率を引き上げ,100分の4(小売業100分の1.2,卸売業100分の1)とした。(改正法第7条の2第1項及び第4項関係)
(イ)  課徴金の納付を命ずる場合において,当該事業者が調査開始日の1月前の日までに違反行為をやめたとき(実行期間が2年未満である場合に限る。)又は過去10年以内に課徴金納付命令等を受けたことがあるときは,(ア)の算定率と異なる率を適用することとした。(改正法第7条の2第5項及び第6項関係)
(ウ)  課徴金の納付を命ずることができない額を50万円未満から100万円未満に引き上げることとした。(改正法第7条の2第1項関係)
イ  課徴金適用対象範囲の見直し
 課徴金適用対象行為を次に掲げる行為とした。
(ア)  不当な取引制限等で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は供給量若しくは購入量・市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することにより対価に影響することとなるもの(改正法第7条の2第1項関係)
(イ)  私的独占(他の事業者の事業活動を支配することによるものに限る。)で,当該他の事業者が供給する商品若しくは役務の対価に係るもの又は供給量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することにより対価に影響することとなるもの(改正法第7条の2第2項関係) /td>
ウ  課徴金と罰金刑が併科される場合の措置
 同一の事業者に対して課徴金と罰金刑が併科される場合において,課徴金の額から罰金額の2分の1に相当する金額を控除する措置を設けることとした。(改正法第7条の2第14項及び第15項並びに第51条関係)
エ  減免制度の導入
(ア)  課徴金納付命令対象事業者(不当な取引制限等を行った者に限る。以下同じ。)が次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,課徴金の納付を命じないものとした。(改正法第7条の2第7項関係)
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委貝会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち最初に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること。
 公正取引委員会の調査開始日以後,違反行為をしていない者であること。
(イ)  課徴金納付命令対象事業者が次に掲げる要件のうちa及びcに該当するときは課徴金の額に100分の50を乗じて得た額を,b及びcに該当するときは課徴金の額に100分の30を乗じて得た額を,それぞれ当該課徴金の額から減額することとした。(改正法第7条の2第8項関係)
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち2番目に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち3番目に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること。
 公正取引委員会の調査開始日以後,違反行為をしていない者であること。
(ウ)  調査開始日前に違反行為の報告及び資料の提出を行った者の数が3に満たないときは当該違反行為をした事業者のうち次に掲げる要件のいずれにも該当する者(当該違反行為の報告及び資料の提出を行った者の数の合計が3以下である場合に限る。)については,課徴金の額に100分の30を乗じて得た額を,当該課徴金の額から減額することとした。(改正法第7条の2第9項関係)
 公正取引委員会の調査開始日以後公正取引委員会規則で定める期日までに,公正取引委貝会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者
 調査開始日以後において当該違反行為の報告及び資料の提出を行った日以後,違反行為をしていた者以外の者
(エ)  公正取引委員会が,報告及び資料の提出を行った事業者に対して課徴金の納付命令等をするまでの聞に,次に掲げる要件のいずれかに該当する事実があると認めるときは,(ア)から(ウ)までにかかわらず,課徴金の減免を行わないこととした。(改正法第7条の2第12項関係)
 当該事業者が行った当該報告又は提出した当該資料に虚偽の内容が含まれていたこと。
 当該事業者が求められた報告若しくは資料の提出をせず,又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。
 当該事業者がした当該違反行為に係る事件において,当該事業者が他の事業者に対し違反行為をすることを強要し,又は他の事業者が違反行為をやめることを妨害していたこと。
オ  審判手続等の見直し
(ア) 排除措置を命ずる手続等の整備
 違反行為が既になくなっている場合において,当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる期間を,当該行為がなくなった日から3年とした。(改正法第7条第2項関係)
 第3条,第6条,第8条,第19条及び第4章の規定に違反する行為があると認める場合に勧告又は審判開始決定を行うことができるとする規定を廃止し,排除措置命令を行うこととした。(改正法第49条第1項関係)
 排除措置命令をしようとするときは,あらかじめ,意見を述べ,及び証拠を提出する機会を付与しなければならないこととした。(改正法第49条第3項関係)
 排除措置命令に不服がある者は,排除措置命令書の謄本の送達があった日から60日以内に審判を請求することができることとし,当該期間は不変期問としないこととした。(改正法第49条第6項関係)
 排除措置命令について審判請求があった場合において必要があると認めるときは,排除措置命令の執行を停止することができることとした。(改正法第54条第1項関係)
