第10章 景品表示法に関する業務

第1 概説

1 景品表示法の概要
 景品表示法は,独占禁止法の不公正な取引方法の一類型である不当な顧客誘引行為のうち過大な景品類の提供と不当な表示をより効果的に規制することにより,公正な競争を確保し,一般消費者の利益を保護することを目的として,昭和37年に制定された。
 景品表示法は,不当な顧客の誘引を防止するため,景品類の提供について,必要と認められる場合に,公正取引委員会告示により,景品類の最高額,総額,種類,提供の方法等について制限又は禁止し(第3条),また,商品又は役務の品質,規格その他の内容又は価格その他の取引条件について一般消費者に誤認される不当な表示を禁止している(第4条)。これらの規定に違反する行為に対し,公正取引委員会は排除命令を,都道府県知事は指示を行い,これを是正させることができる(第6条及び第9条の2)。
 さらに,公正競争規約の制度が設けられており,事業者又は事業者団体は,過大な景品類の提供や不当な表示を防止し,一般消費者への適切な情報提供を行うため,一定の自主的なルールを公正取引委員会の認定を受けて設定することができる(第10条)。
2 告示の指定
(1) 景品関係
 景品類の提供の制限は,景品付販売の実態が複雑多岐であり,法律で画一的にこれを定めることは不適当であることから,公正取引委員会が,取引の実態に合わせ,必要に応じて告示により制限又は禁止することができるとされている。
 現在,公正取引委員会が景品表示法第3条の規定に基づいて景品類の提供の制限又は禁止をしているものとしては,一般的なものとして,「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第3号)及び「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」(昭和52年公正取引委員会告示第5号)がある。また,特定業種についての景品類の提供に関する事項の制限(以下「業種別告示」という。)が定められており,平成17年3月末現在,「新聞業」,「雑誌業」,「不動産業」及び「医療用医薬品業,医療機器業及び衛生検査所業」について業種別告示が定められている(附属資料9−2表参照)。
 なお,「医療用医薬品業,医療機器業及び衛生検査所業」については,薬事法改正に伴い,平成17年3月29日に,「医療用具」を「医療機器」に変更する旨を告示したところである(同年4月1日から施行)が,これは制限の対象となる業種を変更するものではない。
 また,独占禁止法に基づくものとして,「広告においてくじの方法等による経済上の利益の提供を申し出る場合の不公正な取引方法」(昭和46年公正取引委員会告示第34号)がある。
(2) 表示関係
 景品表示法第4条第1項第1号及び第2号の規定は,商品・役務の内容又は取引条件に関して,実際のもの又は競争関係にある他の事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認される表示を禁止している。このほか,一般消費者の適正な商品選択を阻害するおそれのある表示については,公正取引委員会が同項第3号の規定に基づいて告示により不当な表示を指定し,これを禁止することができるとしている。
 現在,公正取引委員会が同項第3号の規定に基づいて指定している不当な表示は,「無果汁の清涼飲料水等についての表示」(昭和48年公正取引委員会告示第4号),「商品の原産国に関する不当な表示」(昭和48年公正取引委員会告示第34号),「有料老人ホーム等に関する不当な表示」(平成16年公正取引委員会告示第3号)等の6件である(附属資料9−2表参照)。

第2 違反事件の処理

 平成16年度において公正取引委員会が違反事件として処理した事件のうち,排除命令を行ったものは,表示関係21件(平成15年度は27件)であり,警告を行ったものは,表示関係21件である(第1表参照)。
 平成16年度の表示事件の特徴として,痩身効果を標榜(ひょうぼう)する食品に係る不当表示事件,衣料品の原産国の不当表示事件,資格試験等の受験対策用各種講座の受講生募集に係る不当表示事件がみられたほか,食品の不当表示事件が多くみられた。
第1表 事件の処理状況

(注)  景品表示法上の「警告」とは,違反するおそれのある事実が認められた場合であり,排除命令(法的措置)をするには及ばない場合に行う措置。
 景品表示法上の「注意」とは,違反するおそれのある具体的な事実を認定するに至らないが,景品表示法違反につながるおそれがあるため,同法の遵守について事業者の注意を喚起する必要がある場合に行う措置(公正取引委員会については,平成12年度から処理件数に追加)。
 平成16年度より警告はすべて公表しており,それ以前の警告件数には,非公表警告が含まれている。

