第12章 国際関係業務

第1 独占禁止協力協定

 近年,企業活動の国際化の進展に伴い,複数国の競争法に抵触する事案,一国による競争法の執行活動が他国の利益に影響を及ぼし得る事案等が増加するなど,執行活動の国際化及び競争当局間協力の強化の必要性が高まっている。公正取引委員会は,独占禁止協力協定の締結を通じて,海外競争当局との協力関係の強化に努めている。
1 日米独占禁止協力協定
 平成11年10月7日に日本国政府と米国政府の間で「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の協定」が締結された。同協定は,両政府の競争当局間における執行活動に係る通報,協力,調整,執行活動の要請,重要な利益の考慮等を規定している。公正取引委員会は本協定に基づき執行活動等に関する通報を行う等米国競争当局と緊密な協力を行っている。
2 日欧州共同体独占禁止協力協定
 日本国政府は,欧州共同体との間で,平成15年7月10日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府と欧州共同体との間の協定」を締結し,同協定は同年8月9日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき通報等の緊密な協力を行っている。
3 日加独占禁止協力協定
 日本国政府は,カナダ政府との間で,平成17年9月6日に「反競争的行為に係る協力に関する日本国政府とカナダ政府との間の協定」を締結し,同協定は同年10月6日に発効した。同協定は,前記日米独占禁止協力協定とほぼ同様の内容となっており,公正取引委員会は,同協定に基づき通報等の緊密な協力を行っている。
4 日豪の独占禁止協力協定締結に向けた検討
 公正取引委員会は,平成15年5月,オーストラリア競争・消費者委員会との間で独占禁止協力協定を締結する可能性について検討を開始することを発表し,その後,両当局間での対話を継続している。

第2 二国間意見交換

 公正取引委員会は,我が国と経済的交流が特に活発な国・地域の競争当局との間で競争政策に関する意見交換を定期的に行っている。平成17年度における意見交換開催状況は,次のとおりである。

第3 二国間協議への対応

1 日米間の二国間協議
 日米両国政府は,平成13年6月に新たな経済関係の枠組みである「成長のための日米経済パートナーシップ」の立上げを発表し,競争政策に関しては,同パートナーシップの下の「規制改革及び競争政策イニシアティブ」において議論が行われている。
 平成17年11月2日に「日米間の『規制改革及び競争政策イニシアティブ』に関する日米両国首脳への第4回報告書」が公表され,競争政策に係る事項として,独占禁止法改正法案の成立,公正取引委員会の人的資源の強化,執行活動の公平性の確保,入札談合の防止,規制改革及び民営化が進行中の分野における競争の促進等について明記された。
 日米両国政府は,平成17年12月7日にそれぞれ相手国政府に対し要望書を提出した。競争政策の分野において,日本国政府は,反トラスト法の適用除外制度の見直しや執行活動に係る資料の公表を求めた。また,米国政府は,改正独占禁止法の効果的な実施のため,課徴金減免制度の有効性の最大化,犯則調査権限の積極的な活用,公正取引委員会の人的資源の強化,執行活動の公平性の確保等を求めた。
 これらの要望に関し,分野横断の作業部会の場において,両国が取組等を説明した。
2 その他の二国間協議
 日EU規制改革対話等その他の二国間協議について,公正取引委員会は,競争政策の観点から,必要に応じ対応している。

