第2部 各論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法の改正

1 独占禁止法の一部を改正する法律
 現在,我が国においては,市場原理・自己責任原則に立脚した経済社会の実現のために構造改革を推進することが重要な政策課題となっているところ,談合・横並び体質からの脱却を図り,21世紀にふさわしい競争政策を確立するため,課徴金制度の見直し,課徴金減免制度の導入,犯則調査権限の導入,審判手続等の見直し等を内容とする独占禁止法改正法は,平成17年4月20日に成立し,同月27日に公布され,平成18年1月4日に施行された(平成17年法律第35号)。独占禁止法改正法の国会における審議状況及び同法の内容は,次のとおりである。
(1) 国会における審議状況
 前記独占禁止法改正法案は,平成16年10月15日に閣議決定が行われ,同日,第161回臨時国会に提出された。同法案は,衆議院においては,11月4日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委員会に付託された後,数回の審議が行われたが,審議未了のまま次期通常国会への継続審議とされた。第162回通常国会では,平成17年3月11日に経済産業委員会で,同月15日に本会議でそれぞれ可決され,参議院に送付された。参議院においては,4月6日に本会議で趣旨説明及び質疑が行われ,同日,経済産業委員会に付託された後,同月19日に同委員会で,同月20日に本会議でそれぞれ可決され,同法案は成立した。
(2) 改正の内容
ア 課徴金算定率の引上げ等
(ア)  不当な取引制限等を行った事業者に対して納付を命ずる課徴金の額の計算に係る売上額に乗ずる率を引き上げ,100分の10(小売業100分の3,卸売業100分の2)とし,併せて規模の小さい事業者に対して納付を命ずる課徴金の額の計算に係る売上額に乗ずる率を引き上げ,100分の4(小売業100分の1.2,卸売業100分の1)とした。(改正法第7条の2第1項及び第4項関係)
(イ)  課徴金の納付を命ずる場合において,当該事業者が調査開始日の1月前の日までに違反行為をやめたとき(実行期間が2年未満である場合に限る。)又は過去10年以内に課徴金納付命令等を受けたことがあるときは,(ア)の算定率と異なる率を適用することとした。(改正法第7条の2第5項及び第6項関係)
(ウ)  課徴金の納付を命ずることができない額を50万円未満から100万円未満に引き上げることとした。(改正法第7条の2第1項関係)
イ 課徴金適用対象範囲の見直し
 課徴金適用対象行為を次に掲げる行為とした。
(ア)  不当な取引制限等で,商品若しくは役務の対価に係るもの又は供給量若しくは購入量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することにより対価に影響することとなるもの(改正法第7条の2第1項関係)
(イ)  私的独占(他の事業者の事業活動を支配することによるものに限る。)で,当該他の事業者が供給する商品若しくは役務の対価に係るもの又は供給量,市場占有率若しくは取引の相手方を実質的に制限することにより対価に影響することとなるもの(改正法第7条の2第2項関係)
ウ 課徴金と罰金刑が併科される場合の措置
 同一の事業者に対して課徴金と罰金刑が併科される場合において,課徴金の額から罰金額の2分の1に相当する金額を控除する措置を設けることとした。(改正法第7条の2第14項及び第15項並びに第51条関係)
エ 課徴金減免制度の導入
(ア)  課徴金納付命令対象事業者(不当な取引制限等を行った者に限る。以下同じ。)が次に掲げる要件のいずれにも該当するときは,課徴金の納付を命じないものとした。(改正法第7条の2第7項関係)
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち最初に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること。
 公正取引委員会の調査開始日以後,違反行為をしていた者でないこと。
(イ)  課徴金納付命令対象事業者が次に掲げる要件のうちa及びcに該当するときは課徴金の額に100分の50を乗じて得た額を,b及びcに該当するときは課徴金の額に100分の30を乗じて得た額を,それぞれ当該課徴金の額から減額することとした。(改正法第7条の2第8項関係)
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち2番目に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること。