1 排除命令
 平成16年度においては,不当表示事件として,食品スーパーによる加工食品及び日用雑貨品の不当な二重価格表示,アブラガニに係る不当表示,痩身効果を標榜(ひょうぼう)する食品に係る不当表示,レトルトパウチ食品に係る不当表示,保健機能食品の原材料に係る不当表示,観光土産品の原材料に係る不当表示,有料老人ホームによる介護サービスの内容に係る不当表示,輸入衣料品の販売業者らによる原産国の不当表示,資格試験等の受験対策用各種講座の受講生募集に係る不当表示についてそれぞれ排除命令を行った。
第2表 排除命令




2 警告
 平成16年度において,警告を行ったものは21件であり,すべて表示に関するものであった。なお,平成16年度から,警告事案は原則としてすべて公表している。
第3表 警告事案

第3 有料老人ホーム等に関する不当な表示の指定等

 「有料老人ホーム等に関する不当な表示」の指定(平成16年4月)及び「『有料老人ホーム等に関する不当な表示』の運用基準」の公表(平成16年6月)
 有料老人ホームの取引は,取引開始に当たって,高額の費用が必要となることが多く,提供するサービスの性質上取引は長期にわたり,かつ,利用者の将来の心身の状況に応じて提供されるサービスの内容が変化することから,契約段階で将来を見通したサービス全体の内容が把握しにくいものである。このため,有料老人ホームの取引においては,有料老人ホーム等を選択する時点における表示が,一般消費者の誤認を招くおそれのないものとなっていることが極めて重要であるといえる。
 公正取引委員会は,有料老人ホームに関する不当表示に対し,厳正に対処するとともに,関係事業者団体等に表示の適正化の取組を要望するなど,これまでも有料老人ホームの表示の適正化の環境整備に努めてきているところである。しかしながら,依然として不当表示事件が後を絶たない状況が続いていた。
 このような状況を踏まえ,有料老人ホームが提供する各種サービスの内容に係る,消費者に誤認されるおそれのある表示を明確にすることにより,不当表示を未然に防止するとともに,不当表示に厳正に対処する観点から,公聴会開催等の手続きを経て,平成16年4月2日,景品表示法第4条第1項第3号の規定に基づき,「有料老人ホーム等に関する不当な表示」(以下「有料老人ホーム告示」という。)を指定した。
 また,有料老人ホーム告示の運用に当たっての基本的な考え方を定めるべく,平成16年6月16日,「『有料老人ホーム等に関する不当な表示』の運用基準」を策定・公表した。
 なお,有料老人ホーム告示は平成16年10月1日から施行されている。
2 有料老人ホーム告示及び運用基準の概要
 有料老人ホーム告示及び運用基準の概要は,次のとおりである。
(1) 対象事業者
 以下の事業者を「有料老人ホーム等」として有料老人ホーム告示の対象とした。
 有料老人ホーム(老人福祉法〔昭和38年法律第133号〕第29条第1項に規定する有料老人ホーム〔常時10人以上の老人を入所させ,食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設であって,老人福祉施設でないもの〕)
 常時9人以下の老人を入所させ,食事の提供その他日常生活上必要な便宜を供与することを目的とする施設(認知症高齢者グループホーム及び老人福祉施設〔特別養護老人ホーム等〕を除く。)
(2) 有料老人ホーム告示及び運用基準の内容
 有料老人ホーム告示においては,(1)有料老人ホーム等における居住空間の基礎となる土地・建物や居室その他の設備等についての表示,(2)提供される介護サービス等についての表示,(3)提供される介護サービスの内容に関連する介護職員等についての表示,(4)取引に当たって一般消費者が対価として支払う費用についての表示など,これまでの景品表示法違反事例等を踏まえ,一般消費者が有料老人ホーム等を選択する時点において重要な判断事項となると考えられる表示を広範に指定した。また,運用基準においては,事業者による違反行為の未然防止等に資するような,有料老人ホーム告示の各項目についての具体例等を定めた。