第4 経済連携協定への取組

 近年の経済のグローバル化の進展と並行して,地域貿易の強化のため自由貿易協定や経済連携協定の締結の動きが活発化し,現在,世界の多くの国がこのような協定に参加している状況にある。特に,東アジア地域においては,経済取引の拡大とともに,経済相互依存関係が急速に深化し,我が国においても,域内における協力の強化が重要な対外政策上の課題となっている。
 競争政策の観点からは,経済連携協定が市場における競争を一層促進するようなものとなるよう,競争政策の推進を経済連携協定の重要な要素の一つとして積極的に位置付けるとともに,貿易・投資の自由化による競争促進効果が損なわれないようにするために,各国が反競争的行為に適切に対応することが不可欠である。このため,我が国は,各国と後記協定を締結し,又は締結のための交渉を行っているところである。
1 日・シンガポール経済連携協定
 我が国初の自由貿易協定の要素を含む経済連携協定である「新たな時代における経済上の連携に関する日本国とシンガポール共和国との間の協定」が平成14年1月に署名され,同年11月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,両国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,反競争的行為の規制の分野において両国が協力することが規定されている。
2 日・メキシコ経済連携協定
 平成16年9月,面国の首脳は「経済上の連携の強化に関する日本国とメキシコ合衆国との間の協定」に署名し,同協定は平成17年4月に発効した。同協定には「競争」の章が設けられ,両国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,競争当局間の協力として,執行活動に係る通報,協力,調整,相手側競争当局に対する要請,相手側締約国の重要な利益の考慮等が規定されている。
3 日・マレーシア経済連携協定交渉
 平成17年12月,両国の首脳は「経済上の連携に関する日本国政府とマレーシア政府との間の協定」に署名した。同協定には「反競争的行為の規制」の章が設けられ,両国が反競争的行為に対して適当と認める措置を採ること,反競争的行為の規制の分野において両国が協力することが規定されている。
4 日・タイ経済連携協定交渉
 日本・タイ間では,平成14年9月から平成15年5月の間に政府間の作業部会を5回,平成15年7月から11月の間に政府職員のほか産学も参加したタスクフォースによる会合を3回開催した後,平成16年2月に日タイ経済連携協定の締結交渉が開始され,平成17年9月に両国の首脳間で主要論点について大筋合意に達した。
5 日・フィリピン経済連携協定交渉
 日本・フィリピン間では,平成14年10月から平成15年7月の間に政府間の作業部会を5回,平成15年9月から平成15年11月の間に政府職員のほか産学も参加した合同調整チームによる会合を2回開催した後,平成16年2月に日フィリピン経済連携協定の締結交渉が開始され,同年11月に両国の首脳間で主要論点について大筋合意に達した。
6 日・韓国経済連携協定交渉
 日本・韓国間では,平成14年7月から平成15年10月にかけて産官学の共同研究会を8回開催した。これらの検討を経て,日韓経済連携協定の締結交渉が開始され,平成18年3月末までに6回の交渉が行われている。
7 日・インドネシア経済連携協定交渉
 日本・インドネシア間では,平成17年1月から同年4月にかけて産官学の共同検討グループによる会合を3回開催した後,平成17年7月に日インドネシア経済連携協定の締結交渉が開始され,平成18年3月末までに3回の交渉が行われている。
8 日・チリ経済連携協定交渉
 日本・チリ間では,平成17年1月から同年9月にかけて産官学の共同研究会を4回開催した後,平成18年2月に日チリ経済連携協定の締結交渉が開始され,平成18年3月末までに1回の交渉が行われている。
9 日・ASEAN包括的経済連携協定交渉
 日本・ASEAN間では,平成16年11月の首脳間の合意に基づき,平成17年4月から日ASEAN包括的経済連携協定の締結交渉が開始され,平成18年3月末までに2回の交渉が行われている。
10 その他の経済連携強化の枠組みに係る検討
 このほか,我が国はベトナム等との間で経済連携協定の交渉開始に向けた検討を進めている。公正取引委員会は,これらの検討において,競争政策分野での取組の重要性に係る認識を醸成し,国際協力を推進するための枠組みを構築すべく検討作業に参画している。