 公正取引委員会の調査開始日前に,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為をした事業者のうち3番目に当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行った者であること。
 公正取引委員会の調査開始日以後,違反行為をしていた者でないこと。
(ウ)  調査開始日前に違反行為の報告及び資料の提出を行った者が3に満たないときは当該違反行為をした事業者のうち次に掲げる要件のいずれにも該当する者(当該違反行為の報告及び資料の提出を行った者の数の合計が3以下である場合に限る。)であるときは,課徴金の額に100分の30を乗じて得た額を,当該課徴金の額から減額することとした。(改正法第7条の2第9項関係)
 公正取引委員会の調査開始日以後公正取引委員会規則で定める期日までに,公正取引委員会規則で定めるところにより,単独で,当該違反行為に係る事実の報告及び資料の提出(既に公正取引委員会によって把握されている事実に係るものを除く。)を行った者
 当該違反行為の報告及び資料の提出を行った日以後,違反行為をしていた者以外の者
(エ)  公正取引委員会が,調査開始日前又は調査開始日以後による報告及び資料の提出を行った事業者に対して課徴金の納付命令等をするまでの間に,次に掲げる要件のいずれかに該当する事実があると認めるときは,(ア)から(ウ)までにかかわらず,課徴金の減免を行わないこととした。(改正法第7条の2第12項関係)
 当該事業者が行った当該報告又は提出した当該資料に虚偽の内容が含まれていたこと。
 当該事業者が求められた報告若しくは資料の提出をせず,又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと。
 当該事業者がした当該違反行為に係る事件において,当該事業者が他の事業者に対し違反行為をすることを強要し,又は他の事業者が違反行為をやめることを妨害していたこと。
オ 審判手続等の見直し
(ア) 排除措置を命ずる手続等の整備
 違反行為が既になくなっている場合において,当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置を命ずることができる期間を,当該行為がなくなった日から3年とした。(改正法第7条第2項関係)
 第3条,第6条,第8条,第19条及び第4章の規定に違反する行為があると認める場合に勧告又は審判開始決定を行うことができるとする規定を廃止し,排除措置命令を行うこととした。(改正法第49条第1項関係)
 排除措置命令をしようとするときは,あらかじめ,意見を述べ,及び証拠を提出する機会を付与しなければならないこととした。(改正法第49条第3項関係)
 排除措置命令に不服がある者は,排除措置命令書の謄本の送達があった日から60日以内に審判を請求することができることとし,当該期間は不変期間としないこととした。(改正法第49条第6項関係)
 排除措置命令について審判請求があった場合において必要があると認めるときは,排除措置命令の執行を停止することができることとした。(改正法第54条第1項関係)
(イ) 課徴金の納付を命ずる手続等の整備
 排除措置に係る審判手続が終了した後でなければ課徴金の納付を命ずることができないとしている規定を廃止することとした。(改正法第50条第1項関係)
 課徴金の納期限は,課徴金納付命令書の謄本を発する日から3月を経過した日とした。(改正法第50条第3項関係)
 納付命令に係る審判手続が開始された場合,当該納付命令はその効力を失わないこととし,課徴金をその納期限までに納付しない者がある場合において審決で当該納付命令が維持されたときは,政令で定める率の延滞金を付加して徴収することができることとした。(改正法第70条の9関係)
 審決で納付命令が取り消された場合において既に納付された金額で還付すべきものがあるときは,当該金額に政令で定める率を乗じて得た金額を加算して還付することとした。(改正法第70条の10関係)
(ウ) 審判請求及び審決に係る手続等の整備
 審判請求をする者は,請求の趣旨,理由等を記載した請求書を公正取引委員会に提出しなければならないこととした。(改正法第52条第1項関係)
 審判請求は,最終の審判の期日までは,いつでも,書面により取り下げることができることとした。(改正法第52条第4項関係)
 審判手続を開始するときは,審判請求をした者に対し,その旨を記載した審判開始通知書を送付することとした。(改正法第55条第1項関係)
 審判手続を経た後,審判請求が理由がないときは,当該審判請求を棄却し,審判請求が理由があるときは,原処分の全部又は一部を取り消し,又はこれを変更することとする審決を行うこととした。(改正法第66条関係)
 公正取引委員会に対する訴えであって,審判請求をすることができる事項に関するものについては,審決に対するものでなければ提起することができないこととした。(改正法第77条第3項関係)