第4 公正競争規約制度

1 概要
 公正競争規約(以下「規約」という。)は,事業者又は事業者団体が,景品表示法第10条の規定に基づき,景品類又は表示に関する事項について,公正取引委員会の認定を受けて,不当な顧客の誘引を防止し,公正な競争を確保するために設定する自主ルールである。規約の認定に当たっては,一般消費者及び関連事業者の利益を害するものであってはならないことから,当該業界の意見だけでなく,関連事業者,一般消費者,学識経験者等の意見がこれに十分反映されるよう努めている。
 平成16年度末における規約の数は,景品規約40件,表示規約65件,計105件である(附属資料第9−3表及び第9−4表参照)。
 また,業界における取引実態の変化,消費者の意識の変化,関係法規の改正等を踏まえ,現行の規約の内容について適宜見直しを行うよう,その運用機関に対し指導を行っている。
2 新たに認定した規約
 平成16年度において,新たに認定した規約は,景品規約1件,表示規約2件,計3件である。
(1) 景品関係
 指定自動車教習所業における景品類等の提供の制限に関する公正競争規約
(平成16年6月29日認定 平成16年公正取引委員会告示第7号)
 指定自動車教習所においては,キャンペーンによる過大な景品提供が見受けられるようになってきている状況を踏まえ,指定自動車教習所の教習生募集に係る過大な景品提供の防止を図る観点から,景品類の提供について規約を設定した。
(2) 表示関係
ア みその表示に関する公正競争規約
(平成16年5月11日認定 平成16年公正取引委員会告示第4号)
 容器に入れ,又は包装されたみその取引について,原材料,製造方法,商品の特徴等に関する様々な表示が行われている状況を踏まえ,「減塩表示」,「特定の地域名」等の特定事項の表示基準,「生」,「特選」,「だし入り」等の特定用語の使用基準,不当表示事項等を定めた。
イ 指定自動車教習所業における表示に関する公正競争規約
(平成16年6月29日認定 平成16年公正取引委員会告示第6号)
 指定自動車教習所においては,教習料金の有利性等を強調した表示が見受けられるようになってきている状況を踏まえ,指定自動車教習所の教習生募集に係る表示の適正化を図る観点から,表示について規約を設定した。
3 規約の変更
 平成16年度において変更の認定を行った規約の数は,景品規約3件,表示規約10件,計13件である。
(1) 景品関係
ア みそ業における景品類の提供の制限等に関する公正競争規約
(平成16年5月11日認定 平成16年公正取引委員会告示第5号)
 規約の対象となるみその定義を整理するとともに,新たにオープン懸賞の規定を追加した。
イ 医療用医薬品製造業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
(平成17年3月24日認定 平成17年公正取引委員会告示第5号)
 薬事法改正に伴い,「製造業」を「製造販売業」に変更するなど文言の整理を行った。
ウ 医療機器業における景品類の提供の制限に関する公正競争規約
(平成17年3月14日認定 平成17年公正取引委員会告示第6号)
 薬事法改正に伴い,「医療用具」を「医療機器」に変更した。
(2) 表示規約
ア はっ酵乳、乳酸菌飲料の表示に関する公正競争規約
(平成16年11月25日認定 平成16年公正取引委員会告示第8号)
 生乳使用割合の表示基準,特定の原材料を使用している旨の表示基準,「極上」,「第1位」等の文言の表示禁止規定,適正包装基準に係る手続を改善・整理するほか,農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(以下「JAS法」という。)に基づく加工食品品質表示基準,食品衛生法等の規定を引用し,品名,原材料名等の一括表示規定の整理等を行った。
イ ナチュラルチーズ、プロセスチーズ及びチーズフードの表示に関する公正競争規約
(平成16年11月25日認定 平成16年公正取引委員会告示第9号)
 特定のチーズの使用割合の表示基準の新設,不当表示の禁止に関する規定の具体化等のほか,JAS法に基づく加工食品品質表示基準,食品衛生法等の規定を引用し,品名,原材料名等の一括表示規定の整理等を行った。
ウ はちみつ類の表示に関する公正競争規約
(平成16年11月25日認定 平成16年公正取引委員会告示第10号)