第5 多国間関係

1 経済協力開発機構(OECD)
(1) 競争委員会(COMP:Competition Committee)
 競争委員会は,OECDに設けられている各種委員会の一つで,昭和36年12月に設立された制限的商慣行専門家委員会が昭和62年に競争法・政策委員会に改組され,平成13年12月から現在の名称に変更されたものである。我が国は,昭和39年のOECD加盟以来,その活動に参加してきている。競争委員会は,本会合のほか,その下に各種の作業部会を設けて,随時会合を行っている。本会合では,加盟各国の競争政策に関する年次報告が行われているほか,各作業部会の報告書の検討,各加盟国に対する規制改革国別審査等,その時々の重要問題について討議が行われている。平成17年度における会議の開催状況は,次のとおりである。
 平成17年6月の第94回本会合においては,アイルランド,メキシコ,ポーランド,ギリシャ及び米国が年次報告に基づいて説明を行ったほか,スイスに対して規制改革国別審査が行われた。また,競争当局の活動及びリソースについての評価に関するラウンドテーブル討議が開催された。
 平成17年10月の第95回本会合においては,日本,カナダ,韓国,オランダ,オーストリア,ニュージーランド,ポルトガル,アルゼンチン,ロシア及び台湾が年次報告に基づいて説明を行ったほか,ECの競争法及び競争政策に対する審査並びに原価割れ販売に関するラウンドテーブル討議が開催された。また,第3次カルテルレポート及び国際的なカルテル審査における競争当局間の正式な情報交換のための望ましい慣行が採択された。なお,OECD非加盟国であるブラジル,南アフリカ,ロシア,イスラエル,ルーマニア,スロベニア,台湾,リトアニア及びインドネシアが,次回以降の競争委員会にオブザーバーとして参加することとなった。
 平成18年2月の第96回本会合においては,平成19年から同20年までの作業計画について議論が行われ,政府による競争制限に関する体系的な評価の実施(規制影響分析における競争評価)及びアウトリーチ活動(競争当局が行う,競争に関連する事柄についての教育及び認識の構築に向けた活動)の強化という新たな作業分野に重点が置かれることとなった。
 競争委員会に属する各作業部会及びグローバルフォーラムの平成17年度における主要な活動は,次のとおりである。
(ア)  貿易と競争に関する合同会合では,競争委員会と貿易委員会が,合同で,競争政策と貿易政策の連関についての検討を行っている。平成17年10月会合においては,地域貿易協定における競争条項をまとめた報告書並びに競争,競争力及び開発に係る途上国の事例研究について検討が行われた。平成18年2月会合においては,同会合を今後も継続するかについて議論されたが,米国からの強い反対があり,最終的に同会合は継続されないこととなった。
(イ)  第2作業部会では,平成17年5月会合においては,電気通信分野等における代替サービスが規制に及ぼす影響に関するラウンドテーブル討議が開催されたほか,規制改革勧告における電力及びガス分野の各国の実施状況に関する自己評価について議論された。平成17年10月会合においては,医療サービスの提供における効率性促進のための競争に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成18年2月会合においては,規制影響分析において競争を勘案するための手法について議論されたほか,エネルギー分野等における新規参入者の主要輸送施設へのアクセスの確保に関するラウンドテーブル討議が開催された。
(ウ)  第3作業部会では,平成17年5月会合においては,カルテルによる損害額の算定及び競争法の執行による利益の評価について議論されたほか,国際的なカルテル審査における競争当局間の正式な情報交換のための望ましい慣行についての検討が行われた。また,私訴における証拠開示と証拠収集に関するラウンドテーブル討議が開催された。平成17年10月会合においては,各国から検察官を招いて,カルテル審査における検察当局との協力について議論された。平成18年2月会合においては,私訴における損害の転嫁,間接購入者の損害賠償請求権及び損害額の算定について議論された。
(エ)  競争に関するグローバルフォーラムでは,平成18年2月会合において,政府による事業の認可,直接証拠の無いカルテルの立証及びこれについての事例研究について議論されたほか,台湾の競争法及び競争政策に対する審査について検討が行われた。
(オ)  貿易と競争に関するグローバルフォーラムでは,平成18年2月会合において,競争,競争力及び開発に係る途上国の事例研究,競争政策促進によるミレニアム開発目標の実現及び地域貿易協定における競争条項について検討が行われた。
(2) 消費者政策委員会(CCP:Committee on Consumer Policy)
 消費者政策委員会は,加盟国の消費者行政についての情報交換及び調査・検討のための国際協力の場として,昭和44年に期限付き(昭和47年末まで)で設置することとされた。この期限は,その後,9回の延長決定を経て平成21年末までとなっている。消費者政策委員会は,通例年2回本会合を開催するほか,各種の作業部会等を設けて随時会合を行っている。
 平成18年3月末現在,紛争解決及び救済に係る作業部会,国境を越えた法執行に向けての協力に係る作業部会,需要サイドの経済政策に係る作業部会,消費者政策の体制の調査に係る作業部会及び小型情報端末を使った電子商取引に係る作業部会が設置されている。
 平成17年10月24日から25日にかけて第70回本会合が,平成18年3月29日から30日にかけて第71回本会合が開催され,国境を越えた執行協力,消費者政策のための経済学,紛争解決及び救済に関する理事会勧告案及び消費者政策の比較分析等について検討が行われた。
2 国際競争ネットワーク(ICN:International Competition Network)
 ICNは,競争法執行の手続面及び実体面の収れんを促進することを目的として平成13年10月に発足した各国競争当局を中心としたネットワークであり,平成18年3月31日現在,85か国・地域から97の競争当局が参加している。このほか,国際機関,研究者,弁護士等の非政府組織アドバイザー(Non−Governmental Advisors)もICNに参加している。
 ICNは,主要な16当局の代表者で構成された運営委員会(Steering Group)により,その全体活動が管理されており,公正取引委員会委員長も運営委員会のメンバーとなっている。ICNは,この運営委員会の下に,テーマごとに(1)カルテル作業部会,(2)合併作業部会,(3)競争政策の実施に関する作業部会,(4)電気通信サービス作業部会(第4回年次総会以前は規制分野における競争政策の執行に関する作業部会)の4つの作業部会及びその他の作業部会を設置しており,これら作業部会においては,年度ごとに,必要に応じて電話会議を開催し,質問票の活用又は書面提出等を通じてテーマ,課題に対する検討が行われるほか,それぞれのテーマごとにワークショップを開催しており,当委員会もこれらの活動に積極的に取り組んでいる。
 また,これら作業部会の成果を報告し,次年度のワークプランを策定する等のため,年次総会を開催してきている。平成17年度はドイツ・ボンにおいて第4回年次総会が開催された。
 平成17年度における会議の開催状況は,次のとおりである。

