下請法は,経済的に優越した地位にある親事業者の下請代金支払遅延等の行為を迅速かつ効果的に規制することにより,下請取引の公正化を図るとともに下請事業者の利益を保護する目的で,独占禁止法の不公正な取引方法の規制の補完法として昭和31年に制定された。
従来,下請法は,製造・修理における下請取引を規制対象としてきたが,経済のソフト化・サービス化,IT化,規制緩和の進展等の環境変化によりサービス分野における委託取引も増加していることから,サービス分野における委託取引の公正化を図り,中小企業が活躍できるフェアな競争環境を整備することが重要な課題とされていた。このような状況の下,役務に係る下請取引等を下請法の対象として追加すること等を内容とする「下請代金支払遅延等防止法の一部を改正する法律案」が,国会での審議を経て,平成15年6月12日に成立し(同月18日公布),平成16年4月1日から施行された。 改正下請法においては,親事業者が下請事業者に物品の製造・修理,プログラム等の情報成果物の作成,役務の提供を委託する場合,親事業者に対し下請事業者への発注書面の交付(第3条)並びに下請取引に関する書類の作成及びその2年間の保存(第5条)を義務付けているほか,親事業者が,(1)委託した給付の受領拒否(第4条第1項第1号),(2)下請代金の支払遅延(同項第2号),(3)下請代金の減額(同項第3号),(4)返品(同項第4号),(5)買いたたき(同項第5号),(6)物の購入強制・役務の利用強制(同項第6号),(7)有償支給原材料等の対価の早期決済(同条第2項第1号),(8)割引困難な手形の交付(同項第2号),(9)不当な経済上の利益の提供要請(同項第3号),(10)不当な給付内容の変更・不当なやり直し(同項第4号)等の行為を行った場合には,公正取引委員会は,その親事業者に対し,当該行為を取りやめ,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じるよう勧告する旨を定めている。 |
下請取引の性格上,下請事業者からの下請法違反被疑事実についての申告が期待できないため,公正取引委員会は,中小企業庁の協力を得て,親事業者及びこれらと取引している下請事業者を対象として定期的に書面調査を実施するほか,特定の業種・事業者について特別調査を実施することにより,違反行為の発見に努めている。
これらの調査の結果,違反行為が認められた親事業者に対しては,その行為を取りやめさせるほか,下請事業者が被った不利益の原状回復措置等を講じさせている(第1表,第2表,附属資料8−1表及び8−2表参照)。 1 書面調査
平成16年度においては,改正下請法の施行により4月から新たに同法の対象となった情報成果物作成委託及び役務提供委託(以下「役務委託等」という。)を行っていると見込まれる事業者についても書面調査を拡充し,資本金1000万円超の親事業者30,932社及びその下請事業者170,517社を対象に書面調査を実施した。このうち,役務委託等に係る調査対象は,親事業者12,789社及びその下請事業者46,437社であった(第1表参照)。 2 違反被疑事件の新規発生件数及び処理件数
(1) 新規発生件数
平成16年度において,新規に発生した下請法違反被疑事件は2,710件である。このうち,書面調査により職権探知したものは2,638件であり,下請事業者からの申告によるものは72件である(第2表参照)。
(2) 処理件数
平成16年度において,公正取引委員会が下請法違反被疑事件として処理した件数は,2,663件であり,このうち,2,588件について違反行為又は違反のおそれのある行為(以下,総称して「違反行為等」という。)が認められたため,4件について同法第7条の規定に基づき勧告を行い,いずれも公表し,2,584件について警告の措置を採るとともに,これら親事業者に対しては,違反行為等の改善及び再発防止のために,社内研修,監査等により社内体制を整備するよう指導した(第2表参照)。 3 違反行為類型別件数
