第2部 各 論

第1章 独占禁止法制等の動き

第1 独占禁止法の改正

 1 証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法
  律の制定に伴う独占禁止法の改正

  金融・資本市場を取り巻く環境の変化に対応し,その構造改革を促進する必要性にかん
 がみ,幅広い金融商品についての包括的・横断的な制度の整備を図るとともに,公開買付
 制度及び大量保有報告制度その他の開示書類に関する制度並びに金融商品取引所等に関す
 る制度の整備を行うこととする等の所要の措置を講ずる証券取引法等の一部を改正する法
 律の施行に伴い,金融先物取引法等の廃止その他の関係法律の規定の整備等を行う必要が
 あるため,証券取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法
 律案が第164回国会に提出された。 同法案は,証券取引法の名称を金融商品取引法に改め
 ること,証券業を第一種金融商品取引業とすること等に伴う独占禁止法の所要の改正(第
 9条第5項及び第10条第2項の整備等)を含む内容のものであるところ,平成18年6月7
 日可決・成立した(平成18年法律第66号。平成18年6月14日公布。施行期日は,証券取引
 法等の一部を改正する法律の施行の日とされている。)。


 2 信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の制定に伴う独占禁止法の改正
  社会経済情勢の変化にかんがみ,信託法制について,受託者の義務,受益者の権利等に
 関する規定を整備するほか,信託の併合及び分割,委託者が自ら受託者となる信託(以下
 「自己信託」という。),受益証券発行信託,限定責任信託,受益者の定めのない信託等の
 新たな制度を導入するとともに,国民に理解しやすい法制とするためこれを現代用語の表
 記によるものとする信託法の施行に伴い,旧信託法,信託業法その他の関係法律の規定の
 整備等をする必要があるため,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律案が第
 165回臨時国会に提出された。 同法案は,自己信託の制度の導入に伴う独占禁止法の所要
 の改正(信託銀行が自己信託を行った場合における第11条第2項の整備)を含むものであ
 るところ,平成18年12月8日可決・成立した(平成18年法律第109号。 平成18年12月15日
 公布。施行期日は,信託法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律の施行の日とされ
 ている。)。



第2 独占禁止法と他の経済法令等の調整

 1 法令調整
  公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から経済法令の制定又は改正を
 行おうとする際に,これら法令に独占禁止法の適用除外や競争制限的効果をもたらすおそ
 れのある行政庁の処分に係る規定を設けるなどの場合には,その企画・立案の段階で,当
 該行政機関からの協議を受け,独占禁止法及び競争政策との調整を図っている。
  平成18年度において調整を行った主なものは,次のとおりである。