 平成17年度における各作業部会の活動状況は,次のとおりである。
(1) カルテル作業部会
 カルテル作業部会には,ハードコア・カルテルの定義等基本的な概念について検討を行う一般的枠組みサブグループ(SG1)及び個別の審査手法に関する情報交換を通じてカルテルに対する法執行の効率性を高めることを目的とした審査手法サブグループ(SG2)が設置されており,公正取引委員会は,SG2に参加している。平成17年度におけるSG2の活動としては,「反カルテル執行マニュアル」(より良い審査手法を検討する際の参考として利用できるように各加盟当局の審査手法を取りまとめたもの)のうち「立入検査」に関する章を取りまとめた。本章は,第4回年次総会において承認された。また,第5回年次総会に向けて,新たに「効率的なリーニエンシー制度の起草及び実施」及び「電子証拠収集」に関する章について検討を進めていくこととされた。
 また,SG2においては,主として各競争当局のカルテル審査の実務者が一堂に会し,カルテル審査に関する実務上の問題を議論するために,年1回,カルテルワークショップを主催している。平成17年度は,11月8日から10日にかけて韓国・ソウルにおいて開催され,主として電子証拠収集について議論された。
(2) 合併作業部会
 合併作業部会には,合併届出及び審査手続に関するサブグループ(SG1)並びに合併審査技術の分析的枠組み及び審査手法を議論する審査分析に関するサブグループ(SG2)が設置されており,このうち公正取引委員会は,SG1に参加している。SG1では,これまで合併届出及び審査手続に関する「推奨すべき慣行」(合併審査において推奨される届出手続の方針)を策定してきたところ,追加的に「問題解消措置」及び「競争当局の権限」に関する推奨すべき慣行を取りまとめた。これは,第4回年次総会において承認された。また,SG1は平成18年3月27日及び28日に,合併届出手続ワークショップをワシントンD.C.において開催し,合併届出及び審査手続に関する推奨すべき慣行の実施に関して議論が行われた。
(3) 競争政策の実施に関する作業部会
 競争政策の実施に関する作業部会は,開発途上国及び移行経済国におけるキャパシティビルディング並びに競争政策の実施に関する重要な要素を明らかにすることを目的としており,その下に技術支援の効率性に関するサブグループ(SG1),消費者及び事業者に対するアウトリーチ活動等を取り扱うサブグループ(SG2)及び競争唱導に関するサブグループ(SG3)が設置されており,このうち公正取引委員会は,SG1に参加している。
 SG1においては,技術支援の効率性を向上させるための手法等について議論をしており,平成17年度においては,技術支援の効率性に関する調査を行い,その結果を取りまとめた。第5回年次総会に向けては,発展途上の競争当局がより容易に先進国の経験や専門的知識を習得できるようにする観点から,具体的な技術支援の方法論について検討を進めることとされた。
 なお,SG2においては,消費者の競争法及び競争政策に対する理解の深化を通じて競争当局と消費者との関係を向上させることを目的とした,消費者に対するアウトリーチ活動に関する検討が行われ,その結果を第4回年次総会で報告した。第5回年次総会に向けては,事業者に対するアウトリーチ活動について検討していくこととなった。また,平成18年2月7日,フランス・パリにおいて事業者アウトリーチワークショップが開催された。
(4) 電気通信サービス作業部会
 ICNにおいては,平成15年6月に開催された第2回年次総会以降,規制分野における競争政策の執行作業部会において,規制分野における競争法の役割について議論してきた。第4回年次総会において,同作業部会は目的を終え解散したが,電気通信サービス分野については引き続き検討していくこととされたことから,同作業部会に代わり,検討期間を1年に限定した電気通信サービス作業部会が設置された。同作業部会においては,競争当局の役割について,電気通信サービス分野における競争法の執行及び唱導について検討していくこととされ,公正取引委員会もこれに参加している。