平成16年度において勧告又は警告の措置が採られた違反行為等を行為類型別にみると,手続規定違反(第3条又は第5条違反)が2,556件(違反行為類型別件数の延べ合計の66.1%)である。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付していない,又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が2,235件,下請取引に関する書類を一定期間保存していないもの(第5条違反)が321件である。また,実体規定違反(第4条違反)は,1,313件(違反行為類型別件数の延べ合計の33.9%)となっており,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が751件(57.2%),手形期間が120日(繊維業の場合は90日)を超える長期手形等の割引困難なおそれのある手形の交付(同条第2項第2号違反)が144件(11.0%),下請代金の減額(同条第1項第3号違反)が142件(10.8%)となっている(第3表参照)。
平成16年度中に,下請代金の支払遅延事件においては,親事業者により総額3622万円の遅延利息が下請事業者に支払われており(第4表参照),減額事件においては,親事業者により総額2億2135万円が下請事業者に返還されている(第5表参照)。
4 役務委託等に係る違反被疑事件の新規発生件数及び処理件数
(1) 新規発生件数
平成16年度において,役務委託等に関して新規発生した下請法違反被疑事件は1,100件である。このうち,書面調査により職権探知したものは1,077件であり,下請事業者からの申告によるものは23件である(第6表参照)。
(2) 処理件数
平成16年度において,役務委託等に係る下請法違反被疑事件を処理した件数は,1,083件であり,このうち,違反行為等が認められた1,064件について警告の措置を採った(第6表参照)。
(3) 違反行為類型別件数
平成16年度において,警告の措置が採られた役務委託等に係る違反行為等を行為類型別にみると,手続規定違反(第3条又は第5条違反)が1,085件(違反行為類型別件数の延べ合計の63.6%)である。このうち,発注時に下請代金の額,支払方法等を記載した書面を交付していない,又は交付していても記載すべき事項が不備のもの(第3条違反)が937件,下請取引に関する書類を一定期間保存していないもの(第5条違反)が148件である。また,実体規定違反(第4条違反)は,620件(違反行為類型別件数の延べ合計の36.4%)となっており,このうち,下請代金の支払遅延(第4条第1項第2号違反)が456件(73.5%),下請代金の減額(同条第1項第3号違反)が41件(6.6%),物品の購入,サービス等の利用強制(同条第1項第6号違反)が40件(6.5%),不当な発注内容の変更・やり直し(同条第2項第4号違反)が32件(5.2%)となっている(第7表参照)。 第7表 役務委託に係る下請法違反行為
類型別件数
(4) 違反行為等の特徴
役務委託等における違反行為等の特徴として,下請代金の支払遅延の割合が多くなっている。これは,下請法の改正に合わせて,給付の受領後60日以内に下請代金を支払う制度に変更する必要があるが,受領後ではなく締切後60日以内に下請代金を支払えばよいと誤解していた(注)ケースが多かったのではないかと考えられる。また,ソフトウエアの作成委託取引において,発注内容の変更・やり直しが多く見られた。これは,委託業務の特質からある程度予想されたことであり,納期までの間に発注内容が変更されることが比較的多いのではないかと思われる。
5 勧告又は警告を行った違反事例
平成16年度に勧告又は警告を行った主な事例は次のとおりである。
(1) 勧告を行った事例 (2) 警告を行った主な事例 6 下請取引の状況
平成16年度に書面調査を行った親事業者のうち,下請法の対象となる取引を行っている事業者の比率は59.3%(役務委託等に限った場合の比率は48.6%)となっている(第8表参照)。また,業種別の下請取引の比率を見ると,一般機械器具製造業,輸送用機械器具製造業及び電気機械器具製造業が高く,廃棄物処理業,その他の生活関連サービス業及び石油製品・石炭製品製造業が低かった(第9表参照)。
第8表 下請取引の状況
第9表 業種別の下請取引の状況(下請取引を行っている親事業者の比率)
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1 下請法違反行為の未然防止及び再発防止の指導