 (1)  貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案
   金融庁は,多重債務問題が深刻化している現状及び貸金業が我が国の経済社会におい
  て適切な役割を果たす必要性にかんがみ,貸金業の規制等に関する法律等の一部改正を
  立案した。
   本法律案は,(1)貸金業の登録の要件の強化,(2)貸金業協会に関する規定の整備,(3)貸
  金業務取扱主任者の試験制度及び登録制度の創設,(4)指定信用情報機関制度の創設,(5)
  貸金業者による過剰貸付に係る規制の強化等を内容とするものである。
   公正取引委員会は,競争政策上の観点から,貸金業協会の認可制度及び指定信用情報
  機関の指定制度について所要の調整を図った。
   なお,本法律案は,第165回臨時国会に提出され,平成18年12月13日可決・成立した。
 (2)  地域公共交通の活性化及び再生に関する法律案
   国土交通省は,地域公共交通の活性化及び再生を総合的,一体的及び効率的に推進す
  るため,地域公共交通の活性化及び再生に関する法律案を立案した。
   本法律案は,(1)基本方針の策定,(2)地域公共交通総合連携計画の作成及び実施,(3)
  新地域旅客運送事業の円滑化等を内容とするものである。
   公正取引委員会は,競争政策上の観点から,乗継円滑化事業及び新地域旅客運送事業
  に関する運賃及び料金の設定等における今後の運用について所要の調整を図った。
   なお,本法律案は第166回国会に提出され,平成19年5月18日可決・成立した。
 (3)  放送法等の一部を改正する法律案
   総務省は,通信・放送分野の改革を推進する観点から,放送法等の一部改正を立案し
  た。
   本法律案は,(1)日本放送協会(NHK)に関する制度改正,有料放送管理業務への規制
  の創設等を内容とする放送法の改正,(2)電波利用の迅速化・柔軟化のための手続の創設,
  放送をする無線局の免許の申請に係る審査基準の要件の追加等を内容とする電波法の改
  正,(3)電気通信事業者に対する業務改善命令の要件の見直し等を内容とする電気通信事
  業法の改正等を行うものである。
   公正取引委員会は,競争政策上の観点から,日本放送協会の会計に係る制度,有料放
  送管理業務に係る制度,放送をする無線局の免許の申請に係る審査の基準等について所
  要の調整を図った。
   なお,本法律案は,第166回国会に提出され,継続審議となった。
 (4)  特定住宅暇庇担保責任の履行の確保等に関する法律案
   国土交通省は,住宅を新築する建設工事の発注者及び新築住宅の買主の利益の保護並
  びに円滑な住宅の供給を図る観点から,特定住宅暇庇担保責任の履行の確保等に関する
  法律案を立案した。
   本法律案は,(1)建設業者による住宅建設暇庇担保保証金の供託,(2)宅地建物取引業
  者による住宅販売職庇担保保証金の供託, (3)住宅に係る暇庇担保責任の履行によって
  生ずる損害をてん補する一定の保険の引受けを行う住宅暇庇担保責任保険法人の指定等
  にについて定めるものである。
   公正取引委員会は,競争政策上の観点から,住宅暇庇担保責任保険法人の指定等につ
  いて,法人の指定基準及び指定制度の運用,監督命令制度の運用等について所要の調整
  を図った。
   なお,本法律案は,第166回国会に提出され,平成19年5月24日可決・成立した。

 2 行政調整
  公正取引委員会は,関係行政機関が特定の政策的必要性から行う行政措置等について,
 当該措置等が独占禁止法上及び競争政策上の問題を生じないよう,当該行政機関と調整を
 行うこととしている。
  平成18年度において調整を行った主なものは次のとおりである。
 ○ 市場公募地方債の統一条件交渉方式について
  地方債について,従来,地方公共団体は,地方債許可制度の下,総務大臣又は都道府県
  知事の許可がなければ発行することができず,地方公共団体が発行する市場公募地方債
  の発行条件については,これらを統一の発行条件とする統一条件交渉方式が採られてき
  たところ,地方公共団体の自主性をより高める観点から,平成18年4月,地方債許可制
  度が廃止され地方債協議制度が開始された。これにより,地方公共団体は,総務大臣又
  は都道府県知事に協議を行えば,同意がない場合においても,地方公共団体の議会へ報
  告の上,原則,地方債を発行できることとされた。しかしながら,統一条件交渉方式に
  ついては,地方債許可制度の廃止後も継続されている実情があった。
   このため,公正取引委員会は,総務省に対して,本来,市場公募地方債の発行条件は,
  個々の地方公共団体の信用力,当該地方債の発行額等を反映して市場において決定され
  るべきものであり,従来,地方債許可制度の下で,一部の地方債の発行において統一条
  件交渉方式が採られてきたが,平成18年度から地方債協議制度が施行されたことを契機
  に,市場公募地方債の本来の姿を実現すべく,早急に,市場公募地方債の発行条件の統
  一条件交渉方式の廃止に向けた具体的な検討が行われることが競争政策上望ましい旨の
  見解を示した。
   総務省は,平成18年8月,公正取引委員会の見解も踏まえ,市場公募地方債を発行す
  る地方公共団体に対して,9月債の発行以降,個別交渉方式に移行し,発行額,発行交
  渉・決定日,払込日,発行条件等について,各地方公共団体がシンジケート団と協議の
  上,自主的に決定することを要請する事務連絡を送付した。