3 東アジア競争法・政策カンファレンス及び競争政策トップ会合
 東アジア諸国において競争法の効果的な執行・導入に向けた共通の認識を醸成することを目的として,東アジア競争法・政策カンファレンス及び競争政策トップ会合の開催に主導的な役割を果たしている。
 東アジア競争法・政策カンファレンスは,ASEAN諸国のシニアレベルを始めとする東アジアの競争関連当局等の出席を得て,ASEAN諸国の国内の経済を発展させるためにも競争法・競争政策が重要との認識の下,競争政策と産業政策との関係を含む競争法・競争政策の在り方について議論を行っている。
 競争政策トップ会合では,経済関係が深化している東アジアにおいて,競争関連当局のトップが会合し,意見交換を行うことにより,競争関連当局のネットワーク化を進めるとともに,相互理解を深め,東アジアの地域の実情に根差した形で競争環境整備を図ることが重要との観点から,競争法・政策の執行への課題,効果的な技術支援等のテーマについて競争関連当局のトップ間で議論を行っている。
 公正取引委員会は,インドネシア・ボゴールにおいて,インドネシアの競争当局である事業競争監視委員会と協力して,5月3日及び4日に第2回東アジア競争法・政策カンファレンスを開催し,5月5日に競争政策トップ会合を開催した。
4 アジア太平洋経済協力(APEC)
(1) 競争分野における取組
 平成6年のインドネシア・ボゴールでの非公式首脳会議において,アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化・円滑化を図るため,「先進エコノミーは2010年までに,開発途上エコノミーは2020年までに,アジア太平洋地域における自由で開かれた貿易及び投資という目標の達成を完了する」こと等を内容とする「ボゴール宣言」が採択された。
 続く平成7年に大阪で開催された第7回閣僚会議(11月16日及び17日)において,「ボゴール宣言」の目標を具体化するための行動指針(以下「大阪行動指針」という。)が採択された。この「大阪行動指針」において取り上げられた15の個別分野の一つが競争政策分野であった。
(2) 個別行動計画(IAP)及び共同行動計画(CAP)の改定
 平成8年に,フィリピン・マニラで開催された第8回閣僚会議(11月22日及び23日)において,「大阪行動指針」に基づく分野別の具体的な行動計画として「マニラ行動計画」が採択された。「マニラ行動計画」は,APEC参加国・地域が協調して取り組む「共同行動計画」と各国・地域が自主的に取り組む「個別行動計画」から成り立っている。競争政策分野では,「共同行動計画」として,技術協力,政策対話,情報交換の実施等が掲げられており,「個別行動計画」として,我が国は,独占禁止法違反行為に対する厳正な対処等競争政策の一層積極的な展開や技術支援の実施等を掲げている。平成17年度も,「個別行動計画」の改定を行い,APEC参加国・地域に対し我が国の競争法・競争政策に係る最新の情報を提供した。
(3) 競争政策・規制緩和グループ
 平成7年7月に,「ボゴール宣言」の実施のための行動指針において,競争政策分野が位置付けられ,今後APECの活動の一環として競争政策に関する検討を行うことを目的として,競争法・政策会合が開催されたが,平成8年には,「大阪行動指針」に掲げられた15の個別分野中,競争政策と規制緩和に関する2つの会合は,相乗効果が認められるとして,貿易・投資委員会の下部組織として競争政策・規制緩和グループに統合された。
 平成17年度においては,韓国・済州島にて,貿易・投資委員会の優先課題とされる「多角的貿易体制の支援」,「透明性及び腐敗防止」及び「デジタルエコノミー及び知的財産権の強化」を中心とした議論が行われ,競争政策に係る研修コースを始めとする競争政策・規制改革に関するプロジェクト等について報告がなされた。
(4) 競争政策に係る研修セミナー
