第12章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定

 近年,企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間の協力の強化の必要性が高まっている。公正取引委員会は,独占禁止協力協定の締結を通じて,海外競争当局との協力関係の強化に努めている。
1 日米独占禁止協力協定
 平成11年10月7日に日本国政府と米国政府の間で「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」が締結された。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。公正取引委員会は本協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等米国競争当局と緊密な協力を行っている。
2 日欧州共同体独占禁止協力協定
 日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本政府と欧州共同体との間の協定」を締結し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,上記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき通報等の協力を行っている。
3 日加独占禁止協力協定
 日本国政府は,平成14年6月に行われた日・カナダ首脳会談において,カナダ政府との間で競争分野の協力における協定(仮称)を締結するための交渉を開始することが合意されたことを受け,その後同協定に関するカナダ政府との会合を4回開催し,平成17年1月に,交渉当事者間での実質合意に達した。両国政府は,協定締結に向けた作業を継続しているところである。
4 日豪の独占禁止協力協定締結に向けた検討
 公正取引委員会は,平成15年5月,オーストラリア競争・消費者委員会との間で独占禁止協力協定を締結する可能性について検討を開始することを発表し,その後,両当局間での対話を継続している。

第2 二国間意見交換

 公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局との間で競争政策に関する意見交換を定期的に行っている。平成16年度における意見交換開催状況は,次のとおりである。

第3 二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議
 日米両国政府は,平成13年6月に新たな経済関係の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」の立上げを発表し,競争政策に関しては,同パートナーシップの下の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において議論が行われている。
 平成16年6月8日に「日米間の『規制改革及び競争政策イニシアティブ』に関する日米両国首脳への第三回報告書」が公表され,競争政策に係る事項として,課徴金算定率の引上げ等の独占禁止法改正案の内容,刑事規定の効率的運用,談合の排除,規制緩和が進行中の産業における競争促進,公正取引委員会の人的資本の強化等について明記された。
 日米両政府は,平成16年10月14日にそれぞれ相手国政府に対し要望書を提出した。競争政策の分野において,日本政府は,反トラスト法の適用除外制度の見直し,縮減を求めた。また,米国政府は,課徴金の引上げ,課徴金減免制度及び犯則調査権限の導入,公正取引委員会の人的資源の強化,執行活動の公平性の確保,入札談合の防止,規制改革及び民営化が進行中の分野における競争の促進等を求めた。
 競争政策の作業部会等の場において,これらの要望に対して両国が取組等を説明した。
2 その他の二国間協議
 日EU規制改革対話等その他の二国間協議について,当委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第4 経済連携協定への取組

 近年の経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため自由貿易協定や経済連携協定の締結の動きが活発化し,現在,世界の多くの国がこのような協定に参加している状況にある。特に,東アジア地域においては,経済取引の拡大とともに,経済相互依存関係が急速に深化し,我が国においても,域内における協力の強化が重要な対外政策課題となっている。
 競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するものとなるよう,競争政策の推進を経済連携協定の重要な要素の一つとして積極的に位置付けるとともに,貿易・投資の自由化による競争促進効果が損なわれないようにするために,各国が反競争的行為に適切に対応することが不可欠である。このため,我が国は,経済連携協定の重要な要素の一つとして,競争政策を積極的に位置付ける方向で,下に述べる各国と協定を締結し,又は締結のための交渉を行っているところである。
1 日・シンガポール経済連携協定
 我が国初の自由貿易協定の要素を含む経済連携協定である「新たな時代における経済上の連携に関する日本国とシンガポール共和国との間の協定」が平成14年1月に署名され,同年11月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,両国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,反競争的行為の規制の分野において両国が協力することが規定されている。
2 日・メキシコ経済連携協定
 平成16年9月,両国の首脳は「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定」に署名し,同協定は平成17年4月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,両国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,競争当局間の協力として,執行活動に係る通報,協力,調整,相手側競争当局に対する要請,及び相手国の重要な利益の考慮等が規定されている。
3 日・タイ経済連携協定交渉
 日本・タイ間では,平成14年9月から平成15年5月の間に政府間の作業部会を5回,平成15年7月から11月の間に政府職員のほか産学も参加したタスクフォースを3回開催した後,平成16年2月に日タイ経済連携協定の締結交渉が開始され,平成17年3月末までに,6回の交渉が行われている。
4 日・フィリピン経済連携協定交渉
 日本・フィリピン間では,平成14年10月から平成15年7月の間に政府間の作業部会を5回,平成15年9月から平成15年11月の間に政府職員のほか産学も参加した合同調整チームによる会合を2回開催した後,平成16年2月に日フィリピン経済連携協定の締結交渉が開始され,同年11月に両国の首脳間で主要論点について大筋合意に達した。
5 日・マレーシア経済連携協定交渉
 日本・マレーシア間では,平成15年5月及び7月に政府間の作業部会を開催し,その後,平成15年9月及び11月に政府職員のほか産学も参加した産学共同研究会を開催した。これらの検討を経て,平成16年1月に日マレーシア経済連携協定の締結交渉が開始され,平成17年3月末までに6回の交渉が行われている。
6 日・韓国経済連携協定交渉
 日本・韓国間では,平成14年7月から平成15年10月にかけて産官学の共同研究会を8回開催した。これらの検討を経て,日韓経済連携協定の締結交渉が開始され,平成17年3月末までに6回の交渉が行われている。
7 その他の経済連携強化の枠組みに係る検討
 このほか,我が国はASEAN全体及びインドネシアとの経済連携協定の締結に向けた検討を進めている。公正取引委員会は,これらの検討において,競争政策分野での取組の重要性に係る認識を醸成し,国際協力を推進するための枠組みを構築すべく検討作業に参画している。