下請法の運用に当たっては,違反行為を迅速かつ効果的に排除することはもとより,違反行為を未然に防止することも重要である。このような観点から,公正取引委員会は,以下のとおり各種の施策を実施し,違反行為の未然防止を図っている。
(1) 下請取引適正化推進月間
毎年11月を「下請取引適正化推進月間」と定め,中小企業庁と共同して,新聞,雑誌,テレビ等で広報活動を行うほか,全国各地において下請法に関する講習会を開催するなど下請法の普及・啓発に努めている。
平成16年度は,親事業者を対象に33都道府県36会場(うち公正取引委員会主催分17都府県〔17会場〕)において講習会を開催した。 また,下請取引を適正化するためには,親事業者だけでなく,取引のもう一方の当事者である下請事業者にも下請法の趣旨内容を周知徹底する必要があることにかんがみ,下請事業者を対象とした下請法講習会を実施しており,平成16年度においては3道県4会場で開催した。 (2) 下請法遵守の要請
下請事業者をめぐる厳しい情勢の下で,下請取引の適正化を強力に推進することが緊要となっており,特に,金融繁忙期である年末においては,下請事業者の資金繰り等について厳しさを増すことが懸念されていることから,下請代金の支払遅延,下請代金の減額,買いたたき,割引困難な手形(長期手形)の交付等の行為が行われることのないよう,平成16年11月29日,親事業者約22,700社(製造関係〔資本金1億円以上〕約10,300社,役務関係〔資本金5000万円以上〕約12,400社)及び関係事業者団体約600団体に対し,下請法の遵守の徹底等について,公正取引委員会委員長及び経済産業大臣連名の文書等をもって要請した。
(3) 下請法運用協力団体との連携
下請法の内容の周知及び違反行為の未然防止を効果的に行うため,各業種における親事業者又は下請事業者の団体を下請法運用協力団体として登録(平成17年3月末現在98団体)し,これらの協力団体に対し下請法についての説明会を開催し,協力団体又は傘下の事業者が下請法遵守マニュアルの作成を行う際に資料提供等の便宜を図ることで,下請法違反行為の未然防止に役立てることとしている。
平成16年度においては,前記(1)及び(2)の取組に当たって,これらの協力団体の協力を得た。 (4) 広報,相談・指導業務
事業者等からの下請法に関する相談に応じるとともに,購買・外注担当者らに対する社内研修の実施及び購買・外注担当者向けの下請法に関する遵守マニュアルの作成を積極的に指導したほか,関係団体等の研修会に講師の派遣,資料の提供等を行い,下請法の普及・啓発を行った。
2 都道府県との相互協力体制
下請法をきめ細かく,かつ,的確に運用して全国各地の下請事業者の利益保護を図るためには,地域経済に密着した行政を行っている都道府県との協力体制を採ることが必要であることから,昭和60年4月から下請取引の適正化に関し,都道府県担当者との連絡会議を開催するとともに,必要に応じた情報交換に努めている。
平成16年度においても,全国でブロック別都道府県下請取引担当官会議を開催した。 3 下請取引改善協力委員
公正取引委員会では,下請法の的確な運用に資するため,昭和40年度以降,当委員会の業務に協力する中小企業の経営者等民間有識者に下請取引改善協力委員を委嘱している。平成16年度における下請取引改善協力委員は140名である。
平成16年度においては,ブロック別下請取引改善協力委員会議をそれぞれ2回開催したほか,役務に係る下請取引等を規制対象に追加すること等を内容とする改正下請法が平成16年4月1日から施行されたことを踏まえ,同年6月にサービス分野に係る下請取引改善協力委員の全国会議を開催し,最近の下請取引の状況等について意見を交換した。 |
建設業の下請取引において,元請負人等が下請負人に対し,請負代金の支払遅延,不当な減額等の不公正な取引方法を用いていると認められるときは,建設業法(昭和24年法律第100号)第42条又は第42条の2の規定に基づき,国土交通大臣,都道府県知事又は中小企業庁長官が公正取引委員会に対し,独占禁止法の規定に従い適当な措置を採ることを求めることができることとなっている。
なお,平成16年度においては,措置請求はなかった。 |