 「巣はちみつ入りはちみつ」,「はちみつの性状」等,はちみつの定義を明確化することのほか,食品衛生法改正に伴い,「品質保持期限」を「賞味期限」に変更を行った。
エ マーガリン類の表示に関する公正競争規約
(平成16年11月25日認定 平成16年公正取引委員会告示第11号
 JAS法に基づくマーガリン類品質表示基準に沿って定義規定を整理,加工食品品質表示基準,食品衛生法の規定を引用し,品名,原材料名等の一括表示規定を整理,資源有効利用促進法を引用し,「紙」,「プラスチック」等の識別マーク表示規定を新設するほか,栄養表示基準を引用し,栄養成分・熱量表示を行う旨の規定の新設等を行った。
オ ハム・ソーセージ類の表示に関する公正競争規約
(平成16年11月25日認定 平成16年公正取引委員会告示第12号)
 JAS法に基づくハム類,ソーセージ類等の品質表示基準の改正に伴い,文言の整理等を行った。
カ 食肉の表示に関する公正競争規約
(平成17年2月28日認定 平成17年公正取引委員会告示第1号)
 「和牛」表示の範囲を黒毛和種,褐毛和種,日本短角種及び無角和種の4種の純粋種に加え和牛間交雑種にまで拡大し,和牛間交雑種については,「和牛」表示に加え,その具体的な品種名も併記することとした。また,品名の表示方法を整理するとともに,生鮮食品品質表示基準の改正,牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法の制定に伴う所要の変更を行った。
キ 食酢の表示に関する公正競争規約
(平成17年2月28日認定 平成17年公正取引委員会告示第2号)
 食酢品質表示基準に沿って食酢の定義規定を明確化,不当表示の禁止の具体化等のほか,食酢品質表示基準,加工食品品質表示基準及び食品衛生法の規定に沿って,名称,原材料名等の一括表示規定を整理するほか,規約等の構文,配列等の整理を行った。
ク 凍豆腐の表示に関する公正競争規約
(平成17年2月28日認定 平成17年公正取引委員会告示第3号)
 不当表示の禁止の具体化,書類等の作成保存義務規定を新設するとともに,凍豆腐品質表示基準,加工食品品質表示基準及び食品衛生法の規定に沿って,名称,原材料名等の一括表示規定を整理するほか,規約等の構文,配列等の整理を行った。
ケ 化粧品の表示に関する公正競争規約
(平成17年3月14日認定 平成17年公正取引委員会告示第7号)
 薬事法改正に伴い,事業者の定義規定及び表示事業者名の規定の変更等を行った。
コ 化粧石けんの表示に関する公正競争規約
(平成17年3月14日認定 平成17年公正取引委員会告示第8号)
 薬事法改正に伴い,事業者の定義規定及び表示事業者名の規定の変更等を行った。
4 規約の廃止
 平成16年度に廃止された規約はなかった。
5 公正取引協議会等に対する指導
 公正取引委員会は,公正取引協議会(規約の運用を目的として,規約に参加する事業者及び事業者団体により結成されているもの。以下「協議会」という。)に対し,規約の適正な運用を図るため,協議会の行う事業の遂行,事業の処理等について指導を行っている。
 平成16年度においても,協議会が行った規約の遵守状況調査,商品の試買検査会,審査会等について必要な指導を行った。
 また,協議会は,規約の実施上必要な事項について,規約の定めるところにより,施行規則,運用基準等を設定し,規約の円滑な運用を期しているが,これら施行規則等の設定・変更に当たっても,当委員会は積極的に指導を行っている。
 なお,各協議会の業務の推進及び連携・協力を密接にし,規約の適正かつ円滑な施行を図るため,(社)全国公正取引協議会連合会に対して,(1)規約遵守状況調査,(2)協議会等の会員に対する研修業務,(3)規約制度等の啓蒙・普及業務並びに(4)規約設定支援及び一般消費者等の苦情・相談処理等に関する業務について委託を行った。
 また,平成17年1月31日に公正取引協議会事務局長会議を開催し,各協議会共通の問題点の検討,事務処理の改善の検討等を行った。
6 試買検査会
 公正取引委員会は,表示に関する運用基準,規約等の設定又は見直しを行うため,また,商品表示の実態及び表示に対する消費者意識を把握する目的で試買検査会を開催した。
 平成16年度は,ビスケット類,食酢,コーヒー飲料,果実飲料,チョコレート等食料品を主な対象品目として10か所において開催した。