(エ) 審判官及び審判手続に係る規定の整備
 審判官の定数は政令で定めることとした。(改正法第35条第8項関係)
 公正取引委員会は,審判手続の開始を決定した後,事件ごとに審判官を指定し,当該事件について審判手続の全部又は一部を行わせることができることとした。(改正法第56条第1項関係)
 公正取引委員会の指定を受けた審判官は,審判手続に係る事務を指揮することとした。(改正法第56条第2項関係)
 審査官は,審判に立ち会い,原処分の原因となる事実及び法令の適用等について主張することができることとした。(改正法第58条関係)
 被審人又はその代理人は,審判に際して,公正取引委員会に対し,調査を嘱託すること等を求め,又は公正取引委員会が調査を嘱託した者に質問すること等ができることとした。(改正法第59条第1項関係)
 排除措置命令が確定した場合等には,納付命令に係る審判手続において,被審人又はその代理人は,当該納付命令に係る違反行為の不存在を主張することができないこととした。(改正法第59条第2項関係)
 公正取引委員会又は審判官は,適当と認めるときは,職権で,審判手続を併合し,又は分離することができることとした。(改正法第64条関係)
カ 犯則調査権限の導入等
(ア)  犯則事件(第89条から第91条までの罪に係る事件)を調査するため必要があるときには,公正取引委員会の職員は臨検,捜索,差押え等ができるようにするとともに,公正取引委員会は,当該調査により犯則の心証を得たときは,告発を行うこととする等,所要の規定を整備することとした。(改正法第74条第1項,第101条〜第118条関係)
(イ)  刑事事件に係る東京高等裁判所専属管轄及び審級省略制度を廃止し,第一審の管轄を全国の地方裁判所に拡大するとともに,各高等裁判所所在地の地方裁判所及び東京地方裁判所の管轄にも属することとした。(改正法第84条の3及び第84条の4関係)
キ 罰則規定の見直し
(ア)  確定した排除措置命令に違反する罪に係る法人等に対する罰金の上限額を3億円に引き上げることとした。(改正法第95条第1項第2号及び第2項第2号関係)
(イ)  事件について必要な調査をするための事件関係人等に対する処分等に係る罰則を1年以下の懲役又は300万円以下の罰金とするとともに,行為者を罰するほか,法人等に対しても罰金刑を科することとした。(改正法第94条及び第95条第2項第3号関係)
ク 価格の同調的引上げに対する報告徴収規定の廃止
 価格の同調的引上げに対する報告徴収規定を廃止することとした。(第18条の2関係)
2 保険業法等の一部を改正する法律の制定に伴う独占禁止法の改正
 経済社会情勢の変化を踏まえ,金融資本市場の構造改革を促進し,保険契約者等の保護の一層の充実を図るため,保険業法の適用範囲及び保険契約者保護制度の見直しを行うとともに,少額短期保険業者の特例の創設,特別勘定で経理された保険契約の更生手続における取扱いの見直し,保険会社の子会社規制の緩和を行う等,所要の措置を講ずることを内容とする保険業法等の一部を改正する法律案が第162回国会に提出された。同法案は,少額短期保険業者の特例の創設に伴う独占禁止法の所要の改正を含むものであるところ,平成17年4月22日可決・成立した(平成17年法律第38号。平成17年5月2日公布,平成18年4月1日施行)。
3 会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の制定に伴う独占禁止法の改正
 社会経済情勢の変化にかんがみ,会社に関する法制について,最低資本金制度の撤廃,会社の機関の設置等における定款自治の範囲の拡大,合併等の組織再編成に関する手続の整備,有限責任社員のみで構成される新たな会社類型の新設等を行うとともに,国民に理解しやすい法制とするためこれを現代用語の表記によって一体のものとして可編成することを内容とする会社法の施行に伴い,有限会社法等を廃止し,商法その他の関係法律の規定の整備等を図るとともに,所要の経過措置を定める必要があるため,会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案が第162回国会に提出された。同法案は,会社法における子会社の範囲の見直し,「営業」から「事業」への用語の置き換え等に伴う独占禁止法の所要の改正(第2条第10項の子会社の定義の改正等)を含むものであるところ,平成17年6月29日可決・成立した(平成17年法律第87号。平成17年7月26日公布,平成18年5月1日施行)。

第2 独占禁止法改正に伴う政令等の改正等正

1 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令の一部改正