(イ)  課徴金の納付を命ずる手続等の整備
 排除措置に係る審判手続が終了した後でなければ課徴金の納付を命ずることができないとしている規定を廃止することとした。(改正法第50条第1項関係)
 課徴金の納期限は,課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日とした。(改正法第50条第3項関係)
 納付命令に係る審判手続が開始された場合,当該納付命令はその効力を失わないこととし,課徴金をその納期限までに納付しない者がある場合において審決で当該納付命令が維持されたときは,政令で定める率の延滞金を付加して徴収することができることとした。(改正法第70条の9関係)
 審決で納付命令が取り消された場合において既に納付された金額で還付すべきものがあるときは,当該金額に政令で定める率を乗じて得た金額を加算して還付することとした。(改正法第70条の10関係)
(ウ)  審判請求及び審決に係る手続等の整備
 審判請求をする者は,請求の趣旨,理由等を記載した請求書を公正取引委員会に提出しなければならないこととした。(改正法第52条第1項関係)
 審判請求は,最終の審判の期日までは,いつでも,書面により取り下げることができることとした。(改正法第52条第4項関係)
 審判手続を開始するときは,蕃判請求をした者に対し,その旨を記載した審判開始通知書を送付することとした。(改正法第55条第1項関係)
 審判手続を経た後,審判請求が理由がないときは,当該審判請求を棄却し,審判請求が理由があるときは,原処分の全部又は一部を取り消し,又はこれを変更することとする審決を行うこととした。(改正法第66条関係)
 公正取引委員会に対する訴えであって,審判請求をすることができる事項に関するものについては,審決に対するものでなければ提起することができないこととした。(改正法第77条第3項関係)
(エ) 審判官及び審判手続に係る規定の整備
 審判官の定数は政令で定めることとした。(改正法第35条第8項関係)
 公正取引委員会は,審判手続の開始を決定した後,事件ごとに審判官を指定し,当該事件について審判手続の全部又は一部を行わせることができることとした。(改正法第56条第1項関係)
 公正取引委員会の指定を受けた審判官は,審判手続に係る事務を指揮することとした。(改正法第56条第2項関係)
 審査官は,審判に立ち会い・原処分の原因となる事実及び法令の適用等について主張することができることとした。(改正法第58条関係)
 被審人又はその代理人は,審判に際して,公正取引委貝会に対し,調査を嘱託すること等を求め,又は公正取引委員会が調査を嘱託した者に質問すること等ができることとした。(改正法第59条第1項関係)
 排除措置命令が確定した場合等には,納付命令に係る審判手続において,被審人又はその代理人は,当該納付命令に係る違反行為の不存在を主張することができないこととした。(改正法第59条第2項関係)
 公正取引委員会又は審判官は,適当と認めるときは,職権で,審判手続を併合し,又は分離することができることとした。(改正法第64条関係)
カ  犯則調査権限の導入等
(ア)  犯則事件(第89条から第91条までの罪に係る事件)を調査するため必要があるときには,公正取引委員会の職員は臨検,捜索,差押え等ができるようにするとともに,公正取引委員会は,当該調査により犯則の心証を得たときは,告発を行うこととする等,所要の規定を整備することとした。(改正法第74条第1項,第101条〜第118条関係)
(イ)  刑事事件に係る東京高等裁判所専属管轄及び審級省略制度を廃止し,第一審の管轄を全国の地方裁判所に拡大するとともに,各高等裁判所所在地の地方裁判所及び東京地方裁判所の管轄にも属することとした。(改正法第84条の3及び第84条の4関係)
キ  罰則規定の見直し
(ア)  確定した排除措置命令に違反する罪に係る法人等に対する罰金の上限額を3億円に引き上げることとした。(改正法第95条第1項第2号及び第2項第2号関係)
(イ)  事件について必要な調査をするための事件関係人等に対する処分等に係る罰則を1年以下の懲役又は300万円以下の罰金とするとともに,行為者を罰するほか,法人等に対しても罰金刑を科することとした。(改正法第94条及び95条第2項第3号関係)
ク  価格の同調的引上げに対する報告徴収規定の廃止
 価格の同調的引上げに対する報告徴収規定を廃止することとした。(第18条の2関係)
 中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律の一部を改正する法律の制定に伴う独占禁止法の改正
 法律の目的について,中小企業等の自己資本の充実を促進することから,事業者への円滑な資金供給を促進することに変更することとし、題名を「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に改めるとともに,資金供給の対象を中小企業等から事業者に拡充することなどを内容とする中小企業等投資事業有限責任組合契約に関する法律の一部を改正する法律が第159回国会に提出された。同法案は,題名の変更に伴う独占禁止法の所要の改正(法第11条第1項第4号中「中小企業等投資事業有限責任組合」を「投資事業有限責任組合」に変更)を含むものであるところ,平成16年4月14日可決・成立した(平成16年法律第34号。平成16年4月21日公布,4月30日施行。)。
 株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律の制定に伴う独占禁止法の改正