第3 入札談合等関与行為防止法の改正等

 1 改正の経績
  入札談合等関与行為防止法は,国・地方公共団体等の職員が談合に関与する,いわゆる
 官製談合を防止するために,平成14年7月に制定され,平成15年1月から施行されている。
  法施行後,公正取引委員会は,平成15年1月の北海道岩見沢市発注の建設工事に関する
 入札談合事件,平成16年7月の新潟市発注の建設工事に関する入札談合事件,平成17年9
 月の日本道路公団発注の鋼橋上部工工事に関する入札談合事件において,同法に基づき改
 善措置要求を行った。
  また,これらのほかにも,平成18年2月に,防衛施設庁発注の建設工事を巡る入札談合
 事件において,発注機関の職員が刑法の談合罪に基づき起訴される等,いわゆる官製談合
 事件が,国・地方問わず多くみられる状況が続いている。
  このような状況を踏まえ,平成17年末に,当時の小泉総理大臣から,入札談合等関与行
 為防止法の改正案を検討するよう指示があり,これを受けて,平成18年1月に,自民党独
 禁法調査会の下に官製談合防止法検討ワーキングチームが設置されるとともに,公明党に
 も同様に官製談合対策プロジェクトチームが設置され,更に与党合同で与党官製談合防止
 法検討ワーキングチームが設置されて検討が開始された。
  検討の結果,官製談合の防止を徹底するためには,発注機関の職員に対してより重い刑
 罰を科すこと,入札談合等関与行為の類型を追加すること等が適切であり,同法のより一
 層の強化が必要であるとの結論に達し,与党において議員立法として入札談合等関与行為
 の排除及び防止に関する法律の一部を改正する法律案がまとめられ,平成18年2月,第164
 回国会に提出された。
  その後,第164回国会閉会に当たり継続審議とされたが,第165回臨時国会において,衆
 議院では11月29日に経済産業委員会,同月30日に本会議でそれぞれ可決され,参議院では
 12月7日に経済産業委員会,同月8日に本会議でそれぞれ可決し,成立した。同改正法は
,12月15日に公布され,平成19年3月14日から施行されている。


 2 改正の内容
 (1)  発注機関職員に対する刑罰規定の創設
   発注機関職員が,発注機関が入札により行う契約の締結に関し,その職務に反し,談
  合,を唆すこと,予定価格その他の入札に関する秘密を教示すること又はその他の方法
  により,当該入札の公正を害すべき行為を行ったときは,5年以下の懲役又は250万円以
  下の罰金に処する刑罰規定が創設された。
 (2)  「入札談合等関与行為」の範囲の拡大
   入札談合等関与行為に該当する行為として,従来の3類型に加えて,特定の入札談合
  等に関し,事業者等の明示又は黙示の依頼を受け,又はこれらの者に自ら働きかけ,当
  該入札談合等を容易にする目的で,職務に反し,入札に参加する者として特定の者を指
  名し,又はその他の方法により,入札談合等を封助することが追加された。
 (3)  法適用対象となる発注機関の範囲の拡大
   法適用対象となる特定法人に,国又は地方公共団体が法律により,常時,発行済株式
  総数又は総株主の議決権の3分の1以上に当たる株式の保有を義務付けられている株式
  会社(政令により,日本電信電話㈱及び日本郵政㈱を除く。)が追加された。
 (4)  損害賠償及び職員の懲戒事由に係る調査結果の公表の義務付け
   各省各庁の長等に対し,入札談合等関与行為による国等の損害の有無についての調査,
  入札談合等関与行為を行った職員の賠償責任の有無等の調査及び入札談合等関与行為を
  行った職員に係る懲戒事由の調査について,それぞれの調査結果の公表義務が定められ
  た。
 (5)  題名及び趣旨規定の改正
   職員による入札等の公正を害すべき行為について処罰する刑罰規定を創設することに
  伴い,題名を「入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害
  すべき行為の処罰に関する法律」とし,趣旨規定が改正された。