 平成17年の独占禁止法の改正に伴い,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律施行令を改正し,関係規定について所要の整備を行った(平成17年政令第318号。平成17年10月13日公布,平成18年1月4日施行)。概要は以下のとおりである。
(1) 購入カルテルの購入額の算定の方法
 購入カルテルの購入額の算定の方法は,原則として実行期間において引渡しを受けた商品又は提供を受けた役務の対価の額を合計する方法とすることとした。この場合において,値引き,返品又は一定の割戻しがあった場合には,これに相当する額を控除することとした。
(2) 支配型私的独占のうち対価に係るもの等の売上額の算定の方法
 支配型私的独占のうち対価に係るもの等の売上額の算定の方法は,原則として実行期間において被支配事業者に引き渡した商品又は提供した役務及び一定の取引分野において引き渡した商品又は提供した役務のそれぞれについて,現行の売上額の算定の方法と同様の基準により対価の額を合計し,それらを合算する方法とすることとした。この場合において,値引き,返品又は一定の割戻しがあった場合には,これに相当する額を控除することとした。
(3) 軽減算定率が適用される組合の規模
 協業組合その他の特別の法律により協同して事業を行うことを主たる目的として設立された組合については,当該組合の出資の総額及び当該組合の直接若しくは間接の構成員の資本の額若しくは出資の総額の合計額が,独占禁止法第7条の2第4項第1号から第5号までに定める業種ごとに,当該各号に定める資本の額若しくは出資の総額以下である場合,又は当該組合が常時使用する従業員の数及び当該組合の直接若しくは間接の構成員が常時使用する従業員の数の合計数が,同項第1号から第5号までに定める業種ごとに,当該各号に定める従業員の数以下である場合は,当該各号に定める規模に相当するものとした。
(4) 違反会社が合併により消滅した場合の課徴金減免制度の適用
 合併により消滅した会社が行った課徴金減免に係る報告等は,独占禁止法第7条の2第19項により合併後存続する会社又は合併により設立される会社が行ったとみなされる違反行為に係る課徴金について,当該存続する会社又は設立される会社が行った報告等とみなして,同条第7項から第9項までの規定を適用することとした。また,違反行為をした会社が合併により消滅した場合,合併後存続する会社が行った課徴金減免に係る報告等の効力は,独占禁止法第7条の2第19項により当該存続する会社が行ったとみなされる違反行為に係る課徴金には及ばないこととした。
(5) 審判手続中における課徴金に係る延滞金の割合等
 課徴金納付命令は審判手続の開始によって効力を失わないこととしたため,納付すべき課徴金の額,納期限等を記載した命令書の謄本が送達された時点で事業者に納付義務が生ずることとなる。納期限を超えても納付がない場合には原則として年14.5%の延滞金が発生する。延滞金は,審判手続中も賦課することが可能であり,かかる場合には,年7.25%又は「公定歩合+4%」のいずれか低い割合で計算された延滞金が徴収されることとした。
 なお,課徴金の納付が行われた後,審決において課徴金納付命令が取り消された場合には,延滞金と同率の還付加算金を付して還付することとした。
2 公正取引委員会事務総局組織令の一部改正
 犯則調査権限の導入等を内容とする独占禁止法改正法の施行に伴い,犯則事件の審査を行うため特別審査部を犯則審査部に改組するほか,公正取引委員会事務総局の官房,局及び課の所掌事務の範囲につき所要の改正を行うこと等を内容とする公正取引委員会事務総局組織令の改正が行われた(平成17年政令第319号。平成17年10月13日公布,平成18年1月4日施行)。
3 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第46条第2項の審査官の指定に関する政令の一部改正
 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第46条第2項の審査官の指定に関する政令は,公正取引委員会事務総局の審査局並びに地方事務所及びその支所の職員のうち,事件の審査を行い,及び審判に立ち会うため必要な法律及び経済に関する知識・経験を有するものについて「審査官」の指定を行うと規定していたが,平成17年の独占禁止法の改正に伴い,犯則審査部の職員が行政調査権限を行使し得る「審査官」に指定されることのないようにするため,同政令を改正し,「審査官」に指定される職員の範囲から犯則審査部の職員を除くこととした(平成17年政令第320号。平成17年10月13日公布,平成18年1月4日施行。)。
4 公正取引委員会規則等の改正等