 内外の金融情勢の変化に即応し,諸外国の制度との調和を図りつつ,より安全で,効率性の高い証券決済制度を構築していく必要性にかんがみ,株式等の取引に係る決済の合理化を図るため株式等を振替制度の対象に加えるとともに,株券不発行制度の整備を行うほか,投資法人が発行する投資口その他の有価証券に表示されるべき権利について振替制度の対象に加える等,所要の措置を講ずることを内容とする株式等の取引に係る決済の合理化を図るための社債等の振替に関する法律等の一部を改正する法律が第159回国会に提出された。同法案は,株式のペーパーレス化,株式における振替制度の整備等に伴う独占禁止法の所要の改正(親子会社の定義,株式所有報告書の提出義務等の基準となる議決権のとらえ方についての技術的改正)を含むものであるところ,平成16年6月2日可決・成立した(平成16年法律第88号。平成16年6月9日公布。施行期日は,公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日とされている。)。

第2 その他の所管法令の改正

公正取引委員会事務総局組織令の改正
 官房に総括審議官を新設し,官房に置かれる審議官の定数を3人から2人に改めることを内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(公正取引委員会事務総局組織令の一部を改正する政令(平成17年政令第109号)。平成17年4月1日公布,同日施行。)。

第3 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成16年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 金融先物取引法の一部を改正する法律案
 金融庁は,外国為替証拠金取引に基づく被害の拡大を防止する観点から,金融先物取引法の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)「金融先物取引業」の定義の変更及び登録制の導入,(2)行為規制の拡充,(3)財務規制の導入等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,拡充される行為規制について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第161回国会に提出され,平成16年12月1日可決・成立した。
(2) 港湾の活性化のための港湾法等の一部を改正する法律案
 国土交通省は,港湾の運営の効率化による国際競争力の強化及び規制の見直しによる利便性の向上を通じて港湾の活性化を促進する観点から,港湾法等の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)特定国際コンテナ埠頭の機能の高度化,(2)入出港届の様式の統一,(3)港湾運送事業の規制緩和,(4)夜間入港規制の廃止等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,卸売業者等の事業活動に関する規制の緩和について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第162回国会に提出され,平成17年5月13日可決・成立した。
(3) 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部を改正する法律案
 農林水産省は,消費者の合理的な選択への寄与及び公益法人改革の推進の観点から,農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)流通JAS規格の制定,(2)都道府県,登録格付機関等による格付の禁止,(3)格付を行えるものの拡大,(4)登録認定機関制度の改善,(5)登録外国認定機関制度の改善,(6)登録審査及び立入検査への独立行政法人農林水産消費技術センターの活用等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,登録認定機関に対する改善命令に係る制度について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第162回国会に提出され,平成17年6月15日可決・成立した。
(4) 特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案について
 環境省は,特殊自動車の使用による大気汚染の防止及び国民生活の保護・生活環境の保全の観点から,特定特殊自動車排出ガスの規制等に関する法律案を立案した。
 本法律案は,従来規制されていなかった公道を走行しない特殊自動車に対し,新たに製造されるものを対象に,排出ガス規制を行うこと等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,検査事務に関する手数料を定める制度について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第162回国会に提出され,平成17年5月17日可決・成立した。
(5) 保険業法等の一部を改正する法律案
 金融庁は,金融資本市場の構造改革の促進及び保険契約者保護の充実の観点から,保険業法等の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)保険業法の適用範囲の見直し,(2)少額短期保険制度(仮称)の導入,(3)保険契約の特性に合わせた補償内容等の見直し,(4)生命保険契約者保護機構への政府援助,(5)保険会社の子会祉規制の見直し等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,少額短期保険業者の登録基準について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第162回国会に提出され,平成17年4月22日可決・成立した。
2 行政調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の間題を生じないよう,当該行政機関と調整を行うこととしている。