 公正取引委員会は,平成11年度にAPEC閣僚会議で採択された「競争と規制改革を促進するためのAPEC原則」の推進を目的として,APECトレーニングプログラムに基づき「競争政策に係る研修セミナー」を平成14年度から平成16年度までの3年間で,タイ,ベトナム,マレーシア及びインドネシアと協力の上,計5回実施した。平成17年度においては,当委員会は,前記研修セミナーに係るAPECトレーニングプログラムが終了したことから,その後継プログラムとしてスタートしたAPECトレーニングコースに基づき,「第1回競争政策に係る研修コース(8月2日から4日)」をフィリピン政府と協力の上,フィリピンのマニラにおいて開催した。本コースでは,国際機関や学界等の協力の下,APEC10数か国・地域等から約50名の参加を得て,成功裡に開催された。
5 国連貿易開発会議(UNCTAD)
(1)  昭和55年,UNCTAD主催による制限的商慣行国連会議において,「制限的商慣行規制のための多国間の合意による一連の衡平な原則と規則」(以下「原則と規則」という。)が採択された。この「原則と規則」は,同年の第35回国連総会における国連加盟国に対する勧告として採択された。
 「原則と規則」は,国際貿易,特に開発途上国の国際貿易と経済発展に悪影響を及ぼす制限的商慣行を特定して規制することにより,国際貿易と経済発展に資することを目的としている。
(2)  「原則と規則」の規定に関する制限的商慣行についての調査研究,情報収集等を行うために,昭和56年,「制限的商慣行政府間専門会合」が設置され,平成8年のUNCTAD第9回総会において「競争法・政策専門家会合」と名称変更された後,平成9年12月の国連総会の決議により,「競争法・政策に関する政府間専門家会合」と名称が再変更された。
 平成17年度においては,前記専門家会合は開催されなかったが,平成17年11月14日から18日にかけて「原則と規則」に関する第5回レビュー会合(注)がトルコ・アンタルヤで開催され,ジャマイカ並びにケニアの競争法及び競争政策についての審査が行われたほか,カルテル審査における証拠収集の技術,競争法の執行及び経済分析の役割,競争法の執行における司法の役割,インフォーマル・セクターにおける競争法・競争政策の適用並びに競争法・競争政策に関する地域協定を含む国際協力及び途上国に対する特別又は異なる取扱い等について議論された。
(注) 「原則と規則」をレビューするための国連会議は,1985年以降,5年ごとに開催されている。
6 消費者保護及び執行のための国際ネットワーク(ICPEN:International Consumer Protectionand Enforcement Network)
 ICPENは,OECD加盟国を中心とした消費者保護機関等が参加して,国境を越える違法な対消費者取引行為を効果的に規制するために,平成4年に結成された非公式・自主的な会合である。結成当初は,IMSN(International Marketing Supervision Network)と称していたが,平成15年3月にICPENへと改称した。
 ICPEN会合では,国境を越えて行われる消費者取引における詐欺的行為・欺まん的行為について,参加当局間の協力の結果,措置を採ることのできた成功例の報告や対処方法についての議論等が行われている。
 また,ICPENでは,インターネット上の広告について参加当局共通のテーマを選定し,法令違反の有無について一斉に点検する“International Internet Sweep Days”(国際インターネット浄化キャンペーン)を実施している。  公正取引委員会は,ICPENの前身であるIMSNに平成13年2月会合から参加している。
 平成17年度においては,11月会合が韓国・ソウルで,3月会合が同・済州島で開催され,公正取引委員会もこれに出席した。3月会合に併せてCCPとの合同会合も開催され,消費者に対する啓発及び教育について議論が行われた。また,“Hidden Traps Online”(オンライン上に潜む罠)というテーマで行われたInternational Internet Sweep Daysにも参加した。当委員会は「電子商取引における二重価格表示」を点検対象とし,二重価格表示について問題のある表示を行っていると考えられる事業者のサイト管理者に対し,景品表示法の遵守について啓発するメールを送信した。