 平成17年の独占禁止法の改正に伴い,「公正取引委員会の審査に関する規則」,「課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則」,「公正取引委員会の犯則事件の調査に関する規則」及び「公正取引委員会の審判に関する規則」等を制定・改正し,関係規定について所要の整備を行った。概要は,以下のとおりである。
(1) 公正取引委員会の審判に関する規則
 「公正取引委員会の審判に関する規則」は,「公正取引委員会の審査及び審判に関する規則」(平成13年公正取引委員会規則第8号)の全部改正により制定された。基本的には従来の規則における審判手続に関する部分と同様の規定となっている。
 主な変更点は以下のとおりである。
 審判手続は,命令に不服がある者からの審判請求によって開始されることとなったことに伴い,その手続等について規定した。
(ア)  審判請求及びその取下げの方法(各様式等)
(イ)  冒頭手続の規定等を整備
 審判廷の秩序維持に係る審判長権限等を規定した。
 審査官の主張を変更できる限界を,事件の同一性を失わせることとならない範囲内と規定した。
 審判手続のより一層の迅速化を図る観点から,2年以内のできるだけ短い期間内に審判手続を終結させることを目標にすることを規定した。
(2) 公正取引委員会の審査に関する規則
 法改正により,排除措置命令及び課徴金納付命令の名あて人となるべき者に意見申述及び証拠提出の機会が設けられたこと(改正法第49条第3項から第5項まで及び第50条第6項)に伴い,その手続等について,以下を規定した。
(ア)  公正取引委員会は,排除措置命令については予定される排除措置命令の内容,公正取引委員会の認定した事実等,課徴金納付命令については納付を命じようとする課徴金の額,課徴金の計算の基礎等を記載した文書を送達すること。
(イ)  申出があった事業者又は代理人に対しては,予定される排除措置命令の内容,証拠等の説明を必ず行うこととし,証拠説明においては,委員会の認定した事実を基礎付けるために必要な証拠について説明すること。
(ウ)  名あて人となるべき者の意見申述は原則として文書で行わなければならないこと。
(エ)  意見申述等について選任された代理人はその権限を文書で明らかにしなければならないこと。
 法改正により,課徴金を全額免除された関係人及び罰金との調整によって課徴金の納付を命じない関係人にその旨を通知(改正法第7条の2第13項及び第16項)することとなったところ,他の関係人に課徴金納付命令を発しない場合には,他の関係人に対し課徴金納付命令をしない旨の通知をする時までにその通知をしなければならない旨規定した。
 法改正により,排除措置命令の執行停止及び執行停止の取消しが定められたこと(改正法第54条第1項及び第2項)に伴い,その手続を規定した。
 一層の適正手続の確保の観点から,以下を規定した。
(ア)  審査官は,提出命令(改正法第47条第1項第3号)により提出物件を留置したときは,差出人に対し,当該物件を留置した旨を文書で通知しなければならないこと。
(イ)  帳簿書類その他の物件の提出を命じられた者は,事件の審査に特に支障を生ずることとならない限り,当該物件の閲覧・謄写が認められること。この場合,提出を命じられた者の意見を斟酌して,場所等を指定すること。
(ウ)  立入検査に際して,事件名,法の規定に違反する被疑事実の要旨及び関係法条を記載した書面を関係者に交付すること。
(3) 公正取引委員会の犯則事件の調査に関する規則
 行政調査部門と犯則調査部門とのファイアーウォールを設けるため,以下を規定した。
(ア)  犯則調査権限を行使する職員の指定は,犯則審査部の職員に限って行うものとすること。
(イ)  行政調査権限を行使した事件において接した事実が犯則事件の端緒となると思料される場合には,審査官は,直ちに事務総局審査局長に報告し,その指示を受けるものとし,当該事実を直接犯則事件調査職員に報告してはならないこと。
 犯則調査権限を行使する際,関係者の請求があったときに提示しなければならない身分を示す証票(改正法第106条)の様式を規定した。
(4) 課徴金の減免に係る報告及び資料の提出に関する規則
 調査開始日(注)前に,違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行おうとする者は,当該行為の概要を記載した報告書(様式第1号)をファクシミリにより公正取引委員会に提出しなければならないこととした。
 公正取引委員会は,前記(4)アの報告書を受理したときは,当該報告書の提出の順位並びに当該行為の態様,当該行為に関与した者等を記載した報告書(様式第2号)及び資料の提出を行うべき期限を通知することとした。
 調査開始日前に,違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行おうとする者は,前記(4)イの期限までに前記(4)イの報告書及び資料を公正取引委員会に提出しなければならないこととした。