第5 多国間関係

1 経済協力開発機構(OECD)
(1) 競争委員会(COMP:Competition Committee)
 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行っている。本会合では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,各加盟国に対する規制制度改革国別審査等,その時々の重要問題について討議が行われている。平成16年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
 平成16年6月の第91回本会合においては,ベルギー,チェコ,デンマーク,スウェーデン,トルコ,ブラジル及びイスラエルが年次報告に基づいて説明を行ったほか,平成10年及び11年に行われた対日規制改革審査のフォローアップ審査の一環として,我が国の競争政策に関するピア・レビューが行われ,公正取引委員会の執行力強化の必要性等について議論された。また,知的財産権に関するラウンドテーブル討議が開催された。
 平成16年10月の第92回本会合においては,ドイツ,ノルウェー,スペイン及び英国が年次報告に基づいて説明を行ったほか,略奪的行為に関するラウンドテーブル討議が開催された。また,カナダ,デンマーク,フィンランド,ハンガリー,イタリア,韓国,オランダ,ノルウェー,英国及び米国を審査対象国として競争法と執行に関する国別審査が行われた。
 平成17年2月の第93回本会合においては,非加盟国による競争委員会へのオブザーバー参加について議論されたほか,合併審査に関する理事会勧告案が承認された。(その後,3月23日にOECD理事会において同勧告案が承認され,公表された。)
 競争委員会に属する各作業部会及びグローバルフォーラムの平成16年度における主要な活動は,次のとおりである。
(ア)  貿易と競争に関する合同会合では,競争委員会と貿易委員会が,合同で,競争政策と貿易政策の連関についての検討を行っている。平成16年10月会合においては地域貿易協定における競争条項をまとめた報告書の作成及び途上国の競争,競争力及び開発に係る事例研究について検討が行われた。平成17年2月会合においても引き続き,これらの議題について検討が行われた。
(イ)  第2作業部会では,平成16年6月会合においては,農業分野における競争と規制に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成16年10月会合においては医療業における競争の促進に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成17年2月会合においては鉄道分野における構造改革に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,規制産業における構造分離に関する理事会勧告後の各国の実施状況が報告された。
(ウ)  第3作業部会では,平成16年6月会合においては,合併審査に関する理事会勧告案について検討が行われたほか,国際カルテル審査における情報共有等について検討が行われた。平成16年10月会合においても,これらの議題が引き続き検討されたほか,カルテルの損害に対する注意喚起に関するラウンドテーブル討議等が開催された。平成17年2月会合においては,国際カルテル審査における正式な情報交換のための推奨すべき慣行について検討されたほか,合併審査における国境を越えた救済措置に関するラウンドテーブル討議が開催された。
(エ)  競争委員会と消費者政策委員会との合同会合では,競争及び消費者保護が機能していない市場を画定するとともにこのような市場に対する取組について議論されたほか,国境を越えた詐欺的行為に対する国際的な執行協力について検討が行われた。
(オ)  競争に関するグローバルフォーラムでは,平成17年2月会合においては,規制分野における競争について議論され,規制分野への競争の導入,規制当局と競争当局の関係,規制分野における優越的地位の濫用についての途上国の事例及びトルコのピア・レビューについて検討が行われた。
(2) 消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policy)
 消費者政策委員会は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭和44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置することとされた。この期限は,その後,9回の延長決定を経て平成21年末までとなっている。消費者政策委員会は,通例年2回本会合を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時会合を行っている。
 平成16年3月末現在,紛争解決及び救済に係る作業部会,国境を越えた法執行に向けての協力に係る作業部会,需要サイドの経済政策に係る作業部会及び消費者政策体制の調査に係る作業部会が設置されている。
 平成16年10月14日から15日にかけて第68回本会合が,平成17年3月7日から8日にかけて第69回本会合が開催され,国境を越えた法執行に向けての協力のための政策課題,紛争解決及び救済に係るワークショップの計画及び消費者政策の比較分析等について検討が行われた。