第6 海外の競争当局等に対する技術支援

 近年,開発途上国や移行経済国においては,市場経済における競争法・競争政策の重要性が認識されるのに伴い,既存の競争法制を強化する動きや,新たに競争法制を導入する動きが活発になっている。公正取引委員会は,これら諸国の競争当局等に対し,研修の実施等による技術支援を行っている。また,平成14年9月に当委員会が公表した独占禁止法・国際問題研究会報告書でも提言されたように,特に東アジアとの経済連携の強化を推進していく必要性が高まりつつあるなかで,反競争的行為により貿易・投資の自由化・円滑化から得られる利益が損なわれることのないように,アジアにおける先進国の一員である我が国としては,今後とも東アジア地域の競争当局等が反競争的行為に適切に対処することのできるような能力向上や技術支援を行っていくこととしている。
 これまでの具体的な協力の概要は次のとおりである。
1 開発途上国競争政策研修
 平成6年度から,国際協力機構(JICA)を通じて,競争法を導入しようとする国や既存の競争法の運用強化を図ろうとする国の競争当局等の職員を招へいし,競争法・競争政策に関する研修を実施している。
 平成17年度は,8月22日から9月22日の期間において,アジア諸国等9か国11名(インドネシア,シリア,タイ,中国,パナマ,フィリピン,ベトナム,ペルー及びモルドバ)の競争当局等の中堅職員を対象に,招へい研修を実施した。
2 中国競争政策研修
 平成10年度から,JICAを通じて,中国に対し,競争法・競争政策及び関連の法律について研修を実施している。
 平成17年度は,中国における独占禁止法の起草作業の本格化を踏まえ技術支援の拡充が図られた。平成17年10月10日から11月5日の期間において,中国の競争関連当局にあたる国家工商行政管理総局や包括的競争法の起草を担当している商務部の職員等計10名を対象に,招へい研修を実施したほか,平成18年2月27日から3月1日までの期間において,公正取引委員会からの専門家の派遣による独占禁止法立法研究会を北京にて開催した。
3 インドネシア競争政策研修
 平成18年2月26日から3月15日の期間において,JICAを通じて,インドネシアの競争当局職員10名を対象に,競争法・競争政策に関する招へい研修を実施した。
4 タイへの技術支援
 平成16年度から平成17年度にかけて,JICAを通じて,タイのバンコクに公正取引委員会の職員等を派遣し,ワークショップを計4回開催した。また,本技術支援の一環として,タイ競争当局幹部を含む3名に対して,平成17年2月に招へい研修を実施した。また,平成18年2月12日から2月18日の期間において,競争法の運営及び競争政策の策定における能力向上を目的とする招へい研修をタイ競争当局職員5名に対して実施した。
5 専門家派遣
 平成13年度より,JICAを通じて,公正取引委員会の職員を競争法の専門家として,インドネシアに派遣している。
6 その他の技術支援
 外国政府又は国際機関等が主に東アジアで実施する競争政策に関するセミナーに対して,積極的に講師を派遣した。また,東アジア地域において,各国の競争当局等の個別のニーズに即応すべく,現地に公正取引委員会の職員や学識経験者を派遣して,課題別のワークショップを随時開催した。

第7 海外調査

 我が国の競争政策の企画・運営に資するため,諸外国の競争政策の動向,競争法制及びその運用状況についての情報収集や調査研究を行っている。
 平成17年度においては,米国,EU,その他主要なOECD加盟諸国を中心として,競争当局の政策動向及び競争関係の立法活動等について調査を行い,その内容の分析と紹介に努めた(附属資料9−1及び9−2参照)。

第8 海外への情報発信

 公正取引委員会の国際的なプレゼンスを向上させ,我が国競争政策の状況を広く海外に周知するため,英文パンフレットの配布及び英文ホームページの公開や海外の法曹協会が主催するセミナー等への積極的な講師派遣を実施している。
 平成17年度においては,英文パンフレットの全面改訂を実施し,各種プレスリリース及び改正独占禁止法の英語訳等を英文ホームページにおいて随時掲載したほか,平成17年4月に東京で開催されたIBA(国際法曹協会)・日弁連共催競争法カンファレンスにおいて,委員長が講演を行い,事務総長がパネリストを務めたほか,平成18年2月にロンドンで開催されたABA(全米法曹協会)インターナショナルカルテルワークショップにおける事務総長の講演,平成18年3月にワシントンで開催されたABA反トラスト部会春季会合のパネルディスカッションおいて,委員長がパネリストを務める等我が国競争政策の積極的な周知活動に努めた。