 調査開始日以後に,違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行おうとする者は,当該行為の態様,当該行為に関与した者等を記載した報告書(様式第3号)をファクシミリにより公正取引委員会に提出しなければならないこととした。
 調査開始日以後に,違反行為に係る事実の報告及び資料の提出を行おうとする者は,調査開始日から20日(休日等を除く。)を経過した日までに前記(4)エの報告書及び資料を公正取引委員会に提出しなければならないこととした。
 前記(4)イの報告書及び資料並びに前記(4)オの資料の提出は,持参,書留郵便等により送付する方法,ファクシミリ又は電子申請のいずれかの方法,又はそれらの方法の併用によることとした。
 前記(4)イの期限までに前記(4)イの報告書及び資料を提出した者が2以上あるときは,課徴金減免制度の適用の順序は,前記(4)アの報告書の提出の先後によることとした。
 前記(4)オの期日までに前記(4)エの報告書及び資料を提出した者が2以上あるときは,課徴金減免制度の適用の順序は,前記(4)エの報告書の提出の先後によることとした。
 前記(4)イの報告書及び資料,前記(4)エの報告書並びに前記(4)オの資料のうちの一部の事項については,口頭による報告又は陳述を必要とする特段の事情があると公正取引委員会が認めるときは,口頭による報告又は陳述をもって代えることができることとした。
 前記(4)アの報告書,(4)イの報告書及び(4)エの報告書の提出を行った者は,正当な理由なく,その旨を第三者に明らかにしてはならないこととした。
(注) 「調査開始口」とは,当該違反行為に係る事件について立入検査又は臨検・捜索等が最初に行われた日のことをいう。
(5) 刑事告発に関する公正取引委員会の方針の改定関係
 独占禁止法改正法により犯則調査権限が導入されたこと等に併せて,平成2年に公表した「独占禁止法違反に対する刑事告発に関する公正取引委員会の方針」を改定し,「独占禁止法違反に対する刑事告発及び犯則事件の調査に関する公正取引委員会の方針」を公表することとした。同方針の概要は以下のとおりである。
ア 告発に関する方針
(ア)  法改正後においても,
 国民生活に広範な影響を及ぼすと考えられる悪質かつ重大な事案
 違反を反復して行っている事業者・業界,排除措置に従わない事業者等に係る違反行為のうち,行政処分によっては独占禁止法の目的が達成できないと考えられる事案
について,積極的に刑事処分を求めて告発を行うこととする。
(イ)  ただし,今回の法改正により新たに課徴金減免制度が導入されたことに伴い,同制度を有効に機能させる観点から,次の者については告発を行わないこととする。
 調査開始日前に最初に課徴金の免除に係る報告及び資料の提出を行った事業者(ただし,(1)当該報告又は資料に虚偽の内容が含まれていたこと,(2)追加して求められた報告若しくは資料の提出をせず,又は虚偽の報告若しくは資料の提出をしたこと及び(3)他の事業者に対し違反行為をすることを強要し,又は他の事業者が違反行為をやめることを妨害していたこと(改正法第7条の2第12項各号)のいずれかに該当する事実があると認められる事業者を除く。)
 当該事業者の役員,従業員等であって当該独占禁止法違反行為をした者のうち,当該事業者の行った公正取引委員会に対する報告及び資料の提出並びにこれに引き続いて行われた公正取引委員会の調査における対応等において,当該事業者と同様に評価すべき事情が認められるもの
イ 犯則事件の調査
 今回の法改正により新たに犯則調査権限が導入されたところ,前記(5)ア(ア)a又はbに該当すると疑うに足りる相当の理由のある独占禁止法違反被疑事件について,犯則調査を行い,当該調査の結果,前記(5)ア(ア)a又はbに該当する犯則の心証を得た場合に,告発することとする。
ウ 告発問題協議会
 告発に当たっては,その円滑・適正を期するため,検察当局との間で「告発問題協議会」を開催し,当該個別事件に係る具体的問題点等について意見・情報の交換を行うこととする。

第3 独占禁止法と他の経済法令等の調整

1 法令調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそれのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
 平成17年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。
(1) 郵政民営化関連法律案