2 国際連合貿易開発会議(UNCTAD)
(1)  昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この「原則と規則」は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。
 「原則と規則」は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。
(2)  「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。
 平成16年度においては,11月にジュネーブにて上記専門家会合が開催され,競争政策についてのピア・レビュー,ハードコア・カルテル審査における証拠収集及び協力,発展途上国における競争政策の認知促進のための唱導活動等が議論された。
3 アジア太平洋経済協力(APEC)
(1) 競争分野における取組
 平成6年のインドネシア・ボゴールでの非公式首脳会談において,アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を図るため,「先進経済は2010年までに,開発途上経済は2020年までに,アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を完了する」こと等を内容とする「ボゴール宣言」が採択された。
 続く平成7年に大阪で開催された第7回閣僚会議(11月16日,17日)において,「ボゴール宣言」の目標を具体化するための行動指針(以下「大阪行動指針」という。)が採択された。この大阪行動指針において取り上げられた15の個別分野の一つが競争政策分野であった。
(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)の改定
 平成8年に,フィリピンのマニラで開催された第8回閣僚会議(11月22日,23日)において,大阪行動指針に基づく分野別の具体的な行動計画として「マニラ行動計画」が採択された。「マニラ行動計画」は,APEC参加国・地域が協調して取り組む「共同行動計画」と各国・地域が自主的に取り組む「個別行動計画」とから成り立っている。競争政策分野では,「共同行動計画」として,技術協力,政策対話,情報交換の実施等が掲げられており,「個別行動計画」として,我が国は,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処等競争政策の一層積極的な展開や技術支援の実施等を掲げている。平成16年度も,「個別行動計画」の改定を行い,APEC参加国・地域に対し我が国の競争法・競争政策に係る最新の情報を提供した。
(3) 競争政策・規制緩和グループ
 平成7年7月に,「ボゴール宣言」の実施のための大阪行動指針において,競争政策分野が位置付けられ,今後APECの活動の一環として競争政策に関する検討を行うことを目的として,競争法・政策会合が開催されたが,平成8年には,大阪行動指針に掲げられた15の個別分野中,競争政策と規制緩和に関する2つの会合は,相乗効果が認められるとして,それらを一つにまとめて取り扱うことが決定された。このため,競争法・政策会合は,競争政策・規制緩和グループに組織替えされた。
 平成16年度においては,チリのプコンにて,「WTO及び多角的貿易体制の強化」,「APEC透明性基準」,「構造改革」等を議題に議論が行われ,競争政策に係る研修セミナーを始めとする規制改革・競争政策に関するプロジェクトの報告がなされた。
(4) 競争政策に係る研修セミナー
 APECでは平成11年度の閣僚会議で採択された「競争と規制改革を促進するためのAPEC原則」を推進することを目的とした,「競争政策に係る研修セミナー」を平成14年度から3年間で5回実施した。平成16年度は,公正取引委員会は,平成16年8月に第4回研修セミナーをベトナムのホーチミンにおいて,平成16年12月に第5回研修セミナーをインドネシアのジョグ・ジャカルタにおいて,それぞれベトナム,インドネシアと協力の上,開催した。各セミナーとも国際機関や学界等の協力の下,APEC十数ヵ国・地域から約60名の参加を得て,成功裡に開催された。
4 世界貿易機関(WTO)
 平成7年4月のマラケシュ閣僚会議議長サマリーにおいては,貿易とその他の分野(競争,投資等)との相互関係を分析することの重要性が強調され,平成8年12月のシンガポール閣僚宣言において,これらの問題についての作業指針が盛り込まれ,貿易と競争政策の相互作用を検討するための作業部会を設置することとされた。
 その後,平成13年11月のドーハ閣僚宣言で,競争に関しては第5回閣僚会議において,交渉の大枠(モダリティ)について明確な合意を図った上でその後に交渉を開始することとされたことから,上記作業部会でモダリティ等の検討が進められてきた。
 作業部会は,平成9年7月以降,平成15年5月までに22回開催され,キャパシティ・ビルディング(能力向上)を通じた開発途上国における制度の強化に対する支援の強化の重要性,各競争法が遵守すべきコア・プリンシプル(基本原則)の内容等の交渉すべき要素等について検討が行われた。
 しかし,平成15年9月に開催されたカンクンでの第5回閣僚会議では,シンガポール・イシュー(競争,投資,貿易円滑化及び政府調達の4分野)について各国の議論がまとまらず,結論を得ることなく,議論が打ち切られた。なお,同閣僚会議において,議長が提案した閣僚宣言案においては,シンガポール・イシューの4分野を切り離し,競争分野は作業部会での議論を継続することとされた。その後,平成16年8月の一般理事会決定において,シンガポール・イシューのうち,貿易円滑化については交渉を開始することとされ,競争を含むその他の3分野については今次ラウンド期間中,交渉に向けた作業は行わないこととされた。
 国際消費者保護・執行ネットワーク(ICPEN:International Consumer Protection and Enforcement Network)
 ICPENは,OECD加盟国を中心とした消費者保護機関等が参加して,国境を越える違法な対消費者取引行為を効果的に規制するために,平成4年に結成された非公式・自主的な会合である。結成当初は,IMSN(International Marketing Supervision Network)と称していたが,平成15年3月にICPENへと改称した。
 ICPEN会合では,国境を越えて行われる消費者取引における詐欺的行為・欺まん的行為について,参加当局間の協力の結果,措置を採ることのできた成功例の報告や対処方法についての議論等が行われている。
 また,ICPENでは,参加当局においてインターネット上の広告について共通のテーマを選定し,法令違反の有無について一斉に点検する“International Internet Sweep Days”を実施している。
 公正取引委員会は,ICPENの前身であるIMSNに平成13年2月会合から参加している。平成16年度においては,10月会合がイギリスのロンドンで,3月会合が同・エジンバラで開催され,公正取引委員会もこれに出席した。また,迷惑メールと詐欺的行為の撲滅を目指して“Spam,Scams and Scams by Spam”(迷惑メール,詐欺及び迷惑メールによる詐欺)というテーマで行われたInternational Internet Sweep Daysに当委員会もScams(詐欺)の分野で参加し,“Lose weight AND no effort”(努力なしに痩せる)のように,容易に著しい痩身効果があると消費者に誤認を与える可能性がある商品・サービスの取引を行っているサイトについて点検を行った。
 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)
 ICNは,競争法執行の手続面及び実体面での収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,約80か国の競争当局が参加している。これまで多国間合併,競争唱導,能力向上等をテーマとして,必要に応じて電話会議を開催するほか,質問票の活用,各国当局が書面により議論に貢献すること等を通じて検討が行われてきており,公正取引委員会もこれらの活動に積極的に参加している。
 平成16年度においては,4月に第3回年次総会が韓国のソウルで開催され,公正取引委員会もこれに出席した。第3回年次総会では,合併作業部会で検討が進められてきた4つの新たな「推奨すべき慣行」(複数国にまたがる合併審査において推奨される届出手続の方針)など各作業部会の報告書が原則として承認されたほか,新たにカルテル作業部会を立ち上げることとされた。また,平成17年6月にドイツのボンにて開催予定の第4回年次総会に向けて,カルテル作業部会,合併作業部会,競争政策の実施に関する作業部会及び規制分野における競争政策の執行に関する作業部会において議論されている内容について,それぞれの作業部会で引き続き検討を進めていくこととされた。
7 東アジア競争法・政策に関するカンファレンス
 公正取引委員会は,平成16年から,東アジア地域において競争法の効果的な導入・執行に向けた共通の認識を醸成することを目的として,東アジア諸国との共催により,東アジア競争法・政策に関するカンファレンスを開催しているところであり,平成17年5月3日及び4日にインドネシア・ボゴールにおいて,インドネシアの競争当局である事業競争監視委員会と協力して,第2回東アジア競争法・政策カンファレンスを開催した。同カンファレンスでは,東アジア地域の競争関連当局等からシニアレベルの出席を得て,「東アジア地域の競争政策と最近の課題」及び「競争政策と産業政策の相関関係」をテーマとして,各国・地域からの発表及び活発な討議が行われた。
8 東アジア競争関連当局トップ会合
 公正取引委員会は,平成17年5月5日,インドネシア事業競争監視委員会との共催により,同国ボゴールにおいて東アジア競争関連当局トップ会合を開催した。同会合は,東アジアの競争関連当局トップ間の情報及び意見交換を通じて競争関連当局間のネットワーク化を進めるとともに,相互理解を深め,東アジア地域の実情に根差した形で競争環境整備を図ることが重要との観点から,当委員会の提唱により開催されたものであり,東アジア地域において初めて競争関連当局のトップが一同に会した会合である(我が国の他に,インドネシア,大韓民国,シンガポール,タイ,台湾,フィリピン,ベトナム及びマレーシアの競争関連当局のトップ等が参加した。)。同会合では,「競争法・政策の執行への課題」,「効果的な技術支援・キャパシティ・ビルディングのための施策」をテーマとして,活発な意見交換が行われた。