 内閣官房郵政民営化準備室は,郵政民営化により,経営の自主性,創造性及び効率性を高め,公正かつ自由な競争を促進するとともに,多様で良質なサービスの提供を通じた国民の利便の向上,資金のより自由な運用を通じた経済の活性化を図り,もって国民生活の向上及び国民経済の健全な発展に寄与する観点から,郵政民営化法等の6法案を立案した。
 本法律案は,一部を除き,平成19年10月1日に施行することとされ,地域社会の健全な発展及び市場に与える影響に配慮しつつ,日本郵政公社が有する機能を分割し,その機能を引き継ぐ新たな株式会社を設立するとともに,一定期間,同種の業務を営む事業者との対等な競争条件を確保するための措置を講ずることを内容とするものである。  公正取引委員会は,競争政策上の観点から,競合他社への配慮義務や収支の状況の公表に関する規定等について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第163回国会に提出され,平成17年10月14日可決・成立した。
(2) 銀行法等の一部を改正する法律案
 金融庁は,金融資本市場の構造改革の促進及び保険契約者保護の充実の観点から,銀行法等の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)銀行代理店制度の見直し,(2)子会社規制の緩和等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,銀行代理業の許可基準について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第163回国会に提出され,平成17年10月26日可決・成立した。
(3) 電波法及び放送法の一部を改正する法律案
 総務省は,電波の有効利用を推進する観点から電波法の一部改正及び放送に係る外資規制の実効性を担保するために放送法の一部改正を立案した。
 本法律案は,(1)電波利用料の負担の在り方の見直し,(2)電波利用共益費用の使途の範囲の見直し,(3)地上放送を行う無線局免許について外国人等による間接出資規制の導入等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,新たに追加された電波利用料の新たな使途への支給要件等について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第163回国会に提出され,平成17年10月26日可決・成立した。
(4) 海上物流の基盤強化のための港湾法等の一部を改正する法律案
 国土交通省は,海上物流の基盤強化を図るため,港湾における物流拠点施設の整備,港湾の建設及び管理の適確化等の港湾機能の強化,特定外貿埠頭の管理運営主体の株式会社化による管理運営の効率化,水先制度の充実・強化等について所要の措置を講ずる必要から,海上物流の基盤強化のための港湾法等の一部改正を立案した。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,水先料の具体的運用基準について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は第164回国会に提出され,平成18年5月11日可決・成立した。
(5) 道路運送法等の一部を改正する法律案
 国土交通省は,自動車交通における利便性及び安全性の向上を図る観点から,道路運送法等の一部改正を立案した。
 本法律案は,自家用自動車による有償旅客制度の創設,乗合旅客運送に係る規制の適正化等を内容とするものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,旅客自動車運送事業の運賃・料金制度の運用について所要の調整を図った。
 なお,本法律案は,第164回国会に提出され,平成18年5月12日可決・成立した。
(6) 地球温暖化対策の推進に関する法律関係政省令案
 環境省及び経済産業省は,自主的取組のための基盤を確立する等の観点から,温室効果ガス排出量の算定・報告・公表制度を導入すること等を内容とする地球温暖化対策の推進に関する法律の改正を受け,同法施行令の一部改正案及び関係する省令を立案した。
 本政省令案は,(1)温室効果ガス排出量を報告することを義務付ける対象者の範囲,(2)温室効果ガス排出量の算定方法,(3)報告事項等の制度細目について定めるものである。
 公正取引委員会は,競争政策上の観点から,温室効果ガス排出量の算定方法について所要の調整を図った。
 なお,本政省令案は,平成18年3月29日に公布され,同年4月1日に施行されている。
2 行政調整
 公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,当該措置等が独占禁止法及び競争政策上の問題を生じないよう,当該行政機関と調整を行うこととしている。