第6 海外の競争当局等に対する技術支援

 近年,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・競争政策の重要性が認識されるに従って,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。公正取引委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術支援を行っている。また,平成14年9月に当委員会が公表した独占禁止法・国際問題研究会報告書でも提言されたように,特に東アジアとの経済連携の強化を推進していく必要性が高まりつつあるなかで,反競争的行為により貿易・投資の自由化・円滑化から得られる利益が損なわれることのないように,公正取引委員会として,今後とも東アジア地域の競争当局等が反競争的行為に適切に対処することのできるような能力向上や技術支援を行っていくこととしている。
 これまでの具体的な協力の概要は次のとおりである。
1 開発途上国競争政策研修
 平成6年度から,国際協力機構(JICA)を通じて,競争法を導入しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・競争政策に関する研修を実施している。
 平成16年度は,8月23日から9月23日の期間において,アジア諸国等13か国15名(インド,インドネシア,ウクライナ,カザフスタン,セルビア・モンテネグロ,タジキスタン,中国,トルコ,フィリピン,ブラジル,ベトナム,ペルー及びマレーシア)の競争当局等の中堅職員を対象に,招聘研修を実施した。
2 中国競争政策研修
 平成10年度から,JICAを通じて,中国に対し,競争法・競争政策及び関連の法律について研修を実施している。
 平成16年度は,中国における独禁法の起草作業の本格化を踏まえ技術支援の拡充が図られた。平成16年10月11日から11月3日の期間において,中国の競争関連当局に当たる国家工商行政管理総局や包括的競争法の起草を担当している商務部の職員等計9名を対象に,招へい研修を実施したほか,平成17年3月に北京で学識経験者によるワークショップを開催した。
3 インドネシア競争政策研修
 平成17年2月20日から3月9日の期間において,JICAを通じて,インドネシアの競争当局職員10名を対象に,競争法・競争政策に関する招へい研修を実施した。
4 タイへの技術支援
 平成16年度から平成17年度にかけて,JICAを通じて,タイのバンコクに公正取引委員会の職員等を派遣し,ワークショップを開催することとした。第一回ワークショップは平成17年1月に,第二回は平成17年3月に開催された。また,本技術支援の一環として,タイ競争当局幹部を含む3名に対して,平成17年2月に招へい研修を実施した。
5 専門家派遣
 平成13年度より,JICAを通じて,当委員会の職員を競争法の専門家として,インドネシアに派遣している。
6 その他の技術支援
 外国政府又は国際機関等が主に東アジアで実施する競争政策に関するセミナーに対して,積極的に講師を派遣した。また,東アジア地域において,各国の競争当局等の個別のニーズに即応すべく,現地に公正取引委員会の職員や学識経験者を派遣して,課題別のワークショップを随時開催した。

第7 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成16年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向及び競争関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(附属資料10−1及び10−2参照)。

第8 海外への情報発信

 公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ,我が国競争政策の状況を広く海外に周知するため,英文パンフレットの配布及び英文ホームページの公開や海外の法曹協会が主催するセミナー等への積極的な講師派遣を実施している。
 平成16年度においては,各種プレスリリースやガイドライン等を英文ホームページにおいて随時掲載したほか,ABA(全米法曹協会)反トラスト部会国際会合(平成17年1月開催)に講演者を派遣するなど,我が国競争政策の積極的な周知活動に努めた。
 また,平成17年4月に東京において開催されたIBA/日弁連共催カンファレンスにおいては,委員長等が講演を行った。